特許第6164860号(P6164860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6164860-ポリマンデル酸 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164860
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ポリマンデル酸
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/06 20060101AFI20170710BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20170710BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170710BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C08G63/06
   C08L67/04
   C08J5/18CFD
   B29C55/02
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-27467(P2013-27467)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156527(P2014-156527A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(74)【代理人】
【識別番号】100181607
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 史子
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮平
(72)【発明者】
【氏名】樋口 長二郎
(72)【発明者】
【氏名】谷本 一洋
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−285420(JP,A)
【文献】 特表2006−526053(JP,A)
【文献】 特開2006−225622(JP,A)
【文献】 特開2009−046552(JP,A)
【文献】 Tianqi Liu et al.,Synthesis of Polymandelide: A Degradable Polylactide Derivative with Polystyrene-like Properties,Macromolecules,2007年,Vol.40,No.17,p.6040−6047
【文献】 James K. Whitesell and John A. Pojman,Homochiral and Heterochiral Polyesters: Polymers Derived from Mandelic Acid,Chem. Mater.,1990年,Vol.2,No.3,p.248−254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が20万以上のアイソタクチックポリマンデル酸、または、重量平均分子量が20万以上のアタクチックポリマンデル酸であるポリマンデル酸。
【請求項2】
重量平均分子量が20万〜100万である請求項1に記載のポリマンデル酸。
【請求項3】
アイソタクチックポリマンデル酸である請求項1または2に記載のポリマンデル酸。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のポリマンデル酸を含む樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載のポリマンデル酸を含む樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載のポリマンデル酸からなるフィルム。
【請求項7】
延伸フィルムである請求項に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム等の成形体用途に好適に用いられる、高分子量のポリマンデル酸、ポリマンデル酸を含有する樹脂組成物とその樹脂組成物からなる成形体、およびポリマンデル酸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
マンデル酸は、乳酸に代表されるα−ヒドロキシカルボン酸の一種であるが、この脱水縮合体であるポリマンデル酸において、重量平均分子量15万を超える高分子量体はこれまで知られておらず、特にアイソタクチックなポリマンデル酸に至っては、重量平均分子量が10,000にも満たないオリゴマーしか得られていなかった。それ故、重量平均分子量が低いためにフィルム等の成形体の作成が困難であり、ポリマンデル酸の成形体で、実用的な機械強度を有するものは知られていなかった。
【0003】
乳酸の重合体であるポリ乳酸においては、乳酸環状2量体であるラクチドの開環重合および乳酸の直接重合による高分子量化が知られており、光学活性なラクチドまたは光学活性な乳酸を用いることで、アイソタクチックなポリ乳酸を合成することが可能である。しかしながら、ポリ乳酸と同様な方法で高分子量ポリマンデル酸を得ようとしてもいくつかの問題があった。
【0004】
例えば非特許文献1にはマンデル酸の環状2量体であるマンデライド開環重合により重量平均分子量14.7万のポリマンデル酸が開示されているが文献中に述べられているように、溶液中での開環重合ではマンデル酸の環状2量体であるマンデライドの重合溶媒への低溶解性のためにメソ体またはメソ体とラセミ体との混合物のマンデライドを用いなければならず、また溶融開環重合ではマンデライドの熱安定性(重合中の異性化)の問題から、アイソタクチックなポリマンデル酸は得られない。
【0005】
また、マンデライドとラクチドとから得られるランダム共重合体の製造方法が特許文献1に記載されているが、重量平均分子量は十分ではなく、また得られたNMRのスペクトルデータからは、文献1に記載されているような異性化が起こっていることが読み取れる。さらにマンデライドの合成には非常に長い時間を要するだけでなく、高分子量化においてはマンデライドの高い純度が求められるという問題がある。
【0006】
開環重合以外の重合方法としては、非特許文献2および3には直接重縮合法、非特許文献4にはマンデル酸の環状酸無水物の脱炭酸開環重合法、非特許文献5にはグリオキサル酸の脱酸素重合法、特許文献2には保護基を用いた縮合法など様々なポリマンデル酸の製造方法が開示されているものの、文献から計算される重量平均分子量はいずれも10,000以下であり、高分子量のポリマンデル酸、特にアイソタクチックな高分子量ポリマンデル酸の報告例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−009273号公報
【特許文献2】特開2010−285420号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lin, T. et al. Macromolecules 2007, 40, 6040-6047.
