【実施例】
【0022】
A.親水性の官能基を持つ分子で修飾したZnS−ZAISの合成
1.オレイルアミンで修飾したZAISナノ粒子の合成
(1)合成例1
J. Am. Chem. Soc. 2007, vol.129, p12388-12389に記載された手法でZAISナノ粒子を合成した。前駆体である
(AgIn)xZn2(1-x)(S2CN(C2H5)2)4はx=0.85のものを用いた。
(2)合成例2
以下のようにZAISナノ粒子を合成した。Ag
(S2CNEt2)(13.6mg)、In
(S2CNEt2)3(29.7mg)、およびZn
(S2CNEt2)2(6.8mg)をオレイルアミン(3.0mL)に分散し、窒素雰囲気下、180℃で30分間加熱した。得られた溶液を4000rpmで5分間遠心分離することで大きな粒子を沈殿物として取り除き、上澄みにメタノールを加えて4000rpmで5分間遠心分離することでZAISナノ粒子(x=0.85)を沈殿物として得た。
【0023】
2.ZnS−ZAISの合成
Chem. Commun. 2010, vol.46, p2082-2084を参考にして、以下のようにZnS−ZAISを合成した。上記1.(1)又は(2)に記載した方法、分量で合成したZAISナノ粒子全てと、酢酸亜鉛2水和物(11.8mg)と、チオアセトアミド(4.0mg)をオレイルアミン(2.0mL)に分散させ、窒素雰囲気下、180℃で30分間加熱した。得られた溶液をシリンジフィルタでろ過した後にメタノールを加え、4000rpmで5分間遠心分離を行うことによりZnS−ZAISを沈殿物として分離した。
【0024】
3.カルボキシル基を持つ分子で修飾したZnS−ZAIS(ZnS−ZAIS−COOH)の合成
Nanoscale 2011, vol.3, p201-211を参考にして、以下のようにZnS−ZAIS−COOHを合成した。上記2.に記載した方法、分量で合成したZnS−ZAIS全てをクロロホルム(1.0mL)に溶解し、3−メルカプトプロピオン酸(MPA)(100mL)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%メタノール溶液(730μL)を含むエタノール(1.0mL)溶液と混合した。この反応液を窒素雰囲気下、70℃で5時間加熱した。減圧下で溶媒を取り除き、得られた粗成生物をエタノールに溶解し、クロロホルムを加えて4000rpmで5分間遠心分離を行うことにより粒子を沈殿物として分離した。このエタノールに溶解およびクロロホルムを加えて遠心分離するサイクルを数回繰り返し、残留試薬を取り除いた。得られた粒子は減圧下で乾燥し、超純水に溶解してZnS−ZAIS−COOHの水溶液とした。
【0025】
4.スルホ基を持つ分子で修飾したZnS−ZAIS(ZnS−ZAIS−
SO3H)の合成
(1)合成例1
Chem. Lett. 2008, vol.37, p700-701に記載された手法で、上記2.で合成したZnS−ZAISからZnS−ZAIS−SO
3Hを合成した。
(2)合成例2
Nanoscale 2011, vol.3, p201-211を参考にして、以下のようにZnS−ZAIS−
SO3Hを合成した。上記2.に記載した方法、分量で合成したZnS−ZAIS全てをクロロホルム(1.0mL)に溶解し、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(MES)(164mg)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%メタノール溶液(730μL)を含むメタノール(1.0mL)溶液と混合した。この反応液を窒素雰囲気下、70℃で1.5時間加熱した。減圧下で溶媒を取り除き、得られた粗成生物をメタノールに溶解し、クロロホルムを加えて4000rpmで5分間遠心分離を行うことにより粒子を沈殿物として分離した。この溶解および遠心分離を数回繰り返し、余分な残留試薬を取り除いた。得られた粒子は減圧下で乾燥し、超純水に溶解してZnS−ZAIS−
SO3Hの水溶液とした。
【0026】
以下の毒性試験等で用いたZnS−ZAIS−
SO3Hは、合成例2によって得られたものを使用した。
【0027】
B.毒性試験
毒性試験を以下のように実施した。培養培地(FD培地:F12とDMEMがそれぞれ50%ずつ混合されている培地+20%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン)を用いて、マウス脂肪組織由来幹細胞(Adipose tissue-derived stem cells:ASCs)を96ウェルのプレートに1×
104cells/wellで播種し、37℃、5%CO
2インキュベーター内で24時間培養した。その後、維持培地(FD培地:F12とDMEMがそれぞれ50%ずつ混合されている培地+2%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン)を用いて、ZnS−ZAIS−SO
3H及びZnS−ZAIS−COOHを膜浸透性ペプチドであるオクタアルギニンR8とそれぞれ目的の濃度となるように調整して混合し、20分間静置させた。その後、ASCsの培養液を、調整したZnS−ZAIS−SO
3H溶液あるいはZnS−ZAIS−COOH溶液に交換して24時間培養した。なお、R8を用いたのは、ZnS−ZAIS−SO
3HやZnS−ZAIS−COOHを細胞に取り込ませやすくするためである。細胞数はMTTアッセイを用いて測定し、無添加の細胞群の細胞数を100%とした時の細胞数の割合を算出した。その結果を
図2及び
図3に示す。
図2及び
図3から明らかなように、ZnS−ZAIS−SO
