【実施例】
【0075】
次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0076】
<統計処理>
本実施例において、得られた結果は以下の統計処理を行った:
一元配置分散分析(one-way ANOVA)、事後ダネット(Dunnett)検定、及び対応t−検定は、グラフパッド5(Graphpad Prism 5) (グラフパッドソフトウエア(Graphpad Software)社、ラホヤ(La Jolla)、カリフォルニア州、米国)を用いて行った。* P<0.05は統計学的に有意とし、平均値はSEとともに示す。
【0077】
<供試動物>
(1)正常マウス
ddYマウスは、日本SLC(浜松、日本)から得た。本実施例においては、正常マウスとして、雄性かつ6週齢のddYマウスを用いた。全てのマウスは、餌と水を自由に摂取させ、22±2℃、50±5%の湿度、午前7時から始まる12時間の明暗サイクルで制御された環境で飼育した。
(2)ADモデルマウス
トランスジェニックマウス(5XFAD)はADの動物モデルと考えられており、ジャクソン研究所(バーハーバー(Bar Harbor)、メイン州、米国)から入手した。5XFADマウスは、ニューロン特異的マウスThy-1プロモータの転写制御下、スウェーデン(Swedish)(K670NとM671L)、フロリダ(Florida)(I716V)及びロンドン(London)(V717I)に変異を持つヒトAPP695 cDNA、及びヒト PS1 cDNA(M146LとL286Vの変異)を過剰発現している(Oakley,H.ら,J Neurosci,26,10129-10140,2006.)。それらはB6/SJL F1ブリーダーとヘミ接合トランスジェニックマウスを交配することによって維持された。
本実施例においては、ADモデルマウスとして、24〜27週齢である雄性及び雌性の5XFADマウス、又は28〜31週齢である雌性の5XFADマウスを用いた。全てのマウスは、餌と水を自由に摂取できる状態で、22±2℃、50±5%の湿度、午前7時から始まる12時間の明暗サイクルで制御された環境で飼育した。
【0078】
<自発運動量測定>
本参考試験1において、自発運動量測定は以下のように実施した:
試験に供する各マウスについて、オープンフィールドボックスで10分間馴化させた時のマウスの移動経路を、デジタルカメラシステムを用いて追跡した。10分間に動いた距離をEthoVision3.0(ノルダス(Noldus)社、ワゲニンゲン(Wageningen)、オランダ)で移動活動として分析した。
【0079】
<物体認知記憶試験>
本実施例において、物体認知記憶試験は以下のようにして実施した:
自発運動量測定の翌日、発明者らの文献(Joyashiki,E.ら, Int J Neurosci, 121, pp.181-190, 2011.、及びTohda,C.ら, Int J Neurosci, 121, pp.641-648, 2011.)の記載にしたがって、物体認知記憶試験を行った。試験は比較的照明をおとした部屋(約100ルクス)にて行った。トレーニング段階とテスト段階の間の適切な時間間隔(インターバル)は、別のマウスのグループで予めテストして決めた。物体認知記憶試験とは、動物が新しいものに興味を示す習性を利用した試験である。試験を行うオープンフィールドボックスの内側の壁には、一切の目印はない。トレーニング段階ではフィールド内に2つの同じ物体を置き10分間の探索行動をさせる。テストの段階では、物体の一つを新しい物体に置き換え、しかし置き場所は変えずに、10分間の探索行動をさせる。マウスが、置き換えた新しい物体に興味を示して探索行動する回数の増加を、物体記憶能力の指標とするものである。すなわち、テスト段階において、トレーニング段階で見た物体を覚えているか否かを確認する試験である。本実施例では、総探索時間に対する新たな物体への探索回数の割合(%)を探索指向指数(Preference index)として算出した。
【0080】
<物体場所記憶試験>
本実施例において、物体場所記憶試験は以下のようにして実施した:
試験は比較的照明をおとした部屋(約100ルクス)にて行った。トレーニング段階とテスト段階の間の適切な時間間隔(インターバル)は、別のマウスのグループで予めテストして決めた。物体場所記憶試験とは、動物が新しいものに興味を示す習性を利用した試験である。試験を行うオープンフィールドボックスの内側の4方の壁のうち、対面する2つの壁に目印となるような特徴的な柄を配した壁紙を貼る。トレーニング段階ではフィールド内にマウスにとって初めて見る2つの同じ物体を置き10分間の探索行動をさせる。テストの段階では、その物体のうち一つの置き場所を変えて、10分間の探索行動をさせる。マウスが、物は同じでも置き場所が変わった物体に興味を示して探索行動する回数の増加を、空間記憶能力の指標とするものである。すなわち、テスト段階において、トレーニング段階で見た物体を覚えているか否かを確認する試験である。本実施例では、総探索時間に対する場所を変えた物体への探索回数の割合(%)を探索指向指数(Preference index)として算出した。なお、本試験は、Tohda C., Joyashiki E. Sominone enhances neurite outgrowth and spatial memory mediated by the neurotrophic factor receptor, RET. British Journal of Pharmacology (2009) 157, 1427-1440.の記載を参考にして行った。
