特許第6166108号(P6166108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166108
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】鉄心とその製造および使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/14 20060101AFI20170710BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   H01F1/14
   C22C38/00 303S
   H01F27/24 B
   H01F27/24 K
   H01F30/10 A
   H01F37/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-127729(P2013-127729)
(22)【出願日】2013年6月18日
(62)【分割の表示】特願2006-504956(P2006-504956)の分割
【原出願日】2004年4月1日
(65)【公開番号】特開2013-243370(P2013-243370A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年6月28日
【審判番号】不服2015-12571(P2015-12571/J1)
【審判請求日】2015年7月2日
(31)【優先権主張番号】10315061.7
(32)【優先日】2003年4月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500460379
【氏名又は名称】バクームシュメルツェ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニ コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツァー、ギゼルハー
(72)【発明者】
【氏名】オッテ、デトレフ
【合議体】
【審判長】 酒井 朋広
【審判官】 関谷 隆一
【審判官】 森川 幸俊
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−530854(JP,A)
【文献】 特開2000−119821(JP,A)
【文献】 特開昭63−128705(JP,A)
【文献】 特表2002−524840(JP,A)
【文献】 特開平9−190910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C5/00-25/00,27/00-28/00,30/00-30/06,35/00-45/10
H01F1/12-1/375,1/44,27/24-27/26,30/00-38/12,38/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性合金のテープを巻込んでリング状テープ鉄心の形状に加工してなり、
弱弾性の反応性接着剤及び弱塑性の非反応性のペーストの少なくとも一方を用いて絶縁性プラスチック槽内に固定される鉄心であって、
1500よりも大きく6000よりも小さい比透磁率μと、15ppmより小さい飽和磁気歪λと、1A/cm未満の保磁力Hcとを有し、
前記強磁性合金の少なくとも50%は、平均粒径が100nm以下の微細結晶粒子によって占められており(超微結晶合金)、かつ
前記強磁性合金は、式FeaCobNicCudeSifghで表され、ここに、MはV、Nb、Ta、Ti、Mo、W、Zr、Cr、Mn及びHfの少なくとも1つであり、a、b、c、d、e、f、gは原子%で表され、XはP、Ge、C並びに不可避の不純物を表し、a、b、c、d、e、f、g、hが、
0≦b≦10、
5≦c≦15
0.8≦d≦1
2.1≦e≦3
11≦f≦15.9
6.6≦g≦9
h<5原子%、そして
b≦c、
ここに、a+b+c+d+e+f+g+h=100
という条件を満たしていることを特徴とする鉄心。
【請求項2】
請求項1記載の鉄心において、
前記強磁性合金の少なくとも50%が、50nm以下の平均粒径を持つ微細結晶粒子によって占められている
ことを特徴とする鉄心。
【請求項3】
請求項1記載の鉄心において、
エアギャップなしの閉じられたリング状鉄心として形成された
ことを特徴とする鉄心。
