特許第6165125号(P6165125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6165125ラケット用グリップ断面寸法調整部材及びラケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165125
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ラケット用グリップ断面寸法調整部材及びラケット
(51)【国際特許分類】
   A63B 60/14 20150101AFI20170710BHJP
   A63B 60/30 20150101ALI20170710BHJP
   A63B 49/08 20150101ALI20170710BHJP
   A63B 102/02 20150101ALN20170710BHJP
【FI】
   A63B60/14
   A63B60/30
   A63B49/08
   A63B102:02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-247204(P2014-247204)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-106842(P2016-106842A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2015年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】513026838
【氏名又は名称】小谷 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】小谷 勇
【審査官】 藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0184403(US,A1)
【文献】 米国特許第05671926(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0056308(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2103331(EP,A1)
【文献】 実開昭54−157664(JP,U)
【文献】 実開昭62−009473(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/08
A63B 60/06−60/30
A63B 69/00
A63B 69/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球面を囲むフレームと、該フレームに取りつけられた把持するための長尺角棒形状のグリップ本体の外周面にグリップテープが巻回されてなるグリップとを有するラケットに用いられるグリップ断面寸法調整部材であって、
前記グリップ本体の前記ラケットの打球面に対して直角な相対向する一対の直角面側又は打球面に対して平行な相対向する一対の平行面側の長さ方向の全長に重ね合わせて貼り付けられる該グリップ本体の全長に合わせた長さの少なくとも一枚の曲げ変形自在な長尺状の薄板であり、貼り付けられた前記一対の直角面側の前記打球面に対して平行な方向のみの又は前記一対の平行面側の前記打球面に対して直角な方向のみのグリップの断面寸法を調整できることを特徴とするラケット用グリップ断面寸法調整部材。
【請求項2】
前記グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に合わせて折り曲げられていることを特徴とする請求項1に記載のラケット用グリップ断面寸法調整部材。
【請求項3】
前記グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に近似した湾曲状に曲げられていることを特徴とする請求項1に記載のラケット用グリップ断面寸法調整部材。
【請求項4】
ナイフで容易に切削可能な材料製であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のラケット用グリップ断面寸法調整部材。
【請求項5】
打球面を囲むフレームと、該フレームに取りつけられた把持するための長尺角棒形状のグリップ本体の外周面にグリップテープが巻回されてなるグリップとを有するラケットにおいて、
