特許第6165153号(P6165153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165153
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ポリイミド及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/16 20060101AFI20170710BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C08G73/16
   C08J5/18CFG
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-536905(P2014-536905)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013075300
(87)【国際公開番号】WO2014046180
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-205621(P2012-205621)
(32)【優先日】2012年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−62344(JP,A)
【文献】 特開2010−106225(JP,A)
【文献】 特開2004−252373(JP,A)
【文献】 特開2005−29777(JP,A)
【文献】 特開2006−206756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミド。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
【請求項2】
下記式(2)で表される構成単位を含むポリイミド。
式(2)
【請求項3】
下記式(1)で表される構成単位を70モル%以上含む請求項1に記載のポリイミド。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドと有機溶媒を含有するポリイミドワニス。
【請求項5】
該有機溶媒がエステル系溶媒、エーテル系溶媒、カーボネート系溶媒、グリコール系溶媒、フェノール系溶媒、ケトン系溶媒から少なくとも1つ選択される低吸湿性有機溶媒であり、且つ該ポリイミドの固形分濃度が5重量%以上である請求項4に記載のポリイミドワニス。
【請求項6】
下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミド成形体。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
【請求項7】
成形体がフィルムである請求項6記載のポリイミド成形体。
【請求項8】
請求項4又は5に記載のポリイミドワニスを、基板上に塗布、乾燥および基板から剥離して得られるポリイミドフィルム。
【請求項9】
ポリイミドフィルムは、膜厚が10μmの場合で、400nmにおける光透過率が45%以上、又は膜厚が20μmの場合で、全光線透過率が80%以上である請求項7又は8に記載のポリイミドフィルム。
【請求項10】
ポリイミドフィルムは、膜厚が10μmの場合で、400nmにおける光透過率が45%以上であり、かつ、膜厚が10μmの場合に全光線透過率が70%以上である請求項7又は8に記載のポリイミドフィルム。
【請求項11】
ポリアミド前駆体をイミド化する際に加熱温度を150℃未満とする、下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミドの合成方法。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、電子ペーパーなどの表示機器分野においては、製造工程の際、ガラス基板上に、透明電極(ITO;Indium Tin Oxide)や薄膜トランジスタ(TFT;Thin−Film Transistor)などの電極や電子素子が形成される。これらの素子を形成するためには高い耐熱性と優れた寸法安定性(低線熱膨張係数)が必要であるため、現行の技術ではガラス基板以外の透明材料を適用することは困難である。
一方、近年これらのディスプレイに対して軽量化やフレキシブル化の要請が高まり、従来のガラス基板では対応が困難になってきている。そこで、ガラス基板に代替する基板として、より軽量でフレキシブルな樹脂基板が注目されている。しかしながら、ガラス基板が備える高い透明性や寸法安定性、耐熱性、更に優れた加工性を全て併せ持つ樹脂基板はこれまで知られていない。
【0003】
樹脂基板のための材料の候補として、エンジニアリングプラスチックが挙げられる。しかしながら、現存の透明エンジニアリングプラスチックの中で、最も高い耐熱性を有するポリエーテルスルホンは、そのガラス転移温度(Tg)は225℃であるが、線熱膨張係数が高い点で問題がある。
一方、高い耐熱性、優れた寸法安定性、力学強度、絶縁性、および柔軟性等が優れた特性を有する材料として全芳香族ポリイミドがあり、この全芳香族ポリイミドは航空宇宙材料、耐熱材料、電子材料等において多用されている。
例えば、下記式(5)および(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリイミドは、高い耐熱性と優れた寸法安定性を示すことが報告されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3等参照)。
しかし、これらのポリイミドをはじめ多くの全芳香族ポリイミドは、分子内共役、および分子内・分子間電荷移動相互作用により強く着色しており、ガラス並の透明性を実現することは困難であった。
【0004】
そこで、ポリイミドフィルムの着色を抑制してなる透明性が高いポリイミドが提案されている。例えば、ポリイミド中にフッ素原子を導入すること(非特許文献1等参照)や、ポリイミドを構成するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分の一方、または両方に脂環式化合物を用いることにより分子内共役及び電荷移動相互作用を抑制し、透明性を高める方法が提案されている(特許文献4、特許文献5等参照)。
【0005】
しかしながら、フッ素原子が導入されたポリイミドは、線熱膨張係数が高くなる場合がある。例えば、モノマーとして4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(以後6FDAと称する)を用いると、ポリイミドフィルムの透明性が改善されるとされるが、その線熱膨張係数は非常に高い値となり、デバイスの製造工程の際に必要な寸法安定性が乏しくなる。したがって、当該産業分野のガラス代替基板として上記含フッ素ポリイミドを用いた場合、ポリイミドフィルム上に形成されたITOやTFTなどの電極や電子素子とポリイミドフィルムとの間に大きな線熱膨張係数差が発生することにより、剥離やクラックが発生し、電子デバイスの信頼性が著しく低下するという問題が生じる。
【0006】
また、ジアミン成分として脂環式化合物を用いたポリイミド、例えば4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の屈曲性の高い脂環式ジアミンを用いた場合には、無着色透明なポリイミドフィルムが得られるが、耐熱性の低下や線熱膨張係数の増大を引き起こすという問題がある。一方、脂環式ジアミンとして剛直な構造を有するトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを選択し、これと3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以後BPDAと称する)を組み合わせることで、高い透明性、高いガラス転移温度(345℃)、低線熱膨張係数(23ppm/K)を有するポリイミドフィルムを製造する技術が開示されている(特許文献6参照)。しかしながら、このポリイミドは有機溶媒に不溶であるため、溶液加工性に乏しいという欠点を有している。
【0007】
このように従来、多くのポリイミドは、有機溶媒に不溶で、ポリイミドそのものを成型加工することは容易ではない。そのため一般的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの非プロトン性極性溶媒中で等モル反応させ、高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を重合し、このポリアミド酸溶液を基板上へ流延・乾燥してポリアミド酸フィルムとした後に、300℃以上で加熱脱水閉環(熱イミド化)させる二段階法によってポリイミドフィルムを製造する。
しかし、高温での熱イミド化は、フィルムを着色させる要因の1つであり、高透明性を必要とする用途には適さないばかりか、熱イミド化時に発生する大きな反応収縮によりフィルム中に残留歪を生じ、フィルムの反りを引き起こす可能性もある。また、熱イミド化時に副生する水によりフィルム欠陥や気泡によるヘイズが生じやすいという問題も懸念される。
【0008】
そこで、高温での熱イミド化を回避するために、溶媒可溶性のポリイミドが提案されている(特許文献7等参照)。例えば、テトラカルボン酸二無水物として6FDAや3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物などを用い、ジアミンとしては1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンやビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどの組み合わせから合成されるポリイミドは、アミド系溶媒などに可溶性を示す。溶媒可溶性ポリイミドは共通してイソプロピリデン、スルホン、エーテル、メタ結合などの屈曲構造や、トリフルオロメチル基に代表される嵩高い置換基を有しており、これによりポリイミド鎖の凝集や結晶化が阻害された結果、溶媒分子がポリイミド鎖間に侵入しやすくなる。
