特許第6166107号(P6166107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6166107無人移動体の遠隔操縦システム及び無人移動体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166107
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】無人移動体の遠隔操縦システム及び無人移動体
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/00 20060101AFI20170710BHJP
   G05D 1/02 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   G05D1/00 B
   G05D1/02 H
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-126551(P2013-126551)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-1869(P2015-1869A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】矢代 裕之
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−150512(JP,A)
【文献】 特開2006−331404(JP,A)
【文献】 特開2000−184469(JP,A)
【文献】 特開2008−90576(JP,A)
【文献】 特開2010−152835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D1/00−1/12,
H04Q9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を取得する遠隔操縦用画像取得手段を搭載した自律走行可能な無人移動体に対して、前記遠隔操縦用画像取得手段からの画像信号に基づくコマンド信号を遠隔操縦装置から送って、前記無人移動体を遠隔操縦する遠隔操縦システムであって、
前記自律走行可能な無人移動体が有する演算部では、前記遠隔操縦装置から受信したコマンド信号の一部としての移動指令速度Vcの取得、及び、該無人移動体の環境に基づく自律制限速度Vaの生成が成されると共に、通信環境の変化を考慮した速度制限値Veの生成が成され、
前記速度制限値Veは、前記無人移動体の演算部及び前記遠隔操縦装置が有する操縦装置側演算部のうちのいずれかの演算部で算出される画像信号受信頻度指数をRi、前記無人移動体におけるコマンド信号受信頻度指数をRc、前記無人移動体の移動に遠隔操縦者が関与する度合いである人介在頻度指数をM、前記無人移動体が出し得る最高速度をVmaxとした場合に、Ve=(α・Riβ・Rcγ/M)Vmaxにより求められ(但しα,β,γは正の定数)、
前記無人移動体の演算部において、前記移動指令速度Vc、前記自律制限速度Va及び通信環境に変化に基づく前記速度制限値Veの中から、最も遅い速度を選択して最終速度指令値Vとする処理が周期的に成され、
前記処理が成される毎に求められる前記最終速度指令値Vにより、前記無人移動体を移動させる
ことを特徴とする無人移動体の遠隔操縦システム。
【請求項2】
遠隔操縦装置から送られるコマンド信号により遠隔操縦されると共に、自律走行も可能な無人移動体であって、
前記遠隔操縦装置との通信手段と、
画像データを取得して前記遠隔操縦装置に画像信号として送信する遠隔操縦用画像取得手段と、
自己位置認識手段と、
駆動ユニットと、
自律移動用の環境認識手段と、
前記通信手段、前記遠隔操縦用画像取得手段、前記自己位置認識手段、前記駆動ユニット及び前記環境認識手段に接続され、前記自己位置認識手段及び前記環境認識手段から取得した情報を用いて周囲の環境地図を生成して、この環境地図上の移動可能領域を抽出すると共に、この移動可能領域における移動経路を計画してその移動可能速度を生成する演算部を備えた無人移動体において、
