特許第6165870号(P6165870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165870
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】無線センサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/56 20060101AFI20170710BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20170710BHJP
   G01S 7/35 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   G01S13/56
   G01S7/03 220
   G01S7/35
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-534137(P2015-534137)
(86)(22)【出願日】2014年8月14日
(86)【国際出願番号】JP2014071444
(87)【国際公開番号】WO2015029794
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-181347(P2013-181347)
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲貞▼旬
(72)【発明者】
【氏名】大滝 幸夫
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−017193(JP,A)
【文献】 特開平10−239426(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/042636(WO,A1)
【文献】 再公表特許第2014/050055(JP,A1)
【文献】 再公表特許第2014/057651(JP,A1)
【文献】 特開2007−170990(JP,A)
【文献】 特開平7−38463(JP,A)
【文献】 特開2007−74640(JP,A)
【文献】 米国特許第3562642(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を放射し、前記送信信号が検出対象で反射した反射信号を受信するアンテナと、
前記送信信号を生成する送信回路と、第1伝送線路と、前記第1伝送線路と線路長の異なる第2伝送線路と、
前記第1伝送線路の一端と前記第2伝送線路の一端と、を選択して前記アンテナと接続する第1切替え手段と、
前記第1伝送線路の他端と前記第2伝送線路の他端と、を選択して前記送信回路と接続する第2切替え手段と、
前記送信回路から前記送信信号を送信中に、前記送信信号の一部と前記アンテナで受信された前記反射信号と、が入力され検波される検波回路と、
前記検波回路に接続され、前記検波回路から出力される信号を処理する信号処理回路と、
前記送信回路と前記第1切替え手段と前記第2切替え手段と、を制御する制御回路と、を備え
前記制御回路は、前記アンテナと前記送信回路とを接続する伝送線路を、前記第1伝送線路または前記第2伝送線路から、選択して切替える制御を行う無線センサ装置において、
前記第1伝送線路と前記第2伝送線路それぞれの他端に、前記検波回路と前記信号処理回路が、接続されており、
前記検波回路は、前記送信信号と前記反射信号とを乗算する
ことを特徴とする無線センサ装置。
【請求項2】
前記制御回路による制御は、前記第1伝送線路と前記第2伝送線路と、を選択して切替えるよう所定の時間間隔ごとに行われるとともに、前記第1伝送線路と前記第2伝送線路と、が交互に選択されて切替えられることを特徴する請求項1に記載の無線センサ装置。
【請求項3】
前記第1伝送線路と前記第2伝送線路の線路間の位相差がπ/4(rad)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無線センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線センサ装置に関し、特に、検出対象を安定して検出することができる無線センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電波を用いて対象物までの距離を測定するセンサや、対象物の動きを検出し対象物の有無や接近を検出するセンサなどが提案されている。
