特許第6165181号(P6165181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165181
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】防弾物品を製造するための複合材
(51)【国際特許分類】
   F41H 5/04 20060101AFI20170710BHJP
   F41H 1/04 20060101ALI20170710BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170710BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20170710BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   F41H5/04
   F41H1/04
   B32B27/32 102
   B32B5/24
   C08J5/04CEX
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-558052(P2014-558052)
(86)(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公表番号】特表2015-514952(P2015-514952A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】EP2013052227
(87)【国際公開番号】WO2013124147
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年1月4日
(31)【優先権主張番号】12156211.0
(32)【優先日】2012年2月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ヨアヒム ガーブリッシュ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ザーベル
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/130391(WO,A2)
【文献】 特開2002−295997(JP,A)
【文献】 特開2003−231233(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1404986(CN,A)
【文献】 特表2002−522262(JP,A)
【文献】 特表2012−502249(JP,A)
【文献】 実開昭03−005098(JP,U)
【文献】 国際公開第1997/021334(WO,A2)
【文献】 特開昭63−043113(JP,A)
【文献】 特表2002−530625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41H 5/04
F41H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防弾物品を製造するための複合材であって、ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む少なくとも2層の布層、および前記少なくとも2層の布層の間のポリビニルブチラールの少なくとも1層を含み、その際、ポリビニルブチラール層がフィルムであり、30〜70μmの厚さを示す、前記複合材。
【請求項2】
前記ポリビニルブチラールフィルムが、30〜50μmの厚さを示すことを特徴とする、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記ポリビニルブチラールフィルムが、2質量%未満の添加剤を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項4】
少なくとも1層の布層が、織布層であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の複合材。
【請求項5】
少なくとも1層の布層が、一方向繊維層であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の複合材。
【請求項6】
少なくとも1層の布層が、その片面または両面において、ポリビニルブチラールフィルムで予備含浸されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の複合材。
【請求項7】
少なくとも1層の布層が、芳香族ポリアミド繊維および/またはポリエチレン繊維を含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の複合材。
【請求項8】
防弾物品を製造するために適した複合材の製造方法であって、以下の段階:
i) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む第一の布層を準備する段階、
ii) 前記第一の布層の上部に、ポリビニルブチラール層を配置する段階、
iii) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む第二の布層を、ポリビニルブチラール層の上部に配置する段階、
iv) さらなる布層およびポリビニルブチラール層を用いて、段階ii)およびiii)を随意に繰り返す段階、
を含み、ポリビニルブチラール層が、厚さ30〜70μmを示すフィルムであることを特徴とする前記方法。
【請求項9】
防弾物品を製造するために適した複合材の製造方法であって、以下の段階:
i) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む第一の布層であって、片面または両面がポリビニルブチラール層で予備含浸されている前記第一の布層を準備する段階、
ii) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含むさらなる布層であって、随意に、片面または両面がポリビニルブチラール層で予備含浸されている前記さらなる布層を、前記第一の布層の上部に配置する段階、
を含み、その際、ポリビニルブチラール層は、30〜70μmの厚さを示すフィルムであることを特徴とする、前記方法。
【請求項10】
温度および圧力によって、複合材をさらに処理して、ポリビニルブチラールフィルムを溶融することを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリビニルブチラールフィルムが、2質量%未満の添加剤を含むことを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1層の布層が、芳香族ポリアミド繊維および/またはポリエチレン繊維を含むことを特徴とする、請求項8から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の複合材から得られる防弾物品。
【請求項14】
防弾物品を製造するための複合材であって、ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む少なくとも1層の布層、およびポリビニルブチラールの少なくとも1層を含み、その際、ポリビニルブチラール層はフィルムであり、且つ、30〜70μmの厚さを示す、前記複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防弾物品を製造するための複合材であって、少なくとも2層の繊維層と、前記少なくとも2層の繊維層の間の少なくとも1層のポリビニルブチラールとを含む前記複合材に関する。本発明は、かかる複合材、かかる複合材から得られる防弾物品、例えばヘルメットまたはプレートを製造するための方法にも関する。
【0002】
熱可塑性ポリマー材料の中間層を含有する防弾物品を製造するための複合材は、従来技術から公知である。
【0003】
U.S.2010/0307629号は、貫通および侵入耐性を有するテキスタイル構造の連続的な製造方法であって、中間層が上層と下層との間に挿入され、その後、この組み立て品がホットプレスまたはコールドプレスによって一緒に結合される前記方法を開示している。U.S.2010/0307629号の中間層は、少なくとも、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、スチレンブタジエン、ポリカーボネート、フェノールまたはポリビニルブチラール、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、天然または合成ゴム、シリコーンポリマー、およびその種のものを含む群から選択されるポリマーで製造される。
【0004】
従来技術の複合材は、中間層のために使用されるポリマーが、高温での架橋を必要とするか、且つ/または長期の保管に適していないという欠点を有する。特に、中間層のために必要とされる従来技術のポリマーの輸送が必要な場合、望ましくない早期の架橋を回避するために、この輸送を低温で行わなければならない。中間層がフェノールを含有する場合、保管および輸送の間の温度が−20℃を超えてはならない。さらには、中間層のために使用されるポリマーは、均質に適用するのが容易ではない。これらの条件が、製造コストを上昇させ、且つ、製造工程を複雑にする。さらには、いくぶん長い架橋時間のために、製造工程の間にポリマーが流出することがあり、金型および周囲の領域を汚染することがある。
【0005】
最後に述べるが決して軽んじるべきではないことに、従来技術の中間層のためには、溶剤が必要とされ、そのことが複合材をより高価にし、且つ、取り扱いがより煩雑になる(即ち、環境の観点から)。
【0006】
