特許第6165024号(P6165024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165024
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   A61B8/06
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-226573(P2013-226573)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-84977(P2015-84977A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(74)【代理人】
【識別番号】100109689
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 結
(72)【発明者】
【氏名】呉 弘敏
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−286472(JP,A)
【文献】 特開2006−68039(JP,A)
【文献】 特開平8−76792(JP,A)
【文献】 特開2006−149882(JP,A)
【文献】 特開平8−168489(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/063691(WO,A1)
【文献】 特開2013−72656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内への超音波ビームの送波と該被検体内で反射して戻ってきた超音波の受波とを担うプローブと、
複数のパルス信号を前記プローブに送信して該プローブに超音波ビームを送波させる送信部と、
前記プローブでの超音波の受波を捉えて超音波ビームを表わすRF信号としての受信信号を生成する受信部と、
前記受信部で生成された受信信号の互いに隣接する2つのゼロクロス点に挟まれた半波形の代表振幅値および代表時刻を各半波形ごとに算出することにより、半波形ごとの代表振幅値
【数1】
および代表時刻
【数2】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、iは、そのm番目の受信信号中 のi番目の半波形であることを表わす。
からなる圧縮データを生成する圧縮部と、該圧縮部で生成された圧縮データを構成する代表振幅値
【数3】
を対応する代表時刻
【数4】
に並べたときの、波形どうしが近似している領域のずれ量に基づいて、被検体構成要素の動きを算出する算出部とを有する演算部と、
前記演算部で得られた前記被検体構成要素の動きを表示する表示部とを備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記受信部が、所定のサンプリングレートでのサンプリングにより得られたデータ列としてのRF信号からなる受信信号を生成するものであって、
前記圧縮部が、前記受信信号を、
【数5】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、nは、そのm番目の受信信号中
のn番目のサンプリングデータであることを表わす。
としたとき、半波形ごとの代表振幅値
【数6】
および半波形ごとの代表時刻
【数7】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、iは、そのm番目の受信信号中のi番目の半波形であることを表わす。
を、式
【数8】
【数9】
但し、
【数10】
は、半波形の、それぞれ開始点、終了点を表わし、
【数11】
は、受信信号のサンプリング周期を表わす。
に従って算出するものであることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記算出部が、
【数12】
但し、iは観測点、
Lは奇数であって、
【数13】
は、波形のセグメントの範囲、
【数14】
は、サーチ範囲、
【数15】
は、サーチ範囲内での最小誤差を表わす。
に従って、最小誤差
【数16】
を満たす
【数17】
を求め、
【数18】
に従って時間シフト
【数19】
を求め、
【数20】
但し、
【数21】
は音速、
【数22】
は送受信の繰返し周期を表わす。
に従って、前記被検体構成要素の動きの速度
【数23】
