特許第6164766号(P6164766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164766
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】薄鋼板のスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20170710BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20170710BHJP
   B23K 11/14 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   B23K11/11 540
   B21D22/02 B
   !B23K11/14
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-509874(P2017-509874)
(86)(22)【出願日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2016059447
(87)【国際公開番号】WO2016158688
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年3月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-66137(P2015-66137)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(72)【発明者】
【氏名】松本 光史
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝典
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−216622(JP,A)
【文献】 特開平02−229679(JP,A)
【文献】 特開2003−071569(JP,A)
【文献】 特開2005−193298(JP,A)
【文献】 特開2007−130659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00−11/36
B21D 22/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄鋼板の重ねられた上材と下材を電極間に挟んで溶接を行うスポト溶接において、前記上材と下材の相互の位置合わせに利用されるとともに溶接に供される突起を設けるスポット溶接方法であって、
前記突起は、前記上材と下材とに設けられて係合し、それぞれ円錐台形状の勾配が45〜70°で底面が開口し、その開口部の外径が前記電極の外径よりも小さく絞り加工により形成されてなるスポット溶接方法。
【請求項2】
上材の突起の頂部下面と下材の突起の頂部上面が中央部分においてのみ当接するよう、当該上材頂部下面及び当該下材頂部上面当接部の形状が形成されていることを特徴とする
請求項1に記載のスポット溶接方法。
【請求項3】
前記当接部における前記上材の突起の頂部下面形状が平面または球面状の彎曲形状で構成され、一方前記下材の突起の頂部上面の形状が前記上材頂部下面の湾曲形状に比して曲率半径の小さな球面状の彎曲形状で構成されていることを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接方法。
【請求項4】
突起の高さは、1.5〜2.4mmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のスポット溶接方法。
【請求項5】
突起は、薄鋼板の伸び率が30〜10%になるように形成されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のスポット溶接方法。
【請求項6】
係合する突起は、下材に設けた突起が所定の隙間を有して上材に設けた突起に入り込むように設けられた少なくとも主基準突起と副基準突起からなる2以上の突起により構成され、当該主基準突起と当該副基準突起の中心を結ぶ方向をX軸、該方向に垂直な方向をY軸として、X軸方向とY軸方向に隙間Sを有する一組の主基準突起と、X軸方向には隙間Sより大きい隙間Dを有しY軸方向には隙間Sを有する一組の副基準突起を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のスポット溶接方法。