【0081】
<実施例1>
2.07mgのジオスゲニン(和光純薬社製)に5mLのゴマ油(カネダ株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。この懸濁液0.5mLをゴマ油49.5mLと均一に混合させ、ゴマ油(mL)に対するジオスゲニンの重量が0.00414mg/mLである懸濁液(実施品1)を得た。ジオスゲニンの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品1を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雄性および雌性、24〜27週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、20日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。
<実施例2>
ジオスゲニンの投与量を、マウスの単位体重あたり10μmol/kg/日とする以外は、実施例1と同様にした。
<実施例3>
実施例1におけるゴマ油を、オリーブ油(カネダ株式会社製)に換えた実施品3を用いる以外は、実施例1と同様にした。
<実施例4>
実施例1におけるゴマ油を、大豆油(カネダ株式会社製)に換えた実施品4を用いる以外は、実施例1と同様にした。
<比較例1>
実施品1をゴマ油のみに換える以外は、実施例1と同様にした。
<コントロール>
ADモデルマウスに換えて野生型マウス(24〜27週齢)を用いる以外は、比較例1と同様にした。
【0082】
結果を
図1に示した。
実施例1〜4のマウスは、コントロールとして用いた野生型マウスと同等のレベルまで記憶障害が改善された。
【0083】
<実施例5>
1.30mgの(3β,25R)−3−(2−アミノエタノイロキシ)−スピロスト−5−エンの塩酸塩{(3β, 25R)-3-(2-Aminoethanoyloxy)-spirost-5-ene塩酸塩}(合成品、以降、本明細書においてDios−Gと略称する。)に2.544mLのゴマ油(カネダ株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。得られた懸濁液0.5mLをとり、ゴマ油49.5mLを加えて均一に混合させ、ゴマ油(mL)に対するDios−Gの重量が0.005081mg/mLである懸濁液(実施品5)を得た。
Dios−Gの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品5を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28〜31週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、20日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。
<実施例6>
実施品5に換えて、(3β,25R)−3−フルオロスピロスト−エン{(3β, 25R)-3-Fluorospirost-5-ene}(合成品、以降、本明細書においてDios−Fと略称する。)に換えた実施品6を用いる以外は、実施例5と同様にした。なお、実施品6は、以下のように調製した:1.13mgのDios−Fに2.712mLのゴマ油を加えて撹拌し、均一に懸濁させ、得られた懸濁液0.5mLに、さらに49.5mLのゴマ油を加えて均一に混合させ、ゴマ油(mL)に対するDios−Fの重量が0.004166mg/mLである懸濁液(実施品6)を調製した。
<比較例2>
実施品5をゴマ油のみに換える以外は、実施例5と同様にした。
<コントロール>
ADモデルマウスに換えて野生型マウス(31週齢)を用いる以外は、比較例2と同様にした。
【0084】
結果を
図2に示した。
実施例5及び6のマウスは、コントロールとして用いた野生型マウスと同等のレベルまで記憶障害が改善された。
【0085】
<実施例7>
実施例5と同様にして、ゴマ油にDios−Gを懸濁させた懸濁液(実施品7)を得た。Dios−Gの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品7を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28〜31週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、25日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは24時間とした。