前記グリップ本体の前記ラケットの打球面に対して直角な相対向する一対の直角面側又は打球面に平行な相対向する一対の平行面側の長さ方向の全長に、該グリップ本体の全長に合わせた長さの少なくとも一枚の曲げ変形自在な長尺状の薄板であるグリップ断面寸法調整部材が重ね合わせて貼り付けられており、貼り付けられた前記一対の直角面側の前記打球面に対して平行な方向のみの又は前記一対の平行面側の前記打球面に対して直角な方向のみのグリップの断面寸法を調整できるようにされていることを特徴とするラケット。
【請求項6】
前記グリップ断面寸法調整部材は、前記グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に合わせて折り曲げられていることを特徴とする請求項5に記載のラケット。
【請求項7】
前記グリップ断面寸法調整部材の断面形状が、前記グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に近似した湾曲状に曲げられていることを特徴とする請求項5に記載のラケット。
【請求項8】
前記グリップ断面寸法調整部材の材料が、ナイフで容易に切削可能なものであることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打球面を囲むフレームと、フレームに取り付けられた把持するためのグリップとを有するラケットにおけるグリップ断面の横方向寸法や縦方向寸法を調整するラケット用グリップ断面寸法調整部材、及びこれを用いたラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
テニス用のラケットは、特許文献1に示すように、打球面を囲むフレームと、把持するための長尺棒状で断面略八角形状のグリップ本体の外周面にグリップテープが巻回されてなるグリップとを有している。グリップの握り方としては、大まかにコンチネンタルグリップとイースタングリップとウエスタングリップとに分けられる。コンチネンタルグリップは、ラケットを包丁と同じように握る握り方である。イースタングリップは、ラケットを左手で持ち、右手をラケットの打球面に当ててそのまま右手をグリップまで移動させて握る握り方である。一方、ウエスタングリップは、ラケットを地面に置き、上から真直ぐにグリップを握る握り方であり、一般的には軟式テニス用のラケットの握り方とされている。硬式テニスでは、フォアハンドストローク、バックハンドストローク、ボレー、スマッシュのような打球方法があり、それぞれの打球方法に応じてグリップの握り方を変更する必要があり、握り方を変更する毎に適正な握り方をする必要がある。このため、グリップ断面の形状としては、適正な握り方であることを瞬時に認識できる形状であることが望ましい。
【0003】
硬式テニスの場合、打球の際に、ラケットの打球面を地面に対して略垂直にするのが基本とされており、これにより打球の高さが安定するといわれている。イースタングリップの場合、手の平が打球面に対して平行となるため、握りが安定しやすくかつ手の平でボールを打つ感覚に近いといわれている。そのため、硬式テニスの場合、握り位置が安定しやすいイースタングリップは、初級者や練習量の少ないアマチュアのプレーヤー向きであると言える。イースタングリップを用いる場合、グリップの断面の寸法はラケットの打球面に対して直角な相対向する一対の直角面間の寸法(横方向寸法)が、打球面に平行な相対向する一対の平行面間の寸法(縦方向寸法)に対して1.15倍以上が望ましいと考えられる。
【0004】
一方、硬式テニスの場合、ラケットの握りをイースタングリップからウエスタングリップの方向に変更することにより、打球の際に力が入りやすく、且つ球に回転をかけやすくなることが知られている。そのため、練習量の多いベテランのプレーヤーにとっては、打球の威力を高められることから、イースタングリップとウエスタングリップの中間であるセミウエスタングリップの採用が多くなってきている。練習量が多いベテランプレーヤーにとっては、握りを変更しても、長年の練習によって打球面を地面に対して垂直に保つことができるのである。セミウエスタングリップを用いる場合は、握りの変更が簡単なようにグリップの横方向寸法と縦方向寸法の比をイースタングリップの場合より小さくすることが好まれている。多くのプロのトッププレーヤーが、グリップの横方向寸法と縦方向寸法の比の小さいラケットを用いてセミウエスタングリップやウエスタングリップを採用していることから、このようなトッププレーヤーの使用するラケットに人気が集まっている。そのために、近年販売されている硬式テニス用ラケットでは、グリップの横方向寸法と縦方向寸法の比が1.13〜1.14程度に小さくなっている。
