特許第6164781号(P6164781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロケット フレールの特許一覧

特許6164781ツラノースを産生する株およびその使用法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164781
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ツラノースを産生する株およびその使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20170710BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20170710BHJP
   C13K 13/00 20060101ALI20170710BHJP
   C07H 3/04 20060101ALI20170710BHJP
   C12R 1/425 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C12P19/12
   C13K13/00
   C07H3/04
   C12N1/20 A
   C12R1:425
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-512107(P2015-512107)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(65)【公表番号】特表2015-517313(P2015-517313A)
(43)【公表日】2015年6月22日
(86)【国際出願番号】FR2013051054
(87)【国際公開番号】WO2013171424
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2016年4月7日
(31)【優先権主張番号】1254484
(32)【優先日】2012年5月16日
(33)【優先権主張国】FR
【微生物の受託番号】CNCM  CNCM I-4604
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ドゥフルティン,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】レケルブーム,ダミアン
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−530326(JP,A)
【文献】 Food Chem.,2011年11月17日,Vol. 132,pp. 773-779
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20−1/21
C12P 19/12
C13K 13/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
番号I−4604で2012年3月7日にCNCM(National Collection of Microorganism Cultures)に寄託されたセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株。
【請求項2】
セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株であって、ツラノースを産生することができること、および請求項1に記載の株から前記株の培養、変異誘発、または遺伝子修飾によって得られることを特徴とする、株。
【請求項3】
少なくとも20%、30%、40%、または50%のツラノース/スクロース重量収率でツラノースを産生することができることを特徴とする、請求項1または2に記載の株。
【請求項4】
ツラノースを産生するための請求項1〜3のいずれか一項に記載の株。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の株を培養してツラノースを産生すること、および前記ツラノースを回収することを含む、ツラノースの生産方法。
【請求項6】
前記株が、5.5〜7のpHおよび0.5〜1.5vvmの通気において、250〜700rpmの撹拌条件下で、かつ25〜38℃の温度で培養されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記株が、6に維持されたpH、27〜30℃の温度、250〜350rpmの撹拌条件下、および1vvmの通気で培養されることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記株を培養した産生培地中の出発スクロース濃度が、100〜300g/Lである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記株を培養した産生培地が、2〜6g/Lの酵母抽出物または10〜30g/Lの
