特許第6165908号(P6165908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6165908
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】複合材料の損傷評価方法と装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   G01N3/32 H
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-52030(P2016-52030)
(22)【出願日】2016年3月16日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 拓
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 真実
(72)【発明者】
【氏名】大森 征一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】荒川 敬弘
【審査官】 渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−142273(JP,A)
【文献】 特開平04−299233(JP,A)
【文献】 特開平10−090235(JP,A)
【文献】 特開平11−352042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N3/00−3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)超音波発振源と超音波受信センサを複合材料からなる試験片に間隔を隔てて取り付け、
(B)引張荷重を順に増加させて、前記試験片に応力負荷と応力除荷を繰り返し、
(C)応力負荷時に、前記超音波発振源から疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信し、
(D)受信信号を周波数解析して、低周波域の時間波形の振幅値を取得し、
(E)前記振幅値の変化から、前記試験片の損傷の有無を評価する、複合材料の損傷評価方法。
【請求項2】
前記(E)において、前記応力負荷時における前記低周波域の前記振幅値が、負荷応力の増加につれて減少から増加に変化する場合に、その変化点の前記負荷応力を前記試験片の引張強度と評価する、請求項1に記載の複合材料の損傷評価方法。
【請求項3】
前記(E)において、前記応力負荷時における前記低周波域の前記振幅値が、負荷応力の増加につれて減少する場合に、前記試験片の損傷なしと評価し、増加する場合に、前記試験片の損傷有りと評価する、請求項1に記載の複合材料の損傷評価方法。
【請求項4】
前記(C)において、さらに応力除荷時に、前記超音波発振源から前記疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信し、
前記(D)において、受信信号を周波数解析して、さらに高周波域の時間波形の振幅値を取得し、
前記(E)において、前記応力除荷時における前記低周波域及び前記高周波域の前記振幅値が、負荷応力の増加につれて低下する場合に、前記試験片の損傷有りと評価する、請求項1に記載の複合材料の損傷評価方法。
【請求項5】
前記超音波発振源と前記超音波受信センサは、AEセンサである、請求項1に記載の複合材料の損傷評価方法。
【請求項6】
最初の応力負荷前に、前記超音波発振源から発信される前記疑似AE信号を周波数解析して、その重心周波数又はその近傍を境にして、その下方を前記低周波域に、その上方を高周波域に設定する、請求項1に記載の複合材料の損傷評価方法。
【請求項7】
前記低周波域は、0〜150kHzであり、前記高周波域は、150〜850kHzである、請求項6に記載の複合材料の損傷評価方法。
【請求項8】
複合材料からなる試験片に間隔を隔てて取り付けられる超音波発振源及び超音波受信センサと、
引張荷重を順に増加させて、前記試験片に応力負荷と応力除荷を繰り返す引張試験装置と、
応力負荷時に、前記超音波発振源から疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信するAE装置と、
受信信号を周波数解析して、低周波域の時間波形の振幅値を取得し、前記振幅値の変化から、前記試験片の損傷の有無を評価する制御解析装置と、を備えた複合材料の損傷評価装置。
【請求項9】
前記AE装置は、さらに応力除荷時に、前記超音波発振源から前記疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信する、請求項8に記載の複合材料の損傷評価装置。
【請求項10】
前記制御解析装置は、前記受信信号を周波数解析して、さらに高周波域の時間波形の振幅値を取得し、前記振幅値の変化から、前記試験片の損傷の有無を評価する、請求項8に記載の複合材料の損傷評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の損傷評価方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料(FRP:Fiber Reinforced Plastic)は、ロケットや航空機などに用いられている。特に、炭素繊維強化複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、強度と剛性に優れている。FRPでは、積層の剥離や繊維の断線が生じた後に破壊に至る。