【0005】
しかし、このようにグリップの横方向寸法と縦方向寸法の比が小さいと、練習量の少ないアマチュアのプレーヤーにとっては、グリップを握った際に、打球方法に適した握り方で握れているか否かを認識し難いために、握り変えを行っている間に打球面がわずかにずれた握りとなる場合が生じる。その結果、打球面も安定しないためにボールの飛行高さを安定させることができず、ボールがネットを超えないミスやベースラインをオーバーするミスにつながり易かった。一方、セミウエスタングリップやウエスタングリップを採用しているベテランのプレーヤーの一部の人達にとっても、横方向寸法と縦方向寸法の比を1.13〜1.14から変化させた方が使い易いラケットになるとも考えられるが、好みに合ったグリップ断面寸法のラケットが販売されていないため、好みの形状から多少ずれたラケットを使用せざるを得ないという状況にある。このように、テニス技術のレベルの差や、シングルスやダブルス等の使用目的の違いや、プレースタイルの違い等々から最適なグリップ断面形状は異なるにもかかわらず、市販のラケットはグリップ断面形状が画一的なため、多くのプレーヤーの種々な要求に的確に応えることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−115392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決しようとするもので、グリップの断面寸法が画一的な市販のラケットに対して、経験年数やプレースタイル等の異なる多くのプレーヤーの要求に的確に応えることが可能なラケット用グリップ断面寸法調整部材及びラケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の構成上の特徴は、打球面を囲むフレームと、フレームに取りつけられた把持するための長尺角棒形状のグリップ本体の外周面にグリップテープが巻回されてなるグリップとを有するラケットに用いられるグリップ断面寸法調整部材であって、グリップ本体のラケットの打球面に対して直角な相対向する一対の直角面側又は打球面に対して平行な相対向する一対の平行面側の長さ方向の全長に重ね合わせて貼り付けられるグリップ本体の全長に合わせた長さの少なくとも一枚の曲げ変形自在な長尺状の薄板であり、貼り付けられた一対の直角面側の打球面に対して平行な方向のみの又は一対の平行面側の打球面に対して直角な方向のみのグリップの断面寸法を調整できることにある。なお、ラケットとしては、硬式テニス用の他、軟式テニス用、バトミントン用等がある。また、グリップ本体の直角面や平行面については、通常は平坦な面であるが、わずかに凹凸のある面についても含まれるものとする。グリップ断面寸法調整部材の重ね合わせ及び直角面や平行面への貼り付けについては、粘着剤により行われることが好ましいが、接着剤を用いることも可能である。
【0009】
上記のように構成した本発明においては、グリップ本体のラケットの打球面に対して直角な相対向する一対の直角面側にグリップ断面寸法調整部材を貼り付けることにより、打球面に平行な方向のグリップ断面の寸法(横方向寸法)を長くなるように調整することができる。例えば、硬式テニス用ラケットでは、打球面に直角な方向のグリップ断面の寸法(縦方向寸法)に対して横方向寸法が通常は長くなっているが、横方向寸法をさらに長くすることができる。そのため、イースタングリップを採用する硬式テニスの初級者等にとって、グリップの打球面に対して平行な面の寸法が長くなり、この平行面に手の平が当たるので、適正な握り方で握っていることを認識しやすく、かつ手の平でボールを打つ感覚に近くなる。その結果、本発明によれば、練習量の少ないアマチュアのプレーヤーでも、打球の際に、ラケットの打球面を地面に対して略垂直にしやすくなり、これにより打球の高さを安定させることができる。
【0010】
