(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中仕切りシートが、開口部を備えた可撓性フィルムをさらに備え、前記セパレータ構造体が前記開口部を液密に閉塞する、請求項1に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記可撓性袋体を構成する前記可撓性フィルムと前記中仕切りシートを構成する前記可撓性フィルムがそれぞれ樹脂フィルムを含む、請求項2に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記可撓性袋体が一対の可撓性フィルムからなり、前記一対の可撓性フィルムの外周縁の少なくとも上端部以外の部分が熱融着により封止される、請求項2又は3に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記中仕切りシートを構成する前記可撓性フィルムの外周縁の少なくとも上端部以外の部分が、前記一対の可撓性フィルムに挟持された状態で、前記一対の可撓性フィルムと共に熱融着により接合される、請求項4に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記セパレータ構造体が前記セパレータの外周縁に沿って枠を備えており、前記中仕切りシートを構成する可撓性フィルムと前記セパレータ構造体とが前記枠を介して液密に接着される、請求項2〜5のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記枠が樹脂枠であり、前記中仕切りシートを構成する前記可撓性フィルムと前記樹脂枠とが接着剤及び/又は熱融着により接着される、請求項6に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記正極室に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間を有し、かつ、前記負極室に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記可撓性袋体、前記中仕切りシート、前記正極、及び前記負極が縦に設けられ、前記正極室がその上方に前記正極側余剰空間を有し、かつ、前記負極室がその上方に前記負極側余剰空間を有する、請求項9に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記層状複水酸化物が、複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向している、請求項12〜15のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
前記ニッケル亜鉛電池セルパックが、前記正極に接触して設けられる正極集電体と、前記負極に接触して設けられる負極集電体とをさらに備えており、前記正極集電体と前記負極集電体が前記可撓性袋体の外周縁から互いに異なる位置で延出している、請求項1〜16のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛電池セルパック。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ニッケル亜鉛電池セルパック
本発明はニッケル亜鉛電池セルパックに関する。本明細書において「ニッケル亜鉛電池セルパック」とはニッケル亜鉛電池(好ましくはニッケル亜鉛二次電池)の単電池(セル)を備えたパッケージであり、パッケージを構成する包装材料が可撓性を有する(すなわちフレキシブルな)ものである。
図1Aに、本発明によるニッケル亜鉛電池セルパックの一例を模式的に示す。
図1Aに示されるニッケル亜鉛電池セルパック10は、可撓性袋体12と、中仕切りシート14と、正極16と、正極電解液18と、負極20と、負極電解液22とを備える。可撓性袋体12は、可撓性フィルム12a,12bで形成される。中仕切りシート14は、可撓性袋体12の内側に液密に結合され、正極室15と負極室19とを液体連通を許容しないように区画する。正極16は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、正極室15に収容される。正極電解液18は、アルカリ金属水酸化物を含み、正極室15に収容されて正極16が浸漬される。負極20は、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含み、負極室19に収容される。負極電解液22は、アルカリ金属水酸化物を含み、負極室19に収容されて負極20が浸漬される。中仕切りシート14は、セパレータ構造体26を備える。セパレータ構造体26は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータ28を含む。好ましくは、中仕切りシート14は、開口部24aを備えた可撓性フィルム24をさらに備えるものであることができ、セパレータ構造体26が開口部24aを液密に閉塞する。なお、
図1Aにおいては作図便宜上省略されているが、正極16及び負極20にはそれぞれ集電体、配線及び/又は端子が接続されて、セルパック10の外部に電気を取り出せるように構成されることはいうまでもない。
【0013】
このように、本発明によれば、電池容器等の構成材料として堅い材料ではなく可撓性フィルムを用いることで、正負極間が水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離されたニッケル亜鉛電池の単電池(セル)を、取扱い性に優れ、かつ、組電池の組み立てに極めて有利なセルパックの形態で提供できる。すなわち、ニッケル亜鉛電池セルパック10は可撓性袋体12内に中仕切りシート14(セパレータ構造体26を含む)、正極16、正極電解液18、負極20及び負極電解液22が全てコンパクトに収容できるため、液漏れが無く、持ち運びもしやすく、それ故、取扱い性に優れる。その上、ニッケル亜鉛電池セルパック10は可撓性フィルム12a,12bで形成される可撓性袋体12内に電解液が収容されているため、セルパック10全体としてフレキシブル性に富んだ形態を有している。すなわち、正極16、負極20及びセパレータ構造体26はフレキシブル性が無いか又は劣るものの、可撓性フィルム12a,12bのフレキシブル性が電解液の流動性と相まって、セルパック10全体として組電池の組み立てに好都合なフレキシブル性を与えることができる。特に、組電池を構成する場合、単電池が硬い材料で構成されていると、複数の単電池を収容する組電池用の電池容器との間で寸法公差が問題となりやすい。すなわち、単電池の寸法精度を高くしないと組電池構成時に電池容器に上手く収容できなくなることが起こりうる。例えば、電池容器に単電池をきつく詰め込んだ場合に過度に応力が発生する一方、電池容器に単電池を緩く組み込んだ場合には無駄な隙間が形成されうる。特に単電池に過度な応力が加わった場合、電池性能への悪影響が懸念される。この点、本発明によるニッケル亜鉛電池セルパック10は全体としてフレキシブル性に富んでいるため、
図1Bに模式的に示されるように組電池100用の電池容器102に複数個のセルパック10を収容する際、寸法公差等の設計上の要件をそれ程気にすることなく、複数の(望ましくはできるだけ多くの)セルパック10を電池容器に容易に詰め込むことができる。すなわち、ニッケル亜鉛電池の単電池(セル)としての所望の機能がセルパック10単位で十分に確保されているため、組電池用の電池容器内に複数個のセルパック10を比較的ラフに詰め込み、互いに直列ないし並列に接続するだけで、所望の性能の組電池を容易に得ることができる。比較的ラフに詰め込んだとしても、セルパック10内のフレキシブル性(及びその中の電解液の流動性)により応力が容易に分散され、組電池及びその内部の単電池の構造安定性及び性能安定性が確保されるからである。その上、セルパック10内では正極16と負極20が水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータ28を含む中仕切りシート14で確実に隔離されているため、充放電に伴い負極20から正極16に向かって成長する亜鉛デンドライトをセパレータ28で阻止し、それにより亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に防止することができる。
