(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸湿性多孔質被覆層は、珪藻土、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、カネマイト、ノントロナイト、ソーコナイト、タルク、マイカ(雲母)、アイラアイト、マカタイト、及びケニヤアイトからなる群から選択される少なくとも一種の多孔質物質を含む請求項1〜7の何れか一項に記載の人工土壌粒子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人工土壌の開発にあたっては、天然土壌と同等の植物育成力を達成しながら、保水性や通気性を適切に維持できる機能が求められる。特に、植物が利用可能な水(易効水)を確保しながら、人工土壌の通気性を適切に維持することは、植物に対する水遣り回数の低減や、植物の種類に応じた最適な栽培スケジュールを実現するために必要なことである。ここで、人工土壌の通気性は、その人工土壌を構成する人工土壌粒子の間に形成される隙間と関係し、隙間を最適な状態に維持することが、高い通気性を実現することにつながる。
【0006】
この点、特許文献1の人工団粒体は、無機物質材を有機植物繊維等に絡ませて結合剤によって粒状化したものであり、有機植物繊維が人工団粒体の表層部に存在している。有機植物繊維は親水性が強いことから、人工団粒体の表層部に水が吸着され易く、そのため、人工団粒体間に余分な水分が長期間保持されることになる。その結果、人工団粒体の通気性が低下する虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、良好な保水性を維持しながら、高い通気性を維持することができる人工土壌粒子を提供することを目的とする。また、当該人工土壌粒子を使用した人工土壌培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌粒子の特徴構成は、
繊維を集合してなる基部と、
前記基部を被覆する吸湿性多孔質被覆層と、
を備えたことにある。
【0009】
本構成の人工土壌粒子によれば、基部の繊維間に空隙が形成され、当該空隙に水分を保持することができる。また、基部は吸湿性多孔質被覆層で被覆されていることから、人工土壌粒子の外部に存在する水分は吸湿性多孔質被覆層に吸収され、外部の水分環境を調節することができる。その結果、人工土壌粒子の集合体である人工土壌培地としての保水性及び通気性を確保することができ、栽培植物に対する水分環境を良好な状態に維持することができる。
【0010】
本発明に係る人工土壌粒子において、
灌水から24時間以内にpF値が1.7に到達する水分特性を有することが好ましい。
【0011】
本構成の人工土壌粒子によれば、灌水から24時間以内にpF値が1.7に到達する水分特性を有していることから、人工土壌粒子の外部に余分な水分が溜まり難い。その結果、人工土壌粒子の集合体である人工土壌培地としての良好な通気性を確保することができ、栽培植物に対する水分環境を最適な状態に維持することができる。
【0012】
本発明に係る人工土壌粒子において、
48時間以上に亘ってpF値が1.7〜2.7の範囲に存在する水分特性を有することが好ましい。
【0013】
本構成の人工土壌粒子によれば、48時間以上に亘ってpF値が1.7〜2.7の範囲に存在する水分特性を有することから、植物が利用可能な水分、いわゆる易効水を人工土壌粒子の内部に長時間保持することができる。従って、一回灌水を行うと、人工土壌粒子から栽培植物に長時間に亘って水分を供給し続けることができるようになり、その結果、植物に対する水遣り回数を低減することができる。
【0014】
本発明に係る人工土壌粒子において、
pF値1.5における気相率が30%以上に設定されていることが好ましい。
【0015】
本構成の人工土壌粒子によれば、pF値1.5における気相率が30%以上に設定されていることから、保水性及び通気性が高い次元でバランスされ、易効水を最適に確保することができる。その結果、植物に対する水遣り回数を低減したり、植物の種類に応じた最適な栽培スケジュールを実現することが可能となる。
【0016】
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記吸湿性多孔質被覆層の厚みaと前記基部の直径bとの比率a/bが、1/1200〜1/200に設定されていることが好ましい。
【0017】
