(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伝熱棒の先端側に平坦面を備えた切り込み部が設けられており、前記平坦面に他面側が接して高熱伝導性電気絶縁板が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面観測用試料冷却装置。
【背景技術】
【0002】
固体表面に関する実験研究では、しばしば超高真空(10
−10Torr以下、Ultra−high Vacuum:UHVと略記する。)中で、試料の表面を低温に冷却して、イオン散乱分光などにより、試料の固体表面の観測を行う。
イオン散乱分光は、表面分析法の一つであり、運動エネルギーの揃えられたイオンを表面に入射し、散乱イオンのエネルギーを分析することで、表面の組成や構造が分析できる。
試料を冷却する低温実験では、研究目的に応じて適宜選ばれる、低温に冷却するための寒剤の種類と、試料を保持する部材の構造・環境とにより、試料の表面の最低到達温度が決まる。
【0003】
最低到達温度を10K以下とするために、通常、寒剤として液体ヘリウムを用いられる。ヘリウム4の沸点は常圧で4.2Kであり、試料近傍にヘリウム流路を設ければ、試料の表面で4Kに近い低温が得られる。
【0004】
非特許文献1には、液体ヘリウムを利用し、12.5Kまで冷却可能な超高真空試料冷却移動機構が記載されている。非特許文献2には、3He冷凍機システムによる1K以下の低温冷却技術が記載されている。非特許文献4には、150Kに冷却可能な液体ヘリウムを利用する超高真空試料冷却移動機構が記載されている。非特許文献7には、液体ヘリウムを用いたジュール・トムソン膨張による1mK以下に冷却可能な超高真空試料冷却機構が記載されている。特許文献1には、液体ヘリウムを利用し、25Kまで冷却可能な2軸移動機構が記載されている。特許文献2には、液体ヘリウムを利用し、20Kまで冷却可能な移動機構、及び放射シールドが記載されている。
また、液体ヘリウムを寒剤として用いる超高真空(UHV)冷却試料マニピュレータ装置は既に幾つか市販されている。
【0005】
しかし、液体ヘリウムは取り扱いが難しいという問題点があった。また、液体ヘリウムは高価なので、ランニングコストが高い、という問題点もあった。そのため、液体ヘリウムフリーの装置の開発が望まれていた。
【0006】
液体ヘリウムフリーの冷凍機として、非特許文献3には、50K程度に冷却可能な液体ヘリウムフリー超高真空試料冷却移動機構が記載されている。
非特許文献5には、パルスチューブ冷凍機を利用した、寒剤フリーの超高真空試料冷却機構が記載されている。低温真空下表面観測用の試料保持部材としては、表面観測用ビームの入射・出射可能であることを要するが、この機構では、ビームの入射・出射は不可とされているという問題点がある。また、試料交換も不可とされている。
【0007】
非特許文献6には、Gifford−McMahon(以下、GMという。)冷凍機を用いた40Kまで冷却可能な超高真空試料冷却移動機構が記載されている。
GM冷凍機は、比較的安価な液体ヘリウムフリーの代表的な冷凍機であって、ヘリウムガスを作業流体とし、気体の断熱膨張(サイモン膨張)を利用する冷凍サイクルにより、低温にする装置である。GM冷凍機では、簡単に4K程度の低温が得られる。
【0008】
しかし、従来のGM冷凍機には、固体表面に関する通常の実験で要求される以下(1)〜(6)の項目を同時に満足することができない、という問題があった。
(1)ベーキング処理により超高真空(10
−10Torr以下)を得ること。
(2)真空中での試料交換。
(3)表面観測のための、様々なビームの試料表面への入射・出射。
(4)ビームの試料電流の測定。
(5)試料表面清浄化のための電子衝撃加熱による1000K以上の加熱。
(6)試料表面の最低到達温度が10K以下であること。
【0009】
GM冷凍機と試料移動機構を組み合わせた装置はこれまでに既に開発されている。
しかし、試料冷却移動機構の熱遮蔽設計やGM冷凍機の冷却性能等が十分ではなく、上記の仕様を満たし、尚かつニオブの超伝導転移(ニオブの超伝導転移温度9.2K)が観測可能な最低到達温度が得られるものはこれまでになかった。
なお、試料冷却移動機構を用いて試料を冷却する際、最低到達温度は低ければ低い方が望ましい。これは超伝導等の低温物性がより低温で多く発現するからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、10