前記演算部では、前記遠隔操縦装置から受信したコマンド信号の一部としての移動指令速度Vcの取得、及び、該無人移動体の環境に基づく前記移動可能速度である自律制限速度Vaの生成が成されると共に、通信環境の変化を考慮した速度制限値Veの生成が成され、
前記速度制限値Veは、該演算部及び前記遠隔操縦装置が有する操縦装置側演算部のうちのいずれかの演算部で算出される画像信号受信頻度指数をRi、前記無人移動体におけるコマンド信号受信頻度指数をRc、前記無人移動体の移動に遠隔操縦者が関与する度合いである人介在頻度指数をM、前記無人移動体が出し得る最高速度をVmaxとした場合に、Ve=(α・Riβ・Rcγ/M)Vmaxにより求められ(但しα,β,γは正の定数)、
前記演算部は、前記移動指令速度Vc、前記自律制限速度Va及び通信環境に変化に基づく前記速度制限値Veの中から、最も遅い速度を選択して最終速度指令値Vとする処理を周期的に行って、
前記処理を行う毎に求められる前記最終速度指令値Vを前記駆動ユニットに与えることで移動速度を制御する
ことを特徴とする無人移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行可能な無人移動体を遠隔操縦する際に用いる無人移動体の遠隔操縦システム及び無人移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した無人移動体の遠隔操縦システムとしては、例えば、特許文献1に記載された遠隔操縦システムが知られている。
この無人移動体の遠隔操縦システムでは、まず、無人移動体に搭載されたカメラ等の遠隔操縦用画像取得手段で取得した画像データが遠隔操縦装置に画像信号として送信され、これを受信した遠隔操縦装置の画面上に画像データが映し出される。
【0003】
この遠隔操縦装置の画面上に映し出される画像データ、すなわち、無人移動体の移動状況及び周囲状況に応じた速度指令や方向指令等を出力する操作が、遠隔操縦装置に対して遠隔操縦者により成され、遠隔操縦装置から無人移動体に対して速度指令や方向指令等がコマンド信号として送信される。
【0004】
そして、無人移動体では、受信したコマンド信号及び自らが搭載するセンサから得た情報の処理が成され、無人移動体は、この処理結果に応じたアクチュエータ等の駆動系の動作により移動する。
【0005】
ここで、無人移動体の遠隔操縦システムでは、無人移動体及び遠隔操縦装置間の遮蔽物の有無(見通し状況)や距離やアンテナの向き等の通信環境により、無人移動体及び遠隔操縦装置間の無線通信の良し悪しが大きく左右され、通信環境が悪化した場合には、通信が数100ms間途絶える事態(いわゆる瞬断)や、通信が数秒〜数十秒あるいはそれ以上途絶える事態(いわゆる途絶)が生じてしまう。
【0006】
一般に、遠隔操縦装置から送信される方向指令や速度指令等のコマンド信号は比較的データサイズが小さく、無人移動体にて頻度高く受信されるが、通信環境が悪化した場合には、データサイズが大きい画像信号のみならずデータサイズが小さいコマンド信号の受信頻度も低下するといった事態が起こり得る。
【0007】
このように通信環境が悪化して画像信号及びコマンド信号の双方の受信頻度が低下した場合には、コマンド信号が更新されないため、無人移動体はこの時点までに正常に受信したコマンド信号に基づいた移動を継続することとなって、障害物等に衝突する危険性が生じる。
【0008】
上記した通信環境の悪化によって無人移動体が危険に晒される状況において、安全を確保する有効な手立てを採用したものとして、特許文献2に記載された無線操縦装置がある。
この特許文献2に記載された無線操縦装置において、あらかじめ信号の途絶時間の閾値を設定して、コマンド信号が受信されない途絶時間がこの閾値を越えた場合には、無人移動体を完全に停止させることで安全を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-048565号
【特許文献2】特開平01-222708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した無線操縦装置では、無人移動体が障害物等に衝突する危険性を払拭しようとすると、途絶の判定時間の閾値を否応なく短く設定せざるを得ない。その結果、無人移動体が頻繁に停止することとなって、無人移動体の作業効率が悪化してしまうという問題がある。