【請求項7】
さらに、上材の一部が、下材のスポット溶接を行う平面とは略垂直な平面と少なくとも一箇所において当接し、上材と下材の相互の位置決めをガイドするような形状ガイドを設けたことを特徴とする請求項6に記載のスポット溶接方法。
【請求項8】
形状ガイドは、主基準突起と副基準突起の中心を結んだ方向とは垂直な方向の動きを規制するように設けられていることを特徴とする請求項7に記載のスポット溶接方法。
【請求項9】
係合する突起は、JIS B0408の規定に準じた加工精度に設けられることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品や電気機器部品などに多用される薄鋼板のスポット溶接方法及びスポット溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や電気機器部品などの成形にスポット溶接方法が広く使用されている。また、自動車の車体が、溶接ロボットによるスポット溶接方法により大量に生産されていることもよく知られている。しかしながら、一般の自動車部品や電気機器部品などは、個別の治具にセットされ簡単なスポット溶接装置により成形されていることが多い。このような治具は、自動車部品や電気機器部品などに合わせてその都度製作しなければならないことから、スポット溶接を合理化、省力化するための提案がなされている
【0003】
例えば、特許文献1に、第一、第二母材の一面を溶接面とし、第一母材の溶接面の溶接箇所に凸部を突出形成し、該凸部と対応する位置の第二母材の溶接面に凸部と略合致する凹部を陥没形成し、凸部及び凹部を衝合して第一、第二母材を電極にて挟持し、加圧通電して溶接圧接するスポット溶接方法が提案されている。このスポット溶接方法において、凸部と略合致する凹部は、例えば適宜の曲率を有する球面状の凸部を突出形成し、その曲率より若干大きい曲率の凹部を陥没形成するとされる。そして、この方法によれば、位置決め用の治具を使用したり、溶接には直接関係のない加工処理をせずに各母材の溶接箇所の位置決めを簡易且つ正確にして溶接できるとされる。
【0004】
特許文献2に、金属板のスポット溶接法において、予め溶接予定部に夫々高さh1、h2、外径D1、D2の突起をパンチ加工によって与えて1対の凹凸を形成し、該1対の凹凸を嵌合した後、電極で加圧通電する金属板のスポット溶接法が提案されている。このスポット溶接法において、1対の凹凸はターレットパンチにより成形することができ、突起形成部のターレットパンチストロークは、0.1〜0.3mmに制限する必要があるとされる。そして、この発明によれば、金属板に金属板ワークを溶接する際の溶接位置決めを自動化し、面倒な位置決め作業を省略することができるとされる。
【0005】
特許文献3に、金属板配線と金属板抵抗とを溶接により電気的機械的に接続する電気部品の溶接構造であって、前記金属板配線と前記金属板抵抗とには互いに係合して位置決めを行う凹凸状の位置決め部が形成されている電気部品の溶接構造が提案されている。そして、この溶接構造の実施形態において、係合凸部51、52及び係合凹部53、54はいずれも円柱状を成しているが、円柱状に限らない。係合凸部51、52及び係合凹部53、54が互いに係合可能な凹凸状であれば、四角柱状や台形状等どのような形状であってもよいとされる。また、実施形態では、係合凸部51、52は溶接電極幹部Xの外径よりも外径が小さく形成されているが、溶接電極幹部Xの外径よりも大きく形成されていてもよいとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02-229679号公報
【特許文献2】特開平04-147776号公報
【特許文献3】特開2005-216622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3には、係合する円柱状の凸部と凹部からなる位置決め部を有する溶接構造が提案され、必ずしも円柱状に限らない、係合可能な凹凸であれば、四角柱状や台形状等どのような形状であってもよいと記載されている。しかしながら、位置決め機能を向上させるために凹凸の高さを高くすると、溶接強度がばらつき接合部の外観が悪くなるなどの問題がある。このため、係合可能な凹凸であっても、スポット溶接方法として好ましい形状の凹凸の組み合わせが求められている。
