特許第6165384号(P6165384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165384
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】貼合デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/10 20060101AFI20170710BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20170710BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20170710BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   B32B37/10
   G02F1/13
   G09F9/00
   H01L21/68 N
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-511479(P2017-511479)
(86)(22)【出願日】2016年2月1日
(86)【国際出願番号】JP2016052931
(87)【国際公開番号】WO2016163137
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2017年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-80336(P2015-80336)
(32)【優先日】2015年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190105
【氏名又は名称】信越エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 義和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 謙司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一也
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5654155(JP,B2)
【文献】 特開平9−45753(JP,A)
【文献】 特開2004−9165(JP,A)
【文献】 特開2005−199380(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/114337(WO,A1)
【文献】 特開2007−8698(JP,A)
【文献】 特開2003−332411(JP,A)
【文献】 特開2004−53851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 〜43/00
G02F 1/13 〜 1/1334
1/1339〜 1/1341
1/1347
1/137 〜 1/141
G09F 9/00
H01L21/67 〜21/0683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のワークを第一保持部材と第二保持部材にそれぞれ保持し、前記第一保持部材と前記第二保持部材の相対的な接近移動により、前記一対のワークを位置合わせして貼り合わせる貼合デバイスの製造装置であって、
第一ワーク保持面を有する前記第一保持部材と、
前記第一保持部材と対向して設けられ第二ワーク保持面を有する前記第二保持部材と、
前記第一保持部材及び前記第二保持部材に対して前記一対のワークをそれぞれ着脱自在で且つ移動不能に保持する保持チャックと、
前記第一保持部材又は前記第二保持部材のいずれか一方か若しくは両方を前記第一保持部材及び前記第二保持部材の対向方向へ相対的に接近移動させる接離用駆動部と、を備え、
前記第一保持部材又は前記第二保持部材のいずれか一方か若しくは両方は、アルミニウムを含む金属材料で表面が凹凸形状に形成される前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面と、前記一対のワークのうち一方或いは両方と対向し且つ前記第一保持部材,前記第二保持部材及び前記一対のワークの材質よりも硬く且つ導電材を含んだ材料で前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面の前記表面に沿って積層形成される硬質被覆層と、を備え、
前記硬質被覆層は、前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面のいずれか一方か若しくは両方から、前記一対のワークのうち一方或いは両方に向け山状に突出して、前記一対のワークのうち一方の平滑な表面或いは両方の平滑な表面にそれぞれ点接触する複数の支承突起を有することを特徴とする貼合デバイスの製造装置。
【請求項2】
前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面のいずれか一方か若しくは両方は、粗面化された複数の山状凸部を有し、前記複数の山状凸部の外側に前記複数の支承突起がコーティングによって積層形成されることを特徴とする請求項1記載の貼合デバイスの製造装置。
【請求項3】
前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面のいずれか一方か若しくは両方は、前記一対のワークのうち一方或いは両方を吸引して保持する吸着口を備え、
前記硬質被覆層は、前記複数の支承突起の相互間に前記吸着口と連通するように谷状に形成される複数の吸気溝を有することを特徴とする請求項1又は2記載の貼合デバイスの製造装置。
【請求項4】
前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面のいずれか一方か若しくは両方は、粗面化された複数の谷状凹部を有し、前記複数の谷状凹部の外側に前記複数の吸気溝がコーティングによって積層形成されることを特徴とする請求項3記載の貼合デバイスの製造装置。
【請求項5】
前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面のいずれか一方か若しくは両方に、前記硬質被覆層を有するパネルが取り付けられることを特徴とする請求項3又は4記載の貼合デバイスの製造装置。
【請求項6】
