特許第6164697号(P6164697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6164697タンパク質加水分解物を生成するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164697
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】タンパク質加水分解物を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/12 20060101AFI20170710BHJP
   C07K 14/46 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 8/65 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   C07K1/12
   C07K14/46
   !A61K8/65
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-542733(P2014-542733)
(86)(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公表番号】特表2014-533705(P2014-533705A)
(43)【公表日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2012004940
(87)【国際公開番号】WO2013079208
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2014年5月23日
(31)【優先権主張番号】102011055889.6
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514071130
【氏名又は名称】オーテーツェー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】OTC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダームス,ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ユング,アンドレーアス
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−015761(JP,A)
【文献】 特表2009−534392(JP,A)
【文献】 特開2008−050279(JP,A)
【文献】 特開昭55−051095(JP,A)
【文献】 特開昭58−049488(JP,A)
【文献】 特表2004−534137(JP,A)
【文献】 CARDAMONE,JOURNAL OF MOLECULAR STRUCTURE,NL,ELSEVIER,2010年 4月22日,V969 N1-3,P97-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が4000〜5500であって、かつ25℃の測定温度での水溶液中の臨界ミセル濃度が0.05mM〜0.5mMであるケラチン加水分解物を生成するための方法であって、
ケラチンを含むタンパク質源を、≧15重量%〜≦70重量%の固形分を含むタンパク質源懸濁液として供給するステップと、
− 供給されたタンパク質源懸濁液に、1×10−6重量%〜10重量%となるように錯化剤を加えるステップと、
− 供給されたタンパク質源懸濁液に、塩基とタンパク質懸濁液中の固形分との比率が1:3〜1:7の比率で塩基を加えて、タンパク質懸濁液のpH値を10〜14の値に調整するステップと、
− 結果として得られる混合物を≧60℃の温度に加熱するステップと、
前記加熱した後に、得られた混合物のpH値を≧pH2〜≦pH8の値に調整するステップと、
− 混合物を濾過するステップとを含む、方法。
【請求項2】
≧20重量%〜≦60重量%の固形分を含むタンパク質源懸濁液が提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分散剤を含むタンパク質懸濁液が提供される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水酸化アルカリ、アルカリ土類水酸化物、酸化カルシウムまたはこれらの混合物からなる群から選択される塩基が加えられる、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
錯化剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ酢酸(NTA)、エチレン−グリコール−ビス(アミノエチルエーテル)−N,N′−四酢酸(EGTA)、エチレンジアミン・ジコハク酸(EDDS)、クエン酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、ピロクトンオラミン、フィトケラチン、天然または合成ポリペプチドおよびアミノ酸、クラウンエーテル、これらの誘導体または混合物からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