本構成の人工土壌粒子によれば、吸湿性多孔質被覆層の厚みaと基部の直径bとの比率a/bを1/1200〜1/200に設定することで、人工土壌粒子の水分の保持能力と、外部の水分環境を調節する機能とを高い次元でバランスすることができる。その結果、人工土壌粒子の集合体である人工土壌培地としての良好な保水性及び通気性を確保することができ、栽培植物に対して水分環境を最適な状態に維持することができる。
【0018】
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記吸湿性多孔質被覆層の厚みaは、5〜10μmであることが好ましい。
【0019】
本構成の人工土壌粒子によれば、吸湿性多孔質被覆層の厚みaを5〜10μmとすることで、人工土壌粒子の外部に存在する余分な水分は吸湿性多孔質被覆層に速やかに吸収され、外部の水分環境の調節が容易なものとなる。従って、人工土壌粒子の外部に水が溜まることを抑制し、人工土壌粒子の集合体である人工土壌培地としても良好な通気性を確保することができる。
【0020】
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記基部の直径bは、2〜6mmであることが好ましい。
【0021】
本構成の人工土壌粒子によれば、基部の直径bを2〜6mmとすることで、基部の容量を十分に確保しつつ、特に根菜類の栽培に適した人工土壌を構成することができる。
【0022】
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記吸湿性多孔質被覆層は、珪藻土、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、カネマイト、ノントロナイト、ソーコナイト、タルク、マイカ(雲母)、アイラアイト、マカタイト、及びケニヤアイトからなる群から選択される少なくとも一種の多孔質物質を含むことが好ましい。
【0023】
本構成の人工土壌粒子によれば、吸湿性多孔質被覆層は、上掲の吸湿性を有する多孔質物質を含むことから、人工土壌粒子の外部に存在する水分は吸湿性多孔質被覆層に確実に吸収され、外部の水分環境を容易に調節することができる。従って、人工土壌粒子の外部に水分が溜まることを抑制し、人工土壌粒子の集合体である人工土壌培地としても良好な通気性を確保することができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌培地の特徴構成は、
上記の何れか一つの人工土壌粒子を使用したことにある。
【0025】
本構成の人工土壌培地によれば、本発明の人工土壌粒子を使用していることから、人工土壌粒子の内部に水分を保持することができるとともに、人工土壌粒子の外部の水分環境を最適な状態に調節することができる。従って、良好な保水性及び通気性を確保することができ、栽培植物に対する水分環境を良好な状態に維持することができる。このような人工土壌培地は、植物工場等で好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る人工土壌粒子、及び当該人工土壌粒子を用いた人工土壌培地に関する実施形態を
図1〜
図4に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0028】
<人工土壌粒子>
図1は、本発明に係る人工土壌粒子50を模式的に示した説明図である。人工土壌粒子50は、繊維1を集合してなる基部10と、基部10を被覆する吸湿性多孔質被覆層2とを備えている。
図1に示すように、基部10は、繊維1が複雑に集合した状態で造粒されたものであり、粒状に形成されている。吸湿性多孔質被覆層2には吸湿性を有する多孔質物質が含まれており、例えば、多孔質物質を樹脂材料に混合してペースト化し、多孔質物質含有ペーストを基部10の外表部にコーティングすることにより吸湿性多孔質被覆層2が形成される。本実施形態では、人工土壌粒子50は、
図1に示すように、球状に近い立体形状に構成されているが、例えば、扁平したラグビーボール形状、突起を有する金平糖形状、多面体形状、一定以上の厚みを有する板状、不定形状等に構成することも可能である。
【0029】
