特許第6166117号(P6166117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166117
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】金属と炭素繊維との複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 47/20 20060101AFI20170710BHJP
   C22C 47/06 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C22C47/20
   C22C47/06
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-154524(P2013-154524)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-25158(P2015-25158A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】溝 達寛
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−176231(JP,A)
【文献】 特開平09−041054(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/051782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 47/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維がバインダー及び溶剤と混合された混合物を金属箔上に層状に付着させて、金属箔上に混合物層が形成されたプリフォーム箔を得る混合物付着工程と、
前記プリフォーム箔を複数積層してプリフォーム箔積層体を形成するとともに、積層方向の両最外側にそれぞれ金属箔が配置されるように、前記プリフォーム箔又は前記混合物層が形成されていない金属箔を前記プリフォーム箔積層体の積層方向の少なくとも片面に対して積層して、金属箔と混合物層との最終積層体を形成する積層体形成工程と、
前記最終積層体を非酸化雰囲気又は真空中にて前記金属箔の溶融温度よりも低い温度で拡散接合により接合一体化する接合工程と、を具備しており、
前記積層体形成工程では、前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記混合物層に隣接して配置される最外側金属箔の厚さが、両最外側金属箔の間に配置される内側金属箔の厚さよりも厚く設定されていることを特徴とする金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項2】
前記金属箔はアルミニウム箔であり、
前記内側金属箔の厚さは20μm以下であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記混合物層に隣接して配置される最外側金属箔の厚さは30μm以上であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記金属箔に隣接して最外側金属箔が配置される場合には、当該最外側金属箔の厚さは、前記隣接する金属箔の厚さとの合計厚さが30μm以上になるように設定されている請求項記載の金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項3】
前記金属箔は銅箔であり、
前記内側金属箔の厚さは15μm以下であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記混合物層に隣接して配置される最外側金属箔の厚さは20μm以上であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記金属箔に隣接して最外側金属箔が配置される場合には、当該最外側金属箔の厚さは、前記隣接する金属箔の厚さとの合計厚さが20μm以上になるように設定されている請求項記載の金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項4】
前記積層体形成工程の前に、前記プリフォーム箔の前記混合物層を乾燥させる乾燥工程を更に具備している請求項のいずれかに記載の金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と炭素繊維との複合材及びその製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、特に明示しない限り、「アルミニウム」の語はアルミニウム合金も含む意味で用いられ、また「銅」の語は銅合金も含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
