特許第6166052号(P6166052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166052
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20170710BHJP
   B23K 11/25 20060101ALI20170710BHJP
   H01M 2/26 20060101ALN20170710BHJP
   B23K 11/00 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   B23K11/24 335
   B23K11/25 510
   B23K11/25 511
   B23K11/25 512
   B23K11/25 513
   B23K11/24 320
   !H01M2/26 A
   !B23K11/00 560
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-19120(P2013-19120)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-147964(P2014-147964A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 厚
(72)【発明者】
【氏名】重松 孝英
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−171685(JP,A)
【文献】 特開昭52−139644(JP,A)
【文献】 特開昭54−006487(JP,A)
【文献】 特開平09−323173(JP,A)
【文献】 特開昭58−047579(JP,A)
【文献】 特開平11−005175(JP,A)
【文献】 特開2006−095572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00−11/36
H01M 2/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物と当接する第1の電極と、
前記被接合物を間に挟んで前記第1の電極と対向する第2の電極と、
前記第1、第2の電極のうち少なくとも一方を加圧し、前記被接合物を前記第1、第2の電極によって挟持させる加圧機構と、
前記第1、第2の電極間に電流を供給する溶接電源と、
溶接中の前記被接合物に係る1乃至複数の物理量を検出する検出手段と、
外部からの指示に応じて前記溶接電源から前記第1、第2の電極へ電流を供給させて溶接を開始させ、溶接中に検出される1つの前記物理量が所定の終了条件値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる制御手段とを備え、
前記物理量は、前記第1、第2の電極を流れる溶接電流、前記第1、第2の電極間に印加される溶接電圧、前記第1、第2の電極に供給される溶接電力、前記第1、第2の電極間の抵抗、前記被接合物に印加される荷重、前記被接合物の厚さ方向の変位量であり、
前記制御手段は、溶接中に検出される前記物理量である電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる第1の制御方式の溶接をn回行った後に(nは1以上の整数)、さらに前記第1の制御方式と異なる第2の制御方式の溶接をm回行う(mは1以上の整数)ものであり、
前記第2の制御方式の溶接は、溶接中に検出される電極間抵抗以外の1つの物理量が所定の終了条件値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる溶接であることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
被接合物と当接する第1の電極と、
前記被接合物を間に挟んで前記第1の電極と対向する第2の電極と、
前記第1、第2の電極のうち少なくとも一方を加圧し、前記被接合物を前記第1、第2の電極によって挟持させる加圧機構と、
前記第1、第2の電極間に電流を供給する溶接電源と、
溶接中の前記被接合物に係る1乃至複数の物理量を検出する検出手段と、
外部からの指示に応じて前記溶接電源から前記第1、第2の電極へ電流を供給させて溶接を開始させ、溶接中に検出される1つの前記物理量が所定の終了条件値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる制御手段とを備え、
前記物理量は、前記第1、第2の電極を流れる溶接電流、前記第1、第2の電極間に印加される溶接電圧、前記第1、第2の電極に供給される溶接電力、前記第1、第2の電極間の抵抗、前記被接合物に印加される荷重、前記被接合物の厚さ方向の変位量であり、
前記制御手段は、溶接中に検出される前記物理量である電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる第1の制御方式の溶接をn回行った後に(nは1以上の整数)、さらに前記第1の制御方式と異なる第2の制御方式の溶接をm回行う(mは1以上の整数)ものであり、