基部10の形成に使用する繊維1の形態は、長繊維又は短繊維である。短繊維には繊維長が極めて小さい粉末状繊維も含まれる。長繊維又は短繊維を造粒することで、繊維1が集合した基部10が形成される。造粒の際、必要に応じて樹脂や糊等のバインダーを使用することも可能である。基部10の内部の集合した繊維1の間には空隙3が形成されている。基部10は、当該空隙3に水分を保持することができる。従って、空隙3の状態(例えば、空隙3の大きさ、数、形状等)は、人工土壌粒子50が保持可能な水分量、いわゆる保水性に関係する。空隙3の状態は、基部10を造粒する際の繊維1の使用量(密度)、繊維1の種類、太さ、長さ等を変更することにより調整可能である。なお、繊維1のサイズは、太さが5〜100μmのものが好ましく、長さが0.3〜10mmのものが好ましい。また、繊維1として予め切断された短繊維を使用することも可能であり、この場合、短繊維の長さは0.2〜0.5mm程度が好ましい。
【0030】
人工土壌粒子50は、基部10に水分を保持できるよう、繊維1として親水性の繊維を使用することが好ましい。これにより、人工土壌粒子50の保水性を高めることができる。繊維1の種類としては、天然繊維又は合成繊維が適宜選択される。好ましい親水性の繊維は、例えば、天然繊維では、綿、羊毛、レーヨン、セルロース等が挙げられ、合成繊維では、ビニロン、ウレタン、ナイロン、アセテート等が挙げられる。これら繊維のうち、綿、セルロース、及びビニロンがより好ましい。繊維1として、天然繊維と合成繊維とを混繊したものを使用することも可能である。
【0031】
吸湿性多孔質被覆層2に含まれる多孔質物質は高い吸湿性を備えるため、吸湿性多孔質被覆層2は、水分を吸収してもその表面が水で濡れた状態(湿った状態)になり難いという特性を備えている。従って、人工土壌粒子50は、外部に水分が多量に存在するような環境でも、吸湿性多孔質被覆層2が外部に存在する水分を吸収して水分環境を調節し、人工土壌粒子50の表面を水で濡れていない状態(べたつかない状態)に維持することができる。これにより、人工土壌粒子50間に水分が溜まりにくくなり、人工土壌培地としての通気性を確保することができる。その結果、培地の排水性の低下による植物の根腐れ等を防止することができる。
【0032】
また、基部10を吸湿性多孔質被覆層2で被覆することにより、人工土壌粒子50の強度及び耐久性が向上する。従って、人工土壌粒子50は、保水性、吸湿性、通気性、強度、及び耐久性の各特性を並立させることができる。なお、吸湿性多孔質被覆層2は、基部10を構成する繊維1の絡み合い部分(繊維1同士が接触する部分)を補強するように、基部10の外表部から若干内側に嵌入させた状態で形成してもよい。これにより、人工土壌粒子50の強度及び耐久性をさらに向上させることができる。
【0033】
吸湿性多孔質被覆層2に使用する多孔質物質としては、珪藻土、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、カネマイト、ノントロナイト、ソーコナイト、タルク、マイカ(雲母)、アイラアイト、マカタイト、ケニヤアイト等の多孔質物質が挙げられるが、好ましくは珪藻土である。また、上掲の多孔質物質は二種以上を混合した状態で使用することも可能である。
【0034】
多孔質物質を基部10の外表部に被覆するために使用する樹脂材料としては、水に不溶性で酸化され難いものが好ましい。そのような樹脂材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチロール系樹脂が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンが好ましい。また、樹脂材料に代えて、ポリエチレングリコール、アクリルアミド等の高分子ゲル化剤、アルギン酸塩やカラギーナン等の天然多糖類系ゲル化剤、天然ゴムやシリコーンゴム等のゴム系コーティング剤等を使用することも可能である。
【0035】
人工土壌粒子50は、基部10の繊維1間の空隙3に水を保持し、外部の水分環境を吸湿性多孔質被覆層2により調整するものである。従って、人工土壌粒子50の保水性と、外部の水分環境とのバランスを保つためには、吸湿性多孔質被覆層2の厚みa、及び人工土壌粒子50の基部10の直径bを適切なサイズに設定する必要がある。本実施形態では、吸湿性多孔質被覆層2の厚みaは、5〜10μm、好ましくは5〜7μmに設定される。吸湿性多孔質被覆層2の厚みaを5μmより小さく設定すると、人工土壌粒子の外部に存在する水を十分に吸収することができなくなり、外部の水分環境を調節することが困難になる虞がある。また、吸湿性多孔質被覆層2は、人工土壌粒子50に一定の剛性を付与しているため、厚みaを5μmより小さく設定すると、人工土壌粒子50の十分な強度及び耐久性が得られなくなる虞もある。一方、10μmより大きく設定すると、基部10の内部と外部との通水性が悪化し、基部10内に水を保持し難くなり、人工土壌粒子50の保水性が低下する虞がある。