前記第二保持部材が、貼り合わせが完了した前記一対のワークを前記第二ワーク保持面から剥がす剥離部材を有することを特徴とする請求項3又は4記載の貼合デバイスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、プラズマディスプレイ(PDP)、フレキシブルディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)やセンサーデバイスか、又は例えばタッチパネル式FPDや3D(3次元)ディスプレイや電子書籍などのような、液晶モジュール(LCM)やフレキシブルプリント配線板(FPC)などの板状ワークに対して、タッチパネルやカバーガラスやカバーフィルムやFPDなどのもう一枚の板状ワークを貼り合わせる貼合デバイスの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の貼合デバイスの製造装置として、上側基板保持具及び下側基板保持具に設けられた貫通孔に沿って、上側基板及び下側基板の受け渡し用のリフトピンをそれぞれ上下動可能に設け、大気圧における搬入時には、搬送ロボットのアームで保持して搬送された上側基板及び下側基板を、上側基板保持具及び下側基板保持具の表面から突出するように上下動したリフトピンでそれぞれ受け取り、これに続いてリフトピンが逆移動して、上側基板及び下側基板を上側基板保持具及び下側基板保持具の表面にそれぞれ受け渡す基板重ね合わせ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
その後、受け取った上側基板を上側基板保持具が真空吸着して保持し、下側基板保持具が下側基板を吸着して保持し、上側基板保持具と下側基板保持具が接近移動して両者間の真空容器内を真空状態にした後に、上側基板と下側基板をアライメントした後に重ね合わせて仮止めする。仮止めした後は、上側基板保持具による上側基板の保持を解除し、上側基板保持具を当初の位置まで離隔移動させ、次に真空容器内が大気圧になってから、貼り合わされた一対の基板をリフトピンにより搬送ロボットのアームに受け渡して搬出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−229471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来の貼合デバイスの製造装置では、上側基板保持具が上側基板を吸着口で真空吸着して保持するため、基板の一部が吸着口に向け屈曲変形して歪みを発生する。それにより、上側基板及び下側基板を高精度に位置合わせして貼り合わせることができない。
さらに、上側基板保持具の基板保持面から上側基板を剥離する動作が、真空中の絶乾状態(湿度がほぼ0%の状態)で行われるため、基板保持面に対する基板の接触及び剥離に伴って絶縁体である基板に静電気が蓄積され、剥離帯電の影響が非常に大きくなる。また真空状態を保つために密閉空間内で剥離動作が行われるため、大気中での剥離動作とは異なり、ブローイオナイザーやフォトイオナイザーを用いて、発生した剥離帯電を簡単に除去するというも事実上困難な条件下にある。
それにより、剥離帯電による電荷によって導電部分へアーク放電が発生し、基板の貼り合わせ面に存在する電子回路などが断線を起こすか、或いは破壊までは至らなくとも、静電気によってその特性が変化するという問題があった。
また、基板の貼り合わせが完了して大気圧に戻した後に、下側基板保持具の基板保持面からリフトピンで、貼り合わされた一対の基板を離すが、基板保持面と基板の界面は互い平滑に形成されるため、基板保持面と基板の界面が貼り付いている場合がある。このような場合には、リフトピンで、貼り合わされた一対の基板の一部を強制的に押し離すと、基板保持面と基板の間が一時的に真空状態となり、貼り合わされた一対の基板が瞬間的に下側基板保持具に引っ張られて反りが起こる。基板の貼り合わせを高精度で行っても、剥離時において部分的に反ってしまうと、位置合わせ精度が悪化して製品が一部不良になるという問題があった。
そこで、このような問題の解決するため、上側基板保持具や下側基板保持具の基板保持面に、基板との接触面積が減少するように凹凸部を形成することにより、基板保持面と基板の界面に生ずる静電気を抑制すると同時に、基板保持面と基板の真空密着を防止することが考えられる。
しかし、この場合には、上側基板保持具の基板保持面や下側基板保持具の基板保持面が、基板の材質となるガラスやシリコンなどに比べて軟らかいアルミニウム等の金属で形成されると、上側基板保持具や下側基板保持具の基板保持面に対して基板が繰り返し接触する度に生ずる摩擦により、時間経過に伴って凸部が徐々に摩耗し、最終的には基板が面接触してしまう。
その結果として、長期間に亘り基板保持面と基板の界面に生ずる静電気の抑制と、基板保持面と基板の真空密着を防止できないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を達成するために本発明に係る貼合デバイスの製造装置は、一対のワークを第一保持部材と第二保持部材にそれぞれ保持し、前記第一保持部材と前記第二保持部材の相対的な接近移動により、前記一対のワークを位置合わせして貼り合わせる貼合デバイスの製造装置であって、第一ワーク保持面を有する前記第一保持部材と、前記第一保持部材と対向して設けられ第二ワーク保持面を有する前記第二保持部材と、前記第一保持部材及び前記第二保持部材に対して前記一対のワークをそれぞれ着脱自在で且つ移動不能に保持する保持チャックと、前記第一保持部材又は前記第二保持部材のいずれか一方か若しくは両方を前記第一保持部材及び前記第二保持部材の対向方向へ相対的に接近移動させる接離用駆動部と、を備え、前記第一保持部材又は前記第二保持部材のいずれか一方か若しくは両方は、アルミニウムを含む金属材料で表面が凹凸形状に形成される前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面と、前記一対のワークのうち一方或いは両方と対向し且つ前記第一保持部材,前記第二保持部材及び前記一対のワークの材質よりも硬く且つ導電材を含んだ材料で前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面の前記表面に沿って積層形成される硬質被覆層と、を備え、前記硬質被覆層は、前記第一ワーク保持面又は前記第二ワーク保持面のいずれか一方か若しくは両方から、前記一対のワークのうち一方或いは両方に向け山状に突出して、前記一対のワークのうち一方の平滑な表面或いは両方の平滑な表面にそれぞれ点接触する複数の支承突起を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態に係る貼合デバイスの製造装置の全体構成を示す説明図であり、ワーク貼り合わせ工程においてワーク貼り合わせ前の縦断正面図である。