また、これらの可溶性ポリイミドを製造するために、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを高沸点溶媒中で等モル反応させ、キシレン等の共沸剤存在下で150℃以上に溶液を加熱し副生する水を系内から除去して高重合度のポリイミドを得る方法を用いることができる。更にポリアミド酸溶液に、無水酢酸/ピリジン等の脱水環化試薬を投入して加熱することなくポリイミドを得る方法(化学イミド化法)も適用できる。
【0009】
しかしながら、溶媒可溶性のポリイミドの多くは、線熱膨張係数が非常に高いため、画像表示装置用基板として必要な低熱膨張特性(寸法安定性)を示さない。線熱膨張係数を低くするためには、ポリイミド主鎖をフィルム面に対して平行に配向(面内配向)させる必要があり、そのためには、ポリイミド主鎖の直線性、剛直性が十分に高いことが必須条件となる。このような分子設計は、先に述べた溶媒可溶性改善のための分子設計と相反するため、溶媒可溶性と低熱膨張特性の両立は原理的に極めて困難な課題である。
【0010】
上記特性を併せ持つ限られた例として、直線性が高いBPDA、ピロメリット酸二無水物(以後PMDAと称する)、および2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以後TFMBと称する)を主な原料として合成されるポリイミドが、アミド系溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと称する)にのみ溶解性を示し、且つそのNMP溶液から形成されるキャスト膜は比較的低い線熱膨張係数を示すことが報告されている(特許文献8参照)。
このように、可溶性ポリイミドの殆どは溶解力の強いNMP等のアミド系溶媒にのみ可溶であり、溶解力の弱い非アミド系溶媒、特に低吸湿性溶媒には殆ど溶解しない。ところが、アミド系溶媒からなるポリイミドワニスからフィルムを形成する際、しばしば重大な問題が生じる。
即ち、長時間にわたり連続塗工する場合、アミド系溶媒の吸湿性の高さから、ポリイミドワニスが大気中の水分を吸湿し、ポリイミド溶液の増粘やポリイミドの析出により塗工装置の目詰まりを引き起こし、しばしば連続塗工に重大な支障をきたすことがある。よって、溶液加工性の観点から、ポリイミドが低吸湿性溶媒に高い溶解性を有していることが好ましいが、アミド系溶媒よりも極性の低い溶媒に溶解する低熱膨張性ポリイミドはこれまで知られていない。
以上述べてきたように、従来、溶液加工性(低吸湿性溶媒可溶性)、低い線熱膨張係数、高い耐熱性、高い透明性を併せ持ちしかも全て満足する全芳香族ポリイミドの分子設計は極めて困難であり、液晶ディスプレイ用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)用基板、電子ペーパー用基板などの画像表示装置用基板、そして太陽電池基板などの透明基板や透明保護膜材料として要求される物性を全て満足する実用的な透明プラスチック基板材料は、知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−070157号公報
【特許文献2】特開2006−013419号公報
【特許文献3】国際公開第2008/09110号公報
【特許文献4】特開平07−56030号公報
【特許文献5】特開平09−73172号公報
【特許文献6】特開2002−161136号公報
【特許文献7】特開2002−206057号公報
【特許文献8】特開2006−206756号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Macromolecules,24,5001(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、優れた透明性を有し、高い耐熱性及び低い線熱膨張係数を併せ持ち、低吸湿性溶媒による溶媒加工性(優れた溶解性と製膜性)を示すポリイミド、これを低吸湿性溶媒に溶解してなるポリイミドワニス、それから得られる無機薄膜と同等の低線熱膨張係数、高い耐熱性および高い透明性を併せ持つフィルム及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミドを見出し、このようなポリイミドは優れた透明性を有し、高い耐熱性及び低い線熱膨張係数を併せ持ち、低吸湿性溶媒による溶媒加工性(優れた溶解性と製膜性)を示し、容易に低吸湿性溶媒とのポリイミドワニスが得られ、また優れた透明性を有するポリイミドフィルムを得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明は以下の通りである。
1.下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミド。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
2.下記式(2)で表される構成単位を含むポリイミド。
式(2)
3.下記式(1)で表される構成単位を70モル%以上含む1に記載のポリイミド。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
4.1〜3のいずれかに記載のポリイミドと有機溶剤を含有するポリイミドワニス。
5.該有機溶媒がエステル系溶媒、エーテル系溶媒、カーボネート系溶媒、グリコール系溶媒、フェノール系溶媒、ケトン系溶媒から少なくとも1つ選択される低吸湿性有機溶媒であり、且つ該ポリイミドの固形分濃度が5重量%以上である4に記載のポリイミドワニス。
6.下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミド成形体。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
7.成形体がフィルムである6記載のポリイミド成形体。
8.4又は5に記載のポリイミドワニスを、基板上に塗布、乾燥および基板から剥離して得られるポリイミドフィルム。
9.ポリイミドフィルムは、膜厚が10μmの場合で、400nmにおける光透過率が45%以上、又は膜厚が20μmの場合で、全光線透過率が80%以上である7又は8に記載のポリイミドフィルム。
10.ポリイミドフィルムは、膜厚が10μmの場合で、400nmにおける光透過率が45%以上であり、かつ、膜厚が10μmの場合に全光線透過率が70%以上である7又は8に記載のポリイミドフィルム。
11.ポリアミド前駆体をイミド化する際に加熱温度を150℃未満とする下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミドの合成方法。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリイミドは、構成単位中にパラ位で結合したビフェニレン構造を2つ有することから、主鎖構造は極めて直線的で剛直となり、これを反映して、このような該ポリイミドから得られるポリイミドフィルムは、無機薄膜と同等の低い線熱膨張係数と高い耐熱性(高いガラス転移温度)を示す。
また、当該分野においては、直線性の高いパラビフェニレン構造を2つも有する分子設計は、溶媒溶解性を著しく低下させることが知られている。しかしながら、本発明のポリイミドは溶媒溶解性が優れており、また透明性にも優れている。これは、本発明のポリイミドは、ポリイミドを構成するビフェニレン基の2,2'位にメチル基とトリフルオロメチル基が存在するため、立体障害効果によりビフェニレンを構成するフェニレン環がねじれてコプラナー化しにくくなり、高分子鎖の凝集や電子共役が抑制されることで、溶媒溶解性が大幅に向上するとともに、着色の原因であるポリイミド特有の電荷移動相互作用も抑制されるために透明性が向上するものと思われる。またビフェニレン基の3位、3'位、5位又は/及び5'位のアルキル基も同様な立体効果に寄与しているものと思われる。
【0017】
前記したように本発明のポリイミドは、様々な溶媒に可溶であり、特に溶媒として低吸湿性の溶媒を用いた場合、得られるポリイミドワニスは高い溶液安定性を示すので、製膜時の塗工条件によらず安定的にポリイミドフィルムへと加工できる。また得られたポリイミドフィルムは、該ポリイミドの持つ高い耐熱性、低い線熱膨張係数、及び高い光透過性(透明性)を兼ね備えているので、液晶ディスプレイ用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)用基板、電子ペーパー用基板などの表示用透明基板や透明保護膜材料、そして太陽電池基板などの透明基板や透明保護膜材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得たポリイミドの赤外線吸収スペクトル
図2】実施例5で得たポリイミドの赤外線吸収スペクトル
図3】実施例6で得たポリイミドの赤外線吸収スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポリイミドは、下記式(1)で表される構成単位を含むポリイミドである。
式(1)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。