【0003】
近年、健康に対する意識の高まりから、対象への負担が少ない非接触で心拍や呼吸などのバイタルサインの検出を行うことができるセンサが強く望まれている。
【0004】
特許文献1(従来例1)に記載の無線センサ装置900では、図4に示すように、アンテナ901と、送信回路902と、検波回路903と、信号処理回路904と、制御回路905と、を備えている。また、アンテナ901と送信回路902に備えられた出力端子902aとの間に、線路長の異なる複数の伝送線路(906、907)と、スイッチ908,スイッチ909で構成され複数の伝送線路を切替えてアンテナ901と出力端子902aを接続する切替え手段が設けられている。複数の伝送線路の線路長の差は送信信号の波長の4分の1未満に設定されている。
【0005】
検出対象との距離が変化する等で、送信出力に対する反射波の位相差が、感度が低下するヌル点に近づいて検出出力が低下した場合に、線路長の異なる伝送線路を選択して切替える制御を行う。このため、送信出力と反射波の位相差を変化させることができ、検出対象の動きを検知する感度の劣化を回避して微小変異を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2012−213344号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来技術の無線センサ装置では、送信信号の振幅に対して反射波の振幅は大変小さくなる。また微小変位に対する反射波の変化も微小なものとなる。この振幅が小さい反射波の微小な変化を捉えるために、信号処理回路904では増幅率の大きい増幅器を用いる必要がある。増幅率の大きな増幅器を用いる場合、入力に直流が印加されると、増幅器の出力が振幅の上限または下限に振り切れた状態となってしまうので、増幅器の入力に直流カット用のキャパシタを用いて直流が増幅器に入力されるのを防止する必要がある。また、検出対象から検出しようとする動きが、心拍や呼吸などに伴う体動などのように変動する周波数が数Hz以下程度の低い周波数変化の場合には、低い周波数の信号が減衰しないように大きな容量のキャパシタを用いる必要がある。
【0008】
しかしながら、大きな容量のキャパシタを用いた場合には以下のような動作となることがある。検出対象を検出する信号出力が低下して伝送線路の切替えた際に、切替えに伴って検波回路903に入力される信号の位相がπ/2(rad)変化する。このため、検波回路903から出力される直流電圧が大きく変動し、この変動が大きな容量のキャパシタを通して増幅器に入力されてしまう。このよう直流電圧の変動によって、増幅器の出力が振幅の上限または下限に振り切れた状態となってしまう虞があった。また、キャパシタの容量が大きいために、キャパシタを含む回路全体の時定数が大きくなり、直流電圧の変動に追従して再び低い周波数の変動を出力できるようになるまでに長い時間が掛かり、その間、検出対象を検出できなくなってしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するもので、安定して検出対象を検出することができる無線センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明の無線センサ装置は、送信信号を放射し、前記送信信号が検出対象で反射した反射信号を受信するアンテナと、前記送信信号を生成する送信回路と、第1伝送線路と、前記第1伝送線路と線路長の異なる第2伝送線路と、前記第1伝送線路の一端と前記第2伝送線路の一端と、を選択して前記アンテナと接続する第1切替え手段と、前記第1伝送線路の他端と前記第2伝送線路の他端と、を選択して前記送信回路と接続する第2切替え手段と、前記送信回路から前記送信信号を送信中に、前記送信信号の一部と前記アンテナで受信された前記反射信号と、が入力され検波される検波回路と、前記検波回路に接続され、前記検波回路から出力される信号を処理する信号処理回路と、前記送信回路と前記第1切替え手段と前記第2切替え手段と、を制御する制御回路と、を備え前記制御回路は、前記アンテナと前記送信回路とを接続する伝送線路を、前記第1伝送線路または前記第2伝送線路から、選択して切替える制御を行う無線センサ装置において、前記第1伝送線路と前記第2伝送線路それぞれの他端に、前記検波回路と前記信号処理回路が、接続されており、前記検波回路は、前記送信信号と前記反射信号とを乗算することを特徴とする。
