特許第6164920号(P6164920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164920
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】メッキ加工用治具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/08 20060101AFI20170710BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20170710BHJP
   B23K 26/14 20140101ALI20170710BHJP
【FI】
   C25D17/08 S
   B23K26/21 F
   B23K26/14
   C25D17/08 M
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-101629(P2013-101629)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-221934(P2014-221934A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】300018932
【氏名又は名称】株式会社 後島精工
(74)【代理人】
【識別番号】100139044
【弁理士】
【氏名又は名称】笹野 拓馬
(74)【代理人】
【識別番号】100071238
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恒久
(72)【発明者】
【氏名】後島 剛
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−104200(JP,A)
【文献】 特開2008−202065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00− 9/12
C25D 13/00−21/22
C23C 18/00−20/08
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートに穿孔された通孔の位置に突起体を位置決めするステップであって、突起体に形成された鍔部を通孔の位置に着座させることにより突起体を位置決めするステップと、
上記通孔の周縁と上記鍔部の周縁との境界部分をレーザ溶接するステップと
を含む、メッキ加工用治具の製造方法。
【請求項2】
ベースプレートに穿孔された通孔の位置に突起体を位置決めするステップであって、突起体に形成された鍔部を通孔の位置に着座させることにより突起体を位置決めするステップと、
上記通孔の周縁と上記鍔部の周縁との境界部分をレーザ溶接するステップであって、レーザ照射部に不活性ガスを噴射しつつレーザ溶接するステップと、
を含む、メッキ加工用治具の製造方法。
【請求項3】
上記鍔部は階段状に形成された段部を含み、この段部が上記ベースプレートの通孔に嵌入したとき、通孔の周縁と、上記鍔部の上面又は底面とが面一の境界部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメッキ加工用治具の製造方法。
【請求項4】
上記境界部分をレーザ溶接するステップは、上記面一の境界部分に断続的にレーザ照射することを含む、請求項に記載のメッキ加工用治具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被メッキ物品にメッキ加工処理を施す際に使用されるメッキ加工用治具およびこれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被メッキ物品にメッキ加工処理を施す際には、図8(a)に示されるようなメッキ加工用治具(1)上に被メッキ物品が載置され、メッキ加工処理が施される。従来のメッキ加工用治具(1)は、ベースプレート(2)上に、ステンレス鋼材で形成された突起体(3)が溶接により接合されてなるものであった。
【0003】
従来法においては、図8(b)に示されているように、メッキ後の洗浄工程において、溶接により生じた突起体(3)とベースプレート(2)との隙間(4)に浸入した溶剤を完全に除去することが難しかった。このため、隙間(4)の部位が腐食してしまうという問題があった。
【0004】
