(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上方が開放状された有底筒状の凹部を備え、且つ前記凹部に加熱された被加工材が装入される下金型と、圧下面から下方に向かって凸状の突起部が形成され、且つ前記下金型に装入された被加工材を上方から圧下する上金型とからなる熱間鍛造装置において、
前記下金型の上面には、上方が開放状とされた係止溝が形成されており、
前記係止溝は、長尺状の係止体が挿入されるものであって、前記凹部の周縁部の上側を切り欠くように形成されると共に、前記係止溝を形成する側壁であって前記凹部に近い側の側壁が当該係止溝の内側に向かって倒れ込んでいる傾斜面とされており、
前記係止溝の少なくとも一方端が、前記下金型の外周面に対して貫通している
ことを特徴とする熱間鍛造装置。
前記係止溝には、前記係止体と、前記係止体とは別体に形成された長尺状の嵌合体とが合わせて挿入されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱間鍛造装置。
前記係止溝を形成する側壁であって、前記凹部に近い側の側壁は、前記下金型を側面視したとき、前記凹部の周縁部より内側に位置していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱間鍛造装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、ニッケル合金、アルミ合金、Ti-6Al-4Vなどのチタン合金は、優れた機械特性や耐熱性を有することから、航空機や車両などの輸送機器のエンジン部材、あるいはシャーシなどの構造部材に用いられている。
このような優れた機械特性を有する被加工材(例えば、チタン合金)を用いて上述した構造部材に用いられる大型の中空鍛造品(中空シャフト鍛造品)を鍛造する方法として、金型を用いた熱間鍛造方法(例えば、穴あけ熱間鍛造方法)が用いられる。穴あけ熱間鍛造方法は、予め製品形状を模して形成された下金型内に加熱された中実の被加工材を装入し、被加工材を高温状態に保持したままで凸形状のパンチ(圧下面中央に突起部を有する上金型)を押し込んで、その凸形状のパンチに沿った形状に引き伸ばすように変形させながら凹み部(穴部)を成形する方法である。
【0003】
上述した熱間鍛造方法を用いれば、熱間鍛造中の変形において製品形状に沿ったメタルフローが得られるため他の加工方法に比べてより粘り強く、耐衝撃破壊性など機械的特性に優れた中空鍛造品(成形品)を得ることができる。
ところが、成形品を製造すべく上金型を下金型へ押し込んだ際に、その成形品が上金型の突起部などに密着することがある。この状況下で上金型を上方に引き上げる、つまり成形品を上金型から離型するときに、成形品が上金型と共に上昇してしまうといった不具合が生じる。このような不具合が生じてしまうと、成形品を上金型から離型することが困難となる。
【0004】
この問題を解消する技術としては、例えば、特許文献1,2に開示されたものがある。
特許文献1には、互いに閉じ合う方向に相対移動可能な一対の型によって鍛造を行う金型装置において、少なくとも一方の型に、鍛造製品の環状端面の周方向に連続する押出し面を有するノックアウトリングを設けるとともに、上記ノックアウトリングの背後にこのノックアウトリングを型の内面から突き出す方向に駆動するノックアウトピンを設け、かつ、上記ノックアウトリングを所定位置に復帰させる付勢手段を設けた鍛造用金型装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、鍛造素材を鍛造型内で加圧することにより塑性流動させて所定の形状に成形する型鍛造方法であって、ダイスピンを鍛造素材の一端面に当てて背圧をかけた状態で後退させながら、該鍛造素材中にパンチを打ち込むか金型を押し当てて鍛造する鍛造工程を含み、上記ダイスピンを複数本同一軸上に設けるとともに、前記複数本のダイスピンは、前記鍛造工程中に相対位置が変化する型鍛造方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、航空機などの大型の輸送機器に用いられる大型の中空鍛造品は、高い機械的特性が求められており、その機械的特性を向上させるために高いひずみを付与する複雑な変形を伴う鍛造加工を経て製造されることが多くなっている。
