(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
なお、以下に示す説明において、制御部120および算出部160は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。制御部120および算出部160は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶メディア、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置には様々な変形例がある。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る熱係数測定装置10と試料20との構成を示す図である。この熱係数測定装置は、ヒーター110、制御部120、熱浴130、温度データ生成部140,150、算出部160、および伝熱部170を備えている。試料20は第1面210においてヒーター110へ取り付けられており、ヒーター110は試料20へ熱を加える。制御部120はヒーター110への入力を制御する。制御部120はヒーター110に一定の値である第1の電力と、第1の電力とは異なる一定の値である第2の電力とを交互に周期T
0で入力する。熱浴130は伝熱部170によって、試料20と熱的に接続されている。熱浴130の熱容量は試料20の熱容量に比べて十分に大きく、熱浴130の温度は一定に保たれている。熱浴130は例えば銅塊などの金属塊である。算出部160は、周期T
0と、試料20と熱浴130との温度差の、周期T
0についての振幅ΔT
Rに基づいて、ヒーター110と試料20を含む試料系と、熱浴130との間の熱緩和時間τを算出し、熱緩和時間τから比熱cを算出する。算出部160が行う処理を含め、以下で詳細に説明する。
【0016】
試料20には温度データ生成部140が取り付けられており、熱浴130には温度データ生成部150が取り付けられている。温度データ生成部140は試料20の温度を示すデータを生成し、温度データ生成部150は熱浴130の温度を示すデータを生成する。温度データ生成部140,150としては、たとえば熱電対やシリコン温度センサを用いることができる。
【0017】
図2は、本実施形態における算出部160の構成の一例を示す図である。算出部160は温度差算出部161、波形データ蓄積部162、フーリエ変換部164、振幅抽出部166、振幅データ蓄積部167、比熱算出部168を備えている。温度差算出部161は温度データ生成部140,150によって生成された、試料20の温度と熱浴130の温度とに相当する温度データ信号(例えば電圧)に基づいて、試料20と熱浴130との温度差に相当する温度差データを生成する。温度差算出部161で生成された温度差データは、時間波形として波形データ蓄積部162に蓄積される。波形データ蓄積部162に蓄積された温度差波形はフーリエ変換部164においてフーリエ変換され各周波数についての振幅が算出される。振幅抽出部166はフーリエ変換された結果から、周期T
0についての振幅ΔT
Rを抽出する。得られた振幅ΔT
Rを示す振幅ΔT
Rデータは、周期T
0と対応づけた形で振幅データ蓄積部167に蓄積される。算出部160は、熱緩和時間τおよび周期T
0と振幅ΔT
Rとの関係を示す標準曲線に関するデータを保持している。比熱算出部168では、振幅データ蓄積部167から読み出された振幅ΔT
Rデータと、振幅ΔT
Rデータに対応づけられた周期T
0と、標準曲線に基づき、ヒーター110と試料20を含む試料系と熱浴130との間の熱緩和時間τが算出され、さらに比熱cが算出される。
【0018】
また、算出部160において振幅ΔT
Rデータを得るためには、例えば、ロックインアンプを用いることができる。この場合、温度差算出部161で生成された温度差データと周期T
0を示す信号がロックインアンプに入力され、ロックインアンプから周期T
0についての振幅ΔT
Rを示すデータが出力される。振幅ΔT
Rデータは周期T
0と対応づけた形で振幅データ蓄積部167に蓄積され、比熱算出部168において比熱cが算出される。
【0019】
図3は、制御部120からヒーター110への入力の一例を示す図である。上述したように、制御部120はヒーター110に一定の値である第1の電力と、第1の電力とは異なる一定の値である第2の電力とを交互に入力する。本図に示す例において、ヒーター110はジュール熱によって発熱する。そして制御部120は、第1の電力としてV
0−v(V)の電圧をヒーター110へ印加し、第2の電力としてV
0+v(V)の電圧をヒーター110に印加する。第1の電力が入力される時間と、第2の電力が入力される時間はそれぞれ時間T