また、吸湿性多孔質被覆層2の厚みaが大きくなると、吸収された水が吸湿性多孔質被覆層2内に留まり、基部10まで到達しない場合がある。基部10の直径bは、2〜6mm、好ましくは2〜4mmに設定される。基部10の直径bを2mmより小さくすると、基部10内に十分な水分を蓄えることが難しくなり、人工土壌粒子50の保水性が低下する虞がある。一方、基部10の直径bを6mmより大きくすると、人工土壌粒子間の隙間が大きくなり過ぎて人工土壌培地としての排水性が過剰となり、植物が十分な水分を吸収し難くなって、枯死する虞がある。また、吸湿性多孔質被覆層2の厚みaと基部10の直径bとの関係において、両者の比率a/bを適切な範囲に設定することも重要であり、本実施形態では、比率a/bは、1/1200〜1/200に、好ましくは1/1200〜1/300に設定される。比率a/bを1/1200より小さく設定すると、基部10に対して吸湿性多孔質被覆層2の厚みが薄くなり過ぎて外部に存在する水を十分に吸収することができず、外部の水分環境を調節することが困難になる虞がある。一方、比率a/bを1/200より大きく設定すると、基部10が吸湿性多孔質被覆層2に対して相対的に小さくなり、人工土壌粒子50が十分に水を保持することができなくなる虞がある。
【0036】
人工土壌粒子50を設計するに際し、基部10の保水性をさらに高めるため、例えば、基部10に保水性材料を導入することも可能である。この場合、人工土壌粒子50は、基部10が本来有する繊維1間の空隙3による保水性に加え、保水性材料による保水力を備えることができる。保水性材料を基部10に導入する方法として、例えば、繊維1を造粒して基部10を形成する際に保水性材料を添加する。基部10に導入された保水性材料は、基部10の空隙3において露出していることが好ましい。この場合、空隙3内に存在する保水性材料が水分を直接吸収し、人工土壌粒子50の保水力が大きく向上するため、例えば、砂漠等の乾燥した環境に添加する土壌改良材として好適に利用することができる。
【0037】
基部10に導入する保水性材料としては、吸水性を有する高分子保水材が好適に使用される。例えば、ポリアクリル酸塩系ポリマー、ポリスルホン酸塩系ポリマー、ポリアクリルアミド系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアルキレンオキサイド系ポリマー等の合成高分子系保水性材料、ポリアスパラギン酸塩系ポリマー、ポリグルタミン酸塩系ポリマー、ポリアルギン酸塩系ポリマー、セルロース系ポリマー、デンプン等の天然高分子系保水性材料が挙げられる。これらの保水性材料は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。また、保水性材料として、セラミックス等の多孔質材を使用することも可能である。
【0038】
ところで、天然土壌は、陽イオンを取り込む性質を有しているため、K
+、Ca
2+、Mg
2+、及びアンモニア態窒素(NH
4+)を保持する能力、つまり保肥性を備えている。植物は窒素源としてアンモニア態窒素を有効に利用することができないが、天然土壌には硝化菌が常在するため、この硝化菌がアンモニア態窒素を植物に必要な硝酸態窒素へと変換し、植物に供給している。従って、植物工場等において、天然土壌に代えて人工土壌を使用する場合、人工土壌粒子50にイオン交換能を付与し、保肥性を備えておく必要がある。
【0039】
ここで、植物に必要な養分は、硝酸態窒素(NO
3−)、K
+、Ca
2+、Mg
2+であることから、人工土壌粒子50はこれらの養分を保持するために、両イオンの吸着能を有する必要がある。そこで、人工土壌粒子50を形成する際に、陽イオン交換フィラー及び陰イオン交換フィラーを添加し、外部から取り込んだ水分に含まれる硝酸態窒素(NO
3−)、K
+、Ca
2+、Mg
2+を含むイオンを人工土壌粒子50内に吸着できるようにする。なお、NO
3−は、河川や地下水の汚染物質であるが、人工土壌粒子50に陰イオン交換フィラーを添加すると、硝酸態窒素の養分を多く与えたとしても、NO
3−を人工土壌粒子50内に保持することができるため、水環境への流出は抑制される。
【0040】