を算出するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記演算部が、前記被検体構成要素としての血液速度を求めるものであることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内に超音波ビームを送波し反射して戻ってきた超音波を受波して受信信号を得、その受信信号に基づいて、超音波のドプラ遷移に基づく、被検体内の被検体構成要素の動きを算出して表示する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体、とりわけ人体の内部の画像を写し出す装置の1つとして、超音波を送受信して得た受信信号に基づいて画像を表示する超音波診断装置が知られている。その超音波診断装置には、通常、受信信号に基づいて被検体内の観察領域内の血流分布をカラー表示する機能が備えられている。
【0003】
この超音波診断装置では、電圧印加を受けて振動して超音波を送波し、また超音波による振動を受けて電圧信号を発生する超音波振動子が多数個配列された超音波探触子を備えたプローブが使われる。このプローブの超音波探触子を被検体の体表に宛てがい、超音波探触子を構成している多数個の超音波振動子のそれぞれに、所定の遅延パターンに従ってそれぞれ遅延された、中心周波数fの複数のパルスからなるバースト波信号を印加する。すると、その超音波探触子から被検体内に、中心周波数fの、所定の深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームが所定の方向に送波される。そしてその反射超音波を、超音波探触子を構成する複数の超音波振動子のそれぞれでピックアップして複数の信号を得、それら複数の信号を所定の遅延パターンに従ってそれぞれ遅延させて互いに加算する。これにより、被検体内に延びる超音波ビームを表わす、RF信号としての受信信号が得られる。この超音波送受信が複数回繰り返され、その間の超音波のドプラ遷移による位相の変化Φ(t)が求められて、その位相の変化Φ(t)と中心周波数fとから、
【0004】
【数1】
【0005】
但し、Tは送受信の繰返し周期
Cは音速
(t)は超音波ビーム方向のドプラ速度(血流速度)
tは時刻
である。
が算出される。そして、観察領域内の各点の速度Vを、通常は体表に近づく向きの血流が赤、遠ざかる向きの血流が青で、かつVの大きさを色の輝度で表現する。
【0006】
この演算法は、複素自己相関法と呼ばれる。
【0007】
ここで、(1)式において、位相差Φ(A)は、
【0008】
【数2】
【0009】
の制限を受ける。この制限により、(1)式で算出される速度V(t)に関し、算出可能な最高速度が制限される。
【0010】
この複素自己相関法に代えて、時間領域の相互相関法(CCM)を採用することが考えられる。このCCMを採用すると、上記のような制限を受けず高速な血流速度も算出可能である。
【0011】
このCCMでは、2つの受信信号を
【0012】
【数3】
【0013】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、nは、そのm番目の受信信号中 のn番目のサンプリングデータであることを表わす。
としたとき、自己相関演算
【0014】
【数4】
【0015】
但し、
【0016】
【数5】
【0017】
は、波形のセグメント、
【0018】
【数6】
【0019】
は、サーチ範囲、
【0020】
【数7】
【0021】
は、サーチ範囲内での最大の相関値を表わす。
に従って、最大相関値
【0022】
【数8】
【0023】
を満たす
【0024】
【数9】
【0025】
を求め、
【0026】
【数10】
【0027】
但し、
【0028】
【数11】
【0029】
は、サンプリング周期を表わす。
に従って時間シフト
【0030】
【数12】
【0031】
を求め、
【0032】
【数13】
【0033】
但し、
【0034】
【数14】
【0035】
は音速、
【0036】
【数15】
【0037】
は、送受信の繰り返し周期を表わす。
に従って、速度
【0038】
【数16】
【0039】
を算出する。
【0040】
この演算法を採用すれば、前述の複素自己相関法を採用したときのような制限を受けずに高速な速度も算出可能である。
【0041】
ただし、この時間領域の相互相関法(CCM)も従来から知られている演算法であるが、速度の検出が信号振幅の強さに依存し、弱い信号に対する正しい速度検出率が低い。また、計算量も膨大であり演算に時間がかかり過ぎるため、実際の装置では、採用され難い。
【0042】
信号振幅の差を用いて、血流速度の検出精度が高い方法として、上記の(3)式に代えて、
【0043】
【数17】
【0044】
但し、
【0045】
【数18】
【0046】
