(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165507
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】携帯端末を持った人が特定の場所に居ることを検知するコンピューティング
(51)【国際特許分類】
G01C 21/26 20060101AFI20170710BHJP
G06F 17/30 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
G01C21/26 PZJV
G06F17/30 170E
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-116880(P2013-116880)
(22)【出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-235084(P2014-235084A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008109
【氏名又は名称】アビックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 和昭
(72)【発明者】
【氏名】時本 豊太郎
【審査官】
島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−198209(JP,A)
【文献】
特開2013−050331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/26
G06F 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの事項(1)〜(6)により特定される方法。
(1)特定のアプリケーションプログラムがインストールされた利用者の携帯端末とインターネット上の特定のサーバーとが通信して実施するコンピューティングの方法であること
(2)前記アプリケーションプログラムは、携帯端末において起動された際、当該携帯端末のGPS受信機による端末位置データを取得する処理と、当該携帯端末のマイクにより採取した環境音の音信号を所定形式の環境音データに加工する処理と、前記端末位置データと前記環境音データを当該携帯端末から前記サーバーに送信する処理を行うこと
(3)前記サーバーは、広域に散在する複数の対象場所に関し、各対象場所ごとの位置情報と、各対象場所ごとの環境音標本データと、各対象場所ごとの有効時間帯の情報とを対応づけして集約した対象データベースを備えること
(4)前記対象データベースにおける環境音標本データは、対象場所で採取した環境音に基づいて作成され、その環境音の特徴を表現したデジタルデータであること
(5)前記サーバーは、携帯端末Aから送信された端末位置データBと環境音データCを受信した際、前記対象データベースにおける各対象場所の位置情報と受信した端末位置データBとを比較し、端末位置データBの近辺に存在する複数の対象場所を特定する処理を行うこと
(6)前記サーバーは、前記対象データベースにおいて前記特定した複数の対象場所のうち端末位置データBと環境音データCの受信時刻が有効時間帯である対象場所を比較対象とし、各対象場所の環境音標本データと受信した環境音データCとを比較し、環境音データCとの類似度が最大の環境音標本データを特定し、その環境音標本データに対応づけされている対象場所が携帯端末Aの現在地であると判断する処理を行うこと
【請求項2】
つぎの事項(7)(8)により特定される請求項1に記載の方法。
(7)前記対象データベースにおける各対象場所ごとの環境音標本データは、対象場所において時間帯を変えて採取した各環境音に基づいて作成されて時間帯で区分されたデジタルデータであること
(8)前記サーバーは、発明特定事項(6)のプロセスにおいて、端末位置データBに基づいて特定された複数の対象場所に該当するとともに環境音データCを受信した時間帯に該当する環境音標本データを比較対象とし、それらと環境音データCとの比較により前記現在地を割り出すこと
【請求項3】
つぎの事項(9)により特定される請求項1または2のいずれかに記載の方法。
(9)前記サーバーは、発明特定事項(6)のプロセスにおいて、携帯端末Aの現在地を対象場所Dと判断した際、携帯端末Aの識別子と対象場所Dの識別子とタイムスタンプとを対応づけして判断履歴簿に記録すること
【請求項4】
つぎの事項(10)により特定される請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
(10)前記サーバーは、発明特定事項(6)のプロセスにおいて、携帯端末Aの現在地を対象場所Dと判断した際、その判断に関連した電文を作成して携帯端末Aに送信すること
【請求項5】
つぎの事項(11)(12)により特定される請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
(11)対象データベースは、各対象場所ごとの管理者識別子を含んでいること
(12)前記サーバーは、管理者識別子を提示した管理者コンピューターと通信し、当該管理者コンピューターから送信されてくる環境音データに基づいて、当該管理者識別子に該当する対象場所の環境音標本データを作成または更新すること
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のコンピューティングの方法を実施するようにプログラムされたサーバー。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のコンピューティングの方法を実施するように携帯端末にインストールされるアプリケーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯端末を持った人が特定の場所にいることを検知するコンピューティングに関し、典型的な応用としては、携帯端末を持った人が特定の店舗に来たことを確認して携帯端末に来店ポイントを供与するようなサービスに適用されるコンピューティングである。