前記第2の制御方式の溶接は、前記第1、第2の電極に所定の溶接電流を一定時間供給する定電流制御方式の溶接、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電圧を一定時間供給する定電圧制御方式の溶接、前記第1、第2の電極に所定の溶接電力を一定時間供給する定電力制御方式の溶接のいずれかであることを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の溶接装置において、
さらに、1回当たりの溶接時間が所定の経過時間を超えた時点で前記第1の制御方式の溶接中に検出される電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達しない場合に、前記第1、第2の電極への通電を停止させて、警報を発する警報通知手段を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の溶接装置において、
前記制御手段は、前記終了条件値と比較する前記物理量の値として、物理量の微分値または積分値を用いることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に係り、特に複数枚の板の積層体の接合に適した溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の平板状の正極電極および負極電極をセパレータを介して積層した積層型リチウムイオン電池が使用されるようになってきている。図7(A)は積層型リチウムイオン電池の積層後の状態を示す斜視図、図7(B)は電極のタブとリード端子とを接続した状態を示す斜視図である。
【0003】
積層型リチウムイオン電池においては、図7(A)に示すようにアルミニウム(Al)等の金属箔からなる正極電極100と銅(Cu)等の金属箔からなる負極電極101とがセパレータ(不図示)を介して交互に積層されている。各正極電極100には、リード接合用のタブ102が設けられており、これらのタブ102は、図7(B)に示すように積層され、接合部106において外部接続用のリード端子104と接合される。同様に、各負極電極101には、リード接合用のタブ103が設けられ、これらのタブ103は、積層され、接合部107において外部接続用のリード端子105と接合される。
【0004】
通常、タブ102とリード端子104との接合およびタブ103とリード端子105との接合には、超音波溶接、レーザ溶接、抵抗溶接が用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
超音波溶接は、被接合物に垂直方向の圧力を加えながら、接合面に平行な超音波振動を印加して接合する方法である。
レーザ溶接は、被接合物にレーザ光を照射して溶融させ接合する方法である。
【0005】
抵抗溶接は、図8に示すように、複数枚のタブ102(またはタブ103)とリード端子104(またはリード端子105)とを上下から一対の電極108a,108bで挟み込み押圧しながら、電極108a,108b間に電流を流して、発生するジュール熱でタブ102(またはタブ103)とリード端子104(またはリード端子105)とを溶融させて接合を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−66170号公報
【特許文献2】特開2009−32670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波溶接には、溶接時の超音波振動によって電池から微小な金属粉が脱落するという問題点があった。また、電極の枚数増加によりタブの枚数が増加すると、必要な溶接エネルギーが増加するので、超音波の出力を上げる必要があり、タブが破れたり切れたりする可能性があった。
レーザ溶接では、AlやCuからなる被接合物の反射率が高いため、高エネルギーのレーザ光が必要になるという問題点があった。また、スパッタと呼ばれる金属粉が発生するという問題点があった。
【0008】
一方、抵抗溶接では、超音波溶接およびレーザ溶接で問題となる金属粉の発生やタブの破損を抑制することができる。この抵抗溶接では、通電電流や電極間電圧を溶接電源にフィードバックし、設定した電流や電力、電圧が被接合物に一定時間印加されるように電極への通電量を制御している。しかしながら、このような一定時間の通電制御方式では、複数枚の板の積層体を溶接する場合に溶接状態が安定せず、良質なナゲット(接合部分)を得ることができないという問題点があった。
【0009】
AlやCu等からなる複数枚の板の積層体を溶接する場合、板の表面の酸化膜が絶縁体として働くため、溶接時には電極間に高電圧をかけてこの酸化膜を破壊する必要がある。しかしながら、酸化膜の破壊現象にばらつきがあるので、電極への通電時間を一定にする従来の制御方式では、このばらつきに対応することができず、適切な溶接を実現することができない。