人工土壌粒子50にイオン交換能を付与するためには、基部10及び吸湿性多孔質被覆層2の少なくとも何れか一方に、陽イオン交換フィラー及び陰イオン交換フィラーを添加することが好ましい。基部10にイオン交換能を付与する場合には、繊維1を造粒する際に陽イオン交換フィラー及び陰イオン交換フィラーを混合して造粒すればよく、吸湿性多孔質被覆層2にイオン交換能を付与する場合には、上述の多孔質物質含有ペーストに陽イオン交換フィラー及び陰イオン交換フィラーを混合し、基部10の外表部にコーディングすればよい。また、陽イオン交換フィラー及び陰イオン交換フィラーを基部10及び吸湿性多孔質被覆層2の夫々に添加してもよく、陽イオン交換フィラー及び陰イオン交換フィラーを別々に基部10及び吸湿性多孔質被覆層2に添加してもよい。なお、吸湿性多孔質被覆層2の形成のために使用する多孔質物質がすでにイオン交換能を有しており、それだけで十分な保肥力を有する場合は、新たにイオン交換能を有するフィラーを吸湿性多孔質被覆層2に添加しなくても構わない。
【0041】
陽イオン交換フィラーは、陽イオン交換性鉱物、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト等のスメクタイト系鉱物、雲母系鉱物、バーミキュライト、ゼオライト、腐植、陽イオン交換樹脂などが挙げられる。陽イオン交換樹脂は、例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、ゼオライト、又はベントナイトが好ましい。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂における陽イオン交換容量は、10〜700meq/100gに設定され、好ましくは20〜700meq/100gに設定され、より好ましくは30〜700meq/100gに設定される。陽イオン交換容量が10meq/100g未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陽イオン交換容量が700meq/100gを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
【0042】
陰イオン交換フィラーは、陰イオン交換性鉱物、例えば、ハイドロタルサイト、マナセアイト、パイロオーライト、シェーグレン石、緑青等の主骨格として複水酸化物を有する天然層状複水酸化物、合成ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様物質、アロフェン、イモゴライト、カオリン等の粘土鉱物、陰イオン交換樹脂などが挙げられる。陰イオン交換樹脂は、例えば、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、ハイドロタルサイトが好ましい。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂における陰イオン交換容量は、5〜500meq/100gに設定され、好ましくは20〜500meq/100gに設定され、より好ましくは30〜500meq/100gに設定される。陰イオン交換容量が5meq/100g未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陰イオン交換容量が500meq/100gを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
【0043】
<人工土壌粒子の製造方法>
本発明の人工土壌粒子50の製造方法について説明する。初めに、人工土壌粒子50のベースとなる基部10を形成する。例えば、綿、セルロースファイバー、又はビニロン等の繊維1をカーディング装置等で引揃え、3〜10mm程度の長さに切断する。切断した繊維1を転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒、圧縮造粒、押出造粒等の方法によって粒状に造粒すると、基部10が得られる。造粒の際、繊維1に樹脂や糊等のバインダーを混合すると、基部10を効率よく形成することができる。
【0044】
バインダーは、有機バインダー又は無機バインダーを使用することができる。有機バインダーは、例えば、ポリオレフィン系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー、ポリウレタン系バインダー、ポリ酢酸ビニル系バインダー等の合成樹脂系バインダー、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸などの多糖類、膠などの動物性たんぱく質等の天然物系バインダーが挙げられる。無機バインダーは、例えば、水ガラス等のケイ酸系バインダー、リン酸アルミニウム等のリン酸塩系バインダー、ホウ酸アルミニウム等のホウ酸塩系バインダー、セメント等の水硬性バインダーが挙げられる。有機バインダー及び無機バインダーは、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。なお、繊維1として絡み易いもの(例えば、屈曲した繊維)を使用する場合、造粒を行うだけで繊維1が互いに容易に絡み合うため、この場合は特にバインダーを使用しなくても基部10の形成が可能となる。