式中、Rがアルキル基の場合は炭素原子数1〜6の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基を表し、具体的には例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、n−ヘキシル基、n−ペンチル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。また、同じベンゼン環に結合する2つのRが両方アルキル基であることが好ましい。
【0020】
従って、より好ましいポリイミドは、下記式(2)で表される構成単位を含むポリイミドである。
式(2)
前述のとおり、従来、ポリイミド乃至ポリイミドフィルムを低熱膨張化するためには、一般に主鎖構造をできるだけ直線状にし、剛直性を高め、コンホメーション変化に伴う主鎖の直線性の減少を抑制する必要がある。しかしながら、このような分子設計は溶媒溶解性にとっては不利となる。
これに対して本発明のポリイミドは、主鎖骨格をできるだけ直線状で且つ剛直にしつつ、溶媒溶解性を高めるために、エステル結合を介して2面角が大きく捻じれたパラビフェニレン基を導入することで、低熱膨張特性と溶媒溶解性および高い透明性を同時に実現するという非常に困難な問題を解決したものである。
【0021】
本発明の式(1)又は式(2)で表されるポリイミドは、その製造方法については特に限定されないが、例えば下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとして下記式(7)で表される2,2'―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以後、TFMBと略称する場合がある。)と反応させて下記式(4)で表される構成単位を含むポリアミド酸を得る工程、得られた前記ポリアミド酸をイミド化する工程を経て製造することができる。
式(3)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
式(4)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基であり、エステル基の結合位置はアミド結合に対してメタ位又はパラ位である。)
【0022】
また、上記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、下記式(8)で表されるビフェニル−4,4'ジオール類とトリメリット酸類を用いて公知のエステル化反応により得られる。
式(8)
(式中、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ただし、同じベンゼン環に結合する2つのRのうちの少なくとも一つはアルキル基である。)
【0023】
このような本発明のポリイミドの製造方法について、上記式(1)においてRがすべてメチル基の場合の下記式(2)で表される構成単位を含むポリイミドを例として、更に詳細に説明する。尚、Rが他のアルキル基又は水素原子の場合においても式(2)で表される構成単位を含むポリイミドと同様に製造することができる。
式(2)
【0024】
前記式(2)で表されるポリイミドは、下記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いて製造される。
式(9)
【0025】
上記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、下記式(10)で表されるジオール即ち2,2',3,3',5,5'−ヘキサメチル−ビフェニル−4,4'−ジオール(以後、HM44BPと略称する場合がある。)またはそのジアセテート体とトリメリット酸類を用いて公知のエステル化反応により製造することができる。
トリメリット酸類としては、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸ハライド等が挙げられる。
【0026】
本発明に係るポリイミドの原料である上記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物(以後、TAHMBPと略称する場合がある。)の構造的特徴は、メチル置換基が中央ビフェニレン基の2,2'位に結合することで、ビフェニレン基が大きく捻じれている点およびビフェニレン基とフタルイミド部位とを連結する2つのエステル基が全てパラ位で結合している点である。これにより、耐熱性、低吸湿性溶媒溶解性、透明性、無機薄膜と同等の線熱膨張係数を同時に実現することが可能になるものと思われる。
本発明に係るポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を重合する際、重合反応性およびポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、上記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外の芳香族または脂肪族テトラカルボン酸二無水物を共重合成分として併用することができる。
【0027】
その際に使用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルハイドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物等が挙げられる。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、脂環式のものとしては、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0028】
このようなテトラカルボン酸二無水物のうち、ポリイミドフィルムの低熱膨張性発現という観点から、剛直で直線的な構造を有するテトラカルボン酸二無水物、即ちピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が共重合成分として好適であり、特に、重合反応性、入手のし易さからテトラカルボン酸二無水物として、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
上記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物と併用する上記芳香族又は脂肪族テトラカルボン酸二無水物の含有量は、全テトラカルボン酸二無水物使用量の0〜30モル%の範囲である。
【0029】
本発明に係る上記式(2)で表される構成単位を含むポリイミドは、このようなテトラカルボン酸二無水物に2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を反応して得られる。
このように、本発明に係るポリイミドにおいて、原料ジアミンをTFMBとすることにより、TFMBにおける2,2'位のトリフルオロメチル基の存在により、分子間力が低下してポリイミドの低吸湿性溶媒溶解性が高められる。更にトリフルオロメチル基は電子吸引性基としても働くため、着色の原因である電荷移動相互作用を抑制し、ポリイミドフィルムの透明性を高めることにも寄与する。また、TFMB中の剛直なパラビフェニレン基は、ポリイミドの低熱膨張性発現に寄与するものと思われる。
【0030】
本発明に係るポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を重合する際、重合反応性およびポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、TFMB以外の芳香族または脂肪族ジアミンを共重合成分として併用することができる。
その際に使用可能な芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4'−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、2,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4'−アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3'−ジヒドロキシベンジジン、3,3'−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が挙げられる。
また、脂肪族ジアミンとしては、鎖状脂肪族乃至脂環式ジアミンであり、脂環式ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、鎖状脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、ジアミノシロキサン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。この際、上記ジアミンの含有量は全ジアミン使用量の0〜30モル%の範囲である。
【0031】
本発明に係るポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を重合する際、使用される溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体、そしてイミド化されたポリイミドが溶解すれば如何なる溶媒であっても何ら問題なく使用でき、特にその溶媒の構造には限定されない。
具体的には例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、その他汎用溶媒として、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用でき、これらを2種類以上混合して用いてもよい。
【0032】