【0011】
また、データサイズが小さいコマンド信号が頻度高く受信されている状況であったとしても、無人移動体から送信されるデータサイズの大きい画像信号が瞬断や途絶する虞があり、このような場合には、画像信号の受信が十分ではないにもかかわらず、遠隔操縦者によるコマンド信号が正常に送信されて、遠隔操縦者が認識する環境とは異なる環境において無人移動体が動作する可能性があることから、障害物等に衝突する危険性が生じるという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0012】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、無人移動体を安全に移動させつつ、作業効率の低下を少なく抑えることが可能である無人移動体の遠隔操縦システム及び無人移動体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで、上記したように、通信環境が悪化した際に無人移動体が危険に晒される程度は、無人移動体の移動に遠隔操縦者が介在する頻度(人介在頻度と称する)と関係がある。
【0014】
例えば、無人移動体が環境認識機能、周囲環境地図生成機能、経路計画機能、自己位置認識機能等の自律移動機能を有していて、遠隔操縦者からは移動前に無人移動体が通過すべき複数の座標点を与えるのみで、移動中には方向や速度に関する指示を一切与えない場合には、すなわち、人介在頻度が小さい場合には、通信環境の悪化による影響は皆無である。
【0015】
一方、無人移動体が上記自律移動機能を有しておらず、または有していてもこれを使用せず、遠隔操縦者が移動中に逐一移動する方向及び速度の指示を与える完全な遠隔操縦の場合には、すなわち、人介在頻度が大きい場合には、通信環境の悪化による影響は大きく、通信の瞬断や途絶により、無人移動体が危険に晒される度合いが高くなる。
【0016】
これらの中間として、無人移動体が上述の自律移動機能を有していて、遠隔操縦者からは移動中に簡易な指示を与えるのみで、無人移動体が自ら認識した移動可能領域を半自律的に移動する場合には、すなわち、人介在頻度が中程度の場合には、通信環境の悪化による影響も中程度になる。
【0017】
なお、移動中の無人移動体に対して与える簡易な指示とは、例えば、遠隔操縦装置からコマンド信号の一部として送信する速度及び方向のうちのいずれか一方に関する指示のみを無人移動体に与えることであり、この場合、速度及び方向のうちのいずれか他方に関しては、無人移動体が有する自律移動機能から取得した情報に基づいて、無人移動体自らが適切な量を決定する。
【0018】
そこで、本発明者は、無人移動体が危険に晒される程度と、人介在頻度との関係において、遠隔操縦者から無人移動体に簡易な指示を与える人介在頻度が中程度の場合に着目し、速度指示、すなわち、速度制限値を無人移動体に与えることで、無人移動体の安全を確保し得ることを見出し、本発明をするに至った。
【0019】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、画像を取得する遠隔操縦用画像取得手段を搭載した自律走行可能な無人移動体に対して、前記遠隔操縦用画像取得手段からの画像信号に基づくコマンド信号を遠隔操縦装置から送って、前記無人移動体を遠隔操縦する遠隔操縦システムであって、前記自律走行可能な無人移動体が有する演算部では、前記遠隔操縦装置から受信したコマンド信号の一部としての移動指令速度Vcの取得、及び、該無人移動体の環境に基づく自律制限速度Vaの生成が成されると共に、通信環境の変化を考慮した速度制限値Veの生成が成され、前記速度制限値Veは、前記無人移動体の演算部及び前記遠隔操縦装置が有する操縦装置側演算部のうちのいずれかの演算部で算出される画像信号受信頻度指数をRi、前記無人移動体におけるコマンド信号受信頻度指数をRc、前記無人移動体の移動に遠隔操縦者が関与する度合いである人介在頻度指数をM、前記無人移動体が出し得る最高速度をVmaxとした