図2】ワーク貼り合わせ工程においてワーク貼り合わせ時の縦断正面図である。
図3】ワーク貼り合わせ工程においてワーク貼り合わせ後の縦断正面図である。
図4】ワーク貼り合わせ工程において貼合デバイス剥離時の縮小縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る貼合デバイスWの製造装置Aは、図1図4に示すように、板状に形成された一対のワークW1,W2を、第一保持部材1と第二保持部材2にそれぞれ保持し、第一保持部材1と第二保持部材2の相対的な接近移動により一対のワークW1,W2を高精度に位置合わせして貼り合わせるワーク貼り合わせ装置である。貼り合わせが完了した一対のワークW1,W2は、第一保持部材1及び第二保持部材2から剥離することが好ましい。
このワーク貼り合わせ装置の具体例としては、変圧室Bの内部に第一保持部材1と第二保持部材2が対向して配置され、変圧室Bに搬入された第一ワークW1と第二ワークW2を第一保持部材1と第二保持部材2に設けられる保持チャック3でそれぞれ受け取る。その後、減圧された変圧室B内で第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方か若しくは両方を、前記対向方向へ相対的に接近移動させるとともに、前記対向方向と交差する方向へ相対的に位置合わせしてから、第一ワークW1と第二ワークW2を高精度に貼り合わせる(合着する)。これにより、内部に封止空間を有する貼合デバイスWが作成される。これに続いて、貼合デバイスWの第一ワークW1を第一保持部材1から剥離した後に、変圧室Bを大気圧に戻すことで、貼合デバイスWの封止空間の内圧と圧力差が生じ、この圧力差により貼合デバイスWを所定ギャップまで均等に加圧される。その後は、完成した貼合デバイスWを第二保持部材2から剥離して変圧室Bの外へ搬出することが好ましい。
なお、第一ワークW1及び第二ワークW2は、図1図4に示されるように、通常、上下方向へ対向するように配置され、上側の第一ワークW1と下側の第二ワークW2が貼り合わされる方向を以下「Z方向」という。Z方向と交差する第一ワークW1及び第二ワークW2に沿った方向を以下「XY方向」という。
【0008】
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係る貼合デバイスWの製造装置Aは、Z方向に対向して設けられる第一保持部材1及び第二保持部材2と、第一保持部材1及び第二保持部材2に対して一対のワークW1,W2をそれぞれ着脱自在で且つ移動不能に保持するための保持チャック3と、第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方か若しくは両方をZ方向へ相対的に接近移動させる接離用駆動部4と、第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方か若しくは両方をXY方向やXYθ方向へ相対的に調整移動させるアライメント用駆動部5と、少なくとも保持チャック3や接離用駆動部4やアライメント用駆動部5などをそれぞれ作動制御するための制御部6と、を主要な構成要素として備えている。
さらに、貼り合わせが完了した一対のワークW1,W2を第二保持部材2から剥がすための剥離部材7を備えることが好ましい。
また、後述する保持チャック3としては、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aや第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに向け第一ワークW1や第二ワークW2を吸引して保持する吸着チャック31を用いることが好ましい。それ以外には、第一ワークW1や第二ワークW2を粘着して保持する粘着チャック32や静電チャックなどを用いることも可能である。
【0009】
貼合デバイスWは、例えばFPDや3D(3次元)ディスプレイや電子書籍か又は有機ELディスプレイなどのような、構成部品が一体的に組み付けられた薄板状の構造体である。
第一ワークW1は、例えばガラス製のタッチパネルやカバーガラスなどからなり、LCMやフレキシブルプリント配線板(FPC)などからなる第二ワークW2を覆うように接着されることで、FPDやOLEDなどを構成するものである。
さらに必要に応じて、第一ワークW1及び第二ワークW2の対向面のいずれか一方又は両方には、シール材W3がディスペンサなどの定量吐出ノズルを用いて塗布される。
シール材W3としては、紫外線などの光エネルギーを吸収して重合が進行することにより硬化して接着性を発現する、UV硬化性の光学透明樹脂(OCR)などの光硬化型接着剤を用いている。
また、その他の例として、シール材W3が熱エネルギーの吸収により重合が進行して硬化する熱硬化型接着剤、二液混合硬化型接着剤などを用いたり、シール材W3を介在させずに第一ワークW1と第二ワークW2の対向面同士を貼り合わせたり変更することも可能である。
【0010】
第一保持部材1は、金属などの剛体で歪み(撓み)変形しない厚さの平板状に形成された定盤などからなり、その表面には、搬入された第一ワークW1とZ方向へ対向して接触する第一ワーク保持面1aを有している。
第二保持部材2は、金属などの剛体で歪み(撓み)変形しない厚さの平板状に形成された定盤などからなり、その表面には、搬入された第二ワークW2とZ方向へ対向して接触する第二ワーク保持面2aを有している。
第一ワーク保持面1a及び第二ワーク保持面2aの具体例として、図1図4に示される場合には、第一保持部材1の略平滑な表面において第一ワークW1と接触する一部のみに第一ワーク保持面1aを形成し、第二保持部材2の略平滑な表面において第二ワークW2と接触する一部のみに第二ワーク保持面2aを形成している。
また、その他の例として図示しないが、第一保持部材1の表面全体を第一ワーク保持面1aとしたり、第二保持部材2の表面全体を第二ワーク保持面2aとしたり変更することも可能である。
【0011】
第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aは、第一ワークW1や第二ワークW2との接触面積を減少させるため、硬質な凹凸形状に形成されるとともに、保持チャック3を有している。
すなわち、第一保持部材1の第一ワーク保持面1a又は第二保持部材2の第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方は、一対のワークW1,W2のうち一方或いは両方と対向して、少なくともその表面が凹凸形状に形成される硬質被覆層12を備えている。