【背景技術】
【0002】
最近、株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモは「ショッぷらっと」と名付け、また株式会社スポットライトは「スマポ」(登録商標)と名付けて、つぎのように機能する来店ポイントサービスのプラットフォームを提供し始めた。
【0003】
来店ポイントをもらおうとする人は、自分のスマートフォンなどの携帯端末に特定のアプリケーションプログラム(アプリとも記す)をインストールして会員登録をする。加盟店の近くでそのアプリを起動させると、GPS(全地球測位システム)を利用したコンピューティングにより携帯端末の画面上に近辺の加盟店の情報が表示される。
【0004】
利用者が加盟店の店内に入ると、店内に設置されている発振器からの超音波信号を携帯端末のマイクがひろい、前記アプリがこの信号に反応して所定のサーバーに通知し、サーバーは携帯端末に来店ポイントを与える処理と当該端末利用者が当該加盟店に来たことを記録する処理などを行う。
【発明の開示】
【0005】
===発明の概要===
この発明を創作したきっかけは、前記のコンピューティングのプラットフォームにおいて、前記の超音波信号を発する発振器を加盟店に設置しなくても、前記と同様な来店ポイントサービスを実施できるようにすることであったところ、以下に詳述するように、来店ポイントサービスなどとは異なる応用展開を考えだすことにつながった。
【0006】
この発明の特徴を端的に説明するには、前述したような来店ポイントサービスへの適用例をとりあげるのが好都合である。加盟店には超音波信号を発する発振器を設置していない。携帯端末(スマートフォンなど)を持って加盟店内に入って特定のアプリを起動すると、携帯端末のマイクが店内の環境音をひろい、前記アプリによってその音信号が前処理されて所定形式のデジタルデータに加工されて(これを環境音データとする)、当該携帯端末から所定のサーバーに送信する。このとき当該携帯端末はGPS機能により取得した位置情報(端末位置データとする)も前記サーバーに送信する。
【0007】
サーバーは携帯端末Aから端末位置データBと環境音データCを受信する。サーバーは加盟店データベースを備えている。このデータベースには広域にわたって存在する多数の加盟店の位置情報が集約されている。サーバーは、携帯端末Aから受信した端末位置データBに基づいて、携帯端末Aの近辺に存在する複数の加盟店を特定する。
【0008】
前記データベースに集約されている情報には、各加盟店ごとの環境音標本データが含まれている。環境音標本データは、加盟店の店内で採取した環境音を所定アルゴリズムで分析処理し、その環境音の特徴を所定形式で表現したデジタルデータである。
【0009】
サーバーは、携帯端末Aから受信した環境音データCと、端末位置データBに基づいて特定した複数の加盟店の環境音標本データとをそれぞれ比較し、環境音データCとの類似性がもっとも高い環境音標本データをひとつ特定し、その標本データに該当する加盟店に携帯端末Aが存在していると判断する。
【0010】
===発明の核心===
以上では来店ポイントサービスへの適用例に従って説明したが、この発明は、他のさまざまな適用例を射程にすえて、つぎのように抽象化して捉えることができる発明である。
【0011】
前記の加盟店のことを対象場所と抽象化する。サーバーは、広域に散在する複数の対象場所に関する情報を集約した対象データベースを備えている。このデータベースには、各対象場所の位置情報が集約されているとともに、各対象場所ごとの環境音標本データが集約されている。
【0012】
利用者の携帯端末には特定のアプリがインストールされている。ある対象場所において利用者が携帯端末Aの前記アプリを起動した。すると、GPS機能により取得した端末位置データBが携帯端末Aからサーバーに送信される。また、携帯端末Aのマイクが対象場所における環境音をひろい、前記アプリによりその音信号を前処理した環境音データCが前記サーバーに送信される。
【0013】
サーバーは携帯端末Aから端末位置データBと環境音データCを受信し、この受信データと対象データベースの情報とを比較対照することで、データベースに登録されている複数の対象場所の中から携帯端末Aが存在している対象場所をひとつ特定する。
【0014】
以上のコンピューティングのいくつかの実施形態および適用例について、以下において詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ある加盟店の時間帯で区分された環境音標本データの例
【0016】
===来店認証への適用例===
ここまで説明した来店ポイントサービスのように、携帯端末を持った人が加盟店に来店したことを認証するコンピューティングの適用例について詳しく説明する。さきに説明したように、利用者は、周知慣用の携帯端末(広く普及している普通のスマートフォンやタブレット端末など)に特定のアプリをインストールしておき、その携帯端末を持って加盟店に入って前記アプリを起動する。
【0017】
すると、携帯端末のマイクが店内の環境音をひろい、前記アプリによってその音信号が前処理されて所定形式の環境音データが作成される。この環境音データと、当該携帯端末のGPS受信機により取得した位置情報(端末位置データ)とが、当該携帯端末から前記アプリにより指定されている認証サーバーに宛てて送信される。
【0018】
認証サーバーは加盟店データベースを備えている。前述したとおり、加盟店データベースには、たとえば大規模ショッピングモールにおける多数の加盟店の位置情報が集約されているとともに、各加盟店ごとの環境音標本データが集約されている。この実施例における加盟店ごとの環境音標本データは、各店舗内において時間帯を変えて採取した各環境音に基づいて作成されて時間帯で区分された複数の環境音標本データの集合となっている。このデータ構造の概要を