【0003】
このようなFRPの引張強度を検査するために、カイザー効果を利用することが行われている。カイザー効果とは、材料に引張荷重を与え、再び、材料に引張荷重を与える場合に、この引張荷重が先に与えた引張荷重に至るまでは、材料にAE波(acoustic emissionによる音波)が生じない現象である。なお、AE波は、材料の変形や破壊などにより、材料に発生する音波である。カイザー効果は、健全な材料において得られる。
【0004】
カイザー効果を利用する複合材料の損傷評価方法として、例えば特許文献1が既に提案されている。
特許文献1の「強度検査方法および強度評価用データ出力装置」は、カイザー効果の成立範囲では負荷応力に比例して重心周波数集中部が高くなり、損傷が発生すると、重心周波数集中部が低下することを利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5841081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の方法では、負荷応力の上昇時に、重心周波数集中部が増加から減少に変化する「周波数変化点」を検出する。そのため、重心周波数のデータを多数必要とする。
しかし、従来の方法では、負荷応力の上昇中に発生するAE波を計測するため、AE波の計測が一過性であり、同一条件での計測の繰り返しができず、データが不足する可能性があった。
そのため、重心周波数集中部の変化点(すなわち周波数変化点)を見つけ難く、検出漏れや検出誤差が生じる可能性があった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、同一条件で多数のデータを繰り返し取得することができ、かつ周波数変化点を容易に見つけることができ、これにより試験片の損傷状態を的確に評価することができる複合材料の損傷評価方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、(A)超音波発振源と超音波受信センサを複合材料からなる試験片に間隔を隔てて取り付け、
(B)引張荷重を順に増加させて、前記試験片に応力負荷と応力除荷を繰り返し、
(C)応力負荷時に、前記超音波発振源から疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信し、
(D)受信信号を周波数解析して、低周波域の時間波形の振幅値を取得し、
(E)前記振幅値の変化から、前記試験片の損傷の有無を評価する、複合材料の損傷評価方法が提供される。
【0009】
前記(E)において、前記応力負荷時における前記低周波域の前記振幅値が、負荷応力の増加につれて減少から増加に変化する場合に、その変化点の前記負荷応力を前記試験片の引張強度と評価する。
【0010】
前記(E)において、前記応力負荷時における前記低周波域の前記振幅値が、負荷応力の増加につれて減少する場合に、前記試験片の損傷なしと評価し、増加する場合に、前記試験片の損傷有りと評価する。
【0011】
前記(C)において、さらに応力除荷時に、前記超音波発振源から前記疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信し、
前記(D)において、受信信号を周波数解析して、さらに高周波域の時間波形の振幅値を取得し、
前記(E)において、前記応力除荷時における前記低周波域及び前記高周波域の前記振幅値が、負荷応力の増加につれて低下する場合に、前記試験片の損傷有りと評価する。
【0012】
前記超音波発振源と前記超音波受信センサは、AEセンサである。
【0013】
最初の応力負荷前に、前記超音波発振源から発信される前記疑似AE信号を周波数解析して、その重心周波数又はその近傍を境にして、その下方を前記低周波域に、その上方を高周波域に設定する。
【0014】
前記低周波域は、0〜150kHzであり、前記高周波域は、150〜850kHzである。
【0015】
また本発明によれば、複合材料からなる試験片に間隔を隔てて取り付けられる超音波発振源及び超音波受信センサと、
引張荷重を順に増加させて、前記試験片に応力負荷と応力除荷を繰り返す引張試験装置と、
応力負荷時に、前記超音波発振源から疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信するAE装置と、
受信信号を周波数解析して、低周波域の時間波形の振幅値を取得し、前記振幅値の変化から、前記試験片の損傷の有無を評価する制御解析装置と、を備えた複合材料の損傷評価装置が提供される。
【0016】
前記AE装置は、さらに応力除荷時に、前記超音波発振源から前記疑似AE信号を発信し、前記試験片を伝搬した前記疑似AE信号を、前記超音波受信センサにより受信する。
【0017】
前記制御解析装置は、前記受信信号を周波数解析して、さらに高周波域の時間波形の振幅値を取得し、前記振幅値の変化から、前記試験片の損傷の有無を評価する。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の方法と装置によれば、超音波発振源(例えば、AEセンサ)から疑似AE信号を発信し、試験片を伝搬した疑似AE信号を、超音波受信センサ(例えば、AEセンサ)により受信する。さらに、受信した疑似AE信号から、試験片の損傷の有無を評価する。
従って、実際に発生するAE波でなく、疑似AE信号を発信し受信するので、同一条件で多数の受信信号を繰り返し取得することができる。
【0019】