金属と炭素繊維との複合材として、例えば特許文献1(特許第5150905号公報)や特許文献2(特許第5145591号公報)に記載されているように、金属層と炭素繊維層とが交互に複数積層されて接合一体化されたものが知られている。この種の複合材は、高い熱伝導特性が必要な部材用の材料としての利用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5150905号公報
【特許文献2】特開第5145591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の複合材では、主に、炭素繊維層を挟んだ両側の金属層のそれぞれの金属が炭素繊維層を通過して相手の金属層中へ熱拡散することにより、両金属層同士が接合されることで、全ての金属層及び炭素繊維層が一体化される。したがって、炭素繊維層はなるべく薄い方が、接合強度が高くなる点で望ましい。
【0006】
また、IC等の半導体素子の熱を放出する放熱用絶縁基板の構成層としてこの種の複合材を用いる場合には、複合材と絶縁基板に含まれたセラミック層との間の線膨張係数差に起因する熱応力によって割れや剥離が発生しないようにするため、複合材の線膨張係数はなるべく小さい方が望ましい。ここで、一般に炭素繊維の線膨張係数は金属の線膨張係数よりも小さい。したがって、複合体における炭素繊維の含有量(例:炭素繊維の体積含有率)はなるべく多い方が、複合材の線膨張係数を小さくできる点で望ましい。
【0007】
さらに、一般に炭素繊維の熱伝導率は金属のそれよりも高い。したがって、複合材における炭素繊維の含有量はなるべく多い方が、複合材の熱伝導率を高くできる(即ち放熱特性を向上できる)点で望ましい。
【0008】
したがって、接合強度を高めるとともに複合材の線膨張係数を小さくし更に複合材の熱伝導率を高くするためには、炭素繊維層をなるべく薄くするとともに炭素繊維の含有量をなるべく多くするのが望ましく、こうするためには、金属層と炭素繊維層をともに薄くして積層させるのが良い。
【0009】
ところが、金属層を薄くすると次のような問題が発生する。
【0010】
すなわち、薄い金属層が複合材の最外側に配置されると、複合材の外面の機械的強度が低下する。その結果、複合材の外面に傷が付いた場合、この傷部から炭素繊維が露出するとともにこの傷部から金属層が簡単に剥がれるという表面欠陥が生じる。しかも、複合材の積層方向の最外側に配置された金属層の厚さが炭素繊維の直径寸法に近づいて当該最外側金属層が炭素繊維の形状に対応するように歪んでしまい、その結果、複合材の外面が非常に傷つき易くなって上述の表面欠陥が益々生じ易くなる。
【0011】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、高い熱伝導率と小さな線膨張係数を有するとともに、外面の機械的強度が高い、金属と炭素繊維との複合材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の手段を提供する。
【0013】
[1] 金属層と炭素繊維層が交互に且つ積層方向の両最外側にそれぞれ金属層が配置される態様にして複数積層されるとともに、これらの層が拡散接合により接合一体化されたものであり、
前記最外側金属層の厚さは、前記両最外側金属層の間に配置された内側金属層の厚さよりも厚く設定されていることを特徴とする金属と炭素繊維との複合材。
【0014】
[2] 前記金属層はアルミニウムで形成されており、
前記内側金属層の厚さは20μm以下であり、
前記最外側金属層の厚さは30μm以上である前項1記載の金属と炭素繊維との複合材。
【0015】
[3] 前記金属層は銅で形成されており、
前記内側金属層の厚さは15μm以下であり、
前記最外側金属層の厚さは20μm以上である前項1記載の金属と炭素繊維との複合材。
【0016】
[4] 炭素繊維がバインダー及び溶剤と混合された混合物を金属箔上に層状に付着させて、金属箔上に混合物層が形成されたプリフォーム箔を得る混合物付着工程と、
前記プリフォーム箔を複数積層してプリフォーム箔積層体を形成するとともに、積層方向の両最外側にそれぞれ金属箔が配置されるように、前記プリフォーム箔又は前記混合物層が形成されていない金属箔を前記プリフォーム箔積層体の積層方向の少なくとも片面に対して積層して、金属箔と混合物層との最終積層体を形成する積層体形成工程と、
前記最終積層体を非酸化雰囲気又は真空中にて前記金属箔の溶融温度よりも低い温度で拡散接合により接合一体化する接合工程と、を具備しており、
前記積層体形成工程では、前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記混合物層に隣接して配置される最外側金属箔の厚さが、両最外側金属箔の間に配置される内側金属箔の厚さよりも厚く設定されていることを特徴とする金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【0017】
[5] 前記金属箔はアルミニウム箔であり、
前記内側金属箔の厚さは20μm以下であり、
前記プリフォーム箔の前記混合物層に隣接して配置される最外側金属箔の厚さは30μm以上であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記金属箔に隣接して最外側金属箔が配置される場合には、当該最外側金属箔の厚さは、前記隣接する金属箔の厚さとの合計厚さが30μm以上になるように設定されている前項4記載の金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【0018】