さらに、第一保持部材1の第一ワーク保持面1a又は第二保持部材2の第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方は、一対のワークW1,W2のうち一方或いは両方を着脱自在に保持する保持チャック3として吸着口31aを備えることが好ましい。
保持チャック3となる吸着口31aとは、第一ワークW1や第二ワークW2の表面と対向するように開設されて、第一ワークW1や第二ワークW2を吸引する吸着チャック31の吸引孔であり、吸着口31aには通気路31bが接続されて吸気源31cに連通している。
吸着口31aは、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aに対してXY方向へ分散するように複数配置され、吸着口31aの数及び間隔は、第一ワークW1や第二ワークW2のサイズや厚みや材質や重量などに対応して決められる。
吸気源31cは、ポンプや圧縮機などで構成され、後述する制御部6により、少なくとも変圧室B内に搬入された第一ワークW1及び第二ワークW2の受け取り時から貼り合わせ時まで、通気路31bを介して吸着口31aから吸引するように作動制御されている。
また、第一ワークW1及び第二ワークW2の貼り合わせ後には、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aに保持された第一ワークW1や、第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに保持された第二ワークW2に向け、吸着口31aから圧縮空気などの流体を噴出させることも可能である。
【0012】
保持チャック3の具体例として図1図4に示される例の場合には、上方に配置される第一保持部材1の第一ワーク保持面1aに、吸着チャック31と粘着チャック32を設置し、下方に配置される第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに、吸着チャック31のみを設置している。
粘着チャック32は、第一保持部材1に開穿された貫通孔1hを通ってZ方向へ往復動自在に設けられる昇降部32aと、昇降部32aの先端に第一ワークW1とZ方向へ対向するように設けられる粘着部32bと、昇降部32aの基端に設けられる粘着用従動部32cと、粘着用従動部32cと連係する粘着用駆動部32dと、を有している。
昇降部32a及び粘着部32bは、XY方向へ分散するように複数組配置され、昇降部32a及び粘着部32bの数及び間隔は、第一ワークW1のサイズや厚みや材質や重量などに対応して決められる。
粘着用駆動部32dは、Z方向へ往復動可能なアクチュエーターなどで構成され、後述する制御部6により、図1の実線に示されるように、変圧室B内に搬入された第一ワークW1の表面に、粘着部32bを接触させて粘着保持するように作動制御されている。第一ワークW1及び第二ワークW2の貼り合わせ後には、図3の実線に示されるように、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aが第一ワークW1の表面に接触した状態で、粘着部32bを第一ワークW1の表面からZ方向へ離隔させるように作動制御している。
また、その他の例として図示しないが、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aに粘着チャック32を設置せず、それに代えて静電チャックを吸着チャック31と組み合わせて設置したり、第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに粘着チャック32や静電チャックを吸着チャック31と組み合わせて設置したり変更することも可能である。
【0013】
ところで、第一保持部材1や第二保持部材2の材質としては、精密加工が容易(加工性に優れ)でありながら軽量(作業性に優れ)で且つ安価であるため、アルミニウム系などの金属材料が一般的に用いられている。
これに対し、LCDやOLEDなどの基板を構成する第一ワークW1や第二ワークW2の材質としては、アルミニウム系などの金属材料よりも硬いガラスやシリコンなどが一般的に用いられている。
そのため、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aや第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに対して、第一ワークW1や第二ワークW2を接触させて着脱を繰り返し行うと、接触する度に生じる摩擦により、軟質な第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aが徐々に摩耗してしまう。
また、第一保持部材1や第二保持部材2の材質として、ガラスなどよりも硬度が高くて摩耗し難いセラミックなどの硬質材料を用いることも考えられる。しかし、この場合には、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aをサンドブラスト等のブラスト処理やエッチング処理やラッピング処理などで凹凸形状に作成すると、凸部の山状先端が欠け易いだけでなく、第一ワークW1や第二ワークW2との接触時に凸部の山状先端が突き刺さるおそれもある。このため、金属材料に比べて、凹凸形状の加工精度及び加工性(加工時間や加工コスト)に劣り、且つ第一ワークW1や第二ワークW2にクラックなどの破損が生じる点からも不利であった。特にセラミック材料の場合には、焼成などの工程が必要になるため、大型化が困難であることも不利であった。
そこで、このような摩耗防止や加工性などの課題を同時に達成するため、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aや第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに、第一保持部材1や第二保持部材2や一対のワークW1,W2の材質よりも硬い材料からなる硬質被覆層12を形成している。
【0014】
硬質被覆層12は、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aに沿って、一対のワークW1,W2の材質よりも硬い材料をコーティングすることにより、所定厚みで積層形成される。さらに、硬質被覆層12は、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aを介してアース接続(接地)させることが好ましい。
硬質被覆層12の材料の具体例としては、硬質被覆層12の表面に酸化被膜などの不導体が発生しないような、例えばチタンや炭化ケイ素又はタングステンやカーボン粒子などからなる導電材を含んだセラミックやガラス又は金属マトリクスからなる材料を用いることが好ましい。