還元剤が、供給されたタンパク質源懸濁液に加えられる、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ亜ジチオン酸塩、アルカリ亜硫酸水素塩、アルカリ土類亜硫酸水素塩、ヒドラジン、シスチン(システインの二量体)、グルタチオン二亜硫酸塩(GSSG)、またはこれらの混合物からなる群から選択される化合物が還元剤として加えられる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
還元剤は、還元剤とタンパク質懸濁液中の固形分との比率が、1:20〜1:300の比率で加えられる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
結果として得られる混合物が、高圧で、≧1100mbar〜≦4000mbarで加熱される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
混合物は、100℃〜150℃の温度に加熱される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
pH値を≧pH2〜≦pH8の値に調整するために、酸が混合物に加えられる、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
酸は、塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸またはこれらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
濾過助剤が濾過よりも前に混合物に加えられる、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
結果として得られる濾液が、噴霧乾燥工程または凍結乾燥工程にさらされる、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タンパク質加水分解物を生成するための方法に関する。具体的には、この発明はケラチン加水分解物を生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、タンパク質加水分解物は、それらの用途が多種多様であり概して容易く入手できるため、原材料としてさまざまな産業において用いられている。この明細書中においては、言及される例示的な適用分野として、化粧品またはボディケア製品の製造が挙げられる。タンパク質加水分解物を生成するための原材料源として、植物性基質または動物性基質が用いられる。この場合、食品業界などの他の分野において、対応する植物または動物の処理時に生成される残留物質を用いることもできる。
【0003】
ケラチンは、従来、加水分解物の生成時にごくわずかしか用いられてこなかったタンパク質であるが、対応するケラチン源は大量に入手することができる。このため、たとえば、家禽類飼育の分野においては、非常に大量のケラチン含有量を有する羽が大量に得られる。植物由来のタンパク質または動物由来のコラーゲン性タンパク質の加水分解は、通常、問題とはならないが、ケラチン含有タンパク質源を処理して対応する加水分解物にすることがはるかにより困難になる。他のタンパク質と比較してこのように処理が困難になってしまう原因として、特に、他のタンパク質と比べてより多くのジスルフィド架橋を有するケラチンの構造が挙げられる。これらのジスルフィド架橋があるせいで、ケラチンはその高い強度を実現する。しかしながら、同時に、これらのジスルフィド架橋は、加水分解中にケラチンの分解を妨げてしまう。
【0004】
たとえば羽毛、羊毛または角に存在するケラチンを得てさらに処理するために、タンパク質骨格を破壊しなければならない。この目的のために、たとえば、水溶液中の加水切断が先行技術から公知である。ここで、羊毛などのケラチン含有原材料は、30分〜70分にわたって高温(たとえば約150℃)および高圧(たとえば約350kPa)にさらされる。これらの条件下では、ケラチンが変性することとなり、次に、ケラチンを容易に開裂させることができる。しかしながら、これらの反応条件では、アミノ酸の部分が不可逆的に破壊されることとなる。しかしながら、これは加水分解物の品質に持続的な影響を及ぼす。
【0005】
さらに、先行技術からは、強酸性溶液中または強アルカリ性溶液中のケラチン含有原材料を約100℃の温度に加熱することが公知である。このような処理は原材料に含まれているケラチンを破壊するのに適しているが、この場合でも、アミノ酸が不可逆的に破壊されてしまう。
【0006】