式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TAHMBP)とTFMBを重付加反応させてポリイミド前駆体を得た後、次いでこれをイミド化することにより、当該産業上極めて有用な本発明のポリイミドを得ることができる。
【0033】
本発明のポリイミドは、高分子鎖の直線性、剛直性、適切な置換基および立体的な捻じれという化学構造上の特徴から、ポリイミド樹脂とした際に、溶液加工性(低吸湿性溶媒溶解性)、無機薄膜と同等の低い線熱膨張係数、高い耐熱性および高い透明性を合わせ持つという、従来の材料では得ることのできなかった物性を有する材料とすることができる。
通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合反応性は、最終的に得られるポリイミドフィルムの靭性に大きな影響を及ぼす。重合反応性が十分高くないと、高重合体が得られず、結果としてポリマー鎖同士の絡み合いが低くなり、ポリイミドフィルムが脆弱になる恐れがある。この点、本発明で使用するTAHMBPとTFMBは、十分に高い重合反応性を示すため、そのような懸念がない。
【0034】
本発明のポリイミドを合成する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜適用することができる。具体的には例えば、以下の方法により合成できる。ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を得る工程としては、反応容器中、先ず、TFMBを重合溶媒に溶解し、この溶液にTFMBと実質的に等モルのTAHMBP粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラー等を用い、温度0〜100℃の範囲、好ましくは20〜60℃で0.5〜150時間好ましくは1〜48時間攪拌する。
この際原料モノマー濃度は、通常、5〜50重量%の範囲、好ましくは10〜40重量%の範囲である。このようなモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を得ることができる。ポリイミド前駆体の重合度が増加しすぎて、重合溶液が攪拌しにくくなった場合は、適宜同一溶媒で希釈することもできる。ポリイミドフィルムの靭性の観点からポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。上記モノマー濃度範囲で重合を行うことによりポリマーの重合度が十分高く、原料モノマー及び生成ポリマーの溶解性も十分確保することができる。
上記範囲より低い濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならない場合があり、また、上記モノマー濃度範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となる場合がある。また、脂肪族ジアミンを使用した場合、重合初期にしばしば塩形成が起こり、重合が妨害されるが、塩形成を抑制しつつできるだけ重合度を上げるためには、重合時のモノマー濃度を上記の好適な濃度範囲に管理することが好ましい。
【0035】
次いで、得られたポリイミド前駆体(ポリアミド酸)をイミド化する工程について説明する。本発明のポリイミドを得るためのポリイミド前駆体のイミド化方法は、熱的に脱水閉環する熱イミド化法、脱水剤を用いる化学イミド化法などの公知の方法を用いることができる。
しかしながら高温の熱処理を必要としない化学イミド化のような温和な条件でイミド化することが好ましい。化学イミド化以外の方法、例えば、熱イミド化法ではテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを高沸点溶媒中で等モル反応させ、キシレン等の共沸剤存在下で150℃以上に加熱し副生する水を系内から除去して高重合度のポリイミドを溶液状態で得ることができるが、150℃以上の加熱では、溶媒などが着色して、この着色成分がフィルムの着色の原因となる場合があるので、好ましくない。
【0036】
即ち、本発明に係るポリイミド前駆体(ポリアミド酸)のイミド化方法は、具体的には例えば、前記得られたポリイミド前駆体溶液を、重合時に使用した溶媒と同一の溶媒で撹拌し易い適度な溶液粘度にしたポリイミド前駆体溶液とし、メカニカルスターラーなどで撹拌しながら、有機酸の無水物と、塩基性触媒として3級アミンからなる脱水閉環剤(化学イミド化剤)を滴下し、温度0〜100℃、好ましくは10〜50℃で1〜72時間撹拌することで化学的にイミド化を完結させる。
その際に使用可能な有機酸無水物としては特に限定されないが、無水酢酸、無水プロピオン酸等が挙げられる。試薬の取り扱いや精製のし易さから無水酢酸が好適に使用される。また塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、キノリン等が使用できるが試薬の取り扱いや分離のし易さからピリジンが好適に用いられるが、これらに限定されない。化学イミド化剤中の有機酸無水物量は、ポリイミド前駆体の理論脱水量の1〜10倍モルの範囲であり、より好ましくは1〜5倍モルである。また塩基性触媒の量は、有機酸無水物量に対して0.1〜2倍モルの範囲であり、より好ましくは0.1〜1倍モルの範囲である。
【0037】
また、前記化学イミド化後の反応溶液中には、化学イミド化剤やカルボン酸などの副生成物(以下、不純物という)が混入しているため、これらを除去してポリイミドを精製する必要がある。精製は公知の方法が利用できる。例えば、最も簡便な方法としては、イミド化した反応溶液を撹拌しながら大量の貧溶媒中に滴下してポリイミドを析出させた後、ポリイミド粉末を回収して不純物が除去されるまで繰返し洗浄し、減圧乾燥して、ポリイミド粉末を得る方法が適用できる。
この時、使用できる溶媒としては、ポリイミドを析出させ、不純物を効率よく除去でき、乾燥し易い溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水もしくはメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好適であり、これらを混合して用いてもよい。貧溶媒中に滴下して析出させる時のポリイミド溶液の濃度は、高すぎると析出するポリイミドが粒塊となり、その粗大な粒子中に不純物が残留する可能性や、得られたポリイミド粉末を溶媒に溶解する時間を長時間要する恐れがある。
一方、ポリイミド溶液の濃度を薄くし過ぎると、多量の貧溶媒が必要となり、廃溶剤処理による環境負荷増大や製造コスト高になるため好ましくない。したがって、貧溶媒中に滴下する時のポリイミド溶液の濃度は、20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。この時使用する貧溶媒の量はポリイミド溶液の等量以上が好ましく、1.5〜3倍量が好適である。得られたポリイミド粉末を回収し、残留溶媒を真空乾燥や熱風乾燥などで除去する。乾燥温度と時間は、ポリイミドが変質せず、残留溶媒が分解しない温度であれば制限はなく、温度30〜200℃の範囲で48時間以下で乾燥させることが好ましい。
【0038】
本発明のポリイミドは、その固有粘度としては用途に応じて適宜選択することができ特に制限はないが、例えばポリイミドフィルムとし用いるときには、靭性及び溶液のハンドリングの観点から、ポリイミドの固有粘度として、好ましくは0.1〜10.0dL/gの範囲、より好ましくは0.5〜5.0dL/gの範囲である。
また、反応に際し、本発明に係る原料のテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物及び/又は本発明に係る原料のジアミン以外のジアミン成分を用いて、式(1)又は式(2)で表される本発明に係る構成単位を含むポリイミド共重合体とする場合は、式(1)又は式(2)で表される構成単位を70モル%以上含むポリイミド共重合体が好ましい。
【0039】
また、本発明のポリイミドは、溶媒への溶解性に優れているので、種々の有機溶媒に溶解し、ポリイミドワニスとすることができる。また、得られたワニスは例えばポリイミドフィルムや積層体などの成形体として用いることができる。
さらに、本発明のポリイミドは通常、粉末として得られるので樹脂自体としても成形可能であり、その目的に応じて適宜、公知の成形方法を採用することにより、電子部品、コネクター、フィルム、積層体等の各種成形体として用いることができる。
【0040】
本発明のポリイミドを有機溶媒に溶解してワニスとして用いる場合、有機溶媒としては、ワニスの使用用途や加工条件に合わせて適宜に溶媒を選ぶことができる。例えば、長時間にわたり連続塗工する場合、ポリイミド溶液中の溶媒が大気中の水分を吸湿し、ポリイミドが析出する恐れがあるので、トリエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンあるいはシクロペンタノンなどの低吸湿性溶媒を使用することが好ましい。したがって、本発明のポリイミドは低吸湿性を示す様々な溶媒や混合溶媒を選ぶことができる。
使用される低吸湿性溶媒は、特に限定されないが、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、その他汎用溶媒として、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、クロロホルム、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用でき、これらを2種類以上混合して用いてもよい。また、吸湿性溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒でも、上記低吸湿性溶媒と組み合わせることで、ポリイミドの析出を抑制することもできる。