硬質被覆層12のコーティング方法の具体例としては、塗装やディッピング、蒸着、めっき、スパッタリング、溶射などが挙げられる。
硬質被覆層12の具体例として図1図4に示される場合には、第一保持部材1において部分的に形成される第一ワーク保持面1aと、その域外面1bを含んだ表面全体に対し、硬質被覆層12を有するパネル12Pが着脱自在に敷設されている。第二保持部材2において部分的に形成される第二ワーク保持面2aと、その域外面2bを含んだ表面全体に対しても、同様に硬質被覆層12を有するパネル12Pが着脱自在に敷設されている。
パネル12Pは、アルミニウム等の金属で薄板状に形成され、その表面に硬質被覆層12を一体形成している。パネル12Pの形状は、矩形などに形成され、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aと略同じサイズのパネル12Pを一枚取り付けるか、又は第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aのサイズよりも小さなパネル12Pを複数枚それぞれXY方向へ並ぶように取り付ける。
また、その他の例として図示しないが、域外面1bが除かれた第一ワーク保持面1aのみに硬質被覆層12を部分的に形成したり、域外面2bが除かれた第二ワーク保持面2aのみに硬質被覆層12を部分的に形成したり、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方側のみに硬質被覆層12を形成したり、パネル12Pを用いずに第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの表面に沿って硬質被覆層12を直接的に形成したり変更することも可能である。
【0015】
さらに、硬質被覆層12は、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方から一対のワークW1,W2のうち一方或いは両方に向け突出して点接触する複数の支承突起12aと、複数の支承突起12aの相互間に吸着チャック31の吸着口31aとそれぞれ連通するように形成される複数の吸気溝12bと、を有している。
複数の支承突起12aは、その先端部を第一ワークW1や第二ワークW2の表面に対しそれぞれ点接触させて、第一ワークW1や第二ワークW2が平滑状態となるように保持するものである。そのため、第一ワークW1や第二ワークW2の点接触部位が重量で変形しないように、微小な支承突起12aを単位面積当たり密となるように多数配置して保持することが好ましい。
複数の吸気溝12bは、第一ワークW1や第二ワークW2との間に微小な空間部12sが分散するように多数形成して、第一ワークW1や第二ワークW2との接触面積が狭くなるように構成されている。
平滑なワーク保持を確実にする方法として、複数の支承突起12aは、一対のワークW1,W2のうち一方或いは両方に向けて山状に突出するようにそれぞれ形成することが好ましい。複数の吸気溝12bは、複数の支承突起12aとXY方向やXYθ方向へ隣り合うようにそれぞれ谷状に形成することが好ましい。
【0016】
そして、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方は、粗面化処理で形成される複数の山状凸部12cと複数の谷状凹部12dを有し、複数の山状凸部12c及び複数の谷状凹部12dに沿って硬質被覆層12を積層することが好ましい。複数の山状凸部12c及び複数の谷状凹部12dも、支承突起12aや吸気溝12bと同様に、単位面積当たり密となるようにそれぞれ多数配置することが好ましい。
これにより、複数の山状凸部12cの外側に複数の支承突起12aが積層形成されるとともに、複数の谷状凹部12dの外側に複数の吸気溝12bが積層形成される。
粗面化処理としては、例えばサンドブラスト等のブラスト処理やエッチング処理やラッピング処理などが挙げられる。
粗面化処理の具体例として図1図4に示される場合には、パネル12Pの表面となる金属面をブラスト処理して粗面化し、この粗面に硬質被覆層12が積層形成されている。詳しくは、パネル12Pの表面となる金属面に対し、粒度が♯60〜♯240程度のセラミック、ガラス、金属等の粒子を高速で当てることにより、複数の山状凸部12cと複数の谷状凹部12dが、所定の表面粗さで同時に形成されるようにしている。
また、その他の例として図示しないが、粗面化処理としてブラスト処理に代え、エッチング処理やラッピング処理などに行ったり、パネル12Pを用いずに第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの表面が直接的に粗面化処理され、この粗面に硬質被覆層12を積層形成したり変更することも可能である。
【0017】
前述した粗面化処理による粗面状態の程度としては、表面粗さ(Ra)を0.1〜3.0程度にすることが好ましい。
実験によれば、複数の支承突起12a及び複数の吸気溝12bの表面粗さ(Ra)が0.1未満の場合には、支承突起12aと吸気溝12bの高低差が小さくなり過ぎて、吸着チャック31の吸着口31aからの吸引力が複数の吸気溝12bへ十分に行き渡り難くなる。そのために、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの全体で第一ワークW1や第二ワークW2を安定的に吸引保持不能であることが解った。
また、複数の支承突起12a及び複数の吸気溝12bの表面粗さ(Ra)が3.0よりも大きい場合には、支承突起12aと吸気溝12bの高低差が大きくなり過ぎて、吸着チャック31の吸着口31aからの吸引力が複数の吸気溝12bへ必要以上に流れてしまう。特に図示例のように、第一ワーク保持面1aの域外面1bや第二ワーク保持面2aの域外面2bまで硬質被覆層12が形成されると、これら域外面1b,2bに漏れる量が多くなり過ぎる。そのために、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの全体で第一ワークW1や第二ワークW2を安定的に吸引保持不能であることが解った。
【0018】
また、前述した硬質被覆層12の点接触による摩擦力の改善を実証するため、以下のような実験を行った。
前述した支承突起12a及び吸気溝12bが分散配置された硬質被覆層12を有する点接触プレートと、アルミニウムの平滑面が露出する面接触プレートと、これら上に載置されるガラス製のブロックと、を用意した。前記点接触プレート及び前記ブロックの接触部分と、前記面接触プレート及び前記ブロックの接触部分をそれぞれ真空状態にし、その後、大気圧に戻した状態で摩擦測定試験(ブロック・オン・プレート)をそれぞれ行った。