これらの欠点を軽減するために、ケラチン含有材料を酵素的に切断しようと試みられてきた。たとえば、EP−A−0499261は、ケラチンを加水分解するための方法を開示する。この方法においては、ケラチン含有材料が、最初に、亜硫酸イオンを含む水溶液で処理され、次いで、タンパク質分解酵素を用いてケラチン加水分解物に変換される。亜硫酸イオンを含む溶液を用いた前処理は、10分〜4時間にわたって60℃〜100℃の温度で6〜9のpH値で行われる。次のタンパク質分解は、前処理されたケラチン含有材料を多段階に分けて酵素含有加水分解混合物に供給することによって実行される。開示された方法における不利点は、ケラチン含有材料の処理を連続的に行うことができない点である。さらに、酵素反応において必要とされる反応時間は非常に長く、用いられる酵素を最終的に熱的に不活性化することが必要となり、この場合、溶液を約90℃の温度に加熱しなければならなくなる。
【0007】
WO02/36801A1は、タンパク質含有基質を連続的に酵素加水分解することによって得られるタンパク質加水分解物を開示する。開示される加水分解はエクストルーダ内で実行される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先行技術から公知であるケラチン含有基質またはケラチン含有原材料を加水分解するための方法には多くの不利点があり、ケラチン含有原材料をより大量に利用することが現在まで抑制または阻止されてきた。公知の方法により結果として得られた生成物は、化粧品またはボディケアなどの知覚感覚に関わる分野においては、有毒な成分もしくは潜在的に有毒な成分のせいで使用することができないか、または、処理時間が長いせいで、もしくは結果として得られる加水分解物の均質性が不足しているせいで経済的ではない。
【0009】
したがって、この発明の目的は、特にケラチン含有タンパク質源に基づいてタンパク質加水分解物を生成するための改善された方法であって、特に界面活性を改善させたタンパク質加水分解物の供給を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の方法によって実現される。本発明に従った方法の実施形態は、従属請求項および以下の説明において見出すことができる。
【0011】
タンパク質加水分解物を生成するための方法が提案される。当該方法は、
− タンパク質源を水性懸濁液の形で供給するステップと、
− 供給されたタンパク質源懸濁液に錯化剤を加えるステップと、
− 供給されたタンパク質源懸濁液に塩基を加えるステップと、
− 結果として得られた混合物を≧60℃の温度に加熱するステップと、
− 混合物のpH値を≧pH2〜≦pH8の値に調整するステップと、
− 混合物を濾過するステップと、を含む。
【0012】
驚くべきことに、こうして生成されたタンパク質加水分解物が、著しく改善された界面活性と負の酸化還元電位とを呈することが分かった。この明細書中においては、改善された界面活性とは、特に、この発明に従って生成されたタンパク質加水分解物が、或る領域における界面張力を低下させることを意味する。このことは従来のO/W乳化剤からのみ従来より公知である。この発明に従って生成されたタンパク質加水分解物が、こうして、それぞれの産業上の用途向けの乳化剤/分散剤として提供される。
【0013】
驚くべきことに、反応混合物に錯化剤を加えることによって、加水分解によって開裂されたジスルフィド架橋の再結合を防ぐかまたは少なくとも著しく抑制することができることが判明した。適切な錯化剤を加えることにより、ジスルフィド架橋の触媒再結合に必要なMn2+、Fe2+またはCu2+などの金属イオンが、反応溶液中では、必要な触媒作用のためにもはや得られなくなることが、理論によって拘束されることなく想定される。これにより、加水分解から生じる悪臭のある副生成物の生成が著しく抑制されるかまたは回避される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水溶液の表面張力をケラチン加水分解物の濃度の関数として示す図である。
図2】本発明に従って生成されたケラチン加水分解物のIRスペクトルの例を示す図である。
図3】比較生成物のIRスペクトルを示す図である。
図4】本発明に従った、水中の25重量%溶液のケラチン加水分解物のIRスペクトルを示す図である。
図5】比較生成物のIRスペクトルを示す図である。
図6】本発明に従ったケラチン加水分解物と比較生成物との1H−ΝΜRスペクトルの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に従った方法の好ましい実施形態によれば、錯化剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレン−グリコール−ビス(アミノエチルエーテル)−N,N′−四酢酸(EGTA)、エチレンジアミン・ジコハク酸(EDDS)、クエン酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、ピロクトンオラミン、フィトケラチン、天然または合成ポリペプチドおよびアミノ酸、クラウンエーテル、これらの誘導体または混合物からなる群から選択される。これらの錯化剤は、加水分解条件下では、開裂されたジスルフィド架橋の触媒再結合に必要な金属イオンを合成し、こうして、悪臭のある副生成物の生成を抑制するかまたは回避するのに特に適していることが判明した。
【0016】