従来のメッキ加工用治具は、図8(b)に示されるように、ベースプレート2上にステンレス鋼材からなる突起体3が溶接されてなるものであるため、溶接の熱によって酸化した溶接部や、残留した溶剤によって腐食が進んだ隙間部分の部位にはメッキが施されにくいという問題があった。そのため、これらの部位から剥離したメッキ片がメッキ液中に浮遊し、このメッキ片が被メッキ物品に異物として混入してしまい、被メッキ物品における不良発生の大きな原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−292499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、メッキ加工用治具の耐久性を向上させることで、被メッキ物品に施されるメッキの不良を減らし、良好なるメッキ加工処理を施すことができるようにするとともに、該メッキ加工用治具の製造方法を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ベースプレートと、鍔部を有する突起体と、を備え、ベースプレートに穿孔された通孔の位置に鍔部を着座させた上で、通孔の周縁と鍔部の周縁との境界部分がレーザ溶接されてなるメッキ加工用治具を提供する。
【0008】
また、本発明のメッキ加工用治具は、鍔部が階段状に形成された段部を含み、この段部がベースプレートの通孔に嵌入したとき、通孔の周縁と、鍔部の上面又は底面とが面一の境界部分を有することを特徴とする。
【0009】
また、レーザ溶接された境界部分の溶接部は、面一の境界部分に断続的にレーザ照射することにより接合されていることを特徴とする。
【0010】
さらに、ベースプレートに穿孔された通孔の位置に突起体を位置決めするステップであって、突起体に形成された鍔部を通孔の位置に着座させることにより突起体を位置決めするステップと、通孔の周縁と鍔部の周縁との境界部分をレーザ溶接するステップであって、レーザ照射部に不活性ガスを噴射しつつレーザ溶接するステップと、を含む、メッキ加工用治具の製造方法を提示する。
【0011】
また、本発明のメッキ加工用治具の製造方法は、鍔部が階段状に形成された段部を含み、この段部がベースプレートの通孔に嵌入したとき、通孔の周縁と、鍔部の上面又は底面とが面一の境界部分を有することを特徴とする。
【0012】
また、境界部分をレーザ溶接するステップは、面一の境界部分に断続的にレーザ照射することを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明のメッキ加工用治具の製造方法によれば、レーザ溶接により、被メッキ物品を載置するための突起体の鍔部の周縁と、ベースプレートに穿孔された通孔の周縁との境界部分に隙間を生じさせることなく接合できるので、溶剤が境界部分の隙間に浸入することを阻止し、メッキ加工用治具の腐食を防ぐことができる。
【0014】
また、本発明の製造方法では、溶剤が隙間に浸入することを阻止できることに加え、酸化防止対策として溶接部に不活性ガスを噴射しつつレーザ溶接するので、溶接部が熱によって酸化することも最小限に抑えることができる。
【0015】
従って、メッキ加工用治具に対して均一かつ正常なメッキ析出が可能となり、異常析出したメッキ片が剥離してメッキ液中に浮遊する恐れがなくメッキ加工用治具の各突起体の腐食を防止できることから、メッキ加工用治具が長持ちする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るメッキ加工用治具を示す斜視図。
図2】鍔部を有する突起体の斜視図。
図3】メッキ加工用治具の断面図。
図4】本発明のメッキ加工用治具の製造過程を示す図。
図5】第2の実施例における鍔部を有する突起体を示す斜視図。
図6】第2の実施例におけるメッキ加工用治具示す断面図。
図7】本発明の第2の実施例におけるメッキ加工用治具の製造過程を示す図。
図8】従来のメッキ加工用治具を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るメッキ加工用治具をレーザ溶接による接合を用いて製造する方法について、添付の図に示される具体例に即して説明する。レーザ溶接は、材料上面で吸収された光が熱に変換され、熱エネルギーとなって材料内に伝導して溶融させるものであるが、本発明においては、溶融の過程で溶融池の形状があまりへこまず深さより幅が広いタイプの熱伝導型レーザ溶接を用いることが好ましい。
【0018】
図1(a)は、ベースプレート2に複数の突起体3が固定された本発明によるメッキ加工用治具1を示す。図1(b)に示されるように、ベースプレート2に複数の突起体3を固定するために、ベースプレート2に穿孔されている通孔2a(図4(a)参照)の周縁2bと、突起体3の鍔部3aの周縁3bとの境界部分がレーザ溶接により接合される。
【0019】
ベースプレート2に穿孔されている通孔2a(図4(a)参照)の寸法は、突起体3の鍔部3aが密接に嵌入する寸法に形成されている。仮に密接に嵌入しなくとも、ベースプレート2に穿孔されている通孔2a(図4(a)参照)の縁2bと、突起体3の鍔部3aの周縁3bとをレーザ溶接するときに、ビームの通過とともに生じる溶融金属の流れ込みによって隙間のない接合が実現される。従って、弱いレーザ出力の断続的なレーザ照射でもって確実に接合できるので(図1(b)参照)、各部材に伝わる溶接熱を最小限に抑えることができ、ベースプレート2に熱歪み変形を生じさせない。
【0020】
