(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166020
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】浮遊体を備えた津波避難用タワー及び浮遊体
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-113408(P2012-113408)
(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公開番号】特開2013-238094(P2013-238094A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000238980
【氏名又は名称】福井鐵工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087169
【弁理士】
【氏名又は名称】平崎 彦治
(72)【発明者】
【氏名】森本 修二
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−226099(JP,A)
【文献】
特開2006−112089(JP,A)
【文献】
特開2007−277998(JP,A)
【文献】
特開2011−226227(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0183374(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大きな津波が押し寄せて来た場合に避難することが出来る津波避難用のタワーにおいて、該津波避難用のタワーは複数本の支柱を起立して階段を取付け、浮遊体を支柱上端に取付けた構造とし、該浮遊体は人を収容できるように底部の周囲に起立した側部を有すと共に底部の下方へ突出した浮遊部を形成し、浮遊体は底部に設けた軸受けの軸穴に上記支柱上端が嵌合して載置されると共にボルト締めされ、押し寄せて来た津波の水位が高くなった時には該ボルトを外すことで浮遊体は浮上して該タワーから分離することが出来ると共に、浮遊体が分離した後は同じボルトを螺合してネジ穴を塞ぐことが出来る構造としたことを特徴とする浮遊体を備えた津波避難用タワー。
【請求項2】
上記浮遊体をロープ又は鎖などの連結手段によって繋いだ請求項1記載の浮遊体を備えた津波避難用タワー。
【請求項3】
大きな津波が押し寄せて来た場合に避難することが出来る津波避難用のタワーの上端に取付けられる浮遊体において、該浮遊体は底部の周りに側部を起立すと共に底部の下方へ突出した浮遊部を形成した容器で人を収容出来る形態とし、垂直に起立した支柱の上端に嵌って取付けられるように、上記底部には軸穴を有す軸受けを設けると共に軸受けの上端部には支柱上端とボルト締めする為のネジ穴を設け、押し寄せて来た津波によって浮上して支柱から分離することが出来るようにし、分離後は上記ネジ穴を塞ぐことが出来るボルトを備えたことを特徴とする津波避難用タワー上端に取付けられる浮遊体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は想定外の大きな津波が押し寄せて来た時に浮遊することが出来る浮遊体を備えた津波避難用タワーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に東北地方の太平洋側沖合に発生した大地震によって大きな津波が起き、この津波によって太平洋側沿岸では多くの人の命が失われた。高台へ逃げることが出来た人は助かったが、住宅の二階に留まった人は家ごと流されてしまい、またビルの屋上へ逃げた人も津波が屋上を越えたことで流されて命を失った人も多い。
【0003】
このように、予想を超えた大きな津波が押し寄せた場合、高台へ逃げることが一番安全であるが、老人、身体障害者、また子供にとって短時間に高台まで避難することは困難である。今回の東北大地震の場合、地震発生から津波が押し寄せるまでの時間は約30分しかなく、家から高台までの距離が遠い場合、避難場所に高台を選ぶことは出来ない人も多い。
【0004】
そこで、大きな津波が発生した際に避難することが出来る津波タワーなるものが従来から知られている。
