(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165178
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】再充電可能電池セルの正電極組成物及び電極を作る方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/32 20060101AFI20170710BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20170710BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20170710BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/62 C
H01M4/52
H01M4/80 C
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-556622(P2014-556622)
(86)(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公表番号】特表2015-510243(P2015-510243A)
(43)【公表日】2015年4月2日
(86)【国際出願番号】US2013024854
(87)【国際公開番号】WO2013119608
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年6月22日
(31)【優先権主張番号】13/367,917
(32)【優先日】2012年2月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599163621
【氏名又は名称】オヴォニック バッテリー カンパニー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】コック,ジョン・エム
(72)【発明者】
【氏名】フィエロ,クリスチャン
【審査官】
冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−338677(JP,A)
【文献】
特開平11−003704(JP,A)
【文献】
特開2005−183339(JP,A)
【文献】
特開2000−077067(JP,A)
【文献】
特開2002−338252(JP,A)
【文献】
特開昭57−005344(JP,A)
【文献】
特開2001−357845(JP,A)
【文献】
特開平11−255790(JP,A)
【文献】
特開2007−095544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/32
H01M 4/52
H01M 4/62
H01M 4/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ再充電可能電気化学セルに使用される正電極組成物であって、
水酸化ニッケルと、コバルト金属及び/若しくは酸化コバルト並びに/又は水酸化コバルトを含むコバルト材料との混合物を含むマトリクス材料であって、前記混合物のニッケル成分に対する前記混合物のコバルトの重量%が6%より大きくかつ14%以下であるマトリクス材料と、
前記マトリクス材料の中に分散された水酸化ニッケルの粒子であって、原子%が8%より大きくかつ15%以下のコバルトを含む粒子と
を含む正電極組成物。
【請求項2】
前記マトリクス材料のコバルト重量%は8%から12%の範囲にある、請求項1に記載の正電極組成物。
【請求項3】
前記粒子のコバルトの原子%は7%〜12%の範囲にある、請求項1に記載の正電極組成物。
【請求項4】
前記水酸化ニッケルの粒子は、<101>面からの反射ピークに基づいて100Å未満の粒径を有する複数の微結晶からなる、請求項1に記載の正電極組成物。
【請求項5】
再充電可能アルカリ電気化学セル用の電極を作る方法であって、
水酸化ニッケルと、コバルト及び/又は酸化コバルトを含むコバルト材料との混合物を含むマトリクス材料を与える工程であって、前記混合物の水酸化ニッケル成分に対する前記混合物のコバルトの重量%は6%より大きくかつ14%以下である工程と、