0/2である。すなわち、制御部120はヒーター110に、第1の電力と第2の電力とを、互いに同じ時間T
0/2ずつ交互に入力する。
【0020】
このため、抵抗Rのヒーター110からの発熱量W(t)は、以下の式(1)および式(2)で示されるように、矩形波と直流が重畳した状態(W
0を中心とする振幅ΔWの矩形波)と見なすことができる。
【0022】
この発熱量をタイミングチャートに示すと、
図4(a)のようになる。
【0023】
図4(b)は、
図3に示したタイミングチャートでヒーター110に電圧を印加したときの、試料20と熱浴130との温度差ΔT(t)の時間依存性を示す図である。温度差ΔT(t)は、ヒーター110に第1の電力が印加されている間(0<t<T
0/2)と、ヒーター110に第2の電力が印加されている間(T
0/2<t<T
0)のそれぞれにおいて、以下の指数関数を用いた式(3)および式(4)で表すことができる。ただし、Kは試料20と熱浴130との間の熱伝導度である。また、A
1は式(5)で表すことができる。
【0025】
以下に、算出部160が比熱cの算出に用いる標準曲線の導出例について説明する。標準曲線は、熱緩和時間τおよび周期T
0と振幅ΔT
Rとの関係を示す関数で表される。よって、測定から得られた振幅ΔT
Rと、その振幅ΔT
Rに対応づけられた周期T
0とを標準曲線に当てはめることによって、熱緩和時間τを決定することができる。
【0026】
図4(b)、式(3)、および式(4)で示したΔT(t)は、
図5のような3つの関数g
1(t)、関数g
2(t)、および関数g
3(t)の和で表すことができる。関数g
1(t)は一定であり、式(6)で表すことができる。関数g
2(t)は矩形波関数であり、式(7)および式(8)で表すことができる。関数g
3(t)は指数関数的な振る舞いをする関数であり、式(9)および式(10)で表すことができる。
【0027】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0028】
このように分解された式(3)および式(4)は、式(11)のように周期T
0でフーリエ級数展開できる。これらの係数の決定は解析的に可能であり、式(11)における1次の項、すなわちn=1としたa
1とb
1については、式(12)および式(13)の式を得られる。ただし、D=ΔW/Kである。さらに、n=1に対する、すなわち周期T
0についての、振幅ΔT'
Rは式(14)で表すことができる。以後では、理論上期待される、温度振幅の周期T
0成分を振幅ΔT'
Rとして示し、算出部160で温度データ信号から得る振幅ΔT
Rと区別する。
【0029】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【0030】
式(14)は周期T
0の関数であり、算出部160が熱緩和時間τの算出に用いる標準曲線を示す関数のひとつの例である。算出部160の比熱算出部168において、振幅ΔT
Rと周期T
0とを式(14)に当てはめることによって、熱緩和時間τを決定することができる。
【0031】
ここで、熱緩和時間τは、式(15)で表すことができ、熱伝導度Kは式(16)で表すことができる。ただし、ΔT
AVは試料20の温度と熱浴130の温度との差の時間平均である。
【0033】
式(15)のうち、熱伝導度Kは式(16)で与えられる値である。よって、比熱算出部168では熱緩和時間τと熱伝導度Kとから、式(15)を用いて試料20の比熱cを算出することができる。
【0034】
また、次の方法で熱緩和時間τをより高い精度で算出することができる。第1の電力と第2の電力の大きさを固定したまま、複数の周期T
0でヒーター110へ電力を入力し、各周期T
0に対する振幅ΔT
Rをそれぞれ取得する。周期T
0と振幅ΔT
Rとの組からなる複数の測定点が、標準曲線に合うように熱緩和時間τを求める。この場合、比熱cを高い精度で算出することができる。標準曲線に合うように熱緩和時間τを求めるには、例えば最小自乗法を用いることができる。
図6は標準曲線と測定点の関係の一例を示す図である。グラフ中の実線が標準曲線の、丸印が測定点の例を表す。
【0035】
また、T
0がτ
i<T
0<1.5τの範囲にあるならば、式(14)を式(17)のような3次関数として高い精度で近似することができる。式(17)は標準曲線を示す関数の一例である。標準曲線としては、式(14)を式(17)以外の多次式に近似したものを用いることもできる。
【0037】
以上、本実施形態によれば、少ない労力で、高精度な測定が可能な熱係数測定装置および熱係数測定方法を提供することができる。
【0038】
