(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを添加することを特徴とする、乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有する発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制する方法。
【背景技術】
【0002】
コラーゲン(コラーゲンペプチドを含む)は真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などを構成する成分のひとつで、多細胞動物の細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分である。コラーゲンは、皮膚や筋肉、骨、関節などあらゆる生体組織に含まれており、コラーゲンのもつ美容や健康効果が注目され、コラーゲンを含有する商品が各種開発されている。
ゼラチンは、コラーゲンを加熱して抽出したものであり、当該ゼラチンを分解したものがコラーゲンペプチドである。
【0003】
ヒアルロン酸は、生体、特に皮下組織に存在するムコ多糖類であり、その高い保湿機能によりヒアルロン酸またはその塩として、化粧品の原料に広く利用されている。近年では、経口摂取により生体本来の持つヒアルロン酸含量の低下を補い、肌の保湿、弾力性、及び柔軟性を改善する効果を期待して、飲食品への応用も検討されている。
【0004】
ヒアルロン酸の機能性を期待した発酵乳食品に関する文献としては、平均分子量3.5万以下のヒアルロン酸及び/又はその塩を0.0125〜0.15%含有することを特徴とする発酵乳(特許文献1)、ヒアルロン酸および第2テキスチャライザー及び1種または2種以上の乳成分及び/又は乳画分を含んでなる乳製品(特許文献2)、ヒアルロン酸及び1又は複数の乳汁成分を含んでなる酪農製品(特許文献3)等がある。
同様にして、特許文献4にはコラーゲンを含有した発酵乳食品が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有した発酵乳食品、特にヨーグルトはその製造時において凝集物や沈殿が生じ、均一な発酵が阻害される、滑らかな食感を付与することができない等の課題を抱えていた。
本課題に鑑み、本発明では、乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有しつつも、凝集物や沈殿が生じることなく、均一で滑らかな食感を有する発酵乳食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンに加えて、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを用いることで、発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制でき、均一で滑らかな食感を有する発酵乳食品を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は以下の態様を有する発酵乳食品に関する;
項1.以下の(1)〜(4)を含有する、発酵乳食品;
(1)乳原料、
(2)ヒアルロン酸、
(3)コラーゲン及び/又はゼラチン、
(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン。
【0009】
本発明はまた、乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有する発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制する方法に関する;
項2.λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを添加することを特徴とする、乳原料、ヒアルロン酸並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有する発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制する方法。
【発明の効果】
【0010】
乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有した発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制でき、均一で滑らかな食感の発酵乳食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(I)発酵乳食品
本発明の発酵乳食品は、以下の(1)〜(4)を含有することを特徴とする。
(1)乳原料、
(2)ヒアルロン酸、
(3)コラーゲン及び/又はゼラチン、
(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン。
【0012】
(1)乳原料
発酵乳食品に使用できる乳原料としては、例えば「乳及び乳製品の成分規等に関する省令」の「発酵乳」、「乳酸菌飲料」等に例示されている原料を使用できる。具体的には、牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、乳清タンパク質、カゼイン等を例示できる。発酵乳食品中の乳原料の含量としては、無脂乳固形分換算で0.5〜15質量%、好ましくは4〜10質量%を例示できる。
【0013】
(2)ヒアルロン酸
ヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。なお、本発明で「ヒアルロン酸」とは、当該ヒアルロン酸及び/又はその塩をいう。ヒアルロン酸は、例えば鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生体組織、あるいはストレプトコッカス属等のヒアルロン酸産生微生物を培養して得られる培養液等を原料として、抽出して得ることが可能である。
本発明では、発酵乳食品に対してヒアルロン酸を0.0005〜0.2質量%、好ましくは0.001〜0.1質量%添加することが望ましい。
【0014】
(3)コラーゲン及び/又はゼラチン