摩擦測定試験の結果は、前記点接触プレートの摩擦力が「0.090Kg」、前記面接触プレートの摩擦力が「0.193Kg」であり、前記点接触プレートの摩擦係数が前記面接触プレートの摩擦係数の約1/2であった。これにより、前記点接触プレートの方が前記面接触プレートよりも摩擦力を半減できることが解った。
【0019】
接離用駆動部4は、第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方か若しくは両方をZ方向へ往復動させるアクチュエーターなどで構成され、後述する制御部6により作動制御している。制御部6による接離用駆動部4の制御例としては、図1の実線に示されるように、変圧室B内に搬入された第一ワークW1及び第二ワークW2の受け渡し時において、接離用駆動部4が第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方を他方からZ方向へ相対的に離隔移動させるか、若しくは第一保持部材1及び第二保持部材2の両方を互いにZ方向へ相対的に離隔移動させている。その後は、図1の二点鎖線及び図2に示されるように、接離用駆動部4が第一保持部材1側又は第二保持部材2側のいずれか一方を他方に向けてZ方向へ接近移動させるか、若しくは第一保持部材1側及び第二保持部材2側の両方を互いにZ方向へ接近移動させることにより、第一ワークW1と第二ワークW2がシール材W3を挟んでZ方向へ重ね合わされ、必要がある場合には更に加圧して貼り合わせる。
接離用駆動部4の具体例として、図1図4に示される例の場合には、第一保持部材1のみを接離用駆動部4と連係させて、第一保持部材1側を第二保持部材2側に向けてZ方向へ相対的に接近移動させている。
また、その他の例として図示しないが、第二保持部材2のみを接離用駆動部4と連係させて、第二保持部材2側を第一保持部材1側に向けZ方向へ相対的に接近移動したり、第一保持部材1及び第二保持部材2をそれぞれ接離用駆動部4と連係させて、第一保持部材1側と第二保持部材2側を同時にZ方向へ相対的に接近移動したり変更することも可能である。
【0020】
アライメント用駆動部5は、第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方か若しくは両方をXY方向やXYθ方向へ調整移動させるアクチュエーターなどで構成され、後述する制御部6により作動制御している。制御部6によるアライメント用駆動部5の制御例としては、図2に示されるように、変圧室B内に搬入された第一ワークW1及び第二ワークW2の貼り合わせ直前において、アライメント用駆動部5が第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方を他方からXY方向やXYθ方向へ相対的に調整移動させて、第一ワークW1及び第二ワークW2の位置合わせを行うか、若しくは第一保持部材1及び第二保持部材2の両方を互いにXY方向やXYθ方向へ相対的に調整移動させて、第一ワークW1及び第二ワークW2の位置合わせを行っている。
アライメント用駆動部5の具体例として、図1図4に示される例の場合には、第一保持部材1のみをアライメント用駆動部5と連係させて、第一保持部材1側を第二保持部材2側に向けてXYθ方向へ相対的に調整移動させている。
また、その他の例として図示しないが、第二保持部材2のみをアライメント用駆動部5と連係させることで、第二保持部材2側を第一保持部材1側に向けXY方向やXYθ方向へ相対的に調整移動して位置合わせしたり、第一保持部材1及び第二保持部材2をそれぞれアライメント用駆動部5と連係させることで、第一保持部材1側と第二保持部材2側を同時にXY方向やXYθ方向へ相対的に調整移動して位置合わせしたり変更することも可能である。
【0021】
制御部6は、吸着チャック31の吸気源31c、粘着チャック32の粘着用駆動部32d、接離用駆動部4及びアライメント用駆動部5などとそれぞれ電気的に接続するだけでなく、変圧室Bの内外に第一ワークW1及び第二ワークW2を出し入れするための開閉部(図示しない)や、変圧室B内を大気雰囲気APから所定真空度の減圧雰囲気DPに調整する室圧調整手段(図示しない)などにも電気的に接続するコントローラーである。
制御部6となるコントローラーは、その制御回路(図示しない)に予め設定されたプログラムに従って、予め設定されたタイミングで順次それぞれ作動制御している。
【0022】
詳しく説明すると、制御部6は、図1の実線に示されるように、大気雰囲気APの変圧室B内に搬入された第一ワークW1を、吸着チャック31及び粘着チャック32により第一保持部材1の第一ワーク保持面1aに受け取り、第二ワークW2を吸着チャック31により第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに受け取るように作動制御している。
その後に、変圧室B内が減圧雰囲気DPに切り替わった後は、図1の二点鎖線及び図2に示されるように、粘着チャック32の粘着用駆動部32d及び接離用駆動部4により、第一保持部材1及び粘着部32bを第二保持部材2に対し相対的にZ方向へ接近移動させることで、第一ワークW1と第二ワークW2がシール材W3を挟んでZ方向へ重ね合わされるように作動制御している。
この重ね合わせと略同時に、アライメント用駆動部5により第一保持部材1又は第二保持部材2のいずれか一方を他方に対しXY方向やXYθ方向へ調整移動して、第一ワークW1と第二ワークW2の相対的な位置合わせ(アライメント)が高精度に行われる。この位置合わせ完了後に、接離用駆動部4により第一ワークW1と第二ワークW2を貼り合わせるように作動制御している。
さらに、第一ワークW1及び第二ワークW2の貼り合わせ後は、図3の実線に示されるように、接離用駆動部4により第一保持部材1の第一ワーク保持面1aが第一ワークW1の表面に対し接触する状態を保持し、粘着チャック32の粘着用駆動部32dにより粘着部32bを第一ワークW1から離隔する方向へ移動させて引き剥がすように作動制御している。
【0023】
このような本発明の実施形態に係る貼合デバイスWの製造装置Aによると、第一保持部材1の第一ワーク保持面1aや第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに形成される硬質被覆層12に対し、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)を繰り返し接触させて、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)が平滑状となるように保持しても、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)に向け山状に突出する複数の支承突起12aがワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)と点接触して接触面積が極めて小さい。そのため、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)との摩擦による拘束力が少ない。
