【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0045】
(評価方法)
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR350(日本分光社製)を用い、KBr法にてテトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また、ポリイミドの赤外線吸収スペクトルについては、薄膜試料(約5μm厚)を作製して測定した。
【0046】
<
1H−NMRスペクトル>
フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でテトラカルボン酸二無水物および化学イミド化したポリイミド粉末の
1H−NMRスペクトルを測定した。標準物質はテトラメチルシランを使用した。
【0047】
<示差走査熱量分析(融点)>
テトラカルボン酸二無水物の融点は、示差走査熱量分析装置DSC3100(ブルカーエイエックスエス社)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
【0048】
<固有粘度>
0.5重量%のポリイミド前駆体溶液、または、ポリイミド溶液をオストワルド粘度計を用いて30℃で還元粘度を測定した。この値をもって固有粘度とみなした。
【0049】
<ポリイミド粉末の有機溶媒への溶解性試験>
ポリイミド粉末0.1gに対し、表2に記載の有機溶媒9.9g(固形分濃度1重量%)をサンプル管に入れ、試験管ミキサーを用いて5分間撹拌して溶解状態を目視で確認した。溶媒として、クロロホルム(CF)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン(DOX)、酢酸エチル、シクロペンタノン(CPN)、シクロヘキサノン(CHN)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、m−クレゾール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Tri-GL)を使用した。評価結果は、室温で溶解した場合を++、加熱により溶解し、且つ室温まで放冷後も均一性を保持していた場合を+、膨潤/一部溶解した場合を±、不溶の場合を−と表示した。
【0050】
<ポリイミドワニスの吸湿安定性評価>
ポリイミド溶液の濃度を9〜13重量%にし、この溶液2mLをガラス基板上に滴下した後、相対湿度40%の環境下で24時間静置した。24時間静置後、ポリイミド溶液が滴下直後と比較し変化がなかった状態を○、ポリイミドが析出し溶液が白化した状態を×とした。相対湿度40%の環境下で24時間後でもポリイミド溶液に変化が無ければポリイミドフィルムを製造する際の塗工性に優れていることを表す。
【0051】
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリイミドフィルムのガラス転移温度を求めた。
【0052】
<線熱膨張係数:CTE>
ポリイミドフィルムの線熱膨張係数は、ブルカーエイエックスエス社製TMA4000を用いて(サンプルサイズ 幅5mm、長さ15mm)、荷重を膜厚(μm)×0.5gとして、5℃/minで150℃まで一旦昇温(1回目の昇温)させた後、20℃まで冷却し、さらに5℃/minで昇温(2回目の昇温)させて2回目の昇温時のTMA曲線より計算した。線熱膨張係数は100〜200℃の間の平均値として求めた。
【0053】
<5%重量減少温度:Td
5>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0054】
<ポリイミド膜の透過率:T
400>
日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計(V−650)を用いて、ポリイミドフィルム(20μm厚)の200−700nmにおける光透過率を測定し、400nmの波長における光透過率を透明性の指標として用いた。また、透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)も求めた。
【0055】
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ1T)を用いて、ポリイミドフィルム面に平行な方向(n
in)と垂直な方向(膜厚方向)(n
out)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=n
in−n
out)を求めた。複屈折値が高いほど、ポリマー鎖の面内配向度が高いことを意味する。
【0056】
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分をキムワイプで完全に拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
【0057】
<誘電率:ε
opt>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ1T)を用いて、ポリイミドフィルムの平均屈折率〔n
av=(2n
in+n
out)/3〕に基づいて次式:ε
cal=1.1×n
av2によりポリイミドフィルムの誘電率(ε
opt)を算出した。
【0058】
<引張弾性率(ヤング率)、破断強度、破断伸び>
TENSILON UTM−2(エー・アンド・デイ社製)を用いて、ポリイミドフィルムの試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。また破断強度は試験片が破断したときの応力から求めた。
【0059】
<合成例1>
式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物の合成
(合成)
式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TAHMBP)は以下のように合成した。ナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド8.8493g(42.0mmol)を入れ、脱水テトラヒドロフラン(THF)30mLに室温で溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調整した(溶質濃度24.9重量%)。更に別のフラスコ中で2,2',3,3',5,5'−ヘキサメチル−ビフェニル−4,4'−ジオール(HM44BP)5.4044g(20.0mmol)を脱水THF38mLに室温で溶解し(溶質濃度14.5重量%)、これにピリジン3.9mL(48mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調整した。