【請求項4】
鉄心に1組の一次巻線と少なくとも1組の二次巻線とを設け、当該二次巻線を、負担抵抗及び/又は電子式測定手段を介して低オーム抵抗で閉路した交流用変流器であって
前記鉄心が、
強磁性合金のテープを巻込んでリング状テープ鉄心の形状に加工してなり、
弱弾性の反応性接着剤及び弱塑性の非反応性のペーストの少なくとも一方を用いて絶縁性プラスチック内に固定される鉄心であって
1500よりも大きく6000よりも小さい比透磁率μと、15ppmより小さい飽和磁気歪λと、1A/cm未満の保磁力Hcとを有し、
前記前記強磁性合金の少なくとも50%は、平均粒径が100nm以下の微細結晶粒子によって占められており(超微結晶合金)、かつ
前記強磁性合金は、式FeaCobNicCudeSifghで表され、ここに、MはV、Nb、Ta、Ti、Mo、W、Zr、Cr、Mn及びHfの少なくとも1つであり、a、b、c、d、e、f、gは原子%で表され、XはP、Ge、C並びに不可避の不純物を表し、a、b、c、d、e、f、g、hが、
0≦b≦10、
5≦c≦15
0.8≦d≦1
2.1≦e≦3
11≦f≦15.9
6.6≦g≦9
h<5原子%、そして
b≦c、
ここに、a+b+c+d+e+f+g+h=100
という条件を満たしていることを特徴とする交流用変流器。
【請求項5】
請求項4記載の交流用変流器において、
負担抵抗又は電子式測定手段を有する規定通りの測定回路の下で、最大5°の位相誤差を持つことを特徴とする交流用変流器。
【請求項6】
請求項1記載の鉄心を備えた電流補償型リアクトルであって、
前記鉄心(M)が、少なくとも2組の巻線を備えている
ことを特徴とする電流補償型リアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流成分及び直流成分に対する高度の動作特性を有する鉄心、鉄心の製造方法及び鉄心の応用、特に変流器及び電流補償型リアクトル並びに鉄心製造のため合金及びテープに関する。
【0002】
鉄心の数多くに用途においては、交流成分及び直流成分に対する高度の動作特性が要求され、用途によっては交流及び直流の夫々に対する特別な動作特性が必要とされる。交流成分及び直流成分に対する高度の動作特性を備えた鉄心の応用例は、例えば変流器及び電流補償型リアクトルである。
【0003】
電流補償型ノイズ抑制リアクトルが、例えば独国特許出願公開第3526047号明細書及び同第19548530号明細書に記載されている。それは、単相用には2組、多相用には3組以上の巻線を備えている。ノイズ抑制リアクトルの巻線は、動作電流に基づき誘導される磁束が相互に相殺するのに対して、両巻線を通して同相で流れるノイズ電流が結果として軟磁性鉄心の磁化を行うように接続される。従って、それにより生ずる電流補償型ノイズ抑制リアクトルは、動作電流に対し非常に小さな誘導性インピーダンスとして作用するのに対して、例えば接続されている機器から発し、アースを介して流れるノイズ電流に対しては非常に大きなインダクタンスを呈する。
【0004】
公知のノイズ抑制リアクトルの鉄心は、例えば非晶質又は超微結晶合金、特にシート材料から作られる。その際リアクトルのインダクタンスは、ターン数及び鉄心断面積と共に鉄心の軟磁性材料の比透磁率に依存する。
【0005】
冒頭に述べた鉄心を備えた変流器は、例えば電力量計に用いられ、例えば国際特許出願公開第WO00/30131号パンフレットに記載されている。電力量計は、例えば産業用や家庭用電気機器や電気設備の消費電力量を検知するために用いられる。その際に利用される最も古い原理は、フェラリス型電力量計の原理である。該電力量計は、機械的な計測機構に結合され、対応する界磁コイルの電流又は電圧に比例する磁界により駆動される円板の回転を介して電力量を計測する。電力量計の機能を、例えば多重料金用や遠隔読取り用に拡張すべく、電流及び電圧の検出を、計器用変圧変流器を介して行う電子式電力量計が開発されている。この変成器の出力信号はディジタル化され、乗算され、積算され、そして記憶される。その計算結果は特に遠隔読取りのために利用される電気量である。
【0006】