US2009/0297794号において、ベース層および薄膜層を有するラミネートが開示されている。前記のラミネートは、常用物品、例えばレインコート、靴、または傘のために提供される。薄膜層は、ポリビニルブチラールで製造され、且つ、物品の外面に配置される。いずれの実施態様においても、薄膜層は2つの繊維層の間に配置されている。これに加え、高強度繊維の使用は、この文献内には開示されていない。
【0007】
文献DE102009037171号はフィルム(foil)およびパネルで製造される物品も開示している。開示された物品は、航空宇宙分野において使用される。全ての実施態様において、フィルムは、鳥またはその種のものの衝撃からパネルを守るために、パネルの外表面上に設置される。従って、フィルムの移動は望ましくなく、且つ有用ではない。この開示に加え、フィルムは少なくとも100μmの厚さである。
【0008】
従って、本発明の課題は、従来技術の欠点を少なくとも低減する複合材を提供することである。
【0009】
この目的は、防弾物品を製造するための複合材であって、ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む少なくとも2層の布層、および前記少なくとも2層の布層の間のポリビニルブチラールの少なくとも1層を含み、その際、ポリビニルブチラール層がフィルムであり、且つ、30〜70μm、さらにより好ましくは30〜50μmの厚さを示す、前記複合材を実現することである。
【0010】
意外なことに、非常に薄いポリビニルブチラール層が施与されるにもかかわらず、本発明の複合材から得られる物品の防弾性能は、少なくとも従来技術のものと同水準である。このことは、特にヘルメットについて有利であり、なぜなら、全体の質量が少なくとも同水準のままであるからである。さらには、ポリビニルブチラールがフィルムとして施与されるので、その取り扱い、保管および施与が容易且つ便利であり、且つ、溶剤が必要とされない。さらには、本発明の防弾物品を製造するために、フェノール樹脂および架橋剤または硬化剤は必要とされない。
【0011】
ポリビニルアルコールと、好ましくは脂肪族アルデヒド、特にn−ブチルアルデヒドおよび/またはアセトアルデヒドとの酸触媒アセタール化によるポリビニルブチラールの製造は当業者によく知られている。EP0950696号(DE19816722号A1に対応)内に開示されるポリビニルブチラールおよび/またはそれらの製造方法が特に適している。文献EP0950696号の例1において、ポリビニルブチラールの製造は以下のとおりに開示されている:
重合度360および加水分解度88mol%を有するポリビニルアルコール540gを6600mlの水中に溶解する。ブチルアルデヒド269gの添加後、20%の塩酸1090mlを計量供給して、0℃で反応が開始される。塩酸の計量供給の完了後、反応混合物を3時間にわたって、30℃に温め、且つ、この温度でさらに2時間保持する。析出した粒状物をろ過して取り出し、且つ、十分な水で洗浄する。中和もしくはアルカリ化のために、懸濁された生成物を10%の水酸化ナトリウムで処理し、再度、わずかに温める。過剰な塩基を水で洗浄することによって除去する。その後、生成物を乾燥させる。得られたポリビニルブチラールは、アセテートの残留含有率13.5%、およびポリビニルアルコールの残留含有率18mol%を示す。Hoeppner (DIN 53015)による粘度は、エタノール中の10%溶液で13.75mPasであり、酢酸エチル中の10%溶液で8.52mPasである。
【0012】
「ポリビニルブチラール」という用語は、ポリビニルアルコールと、1つまたはそれより多くの脂肪族アルデヒドとのアセタール化の任意の反応生成物に関する。
【0013】
好ましくは、本発明において使用されるポリビニルブチラールは、ポリビニルアセテート含有率1〜20質量%、特に1〜10質量%、およびポリビニルアルコール含有率10〜35質量%、好ましくは11〜27質量%、および特に16〜21質量%を有する。
【0014】
ポリビニルブチラールの重合度Pwは、好ましくは100〜1000、特に好ましくは100〜800、殊に100〜500である。
【0015】
適したポリビニルブチラールは、押出によって、または溶液流延法によって自立膜を形成するために十分に高い分子量を有する。適した分子量は、5mPas〜3000mPas、好ましくは5mPas〜2500mPasおよび特に5〜2000mPas、特に20〜200mPasの範囲の粘度によって示される。
【0016】
適したポリビニルブチラールは、例えば銘柄Mowital B 16 H、Mowital B 75 HまたはPioloform BL 16(Kuraray Europe GmbH)として市販されている。
【0017】
本発明において使用されるポリビニルブチラールフィルム(本発明において「膜」とも称する)は、例えばブロー膜押出ラインを用いた押出によって、または好ましくは、フラット膜ダイおよびチルロールを使用した流延押出によって製造され、なぜなら、その際、収縮値が非常に低いからである。押出ラインのための加工温度は、200〜250℃、好ましくは240〜250℃である。フラット膜ダイは、250〜280℃、好ましくは260〜275℃に加熱される。押出スクリューおよびメルトポンプの回転は、圧力発生に関連する。通常、メルトポンプ後の圧力は180〜200barである。押出ラインのスクリュー速度は、25〜50rpmであり、メルトポンプの速度は10〜25rpmである。