−10Torr以下の超高真空中、7.2K未満に冷却可能であり、その環境で、装置外からイオンビームを試料の表面に照射し、前記表面からの反射ビームを装置外で測定可能であり、かつ、真空を破らず、試料交換が可能である表面観測用試料冷却装置及び表面観測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記事情を鑑みて、液体ヘリウムフリーのGM冷凍機を利用して、液体ヘリウムを利用するものと比べ遜色のない冷却性能を有する冷却試料マニピュレータの実現を目指して、試行錯誤を繰り返した。その結果、
(1)畜冷器の脱着が容易に可能なGM冷凍機を用いることにより、150℃のベーキングを行うことができ、10
−10Torr以下の超高真空が得られること、
(2)開閉式の熱シールド及びUHV中で出し入れ可能な試料ホルダー機構により、真空を破らずに試料交換が可能なこと、
(3)熱シールドに直径3mm程度のビームの入射・出射用のスリットを形成することにより、表面実験のためにビームの入射・出射が可能なこと、
(4)低温での熱伝導に優れ、電気絶縁性を有する基板により、試料を絶縁する機構により、試料の低温化を速やかに安定化させるとともに、試料を電気的に絶縁して、ビームの試料電流が測定できること、
(5)試料を電子衝撃加熱可能なフィラメントを備えることにより、試料の表面を1000K以上に加熱して、清浄化が可能であること、
(6)熱シールドで試料を装置外と完全に隔離することにより、試料表面の最低到達温度を10K以下にでき、安定化できることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0014】
(1)筒状の熱シールドと、前記筒内に配置された伝熱棒と、前記伝熱棒に取り付けられた高熱伝導性電気絶縁板と、前記高熱伝導性電気絶縁板に試料ホルダー押さえ込み板により押さえ込まれた試料ホルダーと、前記熱シールドに設けられた開閉部と、前記開閉部に設けられた2つのビーム孔と、を有することを特徴とする表面観測用試料冷却装置。
【0015】
(2)前記熱シールドの先端側が閉じられていることを特徴とする(1)に記載の表面観測用試料冷却装置。
(3)前記伝熱棒の先端側に平坦面を備えた切り込み部が設けられており、前記平坦面に他面側が接して高熱伝導性電気絶縁板が配置されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の表面観測用試料冷却装置。
【0016】
(4)前記高熱伝導性電気絶縁板に孔部が設けられており、孔部内にフィラメントが設けられていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面観測用試料冷却装置。
(5)平行に配置した2本の試料ホルダー押さえ込み板で試料ホルダーを押さえ込み、試料を長手方向に抜き差し可能とされていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の表面観測用試料冷却装置。
【0017】
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の表面観測用試料冷却装置とGM冷凍機とからなり、GM冷凍機の第2段コールドエンドに表面観測用試料冷却装置の伝熱棒が接触され、第2段コールドエンド及びその伝熱部を熱シールドの円筒内に保持するように、表面観測用試料冷却装置がGM冷凍機の真空槽の内部に取り付けられていることを特徴とする表面観測装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面観測用試料冷却装置は、筒状の熱シールドと、前記筒内に配置された伝熱棒と、前記伝熱棒に取り付けられた高熱伝導性電気絶縁板と、前記高熱伝導性電気絶縁板に試料ホルダー押さえ込み板により押さえ込まれた試料ホルダーと、前記熱シールドに設けられた開閉部と、前記開閉部に設けられた2つのビーム孔と、を有する構成なので、10
