(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166064
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】すべり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/10 20060101AFI20170710BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20170710BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
F16C33/10 Z
F16C17/02 Z
F16C9/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-41287(P2013-41287)
(22)【出願日】2013年3月1日
(65)【公開番号】特開2014-169735(P2014-169735A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年9月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】芦原 克宏
(72)【発明者】
【氏名】梶木 悠一朗
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕紀
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−084778(JP,A)
【文献】
特開2010−196871(JP,A)
【文献】
特開昭52−113445(JP,A)
【文献】
特開平11−201166(JP,A)
【文献】
特開昭54−111031(JP,A)
【文献】
特開2009−257371(JP,A)
【文献】
特開平03−048017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02,17/02,33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受であって、
前記下側の半割部材の軸方向両端部にのみ、円周方向に細溝を設け、
前記細溝は、軸の回転方向下流側合わせ面から上流側に向かって設けられ、
前記細溝の回転方向上流端側角部は、直角に形成したもしくは曲率半径が細溝深さ以下である丸め加工形状に形成した、
ことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記細溝は、プレス成型によって成型された、
ことを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり軸受の技術に関し、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのクランクシャフトを軸支するための軸受であって、円筒形状を二分割した二つの部材を合わせる半割れ構造のすべり軸受が公知となっている。また、前記軸受の摺動面積を減らし、フリクション低減効果を得るために、前記軸受の幅を狭くする構造がある。しかし、軸受の幅を狭くすると、流出油量が増加していた。そこで、前記軸受の軸方向両端部に、全周に逃げ部分(細溝)を形成した軸受が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−532036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の全周に細溝を形成した軸受では、摺動面積減少により、負荷容量が低下し、良好な潤滑に必要な油膜厚さを確保することができず、且つ、総和の流出油量が多かった。
【0005】
そこで、本発明は係る課題に鑑み、フリクション低減効果を得ることができ、総和の流出油量を抑えることができる軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受であって、前記下側の半割部材の軸方向
両端部にのみ、円周方向に細溝を設け、前記細溝は、軸の回転方向下流側合わせ面から上流側に向かって設けられ、前記細溝の回転方向上流端側角部は、直角に形成したもしくは曲率半径が細溝深さ以下である丸め加工形状に形成したものである。
【0008】
請求項2においては、前記細溝は、プレス成型によって成型されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
すなわち、油膜圧力の発生を妨げない程度の細溝を設けることで、摺動面積を減らしつつ、フリクション低減効果を得ることができ、かつ、総和の流出油量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るすべり軸受を示す正面図。
【
図2】(a)本発明の実施形態に係るすべり軸受を構成する半割部材を示す平面図。(b)同じくA−A線断面図。(c)同じくB−B線断面図。
【
図3】(a)細溝を設けたすべり軸受の油膜圧力の勾配を示す三次元グラフ図。(b)細溝を設けないすべり軸受の油膜圧力の勾配を示す三次元グラフ図(計算値)。
【
図4】(a)本発明の実施形態に係るすべり軸受を構成する下側の半割部材を示すA−A線断面図。(b)同じく回転方向上流側角部を直角に形成した場合の(a)の丸囲み部分拡大図。(c)同じく回転方向上流側角部を丸め加工して形成した場合の(a)の丸囲み部分拡大図。
【
図5】(a)本発明の実施形態に係る細溝の底面表面を示す断面拡大図。(b)比較例の切削加工によって成型された細溝の底面表面を示す断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。なお、
図1はすべり軸受1の正面図であり、画面の上下を上下方向、画面の手前方向及び奥方向を軸方向(前後方向)とする。
【0013】