一方、打球面に平行な相対向する一対の平行面側にグリップ断面寸法調整部材を貼り付けることにより、打球面に直角な方向のグリップ断面の寸法(縦方向寸法)を長くなるように調整することができ、硬式テニス用ラケットでも縦方向寸法を通常とは逆に横方向寸法より長くすることもできる。その結果、硬式テニスのベテランプレーヤー達にとっては、ウエスタングリップで握り易くなる。また、硬式テニスに限らず、軟式テニス等のラケットにおいて、グリップ本体の直角面や平行面にグリップ断面寸法調整部材を適当な厚さで貼り合わせることにより、経験年数やプレースタイル等の異なる多くのプレーヤーのグリップ断面形状に対する種々の要求に的確に応えることができる。
【0011】
本発明において、グリップ断面寸法調整部材は、グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に合わせて折り曲げられていることが好ましい。グリップ本体の断面形状は通常は長方形の四隅が切欠かれた八角形状となっているが、グリップ断面寸法調整部材を予めこれに合わせて加工しておくことにより、多少堅めの材料でもグリップ本体への貼り合わせを容易に行うことが可能になる。
【0012】
本発明において、グリップ断面寸法調整部材は、グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に近似した湾曲状に曲げられていることが好ましい。これにより、グリップ断面寸法調整部材が多少堅めの材料でもグリップ本体への貼り合わせを容易に行うことが可能になると共に、湾曲状に曲げられていることにより貼り合わせ面の多少の寸法の違いにも対応が可能である。
【0013】
本発明において、グリップ断面寸法調整部材をナイフで容易に切削可能な材料製とすることが好ましい。これにより、グリップ断面寸法調整部材を貼り付ける際の多少の位置ずれや、グリップ本体との寸法のずれによるグリップ断面寸法調整部材のはみ出し等があったとき、余分な突出部分をナイフで簡単に除去することができる。
【0014】
本発明の他の特徴は、打球面を囲むフレームと、フレームに取りつけられた把持するための長尺角棒形状のグリップ本体の外周面にグリップテープが巻回されてなるグリップとを有するラケットにおいて、グリップ本体のラケットの打球面に対して直角な相対向する一対の直角面側又は打球面に平行な相対向する一対の平行面側の長さ方向の全長に、グリップ本体の全長に合わせた長さの少なくとも一枚の曲げ変形自在な長尺状の薄板であるグリップ断面寸法調整部材が重ね合わせて貼り付けられており、貼り付けられた一対の直角面側の打球面に対して平行な方向のみの又は一対の平行面側の打球面に対して直角な方向のみのグリップの断面寸法を調整できるようにされていることにある。他の特徴においては、予めグリップ本体の直角面又は平行面に一枚以上の薄板であるグリップ断面寸法調整部材が貼り付けられているため、ラケット所有者が、使用目的やプレースタイル等に合わせるように寸法調整部材の枚数を増減させることにより、簡単に所望のグリップ断面形状に調整することができる。
【0015】
他の特徴においても、グリップ断面寸法調整部材は、グリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に合わせて折り曲げられていることが好ましく、又はグリップ本体の貼り合わせ面の断面形状に近似した湾曲状に曲げられていることが好ましい。さらに、グリップ断面寸法調整部材の材料が、ナイフで容易に切削可能なものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、グリップ断面寸法が画一的な市販のラケットのグリップにグリップ断面寸法調整部材を貼り合わせることにより、グリップ断面の横方向や縦方向の寸法を簡単に調整することができるため、経験年数やプレースタイル等の異なる多くのプレーヤーの要求に的確に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1である硬式テニス用ラケットを概略的に示す一部破断正面図である。
図2】グリップテープを巻く前のラケットの一部を示す(a)正面図及び(b)平面図である。
図3】同ラケットのグリップ本体を拡大して示す正面図である。
図4】同ラケットのグリップ本体を拡大して示す図3のIV−IV線方向の部分断面図である。
図5】薄板を三枚重ね合わせたグリップ断面寸法調整部材を示す(a)平面図、(b)正面図及び(c)側面図である。
図6】グリップ断面寸法調整部材をグリップ本体に貼り付ける行程の一部を概略的に説明する説明図である。
図7】グリップ断面寸法調整部材をグリップ本体に貼り付ける行程の一部を概略的に説明する説明図である。
図8】変形例である薄板を三枚重ね合わせたグリップ断面寸法調整部材を示す(a)平面図、(b)正面図及び(c)側面図である。