「タンパク質加水分解物」は、本発明では、加水分解されるべきタンパク質の化学的切断によって生成された少なくとも約15重量%のポリペプチドまたはオリゴペプチドを含む混合物を意味する。この明細書中では、ポリペプチドまたはオリゴペプチドは、主に、加水分解前のタンパク質の分子量よりも低い分子量を有する。
【0017】
この発明に従った方法によって生成されるタンパク質加水分解物は、原則的に、如何なる好適なタンパク質源からも生成することができる。しかしながら、好ましくは、本発明に従った方法においては、タンパク質として少なくともケラチンを含むタンパク質源が用いられる。このため、この発明に従った方法の好ましい実施形態の文脈においては、得られたタンパク質加水分解物は、ケラチンの分解によって得ることができるものとして加水分解生成物を含む。しかしながら、これにより、本発明に従ったタンパク質加水分解物を生成するために、たとえば、2種類以上のタンパク質を含むタンパク質源を使用することが排除されるわけではない。好適な例として、ケラチンに加えて、コラーゲンもしくはグルテンまたはこれらをともに含むタンパク質源が挙げられる。
【0018】
好ましい実施形態においては、タンパク質含有天然生成物、特に、ケラチン含有天然生成物に由来するような生成物は、本発明に従った方法で使用されるタンパク質源としての役割を果たす。タンパク質含有天然生成物として、たとえば、トウモロコシ、小麦、大麦、大豆などの植物性タンパク質を含む天然材料、または、死骸の処理時に得られるような屠殺場での廃物、羊毛、羽、毛、蹄、角、剛毛等などの動物性タンパク質生成物を含む材料が適している。加えて、魚の廃物、甲殻類および藻類からの廃物などの海洋性タンパク質源は、本発明に従った方法において原材料として用いることができる。本発明の文脈において特に適しているのは羽、特に鶏の羽である。
【0019】
本発明に従った方法のさらなる実施形態においては、角、蹄、羊毛または羽などのケラチン含有基質が、サイズを小さくした状態でタンパク質源として用いられる。サイズを小さくする好適な方法として、たとえば、切断、細断または粉砕が挙げられる。特に、ケラチン含有タンパク質源として羽を使用する場合、これらは好ましくは羽毛粉末の形で提供される。ケラチン含有タンパク質源に適したサイズにまで小さくする段階として、たとえば、最長寸法の約2cmから数μmまでのサイズがある。羽がケラチン含有タンパク質源として用いられる場合、これらは、たとえば、羽柄が破壊され、羽が約1cmのサイズになるように予め小さくされていてもよい。しかしながら、好ましくは、ケラチン含有タンパク質源は、約10μm〜1mmの平均粒径を有する粉末形状で提供される。
【0020】
本発明に従った方法のさらなる実施形態によれば、≧15重量%〜≦70重量%、好ましくは≧20重量%〜≦60重量%、より好ましくは≧25重量%〜≦40重量%の固形分を含むタンパク質懸濁液が提供される。このような固形分を含む懸濁液によって、高収率の加水分解物で高い加工性が得られることが分かった。
【0021】
当該方法のさらなる実施形態においては、供給される懸濁液が分散剤を含むことが規定され得る。好適な分散剤として、たとえば、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。好適な陰イオン界面活性剤の例には、アルコール硫酸塩、アルコールエーテル硫酸塩、ならびにタンパク質界面活性剤および/またはアミノ酸ベースの界面活性剤が含まれる。陽イオン界面活性剤の例として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)およびセチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)が挙げられる。非イオン界面活性剤の例としてアルコキシレートまたはアルキルポリグルコシドが挙げられる。この場合、得られた加水分解物の分子量分布に関する加水分解の結果が、用いられる界面活性剤の種類とは無関係であることが判明した。当該方法の特に好ましい実施形態においては、ケラチン含有タンパク質源から得られるタンパク質加水分解物は界面活性剤として用いられる。これにより、反応混合物中の異物の量が低減される。この明細書中においては、分散剤は、たとえば、反応表面を増やし、かつ、使用されるタンパク質源の湿潤性を向上させる役割を果たす。
【0022】
当該方法の好ましい実施形態においては、界面活性剤は、0.1重量%〜50.0重量%の濃度、好ましくは0.1重量%〜20.0重量%の濃度で、供給されるタンパク質源懸濁液中に存在し得る。
【0023】
当該方法のさらなる実施形態に従うと、水酸化アルカリ、アルカリ土類水酸化物、酸化カルシウム、有機塩基またはこれらの混合物からなる群から選択される塩基が加えられる。この明細書中においては、特に、NaOH、KOH、Ca(OH)およびCaOからなる群から塩基が選択されることが規定され得る。驚くべきことに、安価で環境上許容可能なこれらの塩基を用いることによって、タンパク質源の十分な加水分解も可能になることが判明した。
【0024】
この明細書中においては、当該方法の一実施形態においては、塩基が、塩基とタンパク質懸濁液中の固形分との比率が1:3〜1:7の比率で加えられることが規定され得る。この明細書中においては、この比率は、1部の塩基に対して、3部〜7部の固形分がタンパク質懸濁液に加えられるような比率と理解されるべきである。この明細書中においては、pH値は、≧pH10、好ましくは≧pH11〜≦pH14の範囲で調整される。