【0014】
可撓性袋体
可撓性袋体12は可撓性フィルムで形成される袋状のフレキシブルなパッケージである。可撓性袋体12を構成する可撓性フィルムは樹脂フィルムを含むのが好ましい。樹脂フィルムは水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有し、かつ、熱融着による接合が可能なものであるのが好ましく、例えば、PP(ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム等が挙げられる。樹脂フィルムを含む可撓性フィルムとして、市販のラミネートフィルムが使用可能であり、好ましいラミネートフィルムとしては、ベースフィルム(例えばPETフィルムやPPフィルム)及び熱可塑性樹脂層を備えた2層以上の構成の熱ラミネートフィルムが挙げられる。可撓性フィルム(例えばラミネートフィルム)の好ましい厚さは、20〜500μmであり、より好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜150μmである。
図1Aに示されるように、可撓性袋体12は一対の可撓性フィルム12a,12bからなり、一対の可撓性フィルム12a,12bの外周縁の少なくとも上端部以外の部分が熱融着により封止されるのが好ましい。上記外周縁の少なくとも上端部以外の部分が封止されることで正極電解液18及び負極電解液22を液漏れ無く確実に可撓性袋体12内に保持することができる。可撓性袋体12の上端部も熱融着により封止され、セルパック10全体として液密性が確保されるのがより好ましく、その場合は可撓性袋体12に電解液を注入した後に可撓性袋体12の上端部を熱融着により封止すればよい。熱融着による接合ないし封止は市販のヒートシール機等を用いて行えばよい。
【0015】
中仕切りシート
中仕切りシート14は、可撓性袋体12の内側に液密に結合され、正極室15と負極室19とを液体連通を許容しないように区画する略シート状の部材である。中仕切りシート14はセパレータ構造体26を備える。セパレータ構造体26は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータ28を含んでおり、それにより正極室15と負極室19の間で水酸化物イオンの伝導を許容するが液体連通を許容しないように構成される。好ましくは、中仕切りシート14は、開口部24aを備えた可撓性フィルム24をさらに備えるものであることができ、セパレータ構造体26が開口部24aを液密に閉塞する。中仕切りシート14も可撓性フィルム24を備えることで、セルパック10全体がフレキシブル性により一層富んだ形態となる。すなわち、可撓性フィルム12a,24,12bのフレキシブル性が電解液の流動性と相まって、セルパック10全体として組電池の組み立てにより一層好都合なフレキシブル性を与えることができる。中仕切りシート14を構成する可撓性フィルム24は樹脂フィルムを含むのが好ましい。樹脂フィルムは水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有し、かつ、熱融着による接合が可能なものであるのが好ましく、例えば、PP(ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム等が挙げられる。樹脂フィルムを含む可撓性フィルムとして、市販のラミネートフィルムが使用可能であり、好ましいラミネートフィルムとしては、ベースフィルム(例えばPETフィルムやPPフィルム)及び熱可塑性樹脂層を備えた2層以上の構成の熱ラミネートフィルムが挙げられる。可撓性フィルム24(例えばラミネートフィルム)の好ましい厚さは、20〜500μmであり、より好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜150μmである。熱融着による接合ないし封止は市販のヒートシール機等を用いて行えばよい。
【0016】
前述のとおり、可撓性袋体12は一対の可撓性フィルム12a,12bからなり、一対の可撓性フィルム12a,12bの外周縁の少なくとも上端部以外の部分が熱融着により封止されるのが好ましい。この場合、中仕切りシート14を構成する可撓性フィルム24の外周縁の少なくとも上端部以外の部分が、一対の可撓性フィルム12a,12bに挟持された状態で、一対の可撓性フィルム12a,12bと共に熱融着により接合されるのが好ましい。より好ましくは、中仕切りシート14を構成する可撓性フィルム24の外周縁の上端部を含む又は含まない略全域にわたって一対の可撓性フィルム12a,12bに挟持された状態で熱融着により接合される。
【0017】
セパレータ構造体26はセパレータ28の外周縁に沿って枠32を備えるのが好ましい。また、中仕切りシート14が可撓性フィルム24を備える場合、中仕切りシート14を構成する可撓性フィルム24とセパレータ構造体26とが枠32を介して液密に接着されるのが好ましい。枠32が樹脂枠であるのが好ましく、中仕切りシート14を構成する可撓性フィルム24と樹脂枠32とが接着剤及び/又は熱融着により接着されるのがより好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。ホットメルト接着剤を用いてもよい。いずれにしても、可撓性フィルム24と枠32の接合部分では液密性が確保されることが望まれる。枠32を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルである。
【0018】
セパレータ28は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しない部材であり、典型的には板状、膜状又は層状の形態である。なお、本明細書において「透水性を有しない」とは、後述する例1で採用される「緻密性判定試験I」又はそれに準ずる手法ないし構成で透水性を評価した場合に、測定対象物(例えばLDH膜及び/又は多孔質基材)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、セパレータ28が透水性を有しないということは、セパレータ28が水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、
図1Aに示されるようにセパレータ28に多孔質基材30が付設されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、セパレータ28は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極電解液18と負極電解液22との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極室15及び負極室19における充放電反応を実現することができる。正極室15及び負極室19における充電時における反応は以下に示されるとおりであり、放電反応はその逆となる。
‐ 正極: Ni(OH)
2+OH
−→NiOOH+H
2O+e
−
‐ 負極: ZnO+H
2O+2e
−→Zn+2OH
−
【0019】
ただし、上記負極反応は以下の2つの反応で構成されるものである。
‐ ZnOの溶解反応: ZnO+H
2O+2OH
−→Zn(OH)
42−
‐ Znの析出反応: Zn(OH)
42−+2e
−→Zn+4OH
−
【0020】