ーンスチープリカーを含む、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ツラノースを精製することをさらに含み、
前記ツラノースの前記精製が、発酵の遠心分離のステップ、粉末状黒色炭素による処理および上清の濾過のステップ、脱塩のステップ、1kDのカットオフ閾値に対する限外濾過のステップ、次いで濾液の結晶化のステップを含む、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツラノースを産生する株およびその使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
ツラノースは、α(1→3)結合を介して結合したグルコース単位とフルクトース単位を含むスクロースの異性体である。これは蜂蜜の典型的な糖であり、その中に一般には0〜3%の少量で存在する。
【0003】
それは、例えばメレジトースを部分加水分解し、したがってグルコースとツラノースの等モル混合物を作り出すことによって生成することができる(チェコスロバキア特許第CS240545号明細書)。さらにそれはまた、デンプンとフラクトースの混合物に対してバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)のシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることによって産生することもできる(日本特許第5252974/93号明細書、およびShibuya等、2004、J.Appl.Glycosci.,51,223〜227)。その収率は45%に過ぎず、またこの方法は2つの酵素段階を含む。
【0004】
最終的にはナイセリア・ポリサッカレア(Neisseria polysaccharea)(NpAS)から得られる組換えアミノスクラーゼを使用してスクロースをツラノースに変換することが提案されている(Wang等、2012、Food Chemistry,132,773〜779)。その収率は56%であり、またその方法は組換え酵素を必要とする。
【0005】
ツラノースは、
− 比較的弱い0.5(値1がスクロースに割り当てられる)の甘味の強さおよび低い齲蝕原性を有し、
− 容易に結晶化させることができ、
− 高度に可溶性である
ことが当業者に知られている。
【0006】
さらにツラノースは、ポンペ病の診断に有用なαグルコシダーゼの阻害剤である。
【0007】
これはまた、食品、化粧品、医薬品、および診断の分野でも関心対象である。
【0008】
ツラノースはまた、メッセージ分子(message molecule)である。したがって他の単糖類と共にツラノースは、光合成における様々なスクロースシグナル経路を模倣するために使用されてきた。
【0009】
ツラノースはまた、MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)の活性化による防御物質の産生を通して植物防御機構に関与することもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、ツラノースを生産するための代替方法、具体的には産業レベルで競争力のある方法は有益でありかつ望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願人の会社は、従来の技術において述べられているものよりもはるかに効率的でかつはるかに安上がりな生産方法を開発しようと思い、その研究の間にツラノースを産生する能力を有する新規な株を同定した。
【0012】
したがって本発明は、ツラノースを産生することができるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株に関する。この株は、番号I−4604で2012年3月7日にCNCM(National Collection of Microorganism Cultures)に寄託された。
【0013】
これはまた、ツラノースを産生することができること、かつI−4604株から上記株の培養、変異誘発、または遺伝子修飾によって得られることを特徴とするセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株に関する。
【0014】
好ましくは本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株は、少なくとも20%、30%、40%、または50%のツラノース/スクロース重量収率でツラノースを産生することができる。
【0015】
本発明は、本発明に従ってこの株を培養すること、およびツラノースを回収すること、また任意選択でそのツラノースを精製することを含むツラノースの生産方法に関する。