このような複雑な鍛造加工で製造される中空鍛造品は金型と強力に密着し、離型が非常に困難となる場合がしばしば発生する。
【0008】
具体的には、突起部を有する上金型を押し込んで穴部若しくは凹み部を成形する穴あけ熱間鍛造方法においては、鍛造後に形成される中空鍛造品の凹み部(穴部)が、上金型の突起部に強力に密着してしまい、中空鍛造品と突起部との離型が困難となる。
熱間鍛造中に被加工材が上金型の突起部に強力に密着してしまう原因としては、例えば「加熱された被加工材が温度低下により熱収縮して、上金型の突起部を締付けるように抱付いてしまう」ことであったり、「上金型の突起部の先端が温度上昇して熱膨張し、突起部が被加工材を抱え込んでしまう」ことであったり、「潤滑剤切れを起こして、被加工材と上金型の突起部が凝着する、もしくは摩擦で貼付いてしまう」ことであったり、「ガラスなど粘着性のある潤滑剤を用いた際に、その粘着力で貼付いてしまう」ことが挙げられる。
【0009】
そこで、特許文献1,2に開示された離型技術を採用することが考えられる。
しかしながら、特許文献1に開示された鍛造用金型装置は、同文献の
図1からわかるように、複数の部材で構成された複雑なノックアウト構造を有するものとなっており、大型の中空鍛造品を製造するための鍛造装置に採用することは困難を伴うと思われる。また、特許文献1の技術を用いて、航空機などに用いられる大型の中空鍛造品を熱間鍛造する場合、上金型から中空鍛造品を離型する際に、非常に大きなノックアウト力が必要となる。それ故、非常に大きなノックアウト力に耐えられる上金型を製作する必要があるので、製作コストが高いものとなることが考えられる。
【0010】
また、特許文献2は、上金型中央のパンチを上下可動とし、上金型外縁で成形品を押さえた状態にしておき、中央のパンチを上方に引抜くことで、上金型から成型品を離型することができる技術を開示する。しかしながら、この技術を用いて、航空機などに用いられる大型の中空鍛造品を熱間鍛造する場合、強く密着した中空鍛造品を上金型外縁で下金型側に押さえつつ、中央のパンチを引抜くとき、上金型及びパンチに非常に大きな力が必要となる。それ故、非常に大きな力の耐えられる上金型を製作する必要があるので、複雑な構造となることが考えられ、且つ製作コストが高いものとなることが考えられる。
【0011】
すなわち、特許文献1,2の技術は、高い機械特性を有する大型の中空鍛造品を熱間鍛造する場合、適さない技術であると思われる。
そこで本発明は、上述の問題に鑑みて、熱間鍛造後に、中空鍛造品が上金型の突起部に強く密着し離型が困難になった場合でも、プレス上昇力を利用して突起部から中空鍛造品を損傷させることなく確実、且つ容易に離型することができる熱間鍛造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明では以下の技術的手段を講じている。
本発明にかかる熱間鍛造装置は、上方が開放状された有底筒状の凹部を備え、且つ前記凹部に加熱された被加工材が装入される下金型と、圧下面から下方に向かって凸状の突起部が形成され、且つ前記下金型に装入された被加工材を上方から圧下する上金型とからなる熱間鍛造装置において、前記下金型の上面には、上方が開放状とされた係止溝が形成されており、前記係止溝は、長尺状の係止体が挿入されるものであって、前記凹部の周縁部の上側を切り欠くように形成されると共に、前記係止溝を形成する側壁であって前記凹部に近い側の側壁が当該係止溝の内側に向かって倒れ込んでいる傾斜面とされており、前記係止溝の少なくとも一方端が、前記下金型の外周面に対して貫通していることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記係止溝の傾斜面は、傾斜角が3°以上30°以下とされているとよい。
好ましくは、前記係止溝の傾斜面に対面する前記係止体の側面は、前記係止溝の傾斜面と同じ傾斜角とされているとよい。
好ましくは、前記係止溝は、前記凹部を挟むように対面した位置に設けられているとよい。
【0014】
好ましくは、前記係止溝には、前記係止体と、前記係止体とは別体に形成された長尺状の嵌合体とが合わせて挿入されるとよい。