場合に、Ve=(α・Riβ・Rcγ/M)Vmaxにより求められ(但しα,β,γは正の定数)、前記無人移動体の演算部において、前記移動指令速度Vc、前記自律制限速度Va及び通信環境に変化に基づく前記速度制限値Veの中から、最も遅い速度を選択して最終速度指令値Vとする処理が周期的に成され、前記処理が成される毎に求められる前記最終速度指令値Vにより、前記無人移動体を移動させる構成としたことを特徴としており、この無人移動体の遠隔操縦システムの構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0020】
また、本発明の請求項2に係る発明は、遠隔操縦装置から送られるコマンド信号により遠隔操縦されると共に、自律走行も可能な無人移動体であって、前記遠隔操縦装置との通信手段と、画像データを取得して前記遠隔操縦装置に画像信号として送信する遠隔操縦用画像取得手段と、自己位置認識手段と、駆動ユニットと、自律移動用の環境認識手段と、前記通信手段、前記遠隔操縦用画像取得手段、前記自己位置認識手段、前記駆動ユニット及び前記環境認識手段に接続され、前記自己位置認識手段及び前記環境認識手段から取得した情報を用いて周囲の環境地図を生成して、この環境地図上の移動可能領域を抽出すると共に、この移動可能領域における移動経路を計画してその移動可能速度を生成する演算部を備えた無人移動体において、前記演算部では、前記遠隔操縦装置から受信したコマンド信号の一部としての移動指令速度Vcの取得、及び、該無人移動体の環境に基づく前記移動可能速度である自律制限速度Vaの生成が成されると共に、通信環境の変化を考慮した速度制限値Veの生成が成され、前記速度制限値Veは、該演算部及び前記遠隔操縦装置が有する操縦装置側演算部のうちのいずれかの演算部で算出される画像信号受信頻度指数をRi、前記無人移動体におけるコマンド信号受信頻度指数をRc、前記無人移動体の移動に遠隔操縦者が関与する度合いである人介在頻度指数をM、前記無人移動体が出し得る最高速度をVmaxとした場合に、Ve=(α・Riβ・Rcγ/M)Vmaxにより求められ(但しα,β,γは正の定数)、前記演算部は、前記移動指令速度Vc、前記自律制限速度Va及び通信環境に変化に基づく前記速度制限値Veの中から、最も遅い速度を選択して最終速度指令値Vとする処理を周期的に行って、前記処理を行う毎に求められる前記最終速度指令値Vを前記駆動ユニットに与えることで移動速度を制御する構成としている。
【0021】
本発明に係る無人移動体の遠隔操縦システム及び無人移動体において、画像信号受信頻度の代わりに画像信号受信レベルを用い、コマンド信号受信頻度の代わりにコマンド信号受信レベルを用いてもよい。この場合には、最大受信レベルを設定して、この値に対する受信レベルの比をとることで、それぞれ画像信号受信頻度指数Ri及びコマンド信号受信頻度指数Rc とする。
【0022】
また、本発明に係る無人移動体の遠隔操縦システム及び無人移動体において、Ve=(α・Riβ・Rcγ/M)Vmaxのα・Riβ・Rcγ/M(後述する速度制限ファクタfv)をより一般化するために、人介在頻度指数に対して正の定数δを導入して、次式により求めてもよい。
fv = α・Riβ・Rcγ/Mδ [数1]
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る無人移動体の遠隔操縦システムでは、無人移動体の移動の安全性を確保したうえで、無人移動体の作業効率の低下を少なく抑えることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0024】
また、本発明に係る無人移動体では、移動の安全性を確保しつつ、作業効率の低下を少なく抑えることができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施例による無人移動体の遠隔操縦システムの概要を示すシステム構成説明図である。
図2図1における無人移動体の構成機器の接続ブロック図である。
図3図1における無人移動体の遠隔操縦システムに採用される画像信号受信頻度指数Riと速度制限ファクタfvとの関係をパラメータMで示すグラフである。