【0011】
これによれば、伝送線路ごとに検波回路が設けられているため、伝送線路を切替えた場合でも検波回路に入力される信号は、切替えに伴う位相の変化の影響を受けない。そのため検波回路の出力の直流電圧が変動しないので、信号処理回路の増幅器の出力が振り切れてしまったり、低い周波数の変動を出力するまでに長い時間が掛かったりすることがない。従って、安定して検出対象を検出することができる無線センサ装置を提供することができる。
【0012】
また、本発明の無線センサ装置は、前記制御回路による制御が、前記第1伝送線路と前記第2伝送線路と、を選択して切替えるよう所定の時間間隔ごとに行われるとともに、前記第1伝送線路と前記第2伝送線路と、が交互に選択されて切替えられることを特徴する。
【0013】
これによれば、線路長の異なる第1伝送線路と第2伝送線路と、を交互に切替えて送信動作を行うので、互いに直交する成分を抽出することができ、反射波の有無を確実に検出することができるので、より安定して検出対象を検出することができる。
【0014】
また、本発明の無線センサ装置は、前記第1伝送線路と前記第2伝送線路の線路間の位相差がπ/4(rad)であることを特徴とする。
【0015】
これによれば、第1伝送線路と前記第2伝送線路の線路間の位相差がπ/4(rad)異なるので、伝送線路を切替えることで、送信信号と反射信号の位相差が、π/2(rad)ずつ異なる信号を得ることができる。このため、感度が著しく低下してしまうヌル点を確実に回避してより安定して検出対象を検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定して検出対象を検出することができる無線センサ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る無線センサ装置の動作概要を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る無線センサ装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る無線センサ装置の動作タイミング図である。
図4】特許文献1に記載の無線センサ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下に第1実施形態における無線センサ装置100について説明する。
【0019】
まず始めに本実施形態における無線センサ装置100の動作概要について図1を用いて説明する。無線センサ装置100は図1に示すように、送信信号を放射し、送信信号が検出対象500で反射された反射信号から検出対象500の検出を行う。
【0020】
次に、無線センサ装置100の構成について図2を用いて説明する。図2は無線センサ装置100の構成を示すブロック図である。
【0021】
無線センサ装置100は図2に示すように、アンテナ10と、送信回路20と、第1伝送線路31と、第2伝送線路32と、第1切替え手段41と、第2切替え手段42と、第1検波回路51と、第2検波回路52と、第1信号処理回路61と、第2信号処理回路62と、制御回路70と、を備えている。
【0022】
また無線センサ装置100にはその他に図示しない電源回路を有しており、無線センサ装置100の各部に動作に必要な電力を供給する。
【0023】
アンテナ10は、送信信号を放射し、送信信号が検出対象500で反射された反射信号を受信する。またアンテナ10は、第1切替え手段41に接続されている。
【0024】
送信回路20は、送信信号を生成して出力する送信動作を行う。また、送信回路20は、第2切替え手段42と制御回路70に接続されており、制御回路70によって制御される。
【0025】
第1伝送線路31は、送信回路20が生成する送信信号の周波数において、送信回路20の出力インピーダンス及びアンテナ10のインピーダンスと概ね等しい特性インピーダンスを有し、線路長Leを有する伝送線路である。また第1伝送線路31の一端が第1切替え手段41に接続されるとともに、他端が第2切替え手段42と第1検波回路51に接続されている。
【0026】
第2伝送線路32は、送信回路20が生成する送信信号の周波数において、送信回路20の出力インピーダンス及びアンテナ10のインピーダンスと概ね等しい特性インピーダンスを有している。第2伝送線路32は第1伝送線路31に対して位相差がπ/4(rad)異なる(遅れる)線路長を有している伝送線路である。また第2伝送線路32の一端が第1切替え手段41に接続されるとともに、他端が第2切替え手段42と第2検波回路52に接続されている。