特許文献1の三角波法では、試料20と熱浴130との温度差の変化を三角波によく近似できる条件として、周期T
0についてT
0<τ/5という制限があることが判明した。一方、微分器法では周期T
0が短い場合に微分信号が矩形波になってしまい、測定感度が低下するという問題があることが分かった。よって、各測定を実施するためには、測定可能な周波数帯で周期T
0が存在するように伝熱部170の形状、長さ、および取り付け方などを調整する必要があった。さらに、微分器法においては、試料20と熱浴130との温度差の変化に対応する微小な信号を微分器に通す前には、増幅器で十分に増幅する必要がある。そのため、装置が大掛かりになり、微分器と増幅器の性能に依存して測定精度に問題が生じやすかった。
【0039】
それに対し、本実施形態によれば、高い精度で測定できる周期T
0の範囲が広いため、伝熱部170を調整する必要が無く、容易に測定ができる。また、試料20と熱浴130との温度差の変化を、三角波に近似したり、微分したりする必要がないため、高い精度で測定ができる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る熱係数測定装置10では、算出部160が、周期T
0と、振幅ΔT
Rと、標準曲線とに加えて、周期T
0に同一の周期における標準曲線上の振幅値に対する振幅ΔT
Rの比率hを用いて、熱緩和時間τと試料系の内部熱緩和時間τ
iを算出する点で第1の実施形態に係る熱係数測定装置10と異なる。
【0041】
試料系の内部熱緩和時間τ
iは、ヒーター110で熱量が発生してから、熱量がヒーター110自身を暖めた後に試料20に伝わり、ヒーター110と試料20の温度が一様になるまでにかかる時間である。
【0042】
周期T
0が短い場合、試料20の温度は三角波的に振る舞い、算出部160で温度データ信号から得た振幅ΔT
Rの、標準曲線上の周期T
0に同一の周期に対する理論上の振幅ΔT'
Rからの乖離が、
図6に示すように顕著になる。このような試料系の内部熱緩和の影響は、T
0<20τ
iで現れ、特にT
0<5τ
iで顕著になる。この乖離の度合いは、振幅ΔT'
Rに対する振幅ΔT
Rの比率hで表される。ここで、本発明者は、比率hが周期T
0と内部熱緩和時間τ
iに依存することを明らかにした。従って、第1の実施形態で用いた標準曲線を比率hで補正した曲線上に、周期T
0に対応づけられた振幅ΔT
Rが合うように比率hを決めることで、熱緩和時間τと内部熱緩和時間τ
iが同時に求められる。
【0043】
比率hは数値計算やモデルなどからτ
i/T
0を変数とする補正関数h(τ
i/T
0)として表される。ただし、h(0)=1および式(18)が成り立つものとする。標準曲線を表す標準関数をg(T
0/τ)とすると、標準関数g(T
0/τ)、補正関数h(τ
i/T
0)、周期T
0に対する振幅ΔT'
R、の関係は式(19)で表される。
【0045】
比率hを示す関数h(τ
i/T
0)を求める方法について説明する。1次元の5個の格子点からなるモデルの熱拡散に関する数値計算を行えば、τ
i/T
0<0.2の場合に用いることのできる補正関数h(τ
i/T
0)として式(20)が得られる。
図7のグラフにおける実線は式(20)を示したものである。このような5個の格子点からなるモデルに基づいて導出された補正関数は実際の系に十分に適応可能である。また、モデルに用いる格子点の数は5個に限らず、より多くの格子点を用いるほど精密な補正関数が求められる。また、1次元熱拡散方程式の近似的な解析解より、τ
i/T
0<0.1の場合に用いることのできる補正関数h(τ
i/T
0)として式(21)が得られる。
【0047】
試料系の内部熱緩和時間τ
iからは、次のように、試料20の内部熱緩和時間τ
sを求めることができる。試料20の内部熱緩和時間τ
sは、試料20の第1面210に熱量が与えられてから、試料20の温度が一様になるまでにかかる時間である。また、ヒーターの内部熱緩和時間τ
hは、ヒーター110で熱量が発生してから、熱量がヒーター110自身を暖め、ヒーター110の温度が一様になるまでにかかる時間である。ここで、τ
i=τ
h+τ
sと表すことができる。ヒーター110の比熱が無視できるほど小さく、かつヒーター110の熱拡散率が非常に大きい場合にはτ
h≒0であるから、τ
i=τ
sとして、試料系の内部熱緩和時間τ
iから試料20の内部熱緩和時間τ
sを得ることができる。
【0048】
試料20の内部熱緩和時間τ
s、熱拡散率α、比熱c、熱伝導率k
sには式(22),(23)の関係がある。尚、Lは第1面210と第2面220の距離、すなわち試料20の厚さであり、ρは試料20の密度である。そのため、本実施形態の方法で算出した試料20の内部熱緩和時間τ