好ましくは、前記係止溝を形成する側壁であって、前記凹部に近い側の側壁は、前記下金型を側面視したとき、前記凹部の周縁部より内側に位置しているとよい。
好ましくは、前記下金型の下部には、ノックアウト機構が備えられているとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる熱間鍛造装置によれば、熱間鍛造後に、中空鍛造品が上金型の突起部に強く密着し離型が困難になった場合でも、プレス上昇力を利用して突起部から中空鍛造品を損傷させることなく確実、且つ容易に離型することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態の熱間鍛造装置について、図面に基づき詳しく説明する。
なお、第1実施形態の熱間鍛造装置1で鍛造される中空鍛造品41(単に、鍛造品と呼ぶこともある)は、航空機や車両などの輸送機器のエンジン部材、あるいはシャーシなどの構造部材に用いられる大型の中空シャフト鍛造品を製造する前工程の中空鍛造工程で製造されるものである。
【0018】
また、第1実施形態における中空鍛造は、凸状の突起部3を有する上金型2の圧下方向に対して、圧下方向に沿った前方側(下側)に材料が変形し凹み部42(穴部)が形成される鍛造であるため、穴あけ熱間鍛造とも呼ばれる。
図1〜
図3に示すように、第1実施形態の熱間鍛造装置1は、加熱された被加工材40を金型内に装入して、金型の形状に沿って被加工材40を熱間状態で変形させることにより、所望の形状の鍛造品を成形するものである。具体的には、この熱間鍛造装置1は、鍛造品を成形するための金型を有しており、この金型は、上下2つに分割できるようになっていて、被加工材40が装入されて載置される下金型6と、この下金型6に載置された被加工材40を上方から圧下する上金型2と、を有している。
【0019】
上金型2は、下金型6の上方に配備されており、下金型6内に載置された被加工材40に対して上方から近接離反とされており、上金型2を下降させることで被加工材40を上方から押しつぶすように圧下可能となっている。上金型2の中央部には、被加工材40を圧下するための突起部3(パンチ)が形成されている。本実施形態におけるパンチ3は、例えば、上下に細長く、その軸長は被加工材40の高さより高いものとなっている。
【0020】
なお、本実施形態におけるパンチ3は、上下に細長いものとしたが、太径のものでもよく、また被加工材40の高さより低くてもよい。つまり、パンチ3の長さは、熱間鍛造される中空鍛造品41の形状によって異なってくる。
パンチ3は、下方を向く凸状であって、被加工材40の上面中央から圧下する圧下部4と、当該圧下部4の上部に連接して形成され且つテーパもしくはストレート形状の押出部5とを有する。
【0021】
図2に示すように、本実施形態におけるパンチ3の圧下部4は、例えば、上下方向軸心
中央が平面とされ、且つその平面の周縁はR(フィレット)とされている。押出部5は、上部に向かうにつれて広がるように拡径された形状とされている。
なお、本実施形態におけるパンチ3の形状(側面視でペン先形状)は一例であって、下方に突出状の形状であれば、いかなる形状であってもよい。パンチ3の形状としては、例えば圧下部4の先端が水平方向を向く平面とされた側面視で矩形状であったり、圧下部4の先端の中央が尖った先細り形状であったり、圧下部4の先端が押出部5の直径より膨張した半球状とされたものでもよい。
【0022】
下金型6は、上方が開放状された有底筒状の凹部7を備え、その凹部7に加熱された被加工材40が装入されて載置されるようになっている。
詳しくは、
図2及び
図3に示すように、下金型6の幅方向中央であって上部側には、その内径が被加工材40の外径より若干大きく、且つその高さが被加工材40の高さより高い有底円筒状の凹部7が形成されており、この凹部7の内部に円柱状の被加工材40を上方から下方に向かって装入可能となっている。
【0023】
また、下金型6の下部には、ノックアウト機構が備えられている。ノックアウト機構は、鍛造が終了した中空鍛造品41を排出するノックアウト棒と、このノックアウト棒9を上下方向に移動させるシリンダ機構(図示略)とが設けられている。ノックアウト棒9は、下金型6の凹部7に対応した位置に上下方向に移動可能に配備されており、シリンダ機構によってノックアウト棒9を上方に移動させて中空鍛造品41(鍛造後の被加工材40)を押し上げることで中空鍛造品41を下金型6から引き剥がせるようになっている。また、下金型6の下側には、金型支持機構(図示略)が設けられており、金型支持機構によって下金型6を床面などに対して支持できるようになっている。