<実施例8>
実施例6と同様にして、ゴマ油にDios−Fを懸濁させて調製した懸濁液(実施品8)を用いる以外は、実施例7と同様にした。
<比較例3>
実施品7をゴマ油のみに換える以外は、実施例7と同様にした。
<コントロール>
ADモデルマウスに換えて野生型マウス(31週齢)を用いる以外は、比較例3と同様にした。
【0086】
結果を
図3に示した。
物体認知記憶試験のインターバルを24時間に延長した本試験において、実施例7及び8のマウスは、記憶障害を改善する傾向を示した。
【0087】
<実施例9>
実施例6と同様にして、ゴマ油にDios−Fを懸濁させた懸濁液(実施品9)を得た。Dios−Fの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品9を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28〜31週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、22日間とした。このマウスに対し、物体場所記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは24時間とした。
<比較例4>
実施品9をゴマ油のみに換える以外は、実施例9と同様にした。
<コントロール>
ADモデルマウスに換えて野生型マウス(31週齢)を用いる以外は、比較例4と同様にした。
【0088】
試験の結果、実施例9のマウスは、記憶障害の改善が観察された。
【0089】
<<試験例:BMS、TMSによる後肢運動機能の評価>>
ジオスゲニン誘導体の、脊髄損傷マウスにおける後肢機能へ及ぼす影響について確認するため、脊髄損傷モデルマウスを用いた試験を実施した。
<脊髄損傷(SCI)マウス>
8週齢の雌のddYマウス(SLC)に下記のようにして挫傷を発生させて、脊髄損傷(SCI)モデルとした:マウスは、餌と水を自由に摂取できる状態で、一定の環境条件(22±2℃、50±5%湿度、および午前7時から開始される12時間の明暗サイクル)下で維持した。挫傷は、常法に従ってマウスの腰椎を露出させ、第一腰椎(L1)へ定位固定装置(ナリシゲ社製)を用いて高さ2cmから6.5gの重りを一度落下させることにより、発生させた。その後、常法に従って縫合等の外科的処置を施した。挫傷を与えた1時間後、マウスを無作為に抽出し、各試験区に分類して後記する実施例10及び比較例5に記載の投与試験を実施した。
<試験方法>
投与試験後のマウスを個別にオープンフィールド(42cm×48cm×15cm)に移動させ、5分間観察し、後肢運動機能を評価した。脊髄損傷のモデル試験における後肢の運動機能を評価する基準として一般的に用いられるバッソマウススケール(Basso Mouse Scale、BMS)(例えば、Engesser-Cesar C, Anderson AJ, Basso DM et al. (2005). Voluntary wheel running improves recovery from a moderate spinal cord injury. J Neurotrauma 22: 157-171)と、試験の精度を高めるために本発明者らがBMSに改変を加えた0−30ポイントのトヤママウススケール(Toyama Mouse Scale、TMS)を用いて、オープンフィールドにおける移動行動を評価した。
新しいスコアであるトヤママウススケール(TMS)は、試験の精度を向上させるために、本発明者らがBMSスコアに改変を加えたスコアであり、このTMSをSCIマウスにおける後肢機能の評価に用いた。TMSのスコア表を表1に示した。なお、表中、括弧内の数字が点数であり、項目毎に点数を判定し、加算して評価する。
【表1】
【0090】
<実施例10>
実施例6と同様にして、ゴマ油にDios−Fを懸濁させて懸濁液(実施品10)を得た。Dios−Fの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品10を1日1回、脊髄損傷マウスに経口投与で投与した。初回の投与は挫傷1時間後に行い、2回目の投与はその翌日(1日後)に行い、投与期間は14日間とした。このマウスに対し、後肢運動機能評価を実施した。
<比較例5>
実施品10をゴマ油とする以外は、実施例10と同様にした。
【0091】
なお、実施例10の供試マウスの個体数は3であり後肢は計6本(n=6)及び比較例5の供試マウスの個体数は6であり、後肢は計12本(n=12)で評価を行った。
結果を
図4に示した。
図4Aは、BMS(バッソマウススケール)で評価した結果、