sからは、式(22)を用いて試料20の熱拡散率αを算出することができ、さらに熱拡散率αと比熱cからは、式(23)を用いて熱伝導率k
sを算出することができる。すなわち、試料20についての全ての熱係数を知ることができる。
【0050】
本実施形態では、制御部120はヒーター110に一定の値である第1の電力と、第1の電力とは異なる一定の値である第2の電力とを周期T
0で交互に入力する。このとき、第1の電力と第2の電力の大きさを固定したまま、T
0<10τを満たす周期T
0を含む、複数の周期T
0で順に電力を印加する。第1の実施形態と同様に、温度データ生成部140,150で生成された温度データ信号は算出部160に入力される。
【0051】
図8は本実施形態における算出部160の構成例である。本実施形態の算出部160の構成例は、比熱算出部168で行われる処理内容と、比熱cの他に内部熱緩和時間τ
iを示す信号を出力する点以外は、第1の実施形態における構成と同じである。温度データ信号は、第1の実施形態と同様に周期T
0にそれぞれ対応づけられた振幅ΔT
Rデータに変換され、振幅ΔT
Rデータは振幅データ蓄積部167に蓄積される。比熱算出部168は振幅データ蓄積部167から読み出した複数の振幅ΔT
Rデータとそれぞれに対応づけられた周期T
0と、式(19)に基づき、最小自乗法等を用いて、熱緩和時間τと試料系の内部熱緩和時間τ
iを同時に算出する。このとき、標準関数g(T
0/τ)としては例えば式(14)や式(17)の右辺を用いることができ、補正関数h(τ
i/T
0)としては例えば式(20)や式(21)を用いることができる。算出された熱緩和時間τからは、第1の実施形態の方法と同様の方法で比熱cが算出される。
【0052】
本実施形態の方法で求められる熱緩和時間τは、内部熱緩和時間τ
iを考慮したものとなっており、第1の実施形態の方法で得られる熱緩和時間τより精密な値となる。すなわち、より精密な比熱cが算出される。特に、内部熱緩和時間τ
iが長い場合、たとえばヒーター110と試料20との間に電気的絶縁をとるための絶縁層が存在する場合や、試料20そのものが絶縁体である場合などには、三角波法では精密な測定が難しかったが、本実施形態の方法では高精度に測定できる。
【0053】
また、試料系の内部熱緩和時間τ
iを同時に算出するため、ヒーター110の比熱が無視できるほど小さく、かつヒーター110の熱拡散率が非常に大きい場合には、試料の内部熱緩和時間τ
s、試料の熱拡散率α、熱伝導率k
sを知ることもできる。
【0054】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。本実施形態によれば、算出部160はヒーター110に入力した電力と、試料20の第2面220の温度との、位相差に基づいて試料系の内部熱緩和時間τ
iを算出する。試料20の第2面220は、ヒーター110に取り付けられた第1面210とは反対側の面である。
【0055】
図9は試料20の平均温度と第2面220の温度の時間波形の関係を示した図である。本発明者の1次元熱拡散モデルの解析によれば、5τ
i<T
0<0.2τの条件では、試料20の温度変化に内部熱緩和時間τ
iの影響があらわれ、試料20の空間的な平均温度に対して、第2面220の温度は、周期T
0によらず、時間にしてπ
2τ
i/6遅れて変化する。また、第1の面210の温度と試料20の平均温度との位相は一致する。
【0056】
周期T
0がT
1の場合の、ヒーター110に入力した電力と試料20の第2面220の温度との位相差をθ
1、周期T
0がT
2の場合の、ヒーター110に入力した電力と試料20の第2面220の温度との位相差をθ
2とする。θ
1とθ
2はそれぞれ式(24),式(25)で表され、さらに式(26)が導かれる。
【0058】
図10は本実施形態における熱係数測定装置10と試料20との構成を示す図である。本実施形態では、制御部120はヒーター110に一定の値である第1の電力と、第1の電力とは異なる一定の値である第2の電力とを周期T
0で交互に入力する。このとき、第1の電力と第2の電力の大きさを固定したまま、5τ
i<T
0<0.2τを満たす2つの周期T
0、すなわちT
1とT
2で順に電力を印加する。
【0059】
図11は本実施形態における算出部160の構成例である。算出部160は第1または第2の実施形態の算出部160の構成に加え、位相差算出部163、位相差データ蓄積部165、内部熱緩和時間算出部169を有する。算出部160では第1または第2の実施形態の方法で比熱cが算出される一方、温度データ生成部140で生成された、試料20の第2面220の温度データが位相差算出部163に入力され、制御部120から入力される参照信号との位相差を示す位相差データが取得される。熱浴130の温度は一定に保たれているため、位相差算出部163には温度データの代わりに、温度差算出部161で生成された温度差データを入力しても良い。参照信号は周期T