この種変流器の技術的に可能な実例の一つが誘導原理による変流器である。図1はこの変流器の等価回路図、及び種々の応用例で現れる技術データの範囲を示す。1は変流器を示す。軟磁性材料からなる鉄心4には、測定すべき電流Iprimを流す一次巻線2と、二次電流Isecを生ずる二次巻線3とが巻装されている。この二次電流Isecは、一次側及び二次側のアンペアターンが理想的には同じ大きさで逆向きになるように自動的に生ずる。このような変流器における磁界の時間的経過を図2に示す。ここでは、値が一般に小さいので鉄損は無視している。二次巻線3の電流は誘導の原理に従い、その発生の原因、即ち鉄心4内の磁束の時間的変化を阻止するように生ずる。
【0007】
そのため理想的な変流器では、二次電流は一次電流に巻数比を乗じた大きさで負の極性を持って生じ、それは式(1)で表せる。即ち、
【数1】
【0008】
この理想的な変換は負担抵抗5、二次巻線の銅抵抗6及び鉄心4の各損失のために決して達成されない。
【0009】
そのため現実の変流器では、二次電流が上述の理想的な場合に対して振幅誤差及び位相誤差を含み、それは式(2)によって表される。即ち、
【数2】
【0010】
この変流器の出力信号はディジタル化され、電力量計の電子回路で更に処理される。
【0011】
産業分野で電力量の測定に用いられる電子式電力量計は、しばしば電流が非常に大なため(>>100A)、間接的に、即ち電流入力端子に変流器を前置接続し、それにより純粋に双極性の、ゼロ対称の交流電流(一般的には1〜6Aeff)のみを電力量自体内で測定するようにしている。そのため、高透磁率材料、例えば約80重量%のニッケルを含み「パーマロイ」という名称で知られるニッケル鉄合金製の鉄心を用いた変流器が用いられる。この変流器は測定誤差を少なくすべく、基本的に非常に小さな位相誤差φを持ち、そのためそれは非常に多くの(一般的には1000以上)二次ターン数を持っている。
【0012】
上記電子式電力量計は、産業用の小型設備にも適用可能な家庭用電力量計への適用には不適である。何故なら、家庭用では普通である前置接続変流器なしの直接接続では、電流の大きさが通常100A以上になることがあり、そのため上記の変流器は飽和してしまうからである。更にこの電流は近年の電子機器で用いられる半導体回路(例えば整流器、又は位相截断回路)によって発生される非ゼロ対称の直流成分を含み、そのため高透磁率鉄心を有する変流器は磁気的に飽和し、従って電力量測定の品質が低下する。
【0013】
それに対して標準的な国際規格IEC62053シリーズが定められている。それによれば、電子式電力量計は、双極性ゼロ対称正弦波電流の与えられた最大測定可能な有効値Imaxに対して精度等級1%又は2%を遵守すべく、単極性半波整流正弦波電流の最大振幅を、3%又は6%の最大付加誤差で測定可能でなければならない。その計量値は最大有効値のそれに等しい。この規格と共に、単極性電流の振幅下限値を持つ電力量検出をも十分正確に定義した規範として許容する国際的及び地域的な協定が存在する。
【0014】
このような電流を模擬すべく、開放型の、即ち機械的に形成したエアギャップにより一部を削除することで低透磁率とした磁気回路により動作する変流器が知られている。この変流器の一例が、鉄心として、エアギャップを設けた(一部を削除した)ポット状フェライト鉄心を用いる変流器である。該変流器は一次電流の関数として満足すべき直線性を持つが、変流器の全電流範囲にわたり高度の直線性をもって大きな最大測定可能一次電流を達成するには、フェライトの比較的低い飽和磁束に鑑み比較的大型の鉄心が必要となる。この変流器は更に外部磁界に対し非常に敏感なので、外部磁界に対するシールド手段を備えねばならないが、それには材料費や組立費がかかり、コスト的に好ましくない。更にフェライトは、通常、磁気特性値が著しく温度の影響を受ける。
【0015】
その他に、鉄心なしの空心コイルを用いて動作する変流器が公知である。その原理は、所謂ロゴフスキ原理として知られている。この場合、軟磁性材料の特性の測定精度への影響は無くなる。この変流器は、磁気的に開放した構造のため、外部磁界に対して、特別な費用のかかるシールドを備えねばならず、ために上記と同様に材料費や組立費を要し、コスト的に好ましくない。
【0016】