【0045】
次に、造粒した基部10を容器に移し、基部10の体積(占有容積)の半分程度の水を加え、基部10の空隙3に水を浸み込ませる。さらに、水を浸み込ませた基部10に、基部10の体積の1/3〜1/2のポリエチレンエマルジョンに吸湿性多孔質物質として珪藻土を所定量混合したペーストを添加する。ポリエチレンエマルジョンには、顔料、香料、殺菌剤、抗菌剤、消臭剤、殺虫剤等の添加物を混合しておくことも可能である。そして、基部10の外表部にペーストが均一に付着するように転動させながら、基部10の外表部からペーストを含浸させる。このとき、基部10の中心部には水が浸み込んでいるため、ペーストは基部10の外表部付近で留まる。その後、ペーストでコーティングされた基部10をオーブンで60〜80℃で乾燥させ、次いで、100℃でペーストに含まれるポリエチレンを溶融させ、基部10の外表部付近の繊維1にポリエチレンを融着させて吸湿性多孔質被覆層2を形成する。これにより、基部10の外表部が珪藻土を含む吸湿性多孔質被覆層2で被覆された人工土壌粒子50が完成する。吸湿性多孔質被覆層2は、ポリエチレンが溶融する際にポリエチレンエマルジョンに含まれていた溶媒が蒸発し、溶媒の蒸発痕が多孔質構造となる。多孔質構造は、基部10の内部と外部とを連通し、基部10の通気性及び通水性を維持する。得られた人工土壌粒子50は、必要に応じて、乾燥及び分級が行われ、粒径が調整される。
【0046】
基部10を造粒するにあたり、繊維1として短繊維を使用する場合は、短繊維を撹拌混合造粒装置で撹拌しながら珪藻土を含有するポリエチレンエマルジョンを少量ずつ投入して造粒する。これにより、基部10を形成する短繊維同士が一部で固定化され、強固な基部10を形成することができる。なお、短繊維に先に水を加えて造粒し、その後、珪藻土を含有するポリエチレンエマルジョンを添加して基部10を仕上げることも可能である。
【0047】
<人工土壌粒子を使用した人工土壌培地>
図2は、本発明に係る人工土壌粒子50を使用した人工土壌培地100に植物30を植栽した状態を模式的に示した説明図である。
図2に示すように、人工土壌培地100は、人工土壌粒子50間に一定の隙間31が形成されている。この隙間31は、空気及び水が通過することができるため、隙間31に植物に必要な水分を保持しつつ、余分な水分を排出することができる。本発明の人工土壌粒子50は、吸湿性多孔質被覆層2を有しているため、当該隙間31の水分環境を適切に調節することができる。人工土壌培地100が湿潤状態となった場合は、人工土壌粒子50の吸湿性多孔質被覆層2が隙間31から余分な水分を吸収し、人工土壌培地100の通気性を速やかに確保して、植物30の根腐れを防止することができる。人工土壌培地100が乾燥状態となった場合は、人工土壌粒子50は基部10に保持している水を吸湿性多孔質被覆層2から隙間31に放出し、植物30に供給する。このように、人工土壌培地100は、人工土壌粒子50が有する吸湿性多孔質被覆層2により、人工土壌粒子50間の隙間31の水分環境を適切に調節することができ、その結果、人工土壌培地100の優れた保水性及び通気性を実現している。
【0048】
ところで、土壌が水分を保持する力はpF値として表される。pF値とは、水柱の高さで表した土壌水分の吸引圧(圧力水頭)の常用対数値であり、土壌中の水分が土壌の毛管力によって引き付けられている強さの程度を表す指標である。例えば、pF値が2.0のとき、水柱100cmの圧力に相当する。pF値は土壌と水分の吸着の強さを表すものでもあり、土壌と水分の吸着力が弱いとpF値は低くなり、植物の根が水分を吸収し易い状態となる。一方、土壌と水分の吸着力が強いとpF値は高くなり、植物の根が水分を吸収するためには大きな力を要する。土壌中の隙間に空気が存在せず、全て水で充たされているときの状態がpF値0であり、100℃の熱乾状態の土壌で、土壌と化合した水しか存在しない状態がpF値7となる。植物が根から吸収できる土壌中の水分は、降雨又は灌水後、通常24時間後に土壌中に残っている水分(pF1.7)から、植物が萎れ始める初期萎れ点(pF3.8)までの水分である。植物を栽培可能な水、いわゆる易効水のpF値の範囲は1.7〜2.7(圧力水頭:50〜500cm)である。pF値が1.7(圧力水頭:50cm)未満の水分が多い状態が続くと、植物の根から酸素を吸収し難くなり、根腐れが発生する虞がある。一方、pF値が2.7(圧力水頭:500cm)を超える水分しか存在しない場合は、植物が十分な水分を吸収し難くなって、植物が枯死する虞がある。pF値は、pFメーター(テンシオメーター)を用いて測定することができる。