は、サーチ範囲内での最小誤差を表わす。
に従って、最小誤差
【0047】
【数19】
【0048】
を満たす
【0049】
【数20】
【0050】
を求め、その後、上記の(4),(5)式に従って速度
【0051】
【数21】
【0052】
を算出することが知られている(特許文献1参照)。
【0053】
(6)式を採用すると、(3)式を採用する場合と比べ、血流速度の検出精度が上げられる。
【0054】
しかしながら、この(6)式を採用したとしても、計算量はまだまだ膨大であり、複素自己相関法を採用したときのようなリアルタイム性は望めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特開2001−286472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0056】
本発明は、上記事情に鑑み、計算量が少なく、かつ速い速度まで算出が可能な演算法を採用した超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0057】
上記目的を達成する本発明の超音波診断装置は、
被検体内への超音波ビームの送波と該被検体内で反射して戻ってきた超音波の受波とを担うプローブと、
複数のパルス信号をプローブに送信してプローブに超音波ビームを送波させる送信部と、
プローブでの超音波の受波を捉えて超音波ビームを表わすRF信号としての受信信号を生成する受信部と、
受信部で生成された受信信号の互いに隣接する2つのゼロクロス点に挟まれた半波形の代表振幅値および代表時刻を各半波形ごとに算出することにより、半波形ごとの代表振幅値
【0058】
【数22】
【0059】
および代表時刻
【0060】
【数23】
【0061】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、iは、そのm番目の受信信号中 のi番目の半波形であることを表わす。
からなる圧縮データを生成する圧縮部と、その圧縮部で生成された圧縮データを構成する代表振幅値
【0062】
【数24】
【0063】
を対応する代表時刻
【0064】
【数25】
【0065】
に並べたときの、波形どうしが近似している領域のずれ量に基づいて、被検体構成要素の動きを算出する算出部とを有する演算部と、
演算部で得られた被検体構成要素の動きを表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
【0066】
本発明の超音波診断装置では、半波形ごとの代表振幅値
【0067】
【数26】
【0068】
と代表時刻
【0069】
【数27】
【0070】
が算出され、これによりデータ量が大幅に圧縮される。そのデータ量が大幅に圧縮されたデータを使って被検体構成要素の動きを算出することにより、時間領域で演算を行なう従来の演算法と比べ、遥かに少ない計算量で済む。また、時間領域で演算を行なうことにより、複素自己相関法のような算出可能速度の制限を受けずに済み、速い速度まで算出可能である。
【0071】
ここで、本発明の超音波診断装置において、上記受信部が、所定のサンプリングレートでのサンプリングにより得られたデータ列としてのRF信号からなる受信信号を生成するものであって、
上記圧縮部が、受信信号を、
【0072】
【数28】
【0073】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、nは、そのm番目の受信信号中
のn番目のサンプリングデータであることを表わす。
としたとき、半波形ごとの代表振幅値
【0074】
【数29】
【0075】
および半波形ごとの代表時刻
【0076】
【数30】
【0077】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、iは、そのm番目の受信信号中のi番目の半波形であることを表わす。
を、式
【0078】
【数31】
【0079】
【数32】
【0080】
但し、
【0081】
【数33】
【0082】
は、半波形の、それぞれ開始点、終了点を表わし、
【0083】
【数34】
【0084】
は、受信信号のサンプリング周期を表わす。
に従って算出するものであることが好ましい。
【0085】
(7)式に基づく代表振幅値および(8)式に基づく代表時刻を採用すると、後述するように、このような代表振幅値および代表時刻を算出することなく元の受信信号をそのまま使って速度を算出した場合とほぼ同程度の精度で速度が算出される。
【0086】
また、本発明の超音波診断装置において、上記算出部が、
【0087】