【非特許文献2】Saito, A. et al. Polym. Prep., Jp, 2012, 61, 538.
【非特許文献3】Pinkus, A. G. et al. J. Polym. Sci.:Polym. Chem. Ed. 1989, 27, 4291-4296.
【非特許文献4】Smith, I. J. et. al. Makromol. Chem. 1981, 182, 313-324
【非特許文献5】Kobayashi, S. et. al. Polym. Bull. 1980, 3, 585-591.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、これまで高分子量ポリマンデル酸に関する報告はアタクチックポリマンデル酸において14.7万のものが最高であるためその成形体は脆く、さらに重量平均分子量10,000以上のアイソタクチックポリマンデル酸に関しては全く知られていなかった。
【0010】
すなわち本発明は、上記の技術背景を鑑み、アタクチックな高分子量ポリマンデル酸、アイソタクチック構造を有するポリマンデル酸、それらのポリマンデル酸を含有する樹脂組成物、およびそれらのポリマンデル酸含有樹脂組成物からなる成形体、さらには高分子量ポリマンデル酸からなるフィルム、特に延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、高分子量ポリマンデル酸の製造に成功し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の第一の態様は、重量平均分子量が20万以上のアイソタクチックポリマンデル酸、または、重量平均分子量が20万以上のアタクチックポリマンデル酸であるポリマンデル酸である。
【0012】
重量平均分子量が20万〜100万である前記ポリマンデル酸は成形性、機械強度の点で好ましい態様である。
本発明の好ましい第二の態様は、前記ポリマンデル酸を含む樹脂組成物である。
本発明の好ましい第三の態様は、前記ポリマンデル酸を含む樹脂組成物からなる成形体である。
本発明の好ましい第四の態様は、前記重量平均分子量が20万〜100万であるポリマンデル酸からなるフィルムである。
本発明の好ましい第五の態様は前記ポリマンデル酸フィルムを延伸してなるフィルムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリマンデル酸は重量平均分子量が20万以上の高分子量体であり、具体的には、重量平均分子量が20万以上であるアイソタクチックポリマンデル酸またはアタクチックポリマンデル酸を提供することができる。また本発明のポリマンデル酸を含有する樹脂組成物は成形体用途に好適に用いることができ、本発明の高分子量ポリマンデル酸はフィルム、シートおよび延伸フィルムに好適に用いることができる。本発明の高分子量ポリマンデル酸からなるフィルムは機械強度に優れ、本発明の高分子量ポリマンデル酸からなる延伸フィルムは光学特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ポリマンデル酸のメチンプロトンのNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下順に本発明を詳細に説明する。
[ポリマンデル酸]
本発明におけるポリマンデル酸とは、マンデル酸および/またはマンデル酸誘導体ユニットを90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上含むものとする。マンデル酸誘導体とは、マンデル酸のα位やフェニル基に置換基を有するものであり、例えば、2−メチルマンデル酸、3−メチルマンデル酸、4−メチルマンデル酸、4−メトキシマンデル酸、3−フェノキシマンデル酸、3,4−ジヒドロキシマンデル酸、2−ブロモマンデル酸、4−ブロモマンデル酸、2−クロロマンデル酸、4−クロロマンデル酸、2−ヒドロキシ−2−フェニルプロピオン酸、3−メトキシ−4−ヒドロキシマンデル酸、3−フルオロマンデル酸、4−フルオロマンデル酸、2,3−ジフルオロマンデル酸、2,4−ジフルオロマンデル酸、2,5−ジフルオロマンデル酸、2,6−ジフルオロマンデル酸、3,4−ジフルオロマンデル酸、4−(トリフルオロメチル)マンデル酸、α-シクロペンチルマンデル酸、3−(トリフルオロメチル)マンデル酸、ペンタフルオロマンデル酸、2,3,5,6−テトラフルオロマンデル酸、3,5−ビス(トリフルオロメチル)マンデル酸、4−ブロモ−2−フルオロマンデル酸、2−クロロ−4−フルオロマンデル酸、2−(2−ナフチル)グリコール酸等を挙げることができる。