コバルトのドーパントを含む水酸化ニッケルの粒子を与える工程であって、前記コバルトのドーパントの原子%は8%より大きくかつ15%以下である工程と、
電極組成物を形成するべく前記粒子を前記マトリクス材料の中に配置する工程と、
基板を与える工程と、
前記電極組成物を前記基板上に配置する工程と
を含む方法。
【請求項6】
前記水酸化ニッケルの粒子は、実質的に球形であり、かつ、5〜20μmの範囲の平均直径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ再充電可能電気化学セルに使用される正電極組成物であって、
水酸化ニッケルと、コバルト金属及び/又は酸化コバルトを含むコバルト材料との混合物と、希土類材料とを含むマトリクス材料であって、前記混合物のニッケル成分に対する前記混合物のコバルトの重量%が6%より大きくかつ14%以下であるマトリクス材料と、
前記マトリクス材料の中に分散された水酸化ニッケルの粒子であって、原子%が8%より大きくかつ15%以下のコバルトを含む粒子と
を含む正電極組成物。
【請求項8】
前記希土類材料は、イットリウム及び/又は酸化イットリウムを含む、請求項7に記載の正電極組成物。
【請求項9】
前記希土類材料のイットリウムの量は、0.5から5重量%の範囲にある、請求項8に記載の正電極組成物。
【請求項10】
前記希土類材料のイットリウムの量は、0.5から2重量%の範囲にある、請求項8に記載の正電極組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、再充電可能アルカリ電気化学セルに関し、詳しくは、高温性能特性が改善された再充電可能アルカリ電気化学セルに、並びにその製造ための方法及び材料に関する。具体的には本発明は、高温での動作に対して最適化された再充電可能電気化学セル用の正電極を製造する組成物及び方法に関する。
【0002】
本願は、2012年2月7日に出願された米国特許出願第13/367,917号の優先権を主張する。その開示は参照としてここに組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
現在のところ、ニッケル水素電池等を含む電池システムにおいて、ニッケルを包含する再充電可能アルカリセルが広く使用されている。本開示を目的として、用語「電池」及び「セル」は、一つの電気化学セルを言及する場合、互換可能に使用される。ただし、用語「電池」は、複数の電気的に相互接続されたセルも言及し得る。
【0004】
本明細書の議論は主にニッケル水素(NiMH)電池に焦点を当てるが、本発明の電極構造物は、水酸化ニッケル系正電極材料を含む他のタイプの電池に使用することもできる。一般に、NiMHセルは、水素の可逆的な電気化学的吸蔵が可能な水素吸蔵合金から作られた負電極を用いる。NiMHセルはまた、水酸化ニッケル活物質から作られた正電極も用いる。負及び正電極が、アルカリ電解質の中に配置され、かつ、電気化学セルを形成するべく一体のスペーサー材料により分離される。NiMHセル間に電位が適用されると、負電極の表面において水が、一つの水酸基イオン及び一つの水素イオンに解離される。水素イオンは一つの電子と結合して水素吸蔵合金バルク内に拡散する。この反応は可逆的である。放電においては、吸蔵された水素が放出されて水分子が形成され、かつ、電子が放出される。
【0005】
商業的に実現可能なNiMH電池の開発は、1980年代に開始された。特許文献1においてOvshinsky等が教示するように負電極材料を「無秩序」にすることでもたらされる負電極材料の改善があった。かかる負電極材料は、均一かつ単相の負電極のフォーメーションを提唱する当時の他の教示からの完全な逸脱を意味していた。(さらに詳細な議論については特許文献2〜7及びこれらに包含される議論を参照のこと。これらの特許文献の開示は参照としてここに組み入れられる。) かかる無秩序な負電極金属水素化物材料の使用により、効率的かつ経済的な電池アプリケーションに必要な可逆的水素吸蔵特性が著しく高められるとともに、高密度の電力貯蔵、効率的な可逆性、高い電気効率、構造変化又は毒作用なしのバルク水素貯蔵性、長いサイクル寿命、及び深い放電容量を有する電池が得られる。
【0006】