【0025】
当該方法のさらなる実施形態に従うと、追加された錯化剤は、たとえば、
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレン−グリコール−ビス(アミノエチルエーテル)−N,N′−四酢酸(EGTA)、エチレンジアミン・ジコハク酸(EDDS)、クエン酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、フィトケラチン、天然または合成ポリペプチドおよびアミノ酸、クラウンエーテル、これらの誘導体または混合物からなる群から選択されるものであって、1*10−6重量%〜10重量%の濃度、好ましくは1*10−6重量%〜5重量%の濃度で反応溶液中に存在し得る。このような濃度は、悪臭のある副生成物の生成を実質的に防ぐのに十分であることが証明された。
【0026】
当該方法のさらなる実施形態に従うと、供給されたタンパク質源懸濁液に還元剤が加えられることが規定され得る。還元剤を追加することにより、ケラチン含有タンパク質中に存在するジスルフィド架橋の切断が容易になる。ここで、本発明に従うと、無機還元剤および/または有機還元剤を用いることができる。好適な無機還元剤は、たとえば、アルカリ亜ジチオン酸塩、アルカリ亜硫酸水素塩、アルカリ土類亜硫酸水素塩、またはこれらの混合物である。ここで、特に、亜ジチオン酸ナトリウムが好ましい還元剤であることが判明した。というのも、この亜ジチオン酸ナトリウムは、安価であり、かつ、食品技術的に認可された物質として本質的に環境上無害であるからである。有機還元剤の例として、ヒドラジン、シスチン(システインの二量体)、グルタチオンジスルフィド(GSSG)、および、これらの誘導体または混合物が挙げられる。
【0027】
還元剤は、本発明に従った方法においては、還元剤とタンパク質懸濁液中の固形分との比率が1:20〜1:300の濃度で加えられてもよい。ここで、その比率は、1部の還元剤ごとに20部の固形分がタンパク質懸濁液中に存在するような比率であると理解されるべきである。
【0028】
当該方法のさらなる実施形態に従うと、タンパク質懸濁液、塩基、錯化剤、および任意には還元剤から成る結果として得られる混合物が、高圧下で、好ましくは≧1100mbar〜≦4000mbar、より好ましくは≧1500mbar〜≦3000mbarで加熱されることが規定され得る。この明細書中では、特に、結果として得られる混合物が100℃〜150℃、好ましくは110℃〜140℃の温度に加熱されることが規定され得る。圧力の上昇および/または温度の上昇により、必要とされる反応時間が著しく短くなることが判明した。標準圧力下で≧60℃〜≦100℃の設定された温度では、経済的に妥当な加水分解結果を達成するのに約4時間の反応時間で十分であるが、圧力および/または温度が上昇する場合の反応時間は1.0時間〜2.0時間、好ましくは1.5時間にまで短くすることができる。この結果、エネルギにより、工程管理の経済的利点および環境上の利点が有意に保持される。
【0029】
本発明に従った方法のさらなる実施形態によれば、pH値を≧pH2〜≦pH8の値に調整するために酸が加えられることが規定され得る。好ましくは、加えられる酸は、ハロゲン酸、特に、塩酸または臭化水素酸、硫酸、リン酸、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、またはこれらの混合物から成る群から選択される。硫酸およびリン酸という語は、硫黄系またはリン系の酸のうち対応する酸化段階にある変異体を意味する。ハロゲン酸は、この文脈においては、ハロゲン系の酸のうち酸化段階にある変異体を含む。上述の群から酸を選択することにより、加水分解反応に起因する総残留物が環境上無害となり、このため、所望の加水分解物に加えて、排他的に生物学的に無害で分解可能な副生成物および残留物が生じることが有利に実現される。
【0030】
当該方法のさらなる実施形態においては、濾過助剤が濾過ステップよりも前に混合物に加えられる。この明細書中においては、「濾過ステップよりも前」という時間的な規定は、濾過助剤が、濾過ステップの直前に、加水分解反応の途中に、または最初に、反応混合物に加えられる可能性があることを意味する。好適な濾過助剤として、たとえば、キースラガーまたは珪藻土、ゼオライトなどの二酸化ケイ素またはアルミノケイ酸塩、および活性炭をベースにしたものが挙げられる。活性炭は、本発明に従った方法の最初に反応溶液に既に加えられていてもよい。濾過ステップは、(1μmから200μmまでの)異なる孔径を有するいわゆるフィルタバックを介する濾過、さらには、同様に異なる孔径を有するフィルタ板またはフィルタ膜を介する吸引濾過または加圧濾過などの公知のフィルタ技術を用いて達成することができる。さらに、フィルタクロスによって液相から反応混合物の固形成分を分離することのできる遠心分離機を用いることができる。この場合、効果的な分離を達成するために、遠心分離機の回転速度だけではなく、フィルタクロスの多孔性も変えることができる。
【0031】