図9】変形例2であるグリップ断面寸法調整部材を示す正面図である。
図10】実施例2であるグリップ断面寸法調整部材についてグリップ本体への貼り付け前(a)と貼り付け後(b)とを示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は実施例1である硬式テニス用ラケットを一部破断正面図により示し、図2はラケットの一部を正面図及び平面図により示し、図3図4はグリップ本体を正面図及び部分断面図により示したものである。硬式テニス用ラケット10(以下、ラケット10と記す。)は、長円形状のフレーム11と、グリップ16とを備えている。
【0019】
フレーム11は、エポキシ樹脂複合材料等よりなり、長円形状のヘッド部12と、その長軸方向一端側に連結されて長軸方向に延設されたシャフト部13とを設けている。シャフト部13は、ヘッド部12の長軸を挟んだ両側から延びた2本の棒状部分がグリップ16側で一体となった三角形状のいわゆるオープンスロート形態となっている。ただし、シャフト部についてはオープンスロートに限らず、一本の真直ぐな棒状のものであってもよい。フレーム11は、樹脂一体成形により形成されている。ヘッド部12には図示しないストリングが縦方向及び横方向に張り付けられており、これにより平面をなす打球面14が形成されている。
【0020】
グリップ16は、断面八角形のウレタン樹脂等よりなる真直ぐな棒状のグリップ本体17と、グリップ本体17のヘッド部12に対する反対端である後端側に装着されるエンドキャップ22と、グリップ本体17及びエンドキャップ22の外周に巻回される例えば幅25mmの帯状に形成されたポリウレタン樹脂の片面に粘着材が付着されたグリップテープ23とを備えている。グリップ本体17は、打球面14に対して平行な互いに対向する一対の平行面18と、打球面14に対して直角な互いに対向する一対の直角面19とを有しており、平行面18と直角面19の境界部分が平行面18に対して略40°〜45°の傾斜で切欠かれた傾斜面21になっている。例えば、直角面19間の寸法(横方向寸法)Lhが略33.5mm、平行面18間の寸法(縦方向寸法)Lvが29.5mmであり、両者の比Lh/Lvが1.135となっている。市販の硬式テニス用ラケットでは、比Lh/Lv=1.13〜1.14のものが主流となっている。グリップ本体17は、内端側に軸方向に凹んだ図示しない取付孔を設けており、この取付孔にシャフト部13が端部側にて嵌着されてシャフト部13に一体で固定されている。実施例1では、一対の直角面19にそれぞれ薄板状のグリップ断面寸法調整部材25(以下、寸法調整部材と記す。)が薄板25aを3枚重ね合わせて貼り付けられている。
【0021】
寸法調整部材25は、グリップ本体17の全長に合わせた長さの長方形長尺板を幅方向両側で折り曲げたものであり、図5に示すように、グリップ本体17の直角面19及びその両側の傾斜面21の形状に合わせて折り曲げられた中央部26とその両側の傾斜部27とからなる台形状に加工されている。また、寸法調整部材25の長手方向両端側は、60°程度の角度で切欠かれた傾斜部28となっている。寸法調整部材25は、ゴム弾性体、弾性体エラストマー、柔軟性を有する樹脂材料、樹脂に木屑や繊維屑等を混ぜ合わせた樹脂複合材、粘着テープ等、曲げ変形自在であり且つカッターナイフ等で容易に切削が可能な材料により成形されたものである。実施例1では、寸法調整部材25は、寸法調整のために厚さ1mm弱程度の薄板25aを粘着剤で3枚貼り合わせた形態となっているが、直角面19間の横方向寸法を調整するために貼り付けられる薄板25aの枚数が調節されるようになっている。図4に示すように、グリップ本体17の両直角面19側に寸法調整部材25が貼り付けられた状態では、直角面間の横方向寸法Lh'が略39mmに延ばされて、比Lh'/Lvが1.28と大きくなっている。比Lh'/Lvについては、プレーヤーの好みに応じて1.15以上の値になるように適宜調整される。
【0022】
つぎに、市販のラケット10のグリップ16Aに対して、寸法調整部材25を使用する方法について図6図7を用いて説明する。