【0018】
膜厚は、流延膜ラインの取り込み速度に依存し、且つ、必要とされる膜厚が達成されるまで整えられなければならない。
【0019】
そのような膜またはフィルムは、膜厚10〜100μmを有するMowital BF(Kraray Europe GmbH製)として市販もされている。
【0020】
本発明において使用されるPVBフィルムは、2質量%まで、好ましくは1質量%未満の添加剤、特に0.5質量%未満の添加剤を含有することができる。好ましい実施態様において、「純粋な」ポリビニルブチラール製のフィルムは、例えば0質量%の添加剤を含有する。
【0021】
添加剤として、無機充填材、例えば顔料、染料または粘度、UV安定剤、酸化安定剤、可塑剤または水を用いることができる。
【0022】
一般に使用される可塑剤は、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコール、特にトリエチレングリコール−ビス−2−エチルヘキサノエート(3G8)の脂肪族ジエステルである。脂肪族または脂環式エステル部分を有するジアルキルアジペート、例えばジヘキシルアジペート、ジアルキルセバケート、トリオルガノホスフェート、トリオルガノホスフィットまたはフタレートベースの可塑剤、例えばベンジルブチルフタレートまたはそれらの水素化生成物、例えばジイソノニルシクロヘキシルジカルボン酸(DINCH)も使用される。
【0023】
適したUV安定剤は、アミンベースのもの、例えばテトラメチルピペリジンであってよい。1級、2級および3級の直鎖アミンの次に、製品「HALS」として知られる立体障害アミンを、多核フェノール化合物と共に補助安定剤として用いることができる。
【0024】
本発明の内容において、「複合材」という用語は、「予備含浸された」繊維についての用語であるいわゆる「プリプレグ」を包含する。それらは通常、織物の形態をとるか、または一方向性の、しかし縦編みであってもよいか、または多軸の布である。より一般的には、それらは繊維のネットワークの形態である。それらは既に、製造の間に、それらを一緒に且つ他の要素と結合するために使用されるフィルムを含有している。従って、ポリビニルブチラールフィルムが、例えば布層の片面または両面に貼り合わされて、プリプレグが得られる。2つまたはそれより多くのそれらのプリプレグを、互いの上部に設置し、その後、熱および/または圧力によって処理することができる。
【0025】
本発明の1つの実施態様において、複合材は、少なくとも2つの(またはそれより多くの)布層および布層の間の中間層としての少なくとも1つのポリビニルブチラールフィルムを含む。従って、布層をフィルムで予備含浸するのではなく、互いに別々に組み立てて、その後、熱および圧力によって引き続き処理することができる。
【0026】
本発明の1つの実施態様において、複合材の布層または複合材の布層の少なくとも1つは、織布層である。
【0027】
織布層は、好ましくは平織り、朱子織り、バスケット織りおよび/または綾織りを有する。1つより多くの織布層が使用される場合、織布層は、同一または異なる織り方を有する。1つの織布層が1つより多くの織り方を有することも可能であり、その際、この織布層を、1つより多くの織り方を有する織布層と組み合わせて、または1つの織り方を有する1つまたはそれより多くの織布層と組み合わせて使用することができる。1つの実施態様において、少なくとも1つの織布層は、1000フィラメントを有する1680のアラミドヤーンから製造される。織布は、好ましくは2000の縦糸/横糸の関わりを有しており、且つ、バスケット織り(2×2)である。cmあたりの縦糸および横糸は127であり、且つ、面密度は410g/m2である。そのような布は、Teijin Aramid GmbHによって、名称CT 736として販売されている。他の布、例えばT750 (3360 dtex)(Teijin Aramid製)も使用できる。
【0028】
他の好ましい実施態様において、前記布層または前記布層の少なくとも1つは、一方向繊維層である。本願においては、「繊維」という用語は、比較的柔軟性のある巨視的には均質な物体であって、長さに対する、その長さ方向に垂直な断面を横切る幅の比が高い前記物体として定義される。「繊維」という用語は、テープの形態も含む。繊維の断面は任意の形状であってよいが、しかし典型的には円形である。ここで、「フィラメント」という用語は、「繊維」という用語と互換的に使用される。繊維は任意の長さであってよい。繊維は、連続的なフィラメントであってよく、それは典型的には1メートルまたはさらに長いフィラメントである。フィラメントは、多くの場合、マルチフィラメントヤーンの一部として連続的な形態で紡糸され、糸巻きに巻き付けられ、その後、所望の量が糸巻きに設置された後に切断される。フィラメントを、長さ0.64cmから12.7cmを有するステープルファイバーに切断することができる。ステープルファイバーは、直線状(即ち、うねっていない)または長さ方向に沿って、1cmあたりのカール(または繰り返す曲がり)が1.4〜7.1であるカールの周期を有する鋸刃形状のカールを有してカールしていてよい。「ヤーン」という用語は、テキスタイル繊維の連続的なストランド、フィラメント、または編んで、織って、またはそうでなければ絡み合わせて布層を形成するために適した形態の材料についての一般的な用語である。