【0041】
次に、本発明に係るポリイミドワニス及びそれを成形して得られるポリイミドフィルムの製造方法について更に詳しく述べる。
本発明のポリイミドを溶媒に溶解してワニスとするとき、その固形分濃度としては、ワニスの用途に応じて適宜選択することができ特に制限はない。例えばフィルムとする場合、ポリイミドの分子量、製造方法や製造するフィルムの厚さにもよるが、固形分濃度を5重量%以上とすることが好ましい。固形分濃度が低すぎると、十分な膜厚のフィルムを形成することが困難となり、逆に固形分濃度が濃いと溶液粘度が高すぎて塗工が困難になる恐れがある。本発明のポリイミドを溶媒に溶解するときの方法としては、例えば、溶媒を撹拌しながら本発明のポリイミド粉末を加え、空気中、または不活性ガス中で室温〜溶媒の沸点以下の温度範囲で1時間〜48時間かけて溶解させ、ポリイミド溶液にすることができる。
【0042】
本発明のポリイミドを用いてフィルムを製造する最も好ましい形態としては、例えば、ガラス基板などの支持体上にポリイミドワニスを公知の方法、例えば、ドクターブレードなどを用いて塗布後、乾燥し、ポリイミドフィルムを作製する。それにより得られたポリイミドフィルムの線熱膨張係数は30ppm/K以下であることが好ましく、25ppm/K以下であることがより好ましい。また、耐熱性の指標としてのガラス転移温度は、250℃以上であることが好ましく、ITOなどの無機薄膜の製膜条件から270℃以上であることがより好ましい。
本発明のポリイミドフィルムの透明性に関して、膜厚が20μmである場合の全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
また、膜厚10μmである場合の400nmの光透過率は45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましく、加えて、透明性がさらに優れる理由で膜厚が10μmである場合の全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
なお、ここで、膜厚が10μmや20μmの場合の400nmや全光線の透過率の好ましい範囲とは、膜厚が10μmや20μmでないポリイミドフィルムであってもその膜厚での透過率をランバート・ベールの法則等に基づいて10μmや20μmの膜厚の場合に換算した透過率、または、膜厚を10μm又は20μmに加工して測定した場合の透過率が、上記好ましい範囲に入れば、そのような場合のポリイミドフィルムも含むものとする。
また、同じ品質のポリイミドフィルムであれば、膜厚を薄くするほどフィルムの透過率は向上するので、10μm又は20μmの膜厚よりも厚い膜厚のポリイミドフィルムの透過率が、前記の好ましい透過率の範囲内である場合も、換算や測定をするまでもなく、好ましいポリイミドフィルムに含まれる。
換算方法としては、例えば、後述する実施例2で得た膜厚21μmのポリイミドフィルムの400nmの光透過率は、69.5%であるが、モル吸光係数と濃度の積が一定と仮定し、これをランバート・ベールの法則に基づき、10μmの場合の換算値を計算すると84.0%となる。
【0043】
また、本発明に係るポリイミドワニスには、必要に応じて離型剤、フィラー、シランカップリング剤、架橋剤、末端封止剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤などの添加物を加えることができる。
得られたポリイミドワニスを用いて公知の方法で製膜し、乾燥することにより、ポリイミドフィルムを形成できる。例えば、ポリイミドワニスをガラス基板等の支持体上にドクターブレード等を用いて流延し、熱風乾燥器、赤外線乾燥炉、真空乾燥器、イナートオーブン等を用いて、通常、40〜300℃の範囲、好ましくは、50〜250℃の範囲で乾燥することによってポリイミドフィルムを形成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0045】
(評価方法)
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR350(日本分光社製)を用い、KBr法にてテトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また、ポリイミドの赤外線吸収スペクトルについては、薄膜試料(約5μm厚)を作製して測定した。
【0046】
1H−NMRスペクトル>
フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でテトラカルボン酸二無水物および化学イミド化したポリイミド粉末の1H−NMRスペクトルを測定した。標準物質はテトラメチルシランを使用した。
【0047】
<示差走査熱量分析(融点)>
テトラカルボン酸二無水物の融点は、示差走査熱量分析装置DSC3100(ブルカーエイエックスエス社)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
【0048】
<固有粘度>
0.5重量%のポリイミド前駆体溶液、または、ポリイミド溶液をオストワルド粘度計を用いて30℃で還元粘度を測定した。この値をもって固有粘度とみなした。
【0049】
<ポリイミド粉末の有機溶媒への溶解性試験>
ポリイミド粉末0.1gに対し、表2に記載の有機溶媒9.9g(固形分濃度1重量%)をサンプル管に入れ、試験管ミキサーを用いて5分間撹拌して溶解状態を目視で確認した。溶媒として、クロロホルム(CF)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン(DOX)、酢酸エチル、シクロペンタノン(CPN)、シクロヘキサノン(CHN)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、m−クレゾール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Tri-GL)を使用した。評価結果は、室温で溶解した場合を++、加熱により溶解し、且つ室温まで放冷後も均一性を保持していた場合を+、膨潤/一部溶解した場合を±、不溶の場合を−と表示した。
【0050】
<ポリイミドワニスの吸湿安定性評価>
ポリイミド溶液の濃度を9〜13重量%にし、この溶液2mLをガラス基板上に滴下した後、相対湿度40%の環境下で24時間静置した。24時間静置後、ポリイミド溶液が滴下直後と比較し変化がなかった状態を○、ポリイミドが析出し溶液が白化した状態を×とした。相対湿度40%の環境下で24時間後でもポリイミド溶液に変化が無ければポリイミドフィルムを製造する際の塗工性に優れていることを表す。
【0051】
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリイミドフィルムのガラス転移温度を求めた。
【0052】
<線熱膨張係数:CTE>
ポリイミドフィルムの線熱膨張係数は、ブルカーエイエックスエス社製TMA4000を用いて(サンプルサイズ 幅5mm、長さ15mm)、荷重を膜厚(μm)×0.5gとして、5℃/minで150℃まで一旦昇温(1回目の昇温)させた後、20℃まで冷却し、さらに5℃/minで昇温(2回目の昇温)させて2回目の昇温時のTMA曲線より計算した。線熱膨張係数は100〜200℃の間の平均値として求めた。
【0053】
<5%重量減少温度:Td5
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0054】
<ポリイミド膜の透過率:T400
日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計(V−650)を用いて、ポリイミドフィルム(20μm厚)の200−700nmにおける光透過率を測定し、400nmの波長における光透過率を透明性の指標として用いた。また、透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)も求めた。
【0055】
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ1T)を用いて、ポリイミドフィルム面に平行な方向(nin)と垂直な方向(膜厚方向)(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。複屈折値が高いほど、ポリマー鎖の面内配向度が高いことを意味する。
【0056】
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分をキムワイプで完全に拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
【0057】
<誘電率:εopt
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ1T)を用いて、ポリイミドフィルムの平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×nav2によりポリイミドフィルムの誘電率(εopt)を算出した。
【0058】
<引張弾性率(ヤング率)、破断強度、破断伸び>
TENSILON UTM−2(エー・アンド・デイ社製)を用いて、ポリイミドフィルムの試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。また破断強度は試験片が破断したときの応力から求めた。
【0059】
<合成例1>
式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物の合成
(合成)