図2は、本発明における突起体3を示している。この突起体3の鍔部3aは、ベースプレート2の厚さと同じ高さ寸法に形成された段部3cを有し、この段部3cがベースプレート2の通孔2aに嵌入したとき、通孔2aの周縁と鍔部上面とが面一(段差がない)となる。
【0021】
そして、図3に示されるように、段部3cを含む鍔部3aが形成されている突起体3をベースプレート2にレーザ溶接する場合、溶接部における溶融金属の流れ込みを考慮して突起体3の突出側から断続的にレーザ照射するとよい。なお、この実施例においては、突起体3の立体的形状は、切頭円錐形の形状に形成されているが、この形状に限定するものではない。突起体3は被メッキ物品の形態に適切な種々の形状に形成され得るものである。また、鍔部3aの輪郭も円形に限定されることなく種々の形状に形成され得る。
【0022】
図4は、メッキ加工用治具の製造過程を示す概略図である。図4(a)に示されるように、ベースプレート2に穿孔されている通孔2aの位置に、突起体3の鍔部3aを着座させる。詳しくは、鍔部3aに形成されている段部3cを突起側から嵌め込むことで、ベースプレート2に穿孔されている複数の通孔2aのそれぞれに複数の突起体3が位置決めされる。このときの状態を図4(b)に示す。ベースプレート2に穿孔されている通孔2aに段部3cが密接に嵌入することにより、ベースプレート2に接合させる前の突起体3の位置決めが容易になされる。
【0023】
続いて、図4(c)に示されるように、通孔2aの周縁2bと、鍔部3aの周縁3bとの境界部分に断続的にレーザを照射する。レーザを照射する際に、溶接部に不活性ガス(窒素ガス)5を噴射しつつ、通孔の縁2b(図1(b)参照)と、鍔部3aの周縁3b(図1(b)参照)とをレーザ溶接する。図4(d)は、ベースプレート2の通孔の縁2b(図1(b)参照)と、突起体3の鍔部3aの周縁3b(図1(b)参照)とがレーザ溶接された後のメッキ加工用治具を示す。
【0024】
ベースプレート2が薄い場合には、ベースプレート2と突起体3に伝わる溶接熱を抑えるために、これらのベースプレート2と突起体3が冷却液(水など)に浸されて冷却されている。このとき、溶接部へ不活性ガス(窒素ガス)5を噴射しつつレーザ溶接することで、レーザ4を照射する直前に溶接部付近に存在していた冷却液を吹き飛ばすとともに、溶接部の熱による酸化を防止することができる。なお、ベースプレート2が厚い場合など、ベースプレート2に熱歪み変形が生じにくい条件では、不活性ガス5を噴射しなくてもよいこともある。
【0025】
この実施例におけるメッキ加工用治具1のベースプレート2は、厚さが0.2mm〜0.4mmのステンレス鋼材(SUS304)で形成されている一方で、突起体3は、ステンレス鋼材(SUS304L)で形成されていて、これらの材料については、光励起形固体レーザのYAGレーザで溶接することができる。この実施例においては、YAGレーザは比較的低い出力(例えば、18W〜22W)で使用されるが、他の寸法や素材を使う場合、他のレーザ出力が使用され得る。YAGレーザによって得られるレーザ光は、波長が短く微細加工に適している。よって、ベースプレート2と突起体3との境界部分を隙間なく接合することができるので、溶剤が境界部分を腐食してしまうことがない。
【0026】
図5は、第2の実施例における突起体3および鍔部3aを示す斜視図である。この第2の実施例においても、鍔部3aは階段状に形成された段部を含んでいるが、鍔部3aの上側の鍔の径が下側の鍔の径よりも大きくなっている。
【0027】
図6は、第2の実施例におけるメッキ加工用治具示す断面図である。この図に示されているように、段部がベースプレートの通孔に嵌入したとき、通孔の周縁と、鍔部の底面とが面一となる。
【0028】
図7は、本発明の第2の実施例におけるメッキ加工用治具の製造過程を示す図である。図7(a)に示されるように、ベースプレート2に穿孔されている通孔2aの位置に、突起体3の鍔部3aを着座させる。詳しくは、鍔部3aに形成されている段部3cを底面側から嵌め込むことで、ベースプレート2に穿孔されている複数の通孔2aのそれぞれに複数の突起体3が位置決めされる。そして、通孔2aの周縁2bと、鍔部3aの周縁3bとの境界部分に、突起体3の底面側から断続的にレーザを照射する。図7(b)は、ベースプレート2の通孔の縁と、突起体3の鍔部3aとがレーザ溶接された後のメッキ加工用治具を示している。
【0029】
以上のように製造された本発明のメッキ加工用治具は損傷しにくく、メッキ被膜がメッキ加工用治具に良好に析出するので、メッキ片が剥離してメッキ液中に浮遊してしまうことがない。本発明のメッキ加工用治具は、従来品と比べて少なくとも4〜5倍の使用回数に耐える耐久性を備え、被メッキ物品に良好なるメッキ加工処理を施すことを可能にするものである。
【符号の説明】
【0030】
1…メッキ加工用治具
2…ベースプレート
2a…通孔
2b…通孔の周縁
3…突起体
3a…鍔部
3b…鍔部の周縁
3c…段部
4…レーザ
5…不活性ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8