これに加えて、複数の支承突起12aは、第一保持部材1や第二保持部材2やワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)よりも硬質であるため、経時的に摩耗しない。
これにより、第一保持部材1や第二保持部材2を加工精度や加工性などに優れた金属材料で形成しても、支承突起12aの先端部のみを長期に亘り磨り減ることなく平滑状のワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)と点接触させて高精度に保持可能となる。
したがって、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)に対する第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの接触面積を極小にしながら、時間経過に伴う第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの摩耗を防止することができる。
その結果、サブミクロン精度の高精度な貼合デバイスWを長期間に亘り製造し続けることができる。
【0024】
特に、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方は、粗面化された複数の山状凸部12cを有し、複数の山状凸部12cの外側に複数の支承突起12aがコーティングによって積層形成されることが好ましい。
この場合には、粗面化で複数の山状凸部12cの先端が鋭角状に尖る形状になっても、複数の山状凸部12cの外側をコーティングすることにより、コーティング材料の表面張力で複数の支承突起12aの山状先端部が球面状になる。
したがって、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)との接触時におけるワークの部分的な歪み発生防止と複数の支承突起12aの突き刺さり防止を同時に達成することができる。
その結果、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aにワークW1,W2を保持した際の歪みを抑制することができ、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)にクラックなどの破損が生じることがない。このため、特に厚みの薄いワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)に極めて有効である。
【0025】
さらに、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方は、一対のワーク(W1,W2)のうち一方或いは両方を吸引して保持する吸着口31aを備え、硬質被覆層12は、複数の支承突起12aの相互間に吸着口31aと連通するように谷状に形成される複数の吸気溝12bを有することが好ましい。
この場合には、硬質被覆層12に対し、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)を繰り返し接触させても、長期に亘り吸気溝12bが消滅しない。このため、吸着口31aからの吸引力が、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの全体に行き渡って、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)が確実に吸引保持される。
また第一保持部材1の第一ワーク保持面1aや第二保持部材2の第二ワーク保持面2aからのワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)の剥離時は、複数の支承突起12aの相互間に形成される複数の吸気溝12bでワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)と密着しないため、スムーズに剥がれて剥離に伴う静電気がほとんど発生しない。
したがって、吸着保持によるワークW1,W2の部分的な歪み発生を確実に防止することができる。
その結果、吸引保持した際に基板の一部が吸着口に向け屈曲変形して歪みを発生する従来のものに比べ、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aにワークW1,W2を保持した際の歪みを抑制することができ、特にサブミクロン精度を要求される貼り合せに対しても、面内を均一な状態で貼り合せることができる。そのため、高精度な貼合デバイスWを製造できる。
また、基板の剥離時に静電気が発生して帯電する従来のものに比べ、長期間に亘って一対のワークW1,W2を平行状態に保ちながら貼り合わせることが可能で、且つ剥離帯電の影響を確実に防止できる。それにより、長期的に亘り安定して高い精度の貼り合せを行うことができるとともに、貼合デバイスWの破壊や回路の断線だけでなく、静電気によるその特性変化を確実に防止できる。
【0026】
特に、複数の支承突起12aと隣り合うように複数の吸気溝12bを互いに接近させて配置することが好ましい。
この場合には、硬質被覆層12の全面に亘って支承突起12a及び吸気溝12bが単位面積当たり高密度に配置される。
したがって、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)をより平滑に保持することができる。
その結果、ワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)の貼り合わせ精度の更なる向上が図れる。
【0027】
さらに、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方は、粗面化された複数の谷状凹部12dを有し、複数の谷状凹部12dの外側に複数の吸気溝12bがコーティングによって積層形成されることが好ましい。
この場合には、前加工として第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aを粗面化処理することにより、複数の山状凸部12cと複数の谷状凹部12dが同時に形成され、その外側に後処理として硬質被覆層12をコーティングで積層することにより、複数の支承突起12a及び吸気溝12bが同時に形成される。