NiMH電池の性能のさらなる改善が、電池の正電極に組み入れられる水酸化ニッケル材料の改善によって得られた。その関連で、構造的及び/又は電子的特性を改善するべく、変性及び/又はドーピング元素が水酸化ニッケル材料に添加された。かかる補償及び/又はドーピング材料はとりわけ、Co、Cd、Zn、Mg及びCaを含む。かかる材料は特許文献8〜16に開示されている。これらの開示は参照としてここに組み入れられる。
【0007】
充電容量は、電池がどれほど多くの電気エネルギーを貯蔵かつ送達できるのかについての尺度である。したがって、充電容量は、いずれのタイプの電池にとっても極めて重要な特性である。先行技術から明らかなことだが、例えばここに開示の先行技術のように、再充電可能電池システムの充電容量を改善するための著しい進歩があった。しかしながら、当業界で認められていることだが、充電容量を含む再充電可能電池の性能特性には、電池システムを高い温度の条件において動作させると悪影響が及ぶ。例えば、従来型NiMH電池では、55℃のようなわずかに高い温度での動作でさえ、電池の動作時間は、同じ電池の室温動作と比べて35から55%だけ低減することがわかっている。この温度関連充電容量損失は、カソード表面での酸素発生を含む望ましくない電極反応の結果の少なくとも一部と考えられている。したがって、電池システムの性能評価においては、充電容量に加え、充電効率も考慮する必要がある。本開示の文脈において、「充電効率」とは、特定の動作条件において実際に利用可能な、電池の理論充電容量の大きさを言及するものとして理解される。この点、高い温度で高い充電効率を有する電池は、かかる条件において、低い温度での充電容量から最大限でもわずかにしか低減しない充電容量を明示すると理解される。それとは逆に、高い温度で低い充電効率を有する電池は、低い温度での充電容量を大きく下回る充電容量を示す。
【0008】
再充電可能電池がしばしば高い温度条件で作動する必要があるという事実を考えると、その高温充電効率を少しでも改善することには大きな商業的意味があることがわかる。以下に説明されるように、本発明は、再充電可能アルカリ電池の高温性能が、当該電池の正電極部分をなす材料のコバルトレベルが特定の範囲内に収まるように選択される場合に著しく改善し得るという知見に基づく。以下の図面、議論及び記載から、本発明のこれら及び他の利点が明らかとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,623,597号明細書
【特許文献2】米国特許第5,096,667号明細書
【特許文献3】米国特許第5,104,617号明細書
【特許文献4】米国特許第5,238,756号明細書
【特許文献5】米国特許第5,277,999号明細書
【特許文献6】米国特許第5,407,761号明細書
【特許文献7】米国特許第5,536,591号明細書
【特許文献8】米国特許第6,228,535号明細書
【特許文献9】米国再発行特許第34,752号明細書
【特許文献10】米国特許第5,366,831号明細書
【特許文献11】米国特許第5,451,475号明細書
【特許文献12】米国特許第5,455,125号明細書
【特許文献13】米国特許第5,466,543号明細書
【特許文献14】米国特許第5,489,314号明細書
【特許文献15】米国特許第5,506,070号明細書
【特許文献16】米国特許第5,571,636号明細書
【特許文献17】米国特許第5,523,182号明細書
【発明の概要】
【0010】
ここに開示されるのは、アルカリ再充電可能電気化学セルに使用される正電極組成物である。組成物はマトリクス材料を含む。マトリクス材料は、水酸化ニッケルと、コバルト並びに/又は酸化コバルト及び若しくは水酸化コバルトを含むコバルト材料との混合物を含む。マトリクス材料におけるコバルトの、水酸化ニッケル成分に対する重量%は、6%より大きくかつ14%までの範囲にある。組成物はさらに、当該マトリクスに分散された水酸化ニッケルの複数の粒子も含む。これらの粒子は、原子%が8%より大きくかつ15%までの範囲にあるコバルトを含む。いくつかの例では、水酸化ニッケル粒子は、当該表面の少なくとも一部分上に配置された伝導性増強カプセル層を含む。このカプセル層は、単独に又は組み合わせて取り入れられる水酸化コバルト及びオキシ水酸化コバルトのようなコバルト系化合物を含む。
【0011】