まず、グリップ16A(図6(a))のグリップ本体17及びエンドキャップ22に巻回されたグリップテープ23を取り外して、グリップ本体17を露出させる(図6(b))。つぎに、グリップ本体17全長の一対の直角面19側に寸法調整部材25を配置し(図6(c))、寸法調整部材25の3枚の薄板25aの中央部を重ね合わせて直角面19に粘着剤で貼り付け、さらに薄板25aの両側をグリップ本体17の傾斜面21に重ね合わせて貼り付ける(図7(a))。その後、グリップ本体17及びエンドキャップ22に再びグリップテープ23を巻回させることにより、寸法調整部材25の取り付けが終了する(図7(b))。
【0023】
さらに、使用者はグリップ16を握って、握りの感覚を確かめ、寸法が不十分であれば上記手順を繰り返して、寸法調整部材25の薄板25aの枚数を増やしたり減らしたりすることにより、グリップ16の横方向寸法を自己に最適な寸法に調整することができる。実施例1では、薄板25aを3枚貼り合わせて寸法調節しているが、薄板25aを2枚にしたり、1枚としたりあるいは4枚以上とすることもできる。
【0024】
上記実施例1においては、グリップ本体17のラケット10の打球面14に対して直角な相対向する一対の直角面19側に寸法調整部材25を粘着剤で貼り付けることにより、図4に示すように打球面14に平行な方向のグリップ本体17の横方向寸法Lhを所望の長さLh'になるように調整することができる。そのため、特に練習量の少ない硬式テニスのアマチュアのプレーヤー等がイースタングリップでストロークを打つ際に、手の平がグリップ16の打球面14に対して平行な寸法が大きくなった平行面18に当たるため、ラケット10が適正に握られているかを認識しやすくなる。さらに、プレーヤーが手の平でボールを打つ感覚に近くなるので、より確実にボールを打つことができるようになる。また、ボレー、サービス、スマッシュの際に必要となるコンチネンタルグリップで握る際には、寸法が大きくなった平行面18に親指が平行になるように握ることによって適正なグリップとなる。以上のように、実施例1によれば、初級者や練習量の少ないアマチュアのプレーヤーでも、打球の際に適正な握り方をしやすくなり、ミスの少ないストロークやショットを行うことができる。
【0025】
また、実施例1においては、寸法調整部材25は、グリップ本体17の貼り合わせ面の断面形状に合わせて台形状に折り曲げられていることにより、多少堅めの材料でもグリップ本体17への貼り合わせを容易に行うことが可能になる。寸法調整部材25は、台形状の幅方向両端が垂直に揃えられているため、寸法調整部材25を傾斜面21側に廻り込ませて貼り付けたときにその幅方向両側において無用な凹凸の発生が抑えられる。また、寸法調整部材25がナイフで容易に切削可能な材料製であることにより、寸法調整部材25を貼り付ける際の多少の位置ずれや、グリップ本体17との寸法のずれによる寸法調整部材25のはみ出し等があったとき、余分な突出部分をナイフで簡単に除去することができる。
【0026】
つぎに、実施例1の変形例について説明する。
変形例の寸法調整部材25Aは、図8に示すように、実施例1の寸法調調整部材25と同様に幅方向が台形形状に曲げられているが、中央部26とその両側の傾斜部27との間が円弧状に曲げられた湾曲部29になっている。このように、寸法調整部材25Aを湾曲状に曲げたことにより、寸法調整部材25Aが多少堅めの材料でもグリップ本体17への貼り合わせを容易に行うことが可能になると共に、湾曲状に曲げられていることにより貼り合わせ面すなわちグリップサイズの多少の寸法の違いにも柔軟に対応が可能である。また、同一寸法の寸法調整部材25を、グリップ本体17の直角面19側に貼る場合と後述するような平行面18側に貼る場合との両方が可能になる。
【0027】
また、実施例1の寸法調整部材25の変形例2として、図9に示すように、同一形状の薄板25aを重ね合わせたものの上側の中央部26に、中央部のみで傾斜部の無い平坦な薄板25bを重ね合わせて寸法調整部材25Bとすることもできる。これにより、寸法変更面を盛り上がらせて、好みの断面形状に変更することができる。同様に、寸法調整部材25Aについても、中央部側のみへの重ね合わせも可能である。
【0028】
つぎに、実施例2について、図10を用いて説明する。
実施例2では、実施例1に代えて、グリップ本体17の打球面14に平行な相対向する一対の平行面18側に3枚の薄板31aを貼り合わせたグリップ断面寸法調整部材31を重ね合わせて貼り付けるようにしたものである。寸法調整部材31は、グリップ本体17の全長に合わせた長さの長方形長尺板を幅方向両側で折り曲げたものであり、図10に示すように、グリップ本体17の平行面18及びその両側の傾斜面21の形状に合わせて折り曲げられた中央部32とその両側の傾斜部33とからなる台形状に加工されている。寸法調整部材31は、打球面14に垂直な方向のグリップ本体17の縦方向寸法Lvを寸法Lv'と長くなるように調節するようにしたものである。