式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TAHMBP)は以下のように合成した。ナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド8.8493g(42.0mmol)を入れ、脱水テトラヒドロフラン(THF)30mLに室温で溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調整した(溶質濃度24.9重量%)。更に別のフラスコ中で2,2',3,3',5,5'−ヘキサメチル−ビフェニル−4,4'−ジオール(HM44BP)5.4044g(20.0mmol)を脱水THF38mLに室温で溶解し(溶質濃度14.5重量%)、これにピリジン3.9mL(48mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調整した。
氷浴中で冷却、撹拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて徐々に滴下し、その後室温で24時間撹拌した。反応終了後、白色沈澱物を濾別し、THFおよびイオン交換水で洗浄した。ピリジン塩酸塩の除去は、洗液に硝酸銀水溶液を添加し白色沈殿が見られなくなったことをもって確認した。洗浄した粗生成物を回収し、150℃で12時間真空乾燥した。得られた粗生成物は淡黄白色粉末であり、収量は6.1984g、収率は50.1%であった。
【0060】
(精製)
得られた粗生成物は、再結晶によって精製した。粗生成物5.9905gにγ−ブチロラクトン(GBL)88mLを加え150℃で加熱溶解させた後、自然に放冷して一晩静置した。析出した淡黄白色粉末を濾過回収し、180℃で12時間真空乾燥した。得られた淡黄白色粉末の収量は、3.6974gであり、再結晶収率は66.2%であった。再結晶によって精製した生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR350(日本分光社製)より、1861cm-1および1772cm-1に酸二無水物C=O伸縮振動吸収帯、1745cm-1にエステル基C=O伸縮振動吸収帯を確認した。また、フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用いてプロトンNMR測定を行った結果、(DMSO−d6,δ,ppm):1.98(s,−CH3,6H), 2.08−2.15(m,−CH3,12H), 6.98(brs,ArH,2H),8.33(d,J=7.9Hz,ArH,2H), 8.71−8.76(m,ArH,4H)と帰属でき、生成物はTAHMBPであることが確認された。また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ブルカーエイエックスエス社)によって融点を測定したところ、309.4℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0061】
<合成例2>
式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物の合成
(合成)
式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物(以後TA44BPと称する)は以下のように合成した。ナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド16.8457g(80.0mmol)を入れ、脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)71mLに室温で溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調整した(溶質濃度20重量%)。更に別のフラスコ中で4,4'−ビフェノール7.4483g(40.0mmol)を脱水DMF32mLに室温で溶解し(溶質濃度20重量%)、これにピリジン19.3mL(240mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調整した。氷浴中で冷却、撹拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて徐々に滴下し、その後室温で12時間撹拌した。反応終了後、黄色沈澱物を濾別し、DMFおよびイオン交換水で洗浄した。ピリジン塩酸塩の除去は、洗液に硝酸銀水溶液を添加し白色沈殿が見られなくなったことをもって確認した。洗浄した粗生成物を回収し、180℃で12時間真空乾燥した。得られた粗生成物は黄色粉末であり、収量は9.6930g、収率は38.5%であった。
【0062】
(精製)
得られた粗生成物は、再結晶によって精製した。粗生成物7.9956gにγ−ブチロラクトン(GBL)120mLを加え加熱溶解させた後、自然に放冷して12時間静置した。析出した黄色板状晶を濾過回収し、200℃で12時間真空乾燥した。得られた淡黄白色粉末の収量は、6.3165gであり、再結晶収率は79%であった。再結晶によって精製した生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR350(日本分光社製)より、1861cm-1および1782cm-1に酸二無水物C=O伸縮振動吸収帯、1730cm-1にエステルC=O伸縮振動吸収帯を確認した。また、フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用いてプロトンNMR測定を行った結果、(DMSO−d6,δ,ppm):7.52(d,ArH,4H), 7.58(d,ArH,4H), 8.51(d,ArH,2H),8.6(m,ArH,4H), 8.71−8.76(m,ArH,4H)と帰属でき、生成物はTA44BPであることが確認された。また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ブルカーエイエックスエス社)によって融点を測定したところ、326℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0063】
<合成例3>
下記式(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物の合成
(合成)
式(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TA23X−BP)は以下のように合成した。ナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド6.3207g(30.0170mmol)を入れ、脱水GBL13.0mLに室温で溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調整した。更に別のフラスコ中で2,2’,3,3’−テトラメチル−ビフェニル−4,4’−ジオール(23X−BP)2.4239g(10.0032mmol)を脱水GBL37.3mLに室温で溶解させ、これにピリジン4.85mL(59.9656mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調整した。
氷浴中で冷却、撹拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて約20分かけて滴下し、その後室温で一晩撹拌した。
反応終了後、白色沈澱物を濾別し、イオン交換水で洗浄した。ピリジン塩酸塩の除去は、洗液に硝酸銀水溶液を添加し白色沈殿が見られなくなったことをもって確認した。洗浄した粗生成物を回収し、80℃で1時間及び100℃で12時間真空乾燥した。得られた粗生成物は白色粉末であり、収量は5.6107g、収率は95.0%であった。
【0064】
(精製)
得られた粗生成物は、再結晶によって精製した。粗生成物3.6411gにGBL210mLを加え100℃で加熱溶解させた後、自然に放冷して一晩静置した。析出物を濾過回収し、160℃で12時間真空乾燥した。得られた白色粉末の収量は、2.8178gであり、再結晶収率は77.3%であった。
再結晶によって精製した生成物は、赤外吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1に酸二無水物C=O伸縮振動吸収帯、1741cm−1にエステル基C=O伸縮振動吸収帯を確認した。また、プロトンNMR測定を行った結果、(DMSO−d6,δ,ppm):2.02(s,−CH3,6H), 2.17(s,−CH3,6H),7.07−7.09(d,J=8.3Hz,ArH,2H),7.24−7.26(d,J=8.2Hz,ArH,2H),8.31−8.33(d,J=7.96Hz,ArH,2H),8.70−8.72(dd,J=7.86Hz,1.22Hz,ArH,2H),8.67(s,ArH,2H)と帰属でき、生成物はTA23X−BPであることが確認された。また、示差走査熱量分析によって融点を測定したところ、309.1℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0065】
<実施例1>
(ポリイミド前駆体の重合)
2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.9607g(3mmol)を脱水N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)11.3gに溶解した。ここに合成例1に記載のTAHMBP粉末1.8558g(3mmol)をゆっくり加え、室温で96時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度20.0重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.84dL/gであった。