図4図1における無人移動体の遠隔操縦システムに採用される画像信号受信頻度指数Riと速度制限ファクタfvとの関係をパラメータβで示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1図4は、本発明の一実施例による無人移動体の遠隔操縦システムを示しており、この無人移動体の遠隔操縦システムは、図1に示すように、自律走行も可能な半自律走行車(無人移動体)1の移動を携帯型の遠隔操縦装置2でコントロールするのに用いられるものとなっている。
【0027】
この実施例において、自律走行も可能な半自律走行車1は、図2にも示すように、車両制御用コンピュータ及び自律移動用コンピュータである演算部3によって制御されるようになっている。
【0028】
演算部3には、遠隔操縦装置2との通信手段であるアンテナ12及び無線LAN13が入出力回路15を介して接続されていると共に、画像データを取得して遠隔操縦装置2に画像信号として送信する遠隔操縦用カメラ(遠隔操縦用画像取得手段)14が入出力回路15を介して接続されている。
【0029】
また、この演算部3には、自己位置認識手段であるGPS16及びバーチカルジャイロ17が接続されていると共に、移動速度測定用の車速パルス18が接続されている。
【0030】
さらに、演算部3には、モータドライバ21を介して操舵用アクチュエータ22及びブレーキ/アクセル用アクチュエータ23が接続されており、これらのアクチュエータ22,23と車輪24とで駆動ユニット20を構成している。
【0031】
さらにまた、演算部3には、環境認識手段としてのレーザセンサ31及び自律移動用カメラ32,33が接続されており、レーザセンサ31により近距離情報を取得し、自律移動用カメラ32,33により遠距離で且つ広角な情報を取得するようにしている。
【0032】
そして、演算部3は、GPS16やバーチカルジャイロ17で取得した各種自己位置情報を無線LAN13及びアンテナ12を介して遠隔操縦装置2に送信する機能を有していると共に、遠隔操縦装置2から送信されるコマンド信号に基づいて、モータドライバ21を介して操舵用アクチュエータ22及びブレーキ/アクセル用アクチュエータ23を作動、停止させる機能を有している。
【0033】
加えて、この演算部3では、GPS16やバーチカルジャイロ17で取得した各種自己位置情報と、レーザセンサ31や自律移動用カメラ32,33で取得した周囲距離情報に基づいて、半自律走行車1の周囲の環境地図を生成し、この環境地図上の移動可能領域を抽出すると共に、この移動可能領域における移動経路を計画して、走行可能な経路及び移動可能速度を算出し、操舵用アクチュエータ22及びブレーキ/アクセル用アクチュエータ23を作動させて半自律走行車1に自律走行を行わせる。
【0034】
一方、携帯型の遠隔操縦装置2は、半自律走行車1の遠隔操縦用カメラ14で得た画像を映し出す表示部40と、操作部41と、半自律走行車1側の演算部3と画像信号及びコマンド信号のやり取りをする通信部42と、操縦装置側演算部43を具備している。
【0035】
この場合、半自律走行車1の演算部3では、遠隔操縦装置2から受信したコマンド信号の一部としての移動指令速度Vc(km/h)の取得、及び、半自律走行車1の環境に基づく上記した移動可能速度である自律制限速度Va(km/h)の生成が成されると共に、通信環境の変化を考慮した速度制限値Ve(km/h)の生成が成されるようになっており、この通信環境の影響による速度制限値Ve(km/h)は、半自律走行車1が達成可能な最高速度である最高移動速度Vmax(km/h)及び速度制限ファクタfvを用いて、次式により生成される。
Ve=fv・Vmax (0≦fv≦1) [数2]
【0036】
ここで、速度制限ファクタfvは、最高移動速度Vmax(km/h)に対する制限比に相当するものであり、時々刻々変化する画像信号受信頻度、コマンド信号受信頻度及び人介在頻度に応じて次式により決定される。
fv=α・Riβ・Rcγ/M [数3]
【0037】
ここで、Riは画像信号受信頻度指数であって、遠隔操縦装置2の画像信号受信頻度を示す1以下の正の値であり、この画像信号受信頻度指数Riは、例えば、次式により求める。