氷浴中で冷却、撹拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて徐々に滴下し、その後室温で24時間撹拌した。反応終了後、白色沈澱物を濾別し、THFおよびイオン交換水で洗浄した。ピリジン塩酸塩の除去は、洗液に硝酸銀水溶液を添加し白色沈殿が見られなくなったことをもって確認した。洗浄した粗生成物を回収し、150℃で12時間真空乾燥した。得られた粗生成物は淡黄白色粉末であり、収量は6.1984g、収率は50.1%であった。
【0060】
(精製)
得られた粗生成物は、再結晶によって精製した。粗生成物5.9905gにγ−ブチロラクトン(GBL)88mLを加え150℃で加熱溶解させた後、自然に放冷して一晩静置した。析出した淡黄白色粉末を濾過回収し、180℃で12時間真空乾燥した。得られた淡黄白色粉末の収量は、3.6974gであり、再結晶収率は66.2%であった。再結晶によって精製した生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR350(日本分光社製)より、1861cm
-1および1772cm
-1に酸二無水物C=O伸縮振動吸収帯、1745cm
-1にエステル基C=O伸縮振動吸収帯を確認した。また、フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用いてプロトンNMR測定を行った結果、(DMSO−d
6,δ,ppm):1.98(s,−CH
3,6H), 2.08−2.15(m,−CH
3,12H), 6.98(brs,ArH,2H),8.33(d,J=7.9Hz,ArH,2H), 8.71−8.76(m,ArH,4H)と帰属でき、生成物はTAHMBPであることが確認された。また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ブルカーエイエックスエス社)によって融点を測定したところ、309.4℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0061】
<合成例2>
式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物の合成
(合成)
式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物(以後TA44BPと称する)は以下のように合成した。ナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド16.8457g(80.0mmol)を入れ、脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)71mLに室温で溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調整した(溶質濃度20重量%)。更に別のフラスコ中で4,4'−ビフェノール7.4483g(40.0mmol)を脱水DMF32mLに室温で溶解し(溶質濃度20重量%)、これにピリジン19.3mL(240mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調整した。氷浴中で冷却、撹拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて徐々に滴下し、その後室温で12時間撹拌した。反応終了後、黄色沈澱物を濾別し、DMFおよびイオン交換水で洗浄した。ピリジン塩酸塩の除去は、洗液に硝酸銀水溶液を添加し白色沈殿が見られなくなったことをもって確認した。洗浄した粗生成物を回収し、180℃で12時間真空乾燥した。得られた粗生成物は黄色粉末であり、収量は9.6930g、収率は38.5%であった。
【0062】
(精製)
得られた粗生成物は、再結晶によって精製した。粗生成物7.9956gにγ−ブチロラクトン(GBL)120mLを加え加熱溶解させた後、自然に放冷して12時間静置した。析出した黄色板状晶を濾過回収し、200℃で12時間真空乾燥した。得られた淡黄白色粉末の収量は、6.3165gであり、再結晶収率は79%であった。再結晶によって精製した生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR350(日本分光社製)より、1861cm
-1および1782cm
-1に酸二無水物C=O伸縮振動吸収帯、1730cm
-1にエステルC=O伸縮振動吸収帯を確認した。また、フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用いてプロトンNMR測定を行った結果、(DMSO−d
6,δ,ppm):7.52(d,ArH,4H), 7.58(d,ArH,4H), 8.51(d,ArH,2H),8.6(m,ArH,4H), 8.71−8.76(m,ArH,4H)と帰属でき、生成物はTA44BPであることが確認された。また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ブルカーエイエックスエス社)によって融点を測定したところ、326℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0063】
<合成例3>
下記式(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物の合成
(合成)
式(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TA23X−BP)は以下のように合成した。ナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド6.3207g(30.0170mmol)を入れ、脱水GBL13.0mLに室温で溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調整した。更に別のフラスコ中で2,2’,3,3’−テトラメチル−ビフェニル−4,4’−ジオール(23X−BP)2.4239g(10.0032mmol)を脱水GBL37.3mLに室温で溶解させ、これにピリジン4.85mL(59.9656mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調整した。
氷浴中で冷却、撹拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて約20分かけて滴下し、その後室温で一晩撹拌した。
反応終了後、白色沈澱物を濾別し、イオン交換水で洗浄した。ピリジン塩酸塩の除去は、洗液に硝酸銀水溶液を添加し白色沈殿が見られなくなったことをもって確認した。洗浄した粗生成物を回収し、80℃で1時間及び100℃で12時間真空乾燥した。得られた粗生成物は白色粉末であり、収量は5.6107g、収率は95.0%であった。
【0064】
(精製)
得られた粗生成物は、再結晶によって精製した。粗生成物3.6411gにGBL210mLを加え100℃で加熱溶解させた後、自然に放冷して一晩静置した。析出物を濾過回収し、160℃で12時間真空乾燥した。得られた白色粉末の収量は、2.8178gであり、再結晶収率は77.3%であった。