セパレータ28は無機固体電解質体からなるのが好ましい。セパレータ28として水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることで、正負極間の電解液を隔離するとともに水酸化物イオン伝導性を確保する。そして、セパレータ28を構成する無機固体電解質は典型的には緻密で硬い無機固体であるため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止することが可能となる。その結果、ニッケル亜鉛電池の信頼性を大幅に向上することができる。無機固体電解質体は透水性を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体は、アルキメデス法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であるが、亜鉛デンドライトの貫通を防止する程度に緻密で硬いものであればこれに限定されない。このような緻密で硬い無機固体電解質体は水熱処理を経て製造することが可能である。したがって、水熱処理を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明の無機固体電解質体として好ましくない。もっとも、水熱処理を経たものでなくても、緻密で硬い無機固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる製法が採用可能である。
【0021】
セパレータ28ないし無機固体電解質体は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータ28は、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
【0022】
無機固体電解質体は、層状複水酸化物(LDH)を含むのが好ましく、より好ましくはLDHからなる。典型的には、LDHは、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M
2+がMg
2+を含み、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。また、上記一般式においてM
3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンA
n−の係数x/nは適宜変更されてよい。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0023】
無機固体電解質体は水熱処理によって緻密化されたものであるのが好ましい。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg−Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。水熱処理による緻密化は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)に記載されるように、耐圧容器に純水と板状の圧粉体を入れ、120〜250℃、好ましくは180〜250℃の温度、2〜24時間、好ましくは3〜10時間で行うことができる。もっとも、水熱処理を用いたより好ましい製造方法については後述するものとする。
【0024】
無機固体電解質体は、板状、膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の形態である場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状の形態であると十分な堅さを確保して亜鉛デンドライトの貫通をより効果的に阻止することができる。一方、板状よりも厚さが薄い膜状又は層状の形態であると亜鉛デンドライトの貫通を阻止するための必要最低限の堅さを確保しながらセパレータの抵抗を有意に低減できるとの利点がある。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.02〜0.2mm、さらに好ましくは0.05〜0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10
−4〜10
−1S/mの伝導度を有する。一方、膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータ28の低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0025】
セパレータ28の片面又は両面に多孔質基材30を設けてもよい。すなわち、セパレータ構造体26は、セパレータ28の片面又は両面に多孔質基材30をさらに備えるものであってもよい。セパレータ28の片面に多孔質基材30が設けられる場合、多孔質基材30はセパレータ28の負極20側の面に設けてもよいし、セパレータ28の正極16側の面に設けてもよい。多孔質基材30は透水性を有し、それ故正極電解液18及び負極電解液22がセパレータ28に到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材30があることでセパレータ28上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材30により強度を付与できるため、セパレータ28を薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材30上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。セパレータ28の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。一方、セパレータ28の両面に多孔質基材を設ける場合には、2枚の多孔質基材の間に無機固体電解質の原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。なお、
図1Aにおいて多孔質基材30はセパレータ28の片面の全面にわたって設けられているが、セパレータ28の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材30上又はその中に無機固体電解質体を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、セパレータ28の片面の全面にわたって多孔質基材30が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、セパレータ28の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材30を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材30を後付けしてもよい。
【0026】
セパレータ構造体26がセパレータ28の一方の側に多孔質基材30を備える場合、セパレータ28は多孔質基材30の正極16側及び負極20側のいずれに設けられてもよい。もっとも、セパレータ28は多孔質基材30の負極20側に設けられるのが好ましい。こうすることで、セパレータ28(例えばLDH緻密膜)の多孔質基材30からの剥離をより効果的に抑制することができる。すなわち、負極20に由来して亜鉛デンドライトが成長してセパレータ28に到達した場合に、亜鉛デンドライトの成長に伴い発生しうる応力が、セパレータ28を多孔質基材30に押し付ける方向に働くことになり、その結果、セパレータ28が多孔質基材30から剥離しにくくなる。
【0027】
前述のとおり、セパレータ構造体26はセパレータ28の外周縁に沿って枠32を備えるのが好ましく、枠32は樹脂枠であるのがより好ましい。
図17に、セパレータ28が多孔質基材30の負極20側に設けられる場合(すなわち多孔質基材30がセパレータ28の正極16側に設けられる場合)における、枠32を備えたセパレータ構造体26の好ましい態様が示される。