なお、以上の問題点は、積層型リチウムイオン電池に限らず、複数枚のAl箔やCu箔を接合する場合には、同様に発生する。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、複数枚の板の積層体を溶接する場合でも、適切な溶接を実現することができる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の溶接装置は、被接合物と当接する第1の電極と、前記被接合物を間に挟んで前記第1の電極と対向する第2の電極と、前記第1、第2の電極のうち少なくとも一方を加圧し、前記被接合物を前記第1、第2の電極によって挟持させる加圧機構と、前記第1、第2の電極間に電流を供給する溶接電源と、溶接中の前記被接合物に係る1乃至複数の物理量を検出する検出手段と、外部からの指示に応じて前記溶接電源から前記第1、第2の電極へ電流を供給させて溶接を開始させ、溶接中に検出される1つの前記物理量が所定の終了条件値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる制御手段とを備え、前記物理量は、前記第1、第2の電極を流れる溶接電流、前記第1、第2の電極間に印加される溶接電圧、前記第1、第2の電極に供給される溶接電力、前記第1、第2の電極間の抵抗、前記被接合物に印加される荷重、前記被接合物の厚さ方向の変位量であり、前記制御手段は、溶接中に検出される前記物理量である電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる第1の制御方式の溶接をn回行った後に(nは1以上の整数)、さらに前記第1の制御方式と異なる第2の制御方式の溶接をm回行う(mは1以上の整数)ものであり、前記第2の制御方式の溶接は、溶接中に検出される電極間抵抗以外の1つの物理量が所定の終了条件値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる溶接であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の溶接装置は、被接合物と当接する第1の電極と、前記被接合物を間に挟んで前記第1の電極と対向する第2の電極と、前記第1、第2の電極のうち少なくとも一方を加圧し、前記被接合物を前記第1、第2の電極によって挟持させる加圧機構と、前記第1、第2の電極間に電流を供給する溶接電源と、溶接中の前記被接合物に係る1乃至複数の物理量を検出する検出手段と、外部からの指示に応じて前記溶接電源から前記第1、第2の電極へ電流を供給させて溶接を開始させ、溶接中に検出される1つの前記物理量が所定の終了条件値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる制御手段とを備え、前記物理量は、前記第1、第2の電極を流れる溶接電流、前記第1、第2の電極間に印加される溶接電圧、前記第1、第2の電極に供給される溶接電力、前記第1、第2の電極間の抵抗、前記被接合物に印加される荷重、前記被接合物の厚さ方向の変位量であり、前記制御手段は、溶接中に検出される前記物理量である電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達した時点で前記第1、第2の電極への通電を停止させる第1の制御方式の溶接をn回行った後に(nは1以上の整数)、さらに前記第1の制御方式と異なる第2の制御方式の溶接をm回行う(mは1以上の整数)ものであり、前記第2の制御方式の溶接は、前記第1、第2の電極に所定の溶接電流を一定時間供給する定電流制御方式の溶接、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電圧を一定時間供給する定電圧制御方式の溶接、前記第1、第2の電極に所定の溶接電力を一定時間供給する定電力制御方式の溶接のいずれかである。
また、本発明の溶接装置の1構成例は、さらに、1回当たりの溶接時間が所定の経過時間を超えた時点で前記第1の制御方式の溶接中に検出される電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達しない場合に、前記第1、第2の電極への通電を停止させて、警報を発する警報通知手段を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の溶接装置の1構成例において、前記制御手段は、前記終了条件値と比較する前記物理量の値として、物理量の微分値または積分値を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被接合物の溶接を行う際に、溶接中に検出される物理量をリアルタイムで監視して、物理量が所定の終了条件値に達した時点で第1、第2の電極への通電を終了させるので、通電時間を一定にする従来の制御方式と比較して、被接合物表面の酸化膜のばらつきの影響を軽減することができ、複数枚の板の積層体を溶接する場合でも、適切な溶接を実現することができる。また、本発明では、従来の抵抗溶接と同様に、金属粉の発生や被接合物の破損を回避することができる。
【0014】
また、本発明では、溶接中に検出される電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達した時点で第1、第2の電極への通電を停止させる第1の制御方式の溶接をn回行うことで、電極の汚れや被接合物表面の酸化膜の影響を軽減することができ、適切な溶接を実現することができる。
【0015】
また、本発明では、1回当たりの溶接時間が所定の経過時間を超えた時点で第1の制御方式の溶接中に検出される電極間抵抗が終了条件値として予め設定されている電極間抵抗値に達しない場合に警報を発することにより、被接合物の不具合をユーザに知らせることができる。