再結晶によって精製した生成物は、赤外吸収スペクトルを測定した結果、1780cm
−1に酸二無水物C=O伸縮振動吸収帯、1741cm
−1にエステル基C=O伸縮振動吸収帯を確認した。また、プロトンNMR測定を行った結果、(DMSO−d6,δ,ppm):2.02(s,−CH3,6H), 2.17(s,−CH3,6H),7.07−7.09(d,J=8.3Hz,ArH,2H),7.24−7.26(d,J=8.2Hz,ArH,2H),8.31−8.33(d,J=7.96Hz,ArH,2H),8.70−8.72(dd,J=7.86Hz,1.22Hz,ArH,2H),8.67(s,ArH,2H)と帰属でき、生成物はTA23X−BPであることが確認された。また、示差走査熱量分析によって融点を測定したところ、309.1℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0065】
<実施例1>
(ポリイミド前駆体の重合)
2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.9607g(3mmol)を脱水N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)11.3gに溶解した。ここに合成例1に記載のTAHMBP粉末1.8558g(3mmol)をゆっくり加え、室温で96時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度20.0重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.84dL/gであった。
【0066】
(化学イミド化反応)
得られたポリアミド酸溶液を脱水DMAcで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら2.8mL(30mmol)の無水酢酸と1.2mL(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のメタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた白色沈殿物をメタノールで十分洗浄し、160℃で12時間真空乾燥した。得られた繊維状ポリイミド粉末は2.5130gであった。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)およびNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、3.16dL/gであり、高分子量体であった。
【0067】
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
上記のポリイミド粉末を室温でシクロペンタノン(CPN)に再溶解し、11.4重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚32μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが10.7%、最大伸びが20.0%、引張弾性率が4.5GPa、破断強度は0.19GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚24μmのポリイミドフィルムで21.7ppm/K、ガラス転移温度は272℃、5%熱重量減少温度は437℃(空気中)であった。また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.80、吸水率は0.04%であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、CPNで11.4重量%に調整したポリイミド溶液の吸湿安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。また、様々な溶媒に対する溶媒溶解性も良好であり、CPN、GBL,Tri−GLのような溶解力の弱い低吸湿性溶媒にも優れた溶解性を示した。これは本発明のポリイミドの緻密な分子設計によるものである。溶解性試験結果を表2に示す。またポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを
図1に示す。
【0068】
<実施例2>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でγ−ブチロラクトン(GBL)に再溶解し、9.9重量%の溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚22μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが7.1%、最大伸びが9.0%、引張弾性率が4.4GPa、破断強度は0.18GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚23μmのポリイミドフィルムで25.1ppm/K、ガラス転移温度は274℃、5%熱重量減少温度は437℃(空気中)であった。また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.80、吸水率は0.05%であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、GBLで9.9重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。
【0069】
<実施例3>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でトリエチレングリコールジメチルエーテル(TriGL)に再溶解し、10重量%の溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、100℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚30μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが10.2%、最大伸びが25.5%、引張弾性率が4.2GPa、破断強度は0.18GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚23μmのポリイミドフィルムで25.7ppm/K、ガラス転移温度は280℃であった。また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.79、吸水率は検出限界以下(<0.01%)であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、TriGLで10重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。