したがって、簡単な処理で微小な山状凸部12cと谷状凹部12dを多数それぞれ略均一に作成することができる。
その結果、短時間で且つ低コストで山状凸部12cと谷状凹部12dを緻密に作成できる。
【0028】
また、複数の山状凸部12cの外側に積層形成される複数の支承突起12aと、複数の谷状凹部12dの外側に積層形成される複数の吸気溝12bを、その表面粗さ(Ra)が0.1〜3.0程度となるように粗面化することが好ましい。
この場合には、支承突起12aと吸気溝12bの高低差が、吸着チャック31の吸着口31aからの吸引力を複数の吸気溝12bへそれぞれ必要量行き渡って、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aの全体で第一ワークW1や第二ワークW2を安定的に吸引保持することができる。
【0029】
またさらに、硬質被覆層12が、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aを介してアース接続(接地)され、硬質被覆層12の材料としては、硬質被覆層12の表面に酸化被膜などの不導体が発生しないような、導電材を含んだ材料を用いることが好ましい。
この場合には、変圧室Bへ搬入された際に第一ワークW1や第二ワークW2の表面に存在する電荷のほとんどが、硬質被覆層12との接触により、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aを介して逃がすことができる。
これに加えて、複数の支承突起12aが第一ワークW1や第二ワークW2と点接触して接触面積が極めて小さいため、剥離帯電も非常に起こり難い。
これにより、実質的に静電気の発生を完全に防止できる。
【0030】
さらにまた、第一ワーク保持面1a又は第二ワーク保持面2aのいずれか一方か若しくは両方に、硬質被覆層12を有するパネル12Pが取り付けられることが好ましい。
この場合には、第一ワーク保持面1aや第二ワーク保持面2aに対し、パネル12Pを取り付けることにより、複数の支承突起12a及び複数の吸気溝12bからなる精密な凹凸構造が一体的に組み付けられる。
したがって、簡単な取り付け加工で複数の支承突起12a及び複数の吸気溝12bを容易に設置することができる。
その結果、組み付け精度の向上が図れる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
この実施例は、図1図4に示すように、第二保持部材2が、貼り合わせが完了した一対のワークW1,W2、すなわち貼合デバイスWを第二ワーク保持面2aから剥がす剥離部材7を有するものである。
図1図4に示される例では、剥離部材7による押圧で、第二ワーク保持面2aから第二ワークW2を押し剥がしている。
【0032】
剥離部材7は、第二保持部材2に開穿された貫通孔2hを通って第二ワークW2の表面とZ方向へ対向するようにZ方向へ往復動自在に設けられる複数のリフトピン7aと、複数のリフトピン7aの基端に亘って設けられる剥離用従動部7bと、剥離用従動部7bと連係する剥離用駆動部7cと、を有している。
リフトピン7aは、第二ワーク保持面2aに対してXY方向へ分散するように配置され、リフトピン7aの数及び間隔は、第二ワークW2のサイズや厚みや材質や貼合デバイスWの重量などに対応して決められる。
剥離用駆動部7cは、Z方向へ往復動可能なアクチュエーターなどで構成され、制御部6により、図1図3に示されるように、変圧室B内に搬入された第二ワークW2の受け取り時から第一ワークW1及び第二ワークW2の貼り合わせ時まで、貫通孔2h内にリフトピン7aの先端部を没入させるように作動制御されている。第一ワークW1及び第二ワークW2の貼り合わせ後には、図4に示されるように、リフトピン7aの先端部を貫通孔2hから第二ワークW2の表面に向け突出させて、第二ワーク保持面2aから第二ワークW2が剥がれるように作動制御している。
また、リフトピン7aの先端部には、ワーク保持用のチャック部(図示しない)を設けることが好ましい。
【0033】
このような本発明の実施例に係る貼合デバイスWの製造装置Aによると、ワーク(第二ワークW2)と第二保持部材2の間には、(微小な空間部12sからなる多数の)空気層が生じるため、圧力差によるワーク(第二ワークW2)と第二保持部材2との密着がなくなる。これと同時に複数の吸気溝12bによりワーク(第二ワークW2)と第二保持部材2との接触面積が極めて小さいため、剥離帯電が抑制されて静電気による拘束がなくなる。これにより、貼り合わせが完了した一対のワーク(第一ワークW1,第二ワークW2)、すなわち貼合デバイスWを、剥離部材7で第二保持部材2の第二ワーク保持面2aから剥がしても、ワーク(第二ワークW2)と第二ワーク保持面2aの界面が貼り付かないため、貼合デバイスWの押圧部分が反り変形することなくスムーズに剥がれる。
したがって、貼り合わされた一対のワーク(貼合デバイスW)を剥離部材7で反り変形させることなく剥離して位置合わせ精度の変化を防止することができる。
その結果、貼り合わされた一対の基板をリフトピンにより離す際に部分的な反りが発生し易い従来のものに比べ、高精細の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどであっても、位置ずれによるムラや光抜けなどの一部不良を防止でき、歩留まりの向上が図れるという利点がある。
【0034】
なお、前示の実施形態では、保持チャック3の具体例として、第一保持部材1の第一ワーク保持面1a及び第二保持部材2の第二ワーク保持面2aに吸着チャック31をそれぞれ設置したが、これに限定されず、第一ワーク保持面1a及び第二ワーク保持面2aに吸着チャック31を設置せず、粘着チャック32や静電チャックなどを設置してもよい。
さらに、前示の実施例では、第二保持部材2が有する剥離部材7によって、貼り合わせが完了した一対のワークW1,W2を第二ワーク保持面2aから剥がしたが、これに限定されず、第二保持部材2と関係なく設けられる剥離手段で、貼り合わせが完了した一対のワークW1,W2を第二ワーク保持面2aから剥がしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
A 貼合デバイスの製造装置 1 第一保持部材
1a 第一ワーク保持面 2 第二保持部材
2a 第二ワーク保持面 31a 吸着口
12 硬質被覆層 12a 支承突起
12b 吸気溝 12c 山状凸部
12d 谷状凹部 12P パネル
7 剥離部材
W 貼合デバイス W1 ワーク(第一ワーク)
W2 ワーク(第二ワーク)
図1
図2
図3
図4