【0027】
第1切替え手段41は、第1伝送線路31と第2伝送線路32と、のいずれか一方を選択してアンテナ10に接続できるように、アンテナ10と、第1伝送線路31及び第2伝送線路32の一端と、が接続されている。
【0028】
第2切替え手段42は、第1伝送線路31と第2伝送線路32と、のいずれか一方を選択して送信回路20に接続できるように、送信回路20と、第1伝送線路31及び第2伝送線路32の他端と、が接続されている。
【0029】
第1検波回路51は、第1伝送線路31の他端と第2切替え手段42とに接続されている。第1検波回路51には、第1切替え手段41と第2切替え手段42とが、第1伝送線路31を選択して送信回路20が送信信号を送信中に、送信回路20から出力される送信信号の一部と、アンテナ10で受信された反射信号と、が入力される。第1検波回路51は、入力された送信信号の一部と、アンテナ10で受信された反射信号と、を検波する。
【0030】
第2検波回路52は、第2伝送線路32の他端と第2切替え手段42とに接続されている。第2検波回路52には、第1切替え手段41と第2切替え手段42とが、第2伝送線路32を選択して送信回路20が送信信号を送信中に、送信回路20から出力される送信信号の一部と、アンテナ10で受信された反射信号と、が入力される。第2検波回路52は、入力された送信信号の一部と、アンテナ10で受信された反射信号と、を検波する。
【0031】
第1信号処理回路61は、第1検波回路51と制御回路70に接続されている。第1信号処理回路61は、第1検波回路51から出力される検波出力信号を処理し、その結果を制御回路70へ出力する。
【0032】
第2信号処理回路62は、第2検波回路52と制御回路70に接続されている。第2信号処理回路62は、第2検波回路52から出力される検波出力信号を処理し、その結果を制御回路70へ出力する。
【0033】
つまり、第1伝送線路31の他端には第1検波回路51が、また第2伝送線路32の他端には第2検波回路52が、それぞれ接続されており、第1検波回路51には第1信号処理回路61が、また第1検波回路51には第1信号処理回路61が、接続されている。
【0034】
制御回路70は、送信回路20と、第1切替え手段41と、第2切替え手段42と、第1信号処理回路61と、第2信号処理回路62と、に接続されている。制御回路70は、送信回路20の動作状態の制御を行う。また制御回路70は、第1切替え手段41と第2切替え手段42と、を制御し、アンテナ10と送信回路20とを接続する伝送線路を、第1伝送線路31または第2伝送線路32から、選択して切替える制御を行う。更に制御回路70は、第1信号処理回路61及び第2信号処理回路62から出力信号を取得し、検出対象500の呼吸に伴う体動や、心拍に伴う体表面の動き等の検出や、検出有無の判断等を行う。
【0035】
次に、無線センサ装置100の動作について図2から図4を用いて説明する。
【0036】
図3は、無線センサ装置100の動作タイミングを説明する図である。
【0037】
制御回路70は図3に示すように、時刻T1で、第1切替え手段41と第2切替え手段42と、を制御し、アンテナ10と送信回路20とを接続する伝送線路を、第1伝送線路31を選択して切替える制御を行う。また、制御回路70は時刻T1からT2までの時間t1の間、送信出力制御信号を出力し、送信信号が出力されるように送信回路20を制御する。送信信号は、送信回路20から出力され、第2切替え手段42、第1伝送線路31、第1切替え手段41、を経てアンテナ10から放射される。
【0038】
アンテナ10から放射された送信信号の一部は、検出対象500で反射され、反射信号としてアンテナ10で受信される。
【0039】
アンテナ10で受信された反射信号は、第1切替え手段41、第1伝送線路31を経て第1検波回路51に入力され、送信信号の一部と反射信号と、が検波される。
【0040】
送信信号Voの振幅をA、周波数をfとしたときの角周波数2πfをω時間をtとして、送信信号Voを式(1)で表す。また、反射信号Vrの振幅をBとして、反射信号Vrを式(2)で表す、但し、θ1は第1の期間の送信信号Voに対する反射信号Vrの位相変移角度(位相差)である。
【0041】
(数1)
Vo=A・cosωt・・・・・・式(1)
Vr=B・cos(ωt+θ1)・・・式(2)
【0042】