【0016】
また、本発明では、終了条件値と比較する物理量の値として、物理量の微分値または積分値を用いることにより、物理量に重畳しているノイズの影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の参考例に係る溶接装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の参考例に係る溶接ヘッドの拡大断面図である。
図3】溶接中の溶接電流、溶接電圧、溶接電力の変化の1例を示す図である。
図4】溶接中の電極間抵抗の変化の1例を示す図である。
図5】溶接中の荷重、変位量の変化の1例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る溶接装置の動作を示すフローチャートである。
図7】積層型リチウムイオン電池の積層後の状態および電極のタブとリード端子とを接続した状態を示す斜視図である。
図8】抵抗溶接における接合部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
参考例
以下、本発明の参考例について図面を参照して説明する。図1は本発明の参考例に係る溶接装置の構成を示すブロック図である。本参考例の溶接装置は、スタートスイッチ2と、整流回路3と、コンデンサ4と、インバータ5と、溶接トランス6と、ダイオード7と、溶接ヘッド8と、ホール素子9と、電流検出部10と、電圧検出部11と、電力検出部12と、抵抗検出部13と、荷重検出部14と、変位検出部15と、制御部16と、操作部17と、記憶部18と、表示部19とを有する。
【0019】
スタートスイッチ2と整流回路3とコンデンサ4とインバータ5と溶接トランス6とダイオード7とは、溶接ヘッド8に電流を供給する溶接電源を構成している。また、ホール素子9と電流検出部10と電圧検出部11と電力検出部12と抵抗検出部13と荷重検出部14と変位検出部15とは、溶接中の被接合物に係る物理量を検出する検出手段を構成している。また、制御部16と表示部19とは、警報通知手段を構成している。
【0020】
図2は溶接ヘッド8の拡大断面図である。溶接ヘッド8は電極80a,80bを備えている。電極80a,80bは、Cu合金からなる電極本体81a,81bと、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)のうち少なくとも1つの元素を含む金属または合金からなる先端部82a,82bとから構成される。さらに、溶接ヘッド8は、先端部82a,82bに取り付けられた熱電対83a,83bと、電極80a,80bを上下させて被接合物85を挟み込み加圧する加圧機構84a,84bとを備えている。加圧機構84a,84bには、図示しないロードセルが設けられており、被接合物85に加わる荷重の大きさを電気信号に変換できるようになっている。また、加圧機構84a,84bには、図示しない変位センサが設けられており、被接合物85の厚さ方向の変位量を電気信号に変換できるようになっている。なお、熱電対83a,83bからの電圧に基づいて先端部82a,82bの温度を検出することができるが、本参考例においては熱電対83a,83bは必須の構成要件ではない。
【0021】
以下、溶接装置の動作を説明する。本参考例では、複数枚のタブ102とリード端子104とを積層した積層体を被接合物85として説明する。タブ102の1枚あたりの厚さは例えば10μm〜150μm程度である。
最初に、溶接ヘッド8の加圧機構84a,84bは、図2に示すように電極80a,80bによって被接合物85を上下方向(積層体の積層方向に沿った方向)から挟み込み加圧する。なお、図2の例では、加圧機構84a,84bがそれぞれ電極80a,80bに圧力を加えるようになっているが、電極80a,80bのうちどちらか一方のみに圧力を加えるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0022】
例えばユーザが操作部17を操作して溶接開始を指示すると、操作部17からスタート信号が出力され、スタートスイッチ2がオンになる。スタートスイッチ2がオンになると、整流回路3は、交流200Vの商用3相交流電源1の交流出力を全波整流し、整流回路3の出力端間に並列接続されたコンデンサ4を充電する。この整流回路3は、6個のダイオード30を用いた3相全波混合ブリッジで構成される。
【0023】
インバータ5は、コンデンサ4の充電電圧を交流電圧に変換して、溶接トランス6の1次側に供給する。インバータ5は、4個のNPNトランジスタ50からなるブリッジで構成される。溶接トランス6の2次側出力は、整流器(ダイオード)7で全波整流されて電極80a,80bに導かれる。これにより、電極80a,80b間に大電流を流し、発生するジュール熱で被接合物85の接合面(金属箔同士の接合面)を溶融させて接合する。
【0024】
