特許第6165051号(P6165051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165051
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】燃料電池用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0202 20160101AFI20170710BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170710BHJP
【FI】
   H01M8/02 Y
   H01M8/12
   H01M8/02 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-267678(P2013-267678)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-125823(P2015-125823A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 禎
(72)【発明者】
【氏名】野中 英正
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/083627(WO,A1)
【文献】 特開2008−004492(JP,A)
【文献】 特開2006−100202(JP,A)
【文献】 特開2012−212651(JP,A)
【文献】 特開2014−209452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0202
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池に用いられる金属基材の表面の一部分に保護膜を形成してある燃料電池用部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co−Mn系スピネル酸化物を主成分とする金属酸化物被膜であり、
金属基材の表面の一部分に保護膜材料を湿式成膜する成膜工程、
前記金属基材が空気酸化されず、成膜された前記保護膜材料中の可燃性成分が焼失される焼成温度域において、前記成膜工程で成膜された前記金属基材を大気中で加熱焼成する焼成工程、
前記焼成工程で加熱焼成された保護膜材料が焼結される焼結温度域において、前記焼成工程で加熱焼成された前記金属基材を不活性ガス雰囲気下あるいは真空雰囲気下で焼結する焼結工程、
を順に行う燃料電池用部材の製造方法。
【請求項2】
前記金属基材が、フェライト系ステンレス鋼製である請求項1に記載の燃料電池用部材の製造方法。
【請求項3】
前記焼成温度域が250℃〜500℃である請求項1または2に記載の燃料電池用部材の製造方法。
【請求項4】
前記焼結温度域が、950℃〜1100℃である請求項1〜のいずれか一項に記載の燃料電池用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に用いられる金属基材の表面の一部分に保護膜を形成してある燃料電池用部材の製造方法に関する。このような燃料電池用部材は、主に固体酸化物型燃料電池(以下、適宜「SOFC」と記載する。)のセルとして一般的に用いられるものである。なお、本発明は前記保護膜に空気極を接合形成する燃料電池セル自体に限らず、部分的に保護膜を形成してある金属基材に広く適用でき、これらを総称して、燃料電池用部材と呼ぶものである。
【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他の部分側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子伝導性の金属基材(セル間接続部材)により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルは、例えば700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。
【0003】
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の燃料電池の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、金属基材が使用できるようになってきた。金属基材の使用により、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
また、SOFC用セルで利用される金属基材の表面に、単一系酸化物に不純物をドープしてなるn型半導体保護膜を形成し、このような保護膜形成処理を行うことによって、合金中に含まれるCrが飛散し易い6価の酸化物へと酸化されることを抑制することが行われる場合がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2007/083627号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このようなSOFC用セルで利用される金属基材の表面に、保護膜を形成する場合、上記実情からCr飛散の影響を受ける空気極側に導電性の保護膜を形成する必要があるが、燃料極側には、導電性等の観点から保護膜を形成しない構成を採用する場合がある。ところが、金属基材の表面の一部分に保護膜を形成する際に、その保護膜の成型時に焼結工程を経ると、前記金属基材の他の部分は、焼結工程時に高温の焼結温度に晒されるため、酸化を受けて、酸化被膜が形成されてしまう場合がある。このような酸化被膜が形成されると、酸化被膜が高抵抗であるため、前記金属基材の他の部分における抵抗が大きくなり、SOFCとしての発電出力が大きく低下するという問題がある。