−10Torr以下の超高真空中、熱シールドで試料を装置外と完全に隔離することにより、試料表面の最低到達温度を7.2K未満に冷却可能であり、その環境で、試料を電子衝撃加熱可能なフィラメントを備えることにより、試料の表面を1000K以上に加熱して、清浄化が可能であり、熱シールドに直径3mm程度のビームの入射・出射用のスリットを形成することにより、装置外からイオン等のビームを試料の表面に照射し、前記表面からの反射ビームを装置外で測定可能であり、低温での熱伝導に優れ、電気絶縁性を有する基板により、試料を絶縁する機構により、試料の低温化を速やかに安定化させるとともに、試料を電気的に絶縁して、ビームの試料電流が測定でき、かつ、開閉式の熱シールド及びUHV中で出し入れ可能な試料ホルダー機構により、真空を破らず、試料交換が可能である。以上により、従来の液体ヘリウムを寒剤として利用する試料冷却装置に比べ遜色のない冷却性能を有する液体ヘリウムフリーの超高真空試料冷却装置を実現できる。
【0019】
本発明の表面観測装置は、先に記載の表面観測用試料冷却装置とGM冷凍機とからなり、GM冷凍機の第2段コールドエンドに表面観測用試料冷却装置の伝熱棒が接触され、第2段コールドエンド及びその伝熱部を熱シールドの円筒内に保持するように、表面観測用試料冷却装置がGM冷凍機の真空槽の内部に取り付けられている構成なので、畜冷器の脱着が容易に可能なGM冷凍機を用いることにより、150℃のベーキングを行うことができ、10
−10Torr以下の超高真空(UHV)が得られ、10
−10Torr以下の超高真空中、7.2K未満に冷却可能であり、その環境で、装置外からイオンビームを試料の表面に照射し、前記表面からの反射ビームを装置外で測定可能であり、かつ、真空を破らず、試料交換が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置及び表面観測装置について説明する。
【0022】
<表面観測装置>
図1は、本発明の実施形態である表面観測装置の一例を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である表面観測装置1001は、GM冷凍機102と本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置101とから概略構成されている。
GM冷凍機は、比較的安価な液体ヘリウムフリーの冷凍機であり、市販のものを利用できる。
【0023】
<GM冷凍機の構成>
図2は、GM冷凍機の一例を示す模式図である。
GM冷凍機102は、コールドヘッド73と、コールドヘッド73に配線接続されたヘリウムガスコンプレッサー74と、コールドヘッド73に接続された第一シリンダ54と、第一シリンダ54に接続された第1段コールドエンド52Aと、第1段コールドエンド52Aに接続された第二シリンダ53と、第二シリンダ53に接続された第2段コールドエンド52Bとを有して概略構成されている。
また、GM冷凍機の作動時は、コールドエンドと伝熱棒周りを真空にする必要があるため、真空槽71に設置する。さらに、真空槽71とコールドヘッド73との間に、ベローズや駆動ネジから構成されるxyzステージや、真空シールやボールベアリングから構成される回転ステージを挿入することにより、試料を冷却した状態で移動することが可能となる。
【0024】
GM冷凍機102のコールドヘッド73は、加熱に耐えない畜冷器が容易に脱着可能な構造である。加熱に耐えない畜冷器をはずし、真空槽71全体をぐるぐる巻きにしたテープヒーターで150℃程度のベーキングができ、真空槽71内部を超高真空とすることができる。
【0025】
GM冷凍機102を作動させることにより、第2段コールドエンド52Bを4K程度の最低到達温度とすることができる。
【0026】
GM冷凍機102は、xyzステージと回転ステージから構成される試料移動機構72を備えており、真空槽71内で、真空を破らず、任意の方向に試料を移動できる構成とされている。
真空槽71及びヘリウムガスコンプレッサー74は脚部により床に設置されている。
【0027】
冷凍機としてGM冷凍機以外の冷凍機を用いてもよい。その場合でも、コールドエンド熱シールドや伝熱棒を取り付ける。
【0028】
図3は、
図1のGM冷凍機と表面観測用試料冷却装置の組み合わせ状態を示した部分断面図である。
図3に示すように、表面観測用試料冷却装置101は、熱シールド61内に熱シールド内部材51を有して概略構成されている。
熱シールド内部材51は、試料ホルダー保持部材45と、試料21を取り付けた試料ホルダー11とからなる。開閉式の熱シールド及びUHV中で、試料ホルダー保持部材45に、試料21を取り付けた試料ホルダー11を出し入れ可能な試料ホルダー機構が設けられている。これにより、真空を破らずに、試料交換できる。