【0016】
本発明におけるアイソタクチックポリマンデル酸とは、ポリマンデル酸中に、光学活性なマンデル酸あるいは光学活性なマンデル酸誘導体由来のユニットを75%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%、さらに好ましくは98モル%以上含んでいる。光学活性なマンデル酸誘導体とは、不斉炭素を有し、かつマンデル酸のα位やフェニル基に置換基を有するものである。
【0017】
前記光学活性マンデル酸あるいは光学活性マンデル酸誘導体ユニットは不斉炭素を有しており、同一の立体配置を持つマンデル酸あるいはマンデル酸誘導体ユニットを繰り返し単位に有する場合、アイソタクチック構造となる。アイソタクチック構造とは、同一の立体配置の繰り返し単位が連続した構造を有していることを指し、核磁気共鳴分析によりそのタクチシチーを判別することができる。本発明におけるアイソタクチック構造とは、ポリマンデル酸中に見出されるメソダイアドの存在確をPとした場合、Pの値が0.75以上、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは0.98以上であるものを指す。Pmの値は、後述する方法により算出することが可能である。1H−NMRスペクトルにより得られるマンデル酸ユニットのメチンプロトンのピークに由来する5.92ppm〜6.08ppmのピークの全積分値に対し、アイソタクチックペンタドに由来する5.95ppmのピークの積分値の割合またはシンジオタクチックペンタドに由来する6.08ppmの積分値の割合により算出することができる。
【0018】
光学活性マンデル酸あるいは光学活性マンデル酸誘導体以外のユニット成分としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシラウリン酸、2−ヒドロキシミリスチン酸、2−ヒドロキシパルミチン酸、2−ヒドロキシステアリン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ酢酸、サリチル酸、ε−カプロラクトン等の環状エステル類を開環させたもの、またはこれらの混合物などのヒドロキシカルボン酸;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチルー1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の二官能以上等の多価アルコール;コハク酸、アジピン酸等の脂肪族多価カルボン酸を挙げることができる。
【0019】
[重量平均分子量]
本発明におけるアイソタクチックポリマンデル酸の重量平均分子量は、20万以上であ、より好ましくは20万〜100万、さらに好ましくは20万〜50万である。重量平均分子量が10,000より小さいと、例えば成形体にした場合非常に脆くなり、機械物性に劣るだけでなく、例えばフィルム化のような成形が困難となる。
【0020】
また、本発明におけるアタクチックポリマンデル酸の重量平均分子量は、20万以上であり、より好ましくは20万〜100万、さらに好ましくは20万〜50万である。アタクチックポリマンデル酸の重量平均分子量が小さいと熱分解温度が低くなることが知られており、例えば成形体にした場合非常に脆くなり、機械物性に劣るだけでなく、例えばフィルム化のような成形が困難となる。一方、重量平均分子量が高すぎると成形性が悪くなる可能性がある。
【0021】
[ポリマンデル酸を含む組成物]
本発明におけるポリマンデル酸は、他の樹脂、安定剤、強化剤等と共に用いることができる。共に用いる他の樹脂、安定剤、強化剤としては特に限定されるのではなく、目的に合わせ適宜混合して用いることができる。この場合他の樹脂、安定剤、強化剤等の含有量は特に限定されるものではなく、目的に合わせた量混合することが好ましい。
【0022】
[ポリマンデル酸を含む組成物からなる成形体]
本発明のポリマンデル酸は種々の成形加工法で成形できるが、ポリマンデル酸およびこれらを含む組成物は成形性および機械物性に優れている。ここでいう成形体とは、フィルム、シート、繊維、射出成形体、押出成形体、真空成形体、発泡成形体等の各種成形体を意味する。
成形加工法は特に制限されないが、具体的には、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の成形加工法が挙げられる。
【0023】
[製造方法]