図17に示される態様における枠32は、セパレータ28及び多孔質基材30を収容可能な開口部を有する外枠部32aと、外枠部32aの正極16側の端部及び/又はその近傍から開口部に向かって延在する内枠部32bとを備える。そして、内枠部32bが多孔質基材30の正極16側と係合する。そして、多孔質基材30と枠32(すなわち外枠部32a及び内枠部32b)との間、又は多孔質基材30及びセパレータ28の両方と枠32(すなわち外枠部32a及び内枠部32b)との間が接着剤31で液密に封止されているのが好ましい。かかる構成によれば、負極20に由来して亜鉛デンドライトが成長してセパレータ28に到達した場合に、亜鉛デンドライトの成長に伴い発生しうる応力が、多孔質基材30を内枠部32bに押し付ける方向に働くことになり、その結果、多孔質基材30と内枠部32bとの間で接着剤31を圧縮して接着剤31による液密封止効果及び接着効果を向上させることができる。すなわち、接着剤31を引っ張る方向ではなく圧縮する方向に上記応力を作用させることができるので、仮に亜鉛デンドライトによる応力が加わったとしても、接着剤31の引っ張りによる枠32の剥離を効果的に回避することができる。もっとも、外枠部32a及び内枠部32bを備えた枠32は、セパレータ28が多孔質基材30の正極16側に設けられる場合においても採用可能であることはいうまでもない。
【0028】
また、前述のとおり、正極16とセパレータ28の間及び/又は負極20とセパレータ28の間に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の第2のセパレータ(樹脂セパレータ)を配置して、電解液が減少した場合であっても電解液を正極及び/又は負極の反応部分に電解液を保持可能とする構成としてもよい。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0029】
正極
正極16は水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。例えば、ニッケル亜鉛電池を放電末状態で構成する場合には正極16として水酸化ニッケルを用いればよく、満充電状態で構成する場合には正極16としてオキシ水酸化ニッケルを用いればよい。水酸化ニッケル及びオキシ水酸化ニッケル(以下、水酸化ニッケル等という)は、ニッケル亜鉛電池に一般的に用いられている正極活物質であり、典型的には粒子形態である。水酸化ニッケル等には、その結晶格子中にニッケル以外の異種元素が固溶されていてもよく、それにより高温下での充電効率の向上が図れる。このような異種元素の例としては、亜鉛及びコバルトが挙げられる。また、水酸化ニッケル等はコバルト系成分と混合されたものであってもよく、そのようなコバルト系成分の例としては、金属コバルトやコバルト酸化物(例えば一酸化コバルト)の粒状物が挙げられる。さらに、水酸化ニッケル等の粒子(異種元素が固溶されていてよい)の表面をコバルト化合物で被覆してもよく、そのようなコバルト化合物の例としては、一酸化コバルト、2価のα型水酸化コバルト、2価のβ型水酸化コバルト、2価を超える高次コバルトの化合物、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0030】
正極16は、水酸化ニッケル系化合物及びそれに固溶されうる異種元素以外にも、追加元素をさらに含んでいてもよい。そのような追加元素の例としては、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルピウム(Er)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)および水銀(Hg)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。追加元素の含有形態は特に限定されず、金属単体又は金属化合物(例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物)の形態で含まれていてよい。追加元素を含む金属単体又は金属化合物を添加する場合、その添加量は、水酸化ニッケル系化合物100重量部に対し、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは2〜5重量部である。
【0031】
正極16は電解液等をさらに含むことにより正極合材として構成されてもよい。正極合剤は、水酸化ニッケル系化合物粒子、電解液、並びに所望により炭素粒子等の導電材やバインダー等を含むことができる。
【0032】
負極
負極20は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極20はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0033】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01〜0.06質量%、ビスマスを0.005〜0.02質量%、アルミニウムを0.0035〜0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0034】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、90〜210μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0035】
集電体
ニッケル亜鉛電池セルパック10は、正極16に接触して設けられる正極集電体(図示せず)と、負極20に接触して設けられる負極集電体(図示せず)とをさらに備えるのが好ましい。この場合、正極集電体と負極集電体が可撓性袋体12の外周縁から互いに異なる位置で延出しているのが好ましい。あるいは、正極16及び負極20が、別途設けられた正極端子及び負極端子に可撓性袋体12内又は外でそれぞれ接続される構成としてもよい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。負極集電体の好ましい例としては、銅パンチングメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含む混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0036】
電解液
正極電解液18及び負極電解液22はアルカリ金属水酸化物を含む。すなわち、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液が正極電解液18及び負極電解液22として用いられる。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛合金の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、正極電解液18及び負極電解液22は正極16及び/又は負極20と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド,ポリビニルアルコール,ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0037】