【0024】
次に、本発明の特徴である下金型6の上面について、図を基に説明する。
下金型6の上面には、係止溝30が形成され、その係止溝30に長尺状の係止体33と、係止体33とは別体に形成された長尺状の嵌合体35とが合わせて挿入されるようになっている。
係止溝30(以降、アリ溝と呼ぶ)は、上方が開放状とされ、凹部7の周縁部8の上側を切り欠くように形成されている。このアリ溝30の断面は、略矩形状の空間とされている。
【0025】
このアリ溝30は、上金型2の離型時に中空鍛造品41の上面を確実に引っ掛けるために、平面視で凹部7を挟むように対面した位置に設けられている。すなわちアリ溝30は、下金型6の上面に2本形成され、下金型6の上下方向軸心を中心として対称となっている。
詳しくは、第1実施形態のアリ溝30は、その両端が下金型6の外周面に対して貫通していて、中途部が凹部7の周縁部8の上側を切り欠くように貫いている。つまり、アリ溝30は、中途部が凹部7の周縁部8の上側をオーバーラップする、言い換えるとアリ溝30の中途部と凹部7の周縁部8の上側とが重なり合うように形成されている。このアリ溝30は、底部31が凹部7の周縁部8の上側と繋がっており、断面視で、階段状に形成されている。つまり、アリ溝30は、凹部7と連通するように形成されている。
【0026】
このアリ溝30は、後述する係止体33と嵌合体35とが挿入可能な幅とされ、底部31が上側の開口幅より幅広とされている。アリ溝30の幅は、係止体33の幅と嵌合体35の幅を合わせた幅寸法、すなわち係止体33と嵌合体35とが若干の隙間を空けて挿入される幅とされている。アリ溝30の幅は、例えば、係止体33の幅と嵌合体35の幅を合わせた幅の1〜2%前後広い幅とされていることが望ましい。
【0027】
なお、
図2〜4では、アリ溝30、後述する係止体33と嵌合体35の説明がしやすいように、アリ溝30と、係止体33及び嵌合体35との隙間を大きく示している。
また、アリ溝30の底部31は、鍛造後の中空鍛造品41の上面より高い位置とされている。
なお、アリ溝30の断面形状及び長さは、例示的なものであり、中空鍛造品41がパンチ3から損傷なく且つ確実に離型することができるものであれば、特に限定しない。
【0028】
また、
図2及び
図4に示すように、アリ溝30を形成する側壁のうち、凹部7に近い側
の側壁32は、当該アリ溝30の内側に向かって倒れ込んでいる傾斜面とされている。すなわち、アリ溝30の傾斜面32は、下金型6の側面視で上側が凹部7の径方向外側を向くように形成されている。
また、この傾斜面32(凹部7に近い側の側壁32)は、下金型6を側面視したとき、凹部7の周縁部8より内側に位置している。つまり、この傾斜面32は、凹部7に載置された中空鍛造品41の上側外縁部43の上方に位置するように形成されている。
【0029】
また、アリ溝30の傾斜面32は、凹部7の上下方向軸心から所定の距離とされている(
図2中のX)。例えば、
図2で下金型6の凹部7の半径が250mm(直径500mm)の場合、下金型6の凹部7の上下方向軸心とアリ溝30の傾斜面32との距離Xを、150mm〜240mm程度とされていることが望ましい。一方、コッターピン33、及び嵌合ピン35の幅と高さを、30mm〜100mm程度とされていることが望ましい。
【0030】
この傾斜面32は、傾斜角θが凹部7の上下方向を向く軸心に対して、3°以上30°以下とされている。傾斜面32の角度θを、前述の範囲とすることで、上金型2を上方へ引き上げる際に、中空鍛造品41の上側外縁部43を確実に引っ掛けて、中空鍛造品41をパンチ3から離型することができる。
なお、傾斜面32の距離、コッターピン33及び嵌合ピン35の幅と高さは、例示的なものであり、中空鍛造品41がパンチ3から損傷なく且つ確実に離型することができるものであれば、特に限定しない。
【0031】
第1実施形態の係止体33(以降、コッターピンと呼ぶ)は、例えば鋼材などで製造された長尺状の部材であって、上述したアリ溝30に挿入されるものである。