【0066】
(化学イミド化反応)
得られたポリアミド酸溶液を脱水DMAcで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら2.8mL(30mmol)の無水酢酸と1.2mL(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のメタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた白色沈殿物をメタノールで十分洗浄し、160℃で12時間真空乾燥した。得られた繊維状ポリイミド粉末は2.5130gであった。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)およびNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、3.16dL/gであり、高分子量体であった。
【0067】
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
上記のポリイミド粉末を室温でシクロペンタノン(CPN)に再溶解し、11.4重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚32μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが10.7%、最大伸びが20.0%、引張弾性率が4.5GPa、破断強度は0.19GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚24μmのポリイミドフィルムで21.7ppm/K、ガラス転移温度は272℃、5%熱重量減少温度は437℃(空気中)であった。また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.80、吸水率は0.04%であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、CPNで11.4重量%に調整したポリイミド溶液の吸湿安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。また、様々な溶媒に対する溶媒溶解性も良好であり、CPN、GBL,Tri−GLのような溶解力の弱い低吸湿性溶媒にも優れた溶解性を示した。これは本発明のポリイミドの緻密な分子設計によるものである。溶解性試験結果を表2に示す。またポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0068】
<実施例2>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でγ−ブチロラクトン(GBL)に再溶解し、9.9重量%の溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚22μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが7.1%、最大伸びが9.0%、引張弾性率が4.4GPa、破断強度は0.18GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚23μmのポリイミドフィルムで25.1ppm/K、ガラス転移温度は274℃、5%熱重量減少温度は437℃(空気中)であった。また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.80、吸水率は0.05%であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、GBLで9.9重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。
【0069】
<実施例3>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でトリエチレングリコールジメチルエーテル(TriGL)に再溶解し、10重量%の溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、100℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚30μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが10.2%、最大伸びが25.5%、引張弾性率が4.2GPa、破断強度は0.18GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚23μmのポリイミドフィルムで25.7ppm/K、ガラス転移温度は280℃であった。また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.79、吸水率は検出限界以下(<0.01%)であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、TriGLで10重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。
【0070】
<実施例4>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でテトラヒドロフラン(THF)に再溶解し、11.5重量%の溶液を調整した。溶媒を変更した以外は、実施例1に記載した方法と同様にポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であり、線熱膨張係数は、膜厚12μmのポリイミドフィルムで22.3ppm/Kであった。尚、THFで11.5重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。
【0071】
<実施例5>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.9607g(3mmol)を脱水DMAc14.3gに溶解した。この溶液に合成例1に記載のTAHMBP粉末1.2990g(2.1mmol)と3,3',4,4'−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)粉末0.2648g(0.9mmol)をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリアミド酸を得た(固形分濃度15重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.46dL/gであった。
【0072】
(化学イミド化反応)
上記ポリアミド酸溶液を脱水DMAcで固形分濃度9.6重量%に希釈後、これを撹拌しながら2.8mL(30mmol)の無水酢酸と1.2mL(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、その後24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のメタノールに加えて析出させた。得られた繊維状白色沈殿物をメタノールで十分洗浄し、160℃で12時間真空乾燥した。
この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)およびNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、2.96dL/gであった。
【0073】
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
上記ポリイミド粉末を室温でシクロペンタノン(CPN)に再溶解し、12.5重量%の溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。
このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であった。このポリイミドフィルム(膜厚25μm)の機械特性を測定したところ、試験本数20本の平均伸びが11.2%、最大伸びが17.7%、引張弾性率が4.5GPa、破断強度は0.19GPaであった。また、熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚22μmのポリイミドフィルムで22.5ppm/K、ガラス転移温度は273℃、5%熱重量減少温度は449℃(空気中)であった。
また、ポリイミドフィルムの屈折率から計算した誘電率は、2.84、吸水率は0.05%であった。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。尚、CPNで12.5重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下でも溶液に変化は見られなかった。また、様々な溶媒に対する溶媒溶解性も良好であり、CPN、GBL,Tri−GLのような溶解力の弱い低吸湿性溶媒にも優れた溶解性を示した。通常、BPDAのような剛直な構造のモノマーを共重合成分として使用すると、その使用量が少量であっても、通常ポリイミドの溶媒溶解性の劇的な低下を招くことになるが、本発明のポリイミド共重合体は依然として優れた溶解性を維持していた。これは本発明のポリイミドの緻密な分子設計によるものである。溶解性試験結果を表2に示す。またポリイミド共重合体薄膜の赤外線吸収スペクトルを図2に示す。