実現性があり、技術的に価値のある一つの可能性は、急速凝固型非晶質軟磁性材料からなる比較的低透磁率(μ=1400〜3000)の鉄心を備えた変流器を用いることである。駆動状態の変化時、透磁率の非常に良好な一定性が全通電電流範囲にわたる位相誤差の非常に高度の直線性を保証する。透磁率の値が低いため、想定される限界内での直流成分による飽和を回避できる。それに対し一次電流と二次電流との間に比較的大きな位相誤差が現れるので、電力量計内で対応する電子回路又はソフトウェアにより補償せねばならない。電子式電力量計の公知の実施形態では、補償範囲は通常0.5〜5°である。しかしその場合、この範囲内での高度の補償には信号処理を行う半導体回路やメモリ等に要するコストが増大し、それが機器コストを高める。電力量計市場で競合するメーカーの見地からの難しい問題は、用いる磁性材料のコストである。その理由は、既に用いられている合金は80原子%Coを含むが、それは比較的高価だからである。
【0017】
本発明の課題は、交流成分及び直流成分に対し高度の動作特性を有する鉄心を用途に応じた特性のものに改良することである。更に本発明の課題は、鉄心を特性に関して種々の用途に適するように構成することと、この鉄心の用途を提供することである。更に本発明の課題は、特に安価な鉄心を提供することである。最後に本発明の更なる課題は、この鉄心の製造方法を提供することである。
【0018】
上記課題は、本願に係る特許請求の範囲に記載の特徴を有する鉄心によって解決される。また、そのような鉄心を備えた、本願に係る特許請求の範囲に記載の特徴を有する変流器とリアクトルによって解決される。また、本願に係る特許請求の範囲に記載の製造方法によって解決される。本発明の考えの更なる構成と態様は、従属請求項に示されている。
【0019】
従来技術と比較して、本発明による鉄心を用いた変流器は、特性(例えば温度特性、位相誤差、最大一次電流、最大単極一次電流並びにコスト)において、公知の変流器(例えばフェライト鉄心を備えた変流器)に対して明らかに改善されている。その際鉄心をエアギャップなしの閉じた構造に形成することもできる。この変流器は交流成分と直流成分に対する高度の動作特性と共に、広い電流範囲にわたる特に電力量計の用途に対して際だった電流模擬の適度に高度の直線性を持っており、更に外部磁界に対し付加的なシールド手段なしで高度の対抗性を示す。従って本発明による鉄心は、変流器及び電流補償型リアクトルに対し特に適している。しかし本発明の鉄心は、他の種々の用途にも適用できる。
【0020】
更に本発明による鉄心の特別な特性により、高価なCoを全然又は僅かしか含有しない合金からなり、僅かな量の鉄心を備え、しかも比較的少ないターン数の巻線を有する変流器及び電流補償型リアクトルの簡単な構造に基づき、鉄心を非常に低コストで製作でき、従って上述の用途に対し特に適する。更に上述の特性の温度依存性も極めて小さい。
【0021】
本発明による変流器を所定の最大一次電流に適合させるべく設計する際、一次電流は材料固有の飽和磁束及び鉄心断面積に比例し、負担抵抗及び二次巻線抵抗の和に反比例することから出発する。鉄心の大きさ(体積)は鉄心断面積と平均磁路長との積である。鉄心質量は、その体積に材料密度を乗算することで得られる。同時に最大単極電流振幅は、材料固有の飽和磁束及び鉄心の平均磁路長に比例し、材料の透磁率に反比例する。
【0022】
その際約8°以下の位相誤差に対する値迄の近似値として、上述の抵抗の和に比例し、透磁率に反比例する最小位相誤差が達成された。更に、最大限可能な飽和磁束を目標とした。約80原子%のCoを含む非晶質材料は0.8〜1Tの飽和磁束値を持つ。これを高めることで、同じ最大電流において鉄心の縮小化、又は同じ鉄心サイズで最大電流の増大化が可能となる。
【0023】
まず、鉄心サイズ(鉄心体積)が一定であると仮定する。この場合、通常は電力量計の構造に関与する二次ターン数及び負担抵抗等は変化しないものとする。この結果、飽和磁束を0.9Tから1.2Tに高めた変流器は、例えば10原子%のNiを含む超微結晶材料と同様に、33%程高い一次電流を模擬することができた。更にそのような構造は、高い飽和磁束を持つ最大単極電流振幅及び同じ大きさに保持された鉄心サイズにおいて、高透磁率を可能とし、例えば約80原子%のCoを含む非晶質材料において1500〜3000から10原子%のNiを含む超微結晶材料に対する2000〜4000へと高めることができた。これは更に約25%程低い位相誤差に導き、このことは電力量計における補償コストを明らかに低減する。その際、同じ最大一次電流に対する鉄心断面積を25%減少させ、かつ二次巻線抵抗の減少の目的で相対サイズをそれに応じて調節可能なら、同じ負担抵抗において位相誤差を5°から例えば2.5°に半減できる。
【0024】
10原子%のNiを含む超微結晶材料を使用すると、鉄心材料のコストを、約80原子%のCoを含む非晶質材料からなる鉄心と比べて約30%低減させ得る。