例えば、特開2006−83549号に係る「津波避難用タワー」は、津波発生時、タワー上に住民が避難しやすいようにしたものである。そこで、地盤G上に複数本の金属製支柱を設置し、前記支柱同士を横枠で連結した構造体に予想津波高さ以上の床面と安全柵を設けて、その床面上に避難時に活用するための各種避難用設備を設けたものである。
【0005】
特開2008−14131号に係る「津波避難用タワー」は、津波発生時に、そのタワーに設けた設備により住民の避難活動が手助けされ、また、そのタワー上に住民を避難しやすいようにした津波避難用タワーである。そこで、地盤G上に複数本設置された金属製支柱同士を横枠で連結してなる構造体は、道路Rに交差する方向に跨って設けられ、その構造体に予想津波高さ以上の位置において避難が予想される人員を収容し得る面積を有する床面と、その床面の周囲端部の安全柵とを設けるとともに、前記支柱、横枠及び床面は、それぞれ直下の車道上に道路建築限界に相当する空間を確保し得る位置に設けられ、前記地盤Gから床面に至る昇降設備を設けるとともに、前記床面上に、避難時に活用するための避難用設備を設けている。
【0006】
特開2006−322301号に係る「浸水対応建築物とその建造方法」は、津波や台風高潮が発生しても建物が浮上して、浸水しない浸水対応建築物。そこで、大部分が地中に埋設された基礎上面に、浮体の気中重量を支える強度を備えた台座を設けると共に台座の上へ浮体を乗せ置き、台座と台座の間に台座より低いリフトジャッキを導入可能なメンテ通路を形成している。そして、浮体と上記基礎の間に浮体の浸水による浮力で浮体は鉛直上方にのみ浮上するが、水平方向流動を阻止するアンカー装置を備えている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−83549号に係る「津波避難用タワー」
【特許文献2】特開2008−14131号に係る「津波避難用タワー」
【特許文献3】特開2006−322301号に係る「浸水対応建築物とその建造方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、大きな津波が押し寄せてきた場合に避難する為のタワーは知られている。従って、遠く離れた高台まで逃げなくても避難用タワーへ上ることで津波から身を守ることは可能である。しかし、この避難用タワーであっても、予想を超える大きな津波であれば、上段に設けた床面も浸水する虞がある。勿論、さらに高い避難用タワーを設置すれば何ら問題はないが、何時発生するか分からない津波に対して、余りにも高い避難用タワーを設置することはコスト面に大きな課題が残り、しかも老人や身体障害者の場合、高い避難用タワーを階段で上がることは出来なくなる。
【0009】
上記特開2006−322301号に係る「浸水対応建築物とその構造方法」の場合も同じである。すなわち、浸水と共に上昇する浮体をガイドする支柱を高くしなくてはならない。
本発明が解決しようとする課題はこの問題点であり、子供、老人、身体障害者であっても上ることが出来るように避難タワーを必要以上に高くすることなく、そして予想を超えた大きな津波が押し寄せてきた場合にも対応出来るようにした津波非難用タワー及び避難用タワーの上端に取付ける浮遊体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る津波避難用タワーは昇降用の階段を有し、タワー上端には浮遊体を備えている。該浮遊体は避難用タワーの上端に拘束され、そして津波が押し寄せて来た場合、上記浮遊体は拘束が解除されて浸水することなく浮上し、さらに水位が上るならば非難用タワーから分離する。該浮遊体は複数の人を乗せることが出来る大きな容器で構成され、底部とその周囲に起立する側部から成っている。ここで、浮遊体は浮遊する為に軽くて頑丈な構造が必要であるが、その具体的な材質、構造並びに形態に関しては限定しない。
【0011】
そして、タワーには昇降用の階段を取付けて上記浮遊体に上ることが出来るようにし、該浮遊体の側部には入口扉を開閉可能に取付ける場合もあり、入口扉を閉じた状態で水の侵入を防止する構造とすることが出来る。勿論、入口扉を設けることなく側部を越えて浮遊体の内部に入ることが出来るようにしてもよい。ところで、浮遊体は水面に浮いた状態で津波と共に流されることになるが、所定の領域から流されないように避難用タワーと浮遊体とはロープ又はクサリなどの連結手段を介して繋がれている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る津波避難用タワーはその上端に浮遊体を備え、津波が押し寄せてきた場合には、避難用タワーを上って浮遊体の内部へ入ることが出来る。浮遊体は複数人を収容することが出来る大きな容器であって、大きな津波が押し寄せて来て水位が上った場合、浮遊体は浸水することなく上昇し、非難用タワーから分離して浮遊することが出来る。