ニッケル亜鉛電池セルパック10は、正極室15に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間15aを有し、かつ、負極室19に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間19aを有するのが好ましい。これにより正極室15及び負極室19における水分量の増減に伴う不具合(例えば、液漏れ、容器内圧の変化に伴う容器の変形等)を効果的に防止して、ニッケル亜鉛電池の信頼性を更に向上することができる。すなわち、前述した反応式から分かるように、充電時には正極室15で水が増加する一方、負極室19で水が減少する。一方、放電時には正極室15で水が減少する一方、負極室19で水が増加する。この点、従来の殆どのセパレータは、透水性を有するものであるため、セパレータを介して水が自由に行き来できる。しかしながら、本発明に用いるセパレータ28は透水性を有しないという緻密性の高い構造を有するため、セパレータ28を介して水が自由に行き来できず、充放電に伴い正極室15内及び/又は負極室19内において電解液量が一方的に増大して液漏れ等の不具合を引き起こしうる。そこで、正極室15に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間15aを有することで、充電時において正極電解液18の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。すなわち、満充電後においても正極側余剰空間15aがバッファとして機能することで、増量した正極電解液18を溢れ出させることなく確実に正極室15内に保持することができる。同様に、負極室19に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間19aを有することで、放電時に負極電解液22の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。
【0038】
正極室15及び負極室19における水分の増減量は、前述した反応式に基づいて算出することができる。前述した反応式から分かるように、充電時における正極16でのH
2Oの生成量は、負極20におけるH
2Oの消費量の2倍に相当する。したがって、正極側余剰空間15aの容積を負極側余剰空間19aよりも大きくしてもよい。いずれにしても、正極側余剰空間15aの容積は、正極室15において見込まれる水分増加量のみならず、正極室15に予め存在している空気等のガスや過充電時に正極16より発生しうる酸素ガスをも適切な内圧で収容できるように若干ないしある程度余裕を持たせた容積とするのが好ましい。この点、負極側余剰空間19aは、正極側余剰空間15aと同程度の容積とすれば十分であるとはいえるが、放電末状態で電池を構成する際には充電に伴う水の減少量を超える余剰空間を設けておくことが望まれる。いずれにしても、負極側余剰空間19aは正極室15内の半分程度の量しか水の増減がないため正極側余剰空間15aよりも小さくしてもよい。
【0039】
ニッケル亜鉛電池セルパック10が放電末状態で構築される場合には、正極側余剰空間15aが、充電時の正極反応に伴い増加することが見込まれる水分量を超える容積を有し、正極側余剰空間15aには正極電解液18が予め充填されておらず、かつ、負極側余剰空間19aが、充電時の負極反応に伴い減少することが見込まれる水分量を超える容積を有し、負極側余剰空間19aには減少することが見込まれる量の負極電解液22が予め充填されているのが好ましい。一方、ニッケル亜鉛電池セルパック10が満充電状態で構築される場合には、正極側余剰空間15aが、放電時の正極反応に伴い減少することが見込まれる水分量を超える容積を有し、正極側余剰空間15aには減少することが見込まれる量の正極電解液18が予め充填されており、かつ、負極側余剰空間19aが、放電時の負極反応に伴い増加することが見込まれる水分量を超える容積を有し、負極側余剰空間19aには負極電解液22が予め充填されていないのが好ましい。
【0040】
本発明のニッケル亜鉛電池セルパック10は、可撓性袋体12、中仕切りシート14、正極16、及び負極20が縦に設けられるのが好ましい。この場合、
図1Aに示されるように、正極室15がその上方に正極側余剰空間15aを有し、かつ、負極室19がその上方に負極側余剰空間19aを有するのが好ましい。もっとも、ゲル状の電解液を使用した場合には、電解液の減少にも関わらず正極室15及び/又は負極室19の充放電反応部分に電解液を保持可能となるため、正極室15の上方以外の部分(例えば側方部分や下方部分)及び/又は負極室19の上方以外の部分(例えば側方部分や下方部分)に正極側余剰空間15a及び/又は負極側余剰空間19aを設けることも可能となり、設計の自由度が増加する。
【0041】
組電池
前述のとおり、本発明によるニッケル亜鉛電池セルパック10は全体としてフレキシブル性に富んでいるため、
図1Bに模式的に示されるように組電池100用の電池容器102に複数個のセルパック10を収容する際、寸法公差等の設計上の要件をそれ程気にすることなく、複数の(望ましくはできるだけ多くの)セルパック10を電池容器に容易に詰め込むことができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、電池容器102内に、本発明のニッケル亜鉛電池セルパック10が複数個詰め込まれている、組電池100が提供される。なお、
図1Bにおいては作図便宜上省略されているが、各セルパック10の正極16及び負極20にはそれぞれ集電体、配線及び/又は端子が接続されて各セルパック10及び電池容器102の外部に電気を取り出せるように構成されることはいうまでもない。電池容器102内において、複数のニッケル亜鉛電池セルパック10は互いに直列接続されてもよいし、互いに並列接続されてもよい。また、
図1Bに示されるように電池容器102内はニッケル亜鉛電池セルパック10は縦向きに収容されるのが好ましいが、特段の不具合を生じないかぎり横向きに収容されてもよい。
【0042】
多孔質基材付きLDHセパレータ
前述のとおり、本発明のニッケル亜鉛電池セルパックに好ましく用いられる多孔質基材付きセパレータは、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなるセパレータと、セパレータの少なくとも一方の面に設けられる多孔質基材とを備えたものである。無機固体電解質体は透水性を有しない程に緻密化された膜状又は層状の形態である。特に好ましい多孔質基材付きセパレータは、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成されるセパレータ層とを備えており、セパレータ層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含むものである。セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性及び通気性を有しうるが、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。セパレータ層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、
図2に示されるように、多孔質基材30上にセパレータ層28がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材30の性質上、
図2に示されるように多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、
図3に示されるように、多孔質基材30中(例えば多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材30の少なくとも一部がセパレータ層28’を構成するものであってもよい。この点、
図3に示される態様は
図2に示される態様のセパレータ層28における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材30の表面と平行にセパレータ層が存在していればよい。いずれにしても、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない(すなわち基本的に水酸化物イオンのみを通す)という特有の機能を有することができる。
【0043】