【0029】
実施例2のラケットについては、グリップ本体17の縦方向寸法Lv'が横方向寸法Lhより長い、従来のラケット(Lh>Lv)とは逆転したものとすることもできる。この場合、従来のラケットは、打球面とグリップの長寸法面が平行であるのに対して、実施例2のラケットは、打球面とグリップの長寸法面が直角となる。このようなラケットの利点は、つぎの通りである。従来のラケットをウエスタングリップで握った場合、親指と人差し指を大きく開くことになり、両指の角部とグリップ本体17の図6(a)に示す面24が当たる部分に三角柱状の隙間ができることになる。そのため、試合において重要な部分を占めるとみられるフォアハンドストロークにおいて、不安定性を生む原因になっていると考えられる。
【0030】
これに対して、実施例2で得られる縦方向寸法Lv'が横方向寸法Lhより長いラケットをウエスタングリップで握った場合、親指と人差指でできる角部とグリップの図10(b)に示すテープで覆われた中央部32表面とでできる三角柱状の隙間は小さくなり、フォアハンドストロークの安定性が増すと考えられる。以上のように、実施例2においては、寸法調整部材31を平行面18に厚さを調整しながら貼り付けることにより、従来のラケットとは打球面とグリップの長寸法面の関係が90°回転したラケットを好みに応じて作成できるという利点もある。このようなラケットは、ウエスタングリップを好むベテランプレーヤーに適していると考えられる。実施例2では、手のサイズが通常であるプレーヤーの場合、グリップ本体のサイズが通常より小さいつまり縦横方向寸法Lv,Lhが通常より小さめのラケットを選択して断面形状の変更を行うことが好ましく、これにより握りやすいグリップ断面形状が得られやすい。なお、実施例2においては、必要に応じて縦方向寸法Lv'が横方向寸法Lhより短いような調整も勿論可能である。
【0031】
以上のように、実施例1,2においては、グリップ断面寸法が画一的な市販のラケットに対して、寸法調整部材25,25A,25B,31をグリップ本体17の直角面19や平行面18に貼り合わせることにより、グリップ断面の横方向や縦方向の寸法を簡単に調整することができるため、経験年数やプレースタイル等の異なる多くのプレーヤーの要求に的確に応えることができる。
【0032】
なお、実施例1,2においては、硬式テニス用のラケットについて説明されているが、これに限らず、軟式テニス、バドミントン等のラケットにおいても、使用目的やプレースタイルがまちまちな多くのプレーヤーのグリップサイズに対する種々な要求に的確に応えられるという同様の効果が得られる。また、上記実施例1,2においては、ラケットの使用者が寸法調整部材をグリップ本体に貼り付けながら寸法調節する態様について説明したが、グリップ本体に予め所定枚数の寸法調整部材を貼り付けた状態のラケットが販売されるような商品形態も考えられる。このようなラケットについては、ラケットの使用者が、寸法調整部材を剥がしたり、重ねて貼り合わせたりすることにより、自己の要求に合わせた寸法調整を行うことができる。この場合は、グリップ本体17に巻かれたグリップテープ23を端部側で止めるテープ止め等に調整部材の名称と枚数を表示することにより、調整部材の有無や内容が明確にされる。
【0033】
上記実施例1,2においては、寸法調整部材は、グリップ本体への貼り合わせを容易にするために幅方向が台形形状や湾曲形状に曲げられているが、これに代えて単に平板状のもの、又は凹凸面とすることもできる。また、上記実施例1,2においては、グリップ本体は全体がストレートな形状であるが、これに代えてシャフト部の近傍側で徐々に細くされたような形状のものであってもよい。さらに、テニスグリップの形状、寸法、材質等についても、実施例1,2に限るものではない。その他、上記各実施例については一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…ラケット、11…フレーム、14…打球面、16…グリップ、17…グリップ本体、18…平行面、19…直角面、25,25A,25B,31…グリップ断面寸法調整部材。
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図10