0の情報を含んでおり、位相差データは周期T
0と関連づけられた形で位相差データ蓄積部165に蓄積される。たとえば、位相差算出部163としてはロックインアンプを用い、制御部120からヒーター110へ入力された電力に同期する信号を参照信号とすることができる。内部熱緩和時間算出部169では、位相差データ蓄積部165から読み出された2つの位相差データと、それぞれの位相差データに対応づけられた周期T
0の情報と、式(26)とに基づいて、試料系の内部熱緩和時間τ
iが算出される。
【0060】
本実施形態によれば、近似を用いないため、第2の実施形態に比べて精度の高い内部熱緩和時間τ
iを得ることができる。さらに、ここで得られた内部熱緩和時間τ
iと、周期T
0と、周期T
0に関連づけられた振幅ΔT
Rと、式(19)とに基づき、最小自乗法を適用することで、熱緩和時間τを高精度に補正することができる。また、第2の実施形態と同様、ヒーター110の比熱が無視できるほど小さく、かつヒーター110の熱拡散率が非常に大きい場合には、試料の内部熱緩和時間τ
s、試料の熱拡散率α、熱伝導率k
sを知ることもできる。
【0061】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0062】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。
図12は実施例における熱係数測定装置10と試料20との構成を示した図である。本実施例では、厚さ50μmの銅板を試料20として、熱緩和時間τの測定を行った。ヒーター110として厚さ13μmの汎用箔ひずみゲージの配線を用いた。ひずみゲージの配線部は絶縁性薄膜30の表面に設けられている。そして、配線部に電力を印加することによってヒーター110として熱量を発生する。本実施例では、ひずみゲージの絶縁性薄膜30側に試料20として0.26mgの銅板を取り付け、配線側に調整銅板180として0.2mgの銅板を取り付けた。調整銅板180とヒーター110である配線部は非常に薄い絶縁層により電気的に絶縁されている。調整銅板180は熱緩和時間τを調整する目的で取り付けたものである。比較例として、一般的な比熱測定法である緩和法を用いた測定を実施するためのものであり、本発明の実施形態の方法においては、調整銅板180は取り付ける必要がない。制御部120としてファンクションジェネレータを、温度データ生成部140,150として熱電対(Type E)を用い、算出部160において温度差データから振幅ΔT
Rデータと位相差データを取得するためにはロックインアンプを用いた。制御部120からヒーター110へ入力された電力に同期した信号を、制御部120から出力させて、ロックインアンプの参照信号とした。ヒーター110の抵抗Rは120Ωであり、熱浴温度は77.796Kとし、V
0=0.22104V、v=0.0037730Vとした。
【0063】
表1はヒーター110に印加した電力の周期T
0と、取得した振幅ΔT
Rおよび位相差θとの関係を示す。これらの値と式(17)に基づき、最小自乗法を適用し、熱緩和時間τは1.66sと算出された。この値は、同じセッティングを使用して緩和法から得た結果であるτ=1.65sとほぼ同じである。熱緩和時間τからは、比熱cが算出できる。
【0065】
試料温度の変動幅は式(27)で示され、以上の結果よりA
1=1.40Kであるから、周期T
0=1sの時に試料温度の変動幅は0.36Kとなる。測定時の試料20の温度変動は小さい方が、ある温度における比熱という意味では測定精度が高くなる。vを小さくすることで、この変動幅をmKオーダーまで小さくすることが可能である。
【0067】
次に、第2の実施形態の方法により、内部熱緩和時間τ
iと熱緩和時間τを算出した。表1に示した周期T
0と振幅ΔT
Rと式(19),(20),(17)に基づき、最小自乗法を適用し、内部熱緩和時間τ
iが5.43msと算出され、また同時に精密化された熱緩和時間τが1.66sと算出された。
【0068】
次に、第3の実施形態の方法により、内部熱緩和時間τ
iを算出した。表1に示したうち、周期T
0を0.10000sおよび0.16667sとした場合の各位相差と、式(26)に基づき、内部熱緩和時間τ
iが5.15msと算出された。これは第2の実施形態の方法で得られた結果τ
i=5.43msに近い。第3の実施形態の方法では近似を用いていないため、ここで得られた内部熱緩和時間τ
iがより精度が高いと考えられる。