【0025】
特に変流器で用いるのに適した本発明の鉄心の好ましい実施態様では、強磁性合金からなる帯状のシートを巻込んで鉄心を構成し、合金の少なくとも50%が平均粒径100nm以下、好ましくは50nm以下の微細結晶粒子によって占められ(超微結晶合金)、その透磁率は1000、好ましくは1500より大きいが、10000、好ましくは6000より小さく、それは磁化方向に対し直角な磁界中での焼き戻しにより調節できる。その際の飽和磁束は1テスラ以上である。
【0026】
更に他の好ましい実施態様では、飽和磁気歪λS<15ppm(好ましくは<10ppm)を持つ。かかる特性は、通常高価なCoベースの合金によってのみ達成されるが、他方、超微結晶Feベース合金では、透磁率範囲が一般的な合金における10000より大きい。本発明による鉄心用の合金は式
FeaCobNicCudeSifghによって表現される組成を持っている。ここで、MはV、Nb、Ta、Ti、Mo、W、Zr、Cr、Mn及びHfの少なくとも1つであり、a、b、c、d、e、f、gは原子%で表され、Xは元素P、Ge、C並びに不可避の不純物を表し、a、b、c、d、e、f、g、hは次の条件を満たすものとする。
0≦b≦40、
2<c<20、
0.5≦d≦2、
1≦e≦6、
6.5≦f≦18、
5≦g≦14、
h<5原子%、そして
5≦b+c≦45、a+b+c+d+e+f=100、
【0027】
好ましくは、鉄心は次の条件を満たす合金組成a、b、c、d、e、f、g、hを持つ。
0≦b≦20、
2<c≦15、
0.5≦d≦2、
1≦e≦6、
6.5≦f≦18、
5≦g≦14、
h<5原子%および
5≦b+c≦30であり、a+b+c+d+e+f=100。
【0028】
特に好ましくは、鉄心は次の条件を満たす合金組成a、b、c、d、e、f、g、hを持つ。
0≦b≦10、
2<c≦15、
0.5≦d≦2、
1≦e≦6、
6.5≦f≦18、
5≦g≦14、
h<5原子%、そして
5≦b+c≦20であり、a+b+c+d+e+f=100である。
【0029】
特に抜群の結果は次の条件を満たす合金組成を備える鉄心によって提供される。
0.7≦d≦1.5、
2≦e≦4、
8≦f≦16、
6≦g≦12、そして
h<2原子%、5≦b+c≦20であり、a+b+c+d+e+f=100である。
好ましい実施態様の合金は、Ni成分より少ないCo成分を持っている。
【0030】
この鉄心では、透磁率の磁化への依存性は非常に小さい。即ち鉄心のヒステリシスループが非常に狭く直線的である。このことは、飽和磁束に対する残留磁束の比率を可及的に小さく、30%(好適には20%)より少なく、保磁力はできるだけ1A/cmより小さく、好適には0.2A/cm以下とすることを前提とする。これは透磁率を増大させる。その結果、透磁率の非直線性Δμ/μ<15%、好適には10%未満になる。ここでΔμは測定可能な全磁化範囲での透磁率の最小値と最大値の差の最大値、例えば1.2テスラの飽和磁束を約5%下回る迄の値であり、μはこの磁化範囲内の透磁率の平均値を表す。
【0031】
本発明による鉄心を有する変流器は、鉄心と共に、少なくとも一次巻線と二次巻線を備える。二次巻線には負担抵抗が接続され、二次電流回路を低オーム抵抗で閉路する。鉄心の透磁率は上述の範囲内で磁化力にほぼ無関係なので、この鉄心を備えた変流器の絶対位相誤差及び絶対振幅誤差は広い一次電流範囲にわたり殆ど一定である。絶対振幅誤差は1%未満であり得る。絶対位相誤差は5°未満であり得る。良好な直線性に基づき、位相誤差と振幅誤差の絶対値はこの鉄心を備えた電力量計の電子回路又はソフトウェアにより容易に補償でき、この結果電力量の測定精度が向上する。
【0032】
超微結晶構造に基づき、この鉄心は、120℃である鉄心の適用上限温度を、特殊な場合には150℃以上となし得る驚異的に高い耐久性を持つ。それにより、この鉄心を備えた変流器は室温を大きく超える用途に対して適している。
【0033】
この鉄心の特性の温度依存性は小さい。しかもこの依存性は広範に直線性を示す。透磁率の温度係数は0.5%/K未満、好適には0.2%/K未満の絶対値を持つ。
【0034】
本発明は、適切な熱処理を施した前述の組成の合金により、前述の特性を持つ鉄心を製作できるとの認識に基づいている。その場合、非常に多くのパラメータ相互間の調整をとることが必要であり、それによって鉄心は前述の特性を備え得る。