【0070】
<実施例4>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でテトラヒドロフラン(THF)に再溶解し、11.5重量%の溶液を調整した。溶媒を変更した以外は、実施例1に記載した方法と同様にポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であり、線熱膨張係数は、膜厚12μmのポリイミドフィルムで22.3ppm/Kであった。尚、THFで11.5重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。
【0071】
<実施例5>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.9607g(3mmol)を脱水DMAc14.3gに溶解した。この溶液に合成例1に記載のTAHMBP粉末1.2990g(2.1mmol)と3,3',4,4'−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)粉末0.2648g(0.9mmol)をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリアミド酸を得た(固形分濃度15重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.46dL/gであった。
【0072】
(化学イミド化反応)
上記ポリアミド酸溶液を脱水DMAcで固形分濃度9.6重量%に希釈後、これを撹拌しながら2.8mL(30mmol)の無水酢酸と1.2mL(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、その後24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のメタノールに加えて析出させた。得られた繊維状白色沈殿物をメタノールで十分洗浄し、160℃で12時間真空乾燥した。
この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)およびNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、2.96dL/gであった。
【0073】
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
上記ポリイミド粉末を室温でシクロペンタノン(CPN)に再溶解し、12.5重量%の溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。
このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚25μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが11.2%、最大伸びが17.7%、引張弾性率が4.5GPa、破断強度は0.19GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚22μmのポリイミドフィルムで22.5ppm/K、ガラス転移温度は273℃、5%熱重量減少温度は449℃(空気中)であった。
また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.84、吸水率は0.05%であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、CPNで12.5重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。また、様々な溶媒に対する溶媒溶解性も良好であり、CPN、GBL,Tri−GLのような溶解力の弱い低吸湿性溶媒にも優れた溶解性を示した。通常、BPDAのような剛直な構造のモノマーを共重合成分として使用すると、その使用量が少量であっても、通常ポリイミドの溶媒溶解性の劇的な低下を招くことになるが、本発明のポリイミド共重合体は依然として優れた溶解性を維持していた。これは本発明のポリイミドの緻密な分子設計によるものである。溶解性試験結果を表2に示す。またポリイミド共重合体薄膜の赤外線吸収スペクトルを
図2に示す。
【0074】
<実施例6>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.32g(1mmol)を脱水DMAc2.12gに溶解した。ここに合成例3に記載のTA23X−BP粉末0.59g(1mmol)をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度30重量%)。
得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.18dL/gであった。
【0075】
(化学イミド化反応)
得られたポリアミド酸溶液を脱水DMAcで固形分濃度12.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら1.0g(10mmol)の無水酢酸と0.4mL(5mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のメタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた白色沈殿物をメタノールで十分洗浄し、100℃で12時間真空乾燥した。得られたポリイミド粉末は0.819gであった。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)およびNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.81dL/gであった。
【0076】
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
上記のポリイミド粉末を室温でシクロペンタノン(CPN)に再溶解し、8.0重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器により乾燥した。その後、基板ごと真空中200℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中200℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、若干のにごりがあったが、無色透明であった。このポリイミドフィルムの熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚28.6μmのポリイミドフィルムで15.5ppm/K、膜厚13.0μmのポリイミドフィルムでガラス転移温度は211℃、5%熱重量減少温度は、20.0μmのポリイミドフィルムで437℃(空気中)であった。
またポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを
図3に示す。
【0077】
<参考例1>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、11.1重量%の溶液を調整した。溶媒を変更した以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であり、線熱膨張係数は、膜厚15μmのポリイミドフィルムで27.1ppm/Kであった。尚、DMAcで11.1重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下では、溶液が白濁し、ポリイミドが析出した。これはDMAcの吸湿性が高いために、24時間相対湿度40%の環境下では、溶液が水分を吸収したことを示す。
【0078】
<参考例2>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に再溶解し、9.8重量%の溶液を調整した。溶媒を変更した以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であり、線熱膨張係数は、膜厚17μmのポリイミドフィルムで26.7ppm/Kであった。尚、NMPで9.8重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下では、溶液が白濁し、ポリイミドが析出した。これは参考例1による結果と同様にNMPの吸湿性が高いためである。
【0079】
<参考例3>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.9607g(3mmol)を脱水DMAc6.6gに溶解した。この溶液にTAHMBP粉末1.8558g(3mmol)をゆっくり加え(固形分濃度30.0重量%)、更に脱水DMAcを加えて室温で11日間撹拌した(固形分濃度20.0重量%)。得られたポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の固有粘度は、1.26dL/gであった。
【0080】
(ポリイミド前駆体フィルムの製膜とポリイミドフィルムの作製)
得られたポリアミド酸溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中200℃で0.5時間、続けて350℃で1時間かけて熱イミド化した。室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中320℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは白濁していた。
このポリイミドフィルムの線熱膨張係数は、膜厚26μmのポリイミドフィルムで66.5ppm/Kであった。このように熱イミド化反応によって作製されたポリイミドフィルムの線熱膨張係数の値は、実施例1〜4に記載の化学イミド化次いでポリイミドワニスのキャスト製膜を経て作製された同組成のポリイミドフィルムの線熱膨張係数よりもはるかに大きく、更にフィルムが白濁することから、ポリアミド酸の段階で製膜次いで熱イミド化する従来の2段階工程は、好ましくないことがわかる。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。
【0081】
<比較例1>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.9607g(3mmol)を脱水NMP10.3gに溶解した。ここに合成例2に記載のTA44BP粉末1.6033g(3mmol)をゆっくり加え、室温で5日間撹拌し、ポリアミド酸を得た(固形分濃度20.0重量%)。ポリアミド酸の固有粘度は、1.99dL/gであった。
【0082】
(化学イミド化反応)
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら2.8mL(30mmol)の無水酢酸と1.2mL(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下したところ、反応溶液がゲル化し、化学イミド化反応を完結することができなかった。これはこのポリイミドの溶媒溶解性が不十分であるためである。この結果は使用したTA44BPの中央ビフェニレン基上に置換基が全く無いことに起因しており、TAHMBP中の置換基が溶媒溶解性に対して如何に重要な役割を演じているかを表している。
【0083】
<比較例2>
(ポリイミド前駆体の熱イミド化)
比較例1で重合したポリアミド酸溶液をガラス基板上に流延し、80℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間、続けて350℃で1時間かけて熱イミド化した。室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。
このポリイミドフィルムをもう一度真空中350℃で1時間熱処理をした。得られたポリイミドフィルムは強く黄色に着色していた。
この結果は、使用したTA44BPの中央ビフェニレン基上に置換基が全く無い構造に起因しており、TAHMBP中の置換基がフィルムの着色抑制に対して如何に重要な役割を担っているかを表している。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
++:室温で可溶、+:沸点付近まで加熱して可溶、−:不溶、
±:膨潤・一部溶解、
b)数日後ゲル化、c)数週間均一な溶液
【0086】
(ポリイミド膜の全光線透過率とヘーズ値)
実施例1〜3、実施例5、実施例6及び比較例2のポリイミドフィルムについて、日本電色工業株式会社製 Haze Meter NDH 4000を用いて、JIS K 7361に準じた全光線透過率と、JIS K 7136に準じたヘーズ値をそれぞれ5回測定し平均値を求め、透明性の指標として用いた。この結果によれば、実施例1〜3及び5のポリイミドについては、全光線透過率が十分に高い値を示しており、ヘーズ値は低かった。しかしながら比較例2のポリイミドフィルムはこれらの値が劣っており、ポリイミドの合成に際して使用したTA44BPの中央ビフェニレン基上に置換基が全く無い構造に起因して着色を抑制できなかったことがわかる。
また、実施例6のポリイミドフィルムについては、全光線透過率、400nmの光透過率、cut‐off波長が比較例2のポリイミドフィルムよりも極めて優れているため、ポリイミドフィルムの透明性は明らかに実施例6の方が比較例2より優れている。なお、実施例6のポリイミドフィルムのヘーズ値は、比較例2のポリイミドフィルムの2倍の膜厚で測定したため、ヘーズ値は比較例2より若干大きくなったが、各例のフィルムの膜厚を考慮すると、実質的には実施例6のポリイミドフィルムの方がすぐれている。
【0087】
【表3】