【0008】
特許文献1に記載の凹凸は球面状であるものを含み、特許文献2に記載のターレットパンチにより成形される凹凸はその高さが0.1〜0.3mmとされる。このため、金属板を重ねたときの嵌まり感及び座り感などの観点から位置決め性を判断すると必ずしも適切でない恐れがある。
【0009】
本発明は、従来の一対の凹凸又は係合する凹凸を設けたスポット溶接方法が、突起の成形性、スポット溶接される薄鋼板相互の位置決め性、スポット溶接後の溶接強度及び外観品質等を総合的に判断すると十分に満足のいくものでないという問題点に鑑み、これらのいずれの特性をも満足し、バランスがとれ総合的に評価の高い薄鋼板のスポット溶接方法及びスポット溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るスポット溶接方法は、薄鋼板の重ねられた上材と下材を電極間に挟んで溶接を行うスポット溶接において、前記上材と下材の相互の位置合わせに利用されるとともに溶接に供される突起を設けるスポット溶接方法であって、前記突起は、前記上材と下材とに設けられて係合し、それぞれ円錐台形状の勾配が45〜70°で底面が開口し、その開口部の外径が前記電極の外径よりも小さく絞り加工により形成されてなる。
【0011】
上記発明において、上材の突起の頂部下面と下材の突起の頂部上面が中央部分においてのみ当接するよう、当該上材頂部下面及び当該下材頂部上面当接部の形状が形成されているのがよい。そして、前記当接部における前記上材の突起の頂部下面形状が平面または球面状の彎曲形状で構成され、一方前記下材の突起の頂部上面の形状が前記上材頂部下面の湾曲形状に比して曲率半径の小さな球面状の彎曲形状で構成されているものとすることができる。
【0012】
また、突起の高さは、1.5〜2.4mmであるのがよい。また、突起は、薄鋼板の伸び率が30〜10%になるように形成するのがよい。
【0013】
また、係合する突起は、下材に設けた突起が所定の隙間を有して上材に設けた突起に入り込むように設けられた少なくとも主基準突起と副基準突起からなる2以上の突起により構成され、当該主基準突起と当該副基準突起の中心を結ぶ方向をX軸、該方向に垂直な方向をY軸として、X軸方向とY軸方向に隙間Sを有する一組の主基準突起と、X軸方向には隙間Sより大きい隙間Dを有しY軸方向には隙間Sを有する一組の副基準突起を有するものとすることができる。
【0014】
上記発明においてさらに、上材の一部が、下材のスポット溶接を行う平面とは略垂直な平面と少なくとも一箇所において当接し、上材と下材の相互の位置決めをガイドするような形状ガイドを設けることができる。そして、形状ガイドは、主基準突起と副基準突起の中心を結んだ方向とは垂直な方向の動きを規制するように設けることができる。
【0015】
また、上記発明において、係合する突起は、JIS B0408の規定に準じた加工精度に設けるのがよい。
【0016】
また、本発明に係るスポット溶接継手は、薄鋼板の重ねられた上材と下材を電極間に挟んで行うスポット溶接により形成されたスポット溶接継手であって、そのスポット溶接継手部分の一方の面が凸形状を成し、他方の面が凹形状を成し、前記凸形状のバリ高さが非スポット溶接継手平面部から0.5mm以下となるよう形成されてなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、係合する突起の成形性に優れ、位置決め性、溶接強度に優れた薄鋼板のスポット溶接を行うことができ、そのようなスポット溶接継手を提供することができる。また、上材及び下材に設けた突起の係合部をスポット溶接の治具として利用することができ、個別の溶接治具を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のスポット溶接に係る突起部分を示す模式図である。
図2】本発明のスポット溶接に適した下材の突起形状の模式図である。
図3】本発明に係るスポット溶接継手部の断面を示す模式図である。
図4】スポット溶接に適した突起形状の評価一覧表である。
図5】鋼板の伸び率の説明図である。
図6図4に示す結果を、成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性の特性ごとにまとめた一覧表である。
図7】スポット溶接に適した突起形状を示す総合評価表である。