前述のように、Bは反射信号の振幅であり、式(1)で表される振幅Aでアンテナ10から放射された送信信号が、検出対象500で反射されて再びアンテナ10まで戻ってくるまでの間の伝送路で受ける減衰(伝送損失)と、送信信号が検出対象500で反射される際の反射率によって受ける減衰(反射損失)によって、反射信号の振幅がBまで減衰して受信されたことになる。
【0043】
第1検波回路51で送信信号Voを参照信号として反射信号Vrが検波されると、第1検波回路51の出力には式(3)で表される検波出力Vdが出力される。
【0044】
(数2)
Vd=Vo×Vr
=A・B{cosωt・cos(ωt+θ1)}
=(A・B/2)cos(2ωt+θ1)+(A・B/2)cosθ1・・式(3)
【0045】
式(3)の前半の項は、角周波数が2ωtとなっているので、送信信号の周波数の2倍の周波数となるため、高い周波数を除去するバイパスコンデンサを第1検波回路51に設けるなどの手段で簡単に除去することができる。送信周波数の2倍の周波数成分が除去された第1検波回路51の出力信号Vp1とするとVp1は、式(4)で表される。式(4)は、送信信号Voに対する反射信号Vrの位相差θ1によって決定される出力となる。
【0046】
(数3)
Vp1=(A・B/2)cosθ1・・・式(4)
【0047】
送信信号Voに対する反射信号Vrの位相変移角度を表すθ1は、送信信号Voが送信回路20から出力され、検出対象500で反射されて第1検波回路51に戻ってくるまでの経路と、で与えられる移相量の合計となる。
【0048】
無線センサ装置100と検出対象500の距離によって、送信信号と反射信号の位相差θ1がπ/2(rad)となった場合には、式(4)から、第1検波回路51の出力信号Vp1の振幅が0となる。また、送信信号と反射信号の位相差θ1が0(rad)となった場合には、第1検波回路51の出力信号Vp1が最大値(A・B/2)となり、位相差θ1がπ(rad)となった場合には最小値−(A・B/2)となる。
【0049】
また、検出対象500の動きに対する検出感度は、検出対象500が動くことによるθ1の変化に対して出力が変化する割合なので、式(4)をθ1で微分した値となり、式(5)で表される。
【0050】
(数4)
dVp1/dθ1=−(A・B/2)sinθ1・・・式(5)
【0051】
従って、θ1がπ/2+nπ(rad)の場合に最大感度となり、θ1が0+nπ(r
ad)の場合に感度が非常に低いいわゆるヌル点となる(但しnは自然数)。
【0052】
また、第1伝送線路31が選択されている場合には、送信信号が送信回路20から出力されてから、アンテナ10を経て、検出対象500で反射され、第1検波回路51まで戻ってくるまでの経路の長さL1は、式(6)のように表される。但し式(6)でアンテナ10から検出対象500までの距離はLxとする。
【0053】
(数5)
L1=2(Lx+Le)=2Lx+2Le・・・式(6)
【0054】
式(4)に示すVp1は、検出対象500が動くとその動きによってアンテナ10と検出対象500の距離が変化することによりθ1が変化するので、θ1の変化によってVp1が変化する。そのため、Vp1の変化を検出することで検出対象500の動きを検出することができる。
【0055】
また、検出対象500の動きが遅い場合には、アンテナ10と検出対象500との距離によって決まるθ1の値の変化が緩やかとなる。このため、時刻T1からT2までの時間t1の間に第1検波回路51から出力される信号は、図3の第1検波回路出力に示すように、直流成分を含む信号が出力されることとなる。
【0056】
第1信号処理回路61は、第1検波回路51から出力された信号からその変化量を検出するのに必要な増幅やAD変換等を行い、処理結果を制御回路70に出力する。
【0057】
制御回路70は、時刻T2で送信回路20から送信信号が出力されないように送信回路20を制御する送信出力制御信号を出力し、時刻T3までの時間t2の間、送信動作を停止する。
【0058】
次に、制御回路70は、時刻T3で、第1切替え手段41と第2切替え手段42と、を制御し、アンテナ10と送信回路20とを接続する伝送線路を、第2伝送線路32を選択して切替える制御を行う。また、制御回路70は時刻T3からT4までの時間t1の間、送信出力制御信号を出力し、送信信号が出力されるように送信回路20を制御する。送信信号は、送信回路20から出力され、第2切替え手段42、第2伝送線路32、第1切替え手段41、を経てアンテナ10から放射される。