コラーゲン(コラーゲンペプチドを含む)は真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などを構成する成分のひとつで、多細胞動物の細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分であり、皮膚、筋肉、骨、関節等の各種生体組織より抽出することで得られる。なお、本発明において「コラーゲン」とは、コラーゲンペプチドを含む。
発酵乳食品におけるコラーゲンの含量は対象食品によって適宜調整することが可能であるが、具体的には0.1〜15質量%、好ましくは0.5〜10質量%である。
ゼラチンは、コラーゲンを加熱抽出して得ることが可能であり、コラーゲンに比較して水溶液への溶解性が高いという利点を有する。
発酵乳食品におけるゼラチンの含量は対象食品によって適宜調整することが可能である
が、具体的には0.1〜2質量%、好ましくは0.2〜1質量%である。
【0015】
本発明は、上記(1)〜(3)を含有する発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制し、均一で滑らかな食感を有する発酵乳食品を提供することを目的とし、当該課題を解決するために、下記(4)に示す少なくとも1種以上のカラギナンを用いることを特徴とする。
(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン。
【0016】
カラギナンは、紅藻類海藻から抽出、精製される天然高分子で、分子量は通常、100,000〜1,500,000である。D−ガラクトースと、3,6アンヒドロ−D−ガラクトースから構成される多糖類であるカラギナンの基本構造単位モノマーを下記(化1)に示した。カラギナンの種類は、この結合様式を変えることなく、硫酸基の位置、アンヒドロ糖の有無によって区別される(参照:特表2005−518463号公報)。各成分の基本構造について、(化2)に示した。
【0019】
本発明では、上記基本構造を有すλ(ラムダ)カラギナン、ι(イオタ)カラギナン、κ2(カッパツー)カラギナン、並びにμ(ミュー)成分及びν(ニュー)成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを含有することを特徴とする。なお、本発明では、硫酸基含量が20〜40%のカラギナンを用いることが好ましい。
【0020】
λカラギナンは、(化2)に示すλ成分を基本構造とするカラギナンである。商業上入手可能なλカラギナン製剤として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標]P−30」を例示できる。
ιカラギナンは、(化2)に示すι成分を基本構造とするカラギナンである。商業上入手可能なιカラギナン製剤として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標]P−90」を例示できる。
【0021】
κカラギナンは、(化2)に示すκ成分を基本構造とするカラギナンである。本発明においてκ2カラギナンとは、分子の一部がι成分で置換されたκカラギナンをいう。具体的には、κカラギナンの分子構造中にιカラギナンの構造を一部有する、すなわちκカラギナンとιカラギナンがハイブリッド化していることを特徴とするカラギナンである。ιカラギナンによるκカラギナンの置換率は特に制限されないが、置換率として1〜49%程度、好ましくは10〜40%を例示できる。商業上入手可能なκ2カラギナン製剤として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標]P−40」を例示できる。
【0022】
μ成分及びν成分(化2)はそれぞれκ成分及びι成分の前駆体である。一般的に市場に流通しているκカラギナン及びιカラギナンは、各々μカラギナン及びνカラギナンをアルカリ処理して得られるカラギナンであり、通常、μ及びν成分をほとんど含まない。本発明では好ましくはμ成分及びν成分を総量で8質量%以上、好ましくは12質量%以上含有するカラギナンを用いる。μ成分及びν成分の上限は特に制限されないが、好ましくは50質量%である。
μ成分及びν成分を含有するカラギナン製剤として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「カラギニンHi−pHive(「Hi−pHive」はCPケルコ社の登録商標)」を商業上入手することが可能である。
当該製品はμ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%含有するものである。
なお、μ成分及びν成分を含有するカラギナンは、それ自体でゲルを形成しないという特徴を有している。
【0023】
発酵乳食品中における、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンの添加量は、ヒアルロン酸やコラーゲン及び/又はゼラチンの含量によっても適宜調整することが可能であるが、具体的には、0.005〜1質量%、好ましくは0.01〜0.5質量%、更に好ましくは0.03〜0.3質量%である。添加量が0.005質量%を下回ると十分に凝集物や沈殿を抑制できない場合があり、一方で添加量が1質量%を上回ると粘度が高くなりすぎる、凝集物を生じる、ゲル化するなどの問題が発生する場合がある。
【0024】
本発明が対象とする発酵乳食品とは、発酵工程を経て得られる乳食品であり、例えばヨーグルト(本発明でいうヨーグルトには、ドリンクヨーグルトを含む)、乳酸菌飲料等が例示できる。特に本発明はヨーグルトに関して高い安定化効果を示す。
【0025】
本発明の発酵乳食品は、以下の(1)〜(4)を含有することを特徴とし、各々の原料の添加時期や発酵時期は特に制限されない;
(1)乳原料、
(2)ヒアルロン酸、
(3)コラーゲン及び/又はゼラチン、
(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン。
【0026】
例えば、乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有した発酵乳食品の製造方法として、一般的には下記方法が考えられる;
(i)乳原料、ヒアルロン酸並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを混合後、発酵する方法、