【0049】
一般に、植物が土壌中の水分を利用して成長するためには、灌水後、pF値1.7未満の水分を24時間以内に排水し、pF値1.7〜2.7の範囲の水分を48時間以上保持する必要がある。つまり、上記範囲のpF値を所定時間以上維持できれば、灌水の頻度を少なくしても植物の生育性が低下せず、灌水等のメンテナンスの機会を低減することができる。本発明の人工土壌粒子50は、上述のように、外部の水分環境を調節する吸湿性多孔質被覆層2を備えているため、人工土壌粒子50間の隙間31に水分が多い場合は、吸湿性多孔質被覆層2が隙間31に存在する水分を吸収し、人工土壌培地100のpF値を速やかに1.7以上に上げることができる。人工土壌粒子50を使用して人工土壌培地100を構成するにあたっては、灌水後、人工土壌培地100のpF値が1.7に到達する時間を、24時間以内、好ましくは10時間以内となるように調製される。人工土壌粒子50は基部10に水を保持できるため、人工土壌培地100は易効水を長時間保持することができる。人工土壌培地100は、pF1.7〜2.7の範囲の水を保持できる時間が48時間以上、好ましくは70時間以上となるように調製される。このように調製された人工土壌培地100は、植物30にとって最適な水分環境に速やかに調節することができ、pF値1.7〜2.7の範囲の水分を長時間保持できるため、灌水等のメンテナンスの機会を減らすことができる。
【0050】
また、植物が成長するためには、土壌の気相率を適切に調整し、土壌の通気性を確保する必要がある。例えば、pF値が低い場合に含水率が高いと植物の湿害が発生し易くなる。従って、pF値が低い場合でも土壌の通気性を一定以上に維持することが必要である。pF値が低い場合の土壌の通気性を示す指標は、pF値1.5における気相率で表される。pF値1.5における土壌の気相率とは、1日あたり30〜50mm以上降雨後、約20時間経過後の土壌(重力による排水が完全には終了していない状態)の気相率である。土壌に植栽した植物を十分に生育させるためには、pF値1.5における気相率を30%以上に設定する必要がある。本発明の人工土壌培地100は、pF値1.5における気相率が30〜80%、好ましくは40〜70%に調整されている。このため、人工土壌培地100は、保水性(特に易効水の保持力)及び通気性が高い次元でバランスされ、天然土壌にはない独自の機能を有する付加価値の高い人工土壌を実現し得るものとなる。すなわち、植物が利用可能な水分(易効水)を最適に確保できるため、植物に対する水遣り回数を低減したり、植物の種類に応じた最適な栽培スケジュールを実現することが可能となる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の人工土壌粒子を使用した人工土壌培地に関する実施例について説明する。実施例では、人工土壌粒子の圧力水頭、pF値1.7〜2.7の範囲の水の保持時間、及び気相率を測定し、人工土壌粒子の違いによる圧力水頭の変化、及びpF値1.7〜2.7の範囲の水の保持時間と気相率との関係を評価した。
【0052】
〔人工土壌粒子の作製〕
評価に先立ち、実施例に供した人工土壌粒子の作製方法について説明する。見かけの容積で1000ccのビニロン短繊維(長さ0.5mm 株式会社クラレ製)を撹拌混合造粒装置(有限会社G−Labo製)で撹拌、転動させながらポリエチレンエマルジョン(セポルジョン(登録商標)G315、住友精化株式会社製、濃度40重量%)を約10倍に希釈したものを加えて造粒し、内部にポリエチレンエマルジョンを含浸させた粒子状の基部を形成した。次いで、基部の体積の2%となる同じポリエチレンエマルジョンと、基部の体積の26%となる珪藻土とを混合してペースト化し、ペーストを基部に添加してペーストが均一に付着するように転がしながら含浸させた。ペーストが含浸した基部を、オーブンを用いて60℃で乾燥した後、100℃でエマルジョン中のポリエチレンを溶融させて繊維に融着させることにより、基部を形成するビニロン短繊維同士を固定化し、さらに、基部が珪藻土を含む吸湿性多孔質被覆層で被覆された人工土壌粒子を得た。人工土壌粒子を篩がけし、粒径が2.0〜5.6mmの範囲となるように調整した。なお、比較例1〜3の人工土壌粒子は、粒子状の基部を吸湿性多孔質被覆層で被覆せず、そのまま人工土壌粒子として使用した。比較例4の人工土壌粒子は、粒子状の基部を吸湿性多孔質被覆層で被覆した構造ではなく、多孔質物質を樹脂バインダーで固めて造粒したものである。比較例5は、市販の天然培養土をそのまま使用したものである。