すなわち本発明によれば、多数のデータから周波数変化点を容易に見つけることができ、これにより試験片の損傷状態を的確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による複合材料の損傷評価装置の全体構成図である。
図2】試験片の説明図である。
図3】引張試験時の負荷パターンを示す図である。
図4】本発明による複合材料の損傷評価方法の全体フロー図である。
図5】応力負荷前に取得した疑似AE信号の周波数解析結果を示す図である。
図6】応力除荷時の試験結果を示す図である。
図7】応力負荷時の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明による複合材料の損傷評価装置10の全体構成図である。
この図において、本発明の損傷評価装置10は、超音波発振源12及び超音波受信センサ14、引張試験装置16、AE装置18、及び制御解析装置20を備える。
【0023】
超音波発振源12及び超音波受信センサ14は、好ましくはAEセンサ(例えば圧電素子)であり、複合材料からなる試験片1に間隔を隔てて取り付けられる。
試験片1は、例えばFRP,CFRPなどの平板であるのがよい。
図2は、後述する実施例で使用した試験片1の説明図である。この実施例では、長さL=200mm、幅W=12.5mm、厚さt=3mmの試験片1を用いた。超音波発振源12と超音波受信センサ14のセンサ間距離L1は100mmであった。
【0024】
引張試験装置16は、引張荷重Pを順に増加させて、試験片1に応力負荷と応力除荷を繰り返す。
図3は、後述する実施例における引張試験時の負荷パターンを示す図である。この実施例では、200時間毎に負荷応力を133MPaずつ増加させ、133,266,399,532,665,798MPaの応力負荷と、その間の応力除荷とを繰り返した。
【0025】
図1において、AE装置18は、応力負荷時に、超音波発振源12から疑似AE信号2を発信し、試験片1を伝搬した疑似AE信号3を、超音波受信センサ14により受信する。なお、AE装置18は、さらに応力除荷時に、同様に、疑似AE信号2を発信し、疑似AE信号3を受信することが好ましい。
以下、発信する疑似AE信号2を「発信信号2」、受信する疑似AE信号3を「受信信号3」と呼ぶ。
【0026】
制御解析装置20は、例えばコンピュータ(PC)であり、受信信号3(すなわち疑似AE信号3)を周波数解析して、低周波域の時間波形の振幅値を取得し、振幅値の変化から、試験片1の損傷の有無を評価する。なお、制御解析装置20は、受信信号3を周波数解析して、さらに高周波域の時間波形の振幅値を取得し、振幅値の変化から、試験片1の損傷の有無を評価することが好ましい。
なお、「時間波形」とは、横軸が時間、縦軸が出力波形の関係を示すデータである。
【0027】
図4は、本発明による複合材料の損傷評価方法の全体フロー図である。
この図において、本発明の方法は、S1〜S5の各ステップ(工程)からなる。
【0028】
ステップS1(センサ取り付け)では、超音波発振源12と超音波受信センサ14を複合材料からなる試験片1にセンサ間距離L1を隔てて取り付ける。この取り付けは、試験片1の表面に接着剤を用いて固定し、超音波がスムーズに送信し受信できるようにする。
【0029】
ステップS2(引張試験)では、引張荷重Pを順に増加させて、試験片1に応力負荷と応力除荷を繰り返す。引張荷重Pは、例えば上述した図3の負荷パターンであるのがよい。
また、ステップS2において、最初の応力負荷前に、超音波発振源12から発信される疑似AE信号2(発信信号2)を周波数解析して、その重心周波数又はその近傍を境にして、その下方を低周波域に、その上方を高周波域に設定する。
なお、「重心周波数」とは、AE信号の周波数解析結果におけるスペクトルの代表値である。重心とは、加重平均値を指しており、周波数における成分強度の積和を、成分強度の総和で割った値となる。
後述する実施例において、低周波域は、0〜150kHzであり、高周波域は、150〜850kHzである。
【0030】
ステップS3(信号受信)では、応力負荷時に、超音波発振源12から疑似AE信号2を発信し、試験片1を伝搬した疑似AE信号3を、超音波受信センサ14により受信する。
また、ステップS3において、さらに応力除荷時に、同様に、疑似AE信号2を発信し、疑似AE信号3を受信することが好ましい。
【0031】
ステップS4(周波数解析)では、受信信号3を周波数解析して、低周波域の時間波形の振幅値を取得する。
また、ステップS4において、同様に、受信信号3を周波数解析して、さらに高周波域の時間波形の振幅値を取得することが好ましい。
【0032】
ステップS5(評価)では、振幅値の変化から、試験片1の損傷の有無を評価する。
【0033】
例えば、ステップS5において、応力負荷時における低周波域の振幅値が、負荷応力の増加につれて減少から増加に変化する場合に、その変化点(すなわち周波数変化点)の負荷応力を試験片1の引張強度と評価する。
【0034】
また、ステップS5において、応力負荷時における低周波域の振幅値が、負荷応力の増加につれて減少する場合に、試験片1の「損傷なし」と評価し、増加する場合に、試験片1の「損傷有り」と評価する。
【0035】
さらに、ステップS5において、応力除荷時における低周波域及び高周波域の振幅値が、負荷応力の増加につれて低下する場合に、試験片1の「損傷有り」と評価する。
【0036】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
(試験概要)