Ri=Ci・Pi/Ti [数4]
【0038】
ここで、Tiは測定期間(s)、Ciは測定期間Ti(s)における画像信号受信数、Piはノミナル受信周期(s)である。
【0039】
例えば、画像信号を100(ms)周期で半自律走行車1から遠隔操縦装置2に送信しているとすると、受信周期Piは0.1(s)となる。測定期間Tiを1(s)として、この間の半自律走行車1における画像信号受信数Ciを8個とすると、画像信号受信頻度指数Riは 8×0.1/1=0.8 となり、計測した期間において送信された画像信号の80%を受信したことになる。
【0040】
この画像信号受信頻度指数Riは、遠隔操縦装置2の操縦装置側演算部43で演算され、その結果がコマンド信号の一部として半自律走行車1に通知される。なお、画像信号受信頻度指数Riは、半自律走行車1の演算部3で演算される場合もある。
【0041】
一方、速度制限ファクタfv を求めるのに用いられるRcは、半自律走行車1のコマンド信号受信頻度指数であって、半自律走行車1のコマンド信号受信頻度を示す1以下の正の値であり、このコマンド信号受信頻度指数Rcは、画像信号受信頻度指数Riと同様に、例えば、次式により求める。
Rc=Cc・Pc/Tc [数5]
【0042】
ここで、Tcは測定期間(s)、Ccは測定期間Tc(s)におけるコマンド信号受信数、Pcはノミナル受信周期(s)である。
【0043】
なお、上記fv=α・Riβ・Rcγ/Mのαは、速度制限ファクタfvが最大でも1以下となるように調整するための正の定数であり、β及びγは、画像信号受信頻度指数Riとコマンド信号受信頻度指数Rcとの速度制限ファクタfvに対する影響の大きさを調整するための正の定数、すなわち、画像信号受信頻度指数Ri及びコマンド信号受信頻度指数Rcのどちらを重視するかを決めるための正の定数である。
【0044】
また、上記fv=α・Riβ・Rcγ/MのMは、人介在頻度指数であり、正の値である。この人介在頻度指数Mは、半自律走行車1を遠隔操縦する際の人介在頻度が高い場合、すなわち、半自律走行車1の自律性が低い場合には、より大きい値に設定し、これとは逆に、半自律走行車1を遠隔操縦する際の人介在頻度が低い場合、すなわち、半自律走行車1の自律性が高い場合には、より小さい値に設定する。
【0045】
一例として、α=1、β=2、γ=3として、コマンド信号受信頻度指数Rc=1.0とした場合において、画像信号受信頻度指数Riを0から1、人介在頻度指数Mを1,3,5と変化させたときの速度制限ファクタfvの値を図3に示す。
【0046】
図3に示すように、人介在頻度指数Mが大きい、すなわち、人介在頻度が高い場合には、同じ画像信号受信頻度指数Riに対して速度制限ファクタfvがより小さくなり、半自律走行車1の移動速度が制限される。
【0047】
また、他の例として、α=1、γ=3とすると共に、コマンド信号受信頻度指数Rc=1.0、人介在頻度指数M=1と固定した場合において、画像信号受信頻度指数Riを0から1、βを1,2,3,4,5と変化させたときの速度制限ファクタfvの値を図4に示す。
【0048】
図4に示すように、γに対してβが大きくなると、コマンド信号受信頻度指数Rcに対して相対的に画像信号受信頻度指数Riの影響が大きくなり、同じ画像信号受信頻度指数Riに対して速度制限ファクタfvが小さくなり、半自律走行車1の移動速度がより制限される。
【0049】
つまり、上記した特性を踏まえて、α、β、γ及び人介在頻度指数Mの各値を適切に選択することにより、最高速度Vmax(km/h)に対して速度制限を課することが可能となる。
【0050】
そして、演算部3では、遠隔操縦装置2から受信した移動指令速度Vc(km/h)、半自律走行車1の環境に基づく自律制限速度Va(km/h)及び通信環境に変化に基づく速度制限値Ve(km/h)の中から、次式のようにして最も遅い速度を選択して最終速度指令値V(km/h)とするようにしている。
V=min(Va・Vc・Ve) [数6]
【0051】
演算部3では、上記処理を周期的に行って、その処理毎に求められる最終速度指令値V(km/h)を駆動ユニット20に与えることで移動速度を制御するようになっている。
【0052】