【0053】
〔人工土壌粒子の違いによる圧力水頭の経時変化の評価〕
実施例1及び2の人工土壌培地、及び比較例1〜4の人工土壌培地を以下のように調製した。比較例5は、一般の培養土を用いた。
(1)実施例1:2mmオーバー、4mmアンダーの篩を用いて人工土壌粒子を2〜4mmの粒径に調製し、人工土壌培地として使用した。
(2)実施例2:4mmオーバー、5.6mmアンダーの篩を用いて人工土壌粒子を4〜5.6mmの粒径に調製し、人工土壌培地として使用した。
(3)比較例1:2mmオーバー、4mmアンダーの篩を用いて人工土壌粒子を2〜4mmの粒径に調製し、人工土壌培地として使用した。
(4)比較例2:4mmオーバー、5.6mmアンダーの篩を用いて人工土壌粒子を4〜5.6mmの粒径に調製し、人工土壌培地として使用した。
(5)比較例3:篩による分級を行わずに人工土壌培地として使用した。
(6)比較例4:多孔質物質として珪藻土を使用し、バインダーとしてポリエチレンエマルジョンを使用した。珪藻土(ラヂオライト(登録商標)F、昭和化学工業株式会社製)100重量部と、住友精化株式会社製のポリエチレンエマルジョン「セポルジョン(登録商標)G」5重量部とを攪拌しながら混合し、造粒したものを篩にかけて分級し、2mmオーバー、4mmアンダーの人工土壌粒子を作製し、人工土壌培地として使用した。
(7)比較例5:市販の天然培養土(高澤ファーム社製)を使用した。
【0054】
<試験内容>
圧力水頭:テンシオメーターにより各試料の経時変化に伴う圧力水頭値を測定した。
【0055】
<試験結果>
図3は、人工土壌培地の圧力水頭の経時変化を示したグラフである。このグラフにおいて、圧力水頭50cmがpF値1.7に相当し、圧力水頭500cmがpF値2.7に相当する。
図3に示すように、実施例1及び2の人工土壌培地は、珪藻土で被覆されていない比較例1〜3の人工土壌培地と比較すると、易効水を保持する能力は略同等であったが、pF値1.7に到達する時間は、比較例1〜3の人工土壌培地が70時間を要したのに対して、実施例1及び2は20時間以内に到達し、実施例1及び実施例2の人工土壌培地は通気性に優れていることが確認された。また、pF値1.7〜2.7の範囲の水(易効水)を保持する時間については、実施例1の人工土壌培地が80時間以上、実施例2の人工土壌培地が55時間以上であったのに対し、比較例4の人工土壌培地は35時間、比較例5の天然培養土は50時間であった。実施例1及び2の人工土壌培地は、比較例4の人工土壌培地よりも長期間に亘って水を保持できることが確認され、さらに保水性が優れている天然培養土を使用した比較例5よりも結果は良好であった。このように、本発明の人工土壌粒子は、外部の水分環境を珪藻土により調整しているため、一定以上の通気性を維持しながら、易効水を長時間保持できることが示された。
【0056】
〔pF値1.7〜2.7の範囲の水の保持時間及び気相率の評価〕
「人工土壌粒子の違いによる圧力水頭の経時変化の評価」で説明した人工土壌粒子と同じ人工土壌粒子を使用した。
【0057】
<試験内容>
(1)pF値:テンシオメーターにより各試料のpF値を測定し、pF値1.7からpF値2.7に変化する時間を計測した。
(2)pF値1.5における気相率:試料の重量水を流下させ、pFメーター(テンシオメーター)により試料のpF値が1.5を示したのを確認後、試料の形状をできるだけ維持しながら100mL試料用円筒に採取し、大起理化工業株式会社製のデジタル実容積測定装置「DIK−1150」にセットして測定した値を、pF値1.5における気相率とした。
【0058】
<試験結果>
図4は、人工土壌培地のpF値1.7〜2.7の範囲の水の保持時間と気相率との関係を示したグラフである。実施例1の人工土壌培地は、比較例1〜4の人工土壌培地及び比較例5の天然培養土と比較すると、易効水の保持能力及び通気性が優れていた。実施例2の人工土壌培地に関しては、比較例1〜3の人工土壌培地及び比較例5の天然培養土と比較すると、易効水の保持能力においては略同等であったが、pF値1.5における気相率が50%以上となり、高い値を示した。また、比較例4の人工土壌培地と比較すると、易効水の保持能力及び通気性が優れていた。このように、本発明の人工土壌粒子は、外部の水分環境を珪藻土により調整しているため、一定以上の保水性を維持しながら、50%以上という高い気相率を備えることが示された。