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有セパレータ層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をセパレータ層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0044】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有セパレータ層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0045】
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0046】
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0047】
セパレータ層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、
図2に示されるようにセパレータ層28が多孔質基材30上に形成される場合には、セパレータ層28はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、
図3に示されるようにセパレータ層28’が多孔質基材30中に形成される場合には、多孔質基材30中(典型的には多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、セパレータ層28’は典型的には多孔質基材30の少なくとも一部及びLDHからなる。
図3に示されるセパレータ層28’は、
図2に示されるセパレータ層28における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
【0048】
セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。例えば、セパレータ層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧でヘリウムガスを加圧してもヘリウムガスを透過させない。すなわち、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。セパレータ層の表面の気孔率が低ければ低いほど、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、セパレータ層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、セパレータ層の表面の気孔率はセパレータ層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、セパレータ層の表面が緻密であればセパレータ層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、セパレータ層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)セパレータ層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はセパレータ層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0049】
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向しているのが好ましい。この態様は、
図2に示されるように、多孔質基材30上にセパレータ層28がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、
図3に示されるように、多孔質基材30中(典型的には多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材30の少なくとも一部がセパレータ層28’を構成する場合においても実現可能である。
【0050】
すなわち、LDH結晶は
図4に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記垂直又は斜めの配向は、LDH含有セパレータ層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータ層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本出願人は、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH含有セパレータ層における上記垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちセパレータ層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有セパレータ層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有セパレータ層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれるセパレータに極めて適する。
【0051】
特に好ましくは、LDH含有セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が垂直方向に高度に配向している。この高度な配向は、セパレータ層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、セパレータ層を構成するLDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向していることを示す。ここで、本明細書において「垂直方向」とは厳密な垂直方向のみならずそれに類する略垂直方向を含む概念であることはいうまでもない。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有セパレータ層にあっては、LDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向しているとLDH層状構造も垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有セパレータ層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
【0052】
セパレータ層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。セパレータ層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、セパレータ層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、セパレータ層が多孔質基材中に形成される場合には、セパレータ層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、セパレータ層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0053】
上述した多孔質基材付きLDHセパレータは、(1)多孔質基材を用意し、(2)マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を0.20〜0.40mol/Lの合計濃度で含み、かつ、尿素を含む原料水溶液に、多孔質基材を浸漬させ、(3)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、層状複水酸化物を含むセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより製造することができる。
【0054】