このコッターピン33は、下底の幅が上底の幅に対して幅広とされ、且つ後述する嵌合体35を合わせて挿入できる幅とされている。
また、コッターピン33の高さは、アリ溝30の高さに対して、大きく差がつかない程度とされている。なお、コッターピン33の高さは、アリ溝30の高さに対して、±30%程度の範囲内の差とされていることが望ましい。例えば、コッターピン33の高さを50mmとした場合、アリ溝30の高さは40mm〜70mm程度とするとよい。
【0032】
また、コッターピン33の長さは、アリ溝30の長さより長いものとされている。例えば、
図3に示すように、コッターピン33の長さは、アリ溝30の長さの1.5倍程度とするとよい。
なお、コッターピン33の断面形状及び長さは、例示的なものであり、中空鍛造品41がパンチ3から損傷なく且つ確実に離型することができるものであれば、特に限定しない。
【0033】
アリ溝30の傾斜面32に対面する側面、すなわち凹部7に近い側のコッターピン33の側面は、アリ溝30の傾斜面32と同じ傾斜角とされている。すなわち、コッターピン33の傾斜面34の角度θは、3°以上30°以下とされている。
コッターピン33の傾斜面34とアリ溝30の傾斜面32を同じ傾斜角θとすることで、
図3中の点線に示すように、コッターピン33をアリ溝30に挿入したとき、コッターピン33の傾斜面34とアリ溝30の傾斜面32とが重なり合うように対面することとなり、同図のA−A断面視でコッターピン33の傾斜面34が下金型6の上面に隠れるようになる。
【0034】
このような状況下とすることで、
図4中の一点鎖線に示すように、コッターピン33の傾斜面34が上金型2から中空鍛造品41を離型する際に、アリ溝30の傾斜面32に十分に係合される、すなわち十分に面接触するようになる。
それ故、中空鍛造品41が上金型2のパンチ3に貼り付いた状況下で、上金型2を上方に引き上げると、コッターピン33によって中空鍛造品41の上側外縁部43が引っかかると共に、プレス上昇力(上金型2を引き上げる力)により、上金型2に密着した中空鍛造品41が引き剥がされるようになる。
【0035】
第1実施形態の嵌合体35(以降、嵌合ピンと呼ぶ)は、コッターピン33の隣に挿入されるものであって、長尺状の部材である。
図4に示すように、嵌合ピン35は、コッターピン33と共にアリ溝30に挿入された
とき、中空鍛造品41(鍛造後の被加工材40)の上側外縁部43(肩部)に当接しないような位置関係とされている。この嵌合ピン35は、上述したコッターピン33とほぼ同じ形状(高さ及び長さなど)、材質で製造されている。
【0036】
例えば、嵌合ピン35の高さは、アリ溝30の高さに対して、大きく差がつかない程度とされていて、アリ溝30の高さに対して、±30%程度の範囲内の差とすることが望ましい。例えば、嵌合ピン35の高さは、コッターピン33の高さ(50mm)と同じとするとよい。また、嵌合ピン35の長さは、コッターピン33の長さとほぼ同じとするか、嵌合ピン35の着脱し易さを配慮してコッターピン33の長さより長く、もしくは短くするとよい。
【0037】
一方、嵌合ピン35がコッターピン33に対して異なる点は、傾斜面34を有していない点、つまり嵌合ピン35の上底の幅と下底の幅が同じとされている。すなわち嵌合ピン35は、断面が略正方形の棒材である。なお、本実施形態の嵌合ピン35は、断面が略正方形としたが、コッターピン33が水平方向(横方向)に移動しないように留め置く機能を果たすものであれば、いかなる断面形状(例えば、断面が円形状の棒材)であってもよい。
【0038】
この嵌合ピン35は、中空鍛造品41を離型する際に、何らかの理由でコッターピン33を屈曲させてしまっても、確実にコッターピン33を取り外せるようにするものである。
例えば、中空鍛造品41をパンチ3から離型する際に、上金型2を引き上げる力が強くなってしまって、伴に上昇した中空鍛造品41がコッターピン33を屈曲(損傷)させてしまった場合、コッターピン33の隣に挿入されている嵌合ピン35を先に取り出す。そうすると、凹部7から遠い側のアリ溝30が空くようになり、その空いた所に屈曲したコッターピン33を移動させて取り出すことができる。
【0039】
なお、
図2及び