(ii)乳原料を発酵後、ヒアルロン酸並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを混合する方法、
(iii)乳原料、ヒアルロン酸を混合し、発酵した後にコラーゲン及び/又はゼラチンを混合する方法、
(iv)乳原料、コラーゲン及び/又はゼラチンを混合し、発酵した後にヒアルロン酸を混合する方法。
本発明では、上記(i)〜(iv)の方法において、(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを添加することで、乳原料、ヒアルロン酸、並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有した発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制することが可能となる。
【0027】
(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンの添加時期は特に制限されず、発酵前又は発酵後のいずれの時期に添加しても良い。
好ましくは、上記(i)〜(iv)の方法において、乳原料に、ヒアルロン酸、コラーゲン及び/又はゼラチンのいずれか一種以上が混合される前に、(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを添加することが望ましい。
この場合、(4)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンは、乳原料に添加しても良く、ヒアルロン酸、コラーゲン及び/又はゼラチンを含有する原料に添加しても良い。
【0028】
なお、上記(i)、(iii)又は(iv)のように、乳原料と、ヒアルロン酸、コラーゲン及びゼラチンのいずれか一種以上を混合後、発酵工程をとる発酵乳食品の製造方法において、凝集物や沈殿の発生が顕著となるが、本発明では、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを用いることで、乳原料と、ヒアルロン酸、コラーゲン及びゼラチンのいずれか一種以上を混合後、発酵工程を経た場合であっても、凝集物や沈殿が抑制され、均一で滑らかな食感の発酵乳食品を提供することが可能となった。
【0029】
(II)発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制する方法
本発明はまた、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを添加することを特徴とする、乳原料、ヒアルロン酸並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含有する発酵乳食品の製造時に生じる凝集物や沈殿を抑制する方法に関する。
本方法は、前記(I)発酵乳食品で示した方法に従って実施可能である。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを意味する。
【0031】
実験例1 発酵乳食品(1)
表1及び表2の処方に基づき、発酵乳食品を製造した。
具体的には、イオン交換水に脱脂粉乳、ヒアルロン酸、コラーゲンペプチド、ゼラチン及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解を行い、20℃以下まで冷却した。
スターターを添加し、pHが4.4となるまで発酵を行い、発酵乳食品(ヨーグルト)を調製した。発酵前の乳原料含有溶液の安定性、並びに得られた発酵乳食品の安定性及び食感について評価を行った。結果を表2に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
注1)「カラギニンHi−pHive*」(μ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%以上含有するカラギナン100質量%)を使用。
【0035】
(発酵前の安定性評価)凝集物や沈殿が多いものから順に+++>++>+>±>−(凝集物や沈殿なし)の5段階で評価した。
【0036】
安定剤不使用区のブランクと比較例1−1のグァーガム添加区は、発酵前の段階で凝集物や沈殿が発生して分離してしまい、その後の発酵工程がうまくいかず発酵乳食品を調製できなかった。比較例1−2のキサンタンガム添加区は、得られた発酵乳食品が不均一で分離しており、食感もざらついていた。比較例1−3のκカラギナン添加区は、発酵前の段階で沈殿物は無かったが、カードが形成されず、発酵乳食品を調製することができなかった。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例1−1〜1−3の発酵乳食品は、乳原料、ヒアルロン酸、コラーゲン(コラーゲンペプチド)及びゼラチンを含有しているにも関わらず、発酵前の段階で凝集物や沈殿の発生も無く、得られた発酵乳食品も均一で滑らかな食感を有していた。
【0037】
実験例2 発酵乳食品(2)
表3及び表4の処方に基づき、発酵乳食品を製造した。
具体的には、イオン交換水に脱脂粉乳、ヒアルロン酸、コラーゲンペプチド、ゼラチン及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解を行い、20℃以下まで冷却した。
スターターを添加し、pHが4.4となるまで発酵を行い、発酵乳食品(ヨーグルト)を調製した。発酵前の乳原料含有溶液の安定性、並びに得られた発酵乳食品の安定性及び食感について評価を行った。結果を表4に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
注2)ιカラギナンによるκカラギナンの置換率が10〜40%の範囲内である「サンサポート※P−40*」を使用。
【0041】
安定剤不使用区のブランクと比較例2−1のグァーガム添加区は、発酵前の段階で凝集物や沈殿が発生して分離してしまい、その後の発酵工程がうまくいかず発酵乳食品を調製できなかった。一方、ιカラギナン、λカラギナン及びκ2カラギナンを各々使用した実施例2−1〜2−3の発酵乳食品は、乳原料、ヒアルロン酸、コラーゲン(コラーゲンペプチド)及びゼラチンを含有しているにも関わらず、発酵前の段階で凝集物や沈殿の発生も無く、得られた発酵乳食品も均一で滑らかで柔らかな食感を有していた。