図8】成形可能な突起の最小開口径と勾配との関係を示すグラフである。
図9】最小開口径の突起を成形するときの伸び率を示すグラフである。
図10】自動車用ドアのスポット溶接における主基準突起及び副基準突起の配列の説明図である。
図11図10の主基準突起部分と副基準突起部分の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明に係るスポット溶接方法は、薄鋼板の重ねられた上材と下材を電極間に挟んで溶接を行うスポット溶接において、前記上材と下材の相互の位置合わせに利用されるとともに溶接に供される突起を設けるスポット溶接方法である。そして、このスポット溶接方法においては、上材と下材に係合する突起が設けられ、その突起は、それぞれ円錐台形状の勾配が45〜70°で底面が開口し、その開口部の外径が前記電極の外径よりも小さく絞り加工により形成されてなるものである。すなわち、本薄鋼板のスポット溶接方法は、図1に示すように、薄鋼板からなる上材10と下材15に、それぞれ円錐台形状の突起105、突起155が設けられている。この突起105と突起155は、絞り加工により形成されるものであり、その勾配(θ1、θ2)が45°〜70°、開口部の外径(開口径a)が電極20の外径bよりも小さくなるように設けられている。このように設けられた突起155と突起105が係合するように、すなわち、突起155が突起105の中に入り込むように上材10を下材15を重ね、この重ねた上材10と下材15を電極20(20A、20B)間に挟んでスポット溶接を行う。
【0020】
本発明において、上材とは、上述のように下材に重ねると下材に設けた突起が入り込むような突起を有する部材を意味する。また、開口径とは、円錐台状の突起の開口部においていわゆるR止まりを考慮した寸法(図1に示す外径a)を意味する。勾配とは、円錐面の母線と底面がなす角度を意味する。薄鋼板とは、JIS G3141に規定する冷間圧延鋼板を意味し、本発明は、自動車部品や電気機器部品に多用される板厚が0.4mmから1.6mmのものに好適に使用される。
【0021】
上記の係合する上材の突起と下材の突起は、スポット溶接に好ましい形状が存在する。すなわち、上材の突起の頂部下面と下材の突起の頂部上面が中央部分においてのみ当接するよう、当該上材頂部下面及び当該下材頂部上面当接部の形状を形成する。例えば、上材の突起の頂部下面形状を平面または球面状の彎曲形状に形成し、下材の突起の頂部上面の形状を前記上材頂部下面の湾曲形状に比して曲率半径の小さな球面状の彎曲形状に形成する。
【0022】
上材の突起は、図1に示すように上材10の突起105の頂部上面106を平面状にするのがよく、大きな曲率を有する球面状の彎曲形状を有するものとすることができる。下材の突起は、図2に示すように下材15の突起155の頂部上面156の形状を図2に示す形状にすることができる。すなわち、下材15の突起155の頂部上面156の形状を、前記上材頂部下面の湾曲形状に比して小さな球面状の彎曲形状にすることができ、図2(a)に示す形状が好ましい。このような図2に示す形状の突起155と上材10の突起105を係合させる場合は、突起155の頂部上面156が突起105の頂部上面106に当接し、スポット溶接時に下材15と上材10との間の通電が確実に行われる。これにより、突起155と突起105の係合部の溶融接合状態が安定し、溶接強度、外観及び品質に優れたスポット溶接を行うことができる。
【0023】
下材15に設ける突起155は、図2(b)や図2(c)に示す形状にすることができる。図2(b)に示す下材15の突起155は、平面状の頂部上面156の中央部に突起を有する形状をしている。図2(c)に示す下材15の突起155は、全体に彎曲形状を有する曲率半径の小さな球面状をしている。
【0024】
図3に、スポット溶接を行った例のスポット溶接部断面の模式図を示す。この例は、上材10の突起105の頂部上面106が平面状(図1)のものと、下材15の突起155の頂部上面166が図2(a)の形状をしたものを係合させてスポット溶接を行った例である。通常のスポット溶接においては上材・下材共にスポット溶接部において凹状のスポット溶接痕を発生するが、本スポット溶接においては、突起部分をそのままスポット溶接する関係上、上材側には凸形状、下材側には凹形状の特徴的なスポット溶接痕を発生する。すなわち、本スポット溶接においては、スポット溶接部において上材10と下材15を確実に融着させ、溶接痕における上材10の非スポット溶接継手平面部からのバリ高さh1を、0.5mm以下にすることができる。