【0016】
好ましくはこの株は、5.5〜7のpHおよび0.5〜1.5vvmの通気において、250〜700rpmの撹拌条件下で、かつ25〜38℃の温度で培養される。これに加えて好ましいやり方では、この株は、6に維持されたpH、27〜30℃の温度、250〜350rpmの撹拌条件、および1vvmの通気で培養される。
【0017】
好ましくは産生培地中の出発スクロース濃度は、100〜300g/L、好ましくは200g/Lである。
【0018】
一つの特定の実施形態では産生培地は、2〜6g/Lの酵母抽出物または10〜30g/Lのコーンスチープリカー(本出願人の会社によって販売されているSolulys(登録商標)048Eなど)、好ましくは約4g/Lの酵母抽出物を含む。好ましくはツラノースの精製は、発酵の遠心分離のステップ、粉末状黒色炭素による処理およびその上清の濾過のステップ、脱塩のステップ、1kDのカットオフ閾値での限外濾過のステップ、次いで濾液の結晶化のステップを含む。
【0019】
本発明はまた、本発明による方法によって得ることができる、または得られたツラノースを多く含む組成物に関する。好ましくはそれは、DP2の総重量を基準にして少なくとも80%のツラノースと、DP2の総重量を基準にして0.01〜10%のトレハルロースと、DP2の総重量を基準にして0.01〜5%のイソマルツロースとを含む。
【0020】
本発明は、本発明による方法によって得られるツラノースを準備すること、およびその得られたツラノースを食品組成物中に取り込むことを含む食品組成物の調製方法に関する。それはまた、本発明による方法によって得られるツラノースを多く含む組成物を準備すること、およびその得られた組成物を食品組成物中に取り込むことを含む食品組成物の調製方法に関する。
【0021】
最後に本発明は、食品、化粧品、医薬品、診断、および植物検疫の分野を対象とした本発明による方法によって得ることができる、または得られたツラノースを多く含む組成物の調製方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
全く驚くべきことに本出願者は、土壌サンプリングキャンペーンから得られるきわめて多数の微生物のうちでツラノースを効率的に産生することができる株を同定し、単離することに成功した。
【0023】
この同定された株は、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)菌であり、本明細書中でI−4604と呼ばれる。これは、番号I−4604で2012年3月7日にCNCMに提出された。この株は、本出願中で今後は「I−4604」で表される。
【0024】
この株は、大量にツラノースを産生する有利な性質を有する。実際にはそれは、35%を超えるツラノース/スクロース重量収率でツラノースを得ることを可能にする。より具体的には糖蜜ベースを使用した場合、約38%の平均ツラノース/スクロース収率が観察された。この収率は、スクロースベースを使用した場合、50%超まで増加する。
【0025】
この株は、そのツラノース産生能力に関して全く独自のものである。実際には本発明者等はまた、同じ属の3種類の株、すなわちセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)ATCC 15928、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)GRIMONT 4024、およびセラチア・フィカリア(Serratia ficaria)DSM 4569を試験した。比較の目的で試験されたこれら株のいずれもツラノースを産生するためのほんのわずかな能力も示さなかった。
【0026】
したがって本発明はI−4604株に関し、またこの株から、例えばその培養、遺伝子操作、または変異誘発によって得られ、ツラノースを産生する性質を保持する菌に関する。変異誘発は、部位指定かつ/または無作為であることができる。具体的には本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株は、少なくとも20%、30%、40%、または50%のツラノース/スクロース重量収率でツラノースを産生する能力を有する。好ましくはその収率は、少なくとも30%である。
【0027】
本発明は、本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株と、任意選択で培地とを含む組成物に関する。好ましくはこの培地は、本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株によってツラノースを産生するのに適している。具体的にはこの培地はスクロースを含む。理想的にはそれは、約100〜300g/L、約100〜200g/L、または約200g/Lのスクロースを含む。より具体的には培地は、スクロースと、また酵母抽出物および/またはコーンスチープリカー(本出願人の会社によって販売されているSolulys(登録商標)048Eなど)とを含むことができる。