試料ホルダー保持部材45は、伝熱棒41Bと、高熱伝導性電気絶縁板33と、フィラメント32と、試料ホルダー押さえ込み板31とからなる。
GM冷凍機102の第1段コールドエンド52Aに表面観測用試料冷却装置101の熱シールド61を密着させるとともに、GM冷凍機102の第2段コールドエンド52Bに、表面観測用試料冷却装置101の伝熱棒41Bを接触させる。このとき、表面観測用試料冷却装置101の熱シールド61の円筒内に、第2段コールドエンド52B及び第二シリンダ53はそっくり保持される。
【0029】
図3に示すように、表面観測用試料冷却装置101は、第2段コールドエンド52Bに伝熱棒41Bを接触させる構成なので、伝熱棒41B、高熱伝導性電気絶縁板33、試料ホルダー11を介して第2段コールドエンド52Bの低温を速やかに効率よく試料21に伝達することができる。
【0030】
<表面観測用試料冷却装置>
次に、本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置について説明する。
図4は、本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置の一例を示す斜視図である。
図5は、
図4に示した表面観測用試料冷却装置の正面図(a)及び側面図(b)である。
図6は、
図5(a)の‘平面図である。
図7は、
図6のB−B’線における断面図(a)及びC−C’線における断面図(b)である。
【0031】
図4に示すように、表面観測用試料冷却装置101は、円筒状の熱シールド61を有して概略構成されている。
熱シールド61は本体部61Aと開閉部61Bとからなる。開閉部61Bは蝶番62により本体部61Aに取り付けられており、開閉自在とされている。開閉部61Bには引手部63とビーム孔64が設けられている。
引手部63を、真空槽71に取り付けられたマグネットフィードスルー(図示略)で操作して、開閉部61Bを容易に開閉できる。
【0032】
図5に示すように、本体部61Aには嵌合溝部65が設けられ、開閉部61Bには嵌合片部66が設けられている。
嵌合片部66は、その断面をくさび形に加工しており、嵌合溝部65も対応する溝構造を有するように加工されている。
これにより、嵌合片部66が嵌合溝部65に重力によってしっかりと嵌合する。このように、嵌合片部66を嵌合溝部65に嵌合させることにより、開閉部61Bをしっかりと本体部61Aに固定することができ、閉じた際の開閉部61Bと本体部61Aの密着性を十分高めることができ、熱シールド61内部を完全に密封して、装置外と隔離することができる。これにより、熱シールド61内部の最低到達温度を下げることができる。
【0033】
また、
図3に示したように、表面観測用試料冷却装置101の銅製の熱シールド61を、第1段コールドエンド52Aに密着させる構造なので、熱シールド61内への輻射熱の進入は最小限に抑えられる。これにより、熱シールド61内の熱シールド内部材51への輻射熱の影響は最小限に抑えられる。
【0034】
熱シールドは銅製に限定されるわけではなく、熱伝導性の高い材料であればよい。他にアルミニウムを挙げることができる。
【0035】
ビーム孔64は、例えば、φ2mm径の円形状の孔が2つ形成されてなる。一方は、ビームの入射用の孔であり、他方は出射用の孔である。
これにより、電子ビーム、イオンビーム、光を試料の表面に照射でき、試料の表面から反射、又は放出された電子ビーム、イオンビーム、光を観測することができ、試料の表面の観測ができる。
【0036】
図6、7に示すように、熱シールド61内部には、熱シールド内部材51が配置されている。
熱シールド内部材51は、試料ホルダー保持部材45と、試料21を取り付けた試料ホルダー11とからなる。
【0037】
図8は、試料ホルダーの一例を示す正面図(a)及び側面図(b)である。
図8に示すように、試料ホルダー11は略板状であり、一辺側に突出部11dが設けられ、別の対向する2辺が外側に向けて板厚が薄くなるような三角断面部11b1、11b2とされており、中心付近に平面視略矩形状の孔部11cが設けられて概略構成されている。
突出部11dは試料ホルダー11の引き出し操作に用いられる。
孔部11cは、試料ホルダー11の一面11aに試料21を貼り付けたときに、背後から試料21にフィラメントからの熱電子を直接、衝突させるための孔である。
試料ホルダー11の材料としては、モリブデン、タンタル、銅を挙げることができる。