【数35】
【0088】
但し、iは観測点、
Lは奇数であって、
【0089】
【数36】
【0090】
は、波形のセグメントの範囲、
【0091】
【数37】
【0092】
は、サーチ範囲、
【0093】
【数38】
【0094】
は、サーチ範囲内での最小誤差を表わす。
に従って、最小誤差
【0095】
【数39】
【0096】
を満たす
【0097】
【数40】
【0098】
を求め、
【0099】
【数41】
【0100】
に従って時間シフト
【0101】
【数42】
【0102】
を求め、
【0103】
【数43】
【0104】
但し、
【0105】
【数44】
【0106】
は音速、
【0107】
【数45】
【0108】
は送受信の繰返し周期を表わす。
に従って、被検体構成要素の動きの速度
【0109】
【数46】
【0110】
を算出するものであることが好ましい。
【0111】
(9)式は、代表振幅値および代表時刻を採用している点を除き、演算法自体は前述の(6)式と同じである。(6)式の最小自乗法を採用すると、(3)式の相互相関法を採用した場合と比べ、信号振幅の強さに依存せず、血流速度等、被検体構成要素の動きの速度の検出精度が高くなる。そこで、代表振幅値および代表時刻をこの(6)式の演算法にあてはめた(9)式を採用すると、代表振幅値および代表時刻を(3)式にあてはめるよりも計算量が少なくて済み、さらなる高速演算が可能となる。
【0112】
ここで、本発明の超音波診断装置において、上記演算部が、被検体構成要素としての血流速度を求めるものであることが好ましい。
【0113】
超音波診断装置では、血流速度が1つの大きな診断材料であり、上記の演算法を血流速度の算出に採用することが好ましい。
【発明の効果】
【0114】
以上の本発明によれば、計算量が少なく、かつ速い速度まで算出が可能な演算法を採用した超音波診断装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0115】
図1】本実施形態の超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。
図2】複数回(ここではM回)の超音波ビームを送波するときに送信部で生成されるパルス信号送受信間隔の模式図である。
図3】受信信号(A)とその受信信号から算出された代表振幅値および代表時刻(B)を示した図である。
図4】受信信号からの代表振幅値および代表時刻の算出方法の説明図である。
図5】(10)式に従う演算の説明図である。
図6】シミレーション結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0116】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0117】
図1は、本実施形態の超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。
【0118】
この超音波診断装置1には、プローブ10と、送信部11と、受信部12と、制御部13が設けられている。
【0119】
プローブ10には、多数の超音波振動子が配列された超音波探触子(不図示)が備えられている。その超音波探触子が、被検体としての人体の体表に宛がわれる。
【0120】
送信部11はパルス信号を生成し、プローブ10の超音波探触子を構成する多数の超音波振動子それぞれに向けてパルス信号を送信する。このパルス信号は、1つのパルス信号につき、中心周波数fであって長さが複数波長のバースト波信号である。この生成されたバースト波信号は、人体内の超音波ビームの延びる向き、およびその超音波ビームの焦点の深さに応じて定められる遅延パターンに従ってそれぞれ遅延されて、各超音波振動子に印加される。すると、それら多数の超音波振動子それぞれから超音波が送波され、それらの超音波の干渉作用により、所望の向きに延び、かつ所望の深さ位置に焦点を持つ超音波ビームが人体内に送り込まれる。人体内に送り込まれた超音波ビームは、その超音波ビームが人体内の浅い位置から深い位置へと進むに従って人体内の各深さ位置で反射されて超音波探触子に戻り、多数の超音波振動子のそれぞれで受波される。したがってこの受波により得られる信号は、時間軸が超音波探触子からの人体内の深さに対応している。
【0121】
受信部12では、それら多数の超音波振動子での受波により、各超音波振動子で得られた信号を、これも人体内において超音波ビームの延びる向きや焦点の深さ等に応じた遅延パターンに従ってそれぞれ遅延させて互いに加算する。こうすることにより、人体内を所望の向きに延びる超音波ビームを表わす、RF(Radio Frequency)信号としての受信信号が生成される。この受信部12で生成された受信信号は、Bモード処理部14とMTIフィルタ15に入力される。