本発明におけるポリマンデル酸は、縮合剤を用いる方法により製造することが可能である。具体的には、重合溶媒中、マンデル酸、またはマンデル酸誘導体に対し、等モル量以上の縮合剤を反応させることにより合成することが可能である(例えばMacromolecules 1990, 23, 65.に記載された方法など)。このとき、前述した光学活性なマンデル酸、または光学活性なマンデル酸誘導体を用いることでアイソタクチックポリマンデル酸を製造することができる。縮合剤は特に限定はされないが、従来知られているようなカルボジイミド系の縮合剤がポリマンデル酸の製造に好適に用いることができる。具体例としては、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N−シクロヘキシルーN'−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドメト−p−トルエンスルホン酸塩、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド=メチオジド、1,3−ジ−tert−ブチルカルボジイミド、N−tert−ブチル−N'−エチルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N'−(4−(ジメチルアミノ) ナフチル)カルボジイミド等を挙げることができる。
【0024】
前記縮合剤と併せて触媒を併用することにより、副反応の抑制や重合反応時間の短縮が可能である。用いる触媒は酸触媒、塩基触媒、酸塩基複合触媒などを用いることができる。
【0025】
前記縮合剤としてカルボジイミドを用いる反応において、反応温度は−20℃〜50℃が好ましく、より好ましくは−10℃〜25℃、さらに好ましくは−10℃〜0℃である。反応温度がこの範囲内にあると、副反応を抑えることが可能であり、本発明における高分子量体を首尾よく製造することが可能である。
【0026】
[ポリマンデル酸フィルム]
本発明における重量平均分子量20万〜100万のポリマンデル酸は、重量平均分子量が大きいためフィルム化が可能である。重量平均分子量が20万より小さいと、フィルムは非常に脆くなり、実用上フィルムとしての性能を有しない。一方100万より重量平均分子量が大きいと粘度が大きくなりすぎ成形性が悪くなる可能性がある。フィルムの製造方法としては、溶媒を用いた溶媒キャスト法、溶融キャスト法または溶融プレス法など適宜選択することが可能である。
【0027】
溶媒キャスト法は、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられる。溶媒キャストに用いられる溶媒はポリマンデル酸を溶解する溶媒であれは特に限定されないが、例えばジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0028】
溶融キャスト法はポリマンデル酸を押出機内で溶融し、Tダイのスリットからフィルム状に押出した後、ロールやエアーなどで冷却しつつ引き取る成形法である。溶融させる温度は成形に適した溶融粘度に応じて適宜設定することができ、一般的に150℃〜250℃の範囲が好ましい。溶融プレス法は型内で溶融したポリマンデル酸をプレスによりフィルムを成形する方法である。
【0029】
溶融プレス温度は成形に適した溶融粘度に応じて適宜設定することができ、一般的に150℃〜250℃の範囲が好ましい。本発明におけるポリマンデル酸フィルムは透明性が高く、また重量平均分子量が大きいため後述する延伸操作によりフィルム厚を薄くしたり、強度を高めたりすることが可能である。
【0030】
[ポリマンデル酸延伸フィルム]
本発明におけるポリマンデル酸フィルムは重量平均分子量が大きいため、延伸操作が可能であり、延伸フィルムとすることができる。延伸方法は特に制限されず、一軸延伸、二軸延伸、固相延伸などの種々の延伸方法を用いることができる。また、これらを多段階で行ったり、組み合わせて行うことも可能である。
【0031】
一軸延伸するには、周速の異なるロ−ル間で一軸に延伸してもよいし、熱ロ−ルを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤で膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。このとき、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であっても、フィルムの幅方向の変化を固定した固定端一軸延伸のいずれであってもよい。二軸延伸は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれであってもよい。延伸温度および延伸倍率は、目的とする光学特性および機械的特性などに応じて適宜選択すればよいが、延伸温度は通常120℃〜150℃、延伸倍率は通常3〜8倍程度である。