【0038】
図9は、試料ホルダーに試料を取り付けた状態の一例を示す正面図(a)及び側面図(b)である。
図9に示すように、試料21の他面21bを試料ホルダー11の一面11aに貼り付ける。貼り付け方法は、例えば、スポット溶接する。試料21の一面21aが観測表面となる。
【0039】
図10は、試料ホルダー保持基板の一例を示す図であって、正面図(a)と側面図(b)である。
試料ホルダー保持部材45は、伝熱棒41Bと、高熱伝導性電気絶縁板33と、フィラメント32と、試料ホルダー押さえ込み板31とからなる。
伝熱棒41Bは、先端41Bb側に切りかけ部41Bcが形成されており、切り欠け部41Bcの平坦面41Bdに平面視略矩形状の高熱伝導性電気絶縁板33が取り付けられている。
【0040】
高熱伝導性電気絶縁板33は、孔部33cが設けられており、孔部33c内にはフィラメント32が備えられている。
高熱伝導性電気絶縁板33に隣接して2枚の試料ホルダー押さえ込み板31が取り付けられている。
【0041】
伝熱棒41Bの材料としては、銅を挙げることができる。
試料ホルダー押さえ込み板31の材料としては、ステンレス、モリブデン、タンタルを挙げることができる。
高熱伝導性電気絶縁板33の材料としては、サファイアガラス、クォーツを挙げることができる。
フィラメント32の材料としては、タングステン、タンタルを挙げることができる。
【0042】
図7に示すように、2枚の試料ホルダー押さえ込み板31により、試料ホルダー11の三角断面部11b1、11b2が押さえ込まれる。これにより、高熱伝導性電気絶縁板33上に安定して、試料ホルダー11は押さえ込まれる。
高熱伝導性電気絶縁板33により、試料21と伝熱棒41Bとの間は電気的に絶縁される。これにより、ビームの試料電流が測定できる
また、高熱伝導性電気絶縁板33により、低温域で試料21へ良好に熱伝導することができる。これにより、試料21を短時間で冷却できる。
【0043】
高熱伝導性電気絶縁板33の背後にはフィラメント32が設置されているので、試料21に正の高電圧を印加した状態で、フィラメント32に通電することにより、フィラメント32から試料21に向けて熱電子を放射することができ、電子衝撃加熱により試料21を1000K以上に加熱できる。この加熱により、試料21の表面を清浄化できる。なお加熱中の蓄冷材の昇温に関しては、加熱中に冷凍機を動作させることにより、問題のないレベルに抑えられる。
【0044】
なお、試料ホルダー11は、突出部11dを持って、突出部11d方向(試料ホルダー11の長手方向)に高熱伝導性電気絶縁板33上から容易に引き抜かれる。また、高熱伝導性電気絶縁板33上に容易に挿入することができる。
真空槽71に取り付けられたマグネットフィードスルー(図示略)で操作して、開閉部61Bを開けてから、上記抜き差し可能な構造により、真空を破らずに、一の試料を固定した試料ホルダーを、別の試料を固定した別の試料ホルダーで置き換えて、容易に試料交換できる。
【0045】
本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置101は、筒状の熱シールド61と、前記筒内に配置された伝熱棒41Bと、伝熱棒41Bに取り付けられた高熱伝導性電気絶縁板33と、高熱伝導性電気絶縁板33に試料ホルダー押さえ込み板31により押さえ込まれた試料ホルダー11と、熱シールド61に設けられた開閉部61Bと、開閉部61Bに設けられた2つのビーム孔64と、を有する構成なので、10
−10Torr以下の超高真空中、熱シールドで試料を装置外と完全に隔離することにより、試料表面の最低到達温度を7.2K未満に冷却可能であり、その環境で、試料を電子衝撃加熱可能なフィラメントを備えることにより、試料の表面を1000K以上に加熱して、清浄化が可能であり、熱シールドに直径3mm程度のビームの入射・出射用のスリットを形成することにより、装置外からイオンビームを試料の表面に照射し、前記表面からの反射ビームを装置外で測定可能であり、低温での熱伝導に優れ、電気絶縁性を有する基板により、試料を絶縁する機構により、試料の低温化を速やかに安定化させるとともに、試料を電気的に絶縁して、ビームの試料電流が測定でき、かつ、開閉式の熱シールド及びUHV中で出し入れ可能な試料ホルダー機構により、真空を破らず、試料交換が可能である。以上により、従来の液体ヘリウムを寒剤として利用する試料冷却移動機構に比べ遜色のない冷却性能を有する液体ヘリウムフリーの超高真空試料冷却移動機構を実現できる。