【0122】
制御部13は、送信部11からのバースト波信号の送信タイミングや、受信部12での受信タイミングを制御する。また制御部13は、この他にも、この超音波診断装置1の動作全体の制御を担っている。
【0123】
表示部19にBモード像、すなわち人体内の超音波反射率分布に基づく画像を表示するときは、送信部11では、プローブ10から人体内に向けて、人体内の観察領域内において順次に向きの異なる超音波ビームが送波されるように、順次異なる遅延パターンに基づいて遅延させたバースト波信号がプローブ10に送信される。受信部12でも同様に、その超音波ビームが送波された向きの超音波ビームが生成されるように遅延加算される。
【0124】
受信部12でこのようにして得られた受信信号は、Bモード処理部14に入力されてBモード用の画像処理が施され、座標変換部17に入力される。
【0125】
受信部12で得られる受信信号は、各超音波ビームに沿う深さ方向を時間軸とする信号である。これに対して、表示部19では、ラスタスキャンの向きに並ぶピクセルデータからなる画像信号に基づいて画像が表示される。そこで、座標変換部17では、Bモード処理部14から入力されてきた信号が表示部19での表示に適したピクセルデータの配列からなる信号に変換される。
【0126】
この座標変換部17から出力された信号は画像合成部18に入力される。この画像合成部18では、Bモード像と人体内の血流を表わすカラードプラ画像を合成する。人体内の血流を表わすカラードプラ画像は、通常は、Bモード像に重ねて表示される。カラードプラ画像を表示することなく、Bモード像のみ表示することもある。
【0127】
この画像合成部18で合成された画像は表示部19に入力され、図示しない表示画面上に画像が表示され、診断に供される。
【0128】
また、人体内の血流を表わすカラードプラ画像を表示させるときは、上記のBモード像の生成に加えて以下の処理が行われる。
【0129】
プローブ10からは人体内の同一の向きに延びる超音波ビームが複数回(例えば8回)送波され、かつプローブ10で受波されるように、送信部11によるバースト波信号の遅延、受信部12での遅延加算が行われる。
【0130】
この人体内の同一の向きへの送受信が、観察領域内に延びる超音波ビームの各向きそれぞれについて行われる。
【0131】
このようにして得られた受信信号はMTIフィルタ15に入力される。MTIフィルタ15はハイパスフィルタの一種であり、ここでは血流のドプラ遷移に起因する成分が通過され、臓器等の動きに起因する成分がカットされる。
【0132】
MTIフィルタ15を通過した受信信号は、カラードプラ処理部16に入力される。このカラードプラ処理部16では入力されてきた受信信号に基づいて、後述する演算により血流速度等が算出される。この血流速度等は、超音波ビーム上の各点ごとに行われる。超音波ビームは観察領域内で順次向きを変えるため、観察領域内の2次元的な各点について血流速度等が算出される。この算出された血流速度等を表わすデータは座標変換部17に入力されて座標変換を受け、画像合成部18においてBモード像に重ねられる。そして表示部19でBモード像に重ねられた血流分布が表示される。この血流分布は、通常は、プローブ10の、体表に宛てがわれている超音波探触子に向かう向きの血流が赤、遠ざかる向きの血流が青で表示される。さらに血流の速度が、赤あるいは青の色の輝度で表示される。このようにして、観察領域内の血流分布が表示されて診断に供される。
【0133】
以下、このカラードプラ処理部16での処理を詳述する。
【0134】
図2は、複数回(ここではM回)の超音波ビームを送波するときに送信部で生成されるパルス信号送受信間隔の模式図である。
【0135】
ここでは、バースト波信号1,2,…,M−1,MからなるM個のパルス信号が示されている。この図では、パルス信号が単純化されて示されているが、パルス信号1つずつが、中心周波数fであって長さが複数波長のバースト波信号である。ここでは、パルス信号の繰返し周期をT、繰返し周波数をPRFと称する。T=1/PRFの関係にある。
【0136】
送信部11でこの図2に模式的に示すバースト波信号がプローブ10に同一の遅延パターンで送信されたときの受信部12でのRF(Radio Frequency)としての受信信号が、所定のサンプリングレート(例えばサンプリング周波数24MHz)でサンプリングされ、MTIフィルタ15でクラッタ成分除去用のフィルタリング処理がなされて、カラードプラ処理部16に入力される。ここでは、カラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号を、