【0059】
アンテナ10から放射された送信信号の一部は、検出対象500で反射され、反射信号としてアンテナ10で受信される。
【0060】
アンテナ10で受信された反射信号は、第1切替え手段41、第2伝送線路32を経て第2検波回路52に入力され、送信信号の一部と反射信号と、が検波される。
【0061】
前述と同様に送信信号Voは式(1)で表わされ、反射信号Vrは式(7)のように表される。但し、但しθ2は第2の期間の送信信号Voに対する反射信号Vrの位相変移角度(位相差)を表す。
【0062】
(数6)
Vr=B・cos(ωt+θ2)・・・式(7)
【0063】
第2検波回路52の出力Vdは、式(3)と同様に計算すると式(8)が得られる。
【0064】
(数7)
Vd=Vo×Vr
=A・B{cosωt・cos(ωt+θ2)}
=(A・B/2)cos(2ωt+θ2)+(A・B/2)cosθ2・・式(8)
【0065】
前述と同様に、送信周波数の2倍の周波数成分が除去された第2検波回路52の出力信号Vp2とするとVp2は、式(9)で表される。式(9)は、送信信号Voに対する反射信号Vrの位相差θ2によって決定される出力となる。
【0066】
(数8)
Vp2=(A・B/2)cosθ2・・・式(9)
【0067】
送信信号Voに対する反射信号Vrの位相変移角度を表すθ2は、送信信号Voが送信回路20から出力され、検出対象500で反射されて第2検波回路52に戻ってくるまでの経路と、で与えられる移相量の合計となる。
【0068】
無線センサ装置100と検出対象500の距離によって、送信信号と反射信号の位相差θ2がπ/2(rad)となった場合には、式(8)から、第2検波回路52の出力信号Vp2の振幅が0となる。また、送信信号と反射信号の位相差θ2が0(rad)となった場合には、第1検波回路51の出力信号Vp1が最大値(A・B/2)となり、位相差θ2がπ(rad)となった場合には最小値−(A・B/2)となる。
【0069】
また、検出対象500の動きに対する検出感度は、検出対象500が動くことによるθ2の変化に対して出力が変化する割合なので、式(9)をθ2で微分した値となり、式(10)で表される。
【0070】
(数9)
dVp2/dθ2=−(A・B/2)sinθ2・・・式(10)
【0071】
従って、θ2がπ/2+nπ(rad)の場合に最大感度となり、θ2が0+nπ(rad)の場合に感度が非常に低いいわゆるヌル点となる(但しnは自然数)。
【0072】
また、第2伝送線路32が選択されている場合には、送信信号が送信回路20から出力されてから、アンテナ10を経て、検出対象500で反射され、第1検波回路51まで戻ってくるまでの経路の長さL2は、式(11)のように表される。但し式(11)でアンテナ10から検出対象500までの距離はLxとする。
【0073】
(数10)
L2=2(Lx+Le+π/4)=2Lx+2Le+π/2・・・式(11)
【0074】
式(9)に示すVp2もVp1と同様に、検出対象500が動くとその動きによってθ2が変化するので、θ2の変化によって出力が変化する。そのため、Vp2の変化を検出することでも検出対象500の動きを検出することができる。
【0075】
また、検出対象500の動きが遅い場合には、アンテナ10と検出対象500との距離によって決まるθ2の値の変化が緩やかとなる。このため、時刻T3からT4までの時間t1の間に第2検波回路52から出力される信号は、図3の第2検波回路出力に示すように直流成分を含む信号が出力されることとなる。
【0076】
第2信号処理回路62は、第2検波回路52から出力された信号からその変化量を検出するのに必要な増幅やAD変換等を行い、処理結果を制御回路70に出力する。
【0077】
制御回路70は、時刻T4で送信回路20から送信信号が出力されないように送信出力制御信号を出力し、時刻T5までの時間t2の間、送信動作を停止する。時刻T5以降は時刻T1からの動作を同様に繰り返すよう動作する。
【0078】
つまり、制御回路70による制御が、第1伝送線路31と第2伝送線路32と、を選択して切替えるよう所定の時間間隔(t3=t1+t2)ごとに行われ、第1伝送線路31と第2伝送線路32と、が交互に選択されて切替えられる。
【0079】
第1伝送線路31が選択されている場合の経路の長さL1と、第2伝送線路32が選択されている場合の経路の長さL2の差ΔLは式(6)式(11)から、式(12)となる。
【0080】
(数11)
ΔL=L2−L1=π/2・・・式(12)
