特許第6165772号(P6165772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165772
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】接着性能を高めたタイヤゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20170710BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20170710BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20170710BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20170710BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20170710BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/06
   C08K5/09
   C08K3/22
   C08K5/17
   B60C1/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-548328(P2014-548328)
(86)(22)【出願日】2012年12月24日
(65)【公表番号】特表2015-503018(P2015-503018A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】IB2012057694
(87)【国際公開番号】WO2013093898
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】TO2011A001209
(32)【優先日】2011年12月23日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100193437
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 義和
(72)【発明者】
【氏名】ジャンルカ フォルテ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンカルロ コッス
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−188541(JP,A)
【文献】 特表2008−524429(JP,A)
【文献】 特表平04−503828(JP,A)
【文献】 特開昭60−092339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造対象である組成物に硬化系を添加および混合する、混合ステップを含むタイヤゴム組成物の製造方法であって、前記硬化系は、少なくとも、硫黄と、ステアリン酸と、酸化亜鉛と、を含み、
前記混合ステップにおいて、前記製造対象である組成物に、亜鉛イオンを錯体化するためのキレート剤を、前記硬化系とともに添加および混合し、
前記キレート剤は、少なくとも2つのカルボキシル基と、少なくとも1つのヘテロ原子とを有し、分子量が少なくとも170であることを特徴とする、タイヤゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記キレート剤は、式(I)の化合物であって、
【化1】
ここで式中、
、R、R、R、Rは、それぞれ、同一のまたは異なる、炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、
、R、R、Rは、それぞれ、同一のまたは異なる、カルボキシル基または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、R、R、R、Rのうち少なくとも2つはカルボキシル基である、ことを特徴とする、請求項1に記載のタイヤゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記キレート剤は、EDTA、またはEDTA由来の化学試剤であることを特徴とする、請求項2に記載のタイヤゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記キレート剤の含有量は0.1〜5phrであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタイヤゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ステアリン酸の含有量は0.1〜10phrであり、前記酸化亜鉛の含有量は0.1〜20phrであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のタイヤゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造した、タイヤゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性能を高めたタイヤゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤゴム組成物に一般的に用いられる種々の硬化剤には、ステアリン酸と酸化亜鉛とが含まれることが知られている。それら硬化剤は硬化活性剤として作用するが、未だ研究途上にある。
【0003】
しかしながら、ステアリン酸は、酸化亜鉛と反応してステアリン酸亜鉛を形成してしまい、該ステアリン酸亜鉛は、グリーン化合物(green compound)の表面へ移行して、「ブルーミング」と呼ばれる表面現象を引き起こしやすいことが、種々の試験により示されている。
【0004】
ブルーミングの主な欠点のひとつとして、化合物の表面接着特性を低減させることが挙げられる。
【0005】
タイヤの組立段階においては、現在は、有機溶媒系接着化合物類(セメント)を使用して、効果的にグリーン化合物同士を接合している。
【0006】