【0137】
【数47】
【0138】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、nは、そのm番目の受信信号中
のn番目のサンプリングデータであることを表わす。
とする。
【0139】
図3は、受信信号(A)とその受信信号から算出された代表振幅値および代表時刻(B)を示した図である。
【0140】
図1に示すカラードプラ処理部16では、入力されてきた受信信号
【0141】
【数48】
【0142】
に基づいて、その受信信号の互いに隣接する2つのゼロクロス点に挟まれた半波形の代表振幅値および代表時刻を各半波形ごとに算出することにより、半波形ごとの代表振幅値
【0143】
【数49】
【0144】
および代表時刻
【0145】
【数50】
【0146】
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、iは、そのm番目の受信信号中 のi番目の半波形であることを表わす。
が算出される。この算出にあたっては、本実施形態では、式
【0147】
【数51】
【0148】
【数52】
【0149】
但し、
【0150】
【数53】
【0151】
は、半波形の、それぞれ開始点、終了点を表わし、
【0152】
【数54】
【0153】
は、受信信号のサンプリング周期を表わす。
が採用されており、これら(7),(8)式に従って算出される。
【0154】
図4は、受信信号からの代表振幅値および代表時刻の算出方法の説明図である。
【0155】
ここでは、図4(A)に実線で示した半波形についての代表振幅値および代表時刻を例に挙げて説明する。
【0156】
ここで、半波形は、2つのゼロクロス点、すなわち、図4(A)の例では、n=nsの開始点からn=neの終了点に挟まれた部分の波形をいう。図4(A)にサンプリング周期
【0157】
【数55】
【0158】
間隔の縦線の長さが、サンプリングデータ
【0159】
【数56】
【0160】
である。
【0161】
ここでは、(8)式に従って、そのサンプリングデータ
【0162】
【数57】
【0163】
を開始点n=nsから終了点n=neまで加算し、その加算値をこの半波形iの代表振幅値
【0164】
【数58】
【0165】
とする。
【0166】
また、(8)式に従う、サンプリングデータ
【0167】
【数59】
【0168】
によって重み付けられた時刻をこの半波形iを代表する代表時刻
【0169】
【数60】
【0170】
とする。
【0171】
すなわち、この演算法により、この半波形iのデータは、図4(B)に示すように、代表時刻
【0172】
【数61】
【0173】
における代表振幅値
【0174】
【数62】
【0175】
というデータに圧縮される。
【0176】
図3(B)は、図3(A)に示す受信信号の各半波形について上記の演算を行い、各代表振幅値を対応する各代表時刻に配置したデータ列をあらわしている。
【0177】
図1のカラードプラ処理部16では、受信信号(図3(A))から代表振幅値および代表時刻からなる圧縮データ(図3(B))を算出した後、次に、その算出された圧縮データを構成する代表振幅値
【0178】
【数63】
【0179】
を対応する代表時刻
【0180】
【数64】
【0181】
に並べたときの、波形どうしが近似している領域のずれ量に基づいて、人体内の血流速度が算出される。
【0182】
この血流速度の算出にあたり、本実施形態のカラードプラ処理部16では、先ず、m番目とm+1番目の受信信号の代表振幅値
【0183】
【数65】
【0184】
を使い、
【0185】
【数66】
【0186】
但し、iは観測点、
Lは奇数であって、
【0187】
【数67】
【0188】
は、波形のセグメントの範囲、
【0189】
【数68】
【0190】
は、サーチ範囲、
【0191】
【数69】
【0192】
は、サーチ範囲内での最小誤差を表わす。
に従って、最小誤差
【0193】
【数70】
【0194】
を満たす
【0195】
【数71】
【0196】
を求める。さらに、
【0197】
【数72】
【0198】
に従って時間シフト
【0199】
【数73】
【0200】
を求める。そして、
【0201】
【数74】
【0202】
但し、
【0203】
【数75】
【0204】
は音速、
【0205】
【数76】
【0206】
は送受信の繰り返し周期を表わす。
に従って、血流の速度
【0207】
【数77】
【0208】