【0032】
本発明におけるアタクチックポリマンデル酸から得られる延伸フィルムは、位相差が非常に小さいという特徴を有している。一般的にフィルムの一軸延伸処理を行うと延伸方向に位相差が発現するが、本発明におけるアタクチックポリマンデル酸フィルムは面内位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)が延伸処理をしても非常に小さいという特徴を有しており、光学フィルム等へ使用可能である。
【0033】
本発明におけるアイソタクチックポリマンデル酸から得られる延伸フィルムはRthが負の位相差を有するという特徴を有している。従来負の位相差を有するポリマーとしてはポリメタクリル酸メチル(PMMA)や、ポリスチレン(PS)といったビニルポリマーの延伸フィルムが知られているが、本発明におけるアイソタクチックポリマンデル酸のように、ポリエステルで負の位相差が得られるポリマーは知られていない。そのため、本発明におけるアイソタクチックポリマンデル酸延伸フィルムは、負の位相差を有するため、光学補償フィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
まず、本実施例における各測定方法を以下に示す。
[重量平均分子量(Mw)]
重量平均分子量(Mw)は、Waters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(RI検出器:Waters社製2414、カラム:SHODEX社製LF−GおよびLF−804、カラム温度:40℃、流速:1mL/min、溶離液:クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルにより作成した検量線との比較により重量平均分子量を算出した。
【0035】
[タクチシチー(立体規則性)の評価]
タクチシチーは重クロロホルムに溶解したポリマンデル酸の核磁気共鳴分析(日本電子製 核磁気共鳴装置 ECA500)により、H−NMRから算出する。ポリマンデル酸のタクチシチーに関するスペクトルデータによる評価方法はこれまで知られていない。H−NMRスペクトルにより得られるマンデル酸ユニットのメチンプロトンのピークに由来するシングレットは図に見られるように10本存在することから、ペンタドシーケンスまで読み取ることができる。マンデル酸の不斉炭素をDL標記し、DDやLLのようなメソダイアドを“m”、DLやLDのようなラセモダイアドを“r”とし、mおよびrをポリマンデル酸中に見出す存在確をそれぞれPおよびPとすると、ポリマンデル酸において出現するペンタッドがベルヌーイ統計に従うと仮定した場合、P=1―Pであるから、P=(1−Pである。ここで、全メチンプロトンが検出される5.91ppm〜6.08ppmの積分強度の総和をItotalとした場合、[rrrr]が見出される6.08ppmの積分強度Irrrrとすると、これらの関係式は(1)のように表記可能であり、以下の式(2)によりPの値を算出することができる。
(Irrrr/Itotal)×100=(1−P・・・・式(1)
= 1−{(Irrrr/Itotal)×100}0.25・・・・式(2)
【0036】
[比旋光度]
全自動旋光計 AUTOPOL V (Rudolph Reserch Analytical)を用いた。試料を、試料濃度0.500g/dLとなるようクロロホルムに溶解し、波長589nm(タングステンハロゲンランプ、波長フィルター)、25℃、セル長100mmで測定した。旋光度αを5回測定し、その平均値を以下の式を用いて比旋光度の値とした。
比旋光度[α] = (100 × α)/(c × l)
c:試料濃度(g/dL)、l:セル長(100mm)
【0037】
[5%熱重量減少]
TG−DTA(島津製作所社製)により算出した。アルミパンに試料を約10mg秤量し、空気下において10℃/minの昇温速度で450℃まで昇温したときの重量減少温度を測定した。
【0038】
[ガラス転移温度]
DSC(島津製作所社製 D50)により算出した。アルミパンに試料を秤量しシールした。窒素下、10℃/minの昇温速度で260℃まで昇温した後、室温まで急冷し、再び10℃/minで280℃まで昇温したときのガラス転移の中間点の温度をガラス転移温度とした。
【0039】