トレカプリプレグT700SCを0−45−90に積層し、L200×W12.5×t3mmとしたCFRP試験片(試験片1)を用いた。AEセンサ(超音波発振源12と超音波受信センサ14)として、富士セラミックス社製AE144Aを2個使用し、試験片1の中央から50mmの位置にそれぞれ設置した(センサ間距離L1=100mm)。
一方のAEセンサ(超音波発振源12)よりパルス信号(疑似AE信号2)を励起し、他方のAEセンサ(超音波受信センサ14)で受信することにより超音波の伝搬傾向を確認した。
引張試験は、図3に示した負荷パターンで、試験片1が破断(本試験では829MPa)するまで実施し、その過程で133MPa毎に負荷応力を除荷し、除荷時と応力負荷時の二つのタイミングで超音波伝搬傾向の確認を行った。
【0038】
(試験結果)
図5は、応力負荷前に取得した疑似AE信号2の周波数解析結果を示す図である。この図において、横軸は周波数、縦軸は信号強度である。またこの図における重心周波数は、約150kHzであった。
【0039】
図5から、80kHz近傍と、200kHz近傍にスペクトラムのピークを確認することができる。そのため、0〜150kHz(低周波域)と150〜850kHz(高周波域)の二つの周波数域で、試験片1を伝搬した超音波における時間波形の振幅値を比較した。
【0040】
図6は、応力除荷時の試験結果を示す図であり、図7は、応力負荷時の試験結果を示す図である。
【0041】
各図において、横軸は試験片1に負荷した応力であり、縦軸は受信信号3の最大振幅値である。なお図中の丸印(○)は低周波域、菱形(◇)は高周波域における時間波形の最大振幅値を示している。また、図中に矢印Aで示す点線は引張試験中におけるAE信号の重心周波数集中部が低下した応力を示す。
「重心周波数集中部」とは、横軸に時間、縦軸に重心周波数をプロットした図において、プロットした点が集中する部分を意味する。言い換えれば、矢印Aで示す応力において、試験片1は損傷を受けているといえる。
なお、矢印Bで示す点線は試験片1の破断時の応力である。
【0042】
図6において、応力除荷時に取得した受信信号3では、負荷応力が高くなるにつれて受信信号3の振幅値が低くなっている。このことは、材料中の損傷が大きくなり、音が通り難くなったため、受信信号3が減衰していると考えることができる。
【0043】
一方、図7において、応力負荷時の受信信号3を確認すると、高周波域はほぼ一定、ないし少し減衰傾向にあるが、低周波域の結果では300〜400MPa付近から受信信号3の振幅値が高くなっている。
このことより、応力負荷時では超音波の伝搬傾向が変化し、試験片1の損傷後(矢印Aで示す点線より右側)は、損傷により音が通り難くなっているにも関わらず、低周波域の信号が増幅されることが確認できた。
【0044】
上述したように、本発明により、試験体(試験片1)が健全であれば負荷した応力に比例するように重心周波数集中部が高くなり、損傷が発生した際には重心周波数集中部が低くなることを確認した。
【0045】
また上述した実施例から、上述したステップS5において、応力負荷時における低周波域の振幅値が、負荷応力の増加につれて減少から増加に変化する場合に、その変化点の負荷応力を試験片1の引張強度と評価する、ことができる。
【0046】
また、ステップS5において、応力負荷時における低周波域の振幅値が、負荷応力の増加につれて減少する場合に、試験片1の損傷なしと評価し、増加する場合に、試験片1の損傷有りと評価する、ことができる。
【0047】
さらに、ステップS5において、応力除荷時における低周波域及び高周波域の振幅値が、負荷応力の増加につれて低下する場合に、試験片1の損傷有りと評価する、ことができる。
【0048】
上述した本発明の方法と装置によれば、超音波発振源12(例えば、AEセンサ)から疑似AE信号2(発信信号2)を発信し、試験片1を伝搬した疑似AE信号3(受信信号3)を、超音波受信センサ14(例えば、AEセンサ)により受信する。さらに、受信した疑似AE信号3(受信信号3)から、試験片1の損傷の有無を評価する。
従って、実際に発生するAE波でなく、疑似AE信号2,3を発信し受信するので、同一の試験片1を用いて、同一条件で多数の受信信号3を繰り返し取得することができる。
【0049】
すなわち本発明によれば、多数のデータから周波数変化点を容易に見つけることができ、これにより試験片1の損傷状態を的確に評価することができる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
P 引張荷重、1 試験片(FRP,CFRP)、
2 疑似AE信号(発信信号)、3 疑似AE信号(受信信号)、
10 損傷評価装置、12 超音波発振源(AEセンサ)、
14 超音波受信センサ(AEセンサ)、16 引張試験装置、
18 AE装置、20 制御解析装置(PC)
【要約】
【課題】同一条件で多数のデータを繰り返し取得することができ、かつ周波数変化点を容易に見つけることができ、これにより試験片の損傷状態を的確に評価することができる複合材料の損傷評価方法と装置を提供する。
【解決手段】超音波発振源と超音波受信センサを複合材料からなる試験片に間隔を隔てて取り付け(S1)、引張荷重を順に増加させて、試験片に応力負荷と応力除荷を繰り返す(S2)。応力負荷時に、超音波発振源から疑似AE信号を発信し、試験片を伝搬した疑似AE信号を、超音波受信センサにより受信する(S3)。受信信号を周波数解析(S4)して、低周波域の時間波形の振幅値を取得し、振幅値の変化から、試験片の損傷の有無を評価する(S5)。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7