電流検出部10は、溶接トランス6の2次側に設けられたホール素子9の出力から、溶接トランス6の2次側を流れる電流I(つまり、電極80a,80bを流れる溶接電流)を検出する。電圧検出部11は、電極80a,80b間に印加される溶接電圧Vを検出する。電力検出部12は、電流検出部10が検出した溶接電流Iの値と電圧検出部11が検出した溶接電圧Vの値とを積算することにより、電極80a,80bに供給される溶接電力Wを検出する。抵抗検出部13は、電圧検出部11が検出した溶接電圧Vの値と電流検出部10が検出した溶接電流Iの値とから電極80a,80b間の抵抗Rを算出する。荷重検出部14は、加圧機構84a,84bに設けられたロードセルの出力に基づいて、被接合物85に印加される荷重Gを検出する。変位検出部15は、加圧機構84a,84bに設けられた変位センサの出力に基づいて、被接合物85の厚さ方向の変位量Dを検出する。
【0025】
図3は溶接中の溶接電流I、溶接電圧V、溶接電力Wの変化の1例を示す図、図4は溶接中の電極間抵抗Rの変化の1例を示す図、図5は溶接中の荷重G、変位量Dの変化の1例を示す図である。図3図5の横軸は時間である。なお、図3の例では、溶接電流Iおよび溶接電圧Vが正のパルスについてのみ記載しているが、溶接トランス6の1次側に交流電圧を印加しているので、溶接電流Iおよび溶接電圧Vが負のパルスの場合もある。
【0026】
制御部16は、インバータ5を動作させて交流電圧を発生させることにより、電極80a,80bに図3に示したようなパルス電流を印加し、溶接中に検出される物理量をリアルタイムで監視し、物理量が所定の終了条件値に達した時点でインバータ5の動作を停止させて、電極80a,80bへの通電を終了させ、この通電終了時から所定の冷却時間(例えば数msec)が経過した後に、次のパルス電流の印加を行う。
【0027】
記憶部18には、溶接の通電パルス毎の終了条件値として、溶接中に検出される物理量の望ましい値が予め設定されている。これらの物理量としては、溶接電流値I0、溶接電圧値V0、電極間抵抗値R0、荷重値G0、変位量D0がある。溶接装置のユーザは、予め対象となる被接合物85を用いて終了条件値設定のための溶接試験を行い、適切な溶接が得られたときの物理量の値を記憶部18に設定しておけばよい。
【0028】
制御部16は、溶接電流Iのフィードバックに基づく電流制御を行う場合、図3に示したような通電パルス毎に電流検出部10で検出される溶接電流Iをリアルタイムで監視して、溶接電流Iの絶対値が記憶部18に予め設定された溶接電流値I0に達した時点で電極80a,80bへの通電を終了させる。また、制御部16は、溶接電圧Vのフィードバックに基づく電圧制御を行う場合、通電パルス毎に電圧検出部11で検出される溶接電圧Vを監視して、溶接電圧Vの絶対値が記憶部18に予め設定された溶接電圧値V0に達した時点で通電を終了させる。制御部16は、溶接電力Wのフィードバックに基づく電力制御を行う場合、通電パルス毎に電力検出部12で検出される溶接電力Wを監視して、溶接電力Wが記憶部18に予め設定された溶接電力値W0に達した時点で通電を終了させる。
【0029】
また、制御部16は、電極間抵抗Rのフィードバックに基づく抵抗制御を行う場合、通電パルス毎に抵抗検出部13で検出される電極間抵抗Rを監視して、電極間抵抗Rが記憶部18に予め設定された電極間抵抗値R0に達した時点で通電を終了させる。制御部16は、荷重Gのフィードバックに基づく荷重制御を行う場合、通電パルス毎に荷重検出部14で検出される荷重Gを監視して、荷重Gが記憶部18に予め設定された荷重値G0に達した時点で通電を終了させる。制御部16は、変位量Dのフィードバックに基づく変位制御を行う場合、通電パルス毎に変位検出部15で検出される変位量Dを監視して、変位量Dが記憶部18に予め設定された変位量D0に達した時点で通電を終了させる。
【0030】
制御部16は、以上のような物理量の制御(電流制御、電圧制御、電力制御、抵抗制御、荷重制御、変位制御)のうちどの制御方式を採用するかを、操作部17を操作したユーザの選択に従って決定する。
また、制御部16は、溶接中に検出した物理量の波形を表示部19に表示させる。
【0031】
以上のように、本参考例では、被接合物85の抵抗溶接を行う際に、溶接中に検出される物理量をリアルタイムで監視して、物理量が所定の終了条件値に達した時点で電極80a,80bへの通電を終了させるので、通電時間を一定にする従来の制御方式と比較して、被接合物表面の酸化膜のばらつきの影響を軽減することができ、適切な溶接を実現することができる。また、本参考例では、従来の抵抗溶接と同様に、金属粉の発生や被接合物85の破損を回避することができる。
【0032】
なお、本参考例では、溶接中に検出される物理量(溶接電流I、溶接電圧V、溶接電力W、電極間抵抗R、荷重G、変位量D)の瞬時値を所定の終了条件値(溶接電流値I0、溶接電圧値V0、溶接電力値W0、電極間抵抗値R0、荷重値G0、変位量D0)と比較しているが、これに限るものではなく、物理量の微分値または積分値を終了条件値と比較して、物理量の微分値または積分値が終了条件値に達した時点で電極80a,80bへの通電を終了させるようにしてもよい。溶接中に検出される物理量には、ノイズが重畳しているので、物理量の微分値または積分値を用いることで、ノイズの影響を回避することができる。
【0033】
実施の形態
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態は、より具体的な制御の例を説明するものである。本実施の形態においても、溶接装置の構成は参考例と同様であるので、図1図5の符号を用いて説明する。図6は本実施の形態の溶接装置の動作を示すフローチャートである。なお、以下では、電極80a,80bに図3に示したような1個のパルス電流を印加することを1回と数える。