[面内位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)の測定]
大塚電子(株)製測定装置RETS−100を用いて、23℃、相対湿度50%にて波長550nmにおける位相差を測定した。
【0040】
[実施例1]
攪拌装置、冷却管および滴下ロートを備え付けた500mLのセパラブルフラスコに、DL−マンデル酸(和光純薬工業社製)43.7g(0.287mol)、ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業社製)とp−トルエンスルホン酸(和光純薬工業社製)との1:1混合物をトルエンにより共沸脱水して調整したジメチルアミノピリジン・p−トルエンスルホン酸塩18.6g(0.0632mol、22mol%)および脱水ジクロロメタン(和光純薬工業社製)100mLを装入した。窒素雰囲気下、混合した溶液を−5℃に冷却した後、ジイソプロピルカルボジイミド(東京化成工業社製)47.12g(0.3734mol、1.3当量)を滴下ロートから系内にゆっくり滴下した。滴下終了後、滴下ロート内を脱水ジクロロメタン30mLで洗浄した。滴下終了後、30分攪拌した時点で反応液の粘度が上昇したため脱水ジクロロメタン70mL追加添加した。反応開始4時間後、反応液をクロロホルム100mLで希釈した後、激しく攪拌したメタノール700mL中へ排出した。得られた白色沈殿をろ過、メタノール洗浄し、さらにメタノール中でホモミキサーにより攪拌することで福生成物を除去した後、ろ過し、減圧乾燥した。得られた白色粉末をジメチルホルムへ溶解し、ろ過した溶液を蒸留水中へ再沈殿させることでポリマーを精製した。
【0041】
得られたポリマンデル酸の収量は32g、収率は83%であった。得られたポリマンデル酸のH−NMRのスペクトルを図1の(a)に示した。H−NMRのスペクトルから、P=0.5であり、アタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。クロロホルム中での比旋光度は0°、重量平均分子量は44.5万、ガラス転移温度は99℃、5%重量減少温度は299℃であった。
【0042】
[実施例2]
DL−マンデル酸の代わりにD−マンデル酸(和光純薬工業社製)24.7g(0.1624mol)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリマンデル酸の収量は19.0g、収率は87.2%であった。得られたポリマンデル酸のH−NMRのスペクトルを図1の(c)に示した。H−NMRのスペクトルから、P=1.0であり、アイソタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。クロロホルム中での比旋光度は−142°、重量平均分子量は35.6万、ガラス転移温度は109℃、5%重量減少温度は299℃であった。
【0043】
[参考例1]
実施例2と同様に反応を行った後、メタノール中におけるメタノリシスにより重量平均分子量を調節した。得られたポリマンデル酸の重量平均分子量は10.5万、ガラス転移温度は105℃、5%重量減少温度は299℃であった。H−NMRのスペクトルから、アイソタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。
【0044】
[実施例4]
DL−マンデル酸の代わりにL−マンデル酸(和光純薬工業社製)20.0g(0.13145mmol)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリマンデル酸の収量は15.8g、収率は89.8%であった。得られたポリマンデル酸のH−NMRのスペクトルを図1の(d)に示した。H−NMRのスペクトルから、P=1.0であり、アイソタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。クロロホルム中での比旋光度は+132°、重量平均分子量は27.4万、ガラス転移温度は106℃であった。
【0045】
[実施例5]
DL−マンデル酸の代わりにL−マンデル酸(和光純薬工業社製)15.0gおよびD−マンデル酸(和光純薬工業社製)5.0g(マンデル酸として0.13145mol)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリマンデル酸の収量は14.9g、収率は84.7%であった。得られたポリマンデル酸のH−NMRのスペクトルを図1の(b)に示した。H−NMRのスペクトルから、P=0.7でありアタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。重量平均分子量は27.4万、ガラス転移温度は97℃であった。