図4Bは、TMS(トヤママウススケール)で評価した結果である。Dios−Fを経口投与したマウス(実施例10、
図4の黒丸で表された群)は、コントロールのゴマ油のみを投与したマウス(比較例5、
図4の白丸で表された群)と比較して、後肢運動機能が有意に向上した。
【0092】
<<参考試験1>>食用油に懸濁したジオスゲニン誘導体の経口投与による自発運動量と体重変動への影響の確認。
実施例5及び6と同様にして、Dios−G又はDios−Fをゴマ油に懸濁させた懸濁液を調製した。ジオスゲニン誘導体(Dios−G又はDios−F)の投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、懸濁液を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28〜31週齢)に経口投与で投与した。20日目の投与の1時間後に自発運動量を測定した。その後、さらに投与を続け、総投与期間を25日間とした。投与期間25日間を通して、毎日体重を測定した。
また、比較として、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28〜31週齢)又は野生型マウス(31週齢)にゴマ油のみを投与し、投与20日目の自発運動量、及び、体重の測定を実施した。
【0093】
自発運動量の測定結果を
図5Aに、体重測定の結果を
図5Bに示した。
ジオスゲニン誘導体を投与したADモデルマウス、ジオスゲニン誘導体を投与されていないADモデルマウス及び野生型マウスの間には、自発運動量及び体重の変化に有意差は観察されなかった。
【0094】
<<参考試験2>>水系溶媒に溶解したジオスゲニンは経口投与では記憶力の亢進効果を示さない。
<参考例1>
4.9mgのジオスゲニンを1.182mLのエタノールに溶解させ、10mMのジオスゲニンエタノール溶液とした。この溶液とは別に、2.3gのグルコースを46mLの水に溶解させて、5%グルコース水溶液を調製した。10mMジオスゲニンエタノール溶液1mLを、5%グルコース水溶液9mLに加えて混和させ、ジオスゲニンの水系溶媒溶液(参考品1)を得た。ジオスゲニンの投与量が、マウスの単位体重あたり10μmol/kg/日となるように、参考品1を1日1回、正常マウス(ddY、雄性、6週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、5日間とした。このマウスに対し、物体場所記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは48時間とした。
<参考例2>
参考例1と同様にしてジオスゲニンの水系溶媒溶液(参考品2)を調製し、投与方法を腹腔内投与とする以外は、参考例1と同様にした。
【0095】
結果を
図6に示した。水系溶媒に溶解したジオスゲニンを経口投与した参考例1のマウスでは、記憶力の亢進効果が観察されなかった(
図6A)。一方、水系溶媒に溶解したジオスゲニンを腹腔内投与した参考例2のマウスでは、記憶力の亢進効果が有意に観察された。
【0096】
<<参考試験3>>ジオスゲニンの低用量による正常マウスでの記憶力亢進作用の確認。
<参考例3>
参考例1と同様にして、ジオスゲニンの水系溶媒溶液(参考品3)を得た。ジオスゲニンの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、参考品3を1日1回、正常マウス(ddY、雄性、6週齢)に腹腔内投与で投与した。投与期間は、7日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは48時間とした。
<参考例4>
ジオスゲニンの投与量を、マウスの単位体重あたり1μmol/kg/日とする以外は、参考例3と同様にした。
<参考例5>
ジオスゲニンの投与量を、マウスの単位体重あたり10μmol/kg/日とする以外は、参考例3と同様にした。
<コントロール>
参考品3をゴマ油のみとする以外は、参考例3と同様にした。
【0097】
結果を、
図7に示した。参考例3〜5のマウスは、いずれも記憶力の亢進が観察された。
【0098】
上記の結果は、ジオスゲニン及び特定のジオスゲニン誘導体についての結果であるが、他のジオスゲニン誘導体でも同様の結果が得られることを確認している。例えば、Dios−Fは、ジオスゲニンの3位のヒドロキシル基がフッ素に置換された化合物であるが、ジオスゲニンの2位(α又はβ)がフッ素に置換された化合物、及びジオスゲニンの4位(α又はβ)がフッ素に置換された化合物のそれぞれについて、1,25D3−MARRSとのドッキングシュミレーションを行ったところ、ジオスゲニン及びDios−Fと同様のBinding affinityの値(kcal/mol)が得られた。なお、Binding affinityの値(kcal/mol)は、低いほど、結合活性が高いことを示す。