【0029】
一方向繊維層において、層内の全ての繊維は同じ方向に配置されており、その際、繊維は好ましくは互いにほぼ平行に配置されている。一方向繊維層は、一方向繊維を1つの層中で接続する接結糸および/または結合用のポリビニルブチラールフィルムを有することができる。一方向繊維層が、1つより多くの一方向繊維層を互いに接続する接結糸を有することも可能である。1つより多くの一方向繊維層を使用する場合、各々の層における繊維を、後続の一方向繊維層に対して、特定の角度で配置することができる。これは、第一の一方向繊維層が0°の方向に配置され、後続の一方向繊維層が0°以外の方向、例えば±45°または90℃の方向で配置されることを意味する。後続の層における繊維が、互いに平行に、しかし互いに埋め合わせる(offset)ことも可能である。
【0030】
1つの好ましい実施態様において、複数の布層が複合材のために使用され、その際、織布層のみ、一方向繊維層のみ、または一方向繊維層と織布層との組み合わせを使用することができる。
【0031】
好ましくは、少なくとも2層の布層の少なくとも1層の布層は、芳香族ポリアミド繊維および/またはポリエチレン繊維を含む。特に好ましくは、少なくとも1層の布層は、ポリ(p−フェニレン−テレフタルアミド)繊維および/または超高ポリエチレンテープを含む。少なくとも1つの布層が、芳香族ポリアミドのコポリマーを含むことも好ましい。
【0032】
好ましくは、複数のアラミド織布層と、複数の一方向繊維層との組み合わせが使用され、その際、一方向繊維層はテープ製であり、前記テープは超高分子量ポリエチレン製である。そのようなテープ製の一方向繊維層の製造は、国際出願PCT/NL2006/000179号内、およびEP1908586号内に記載されており、前記の内容は参照をもって本願に含まれるものとする。文献EP1908586号は、以下を開示している:
ポリマーテープの少なくとも2層のモノレイヤーで形成される積層物の製造方法であって、
前記ポリマーテープが少なくとも200MPaの引張強度を有しており、
前記方法は、
・ ポリマーテープを予め引っ張り、引き続きポリマーテープを一方向に引っ張りながら平行に配置することによって、ポリマーテープの第一のモノレイヤーを形成する段階、
・ 第一のモノレイヤーを形成したのと同様の方法で、第一のモノレイヤー上で少なくとも1層の第二のモノレイヤーを形成する段階、それによって
・ ポリマーテープの少なくとも2層のモノレイヤーを、全てのモノレイヤーにおいてポリマーテープの方向が同じになり且つ各々のモノレイヤーのポリマーテープが、そのモノレイヤーの上または下の隣接するモノレイヤーのテープに対して埋め合わせるように積層する段階、
・ そのように積層されたポリマーテープのモノレイヤーを固めて、積層物を得る段階
を含む、前記方法。
【0033】
ポリビニルブチラールフィルムが、防弾物品内の2つの連続した布層の間に施与されることが好ましい。好ましくは、前記フィルムは布層の主に広がる領域上に施与される。好ましい実施態様において、防弾物品は、第一の布層、第一の布層上のフィルム、および第一の布層のフィルムの上部の第二の布層によって構成され、その際、フィルムを有するさらなる布層が続くことができる。
【0034】
フィルムは、布層の間に敷かれてもよいし、例えば貼り合わせ加工によって層に固定されてもよい。
【0035】
本発明は、防弾物品を製造するための複合材であって、ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む少なくとも1層の布層、およびポリビニルブチラールの少なくとも1層を含み、その際、ポリビニルブチラール層はフィルムであり、且つ、30〜70μmの厚さを示す、前記複合材にも関する。
【0036】
少なくとも2層の布層を含む複合材についての全ての好ましい実施態様も適しており、且つ、少なくとも1層を含む複合材のために好ましい。特に、添加剤の量、布層としての織物または一方向層、布層が片面または両面においてフィルムで予備含浸されること、および布層のための繊維の種類は、2層の布層を含む複合材についての記載と好ましくは同様である。
【0037】
本発明は、防弾物品を製造するために適した複合材の製造方法であって、以下の段階:
i) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む第一の布層を準備する段階、