(1)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH含有セパレータ層の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0055】
(2)原料水溶液への浸漬
次に、多孔質基材を原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させる。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含む。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg
2++Al
3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH含有セパレータ層を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0056】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含む。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO
3−)に対するモル比(尿素/NO
3−)が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
【0057】
(3)水熱処理によるLDH含有セパレータ層の形成
そして、原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDHを含むセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させる。この水熱処理は密閉容器中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH含有セパレータ層の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0058】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0059】
上記のようにして製造されたLDH含有複合材料におけるLDH含有セパレータ層は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な垂直方向に配向したものである。したがって、亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛二次電池に極めて好適といえる。
【0060】
ところで、上記製造方法により得られるLDH含有セパレータ層は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH含有複合材料をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH含有セパレータ層を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH含有セパレータ層が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0062】
例1:多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
【0063】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、
図5に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
【0064】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0065】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0066】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を600mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0067】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量800ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(セパレータ層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとして形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0068】
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、
図6に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、
図6に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
【0069】
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を
図7に示す。
【0070】
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を
図8に示す。
【0071】
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0072】
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0073】
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図9Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料220(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部222aを備えたシリコンゴム222を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器224,226で挟んで接着した。シリコンゴム222側に配置されるアクリル製容器224は底が抜けており、それによりシリコンゴム222はその開口部222aが開放された状態でアクリル製容器224と接着される。一方、複合材料試料220の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器226は底を有しており、その容器226内にはイオン交換水228が入っている。この時、イオン交換水にAl及び/又はMgを溶解させておいてもよい。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料220の多孔質基材側にイオン交換水228が接するように各構成部材が配置される。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器226には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。
図9Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器224の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0074】