下記に結果を示す。表において、「ds」とは「ジオスゲニン」、「dsF−3β」とはジオスゲニンの3位ヒドロキシル基がフッ素に置換した化合物、「dsF−2β」とはジオスゲニンの2位(β)にフッ素が置換した化合物、「dsF−2α」とはジオスゲニンの2位(α)にフッ素が置換した化合物、「dsF−4β」とはジオスゲニンの4位(β)にフッ素が置換した化合物、「dsF−4α」とはジオスゲニンの4位(α)にフッ素が置換した化合物を、それぞれ示す。
【表2】
【0099】
<合成例1>Dios−G((3β, 25R)-3-(2-Aminoethanoyloxy)-spirost-5-ene塩酸塩)の合成方法
ジオスゲニン (和光純薬社製)(1.00 g, 2.41 mmol)とFmoc-Gly-OH (2.15 g, 7.24 mmol)をCH
2Cl
2 (24.0 mL)に溶解させ、この溶液にEDCI(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド)(1.39 g, 7.24 mmol)とDMAP(N,N-ジメチル-4-アミノピリジン) (29.4 mg, 0.241 mmol)およびi-Pr
2Net(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)(1.12 g, 8.68 mmol)を氷冷下、順次加えた。その後、室温で24時間撹拌後水を加えて反応を停止した後、酢酸エチル(30 mL)で抽出した。集めた有機層を飽和食塩水(10 mL)で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下、有機溶媒を留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=70:30)にて精製し、ジオスゲニン−Fmoc−グリシネート(diosgenin Fmoc-glycinate) (1.19 g, 71%)を得た。
上記のジオスゲニン−Fmoc−グリシネート(1.19 g, 1.71 mmol)をCH
3CN-CH
2Cl
2混合溶液(15 mL, 3:2 v/v)に溶解させ、室温下、この溶液にピペリジン(piperidine)(1.46 g, 17.1 mmol)を加え、室温下にて1時間撹拌すると懸濁液となった。この懸濁液にトルエン(10 mL)を加えて澄明な溶液とした後、減圧下、有機溶媒を留去した。得られた残渣に(10 mL)を加えて溶液とした後、減圧下、有機溶媒を留去した。この操作を更に1回繰り返した後、得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=80:20〜0:100)にて精製し、(3β,25R)−3−(2−アミノエタノイロキシ)−スピロスト−5−エン(3β, 25R)-3-(2-Aminoethanoyloxy)-spirost-5-ene) (693 mg, 86%)を得た。
上記の(3β,25R)−3−(2−アミノエタノイロキシ)−スピロスト−5−エン(590 mg, 1.25 mmol)をEt
2O (50 mL)に溶解させ、氷冷下、塩酸(HCl)のジエチルエーテル(Et
2O)溶液 (1.0 M, 3.13 mL, 3.13 mmol)を滴下し、室温下、30分撹拌した。生じた沈殿を濾取し、表題化合物(535 mg, 84%)を白色固体として得た。表題化合物の
1H NMRを既報(Wang, X.; Ye, Z.; Wang, L. Faming Zhuanli Shenging Gongkai Shuomingshu (2004), CN 151760 A 20040804.)のものと照合して確認した。
Mp 194-197 °C; IR (KBr) 3400, 2951, 1746, 1598 cm
-1;
1H NMR (500 MHz, CD
3OD) δ 5.42 (1H, d, J = 5.6 Hz), 4.72-4.66 (1H, m), 4.41-4.37 (1H, m), 3.80 (3H, s), 3.46-3.43 (2H, m), 2.43-2.38 (3H, m), 2.06-1.88 (5H, m), 1.79-1.13 (17H, m), 1.08 (3H, s), 0.95 (3H, d, J = 7.2 Hz), 0.81 (3H, s), 0.78 (3H, d, J = 6.4 Hz);
13C NMR (125 MHz, CD
3OD) δ 167.9, 140.6, 123.9, 110.5, 82.1, 77.6, 67.8, 63.7, 57.7, 51.5, 42.9, 41.4, 41.2, 40.8, 38.9, 38.0, 37.9, 33.1, 32.7, 32.4, 31.4, 29.9, 28.6, 21.9, 19.74, 19.70, 17.5, 16.8, 14.9; LRMS (FAB) m/z 508 ([M+H]
+); HRMS (FAB) m/z calcd. For C
29H
47O
4ClN ([M+H]
+) 508.31936, found 508.31852.