図4などに図示しているコッターピン33及び嵌合ピン35は、アリ溝30に対して若干のクリアランスが空いた状態で挿入されているが、緩く嵌め込まれる状態、つまりコッターピン33及び嵌合ピン35がアリ溝30の内壁面にスライド可能に当接した状態としてもよい。
次に、上述した熱間鍛造装置1を用いて、中空鍛造品41を製造する方法、すなわち穴あけ熱間鍛造方法について、図に基づいて説明する。
【0040】
図5A〜
図5Fに示すように、第1実施形態の穴あけ熱間鍛造方法は、前工程の熱間据込鍛造工程(図示せず)を終えた被加工材40を穴あけ熱間鍛造をして、内部が空洞の凹み部42(穴部)が形成された、断面視U字状の中空鍛造品41を製造する方法である。
本発明の熱間鍛造装置1を用いた穴あけ熱間鍛造方法は、下金型6の凹部7に被加工材40を装入する被加工材40装入工程と、装入された被加工材40に対して上金型2のパンチ3を圧下させる上金型圧下工程と、下金型6のアリ溝30にコッターピン33を挿入する係止体挿入工程と、そのアリ溝30の嵌合ピン35を挿入する嵌合体挿入工程と、上金型2から中空鍛造品41を離型する上金型離型工程と、下金型6から中空鍛造品41を離型する下金型離型工程と、を有している。
【0041】
図5Aでは、据込鍛造工程を終えた被加工材40を下金型6の凹部7に装入して載置する(被加工材装入工程)。据込鍛造工程を終えた被加工材40は、数回鍛造された後短尺とされ、外径が下金型6の凹部7の内径とほぼ同径とされている。据込鍛造後の被加工材40は、凹部7に嵌り込むように装入される。
次に、
図5Bでは、下金型6の上方に配備された上金型2を降下させて、当該被加工材40に対してパンチ3を押し付けて圧下する(上金型圧下工程)。このパンチ3の圧下により、被加工材40の上下方向中央部分に凹み部42(穴部)が形成される。すなわち、中空鍛造品41が製造される。
【0042】
このとき、中空鍛造品41の高さは、パンチ3の圧下前の被加工材40の高さより少し高くなっている。また、上金型圧下工程では、中空鍛造品41に高いひずみが付与される。
続いて、
図5Cでは、被加工材40に対してパンチ3を圧下させた状況下(中空鍛造品41が製造された状況下)において、アリ溝30にコッターピン33を挿入する(係合体挿入工程)。このとき、当該コッターピン33の傾斜面34とアリ溝30の傾斜面32とが対面し接するようにコッターピン33を挿入する。このようにすることで、コッターピン33の傾斜面34側の部分は、中空鍛造品41の上側外縁部43の上方に位置することとなる。
【0043】
図5Dでは、中空鍛造品41が製造された状況下において、アリ溝30に嵌合ピン35を挿入する(嵌合体挿入工程)。このとき、アリ溝30に挿入されているコッターピン33の傾斜面34とアリ溝30の傾斜面32とが離れないように、嵌合ピン35をコッターピン33の隣に挿入する。このようにすることで、嵌合ピン35は、コッターピン33の傾斜面34とアリ溝30の傾斜面32とが確実に対面することとなる。
【0044】
図5Eでは、アリ溝30にコッターピン33と嵌合ピン35とが挿入された状況下(
図5Dに示す状況下)において、上金型2を上方に引き上げる(上金型離型工程)。このとき、パンチ3に貼り付いた中空鍛造品41(鍛造後の被加工材40)は、上金型2とともに上昇することとなる。そうすると、中空鍛造品41の上側外縁部43は、コッターピン33に引っかかるようになる。そして、コッターピン33に引っかかった中空鍛造品41は、上金型2のパンチ3から引き剥がされるように離型され、凹部7に残留する。その後、上金型2のみが上方に引き上げられる。
【0045】
このように、凹部7に近い側のアリ溝30に挿入されたコッターピン33により、中空鍛造品41を損傷させず、且つ確実に上金型2から離型させることが可能となる。
図5Fでは、下金型6のアリ溝30から嵌合ピン35を外部へ取り出し、その後コッターピン33をアリ溝30から外部へ取り出す。そして、凹部7の下部に備えられたノックアウト棒9を上方に移動させて、下金型6から中空鍛造品41を押し出すように離型する(下金型離型工程)。
【0046】
なお、下金型離型工程では、上金型離型工程でコッターピン33が屈曲した場合でも、凹部7の径方向外側に嵌合ピン35を取り除いた後、凹部7より遠い側のアリ溝30にコッターピン33をずらして取り除くことで、屈曲したコッターピン33を外部へ取り出すことができる。