【0046】
本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置101は、熱シールド61の先端側が閉じられている構成なので、10
−10Torr以下の超高真空中、熱シールドで試料を装置外とより完全に隔離することにより、試料表面の最低到達温度を7.2K未満に冷却可能であり、最低到達温度の安定性を保つことができる。
【0047】
本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置101は、伝熱棒41Bの先端側に平坦面41Bdを備えた切り込み部41Bcが設けられており、平坦面41Bdに他面側が接して高熱伝導性電気絶縁板33が配置されている構成なので、試料の低温化を速やかに安定化させるとともに、試料を電気的に絶縁して、ビームの試料電流が測定できる。
【0048】
本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置101は、高熱伝導性電気絶縁板33に孔部33cが設けられており、孔部33c内にフィラメント32が設けられている構成なので、試料を電子衝撃加熱して、試料の表面を1000K以上に加熱して、清浄化できる。
【0049】
本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置101は、平行に配置した2本の試料ホルダー押さえ込み板31で試料ホルダー11を押さえ込み、試料ホルダー11を長手方向に抜き差し可能とされている構成なので、出し入れ可能な試料ホルダー機構により、真空を破らず、試料交換できる。
【0050】
本発明の実施形態である表面観測装置1001は、表面観測用試料冷却装置101とGM冷凍機102とからなり、GM冷凍機の第2段コールドエンド52Aに表面観測用試料冷却装置101の伝熱棒41Bが接触され、第2段コールドエンド52A及びその第二シリンダ53を熱シールド61の円筒内に保持するように、表面観測用試料冷却装置101がGM冷凍機の真空槽71の内部に取り付けられている構成なので、畜冷器の脱着が容易に可能なGM冷凍機を用いることにより、150℃のベーキングを行うことができ、10
−10Torr以下の超高真空(UHV)が得られ、10
−10Torr以下の超高真空中、7.2K未満に冷却可能であり、その環境で、装置外からイオンビームを試料の表面に照射し、前記表面からの反射ビームを装置外で測定可能であり、かつ、真空を破らず、試料交換が可能である。
【0051】
本発明の実施形態である表面観測用試料冷却装置及び表面観測装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
<GM冷凍機の準備>
まず、市販のGM冷凍機(岩谷瓦斯株式会社製HE05型)を準備した。
このGM冷凍機は、以下の構成を有していた。
GM冷凍機のコールドヘッドは、加熱に耐えない畜冷器が容易に脱着可能な構造であった。これにより、150℃程度のベーキングに耐え、超高真空が得られた。また、第2段コールドエンドでは4K程度の最低到達温度が得られた。また、このGM冷凍機を、xyzステージと回転ステージから構成される試料移動機構に設置することで、試料の移動が可能となった。
【0053】
<表面観測用試料冷却装置の作製>
次に、
図4〜10に示した構成の表面観測用試料冷却装置(実施例1)を作製した。
図11〜15は、表面観測用試料冷却装置(実施例1)の写真である。
熱シールドは銅製、試料ホルダー押さえ込み板はステンレス製、高熱伝導性電気絶縁板はサファイアガラス、フィラメントはタングステン製とした。また、引手部は取り外した状態となっている。さらに、隙間部に銅箔を挿入し、熱伝導の向上を図っている。
具体的な構成を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
<表面観測装置の作製>
次に、上記GM冷凍機に、表面観測用試料冷却装置(実施例1)を
図1、3に示すように組み合わせて、具体的には、GM冷凍機の第2段コールドエンドに、表面観測用試料冷却装置の伝熱棒41を接触させ、第2段コールドエンド及び第二シリンダをそっくり熱シールドの円筒内に保持するように試料冷却移動機構をGM冷凍機の真空槽の内部に取り付けて、表面観測装置(実施例1)を作製した。
【0056】