【0046】
[実施例6]
DL−マンデル酸の代わりにD−マンデル酸(和光純薬工業社製)17.97g(0.118mol)およびピューラック社製90%乳酸を減圧脱水した脱水L−乳酸1.18g(0.0131mol)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたL−乳酸ユニットが10モル%共重合されたポリマンデル酸の収量は14.99g、収率は89.3%であった。H−NMRスペクトルから、目的物が得られていることを確認した。重量平均分子量は28.8万、ガラス転移温度は105℃であった。
【0047】
[実施例7]
DL−マンデル酸の代わりにDL−マンデル酸(和光純薬工業社製)17.97g(0.118mol)および脱水DL−乳酸1.18g(0.0131mol)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたDL−乳酸ユニットが10モル%共重合されたポリマンデル酸の重量平均分子量は33.5万、ガラス転移温度は88℃であった。
【0048】
[実施例8]
実施例1で得られたアタクチックポリマンデル酸約3gを、厚み50μmのポリイミドフィルムを4枚重ねて作成した直径110mmの円形の型を用いてアルミニウム板に挟み、200℃で5分間予熱後、1分間2MPaで真空プレスした。室温で10MPaに急冷プレスし、厚み200μmの透明フィルムを得た。
得られたシートを50mm×100mmに切り出し、チャック幅10mm、チャック間距離30mm、幅100mmとなるように一軸延伸装置にセットし、130℃で5分間予熱後、10mm/分の延伸速度で5倍まで一軸延伸し、厚み50μmの一軸延伸フィルムを得た。
得られた一軸延伸フィルムの位相差を上述した方法により分析したところ、Reは7nm、Rthは23nmであった。
【0049】
[実施例9]
実施例1で得られたアタクチックポリマンデル酸の代わりに実施例2で得られたアイソタクチックポリマンデル酸を用いた以外は実施例8と同様に厚み200μmの透明フィルムを調整した。さらに実施例8と同様に厚み50μmの一軸延伸フィルムを作成した。
得られた一軸延伸フィルムの位相差を上述した方法により分析したところ、Reは323nm、Rthは−163nmであった。
【0050】
[比較例1]
実施例1と同様に反応を行った後、メタノールによるメタノリシスにより重量平均分子量を調節した。得られたポリマンデル酸の重量平均分子量は13万、ガラス転移温度は100℃であった。H−NMRのスペクトルから、アタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。
得られたアタクチックポリマンデル酸約3gを、厚み50μmのポリイミドフィルムを4枚重ねて作成した直径110mmの円形の型を用いてアルミニウム板に挟み、200℃で5分間予熱後、1分間2MPaで真空プレスした。室温で10MPaに急冷プレスしたところ脆く、フィルム状にならなかった。
【0051】
[比較例2]
実施例1と同様に反応を行った後、メタノールによるメタノリシスにより重量平均分子量を調節した。得られたポリマンデル酸の重量平均分子量は2万であった。H−NMRスペクトルから、アタクチックポリマンデル酸が得られていることを確認した。
得られたアタクチックポリマンデル酸約3gを、厚み50μmのポリイミドフィルムを4枚重ねて作成した直径110mmの円形の型を用いてアルミニウム板に挟み、200℃で5分間予熱後、1分間2MPaで真空プレスした。室温で10MPaに急冷プレスしたところ、非常に脆くフィルム状にならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の高分子量のポリマンデル酸は、従来の低分子量のポリマンデル酸とは異なり、実用的な機械強度を有する成形体を製造する材料として用いることができる。ポリマンデル酸はガラス転移温度が比較的高いため、耐熱性が求められる成形体用途への展開が可能である。また、本発明の高分子量ポリマンデル酸の延伸フィルムは、その光学特性から、位相差フィルムなどの光学補償フィルムへの展開も可能である。
【符号の説明】
【0053】
(a):実施例1で得られたポリマンデル酸のスペクトル
(b):実施例5で得られたポリマンデル酸のスペクトル
(c):実施例2で得られたポリマンデル酸のスペクトル
(d):実施例4で得られたポリマンデル酸のスペクトル
図1