特定の実施形態において、マトリクス中のコバルト濃度は、8から12重量%の範囲にある。いくつかの実施形態において、水酸化ニッケル粒子は、複数の微結晶の集合体からなる。各微結晶は、<101>面からの反射ピークに基づいて100Å未満の粒径であり、いくつかの例では90Å未満の粒径であり、及び、一つの特定の例では87Åの粒径である。
【0012】
マトリクスは結合剤も含む。電極組成物は、当該組成物が、いくつかの例ではニッケルのような発泡金属を含む基板上に支持されるように電極構造物に組み入れられる。
【0013】
本発明の所定の実施形態において、正電極組成物のマトリクス材料は、コバルトとともに又はその代用としてイットリウムのような希土類金属を含む。
【0014】
さらにここに開示されるのは、正電極組成物を含む電池セルである。またもここに開示されるのは、再充電可能アルカリ電気化学セル用の電極を作る方法であって、マトリクス及び粒子を含むペースト状構造物を基板上に配置することを含む方法である。ペーストにすることは、湿式又は乾式処理によって達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る一体の正電極組成物の断面図である。
【
図2】先行技術に係る典型的な再充電可能セルの性能特性を描くグラフである。
【
図3】本発明に係るセルの性能特性を描くグラフである。
【
図4】本発明に係るもう一つのセルの性能特性を描くグラフである。
【
図5】本発明に係るさらにもう一つのセルの性能特性を描くグラフである。
【
図6】
図2及び3のセルで用いられた電極組成物の調製において使用された水酸化ニッケル粒子状材料に対するX線回折データを示す。
【
図7】
図5のセルで用いられた電極組成物の調製において使用された水酸化ニッケル粒子状材料に対するX線回折データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ニッケル水素セル等のようなアルカリ再充電可能電気化学セルの高温性能、特に高温充電効率が、これらの電気化学セルの正電極の所定のニッケル系成分中のコバルト濃度が所定の特定範囲内に維持されている場合に著しく改善し得るという知見に基づく。さらに、本発明のさらなる側面によれば、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、ランタン及びスカンジウムのような希土類金属を正電極組成物に含めることが、これらのセルの高温充電効率をなおもさらに高めることがわかっている。
【0017】
水酸化ニッケル材料が、ニッケル水素及びリチウムイオン電池のような電池セル用の電極を製造するのに使用される。これらのタイプのセルに組み入れられる水酸化ニッケル材料は頻繁に、電気化学的性能を最適化するべく金属及び金属系元素によってドープ及び/又は変性される。かかるドーパント及び変性剤のいくつかは、Al、Bi、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、In、La、Mg、Mn、Ru、Sb、Sn、Ti、Ba、Si、Sr、Zn、及びイットリウムのような希土類元素を含むがこれらに限られない。特定の例において、少なくとも3つ、好ましくは4つの変性剤が水酸化ニッケル材料のバルク全体に組み入れられる。これら4つの変性剤は、Ca、Co、Mg及びZnが最も好ましい。本発明に関連する実用性を有する変性された水酸化ニッケル材料の一群は、特許文献8に開示されている。その開示は参照としてここに組み入れられる。
【0018】
いくつかの例において、水酸化ニッケル材料は少なくとも一部が、伝導性を高める材料によってカプセル被覆される。カプセル層は、電極の処理中又は充電中の酸化のときに高伝導性の形態に変換可能であり、かつ、当該電極の引き続いての放電のときにその従前の形態へ戻らない材料から形成される。かかる伝導性増強材料は、単独に又は組み合わせて取り入れられる水酸化コバルト及びオキシ水酸化コバルトのようなコバルト系化合物である。かかるカプセル及びその製造方法は、特許文献17に示されている。その開示は参照としてここに組み入れられる。
【0019】