【0025】
本発明は、係合する突起が設けられた薄鋼板のスポット溶接を行う場合に、どの様な突起形状及びその組合せが好ましいかを、突起の成形性、突起が係合するように薄鋼板を重ねるときの位置決め性、スポット溶接後の溶接強度及び外観品質について総合的な試験及び検討を行った結果に基づいている。この試験及び検討結果を図4に示す。図4は、勾配が45°〜90°、高さが0.5mm〜2.5mmの突起についての成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性のそれぞれについて、以下のようにして作成した評価一覧表である。すなわち先ず、板厚が0.65mmと1.2mmの薄鋼板を使用し、板厚が0.65mmの上材と1.2mmの下材、板厚が1.2mmの上材と1.2mmの下材、板厚が1.2mmの上材と0.65mmの下材の各組を作り、それぞれ図1に示す曲げRが0.5mm、勾配θが45°及び90°、高さhが1.5mm、2.0mm、2.3mm及び2.5mmの係合する突起を各30組作製し、外径が13mmの電極を使用してスポット溶接試験を行った。そして、このスポット溶接試験における試験片の成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性について評価を行った。次に、上記結果を基に補間法等により、他の各勾配や各高さにおける成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性を推察して求めた。図4は、この検討結果に上記試験結果を合わせて一覧表にしたものである。
【0026】
成形性は、薄鋼板の伸び率が30%以上になると曲げ部分に破損を生じたことから、伸び率が27%以下の場合に成形可能であるとして(○)とした。伸び率が27%を越え30%未満の場合は(△)、伸び率が30%以上の場合は(×)とした。溶接強度は、JIS Z3136に準じた引張せん断試験を行い、引張せん断荷重が2.45kN以上の場合を(○)、2.45kN未満は(×)とした。外観品質は、溶接後のバリ高さと見栄えの観点から評価し、溶接部のバリ高さ(上材側)と凹み深さ(下材側)がともに0.5mm以下の場合は(○)とした。溶接部のバリ高さと凹み深さがともに0.5mmであっても見栄えが悪い場合は(△)、溶接部のバリ高さ又は凹み深さの何れかが0.5mmを超える場合は(×)とした。位置決め性は、10人以上の官能試験により行い、上材と下材の対応する突起を係合させた時の嵌り感及び座り感がよい場合は(○)とした。嵌り感及び座り感が悪い場合は(×)、嵌り感又は座り感がよくはないが全体的に評価して許容範囲に入る場合は(△)とした。なお、嵌り感とは対応する突起の係合のし易さを基準にした評価であり、座り感とは突起を係合させた後の係合の安定性又は確実性を基準にした評価である。伸び率は、図5に示すように、開口径をa、R止まり(ア)からR止まり(イ)までの鋼板の中心線の長さをbとしたとき、(b-a)/a×100(%)である。例えば、a=10mm、b=12mmとするとき伸び率は20%である。
【0027】
図6は、図4の結果を基に成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性のそれぞれについての評価をまとめた結果である。図4において○印の場合は3点(白地)、△印の場合は1点(斑点部)、×印の場合は0点(斜線部)とした。図6によると、成形性と溶接強度は評価の類似度が高い、すなわち、成形性が悪いと溶接性も悪い可能性が高いことが示されている。一方、外観品質と位置決め性は、評価が類似しない。すなわち、外観性が良くても位置決め性が悪い場合があることを示している。また、勾配が90°(円筒状の突起の係合)の場合は、全体的な評価が好ましくない。すなわち、成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性の観点から総合評価すると、勾配が90°の突起の組み合わせは好ましくないことが示されている。そして、概して、勾配の大きい組合せ又は突起の高さが高い組合せは好ましくないことが示されている。また、突起の高さが低い組み合わせも好ましくないことが示されている。
【0028】