【0007】
そこで、このような前記金属基材の酸化を抑制するために、前記保護膜の焼結を還元雰囲気下で行うことが考えられる。しかし、このような還元雰囲気で保護膜の焼結を行うと、前記金属基材の酸化を抑制した状態で保護膜を焼結できるものの、その保護膜の成分まで、還元を受けて結晶構造が破壊され、その後の酸化雰囲気でのアニーリングによっても元通りの結晶構造に戻らずに期待されているような保護膜の性能が損なわれることが分かった。なお、保護膜の成分としては、スピネル結晶構造を含む金属酸化物が使われることが多い。
【0008】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、金属基材の表面の一部分に保護膜を形成するに際して、その保護膜を確実に焼結することができ、しかも、他の部分に酸化被膜を生じない燃料電池用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔構成1〕
上記実情に鑑み本発明の燃料電池用部材の製造方法の特徴構成は、
SOFCに用いられる金属基材の表面の一部分に保護膜を形成してある燃料電池用部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co−Mn系スピネル酸化物を主成分とする金属酸化物被膜であり、
金属基材の表面の一部分に保護膜材料を湿式成膜する成膜工程、
前記金属基材が空気酸化されず、成膜された前記保護膜材料中の可燃性成分が焼失される焼成温度域において、前記成膜工程で成膜された前記金属基材を大気中で加熱焼成する焼成工程、
焼成工程で加熱焼成された保護膜材料が焼結される焼結温度域において、前記焼成工程で加熱焼成された前記金属基材を不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気で焼結する焼結工程、
を順に行う点にある。
【0010】
〔作用効果1〕
たとえば、SOFCに用いられる金属基材の一方面に保護膜を形成するとともに、前記保護膜に空気極を接合形成してある平板型燃料電池セルは、スタック構造の燃料電池セルを構成する際に、金属基材の一方面に保護膜を形成して、SOFCの運転に伴い前記金属基材が加熱されても、前記金属基材から揮発、飛散する成分が前記空気極に悪影響を与えないように保護膜を介在させた状態で、空気極、固体電解質、燃料極の積層構造を形成することができる。また、前記金属基材の他の部分に上記積層された燃料極を接続して積層することによって、燃料極と金属基材とを直接導電する形態で接続することができる。また、SOFCに用いられる金属基材には、他にも部分的に保護膜を形成する部材があり、本発明は、金属基材の形状によらず、また、上記前記保護膜に空気極を接合形成してある燃料電池セルに限らず、いわゆる燃料と空気を隔てるセパレータとしての役割を果たすために使われる部材、すなわち片側が燃料雰囲気、反対側が空気雰囲気で使われる部材等、金属基材の一部分に保護膜を形成してなる燃料電池用部材一般にも適用できる。
【0011】
金属基材の表面の一部分に保護膜材料を湿式成膜する成膜工程を行うと、金属基材の表面の一部分に保護膜を形成するための被膜を形成することができる。また、続いて、前記金属基材が空気酸化されず、成膜された前記保護膜材料中の可燃性成分が焼失される焼成温度域において、前記成膜工程で成膜された前記金属基材を大気中で加熱焼成する焼成工程を行うと、湿式成膜を行った際に被膜中に含まれるバインダ等の可燃性成分が消失して焼成被膜を形成することができる。得られた焼成被膜は、焼結することにより、緻密な被膜となり保護膜として機能する。
このとき、前記焼成被膜を焼結して保護膜を形成するにあたって、金属基材全体を酸化雰囲気に晒すと、前記金属基材の他の部分が酸化を受け、酸化クロム等の高抵抗の被膜を形成することになるから、たとえば、前記金属基材と燃料極との接合構造が高抵抗になり、SOFCとして高出力が得られにくくなる。これに対して、還元雰囲気に晒すと、金属基材の他の部分は酸化を受けないが、保護膜自体も還元作用を受け、変質してしまい、本来の保護膜としての機能を損なうことが、本発明者らの研究により明らかになった。
そこで、加熱焼成された保護膜材料が焼結される焼結温度域において、前記焼成工程で加熱焼成された前記金属基材をたとえば、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気で焼結すると、前記金属基材と前記焼成被膜は、ともに不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気にあるから、低酸素雰囲気に維持されることになるため、還元雰囲気とはならず、焼成被膜を変質させずに焼結することができるとともに、金属基材を酸化させない環境とすることができることが実験的に明らかとなり、本発明を完成させるに至った。
前記保護膜としては、Co−Mn系スピネル酸化物が、緻密であり、Cr成分の飛散抑制に特に有効であることが知られている。そのため、本発明の燃料電池用部材の製造方法を適用することにより、金属基材の酸化を抑制しかつ保護膜の変質を抑制することができ、金属基材からのCr飛散防止をより一層抑制することができるようになるので、高性能のSOFCセルを提供するうえで有利である。