特許文献17は、実質的に連続かつ均一のカプセル層によって取り囲まれた少なくとも一つの電気化学的に活性な水酸化物を含む正電極粒子を開示する。このカプセル層は、処理中又は充電中の酸化のときに伝導性となるが、引き続いての放電のときはその充電前の形態へ戻らない材料から形成される。電気化学的に活性な水酸化物は、少なくとも水酸化ニッケルを含むのが好ましく、Ni/Co/Znの三成分沈殿物を含むのが最も好ましい。水酸化ニッケルは追加的に、Al、Bi、Co、Cr、Cu、Fe、In、La、Mn、Ru、Sb、Sn、Ti及びZnからなる群から選択される少なくとも一つの組成的変性剤、又はAl、Ba、Ca、Co、Cr、Cu、F、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Sr及びZnからなる群から選択される一つの化学的変性剤を含むことができる。カプセル層は、少なくとも水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化マンガン又は酸化マンガンから形成されるのが好ましい。このカプセル層は、塩溶液からの沈殿によって正電極粒子上に形成される。コバルト塩溶液の一例は硫酸コバルト溶液である。特に有用かつ安定した形態のカプセル層は、沈殿直後の水酸化コバルトの空気酸化によって達成される。
【0020】
特許文献17の処理では、水酸化ニッケル粒子は、硫酸コバルト溶液の中に浸漬される。水酸化カリウム溶液が、攪拌された溶液にゆっくり加えられる。二価の水酸化コバルトが、懸濁された水酸化ニッケル粒子上に沈殿する。これによって、粒子の水酸化コバルトによるカプセル被覆が得られる。
【0021】
いくつかの場合、水酸化コバルトのカプセル被覆の有利な効果は、初期電池充電の前に、電池電解質の中に水酸化コバルトが溶解する機会が存在する点にある。例えば、ニッケル水素セルの、最初のフォーメーション充電の前における高温熱処理中、水酸化コバルトのカプセルが溶解かつ移動するので実質的な容量損失がもたらされ得る。これを克服するべく、熱処理を回避することができる。代替的に、さらに安定した形態の水酸化コバルトカプセルを調製することもできる。
【0022】
上記処理の簡単な修正により、二価の水酸化コバルトによってカプセル被覆された水酸化ニッケル粒子を、さらに安定した三価オキシ水酸化コバルトの形態によってカプセル被覆された粒子に変換することができる。水酸化コバルトの沈殿完了後、pHが8から14へシフトするまで、追加的な0.1NのKOHが液滴添加される。これは、二価コバルトの酸化電位をシフトさせる。その結果、酸素によって急速に酸化され得る。得られた被覆済み水酸化ニッケルのアルカリ懸濁液はその後、水酸化コバルト被覆の空気酸化を促すべく、一晩空気中で攪拌される。当該酸化の完了は、被覆済み水酸化ニッケルが薄緑色から暗褐色に変わることによって明らかとなる。下にある水酸化ニッケル粒子の酸化は存在しない。水酸化ニッケルは、水酸化コバルトよりも高い電位で酸化されるからである。得られた懸濁液が慎重にフィルタにかけられ、過剰なアルカリ度を除去するべくリンスされ、及び、カプセル被覆済み水酸化ニッケル粉末を使用しての電極調製前に乾燥される。オキシ水酸化コバルトのカプセルは、オキシ水酸化コバルトの溶解度がかなり低いので、二価水酸化コバルトのカプセルよりも安定している。オキシ水酸化コバルトのカプセルは、延長されたアルカリ熱処理の間であっても著しい溶解を被ることがないので、さらに一般的な有用性がある。
【0023】
安定したオキシ水酸化コバルトカプセル被覆を使用して水酸化ニッケル粒子を製造するもう一つの方法は、水中に懸濁されている化学的に酸化された水酸化ニッケル粒子を、コバルト金属粉末と反応させることである。水酸化ニッケル粉末は、次亜塩素酸ナトリウムによって酸化される。その後リンスされて乾燥される。約10重量%のコバルト粉末と混合される。誘導期の後、オキシ水酸化ニッケルにより、発熱反応においてコバルト金属が酸化されてオキシ水酸化コバルトになる。オキシ水酸化コバルトの優れたカプセル被覆が得られる。また、伝導性被覆が水酸化又はオキシ水酸化コバルトに限られる必要はない。オキシ水酸化コバルトの伝導特性は、金属性が高い他の水酸化物及び酸化物によって共有される。例えば、γ−MnO
2は、実質的に伝導性であり、水酸化ニッケル電極の動作範囲全体で酸化されたままであり、及び、低溶解度である。
【0024】
本発明の電極は、上述のように、ドープ及び/若しくは変性された並びに/又はカプセル被覆された水酸化ニッケルに基づく。当業界で一般に知られている手法により、電極構造物が、「ペースト状」手法を利用して製造される。ここで、ドープ又は変性された水酸化ニッケル粒子状材料のような活物質が、マトリクス材料(これも電気化学的に活性である)と組み合わされて電極組成物が形成される。電極組成物はその後、電極基板、典型的には金属製発泡基板に支持される。