【0028】
本文書中では用語「約」は±10%、好ましくは±5%を意味することを理解されたい。例えば100の値の場合、「約100」は、90〜110、好ましくは95〜105を意味する。
【0029】
本発明は、発酵反応において本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株を使用することに関する。具体的には本発明は、ツラノースの生産のために本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株を使用することに関する。
【0030】
これはまた、本発明に従ってこの株を培養すること、およびそのツラノースを回収すること、また任意選択でそのツラノースを精製することを含むツラノースの生産方法に関する。具体的には株の培養は、ツラノースの生産に適した発酵条件下においてスクロースの存在下で行われる。
【0031】
好ましくは、株は、産生または発酵のステップの前に前培養および継代培養のステップにかけられた。前培養および継代培養の培地はスクロース、例えば約50〜150g/L、好ましくは約100g/Lのスクロースを含む。これらの培地はまた、栄養物を含む。具体的にはそれらは、酵母抽出物および/またはコーンスチープリカー(本出願人の会社によって販売されているSolulys(登録商標)048Eなど)を含むことができる。
【0032】
例えばそれらは、5〜15g/Lの酵母抽出物および/または5〜30g/LのSolulys(登録商標)048Eを含むことができる。具体的にはそれらは、約10〜15g/Lの酵母抽出物か、または約10〜15g/Lの酵母抽出物および約5g/LのSolulys(登録商標)048Eか、または約30g/LのSolulys(登録商標)048Eのいずれかを含むことができる。一つの好ましい実施形態ではそれらは、約10〜15g/Lの酵母抽出物を含む。前培養および継代培養のステップは、25〜38℃、好ましくは27〜30℃の温度で、具体的には約30℃で行われる。前培養のステップは、10〜30時間、好ましくは約15〜25時間続き得る。継代培養のステップは、5〜25時間、好ましくは約10〜20時間続き得る。出発pHは、約5.5〜約7であることができる。一つの好ましい実施形態では出発pHは約7である。撹拌は、約100〜200rpm(1分当たり回転数)であることができる。それは、好ましくは約150および170rpmである。
【0033】
好ましくは、mスクロースは、産生培地中に約100〜約300g/Lの初期濃度で存在する。好ましくは、それは、約100〜200g/Lの初期濃度で存在する。一つの好ましい実施形態では、それは約200g/Lの初期濃度で存在する。スクロースは、精製した形態または糖蜜の形態で加えることができる。それは、産生または発酵の初めに、あるいは産生または発酵の間に数回、あるいは産生または発酵の間連続して培地に加えることができる。一つの好ましい実施形態では、それは産生または発酵の初めに培地に加えられる。
【0034】
pH条件に関しては、そのpHは、約5.5〜7、好ましくは約5.5〜約6.5、さらに一層好ましくは約6であることができることがこのツラノース産生の最適化の間に決定された。好ましくは産生のステップの間このpHが維持される。一実施形態ではpHは、産生のステップの間約6に保たれる。
【0035】
撹拌条件に関しては、培養は、撹拌しながら、具体的には約250〜約700rpm、好ましくは300〜500rpmで撹拌しながら行われる。撹拌は、棒磁石または当業者に知られている任意の他の手段を用いて行うことができる。一実施形態では培養は約300rpmで撹拌しながら行われる。
【0036】
通気条件に関しては、培養は、0.5〜1.5vvm(1分間当たり単位体積当たりの空気の体積)の通気を伴って行われる。一実施形態では培養は、約1vvmの通気を伴って行われる。
【0037】
温度条件に関しては、培養は、約25℃〜約38℃の温度で行われる。一実施形態では培養は、27〜30℃の温度で行われる。
【0038】
一つの特定の実施形態では産生培地は、2〜6g/Lの酵母抽出物または10〜30g/LのSolulys(登録商標)048E、好ましくは約4g/Lの酵母抽出物を含む。
【0039】
培養期間は、スクロースの全消費が条件になる最長期間によって決めることができる。好ましくは産生培養は20時間続き、一般には30時間を超えて続く。一つの好ましい実施形態では産生培養は、30〜50時間、好ましくは約40時間続く。
【0040】
好ましくは産生のステップは、上記で詳細に述べた1つまたは複数の発酵条件を観察しながら行われる。好ましくはこれらすべての条件が観察される。
【0041】