ii) 前記第一の布層の上部に、ポリビニルブチラール層を配置する段階、
iii) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む第二の布層を、ポリビニルブチラール層の上部に配置する段階、
iv) (高強度繊維を有するまたは有さない)さらなる布層およびポリビニルブチラール層を用いて、段階ii)およびiii)を随意に繰り返す段階、
を含み、その際、ポリビニルブチラールは、30〜70μm、より好ましくは30〜50μmの厚さを示すフィルムである、前記方法にも関する。
【0038】
さらには、防弾物品を製造するために適した複合材の製造方法であって、以下の段階:
i) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含む第一の布層であって、片面または両面がポリビニルブチラール層で予備含浸されている前記第一の布層を準備する段階、
ii) ASTM D−885に準拠する少なくとも1100MPaの引張強度を有する高引張強度の繊維を含むさらなる布層であって、随意に、片面または両面がポリビニルブチラール層で予備含浸されている前記さらなる布層を、前記第一の布層の上部に随意に配置する段階、
を含み、その際、ポリビニルブチラール層は、30〜70μm、より好ましくは30〜50μmの厚さを示すフィルムである、前記方法が特許請求される。
【0039】
好ましくは、前記複合材は、温度および圧力によって、例えばカレンダー処理によって、ポリビニルブチラールフィルムを溶融するためにさらに処理される。
【0040】
この方法によって製造された複合材は、その繊維層の少なくとも1つが、上述のとおり、芳香族ポリアミド繊維および/またはポリエチレン繊維を含むことを特徴とする。
【0041】
本発明は、上述の複合材から得られる防弾物品、例えばヘルメットまたはプレートにも関する。
【0042】
前記プレートを、軟質の防弾品(soft−ballistic)内、または硬質の防弾品(hard−ballistic)内で使用することができる。
【0043】
防弾物品がヘルメットである場合、ヘルメットは好ましくはアラミド製の層および同一または異なる適したポリマー、例えばポリエチレン製のさらなる層を含むことができる。そのような場合、アラミド部材および/またはポリエチレン部材は、布層で作られており、その際、前記少なくとも1つ、好ましくは複数の布層が前記部材を形成する。アラミド部材は、好ましくは、ポリ(パラ−フェニレン−テレフタルアミド)繊維製の布層を含有し、且つ、ポリエチレン部材は、好ましくは、超高分子ポリエチレン製のテープ層を含有する。好ましい実施態様において、ヘルメットは、(ユーザーの頭部から始まって)アラミド織布層製の第一の部材、超高分子ポリエチレンテープ製の第二の部材、およびアラミド織布製の第三の部材を含み、その際、3つの部材の全ては、互いに接続されて、1つの単独の外殻になっている。これは、ポリエチレン部材が、2つのアラミド部材の間に挟まれていることを意味する。
【0044】
ポリエチレン層の融点が許すならば、層間の接続は単にポリビニルブチラールフィルムを溶融することによって達成できる。好ましい実施態様において、上述のポリビニルブチラールフィルムは、アラミド部材とポリエチレン部材との間に配置される。さらに好ましい実施態様において、上述のポリビニルブチラールフィルムは、アラミド部材を形成する布層の間およびアラミド部材自体の間に施与される。好ましい実施態様において、ポリエチレン部材は、上述のポリビニルブチラールフィルムを含まず、且つ、アラミド部材だけがポリビニルブチラールフィルムを含む。
【0045】
ポリビニルブチラールフィルムは、溶剤を用いない膜の製造を可能にし、ひいては、放出物がないことを可能にする。フィルムおよびそれぞれの複合材中に残留フェノールおよびホルムアルデヒド成分は残されない。膜の保管は、フェノールを含む標準的な系と比較して安価である。ポリビニルブチラール複合材は、簡単で費用効率の良い輸送条件、および実質的に無期限の室温での保管性を可能にする。
【0046】
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【0047】
a) ポリビニルアセテート含有率の測定
ポリビニルアセタール含有率は、物質1gの鹸化に必要な水酸化カリウム溶液の消費に由来するアセチル基の質量%での割合を意味すると理解されるべきである。
【0048】
測定方法 (EN ISO 3681に基づく):
調査されるべき物質約2gを、500mlの丸底フラスコ内へと、正確に1mgに計量供給し、且つ、90mlのエタノールおよび10mlのベンジルアルコール中で還流させながら溶解する。冷却後、溶液をフェノールフタレインに対して、0.01NのNaOHで中和する。引き続き、25.0mlの0.1NのKOHを添加し、且つ、還流させながら加熱を1.5時間行う。前記のフラスコを閉じた状態で冷却し、且つ、過剰な液体を、指示薬としてのフェノールフタレインに対して、0.1Nの塩酸を用いて、永続的な変色が得られるまで滴定する。ブランクを同様に処理する。PV酢酸の含有率を、以下のように計算する:
PV酢酸含有率[%]=(b−a)*86/E
(式中、a=試料についての0.1NのKOHの消費[ml]、b=ブランク試験についての0.1NのKOHの消費[ml]、およびE=乾燥状態における、計量された検査されるべき物質の量[g])。
【0049】
b) ポリビニルアルコール基の含有率の測定
ポリビニルアルコール基の含有率(ポリビニルアルコールの含有率)は、無水酢酸との次のアセチル化によって検出可能であるヒドロキシル基の割合である。
【0050】
測定方法(DIN 53240に基づく):
約1gのMowitalをm300mlの三角フラスコに正確に1mg計量供給し、10.0mlの無水酢酸ピリジン混合物(23:77v/v)を添加し、これを15〜20時間、50℃に加熱する。冷却後、17mlの1,2−ジクロロエタンを添加し、短時間回転させる。次に、8mlの水を撹拌しながら添加し、フラスコを栓で閉じ、且つ、10分間撹拌を行う。フラスコの首と栓を50mlの脱イオン水で濯ぎ、5mlのn−ブタノールで覆い、且つ、遊離酢酸を、フェノールフタレインに対して、1Nの苛性ソーダ溶液を用いて滴定する。ブランク試料を同様に処理する。ポリビニルアルコール含有率を、以下のように計算する:
ポリビニルアルコール含有率[%]=(b−a)*440/E
(式中、a=試料についての1NのNaOHの消費[ml]、b=ブランク試料についての1NのNaOHの消費[ml]、およびE=乾燥状態における、検査されるべき物質の計量された量[g])。
【0051】
c) 粘度の測定
使用されるポリビニルアセタールの粘度を、DIN53015に準拠して、20℃で、5質量%の水を含むエタノール中の10質量%の溶液において、ヘプラー粘度計内で測定する。
【0052】
d) 重合度Pwの測定
重合度Pwを、ポリビニルアルコールにおいてより容易に測定することができ、且つ、それはアセタール化の間、変化しない。例としてポリビニルブチラールを使用して、重合度Pwは以下の式:
【数1】
に従って計算され、Mwは、静的光散乱と組み合わせた再アセチル化された試料におけるゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって行われる(絶対法)。Mwの値の精度は、+15%として測定された。
【0053】
加水分解度(DH[モル%])は、以下の式:
【数2】
に従って計算される。
【0054】
エステル値(EV)は、以下のとおり、以下の式
【数3】
(式中、a=0.1NのKOHの消費[ml]、b=ブランク試料についての0.1NのKOHの消費[ml]、E=計量供給されたポリビニルアルコールの正確な量)
を使用して決定される。
【0055】
約1gのポリビニルアルコールを、250mlの丸底フラスコに導入し、且つ、70mlの蒸留水および30mlの中和アルコールを添加し、ポリビニルアルコールが完全に溶解されるまで還流下で加熱する。冷却後、フェノールフタレインに対して、0.1NのKOHを用いて中性になるまで滴定を行う。中和が完了したら、0.1NのKOH 50mlを添加し、且つ、この混合物を還流下で1時間加熱する。過剰な液体を、指示薬としてのフェノールフタレインに対して、0.1NのHClを用いて、溶液の色がもはや戻らないところまで逆滴定する。同時に、ブランク試料を用いて試験を行う。
【0056】
実施例
実施例は、上述の複合材から得られたヘルメットに関する。
【0057】
ヘルメットの外殻は、18のアラミド織布層を含む。Kuraray Europe GmbH製のポリビニルブチラール膜LP BF7−50(厚さ50μm)を、隣接するアラミド層間に配置する。比較のために、アラミド層が、代わりにフェノールポリビニルブチラール樹脂によって接続されている同様のヘルメットを製造する。該ヘルメットを一段階の成形で製造する。
【0058】
LP BF7−50は、ポリビニルアルコール含有率18〜21質量%、ポリビニルアセテート含有率1〜2質量%を有し、且つ、粘度60〜100mPasを有するポリビニルブチラールからなる。前記膜はいかなる添加剤も含まない。
【0059】
該ヘルメットの外殻は1086gの重量であった。
【0060】
ヘルメットの弾道性能、つまり、v50値および損傷値を、ドイツ連邦国防軍の「Technische Lieferbedingung Gefechtshelm TL8470 − 0008、03年12月3日」に準拠し、1.1gのフラグメントシミュレーティング発射体(Fragment Simulating Projectile)(FSP)を用いて試験する。
【0061】
本発明による複合材を含むヘルメットにおいて測定されたv50値は、従来技術の材料で得られたヘルメットよりも高いこと(680m/s)が判明した。本発明のヘルメットは、著しく低い損傷値も示し、前記値は、従来技術のヘルメットを用いて得られた値よりも約10mm低い(9mm DM41弾を用いて)。