図1に示している。
【0019】
たとえば、ある加盟店の環境音標本データは、開店時間の10時から11時40分までの時間帯の環境音に基づいて作成された標本データ1と、11時40分から13時30分までの時間帯の環境音に基づいて作成された標本データ2と、13時30分から16時までの時間帯の環境音に基づいて作成された標本データ3と、16時から閉店時間の22時までの時間帯の環境音に基づいて作成された標本データ4とからなる。もちろん、環境音標本データの時間帯区分は各加盟店ごとに異なっていてよい。また、加盟店の閉店時間帯は認証対象から外れることになる。
【0020】
認証サーバーは、利用者の携帯端末Aから端末位置データBと環境音データCを含む電文を受信した際、つぎのように処理を進める。まず、受信した端末位置データBに基づいて加盟店データベースを検索し、端末位置データBの近辺に存在する複数の加盟店を特定する。つぎに、それら複数の加盟店の環境音標本データであって現在時刻(前記電文の受信時刻)が該当する時間帯用の環境音標本データを加盟店データベースから抽出し、抽出した加盟店ごとの環境音標本データと受信した環境音データCとを比較し、環境音データCとの類似度が最大の環境音標本データを特定し、その環境音標本データに該当する加盟店Dに携帯端末Aの利用者が居るものと判断する。
【0021】
認証サーバーは上記のように判断した場合、携帯端末Aの識別子と加盟店Dの識別子とタイムスタンプとを対応づけして判断履歴簿に記録するとともに、たとえば、携帯端末Aに来店ポイントを供与するための電文を作成して携帯端末Aに宛てて送信する。
【0022】
===環境音の分析・モデリング・認識===
以上詳しく説明したように、この発明は、あらかじめ採取した環境音に基づいて環境音標本データを作成することと、マイクで採取した入力音声を所定形式の環境音データに加工することと、入力された環境音データと環境音標本データとの類似度を求めることと、複数の異なる場所で採取された環境音に基づく環境音標本データと入力された環境音データとを比較して入力環境音の採取場所を特定すること、といった環境音の分析・モデリング・認識のコンピューティング技術を用いることによって実施されるものである。
【0023】
こうした環境音の分析・モデリング・認識のコンピューティングは、たとえば、日本音響学会2002年秋季研究発表会講演論文集(2002年9月26日)日本音響学会発行第167〜168ページに発表されており、また、特許第3987927号公報において詳細に開示されている。
【0024】
===環境音標本データの実用的な作成方法===
加盟店データベースに格納される各加盟店の環境音標本データの作成・更新に関し、つぎのような方式を採用すると実用的で便利である。各加盟店に管理者識別子を割り当てておき、加盟店における管理者コンピューター(デスクトップ型あるいはノート型パソコンや、スマートフォンやタブレット端末など)により前記の認証サーバーにアクセスし、割り当てられている管理者識別子を提示することにより、当該加盟店の環境音標本データ処理を起動できるようにする。
【0025】
ある加盟店の管理者コンピューターが認証サーバーと通信し、環境音標本データ処理が実行されると、管理者コンピューターのマイクで採取された店内の環境音がデジタルデータ化されて認証サーバーに送信される。認証サーバーは、加盟店から送られてくる環境音のデジタルデータに基づいて分析とモデリングの演算処理を行い、環境音標本データを作成する。これを前記データベースにおける当該加盟店の当該時間帯における標本データとして格納することができる。加盟店の管理者は店内の音響環境に変化が生じた場合に、前記のように環境音標本データ処理を実行することで、環境音標本データを更新することができる。
【0026】
また、以上のように利用者の携帯端末から送られてくる環境音データに基づいて認証サーバーにて来店認証処理を行っている実運用状態において、ある加盟店にて採取された環境音データ(利用者の携帯端末から送られてきたもの)に基づいて、加盟店データベースに格納されている当該加盟店の環境音標本データを学習処理により逐次更新し、認証精度を高めるようにすることが望ましい。
【0027】
===利用者の携帯端末にインストールされるアプリ===
ここまで説明したことから明らかなように、利用者の携帯端末にインストールされる前記の特定アプリは、つぎの事項(11)〜(14)により特定される携帯端末用のプログラムであるといえる。
(11)本プログラムは、ネットワーク上の特定サイトから利用者の携帯端末にダウンロードされてインストールされること
(12)本プログラムは、携帯端末において起動された際、当該携帯端末のGPS受信機による端末位置データBを取得すること
(13)本プログラムは、携帯端末において起動された際、当該携帯端末のマイクにより環境音を採取して環境音データCを作成すること
(14)本プログラムは、端末位置情報Bと環境音データCを含んだ電文を所定の認証サーバーに宛てて送信すること
【0028】
===その他の適用例===
この発明は、「携帯端末を持った人が特定の場所にいることを検知するコンピューティング」と名付けたように、来店ポイントサービスのプラットフォームとしての活用以外のいろいろな用途に適用できるであろう。たとえば、動物園内のスタンプラリーのような活用法がある。利用者がゴリラの展示場所に行って携帯端末の特定アプリを起動すると、ゴリラの声が含まれた環境音が認証サーバーに伝えられて利用者がゴリラ展示場所にいることが検知・認証される。同様にしてゾウの展示場所に行って認証を受け、ライオンの展示場所に行って認証を受ける。こうして指定されたすべての対象場所に行ったことを認証してもらうことでプレゼントがもらえる。