【0035】
熱処理の際に生ずる超微結晶2相構造により、同時に高飽和磁束と高熱安定性の下で、良好な軟磁性特性に対する基本的な両前提を満たし得る。鉄心はテープから作り、テープ自体は本発明による合金で作るとよい。
【0036】
次に図面に示す実施例を参照し、本発明を更に詳細に説明する。
【0037】
一例として「電子式電力量計に対する直流許容誤差を有する変流器」への応用例を考察する。関連する検討で、公知の古典的な高透磁率鉄心付き変流器では、直流許容誤差に関する規格シリーズIEC62053の要求を満たすのは不可能なことが解った。直接接続の電子式家庭用電力量計の要求に対する標準的な規格は、正弦波電流を半波整流した(即ち純単極性の)電流波形の場合でも電力量検出が可能なことを要求している。
【0038】
ここでは古典的な変流器は断念する。その理由は、高透磁率鉄心は立ち上がる単極性磁束によって極めて急速に飽和してしまうからである。鉄心材料の透磁率が減少するにつれてインダクタンスが減少し、磁束減少の時定数も減少する。そのため低透磁率非晶質合金の使用時の問題に対する解決策を検討した。しかし、この場合の欠点は、主として約80%のCoを含む非晶質テープによって引き起こされる比較的高い価格である。
【0039】
従って検討の出発点は、代替的に非晶質Coベースのテープを顕著なコスト的利点によって補うのに適当な非常に低い透磁率(好適にはμ≒1500〜6000)の別の合金を見出すことである。
【0040】
その際、達成しうる直線性がこの点で優れたCoベースのテープにできるだけ近づき、その結果電力量測定の精度に関する要求を満たし得るかという疑問の解決も重要である。高飽和磁束が最適化の途中で、あらゆる用途に転用され得るものと確実性をもって期待できれば望ましい。前提条件は、安価なフェライト鉄心の適用に対して既に相当の技術的利点を持っている、IEC62053に従う完全な機能性である。
【0041】
まず、Si成分とNb成分を変化させたテープを試験した。試験プログラムは、各実施例の2つの鉄心毎に異なる温度で横方向磁界熱処理及び3つの合金組成での試験を含む。サンプル試験的な組成変更により、試験用合金からなる6.2mm幅のテープを鋳造し、リング状テープ鉄心に加工した。これをできるだけ平坦なヒステリシスループを達成すべく、横方向磁界中で異なる温度で処理した。まず達成された平均透磁率μav及び他の基礎的パラメータを確認した(表1参照)。
【表1】

(註:ここには、オリジナルのP22760に添付の表1の代わりに、別添の[表1]を嵌め込んで下さい。なお、この別添の[表1]は、オリジナルのP22760に添付されていた表1に誤記等の訂正を施したものです。他の表2−5は、オリジナルのままでOKです。)

【0042】
最初の試験は、全ての鉄心を槽内で充填剤及び応力なしで行った。続いて直線性の測定のために適切に巻込んだ。その際、まず25℃での値を測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【0043】
ヒステリシスループの直線性を見るべく、量Δμ/μmittelを示す。ここで、飽和状態に入った際の最後2つの行のデータは、平均値の計算に算入していない。大部分の鉄心が、電子式電力量計における変流器用鉄心の使用の際に広い電流範囲にわたる電力量測定の要求される精度を保証するのに適した直線性を示した。12.5%と比較的高い値となった実施例3Bは例外である。これは試験のために横方向磁界中で過剰焼なましをした結果であると推察される。
【0044】
続いて応用に関する影響を確認すべく、各実施例の鉄心に絶縁性プラスチック層をコーティングするか、適合するプラスチック槽内で弱弾性の接着剤を施すかして、改めて巻回し測定した。その際、明らかに鉄心の直線性挙動に対する種々のイメージが見られる。このことは、次の2つの表3及び4から明らかである。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
表3は、ヒステリシスループの直線性へのプラスチック層の影響を示す。Ni添加に伴う磁気歪により、この材料は、高精度変流器への応用のための結果として得られる直線性がもはや現れない程に、約120℃において凝固し冷却時に収縮する層の収縮応力に強く反応している。直線性のずれは、比較のために用いた磁気歪のない非晶質Coベース合金のずれに対し、9〜50倍以上となる。
【0048】