まず、第一の実施形態に係るすべり軸受1を構成する半割部材2について
図1及び
図2を用いて説明する。
すべり軸受1は円筒状の部材であり、
図1に示すように、エンジンのクランクシャフト11のすべり軸受構造に適用される。すべり軸受1は、二つの半割部材2・2で構成されている。二つの半割部材2・2は、円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されている。本実施形態においては、半割部材2・2は上下に配置されており、左右に合わせ面が配置されている。クランクシャフト11をすべり軸受1で軸支する場合、所定の隙間が形成され、この隙間に対し図示せぬ油路から潤滑油が供給される。
【0014】
図2(a)においては、上側および下側の半割部材2を示している。なお、本実施形態においては、クランクシャフト11の回転方向を
図1の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度ωは、
図2(b)における右端の位置を0度とし、
図2(b)において、反時計回り方向を正とする。すなわち、
図2(b)において、左端の位置の軸受角度ωが180度となり、下端の位置の軸受角度ωが270度となるように定義する。
【0015】
上側の半割部材2の内周には円周方向に溝が設けられており、中心に円形の孔が設けられている。また、上側の半割部材2の左右に合わせ面が配置されている。
下側の半割部材2の内周の摺動面において、その軸方向の端部に細溝3が形成されている。
細溝3は下側の半割部材2に設けられる。本実施形態においては、細溝3は軸方向に並列して二本設けられている。詳細には、細溝3は、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面(軸受角度ωが180度)から軸受角度ωが正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に設けられる。すなわち、下側の半割部材2においては、
図2(b)の右側の合わせ面が回転方向上流側合わせ面、
図2(b)の左側の合わせ面が回転方向下流側合わせ面となる。
細溝3は、
図2(c)に示すように、軸受厚さDよりも浅い深さdとなるように形成されている。また、細溝の幅はwとなるように形成されている。
【0016】
半割部材2の軸方向端部に細溝3を設けたことにより、
図3(a)に示すように、半割部材2の軸方向端部における圧力勾配を変化させることができる。すなわち、
図3(b)に示す細溝3がない場合と比べて、細溝3において軸受端部から中央部へ向かって下降する圧力勾配の増加に伴って、油の吸い戻し量が増加し、総和の流出油量が抑制される。
【0017】
また、
図4(b)に示すように、細溝3の回転方向上流側角部3aを直角に形成している。ここで、回転方向上流側角部3aとは、回転方向下流側合わせ面と反対側の端部に形成され、細溝3の底面と側面とで形成される角部である。言い換えれば、細溝3の上流側端部において、細溝3の底面と側面とが直交するように形成されているものである。
【0018】
また、
図4(c)に示すように、細溝3の回転方向上流側角部3aを曲率半径Rが細溝3の深さd以下である丸め加工して形成することもできる。言い換えれば、細溝3の上流側端部において、細溝3の底面と側面との接触部分を丸め加工して、細溝3の底面と側面とが滑らかに連続するように形成されているものである。
ここで、丸め加工をする際の曲率半径Rは細溝3の深さd以下となるように形成している。このように構成することにより、曲率半径Rが大きい場合と比較して、細溝3の底面から側面への傾きが急になる。
【0019】
また、前記細溝3は、プレス成型によって成型されている。プレス成型とは、油圧プレス、機械プレス、クランクプレス、液圧プレスなど各種プレス機械によって軸受表面を塑性変形させることで細溝3を成型する方法である。
【0020】
図5(a)に示すように、細溝3がプレス成型によって成型されることで、細溝3の底面に形成される加工痕を平らにすることができる。例えば、
図5(b)に示すように、細溝3が切削加工によって形成された場合には、細溝3の底面に形成される加工痕がギザギザになるが、これと比較して、細溝3がプレス成型によって成型されることで、細溝3の底面に形成される加工痕を平らにすることができる。
【0021】
また、
図5(a)に示すように、細溝3がプレス成型によって成型されることで、半割部材の表面と軸受の端部側面との間に形成される頂角部3bが面取りされる。比較例として、
図5(b)に示すように、細溝3が切削加工によって形成された場合には、頂角部3bは面取りされない。
【0022】
以上のように、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材2・2を上下に配置したすべり軸受1であって、すべり軸受1の軸方向端部に、円周方向に細溝3を設け、前記細溝3の回転方向上流側角部は、直角に形成したもしくは曲率半径Rが細溝3の深さd以下である丸め加工をして形成したものである。
このように構成することにより、油膜圧力の発生を妨げない程度の細溝を設けることで、摺動面積を減らしつつ、フリクション低減効果を得ることができ、かつ、総和の流出油量を抑えることができる。また、細溝3の回転方向上流側角部において、細溝3の底面と側面とが直交するもしくは、細溝3の底面と側面とが滑らかに連続し、細溝3の底面から側面への傾きが急になるように形成することができるため、負の圧力勾配と吸い戻し量が増加する。
【0023】
また、細溝3は、プレス成型によって成型されたものである。
このように構成することにより、細溝3の回転方向上流側角部を容易に直角に形成しもしくは曲率半径Rが細溝深さd以下である丸め加工をして形成することができる。
また、切削加工に比べて加工時間を短縮することができ、バリの発生も防ぐことができる。
【符号の説明】
【0024】
1 すべり軸受
2 半割部材
3 細溝
3a 回転方向上流側角部
11 クランクシャフト