【0074】
<実施例6>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.32g(1mmol)を脱水DMAc2.12gに溶解した。ここに合成例3に記載のTA23X−BP粉末0.59g(1mmol)をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度30重量%)。
得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.18dL/gであった。
【0075】
(化学イミド化反応)
得られたポリアミド酸溶液を脱水DMAcで固形分濃度12.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら1.0g(10mmol)の無水酢酸と0.4mL(5mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のメタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた白色沈殿物をメタノールで十分洗浄し、100℃で12時間真空乾燥した。得られたポリイミド粉末は0.819gであった。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)およびNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.81dL/gであった。
【0076】
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
上記のポリイミド粉末を室温でシクロペンタノン(CPN)に再溶解し、8.0重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器により乾燥した。その後、基板ごと真空中200℃で1時間熱処理して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中200℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは、若干のにごりがあったが、無色透明であった。このポリイミドフィルムの熱特性を測定したところ、線熱膨張係数は、膜厚28.6μmのポリイミドフィルムで15.5ppm/K、膜厚13.0μmのポリイミドフィルムでガラス転移温度は211℃、5%熱重量減少温度は、20.0μmのポリイミドフィルムで437℃(空気中)であった。
またポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図3に示す。
【0077】
<参考例1>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、11.1重量%の溶液を調整した。溶媒を変更した以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であり、線熱膨張係数は、膜厚15μmのポリイミドフィルムで27.1ppm/Kであった。尚、DMAcで11.1重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下では、溶液が白濁し、ポリイミドが析出した。これはDMAcの吸湿性が高いために、24時間相対湿度40%の環境下では、溶液が水分を吸収したことを示す。
【0078】
<参考例2>
(ポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜)
実施例1に記載の方法により得られたポリイミド粉末を室温でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に再溶解し、9.8重量%の溶液を調整した。溶媒を変更した以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。得られたポリイミドフィルムは、無色透明であり、線熱膨張係数は、膜厚17μmのポリイミドフィルムで26.7ppm/Kであった。尚、NMPで9.8重量%に調整したポリイミド溶液の安定性を評価したところ24時間相対湿度40%の環境下では、溶液が白濁し、ポリイミドが析出した。これは参考例1による結果と同様にNMPの吸湿性が高いためである。
【0079】
<参考例3>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.9607g(3mmol)を脱水DMAc6.6gに溶解した。この溶液にTAHMBP粉末1.8558g(3mmol)をゆっくり加え(固形分濃度30.0重量%)、更に脱水DMAcを加えて室温で11日間撹拌した(固形分濃度20.0重量%)。得られたポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の固有粘度は、1.26dL/gであった。
【0080】
(ポリイミド前駆体フィルムの製膜とポリイミドフィルムの作製)
得られたポリアミド酸溶液をガラス基板上に流延し、60℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中200℃で0.5時間、続けて350℃で1時間かけて熱イミド化した。室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中320℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。得られたポリイミドフィルムは白濁していた。
このポリイミドフィルムの線熱膨張係数は、膜厚26μmのポリイミドフィルムで66.5ppm/Kであった。このように熱イミド化反応によって作製されたポリイミドフィルムの線熱膨張係数の値は、実施例1〜4に記載の化学イミド化次いでポリイミドワニスのキャスト製膜を経て作製された同組成のポリイミドフィルムの線熱膨張係数よりもはるかに大きく、更にフィルムが白濁することから、ポリアミド酸の段階で製膜次いで熱イミド化する従来の2段階工程は、好ましくないことがわかる。その他の評価結果と合せて表1に特性を示す。
【0081】
<比較例1>
(ポリイミド前駆体の重合)
TFMB0.9607g(3mmol)を脱水NMP10.3gに溶解した。ここに合成例2に記載のTA44BP粉末1.6033g(3mmol)をゆっくり加え、室温で5日間撹拌し、ポリアミド酸を得た(固形分濃度20.0重量%)。ポリアミド酸の固有粘度は、1.99dL/gであった。
【0082】
(化学イミド化反応)
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら2.8mL(30mmol)の無水酢酸と1.2mL(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下したところ、反応溶液がゲル化し、化学イミド化反応を完結することができなかった。これはこのポリイミドの溶媒溶解性が不十分であるためである。この結果は使用したTA44BPの中央ビフェニレン基上に置換基が全く無いことに起因しており、TAHMBP中の置換基が溶媒溶解性に対して如何に重要な役割を演じているかを表している。
【0083】
<比較例2>
(ポリイミド前駆体の熱イミド化)
比較例1で重合したポリアミド酸溶液をガラス基板上に流延し、80℃で2時間熱風乾燥器で乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間、続けて350℃で1時間かけて熱イミド化した。室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。
このポリイミドフィルムをもう一度真空中350℃で1時間熱処理をした。得られたポリイミドフィルムは強く黄色に着色していた。
この結果は、使用したTA44BPの中央ビフェニレン基上に置換基が全く無い構造に起因しており、TAHMBP中の置換基がフィルムの着色抑制に対して如何に重要な役割を担っているかを表している。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
++:室温で可溶、+:沸点付近まで加熱して可溶、−:不溶、
±:膨潤・一部溶解、
b)数日後ゲル化、c)数週間均一な溶液
【0086】
(ポリイミド膜の全光線透過率とヘーズ値)
実施例1〜3、実施例5、実施例6及び比較例2のポリイミドフィルムについて、日本電色工業株式会社製 Haze Meter NDH 4000を用いて、JIS K 7361に準じた全光線透過率と、JIS K 7136に準じたヘーズ値をそれぞれ5回測定し平均値を求め、透明性の指標として用いた。この結果によれば、実施例1〜3及び5のポリイミドについては、全光線透過率が十分に高い値を示しており、ヘーズ値は低かった。しかしながら比較例2のポリイミドフィルムはこれらの値が劣っており、ポリイミドの合成に際して使用したTA44BPの中央ビフェニレン基上に置換基が全く無い構造に起因して着色を抑制できなかったことがわかる。
また、実施例6のポリイミドフィルムについては、全光線透過率、400nmの光透過率、cut‐off波長が比較例2のポリイミドフィルムよりも極めて優れているため、ポリイミドフィルムの透明性は明らかに実施例6の方が比較例2より優れている。なお、実施例6のポリイミドフィルムのヘーズ値は、比較例2のポリイミドフィルムの2倍の膜厚で測定したため、ヘーズ値は比較例2より若干大きくなったが、各例のフィルムの膜厚を考慮すると、実質的には実施例6のポリイミドフィルムの方がすぐれている。
【0087】
【表3】
図1
図2
図3