【0012】
〔構成2〕
尚、前記金属基材が、フェライト系ステンレス鋼製とすることができる。
【0013】
〔作用効果2〕
金属基材としては、耐熱性が高くSOFCの運転環境に耐える材料が好適と考えられ、オーステナイト系、フェライト系等のステンレス鋼や、インコネル等のNi基合金が好ましく、中でもフェライト系ステンレス鋼はSOFCの他の構成部材との熱膨張率の整合性や耐熱性に優れる。ただし、フェライト系ステンレス鋼は、Cr成分を含んでおり、このCr成分の飛散を防止するために保護膜を形成して空気極を接合することが好ましいので、本発明の燃料電池用部材の製造方法を適用することにより、金属基材の酸化を抑制しかつ保護膜の変質を抑制することができ、特にフェライト系ステンレス鋼製金属基材の利用機会を増やすことにつながり、高性能のSOFCセルを安価に提供するうえで有利である。
【0016】
〔構成
また、前記焼成温度域が250℃〜500℃とすることができる。
【0017】
〔作用効果
前記焼成温度は、金属基材や、保護膜の組成によって異なるが、概して250℃以上であれば、湿式成膜で用いられるバインダ等の可燃性成分を焼失させることができる。また、500℃以下であれば、比較的酸化を受けやすい金属基材であっても、一部分に形成した被膜の焼成を行う間に、他の部分に酸化被膜が形成されるのを抑制することができる。
【0018】
〔構成
また、前記焼結温度域が、950℃〜1100℃とすることができる。
【0019】
前記焼結温度は保護膜材料の粒子同士を十分に焼結一体化させるために、950℃以上とすることが好ましい。一方、あまり高温になると、金属基材の劣化や、保護膜材料が金属基材から剥離しやすくなるなどの問題が生じやすくなることから1100℃以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
このように、金属基材の表面の一部分に保護膜を形成するに際して、その保護膜を確実に焼結することができ、しかも、他の部分に酸化被膜を生じない燃料電池用部材の製造方法を提供できるようになり、高性能なSOFCセル製造に寄与することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】固体酸化物形燃料電池の概略図
図2】固体酸化物形燃料電池のセル間接続部材の使用形態を示す図
図3】保護膜を形成したセル間接続部材試験片の断面図
図4】焼結条件の相違による保護膜の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の燃料電池用部材の製造方法を説明し、保護膜の製造方法およびその試験例を示す。なお、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0023】
<固体酸化物形燃料電池>
本発明にかかるSOFC用セル間接続部材およびその製造方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン伝導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオンおよび電子伝導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子伝導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子伝導性の合金からなる金属基材としてのセル間接続部材1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とセル間接続部材1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とセル間接続部材1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。セル間接続部材1はインターコネクタとセルC間を電気的に接続する部材が接続された構成となることもある。
【0024】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO3(例えばM=Mn,F
e,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材
料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0025】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル間接続部材1の材料としては、電子伝導性および耐熱性の優れた材料であるフェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金や、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金または酸化物が利用されている。
【0026】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル間接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル間接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、かかる積層構造のセルスタックでは、上記セル間接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0027】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すよう