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図10A及び10Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器230と、このアクリル容器230の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具232とを用意した。アクリル容器230にはその中にガスを供給するためのガス供給口230aが形成されている。また、アルミナ治具232には直径5mmの開口部232aが形成されており、この開口部232aの外周に沿って膜試料載置用の窪み232bが形成される。アルミナ治具232の窪み232bにエポキシ接着剤234を塗布し、この窪み232bに複合材料試料236の膜試料236b側を載置してアルミナ治具232に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料236が接合されたアルミナ治具232を、アクリル容器230の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤238を用いて気密かつ液密にアクリル容器230の上端に接着させて、測定用密閉容器240を得た。この測定用密閉容器240を水槽242に入れ、アクリル容器230のガス供給口230aを圧力計244及び流量計246に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器230内に供給可能に構成した。水槽242に水243を入れて測定用密閉容器240を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器240の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料236の膜試料236b側が測定用密閉容器240の内部空間に露出する一方、複合材料試料236の多孔質基材236a側が水槽242内の水に接触している。この状態で、アクリル容器230内にガス供給口230aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器240内に導入した。圧力計244及び流量計246を制御して膜試料236b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料236から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料236bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0075】
例2:ニッケル亜鉛電池セルパックの作製
(1)中仕切りシートの作製
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータとして、アルミナ基材上LDH膜を用意した。
図11A及び11Bに示されるように、多孔質基材30付きセパレータ28のセパレータ28側(すなわちLDH膜側)の外周縁に沿って変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の枠32を載置した。このとき、枠32は正方形の枠であり、その内周縁には段差が設けられており、この段差に多孔質基材30及びセパレータ28の外周縁を嵌合させた。この枠32上に可撓性フィルム24としてラミネートフィルム(アズワン社製、製品名:バキュームシーラー用ポリ袋、厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を載置した。この可撓性フィルム24は予め中央に開口部24aが形成されており、この開口部24aが枠32内の開放領域に対応するように可撓性フィルム24を配置した。可撓性フィルム24、枠32、及び多孔質基材30付きセパレータ28の接合部分を、市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着封止した。こうして作製された中仕切りシートの写真が
図12に示される。
図12において点線で示される領域Hが熱融着封止が行われた領域であり、この領域における液密性が確保される。
【0076】
(2)正極板の作製
亜鉛及びコバルトを固溶体となるように添加した水酸化ニッケル粒子を用意する。この水酸化ニッケル粒子を水酸化コバルトで被覆して正極活物質を得る。得られた正極活物質と、カルボキシメチルセルロースの2%水溶液とを混合してペーストを調製する。正極活物質の多孔度が50%となるように、多孔度が約95%のニッケル金属多孔質基板からなる集電体に上記得られたペーストを均一に塗布して乾燥し、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された正極板を得る。
【0077】
(3)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された負極板を得る。
【0078】
(4)ニッケル亜鉛電池セルパックの作製
上記得られた中仕切りシート14、正極16及び負極20を用いて
図1Aに示されるようなニッケル亜鉛電池セルパック10を以下の手順で組み立てた。まず、1対の可撓性フィルム12a,12bとしてラミネートフィルム(アズワン社製、製品名:バキュームシーラー用ポリ袋、厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を用意した。
図13に示されるように、可撓性フィルム12a上に負極20、中仕切りシート14、正極16及び可撓性フィルム12bをこの順に積層した。このとき、中仕切りシート14は多孔質基材30及び枠32が正極16側に位置するように配置した。可撓性フィルム12a,12bの外周縁3辺(上端部以外の辺)と、中仕切りシート14を構成する可撓性フィルム24の外周縁3辺(上端部以外の辺)は重なっており、この可撓性フィルム12a,23,12bの重なり部分(外周縁3辺)を市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着接合した。こうして熱融着接合により液密に封止された可撓性袋体12を正極16側から撮影した写真を
図14に示す。
図14において点線で囲まれた外周縁3辺の領域Hが熱融着封止された部分である。この時点では、
図14から分かるように、可撓性袋体の上端部は熱融着封止されずに開放されており、正極集電体と負極集電体が互いに異なる位置で可撓性袋体の外周縁から互いに異なる位置で延出している(図中に視認される2本の金属片に相当)。なお、
図5において、正極集電体と負極集電体がかなり長めに設けられているが、これは試作上の都合によるものであり、実際には余剰空間が無駄に大きくならないように
図5に示される長さよりも短く構成されるのが好ましい。熱融着封止された可撓性袋体を負極側から撮影した写真を
図15Aに示す。
図15Aにおいて可撓性袋体の上端部の枠で強調された部分(その部分の拡大写真が
図15Bに示される)において灰色のラインとして観察されるように、集電体(金属片)の可撓性袋体の上端部と接触されるべき部分には、熱融着による可撓性フィルムと溶着を促進する熱融着用シーラントフィルム(住友電工社製、製品名:タブリード MINUS LEAD、材質:ポリオレフィン樹脂)が配設されており、後に行われる上端部の熱融着接合の際に集電体(金属片)との接触部分において(すなわち異種材料間において)確実に熱融着接合できるようにされる。こうして中仕切りシート14、正極16及び負極20を収容した可撓性袋体12を真空デシケータ中に入れ、真空雰囲気下で、可撓性袋体12内の正極室15及び負極室19の各々に電解液として6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。この電解液の注入は、可撓性袋体12の上端部の開放部分から行った。最後に、可撓性袋体12の上端部の開放部分を市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着接合して、ニッケル亜鉛電池セルパック10を得た。こうして上端部が熱融着接合されたニッケル亜鉛電池セルパック10を撮影した写真を
図16に示す。
図16において点線で囲まれた外周縁である上端部1辺の領域Hが熱融着接合された部分である。