発酵のステップの後、そのバイオマスを、それ自体が当業者に知られている任意の方法によって発酵培地から回収することができる。例えば、バイオマスを発酵装置から取り出し、精密濾過または遠心分離によって容易に濃縮することもでき、また水溶液による一連の濃縮−希釈を通じて洗浄することもできる。
【0042】
この方法は、ツラノース採取のステップの後にツラノース精製のステップを含むことができる。精製のステップは、発酵遠心分離のステップを含むことができ、その上清が回収される。この上清は、追加の精製のステップの対象であることができる。これらの精製のステップは、カーボンブラック処理のステップ、濾過のステップ、限外濾過のステップ、脱塩のステップ、結晶化のステップ、およびこれらの組合せから選ぶことができる。一つの特定の実施形態では精製は、カーボンブラック処理のステップ、濾過のステップ、脱塩のステップ、1kDのカットオフ閾値での限外濾過のステップ、および結晶化のステップを含む。一つの好ましい実施形態ではそれは、それらが一覧表に現れる順序でそれらのステップを含む。
【0043】
本発明はまた、本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株の発酵によって得ることができる、または得られた発酵由来のツラノースに関する。したがってそれは、本発明による生産方法によって得ることができる、または得られたツラノースに関する。
【0044】
本発明はまた、本発明によるセラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株の発酵によって、または換言すれば本発明による生産方法によって得ることができる、または得られたツラノースを多く含む組成物に関する。この組成物は、DP2の総重量を基準にしてツラノースを少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、または95%含む。用語「DP2」は、「二糖類」を意味することを意図している。この組成物はまた、トレハルロースおよび/またはイソマルツロースを含むことができる。トレハルロースは、好ましくは組成物中にDP2の総重量を基準にして0.01%〜10%の割合で存在する。イソマルツロースは、好ましくは組成物中にDP2の総重量を基準にして0.01%〜5%の割合で存在する。好ましくは、組成物は、トレハルロースおよびイソマルツロースを含む。また、グリコシル化グリセリン酸、フルクトース、2−ケトグルタル酸、クエン酸、コハク酸、および/またはグリコシル化乳酸などの他の不純物も存在することができる。
【0045】
ツラノースは食品産業において特に有用である。具体的にはそれは、飲料、菓子製品、シリアルバー、チョコレート味の製品などに取り入れることができる。したがって本発明は、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)株、具体的にはI−4604株の発酵によって得ることができる、または得られたツラノースを多く含む組成物を含む食品組成物に関する。
【0046】
最後に本発明は、本発明による方法によって得られるツラノースを準備すること、およびその得られたツラノースを食品組成物中に取り込むことを含む食品組成物の調製方法に関する。好ましくはこの食品組成物は、飲料、菓子製品、シリアルバー、チョコレート味の製品である。
【0047】
この組成物を食品、化粧品、医薬品、診断、および植物検疫の分野において利用することもまた可能である。
【0048】
本発明は、例示的かつ非限定的であることを意味する下記の実施例によってより明瞭に理解される。
【実施例】
【0049】
実施例1:I−4604株によるスクロースからのツラノースの産生ならびにその同じ属および種の株との比較
スクロースからのツラノースの発酵を、本発明において同定されたI−4604株で、またその同じ属および種の他の株、具体的には、株:
セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)ATCC 15928
セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)GRIMONT 4024、
セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)DSM 4569
で試験した。
【0050】
1− 結果
1.1− I−4604株で行った発酵
【0051】
【表1】
【0052】
2つのてん菜糖蜜ベースの発酵に基づく平均重量収率は37.9±0.2%である。その生産力は1.4±0.05g/L/時である。
【0053】
最も良好な3つのスクロースベースの発酵に基づいて得られた性能レベル(表1中の肉太体)は、
− 重量収率:48.2±1.5%
− ツラノースのタイター:99.3±3.5g/L(200g/Lのスクロースのベースに対して)