【0013】
従って、避難用タワーの高さを必要以上に高くしなくても、押し寄せてくる津波の水位に対応して浮上出来、その為に製作コスト及び設置コストは安くなる。一方、避難用タワーはそれ程高くする必要がない為に、子供、老人、身体障害者であっても比較的容易に階段を上って浮遊体に入ることが出来る。浮遊体は押し寄せてきた津波と共に浮上して流されるが、ロープなどで避難用タワーと繋がれているならば、遠くに流されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図6】浮遊体の取付け構造を示す更なる別の実施例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1、
図2、
図3は本発明に係る浮遊体を備えた津波避難用タワーを示す実施例で、
図1は正面図、
図2は平面図、
図3は側面図をそれぞれ表している。同図の1は基台、2は支柱、3は浮遊体、4は階段を表し、基台1から4本の支柱2,2・・・が垂直に起立している。基台1は地中に埋められると共に地盤に打ち込んだ杭5,5・・・にて支持され、大きな津波が押し寄せてきた場合にも支柱2,2・・・が倒れないように支えることが出来るように設置されている。
【0016】
そして、各支柱2,2・・・の上端部には上記浮遊体3が取付けられている。該浮遊体3は大きな容器であって、正方形の底部8の周囲から側部9が起立し、底部8の各コーナー部には軸受け10,10・・・を取着している。この軸受け10の軸穴には支柱上端部が嵌っているが、軸受け10の四方にガイドローラ11,11・・・が回転自在に軸支され、支柱上端部の外側面はこれらガイドローラ11,11・・・と接している。
【0017】
従って、浮遊体3は軸受け10,10・・・のガイドローラ11,11・・・を介して垂直に起立した4本の支柱2,2・・・に沿って昇降動することが出来る。ただし、所定の位置から降下しないように各支柱2,2・・・の上端部には支持部が固定されている。従って、大きな津波が押し寄せて来て、水位が上昇するならば、浮遊体3は支柱2,2・・・に沿って上昇し、さらに水位が上昇すると軸受け10,10・・・は支柱上端から外れて浮遊体3は水面に浮かぶことが出来る。
【0018】
支柱2,2・・・から外れた軸受け10,10・・・には大きな軸穴が存在し、この軸穴から水が侵入する場合もある。勿論、
図1、
図2、
図3に示す浮遊体3の側部9は柵で構成され、また水位が底部8を越えるならば水は侵入するが、沈むことはないように設計されている。ここで、軸受け10の軸穴からの水の侵入を防止する為には、軸受け10,10・・・の上端に蓋を備えることが出来る。浮遊体3が浮いた状態では水面が軸受け10,10・・・まで達しないように設計されているが、浮遊体3が傾いた場合には軸受け10,10・・・の軸穴から水が入り込む為に、これを防止する手段として蓋をして軸穴を塞ぐようにしている。蓋は該軸受け10,10・・・に蝶番を介して開閉出来るように取付けておく。
【0019】
図4は浮遊体3を支柱上端に取付けた別形態を示している。この実施例では支柱2,2・・・の上端に浮遊体3が載置された状態で取付けられている。すなわち、底部8のコーナー部には軸受け12,12・・・を設けていて、支柱2の上端は軸受け12の軸穴15に嵌ると共に、上端部13が該支柱上端に当接して浮遊体3は支えられて落下することはない。そして、側部9は前記実施例の浮遊体3のような隙間のある柵ではなく、水が入らない密閉構造としている。
【0020】
そして、軸受け12の上端部13からボルト14を支柱上端に設けたネジ穴に螺合して浮遊体3を固定している。すなわち、津波が発生しない場合には、浮遊体3が強風で浮上しないようにボルト締めされ、津波が押し寄せて水位が上ったところで、ボルト14,14・・・を取外すならば、該浮遊体3は水位の上昇と共に浮上することが出来る。そして、支柱上端から離れたところで、上端部13のネジ穴に再びボルト14を螺合してネジ穴を塞ぐことが出来る。