【0034】
まず、制御部16は、ユーザから溶接開始を指示されると、記憶部18に予め設定された電極間抵抗値R0を終了条件値とする抵抗制御方式で溶接を行う(図6ステップS1)。抵抗制御方式の溶接方法は、参考例で説明したとおりである。このとき、制御部16は、抵抗制御方式の溶接をn回行う(nは1以上の整数)。抵抗制御方式の溶接を複数回行う場合、1回毎に終了条件値が変わるように予め設定しておく。例えば抵抗制御方式の溶接を2回行う場合、1回目の終了条件値である電極間抵抗値R0と2回目の終了条件値である電極間抵抗値R1とは、R0>R1の関係にある。1回毎に終了条件値が低くなる理由は、溶接を重ねる度に電極間抵抗値Rが低くなるからである。このように、抵抗制御方式の溶接を複数回行う場合、1回毎に終了条件値を設定しておく必要がある。また、抵抗制御方式の溶接を複数回行う場合、1回の溶接終了時(通電終了時)から所定の冷却時間が経過した後に、次の溶接を行うようにする。
【0035】
次に、制御部16は、抵抗制御方式のn回の溶接が終了し(図6ステップS2においてYES)、この溶接終了時(通電終了時)から所定の冷却時間が経過した後に、他の制御方式で溶接を行う(図6ステップS3)。抵抗制御方式以外の制御方式としては、参考例で説明したとおり、溶接電流値I0を終了条件値とする電流制御方式、溶接電圧値V0を終了条件値とする電圧制御方式、溶接電力値W0を終了条件値とする電力制御方式、荷重値G0を終了条件値とする荷重制御方式、変位量D0を終了条件値とする変位制御方式がある。制御部16は、これらの制御方式の溶接をm回行う(mは1以上の整数)。
【0036】
これらの制御方式の溶接を複数回行う場合、1回毎に終了条件値が変わるようにしてもよいし、複数回の溶接の終了条件値として共通の値を用いてもよい。また、1回毎あるいは複数回毎に制御方式を変えてもよい。また、抵抗制御方式の場合と同様に、溶接を複数回行う場合、1回の溶接終了時(通電終了時)から所定の冷却時間が経過した後に、次の溶接を行うようにする。m回の溶接が終了した時点で(図6ステップS4においてYES)、溶接装置の処理が終了する。
【0037】
以上のように、本実施の形態では、抵抗制御方式の溶接をn回行った後に、他の制御方式の溶接をm回行う。初回の溶接では、電極80a,80bの汚れや被接合物表面の酸化膜のために電極80a,80b間の通電路が不安定である。そこで、塵の発生を抑えるために、抵抗制御方式の溶接をn回行って、電極80a,80bの汚れや被接合物表面の酸化膜を除去し、電極間抵抗値Rが低下して通電路が安定したところで、他の制御方式の溶接をm回行う。これにより、本実施の形態では、電極80a,80bの汚れや被接合物表面の酸化膜の影響を軽減することができ、適切な溶接を実現することができる。
【0038】
なお、抵抗制御方式の溶接を実施したときに、抵抗検出部13で検出される電極間抵抗Rが記憶部18に予め設定された終了条件値に達しない場合には、被接合物85の不具合が予想される。そこで、制御部16は、1回当たりの溶接時間が所定の経過時間を超えた時点で電極間抵抗Rが終了条件値に達しない場合、電極80a,80bへの通電を中止し、例えば表示部19に警報メッセージを表示させることで、警報を発するようにしてもよい。
【0039】
また、図6のステップS3で行う溶接の制御方式として、従来の制御方式を採用してもよい。ここでの制御方式としては、所定の溶接電流Iを一定時間供給する定電流制御方式、所定の溶接電圧Vを一定時間供給する定電圧制御方式、所定の溶接電力Wを一定時間供給する定電力制御方式などがある。
【0040】
また、参考例および実施の形態では、Alからなる複数枚の板の積層体を被接合物85としているが、これに限るものではなく、Al合金からなる複数枚の板の積層体を被接合物としてもよいし、Cu若しくはCu合金からなる複数枚の板の積層体を被接合物としてもよいし、Al若しくはAl合金からなる板とCu若しくはCu合金からなる板とを複数枚積層した積層体を被接合物としてもよい。
【0041】
参考例および実施の形態の制御部16、操作部17、記憶部18および表示部19の機能は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って参考例および実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、抵抗溶接装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…3相交流電源、2…スタートスイッチ、3…整流回路、4…コンデンサ、5…インバータ、6…溶接トランス、7…ダイオード、8…溶接ヘッド、9…ホール素子、10…電流検出部、11…電圧検出部、12…電力検出部、13…抵抗検出部、14…荷重検出部、15…変位検出部、16…制御部、17…操作部、18…記憶部、19…表示部、80a,80b…電極、81a,81b…電極本体、82a,82b…先端部、83a,83b…熱電対、84a,84b…加圧機構、85…被接合物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8