に、空気極31に対して隣接するセル間接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル間接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO2が電子e-と反応してO2-が生成され、そのO2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH2がそのO2-と反応してH2Oとe-とが生成されることで、一対のセル間接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0028】
<セル間接続部材>
前記セル間接続部材1は、図1図3に示すように、例えば、フェライト系ステンレス合金製のセル間接続部材用の金属基材11(以下単に基材と呼ぶ)の表面に保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各単セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。
【0029】
なお、セル間接続部材1の基材11としては、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などが用いられることもある。
【0030】
<成膜工程>
前記保護膜12は、導電性セラミックス材料を含有する塗膜形成用材料を、前記基材11に湿式成膜によりコーティング(例えばディップコーティング)することにより保護膜12を厚膜として形成してある。前記厚膜の膜厚としては、0.1μm〜100μmが好適である。湿式成膜法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法等が例示できる。
【0031】
例えば、電着塗装法を適用すれば、下記のような手法で保護膜を形成することができる。
保護膜材料としての金属酸化物微粒子を電着液1リットル当り150gになるように分散し、ポリアクリル酸等のアニオン型樹脂とを含有している混合液を用いて金属基材の一方面に電着塗装を行った。ここでは、(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(2:1)(質量比)とした。
前記混合液を用い、基材11をプラス、対極としてSUS304の極板にマイナスの極
性として通電を行うことによって、基材11表面(一方面)に未硬化の被膜が形成される。
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、前記混合液を満たした通電槽中に基材11を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、通電することにより実施される。
電着塗装条件も特に制限されず、基材11である金属の種類、前記混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られるセル間接続部材1の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(前記混合液温度)10〜40℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、前記混合液の液温10〜40℃とすればよい。
なお、電着電圧、電着時間を変更することにより被膜の膜厚をコントロールできる。また、基材に対して、種々前処理を行うこともできる。
【0032】
<焼成工程>
この未硬化の被膜が形成された基材11は、予備乾燥により大まかな水分を除去した後、焼成工程に供される。焼成工程では、前記平板状金属基材が空気酸化されず、成膜された前記保護膜材料中の可燃性成分が焼失される焼成温度域において、前記成膜工程で成膜された前記金属基材を大気中で加熱焼成する。具体的には、たとえば、500℃において1〜2時間焼成することができる。
これにより、基材11表面に硬化した被膜が形成される。またこの状態では、基材裏面(他の部分)は金属が露出した状態が維持されている。
【0033】
<焼結工程>
その後、加熱焼成された保護膜材料が焼結される焼結温度域において、前記焼成工程で加熱焼成された前記金属基材をアルゴン雰囲気下で焼結する。具体的には、たとえば、電気炉を用いて1000℃において2時間焼結する。その後徐冷してセル間接続部材1を得た。
【0034】
保護膜材料として用いられる前記金属酸化物の微粒子としては、コバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)または、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)からなる金属酸化物微粒子が用いられ、具体的には、Zn(Co,Mn)O4、Co1.5Mn1.54、CoMn24、MnCo24などを主成分として含有する平均粒径が0.1μm以上2μm以下のものが好適に用いられる。
【0035】
<燃料電池用部材>
前記保護膜12を形成したセル間接続部材1(燃料電池用部材)は、接合材4を用いて前記空気極31に接着接合し、燃料電池セルCとして形成される。さらに、その燃料電池セルCを順次直列に接合することによって燃料電池のセルスタックを形成する。(図1,3参照)