− 生産力:2.55±0.1g/L/時
である。
【0054】
39時間の発酵中にすべてのスクロースが消費された。I−4604株はグルコン酸を産生しないことに分析の間に分かった。
【0055】
pHを出発時に調整しない条件(そのpHは、14時間の発酵後に5まで下がる)下でI−4604株を培養する場合、重量収率はより大きいように見えた。
【0056】
1.2− 参照用のATCC 15928株で行った発酵
【0057】
【表2】
【0058】
この株は、I−4604と同じ条件下でツラノースを全く産生しない。他方で、文献中で示唆されているようにそれはイソマルツロースおよび少量のトレハルロースを産生する(Kawaguchi等、Food chemistry,2010,120,No.3)。
【0059】
1.3− 試験されたその他のセラチア・フィカリア(Serratia ficaria)株、GRIMONT 4024およびDSM 4569で行った発酵
これらは、S・プリムシカ(S.plymuthica)に似た成長を示したが、ツラノースもイソマルツロースも産生しなかった。
【0060】
2− 結論
これら株は、同一発酵条件下で3回試験された。得られた結果は次の通りである。
【0061】
【表3】
【0062】
I−4604株を数種類のセラチア(Serratia)株と比較した。すべてスクロース基質上の同一産生条件下で試験された。I−4604株のみがツラノースを産生する。
【0063】
3− 材料および方法
手順
試料の調製は3つのステップ、すなわち蘇生のステップ、前培養のステップ、および継代培養のステップを含んだ。蘇生は、寒天培地上での株の3回の連続する継代培養を含んだ。前培養は、前培養培地中で160rpmおよび30℃で16時間行った。継代培養は、継代培養培地中で160rpmおよび30℃で9時間行った。
【0064】
次に、発酵のステップを、1500mLの出発体積で、DASGIPバイオリアクター中で行った。発酵は、5N水酸化ナトリウムでpHを6に保ちながら1vvm(1分間当たり単位体積当たりの空気の体積)(90L/時)において300rpmで39時間続いた。
【0065】
培地の組成
寒天培地
スクロース:40g/L
Solulys(登録商標)048E:20g/L
ペプトン(Becton Dickinson):10g/L
寒天(Biokar Diagnostics):20g/L
浸透水:1000mL(適量)
NaOHで7に中和したpH
120℃で20分間の滅菌
【0066】
前培養培地
スクロース:100g/L
0.22μm上での濾過による滅菌
酵母抽出物:9.7g/L
7.0に中和したpH(NaOHによる)/120℃で20分間の滅菌
1滴の消泡剤
接種物:第三継代培養から出発する1つの10μLループ
【0067】
継代培養培地
同上の前培養培地
接種物:前培養物の10%(15mL)
【0068】
産生培地
1− スクロースベース
スクロース:200g/L
0.22μm上での濾過による滅菌
酵母抽出物:4.2g/L
7.0に中和したpH(NaOHによる)/120℃で20分間の滅菌
10滴の消泡剤
2− てん菜糖蜜ベース(84.1%のDP2で)
てん菜糖蜜:357g
0.22μm上での濾過による滅菌
酵母抽出物:4.2g/L
7.0に中和したpH(NaOHによる)/120℃で20分間の滅菌
10滴の消泡剤
接種物:継代培養物の6%(90mL)
【0069】
実施例2− I−4604株についてのスクロースベースのツラノース産生条件の最適化
産生のステップの間に数種類の撹拌、通気、およびpH条件を別々に試験した。前培養培地、継代培養培地、および産生培地は、実施例1の場合と同一であった。最適化は2L発酵装置中で行った。
【0070】
撹拌の影響
撹拌を300、500、および700rpmで試験した。その他のパラメータは30℃、1vvm、および6に調整したpHであった。結果は次の通りであった。
【0071】
【表4】
【0072】
通気の影響
通気を0.5、1、および1.5vvmで試験した。その他のパラメータは30℃、300rpm、および6に調整したpHであった。結果は次の通りであった。
【0073】
【表5】
【0074】
pHの影響
pHを5.5、6、および6.5で試験した。その他のパラメータは30℃、300rpm、および1vvmであった。結果は次の通りであった。
【0075】
【表6】
【0076】
最も適切な条件は、300rpmの撹拌、1vvmの通気、および6.0に調整されたpHと定められた。
【0077】
さらに発酵のステップの間に使用されるスクロースの量と、また使用される培地も最適化の対象であった。
【0078】
出発スクロース濃度の影響
2種類の出発濃度、すなわち100および200g/Lのスクロースを試験した。
【0079】