この実施例に係る無人移動体の遠隔操縦システムにおいて、携帯型の遠隔操縦装置2で半自律走行車1の移動速度をコントロールする場合、例えば、α=1、β=2、γ=3のケースを考える。そして人介在頻度の比較的低い遠隔操縦で半自律走行車1が移動しているものとして人介在頻度指数M=1とする。
【0053】
遠隔操縦装置2の表示部40には、半自律走行車1の遠隔操縦用カメラ14で得た画像が映し出されており、この画像を視認しつつ操作部41により遠隔操縦者がコマンド入力を行うことで、半自律走行車1に対して移動指令速度が送信される。この場合、半自律走行車1が達成可能な最高速度である最高移動速度Vmax=60(km/h) とし、半自律走行車1には移動指令速度Vc=55(km/h) が送信されるものとする。
【0054】
半自律走行車1の演算部3では、遠隔操縦装置2から受信したコマンド信号の一部としての移動指令速度Vc=55 (km/h)の取得、及び、半自律走行車1の環境に基づく自律制限速度、例えば、自律制限速度Va=45 (km/h)の生成が成される。
【0055】
そして、半自律走行車1の演算部3において、通信環境の変化を考慮した速度制限値Ve(km/h)の生成が成される。例えば、画像信号を50%受信(画像信号受信頻度指数Ri=0.5)、コマンド信号を100%受信(コマンド信号受信頻度指数Rc=1.0)のとき、図3に示すように、速度制限ファクタfv =0.25となることから、速度制限値Ve=fv・Vmax =0.25×60=15(km/h) となる。
【0056】
この場合は、通信環境による速度制限値Ve(km/h)が最も低い値となることから、V=min(Va・Vc・Ve)により、半自律走行車1の最終速度指令値は、V=15(km/h)となる。
【0057】
例えば、半自律走行車1が最終速度指令値V=15(km/h)で移動している際に、画像信号の画像信号受信頻度が向上して、画像信号受信頻度指数Ri=0.9となった場合には、図3に示すように、速度制限ファクタfv =0.81となり、速度制限値Ve=48.6(km/h) となる。
【0058】
この場合は、自律制限速度Va(km/h)が最も低い値となることから、V=min(Va・Vc・Ve)により、半自律走行車1の最終速度指令値は、V=45(km/h) に変化することとなる。
【0059】
そして、以上の処理を周期的に行い、そのつど最終速度指令値V(km/h)を求めて、結果を駆動ユニット20に与えることで半自律走行車1の移動速度を制御する。
【0060】
上記したように、この実施例に係る無人移動体の遠隔操縦システムでは、画像受信頻度、コマンド受信頻度、及び、人介在頻度に応じて最終速度指令V(km/h)を生成することにより、通信環境の変化に動的に対応した半自律走行車1の速度調整を行うことができるので、半自律走行車1の作業効率の低下を最小限に抑えつつ、安全な速度で半自律走行車1を移動させ得ることとなる。
【0061】
この実施例において、半自律走行車1の遠隔操縦用カメラ14により取得した画像データは、入出力回路15を介して演算部3に入力されてデータ圧縮処理された後に、無線LAN13及びアンテナ12を介して携帯型の遠隔操縦装置2に画像信号として送信されるようにしているが、上記画像信号は、演算部3を介さずに遠隔操縦用カメラ14から直接送信されるようにしてもよい。
【0062】
また、上記した実施例では、無人移動体が自律して移動可能な半自律走行車1である場合を示したが、これに限定されるものではなく、無人移動体が自律歩行するロボットであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 半自律走行車(無人移動体)
2 携帯型の遠隔操縦装置
3 演算部
12 アンテナ(通信手段)
14 遠隔操縦用カメラ(遠隔操縦用画像取得手段)
16 GPS(自己位置認識手段)
17 バーチカルジャイロ(自己位置認識手段)
20 駆動ユニット
22 操舵用アクチュエータ(駆動ユニット)
23 ブレーキ/アクセル用アクチュエータ(駆動ユニット)
24 車輪(駆動ユニット)
31 レーザセンサ(環境認識手段)
32,33 自律移動用カメラ(環境認識手段)
43 操縦装置側演算部
図1
図2
図3
図4