本発明に従った方法のさらなる実施形態によれば、濾過ステップの後に実現される工程ステップにおいて、加水分解物および結果として得られる加水分解溶液をそれぞれ凝固させるよう規定することができる。このような凝固は、たとえば凍結乾燥および/または噴霧乾燥によって実現されてもよい。このようにして得られた固体の加水分解物は有利な態様で搬送される可能性もあり、さらに、水溶性であるためさまざまな工業工程において容易に使用することができる。
【0032】
本発明に従った方法によって生成されるケラチン加水分解物が200g/mol〜100,000g/mol、好ましくは4000g/mol〜5500g/molの分子量分布を有し、これが、先行技術において公知でありたとえば酵素反応によって得られたケラチン加水分解物の分子量分布に実質的に相当することが判明した。
【実施例】
【0033】
以下において、本発明に従った方法を実施例に関連付けて説明する。
加熱可能なステンレス鋼の容器中において、以下の表に列挙される混合物が、指示された条件下で準備および加水分解された。この目的のために、水がそれぞれの規定された量で容器に投入され、その後、繰返し真空引きし窒素ガスで満たすことによって容器が不活性化された。次いで、規定された量のEDTAを錯化剤として加えて溶解させた。規定された量の亜ジチオン酸ナトリウムを、還元剤として、このようにして得られた混合物に加えた。それぞれの規定量の羽毛粉末および塩基(ここではカセイソーダ)をこの溶液に加えた。次いで、容器を閉じ、表にも規定されている時間にわたって所定温度にまで加熱した。反応期間が経過した後、容器を70℃にまで冷却して、窒素で満たした。セライト545を濾過助剤(いずれの場合も、500kgの反応混合物ごとに約34kg)として、冷却された対応する反応溶液に加えた。次いで、反応溶液を約47℃にまで冷却し、規定された酸によって4.6〜5.9のpH値に調整してから、溶液を濾過した。適切な乾燥工程後に濾液に含まれる加水分解物は、灰含有量および平均分子量の点で所定の特性を示した。
【0034】
【表1】
【0035】
本発明に従った方法によって生成することのできるケラチン加水分解物は、0.05mM〜0.5mMの範囲の臨界ミセル濃度(CMC)を有する。このため、本発明に従った方法によって生成されたケラチン加水分解物のCMCは、先行技術から公知のケラチン加水分解物のCMCよりも著しく低い。このような低いCMCは、洗浄工程において洗浄剤または界面活性剤として、本発明に従って生成された加水分解物の有効性の改善に寄与する。図1は、25℃の測定温度での水溶液の表面張力を、本発明に従って生成されたケラチン加水分解物100の濃度および比較生成物100(Kera−Tein、Tri−K Industr.)の濃度の関数として示す。臨界ミセル濃度は、それぞれの濃度曲線の変曲点の縦座標値から得られる。図から分かるように、本発明に従って生成されたケラチン加水分解物は、比較生成物と比べて約2桁分低いCMC値を示す。このため、本発明の範囲内の平均分子量を考慮に入れると、約0.05mM〜0.5mMの範囲のCMCが得られる。
【0036】
図2は、乾燥物質として本発明に従って生成されたケラチン加水分解物100のIRスペクトルの例を示す。ここで特性吸収帯として、特に、1035cm−1および1120cm−1での振動が識別された。ここで、1120cm−1での吸収は、恐らく、脂肪族第一アミドのNH変角振動(揺動)に起因するのに対して、1035cm−1での吸収は脂肪族第一アルコールのCO伸縮振動に起因する。図3は、比較生成物200(Kera−Tein、Tri−K Industr.)のIRスペクトルを示す。この場合、この特性吸収帯は存在しない。
【0037】
図4は、本発明に従って生成された、水中の25重量%溶液のケラチン加水分解物100のIRスペクトルを示す。誤差範囲内でありかつ予想される溶液変化の範囲内であれば、この場合、特性吸収帯を1124cm−1および1040cm−1において見出すことができる。加えて、アミドI領域における帯が明瞭に分割されており、これにより、二次構造についての決定を得ることができるだろう。この領域における特性吸収帯はカルボニル基の伸縮振動に割当てられる。この場合、この帯の分割は、励起されたカルボニル基が2つの異なる結合相手との水素結合を形成することを示し得る。他方で、同一の濃度の溶液中の比較生成物200(Kera−Tein)のIRスペクトルを示す図5におけるアミドI領域は分割を呈することはない。これにより、本発明に従って生成されたケラチン加水分解物が、比較生成物と比べて異なる二次構造を有するという仮定が得られる。
【0038】
図6は、本発明に従って生成されたケラチン加水分解物100と比較生成物200(Kera−Tein)とのH−ΝΜRスペクトルの比較を示す。両方のスペクトルは明確な違いを示している。特に、比較生成物は、本発明に従って生成された加水分解物と比べて、極めて多くの信号を示す。これは、本発明によって生成されたケラチン加水分解物がはるかにより均一でより明確に特徴付けされた生成物として存在するという仮定につながる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6