【0036】
〔参考例〕
セル間接続部材を種々焼結条件下で熱処理し、コートしていない他の部分の表面抵抗をテスターを用いて調べたところ、表1のようになった。具体的には、アルゴン雰囲気(Ar)、還元雰囲気(5%H2/N2)、大気中において、850℃〜1000℃で各2時間の熱処理を行い、熱処理後のセル間接続部材の表面抵抗を調べた。
【0037】
【表1】
【0038】
その結果、大気中(大気)における熱処理ではセル間接続部材裏面に高抵抗な膜が形成されているのに対して、アルゴン雰囲気(Ar)、還元雰囲気(5%H2/N2)いずれの場合であっても、各熱処理条件において高い導電性(1Ω以下の低い抵抗値)が維持されていることがわかった。
【0039】
〔実施形態1〕
上記成膜工程、焼成工程、焼結工程を経たセル間接続部材について、形成された保護膜の状態をEPMAにより調べた結果を図4(A1)に示す。また、このとき、焼結工程後のセル間接続部材裏面の表面抵抗を調べたところ、0.2Ωと、高い導電性を示した。また、このときの保護膜の成分がどのように変化しているのかを、コバルトマンガン系酸化物ピークの高さにより評価したところ、表2に示すようになった。その結果、主成分がコバルトマンガン系スピネル酸化物であることがわかり、保護膜の成分が変質することない環境での焼結工程が可能であったことが分かった。
さらに、得られた保護膜がSOFCの使用環境でどのような状態となっているかについても、上記焼結工程後、大気中48時間熱処理を行った後の保護膜についても、形成された保護膜の状態をEPMAにより調べ(図4(A2))、保護膜組成の変質をコバルトマンガン系酸化物ピークの高さから評価した。その結果、上記保護膜は、大気焼成品と同等の結晶構造を維持しており、SOFCの使用環境においても成分組成を安定に維持することが推定できる。
【0040】
〔実施形態2〕
実施形態1における焼結工程を、水素5%含有窒素を用いた還元雰囲気(5%H2/N2)において、900℃および1000℃で行い、形成された保護膜の状態をEPMAにより調べた結果を図4(B1、C1)に示す。また、上記焼結工程後、大気中48時間熱処理を行った後の保護膜についても、形成された保護膜の状態をEPMAにより調べた(図4(B2、C2))。一方、焼結工程により保護膜の成分がどのように変化しているのかを、コバルトマンガン系酸化物ピークの高さにより評価したところ、表2に示すようになった。表2中相対強度とは、大気中1000℃で2時間の焼結条件で得られた保護膜の組成を調べた時のCo−Mnスピネルのピーク高さを1としたCo−Mnスピネルのピーク高さである。また、表2中熱処理後の相対強度とは、焼結後得られた保護膜を850℃で50時間の熱処理をした後(A2については48時間)のCo−Mnスピネルのピーク高さである。その他の成分としては、CoxMny4の形態であらわされない成分のうち、明らかなピークとして確認できるものを列挙した。
【0041】
【表2】
【0042】
その結果、還元雰囲気で焼結を行うと、酸化数の低い酸化物や、金属が生成し、スピネル結晶構造を持つコバルトマンガン系酸化物がなくなってしまうが、アルゴン雰囲気で焼結を行った場合、保護膜の組成は、大気中で焼結した場合と同等の成分組成となることがわかる。なお、還元雰囲気で焼結した後、熱処理を行うと、ある程度Co−Mnスピネルのピークが回復しているが、これによっても完全に保護膜として機能しうる状態にはならず、また、大気中、アルゴン雰囲気では、熱処理後のその他成分としてCrの含まれる成分がほとんど見られなかったのに対して、還元雰囲気中では明らかなピークとして表れており、保護膜の変質の結果、高い導電率を持つCo−Mnスピネル結晶相の特長がなくなっているものと推測される。
【0043】
したがってアルゴン雰囲気下で焼結を行うと、ほぼ無酸素状態となるので、セル間接続部材の一部分に形成した塗膜を焼結させても、多方面の金属面を酸化してしまうことを抑制することができ、しかも、保護膜自体が還元作用を受け、変質してしまうのを抑制できる。そのため、高性能なSOFCセル製造に寄与することができるようになった。
【0044】
上記実施の形態では、焼結条件をアルゴン雰囲気としたが、還元雰囲気でなく、酸素分圧の低いほぼ無酸素の雰囲気下であれば同様の効果を奏することが明らかであり、真空雰囲気下であってもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、セル間接続部材を基材とした燃料電池用部材を対象としたが、いわゆる燃料と空気を隔てるセパレータとしての役割を果たすために使われる部材、すなわち片側が燃料雰囲気、反対側が空気雰囲気で使われる部材等、一部分に保護膜を形成する金属基材を用いた燃料電池用部材一般に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の燃料電池用部材の製造方法によると、高性能なSOFCセル製造に寄与することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 :セル間接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
11 :基材
12 :保護膜
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :セル(燃料電池セル)
図1
図2
図3
図4