【0025】
ここで
図1を参照する。「ペースト状」電極の製造に使用される典型的な電極組成物10が模式的に描かれている。組成物は、水酸化ニッケル材料の複数の粒子12を含む。これらはマトリクス14の中に配置される。本発明によれば、粒子12は、水酸化ニッケル材料の粒子であり、かつ、特定の例において、一般に上記特許文献8の教示に従う材料である。
【0026】
マトリクス14は、当該粒子を一緒に結合する役割を果たし、さらには、粒子12同士間の比較的低抵抗性の電流経路を与えることによって組成物のバルク電気伝導度を高める。本発明に係る組成物において、マトリクス14は、比較的細かく微粉化された水酸化ニッケルを、コバルト金属及び/又は酸化コバルトであるコバルト含有材料と一緒に含む。マトリクスの水酸化ニッケル成分の粒径は、典型的には5〜20μmの範囲にあり、コバルト成分の粒径は、金属コバルトの例では0.7から1.5μmの範囲にあり、及び酸化コバルトの例では0.7から3.0μmの範囲にある。しかしながら、わかることだが、マトリクス材料に対して他の粒径範囲も用いることができる。マトリクス材料はさらに、組成物に構造的完全性を与える結合剤も含む。結合剤は高分子材料を含み、この目的のために、例えばポリビニルアルコールであるがこれに限られない水溶性高分子を用いることもできる。
【0027】
電極構造物の製造では、上述した正電極組成物が、支持基板に固定される。支持基板は、典型的には電気伝導性である。特定の例において、基板は金属を含む。以下に記載されるいくつかの特定のアプリケーションにおいて、基板は、一体のニッケル発泡体を含む。電極組成物10は、湿式又は乾式処理において基板に適用される。乾式処理では、粒子及びマトリクス材料の密接混合物が基板に適用され、その後、純水又は水性結合剤溶液を含む溶媒材料によって湿潤される。湿式処理では、水又は水性結合剤材料が最初に電極組成物に加えられ、その後、当該電極組成物が基板上に配置される。いずれの例でも、被覆された基板がその後、乾燥されて電極構造物に製造される。ニッケル発泡基板が用いられる例では、被覆された基板は、その厚さを低減して電極構造物を圧縮するべくカレンダリング工程において圧縮される。典型的なカレンダリング処理では、被覆されたニッケル発泡基板の厚さは、近似的に50%まで低減される。
【0028】
上述のように、先行技術の認識では、電極の水酸化ニッケル成分が、コバルトを含む様々な元素によってドープ及び/又は変性されることが好ましい。先行技術の水酸化ニッケル粒子状材料におけるコバルトのレベルは、典型的には1から5原子%の範囲にあり、いくつかの例では8原子%までである。先行技術においては、マトリクス材料のコバルトのレベルは、マトリクス材料の水酸化ニッケル成分の重量に対して典型的には4から6重量%までの範囲にある。
【0029】
本発明の典型的な電極組成物10において、水酸化ニッケル粒子12は、一般に球形の粒子を含む。当該球形粒子は、5〜20μmの平均粒子直径を有する。ただし、いくつかの例において、本発明は、他の粒径及び/又は形状の粒子を利用して実施することができる。いくつかの例において、粒子12は、近似的に材料10の89から96重量%である。しかしながら、他の粒子充填も本発明の範囲内で考慮される。
【0030】
上述のように、材料のマトリクス成分は、コバルトを含むことに加え、特に希土類元素を含む他の元素も含み得る。本発明のさらなる側面によれば、イットリウムのような希土類を正電極組成物10のマトリクス14に組み入れることが、本組成物を組み入れた電池セルの高温充電効率を高めることがわかっている。イットリウムは、遊離金属及び/又は酸化物として存在する。イットリウムの典型的なレベルは、0.5から5重量%の範囲にあり、特定の例では、イットリウムのレベルは0.5から2重量%の範囲にある。これらのレベルはすべて、イットリウム金属に基づいて述べられている。イッテルビウム、エルビウム、ランタン及びスカンジウムのような他の希土類元素に対しても同様の結果が予想される。
【0031】