試料に正の高電圧を印加した状態で、タングステン製フィラメントに通電することにより、フィラメントから試料に向けて電子を放射することができ、電子衝撃加熱により試料を1000K以上に加熱でき、試料の表面を清浄化できた。
【0057】
熱シールドの一部を開閉部とした。開閉部は、蝶番により開閉可能であった。
開閉部に取り付けられたつまみを、真空槽に取り付けられたマグネットフィードスルーで操作することにより、開閉部を開閉できた。
また、マグネットフィードスルーで操作することにより、試料ホルダー押さえ込み板とサファイアガラスの間から試料ホルダーをその長手方向に抜き差しが可能であった。
これにより、真空を破らずに超高真空中で試料の交換が可能であった。
【0058】
開閉部の固定部は、断面をくさび形に加工した固定部が熱シールドに設置された溝に重力によって入り込む構成としので、閉じた際の開閉部と熱シールドの密着性を十分高めることができ、最低到達温度を下げることができた。
【0059】
開閉部に設けたスリット(φ3mmの孔)により、様々なビームの入射・出射ができた。これにより、電子ビーム、イオンビーム、光を試料の表面に照射でき、試料の表面から反射、又は放出された電子ビーム、イオンビーム、光を観測することができ、試料の表面の観測ができた。
【0060】
<表面観測装置の評価>
表面観測用の試料の表面観測を行い、表面観測装置の評価を行った。
【0061】
(試験例1)
<最低到達温度の測定実験1>
まず、伝熱棒の先端部に市販のSiダイオードセンサを取り付けた。
次に、GM冷凍機を作動させて、作動時間(横軸、分)により、伝熱棒の先端部がどのくらい冷却されるかを測定した。
【0062】
図16は、伝熱棒の先端部に取り付けた市販のSiダイオードセンサの測定温度(縦軸、K)と冷凍機の作動時間(横軸、分)の関係を示すグラフである。
冷凍機の動作開始後2時間20分(140分)で最低温度約4Kに到達した。この最低到達温度約4Kは、2時間20分(140分)から2時間50分(170分)の間、安定したものであった。
【0063】
(試験例2)
<最低到達温度の測定実験2>
試料表面の最低到達温度を評価するために最も確かな方法の一つは、試料の電気抵抗測定による超伝導転移の観測である。
まず、試料として、10×10×0.1mmのサイズの多結晶ニオブ板を用意した。
なお、単体の金属での超伝導転移温度はニオブが最も高く9.2Kである。そこで試料冷却移動機構の冷却性能を評価する際、このニオブの超伝導転移を観測可能かどうかが一つの目安になるため、上記試料を用意した。
【0064】
次に、モリブデン製試料ホルダーにスポット溶接により固定した。
次に、0.2K/分の降温速度の条件で試料を冷却すると同時に、多結晶Nb板に、0.2Aを通電して、4端子法で電気抵抗を測定した。試料温度は、Siダイオードセンサによる測定温度を補正した。なお、試料と試料ホルダー間は短絡しているので、電気抵抗は両者の合成を反映するが、超伝導状態では電流はニオブにのみ流れるので、この測定によりニオブの超伝導転移を検出することができる。
【0065】
図17は、多結晶ニオブ板を試料ホルダーに設置した際に4端子法で得られた電気抵抗と試料温度(Siダイオードセンサによる測定温度を補正したもの)との関係を示すグラフである。
4K〜42Kの電気抵抗の変化を示すグラフが得られ、9.2Kで超伝導転移が観測された。これにより、試料表面の最低到達温度は9.2K以下であった。
【0066】
(試験例3)
<最低到達温度の測定実験3>
試料として多結晶鉛板を用いた他は試験例2と同様にして電気抵抗測定の温度変化を測定した。
4K〜42Kの電気抵抗の変化を示すグラフが得られ、7.2Kの超伝導転移が観測された(図示略)。これにより、試料表面の最低到達温度は7.2K以下であった。
【0067】
(試験例4)
<ビームによる表面の測定実験>
試料として多結晶タンタル板を用い、熱シールドの開閉部を閉じた状態で、入射エネルギー1470eVのヘリウムイオンをビーム孔から入射し、散乱角90°で別のビーム孔から出射されたイオン散乱分光スペクトルを測定した。
【0068】
図18は、多結晶タンタル板のイオン散乱分光スペクトルである。
試料表面を構成するタンタルと酸素のピークが観測された。酸素は、タンタルの表面が一部酸化されていることを示している。これにより、熱シールドの開閉部を閉じた状態で、開閉部に設けられたビーム孔を介して、ビームによる表面の測定が可能であったことが示された。