を算出する。
【0209】
図5は、(10)式に従う演算の説明図である。
【0210】
図5(A),(B)は、それぞれ、m番目、m+1番目の受信信号の代表振幅値をそれに対応する代表時刻に並べた波形を示した図である。
【0211】
ここでは、図5(A)に示すデータ列の、枠a内の波形と近似した波形を図5(B)に示すデータ列の中から探索する。この枠a中の波形(データ列)は、近似した波形を探索するためのデータ列のセグメントであり、ここでは、
【0212】
【数78】
【0213】
の幅の枠aが設定されている。この枠aの幅は、この中に代表振幅値が3又は5程度含まれる幅である。
【0214】
図5(B)に示すデータ列においても、枠aと同じ幅の枠bが設定される。
【0215】
そして、(10)式に従い、枠a内のセグメントと枠b内のセグメントの一致の程度が算出される。
【0216】
誤差
【0217】
【数79】
【0218】
が小さいほど一致していることを意味している。上記の枠bを、サーチ範囲
【0219】
【数80】
【0220】
の中で順次移動させて移動した各位置において、誤差
【0221】
【数81】
【0222】
が算出され、それらの中の最小誤差
【0223】
【数82】
【0224】
が得られる位置
【0225】
【数83】
【0226】
が検出される。このようにして、
【0227】
【数84】
【0228】
が検出されると、次に上記の(11)式に従って、時間シフト
【0229】
【数85】
【0230】
が算出され、(12)式に従って血流速度
【0231】
【数86】
【0232】
が算出される。
【0233】
図6は、シミレーション結果を示した図である。
【0234】
図6(A)は、カラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号
【0235】
【数87】
【0236】
をそのまま使い、(6)式に示す最小自乗法で計算したときの血流速度を示している。
【0237】
また図6(B)は、カラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号
【0238】
【数88】
【0239】
から(7)式,(8)式に従って半波形ごとの代表振幅値と代表時刻を算出し、(9)式に示す最小自乗法で計算したときの血流速度を示している。
【0240】
また、図6(A),(B)とも、左側の図(a)は一定の流速についてのシミュレーション結果、右側の図(b)は、血管壁付近の流れ速度が遅く、血管中心の速度が速い層流の場合のシミュレーション結果を示している。
【0241】
ここでは、送信周波数f=2MHz、サンプリング周波数Fs=24MHzを採用している。
【0242】
図6(A)と図6(B)を比較すると、血流速度の分布と算出精度(縦軸)は、ほぼ同じである。更に、圧縮された代表時刻の間の血流速度を検出する必要がある場合、その代表時刻の隣接の二つの速度値の線形補間により高速に求めることが可能である。
【0243】
一方、(6)式、(10)式に従って算出される差の自乗和を求める計算量は、1回の計算(図5に示した枠aと枠bとの間での計算)につき、ほぼ1/6となり、また、サーチ範囲内で枠bを動かしながら行なう計算の回数も1/6となる。
【0244】
尚、本実施形態では、半波形ごとの代表振幅値および代表時刻を、(7)式、(8)式に従って算出する例を示したが、代表振幅値および代表時刻は、(7)式、(8)式に限定されるものではない。例えば半波形ごとのサンプリングデータのピークの値を代表振幅値とし、そのピークのサンプリングデータのサンプリング時刻を代表時刻としてもよい。
【0245】
また、本実施形態では、(10)式に従う最小自乗和の演算に従って時間シフト((11)式参照)を求めているが、本発明は、代表振幅値および代表軸を求めることによってデータ量を圧縮することを旨とするものであり、時間シフトを求めるにあたり、必ずしも(10)式に従う最小自乗和の演算を採用する必要はなく、時間シフトを求めるための様々な演算法を採用することができる。
【0246】
さらに、本実施形態では、血流速度を算出することを念頭に置いて説明したが、例えば臓器の動き速度等、血流以外の被検体構成要素の動きの算出のために、上記の演算を採用してもよい。
【符号の説明】
【0247】
1 超音波診断装置
10 プローブ
11 送信部
12 受信部
13 制御部
14 Bモード処理部
15 MTIフィルタ
16 カラードプラ処理部
17 座標変換部
18 画像合成部
19 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6