図7は、成形性、溶接強度、外観品質及び位置決め性について総合評価をした結果である。すなわち、図6において、成形性、溶接強度、外観品質又は位置決め性のすべての評価が3点であるものを3点(斜線部)とし、成形性、溶接強度、外観品質又は位置決め性の何れか1つの評価が1点の場合を2点(縦線部)とした。そして、成形性、溶接強度、外観品質又は位置決め性の評価のうちいずれか2つの評価が1点の場合は1点(斑点部)とし、いずれか3つの評価が1点の場合は0.5点(斑点部)とした。いずれか1つでも評価が0点の場合を0点(白地)とした。
【0029】
図7によると、上材と下材に設ける突起は、勾配を45°〜70°にすることができるが、55°〜65°が好ましいことが分かる。突起の高さは、1.5mm〜2.3mmがよく、2.0mm〜2.3mmが好ましいことが分かる。なお、突起の高さが2.3mmと2.5mmの実験結果から判断すると、突起の高さは2.4mmとすることができる。係合する突起は、勾配が等しいもの(図1において、θ1=θ2)が、溶接強度、外観品質及び位置決め性に優れている。
【0030】
突起の成形性と溶接強度の評価の類似性が高いことは上述した。そこで、溶接強度を満たす突起は、その突起成形時の伸び率が30%未満でなければならないという前提条件の下に、この条件を満たす突起の勾配、高さ及び開口径との関係を検討した結果を図6に示す。図6において、横軸は勾配、縦軸は突起が成形可能な最小開口径を示す。パラメータは突起の高さである。なお、上材及び下材の板厚は0.65mm、突起の加工の曲げR=0.5mmとした。
【0031】
突起の最小開口径は、突起の勾配が45°以下の場合において、大きくなることが推測できるところであるが、図8によると、最小開口径は、勾配が50°未満の場合と60°を越える場合に急速に大きくなることが示されている。また、図8によると、勾配が50°〜60°において最小開口径が、最小になるとともに勾配に依存しなくほぼ一定値をとることが示されている。また、突起の高さが2.0mmの場合は最小開口径が5.5mm〜6.5mmの範囲にあるのに対し、突起の高さが2.5mmの場合は最小開口径が6.5mm〜9.5mmの範囲になることが示されている。すなわち、突起の形状のバラツキを考慮し、安定した高品質のスポット溶接を行うには、勾配は50°〜60°の範囲が好ましい。また、突起の高さは2.5mmよりも低い2.0mmが安定した品質を確保できることが示されている。
【0032】
図9は、最小開口径の突起を成形する場合の薄鋼板の伸び率と突起の勾配の関係を示したグラフである。図7において、横軸は最小開口径、縦軸は伸び率を示す。パラメータは突起の勾配及び高さの違いである。図9によると、いずれの伸び率曲線も最小開口径が大きくなるほど勾配が緩やかになり、下に凸になる形状をしている。例えば、勾配50°高さ2.0mmの伸び率曲線は、最小開口径が10mm程度のときに伸びが12.5%程度で、10%以上である。また、図9によると、突起の勾配又は高さが大きくなるほど伸び率が大きくなる。例えば、最小開口径が8mmの場合、勾配が50°から60°になると伸び率は34%増加するが、高さが2.0mmから2.5mmになると伸び率は54%も増加する。すなわち、突起の高さは、最小開口径の決定に与える影響が大きいことが分かる。
【0033】
一般的な薄鋼板のスポット溶接においては、板厚の平方根の5倍程度のナゲット径が得られるように、溶接電流、通電時間、電極加圧力、電極径等の溶接条件を適宜選択する。ここで電極径については、必要なナゲット径以上のものを選択することになるが、本発明のような突起部にスポット溶接をおこなう場合は、必要なナゲット径だけでなく突起の開口径も考慮して電極外径を選択しなければならない。なぜなら、電極径が突起開口径より小さければ、もし必要なナゲット径が得られたとしても突起全体を完全に潰すことができないからである。そこで例えば突起の開口径が7〜8mmの場合、外径が13mmの電極を使用することが好ましい。
【0034】
以上、本発明のスポット溶接において、上材と下材の相互の位置合わせに利用されるとともに溶接に供される突起について説明した。すなわち、この上材と下材に係合するように設けられる突起は、それぞれ円錐台形状の勾配が45〜70°、好ましくは55〜65°であり、高さが1.5〜2.4mm、好ましくは2.0mm〜2.3mmである。そして、スポット溶接に使用される電極の外径は、突起の開口径より大きいのがよく、突起の開口径が9〜10mmの場合、外径が13mmの電極を使用することができる。