本発明によれば、再充電可能アルカリセルの高温充電効率の著しい改善が、正電極組成物の粒子状部分及びマトリクス部分双方において特定かつ相乗的なコバルト濃度が維持される場合に得られることがわかっている。本発明者が信じていることだが、最適な高温性能は、電極のマトリクス材料のコバルト濃度が6重量%を超えかつ14重量%以下までの範囲にある場合、及び、水酸化ニッケル粒子のコバルト濃度が8原子%を超えかつ15原子%以下までの範囲にある場合に達成される。以下に示されるように、コバルトがこれらの範囲に存在する場合、電極組成物の粒子状成分及びマトリクス成分が相乗的に相互作用をして最適な高温性能を与えることがわかっている。
【0032】
特定の例において、マトリクス成分のコバルト濃度は少なくとも8重量%であり、特定の例において9から12重量%の範囲にある。特定の例において、マトリクスのコバルト濃度は近似的に11重量%である。特定の例において、粒子のコバルト濃度は少なくとも9原子%であり、一つの特定の例において9から14原子%の範囲にある。一つの特定の例において、粒子のコバルト濃度は近似的に10原子%であり、もう一つの特定の例において近似的に12原子%である。
【0033】
先行技術は、ここに開示されるタイプの電気化学セルのために、一般に用いられる水酸化カリウム系電解質を有する。しかしながら、本発明者は、こうしたタイプのセルの高温性能が、電解質が、少量の水酸化リチウムを伴って主に水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムからなる場合に改善されることを発見した。一つの電解質は、11g/リットルのLiOH添加物とともに、重量でKOH:NaOH:=17.0:83.0を含む。この電解質は、近似的に6.6から7.0のモル濃度を有する。本発明に係るもう一つの典型的な電解質組成物は、重量でNaOH:LiOH:DI水=14.8:1:47.4を含む。この電解質は、近似的に7.7〜8のモル濃度を有する。この電解質を利用するセルが、従前に用いられていた電解質を利用するセルよりも良好な高温性能を明示することがわかっている。
【0034】
本発明のコバルト濃度範囲の使用によって達成される相乗作用を実証するべく、一定数の再充電可能アルカリセルが、様々な正電極組成物を利用する従来型の手法によって調製された。これらのセルが、高温性能に関して評価された。具体的には、この評価に使用された電極はすべて、上述の湿式ペースト法によって調製され、かつ、マトリクス及び水酸化ニッケル粒子双方のコバルトのレベルが変えられた正電極材料を含む。電極は、ニッケル発泡支持体を利用して調製された。得られた正電極は、ニッケル水素合金に基づく負電極を含むセル構造物に組み入れられた。湿潤のためのアクリル酸層が正及び負電極間に配置されたPP/PE系材料を含む一体のセパレータ材料と、上述された水酸化ナトリウム系電解質とがセル構造物に組み入れられた。
【0035】
初期セル容量を決定するセルの組み付け及び電気化学的なフォーメーションに引き続き、各セルが、評価の前に55℃、65℃又は75℃の温度で4時間、オーブンの中に置かれて平衡になることが許容された。こうして調製されたセルはそれぞれ、選択された高い温度に維持されている間に一連の充電/放電サイクルを受けた。充電/放電サイクルは以下のとおりであった。すなわち、サイクル1(48時間0.05Cの速度で充電した後0.2Cの速度で1.0ボルトまで放電)、サイクル2(24時間0.5Cの速度で充電した後0.2Cの速度で1.0ボルトまで放電)、及びサイクル3(24時間0.5Cの速度で充電した後0.2Cの速度で1.0ボルトまで放電)であった。評価結果が
図2〜5に描かれている。
【0036】
図2は、先行技術の典型的な対照セルを表す。水酸化ニッケル粒子のコバルトのレベルは近似的に8原子%であり、ペーストマトリクスのコバルトのレベルは6重量%である。
図2は、初期(サイクルなし)条件下の、及び引き続いての上記3つの充電/放電サイクルそれぞれの、50℃、65℃及び75℃においてセルが明示した室温容量の%を示す。わかるように、充電効率は、増加する温度の関数として著しく減少する。
【0037】
図3は、
図2のものと一般に同様のグラフであり、本発明に係るセルの性能特性を示す。ペーストマトリクス成分のコバルト濃度が11重量%まで増加している。
図3の実験シリーズにおいて、水酸化ニッケル粒子のコバルト濃度は8原子%に維持された。わかるように、このセルの高温充電効率は、特に50℃における性能が著しく増加している。ただし、65℃及び75℃におけるセルの性能は改善されていない。