明らかに好ましい挙動が、槽への固定に伴い生じている。そこでは、弱弾性プラスチックの使用時に、非直線性が最大で係数2増大しただけである。いかなる場合も、変形例1B、2A、2B及び3Aは、室温において高度の直線性を有する変流器用としての利用のために有効である。広い温度範囲(例えば−40〜+70℃)での適用についての更なる検討のため、複合的な透磁率の温度特性を考慮する必要がある。例えば鉄心2A−2のループは透磁率が負の温度係数を示し、−40〜+85℃で殆ど直線状に推移し、鉄心2B−2のループは約−0.1%/Kなる値を示した。この値は、4mA/cm並びに15mA/cmの双方の励磁磁界の振幅に対し通用する。温度上昇の際に銅線の抵抗増加と逆に挙動し、そのため位相誤差が減少するなら、変流器に対する正の温度係数は好ましい。従って変流器についての検討の際、温度と共に結果的に生ずる大きな誤差の変化に注意せねばならない。弱弾性接着剤の使用時には、高温でも低温でも温度変化が変流器誤差の付加的な直線性ずれにつながる。ここでは、硬化した接着剤の弾性挙動のため、槽の材料から移された鉄心に引張り力又は押圧力が生ずる。この作用の明らかな減少は、充填材として弱弾性反応材料の代わりに弱塑性の非反応性ペーストを用いることで実現した。その結果直線性の値を、−40〜+85℃迄の温度範囲内で殆ど一定に維持できた。
【0049】
超微結晶材料の明らかな利点は透磁率の可変性にあり、槽への固定時にも満足すべき直線性を伝達可能である。利用可能な調整範囲の拡大に伴い、変流器の直流成分による誤差を事前の処理条件により最適値に容易に調整できる。直線性を改善すべく、4000又は6400の透磁率にするため、添加するNiを10%減少すれば、磁気歪も縮小できる。
【0050】
図3と4は、640A(図3)と400A(図4)の異なる定格電流IprimNに対する一次電流(単位A)と振幅誤差(単位%)及び位相誤差(単位°)との関係を示す。
【0051】
最後に図5は、Fe65.2原子%、Ni12原子%、Cu0.8原子%、Nb2.5原子%、Si11.5原子%及びB8原子%の組成を持つ合金のヒステリシスループ(磁界の強さH(単位A/cm)と磁束B(単位T)との関係)を示す。この合金を本発明の表5の合金と対比する。ここには、横方向磁界処理に対するQF及び縦方向磁界処理に対するLFを記している。*印を付した合金は、本発明に含まれない比較用合金である。
【0052】
横方向磁界(横方向磁界処理QF)での熱処理は常に必要であり、その際透磁率は、横方向磁界処理QFの前又は後で行う縦方向磁界(縦方向磁界処理LF)中での付加的熱処理で任意に調整できる。これは、同じ合金から種々の特性を持つ鉄心、従って種々の等級の変流器(電流等級)を作れる利点を持っている。温度と横方向磁界の時間との組合せは常に温度と縦方向磁界処理の時間よりも強い影響力を示す。
【0053】
【表5】
【0054】
表5に示す値は以下のことを意味している。即ち、
1.QF=横方向磁界中での熱処理、LF=縦方向磁界中での熱処理、
2.Bmは実施例1〜21に対してHm=8A/cmの最大磁界強さで測定された、
3.μはヒステリシスループの平均勾配として定義される平均透磁率を示す、
4.番号1及び6は本発明による比較用の実施例ではない。
【0055】
表5の合金の番号は表1〜4のそれとは異なる。そのため透磁率の値は、異なる試験シリーズを対象にしているので、表5と他の表との間で少し異なっている。
【0056】
本発明の鉄心によれば、正弦波一次電流を半波整流した整流波を歪なしに模擬できる最大振幅が、歪なしに模擬できる最大双極性正弦波一次電流の有効値の少なくとも10%、最善なら20%に達する変流器を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】公知の変流器の等価回路及び動作時に現れる種々の技術データの範囲を示す図である。
図2図1の変流器における磁界の波形図である。
図3】定格一次電流IprimN=640Aに対する一次電流(A)と振幅誤差(%)及び位相誤差(°)との関係を示す特性線図である。
図4】定格一次電流IprimN=400Aに対する一次電流(A)と振幅誤差(%)及び位相誤差(°)との関係示す特性線図である。
図5】本発明による好ましい合金のヒステリシスループを示す線図である。
【符号の説明】
【0058】
1 変流器、2 一次巻線、3 二次巻線、4 鉄心、5 負担抵抗、6 巻線抵抗
図1
図2
図3
図4
図5