しかしながら、近年の規制により、有機溶媒系セメント類の使用が制限されるようになった。このため、各タイヤ製造メーカは、効果的な化合物接合のための代替的解決策を見出す必要性に迫られている。
【0007】
ここで、接着用樹脂類は、ヒステリシスの面で悪影響を及ぼす可能性があることに留意すべきである。
【0008】
溶媒系セメント類の使用および/または接着用樹脂類の使用を回避する(または、少なくとも低減する)ための一解決方法として、化合物の表面接着性能を向上させて接合を可能とすることが挙げられる。
【0009】
これを実現するには、ブルーミング、すなわち、ステアリン酸亜鉛のグリーン化合物表面への移行、を最小限に抑える必要がある。
【0010】
よって、ステアリン酸と酸化亜鉛とを硬化活性剤として含みつつも、ブルーミングおよびそれに起因する接着不良問題を防止可能な組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的のひとつは、少なくとも1つの架橋性不飽和鎖状高分子基材、および、少なくとも、硫黄と、ステアリン酸と、酸化亜鉛と、を含む硬化系、を含むタイヤゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
タイヤゴム組成物の特徴は、硬化系において、亜鉛イオンを錯体化するためのキレート剤を含むことにある。
【0013】
好ましくは、キレート剤は、少なくとも2つの カルボキシル基と少なくとも1つのヘテロ原子とを有し、該キレート剤の分子量は少なくとも170である。
【0014】
好ましくは、キレート剤は、式(I)の化合物である。
【化1】

式中、
、R、R、R、Rは、それぞれ、同一のまたは異なる、炭素原子数1〜5のアルキル基であり、
、R、R、Rは、それぞれ、同一のまたは異なる、カルボキシル基または炭素原子数1〜5のアルキル基である。R、R、R、Rのうち、少なくとも2つはカルボキシル基である。
【0015】
好ましくは、キレート剤は、EDTA、またはEDTA由来の化学試剤である。
【0016】
好ましくは、タイヤゴム組成物におけるキレート剤の含有量は0.1〜5phrである。
【0017】
好ましくは、タイヤゴム組成物におけるステアリン酸の含有量は0.1〜10phrであり、酸化亜鉛の含有量は0.1〜20phrである。
【0018】
本発明の別の目的は、本発明によるゴム組成物から製造した構成部分を含むタイヤを提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、タイヤゴム組成物の硬化系において、亜鉛イオンを錯体化するキレート剤を使用する方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明をより明確に理解できるよう、以下に、いくつかの実施形態を記載するが、各実施形態は本発明を限定するものではなく、あくまで例示に過ぎない。
【実施例】
【0021】
既存の組成物に実質的に相当する対照組成物Aを生成した。組成物Aは、一般的に用いられる量のステアリン酸と酸化亜鉛とを有する硬化系を含む。さらに、本発明による2種類の組成物Bおよび組成物Cを生成した。組成物Bと組成物Cは、おのおの異なるキレート剤を含む。
【0022】
組成物A〜組成物Cは、標準的な手順を用いて生成したが、この手順は本発明と特に関連性はない。以下の手順に示すように、キレート剤は、第3の混合工程において、ほかの硬化系成分とともに組成物に添加する。
【0023】
‐組成物の調製‐
(第1の混合工程)
まず、230〜270リットルの正接回転ミキサに、高分子基材を66%〜72%の充填率で充填した。
【0024】
ミキサを40rpm〜60rpmの回転速度で動作させ、140℃〜160℃の温度に達したときに、得られた組成物を取り出した。
【0025】
(第2の混合工程)
第1の工程で得られた組成物を、40rpm〜60rpmの回転速度で動作するミキサでさらに処理し、130℃〜150℃の温度に達したときに取り出した。
【0026】
(第3の混合工程)
第2の工程で得られた組成物に、硫黄と酸化亜鉛とステアリン酸とを含み、可能であればキレート剤と反応促進剤も含む硬化系を、63%〜67%の充填率で添加した。
【0027】
ミキサを、20rpm〜40rpmの回転速度で動作させ、100℃〜110℃の温度に達したときに、得られた組成物を取り出した。
【0028】
表1に、3つの組成物A〜Cの組成をphr単位にて示す。
【0029】
【表1】
【0030】
接着用樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒドを用いた。
【0031】
得られた組成物それぞれについて、ASTM D429規格に準拠した接着試験を行った。3種の組成物における、いかなるステアリン酸亜鉛移行による種々の影響も評価するために、接着試験は、異なる保存時間を経た組成物について、繰り返し行った。より具体的には、組成物の生成から、2日後、20日後、90日後にそれぞれ接着試験を行った。
【0032】
表2に、2日間保存した後の組成物についての値に対して指数化した接着度をそれぞれ示す。2日間の保存後には、ステアリン酸亜鉛の表面移行はまだ発生していなかった。よって、組成物A〜組成物Cの接着度は、すべて同水準である。
【0033】
【表2】
【0034】
ステアリン酸亜鉛の移行が防止されていれば、表2に示すように、保存期間が長くなるにつれて、接着樹脂の移行により接着度が高まる。すなわち、本発明による組成物Bと組成物Cは、対照組成物Aに対して表面接着度の増加を示した。
【0035】
表2からは、また、本発明の各組成物において、接着樹脂の量をどの程度減少すれば、上述のヒステリシス面を改良することができるのかについても知ることができる。
【0036】
組成物それぞれについて、さらに、ASTM D5289規格に準拠してレオロジー特性を測定し、ASTM D6080規格に準拠して粘度を測定した。その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3に明示されるように、キレート剤は、組成物の硬化を全く阻害しない。すなわち、キレート剤は、ステアリン酸亜鉛の形成にのみ作用し、亜鉛イオンの硬化活性機能を阻害するものではない。