前培養は、120℃で別々に20分間滅菌した30g/Lのスクロースおよび30g/LのSolulys(登録商標)048Eと、1滴の消泡剤とを含むpH7の培地中で30℃、160rpmで23時間30分行った。産生は、120℃で別々に20分間滅菌した100または200g/Lのスクロースおよび30g/LのSolulys(登録商標)048Eと、10滴の消泡剤とを含むpH7の培地中で30℃、300rpm、1vvmで25時間行った。pHは、発酵の6時間において5.8であることに注意し、9時間からは5.5に調整する。
【0080】
【表7】
【0081】
200g/Lの出発スクロース濃度がより良好な結果をもたらす。
【0082】
培地の影響
3種類の培地グループを試験した。
【0083】
【表8】
【0084】
得られた結果は次の通りである。
【0085】
【表9】
【0086】
培地2は、それが時間の節約を可能にするので最も適切であるように思われる。
【0087】
実施例3:I−4604株を使用したツラノースの産生
I−4604株を使用して20L発酵装置中でツラノースの産生を行った。
【0088】
スクロースから、および糖蜜から出発する発酵を行った。プロトコルは次の通りであった。
【0089】
前培養
スクロース:100g/L
Solulys(登録商標)048E:15g/L
Erol 18:1滴
【0090】
混合物全体を120℃で20分間滅菌し、pH7に調整する。
【0091】
前培養は、3個の500mL三角フラスコ中で30℃および120rpmにおいて24時間行う。
【0092】
継代培養
スクロース:100g/L
Solulys(登録商標)048E:30g/L
Erol 18:0.5mL/L
【0093】
混合物全体を120℃で20分間滅菌し、pH7に調整する。
【0094】
継代培養は、容積15Lの発酵装置中で30℃、300rpm、および1vvmにおいて19時間行う。
【0095】
産生
スクロース:100g/L(120℃で10分間滅菌した)
Erol 18:0.5mL/L(同上)
Solulys(登録商標)048E:30g/L(120℃で20分間滅菌した)
【0096】
pHはpH6に調整される。培養は、容積15Lの発酵装置中で30℃、300rpm、および1vvmで行う。
【0097】
結果
【0098】
【表10】
【0099】
4回の試験に対する平均の結果は次の通りである。
− 収率(ツラノース/スクロース):53%
− 継続時間:45〜50時間
− 最終の糖組成は
・ツラノース:106g/L(すなわち糖の86%)
・トレハルロース:12g/L
・イソマルツロース:5g/L
【0100】
最初に提案した培地は単純かつ安価であったので、続いて温度、pH、酸素添加レベル、およびスクロース準備の方法の影響を検討した。
【0101】
下記の表は、実施したすべての試験の結果の要点を繰り返す。
【0102】
【表11】
【0103】
どの修正にも顕著な好ましい効果がなかったが、下記の結論を引き出すことができる。
− pHは6.0に保たれるべきである。
− 温度は30℃未満に保たれるべきである。さらにその最適条件は27℃に近いように思われる。
− 過度に高い酸素添加レベル(400または500rpmの撹拌)は、スクロースの消費の速度を落とし、2−ケトグルコン酸の強い産生を引き起こす。
− 第二の前培養のステップを加えることは、いかなる利益ももたらさない。
− 徐々にスクロースを導入すること(FB=フェッドバッチ)は、いかなる利益ももたらさない。
【0104】
実施例4:I−4604株発酵からのツラノースの精製
1− 発酵精製のステップ
12000gでの遠心分離によってバイオマスの分離を行った。その上清はまだ濁って
いた。この濁りを取り除くために粉末状黒色炭素(1%のSX+)による処理およびCofram EKS平面濾過器上での濾過を行った。得られた濾液はより透明であったが、脱色されなかった。
【0105】
脱塩を、強陽イオン(C150)および弱陰イオン(4228)上で行った。脱塩前の生成物の負荷量は170meq/Lであった。精製された生成物の抵抗率は、それが数種類の有機酸を含有するので5kΩ未満であった。有機酸の組成を下記の表に示す。
【0106】
結晶化の前に濃厚度(richness)を向上させるために1kDに対する限外濾過を行った。このステップは、天然の色および1kDを超える分子量を有する生成物を維持することを可能にした。
【0107】
2− 結晶化
100gの70bxの生成物および200mLの96%エタノールの混合物を沸騰させた後に周囲温度で結晶化を行った。混合物の低粘度を前提として結晶および母液の分離をブフナー漏斗上で行った。使用した2Lの発酵装置に対して、これらの条件下で70gの結晶(ツラノースの濃厚度98〜99%)、すなわち30%の重量収率が回収された。
【0108】
結晶は、下記の表によって例示される良好な濃厚の度合いを示した。
【0109】
【表12】
【0110】
これらの様々な精製のステップにより、良好な濃厚の度合いを有するツラノースを得ることが可能になった。