【0081】
以上のように、第1伝送線路31を選択した場合と、第2伝送線路32を選択した場合で、位相の差がπ/4(rad)異なる。この位相差の分、第1伝送線路31を選択した場合に対して、第2伝送線路32を選択した場合には、反射波の位相がπ/2(rad)遅れることとなる。
【0082】
従って、第1伝送線路31と第2伝送線路32の選択を変更することで、第1検波回路51と第2検波回路52に入力される反射信号の位相をπ/2(rad)変えることができる。このため、第1検波回路51に入力される送信信号と反射信号の位相差θ1がπ(rad)となるヌル点となった場合でも、第2検波回路52に入力される送信信号と反射信号の位相差の位相差θ2はθ1+π/2=3π/2(rad)となる。従って、検出対象500を検出する感度が劣化するヌル点を回避して検出対象500の変異を検出することができる。
【0083】
以下、本実施形態としたことによる効果について説明する。
【0084】
本実施形態の無線センサ装置100では、第1伝送線路31の他端には第1検波回路51が、また第2伝送線路32の他端には第2検波回路52が、それぞれ接続されており、第1検波回路51には第1信号処理回路61が、また第1検波回路51には第1信号処理回路61が、接続される構成とした。
【0085】
これにより、第1伝送線路31と第2伝送線路32とを切替えた場合でも、第1検波回路51及び第2検波回路52に入力される信号は、切替えに伴う位相の変化の影響を受けることがない。そのため第1検波回路51及び第2検波回路52の出力に現れる検波出力の直流電圧が大きく変動しないので、第1信号処理回路61及び第2信号処理回路62の増幅器の出力が振り切れてしまったり、低い周波数の変動を出力するまでに長い時間が掛かったりすることがない。従って、安定して検出対象を検出することができる無線センサ装置を提供することができる。
【0086】
また、本実施形態の無線センサ装置100では、制御回路70による制御が、第1伝送線路31と第2伝送線路32と、を選択して切替えるよう所定の時間間隔ごとに行われ、第1伝送線路31と第2伝送線路32と、が交互に選択されて切替えるよう構成した。
【0087】
これにより、線路長の異なる第1伝送線路31と第2伝送線路32と、を交互に切替えて送信動作を行うので、互いに直交する成分を抽出することが反射波の有無を確実に検出することができるので、より安定して検出対象を検出することができる。
【0088】
また、本実施形態の無線センサ装置100では、第1伝送線路31と第2伝送線路32との線路長の線路間の位相差がπ/4(rad)となるように構成した。
【0089】
これにより、第1伝送線路31と第2伝送線路32とを切換えることで、送信信号と反射信号の位相差が、π/2(rad)ずつ異なる信号を得ることができる。このため、感度が著しく低下してしまうヌル点を確実に回避してより安定して検出対象を検出することができる。
【0090】
以上説明したように、本実施形態の無線センサ装置100によれば、安定して検出対象を検出することができる無線センサ装置を提供することができる。
【0091】
以上のように、本発明の実施形態に係る無線センサ装置100を具体的に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。例えば次のように変形して実施することができ、これらの実施形態も本発明の技術的範囲に属する。
【0092】
(1)本実施形態において、無線センサ装置100は検出対象500から離れている図を示して説明を行ったが、検出対象500の体動などを検出するために携行あるいは装着されていても良い。
【0093】
(2)本実施形態において、第1信号処理回路61及び第2信号処理回路62は、検波された信号からその変化量を検出するのに必要な増幅やAD変換等を行う例を示して説明したが、帯域制限や、サンプリング等、の信号処理を行うように構成しても良い。
【0094】
(3)本実施形態において、1回の送信ごとに第1伝送線路31と第2伝送線路32とを切換える例を示して説明したが、複数回の送信動作ごとに切替えるよう制御しても良い。
【符号の説明】
【0095】
10 アンテナ
20 送信回路
31 第1伝送線路
32 第2伝送線路
41 第1切替え手段
42 第2切替え手段
51 第1検波回路
52 第2検波回路
61 第1信号処理回路
62 第2信号処理回路
70 制御回路
100 無線センサ装置
図1
図2
図3
図4