3Hは500nMでも細胞毒性は見られず、ZnS−ZAIS−COOHは1000nMでも細胞毒性は見られなかった。
【0028】
C.増殖試験
増殖試験を以下のように実施した。上述した培養培地を用いてZnS−ZAIS−SO
3H及びZnS−ZAIS−COOHをそれぞれ目的の濃度となるように調整し、その調整した溶液を用いてASCsを4時間培養した。これにより、ASCsはZnS−ZAIS−SO
3HあるいはZnS−ZAIS−COOHによって標識された。その後、通常の培養培地に交換し、標識されたASCsを4日間培養した。その後、MTTアッセイを用いて細胞数を測定した。ZnS−ZAIS−COOHで標識されたASCsの結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、ZnS−ZAIS−COOHで標識されたASCsは、未標識のASCsと同程度に増殖した。このことから、ZnS−ZAIS−COOHは細胞増殖に悪影響を与えることがないことがわかった。
【0029】
D.分化誘導試験
DMEM培地に、0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(シグマ社製のL−6768)、1μMデキサメタゾン(シグマ社製のD−1756)、10μMインシュリン(シグマ社製のI−5500)、及び10%FBSを添加して脂肪細胞分化誘導用培地を調整した。また、DMEM培地に10%FBSを添加して脂肪細胞培養用培地を調整した。ZnS−ZAIS−COOHで標識したASCsに、先ず脂肪細胞分化誘導用培地を添加して、3日間培養した。誘導をかけてから3日後に新鮮な分化誘導用培地に取り換え、7日後には脂肪細胞培養用培地に取り換えた。10日後に新鮮な脂肪細胞培養用培地に取り換え、更に4日間培養した。その後、脂肪組織分化の確認のために、オイルレッドO染色を行ったところ、
図5に示すように赤色の脂肪滴が確認された。これにより、ZnS−ZAIS−COOHで標識したASCsが分化誘導を行うことで脂肪細胞に分化することが確認された。
【0030】
また、ZnS−ZAIS−COOHで標識したASCsを分化誘導せずに培養した後、オイルレッドO染色を行ったところ、染色はみられなかった。これにより、標識しただけでは脂肪細胞に分化することはないことも確認された。
【0031】
E.細胞標識
ZnS−ZAIS−COOH及びZnS−ZAIS−SO
3H(濃度250nM)でASCsを標識した。
図6は、ZnS−ZAIS−COOHで標識されたASCsの写真であり、(a)が光学顕微鏡像、(b)が蛍光顕微鏡像である。また、
図7は、ZnS−ZAIS−SO
3Hで標識されたASCsの写真であり、(a)が光学顕微鏡像、(b)が蛍光顕微鏡像である。
図6及び
図7の蛍光顕微鏡像では細胞が赤色に発色していることから、ZnS−ZAIS−COOH及びZnS−ZAIS−SO
3Hの両方とも、細胞イメージングに有用であることがわかる。
【0032】
F.発光量子収率
発光量子収率は、常温での光吸収された光子数に対する発光により放出された光子数の比で表される。発光量子収率の測定は、十分に希釈したZnS−ZAISのクロロホルム溶液、又は水溶性ZnS−ZAISナノ粒子(ZnS−ZAIS−SO
3H、ZnS−ZAIS−COOH)の水溶液を用い、絶対量子収率測定装置により測定した。365nmの励起光下での発光量子収率は、ZnS−ZAISを3−メルカプトプロピオン酸で修飾する前後で47%から30%(修飾前の約64%)に変化し、2−メルカプトメタンスルホン酸で修飾する前後で58%から35%(修飾前の約60%)に変化した。なお、修飾する前の発光量子収率に差があるのは、ロット間でバラツキがあるためである。非特許文献2には、ZAISを2−メルカプトメタンスルホン酸で修飾する前後で発光量子収率が20%から8%(修飾前の約40%)に低下していることと比較すると、ZnS−ZAISでは修飾の前後で発光量子収率の低下が抑えられていることがわかる。
【0033】
ZnS−ZAISを3−メルカプトプロピオン酸で修飾する前後の発光スペクトルを
図8に示す。
図8には、修飾前のZnS−ZAISの吸収スペクトルも合わせて示した。
図8から、発光スペクトルのピーク波長は修飾前後でほとんど変わらないことがわかる。また、図示しないが、ZnS−ZAIS−SO
3Hの発光スペクトルも、ZnS−ZAIS−COOHとほぼ同じ形状であり、発光波長領域は約500〜900nm、発光ピーク波長は約650nmであった。
【0034】
シェル表面に親水性の官能基を有していないZnS−ZAIS(x=0.4〜1.0)の発光量子収率と発光ピーク波長(λ
PL)との関係を
図9に示す。ここで、
図8を見ると、シェル表面に親水性の官能基を有する場合と有さない場合とで発光ピーク波長がほとんど同じである。この点を考慮すると、シェル表面に親水性の官能基を有する場合も、x=0.4〜0.95における発光量子収率と発光ピーク波長(λ
PL)との関係は
図9と同じ傾向を示すことが示唆される。つまり、本発明の半導体ナノ粒子において、x=0.4〜0.95であれば、比較的量子収率が高いことが示唆される。
【0035】
G.粒径
TEM像から計算した上記2.のZnS−ZAIS自体の粒径は3−4nmであったことから、ZnS−ZAIS−SO
3H及びZnS−ZAIS−COOHにおけるシェルコア構造のZnS−ZAIS粒子の粒径もこれと同じ大きさと考えられる。
【0036】
H.水溶液中の挙動
ZnS−ZAIS−SO
3H水溶液及びZnS−ZAIS−COOH水溶液の動的光散乱(DLS)測定を行った。そうしたところ、10nm前後に極大値を持つピークが得られた。このことから、いずれの水溶液においても、ナノ粒子が水中で凝集することなく良好に分散していることが確認された。