【0021】
図5は
図4に示した浮遊体3を示す具体例である。該浮遊体3は正方形の底部8を有す容器であって、底部8には下方へ突出した浮体部7を形成し、水面に浮いた場合の大きな浮力となる。そして、該浮体部7を底中央に設けることで、水面に浮かんだ浮遊体3が傾いた場合に転覆しないように、浮力の中心は重心より上方に位置している。
【0022】
そこで、避難して浮遊体3に入った人は上記浮体部7の空間に降りて、浮遊体全体の重心を下方に位置させることが出来る。勿論、浮体部7の底に重りを取着することで重心を下方に位置させることも可能であるが、多くの人を収容する為には大きな浮力を得ることが必要であり、避難して収容される人を重りの代わりとする方が効果的である。
【0023】
ところで、同図に示すように底部8のコーナー部には下方を開口して軸穴15,15・・・を形成した軸受け12,12・・・を設けている。この軸穴15,15・・・には上述したように4本の支柱2,2・・・の上端が嵌って浮遊体3を位置決め拘束することが出来る。軸穴15は下方を開口しているが、上端は塞がった上端部13と成っている為に、軸穴15に嵌った支柱上端はこの軸穴15の上端部13に当たって浮遊体3を支柱上端に支えることが出来る。そして、上端部13には支柱上端と連結する為のネジ穴16を有している。上記浮遊体3は多くの人を収容しても沈むことがない浮力が必要であり、その為に材質は軽くてしかも頑丈なものが用いられている。
【0024】
本発明では、この浮遊体3の材質は限定しないが、例えばアルミ合金、又は強度的に高い特殊なプラスチックを材質として使用することが出来、さらには発泡スチロールやゴム製とすることもある。特に、支柱上端が嵌って浮遊体全体を支える場合、軸受け12の上端部13には大きな荷重が作用することから、軸受け12はスチール製とする方がよい。浮遊体3は底部8の周囲に側部9を起立した大きな容器を構成しており、水面に浮いた場合、一般には水が侵入しないように成っている。ネジ穴16は浮遊体3が水面に浮上したところで、ボルト14を螺合して閉じることが出来る。ただし、仮に多少の水は侵入しても沈まない構造であればよい。
【0025】
ところで、浮遊体3の形態及びその構造は
図1、
図2、
図3、及び
図4、
図5に限るものではなく、支柱の上端に支持部材を取付け、この支持部材に浮遊体3を載置して取付けることが出来る。
図6は浮遊体3の取付け構造の一部を示す他の実施例である。支柱2の上端には支持部材17を取着し、この支持部材17に浮遊体3が載置される。この支持部材17は受け板18と側板19を有し、該受け板18に浮遊体3の底部8が載り、浮遊体3の側部9は側板19に接して位置決めされる。
【0026】
ここで、側板19の横断面はL形として浮遊体3のコーナー部を位置決めすることが出来る。そして、
図4に示した実施例の場合と同じく、支持部材17に載置された浮遊体3が強風によって浮上しないように、ボルト締めすることは必要である。ところで、津波が押し寄せて水位が上昇するならば、浮遊体3は支持部材17から離れて浮上することが出来る。
【0027】
ところで、
図1に示しているように、本発明の避難用タワーは支柱2,2からは支持アーム6,6・・・を水平に延ばし、この支持アーム6,6・・・に階段4を取付けている。階段4は上記浮遊体3へ上る為に3段構造と成っている。従って、浮遊体3の高さは一般の住宅の2階より高く、屋根に相当する高さと成っている。その為に、2011年3月11日に発生した津波であれば、浮遊体3を超える大きさであるが、本発明では該浮遊体3は浮上して支柱2,2・・・から分離することが出来る。
【0028】
すなわち、支柱2,2・・・の上端部に支持されている浮遊体3は大きな津波によって水位が上昇するならば、浮力が発生して浮き上がり、該支柱2,2・・・の上端から外れる。このような避難タワーを所々に設置するならば、遠く離れた高台へ逃げることなく、避難用タワー上端に取付けてある浮遊体3に入ることで、予想しない大きな津波であっても命を失うことはない。
【符号の説明】
【0029】
1 基台
2 支柱
3 浮遊体
4 階段
5 杭
6 支持アーム
7 浮体部
8 底部
9 側部
10 軸受け
11 ガイドローラ
12 軸受け
13 上端部
14 ボルト
15 軸穴
16 ネジ穴
17 支持部材
18 受け板
19 側板