【0035】
上記のスポット溶接を行う上材及び下材は、一般に何らかのプレス加工が施されるものが多い。このため、上記スポット溶接における突起は、上記プレス加工とともに一度に成形するのが好ましい。これにより、スポット溶接を合理化又は省力化することができ、従来必要とされた治具の排除し、省力化を促進することができる。
【0036】
本発明に係るスポット溶接について、自動車用ドアを例に説明する。図10は、インナーパネルにウィンドウフレームをスポット溶接する場合である。インナーパネルを下材とし、ウィンドウフレームを上材とし、以下に説明するように上述の突起をそれぞれ上下材に設けてスポット溶接を行う。先ず、係合する突起は、下材に設けた突起が所定の隙間を有して上材に設けた突起に入り込むように設けられた少なくとも主基準突起と副基準突起からなる2以上の突起により構成されてそれぞれ係合するように設ける。例えば、図10に示す溶接打点17、18に相当する位置に主基準突起と副基準突起からなる係合する二組の突起を上材10及び下材15に設ける。
【0037】
図11は、図10に示す突起17、18部分の拡大一部断面図である。図11(b)に示すように、溶接打点17に設けた上材10の突起170と下材15に設けた突起175が係合しており、これを主基準突起とする。そして、溶接打点18に設けた上材10の突起180と下材15に設けた突起185が係合しており、これを副基準突起とする。主基準突起(突起170、175)の嵌合は厳しく、副基準突起(突起180、185)の嵌合は緩やかになるようにする。例えば、主基準突起と当該副基準突起の中心を結ぶ方向をX軸とし、該方向に垂直な方向をY軸とすると、X軸方向の副基準突起の隙間Dは、主基準突起の隙間Sより大きくする。そして、Y軸方向は、主基準突起と副基準突起の隙間は同等になるようにする。隙間Dは、隙間Sより0〜2mm程度大きくなるようにする。この主基準突起及び副基準突起は、上材10と下材15の組み付けや位置合わせの基準とされるものであり、突起の成形は、JIS B0408の規定に準じた精度で成形するのがよい。これにより係合する突起の隙間S又は隙間Dは、所定の隙間を確保することができる。また、上記のように、副基準突起のX軸方向の隙間Dは大きく、Y軸方向の隙間Sは小さくとっているので、上材10の位置合わせを容易に行うことができるとともに、上材10の主基準突起の回りの回転を抑えることができ、上材10をガタ付きなく確実に位置決めすることができる。そして、溶接強度、外観品質及び位置決め性のよい突起を形成することができる。なお、加工精度はA級が好ましい。また、X軸方向は、上材10の長手方向に設けるのがよい。
【0038】
この主基準突起及びこれを補助する副基準突起は以下のように利用される。先ず、下材15を所定位置に固定し、上材10を、主基準突起及び副基準突起が係合するように載置する。副基準突起(突起180、185)は、X軸方向の隙間Dが大きく設けてあるので、主基準突起及び副基準突起を容易に係合することができる。この主基準突起及び副基準突起の係合において、図11(a)に示す形状ガイド19を設けることによりさらに主基準突起及び副基準突起の係合を容易に行うことができる。
【0039】
形状ガイド19は、図11(a)に示すように、上材10の一部が、下材15のスポット溶接を行う平面とは略垂直な平面と少なくとも一箇所において当接するように設けることができる。このような形状ガイド19により、上材10と下材15の相互の位置決めをすることができ、主基準突起及び副基準突起の係合をさらに容易に行うことができる。形状ガイド19は、主基準突起と副基準突起の中心を結んだ方向とは垂直な方向、すなわちY軸方向について、上材10の動きを規制するように配設するのが好ましい。Y軸方向の隙間は隙間Sと等しく厳しい嵌合になっているため、形状ガイドでY軸方向の位置を決めてやれば組み付け性が大きく向上するからである。
【符号の説明】
【0040】
10 上材
105 突起
106 頂部上面
15 下材
155 突起
156 頂部上面
17 主基準溶接打点
18 副基準溶接打点
19 形状ガイド
20、20A、20B 電極
図1
図2
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図4
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図10
図11