【0038】
ここで
図4を参照する。
図3のものと一般に同様のセルの性能を描く上記グラフと一般に同様のグラフが示される。ここで、ペーストマトリクス成分のコバルト濃度は11重量%であるが、さらに本発明により、正電極材料の水酸化ニッケル粒子状成分におけるコバルト濃度が10原子%まで増加している。わかるように、高い温度、特に65℃及び75℃におけるこのセルの充電効率は、著しく増加している。
【0039】
図5は、本発明のセルの高温性能特性を示す。ここで、ペーストマトリクス成分のコバルト濃度は11重量%であり、水酸化ニッケル粒子状成分のコバルト濃度は12%である。わかるように、このセルは、50℃から75℃までの全高温範囲にわたり最高の全体的充電効率を明示する。
【0040】
上述のデータが実証しているのは、正電極組成物のペースト成分及び水酸化ニッケル粒子状成分双方のコバルトのレベルが特定範囲内に維持されている場合に、相乗的な相互作用が生じていること、及びNIMHセルの高温充電効率の著しい改善が達成されることである。先行技術ではこれまで、再充電可能セルの高温充電効率の最適化において、マトリクス及び粒子状成分双方のコバルトのレベルが、著しくかつ相互作用的な役割を果たすことが認識されていなかったことを考慮すると、この発見は予想外である。
【0041】
推論によって拘束されることを望むわけではないが、出願人は、本発明によって達成された高温効率の改善は、少なくとも部分的には、電極組成物の粒子成分におけるコバルトの役割に起因しているかもしれないと考えている。出願人は、水酸化ニッケル粒子のコバルト濃度が増加するにつれて、当該粒子を含む微結晶の粒径が、当該粒子の絶対粒径が実質的に一定のままであっても減少すること、及び、上の
図2〜5に関して示されるように、当該粒子のコバルト濃度のこの増加が改善された高温効率と相関することに注目している。
【0042】
X線回折(XRD)は当業界において、材料の結晶粒径を決定する広く認められた方法である。
図6は、例えば、8原子%コバルトを含む水酸化ニッケル材料のXRDデータを示す。この粒子状材料は、
図2及び3にまとめられたデータの生成に用いられた電極組成物の調製に利用された。
図6のデータによって明示されるように、8%コバルト含有水酸化ニッケル粒子を含む微結晶の粒径は、<101>面からの反射ピークに基づくと108Åであった。
【0043】
図7は、12原子%コバルトを包含する水酸化ニッケル粒子状材料に対するXRDデータを示す。この粒子状材料は、
図5にまとめられたデータの生成に用いられた電極組成物の調製に利用された。
図7のデータによって明示されるように、12%コバルト含有水酸化ニッケル粒子を含む微結晶の粒径は、<101>面からの反射ピークに基づくと87Åであった。上で実証されたように、
図5の電池セルは最高の高温充電効率を明示する。この改善は、少なくとも部分的に、水酸化ニッケル粒子を含む材料の、減少した結晶粒径と相関し得る。
【0044】
特に、こうして出願人が発見したのは、ペーストマトリクスに配置された水酸化ニッケル粒子からなる正電極材料を含むタイプの再充電可能アルカリ電気化学セルにおいて、ペーストマトリクス成分が、6重量%より大きく14重量%までの範囲にある量のコバルトを含み、かつ、水酸化ニッケルの粒子が、8原子%より大きく近似的に15原子%までの範囲にある量のコバルトを含む場合に、当該セルの高温充電効率が著しく改善される相乗作用が生じるということである。上述のように、マトリクス成分としてイットリウム又は他の希土類を正電極組成物に含ませることが、電池セルの高温充電効率をさらに高める。そして、これらの改善は、<101>面からの反射ピークに基づいて100Å未満の粒径を有する微結晶からなる水酸化ニッケル粒子を含む組成物を利用した結果でもあり得る。
【0045】
上述の議論及び記載は主に、セルの負電極がニッケル水素材料からなるニッケル水素タイプの電池システムに関連するが、本発明の原理はまた、ニッケルを包含する他の電池システムに関しても用いることができる。
【0046】
ここに提示された教示に鑑み、本発明の他の実施形態及び修正例が、当業者にとって明らかである。上記は本発明の例示であって、その実施についての制限を意味しない。以下の特許請求の範囲こそが、すべての均等なものを含んで本発明の範囲を画定する。