その後、穴あけ熱間鍛造を終えた中空鍛造品41は、穿孔工程に送られて、打抜き鍛造・せん断加工などによって中空鍛造品41の軸心方向を向く中心部が穿孔(貫通)されると共に、中空鍛造品41に残存した低ひずみ部が除去される。なお、機械加工などによって、断面視U字状の中空鍛造品41の下部を貫通させてもよい。
【0047】
以上述べたように、下金型6の上面にアリ溝30を形成し、そのアリ溝30にコッターピン33と嵌合ピン35を挿入する構成とした熱間鍛造装置1によれば、穴あけ熱間鍛造後に、中空鍛造品41が上金型2のパンチ3に強く密着し離型が困難になった場合でも、上金型2を引き上げる力を利用してパンチ3から中空鍛造品41を損傷させることなく確実、且つ容易に離型することができる。
[第2実施形態]
続いて、本発明の熱間鍛造装置1の第2実施形態(変形例)について、
図6を基に述べる。
【0048】
図6に示すように、熱間鍛造装置1の第2実施形態は、上述した熱間鍛造装置1の構成と略同じである。
すなわち、熱間鍛造装置1の第2実施形態の構成は、中央にパンチ3を有する上金型2と、被加工材40が装入される凹部7を有する下金型6とを有している点が同じである。
また、第2実施形態は、下金型6の凹部7の周縁部8の上側に形成されるアリ溝30と、アリ溝30に挿入されるコッターピン33及び嵌合ピン35と、を有している点も同じである。また、アリ溝30が凹部7を挟むように対面する位置に設けられている点も同じである。また、第2実施形態はアリ溝30の断面形状、及びコッターピン33及び嵌合ピン35の断面形状も同じである。
【0049】
一方、第2実施形態は、アリ溝30の長さが、第1実施形態の熱間鍛造装置1のアリ溝30の長さと異なっている。
詳しくは、第2実施形態のアリ溝30は、一方端のみが下金型6の外周面に対して貫通していて、他方端が下金型6の外周面に対して貫通せずに、凹部7の周縁部8の上側一部だけを切り欠いている。つまり、本変形例のアリ溝30は、他方端が凹部7の一部とオーバーラップする、言い換えると他方端と凹部7の周縁部8の上側一部とが重なり合うように形成されている。
【0050】
それ故、第2実施形態におけるアリ溝30の他方端は、凹部7の周縁部8を通過せずに途中までで終端となっている。
図6に示すように、第2実施形態のアリ溝30は、平面視で、例えば他方端が凹部7の上下方向軸心まで、すなわち第1実施形態のアリ溝30の長さの約1/2とされている。また、第2実施形態のコッターピン33及び嵌合ピン35の長さは、上記のアリ溝30に対応するように、上記のアリ溝30の長さより長いものとされている。
【0051】
以上より、第2実施形態の熱間鍛造装置1は、他方端が凹部7の周縁部8の上方で終端とされたアリ溝30を有し、そのアリ溝30に挿入されたコッターピン33の一部が中空鍛造品41の上側外縁部43に引っかかる構成となっていることが特徴である。この構成によれば、中空鍛造品41(鍛造後の被加工材40)を離型するに際し、切り欠き部分から突出したコッターピン33が中空鍛造品41の上面の一部を必ず引っかかるようになるので、上金型2に密着した中空鍛造品41を確実に離型することができる。
【0052】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0053】
例えば、上述の実施形態では、アリ溝30を下金型6に2本形成したものを例に挙げて説明したが、コッターピン33が被加工材40の上側外縁部43に配置できるものであれば、1本だけ形成されたものであってもよい。
また、コッターピン33は、長尺の棒材として説明したが、長尺の板材であってもよい。嵌合ピン35の本数もそれぞれ1本としたが、複数本であってもよい。
【0054】
また、第2実施形態のアリ溝30の長さは、そのアリ溝30に挿入されたコッターピン33の一部が、平面視で凹部7内の中空鍛造品41の上側外縁部43と重なるようであれば、特に限定しない。
また、上述の実施形態においては、中空鍛造工程(穴あけ熱間鍛造)で用いられる熱間鍛造装置について説明したが、凸状の上金型を有する熱間鍛造装置であれば、本発明の技術(コッターピン33で中空鍛造品41(鍛造後の被加工材40)の上側外縁部43(肩部)を押さえる構成)は適用可能である。例えば、据込鍛造工程や中空シャフト鍛造工程などで用いられる熱間鍛造装置が挙げられる。