【0100】
<合成例2>Dios−F((3β, 25R)-3-Fluorospirost-5-ene)の合成方法
XtalFluor-E(登録商標、シグマアルドリッチ社) (85.9 mg, 0.375 mmol)をジクロロメタン(CH
2Cl
2)(0.63 mL)に懸濁させた溶液に、室温下にてトリエチルアミン三フッ化水素酸塩(Et
3N・3HF)(0.16 mL, 1.00 mmol)とジオスゲニン(和光純薬社製)(118 mg, 0.25 mmol)を順次加え、この溶液を室温にて21時間撹拌した。TLCにて原料の消失を確認後、5% Na
2CO
3水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチル(1 mL)にて3回、抽出を行った。集めた有機層を飽和食塩水(1 mL)にて洗浄後、硫酸マグネシウムによって乾燥し、固体を濾別した後、減圧下、有機溶媒を留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル, 98:2)にて精製し、表題化合物(49.3 mg, 47%)を白色固体として得た。さらにこの白色固体を酢酸エチルから再結晶し、19.1 mgの無色透明な針状晶を得た。
Mp 224-226 ℃; R
f = 0.36 (silica gel, hexane/AcOEt, 98:2);
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) δ5.39 (1H, d, J = 4.2 Hz), 4.46-4.39 (1H, m), 4.38 (1H, dm,
2J
H-F = 50 Hz), 3.43 (1H, dd, J = 10.9, 10.9 Hz), 3.38 (1H, dd, J = 10.9, 3.1 Hz), 2.46-2.44 (2H, m), 2.03-1.96 (3H, m), 1.90-1.85 (2H, m), 1.79-1.43 (14H, m), 1.36-1.26 (1H, m), 1.21-1.07 (2H, m), 1.04 (3H, s), 0.97 (3H, d, J = 6.8 Hz), 0.80-0.78 (6H, m);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ139.3 (d,
3J
C-F = 11.9 Hz), 122.7, 109.3, 92.7 (d,
1J
C-F = 173 Hz), 80.8, 66.8, 62.1, 56.4, 49.91, 49.84, 41.6, 40.2, 39.7, 39.3 (d,
2J
C-F = 19.3 Hz), 36.7, 36.3 (d,
3J
C-F = 11.0 Hz), 32.0, 31.8, 31.4, 30.3, 28.8, 28.7 (d,
2J
C-F = 17.3 Hz), 20.9, 19.3, 17.1, 16.3, 14.5; LRMS (EI) m/z 417 [M
+]; HRMS (EI) m/z calcd. for C
27H
41FO
2 416.3091 [M
+], found 416.3137.
【0101】
<実施例11>
12.92mgのワイルドヤム乾燥エキス(アスク薬品株式会社製、ジオスゲニン16.05%含有)に5mLの大豆油(カネダ株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。この懸濁液0.5mLを大豆油49.5mLと均一に混合させ、大豆油(mL)に対するジオスゲニンの重量が0.004146mg/mLである懸濁液(実施品11)を得た。ジオスゲニンとしての投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品11を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雄性および雌性、30〜47週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、14日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。
<比較例6>
実施品11を大豆油のみに換える以外は、実施例11と同様にした。
<コントロール>
ADモデルマウスに換えて野生型マウス(34〜36週齢)を用いる以外は、比較例6と同様にした。
【0102】
結果を
図8に示した。なお、
図8において、「preferential index」とは、前記の通り、探索指向係数、「Wild」とは野生型マウス、「5XFAD」とはADモデルマウス、「Yam」とはワイルドヤム乾燥エキスを用いたもの(すなわち、実施例11に対応)、「Veh」とはワイルドヤムエキス乾燥エキスを用いていないもの(すなわち、比較例6及びコントロールに対応)をそれぞれ示し、図の左側の3本の棒グラフがトレーニング段階、図の右側の3本の棒グラフがテスト段階の結果である(
図9においても同じ)。
図8の結果から明らかなように、実施例11のマウスは、コントロールとして用いた野生型マウスと同等のレベルまで記憶障害が改善された。
【0103】
<比較例7>
12.92mgのワイルドヤム乾燥エキス(アスク薬品株式会社製、ジオスゲニン16.05%含有)に5mLの蒸留水を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。この懸濁液0.5mLを蒸留水49.5mLと混合させ、蒸留水(mL)に対するジオスゲニンの重量が0.004146mg/mLである懸濁液(実施品12)を得た。ジオスゲニンとしての投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品12を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雄性、30〜47週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、14日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。
<比較例8>
実施品12を蒸留水のみに換える以外は、比較例7と同様にした。
<コントロール>
ADモデルマウスに換えて野生型マウス(39〜43週齢)を用いる以外は、比較例8と同様にした。
【0104】
結果を
図9に示した。
図9の結果から明らかなように、蒸留水を用いた比較例7では有意に記憶障害が改善されなかった。
【0105】
<実施例12>
2.07mgのジオスゲニン(和光純薬社製)に5mLのゴマ油(カネダ株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。この懸濁液0.5mLをゴマ油49.5mLと均一に混合させ、ゴマ油(mL)に対するジオスゲニンの重量が0.004146mg/mLである懸濁液(実施品13)を得た。ジオスゲニンの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品13を1日1回、ddYマウス(雄性および雌性、9週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、4日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の1時間後にトレーニング試験を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは48時間とした。
<比較例9>
実施品13をゴマ油のみに換える以外は、実施例12と同様にした。
【0106】
結果を
図10に示した。ゴマ油に懸濁させたジオスゲニンを経口投与した実施例12のマウスでは、物体認知記憶の有意な亢進が観察された。