[6] 前記金属箔は銅箔であり、
前記内側金属箔の厚さは15μm以下であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記混合物に隣接して配置される最外側金属箔の厚さは20μm以上であり、
前記最終積層体における前記プリフォーム箔の前記金属箔に隣接して最外側金属箔が配置される場合には、当該最外側金属箔の厚さは、前記隣接する金属箔の厚さとの合計厚さが20μm以上になるように設定されている前項4記載の金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【0019】
[7] 前記積層体形成工程の前に、前記プリフォーム箔の前記混合物層を乾燥させる乾燥工程を更に具備している前項4〜6のいずれかに記載の金属と炭素繊維との複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以下の効果を奏する。
【0021】
前項[1]の複合材では、金属層と炭素繊維層が交互に複数積層された構造を有している。これにより、複合材の熱伝導率を高くすることができるし、複合材の線膨張係数を小さくすることができる。さらに、最外側金属層の厚さが内側金属層の厚さよりも厚く設定されているので、複合材の積層方向の外面の機械的強度が高く、したがって表面欠陥の発生を防止することができる。
【0022】
前項[2]では、前項[1]の複合材による上記効果を確実に奏し得るアルミニウムと炭素繊維との複合材を提供できる。
【0023】
前項[3]では、前項[1]の複合材による上記効果を確実に奏し得る銅と炭素繊維との複合材を提供できる。
【0024】
前項[4]の複合材の製造方法では、前項[1]の複合材を確実に製造することができる。さらに、接合工程では、最終積層体を非酸化雰囲気又は真空中にて金属箔の溶融温度よりも低い温度で拡散接合により接合一体化することにより、金属箔の金属と炭素繊維との化学反応による金属炭化物の生成を防止できる。これにより、金属炭化物の生成に伴う複合材の特性変化を防止できる。
【0025】
前項[5]では、前項[2]の複合材を確実に製造することができる。さらに、金属炭化物として炭化アルミニウム(Al)の生成を防止できる。ここで、炭化アルミニウムは水や空気中の水分と反応して炭化水素ガス(例:メタンガス)を生じたり金属酸化物に変質したりするため、炭化アルミニウムの生成は複合材の内部欠陥の発生原因となる。したがって、炭化アルミニウムはできる限り生成されさないことが望ましい。しかるに、前項[5]では、上述したように炭化アルミニウムの生成が防止されるので、炭化アルミニウムの生成による内部欠陥が発生しない複合材を得ることができ、
前項[6]では、前項[3]の複合材を確実に製造することができる。
【0026】
前項[7]では、複合材をより強固に接合一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る、金属と炭素繊維との複合材の断面図である。
図2A図2Aは、同複合材の製造工程を示すブロック図である。
図2B図2Bは、同複合材の製造工程を説明する概略図である。
図3図3は、同複合材を得るための最終積層体を形成する途中の状態を示す断面図である。
図4図4は、同最終積層体を放電プラズマ焼結法により接合一体化する途中の状態を示す断面図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る、金属と炭素繊維との複合材の断面図である。
図6図6は、同複合材を得るための最終積層体を形成する途中の状態を示す断面図である。
図7図7は、本発明の第3実施形態に係る、金属と炭素繊維との複合材の断面図である。
図8図8は、同複合材を得るための最終積層体を形成する途中の状態を示す断面図である。
図9図9は、本発明の第4実施形態に係る、金属と炭素繊維との複合材の断面図である。
図10図10は、同複合材を得るための最終積層体を形成する途中の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0029】
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る金属と炭素繊維との複合材1Aは、金属層2と炭素繊維層3が交互に且つ積層方向の両最外側にそれぞれ金属層2a、2bが配置される態様にして複数積層されており、更に、これらの層2、3が拡散接合により接合一体化されたものである。なお図面では、炭素繊維層3は金属層2と区別するためドットハッチングで示されている。
【0030】
ここで、本第1実施形態の複合材1Aでは、説明の便宜上、積層方向を上下方向に設定している。さらに、複合材1Aの厚さ方向を積層方向に設定している。ただし本発明は、積層方向を上下方向に設定することに限定されるものではなく、前後方向や左右方向などの任意の方向に設定することができる。
【0031】
さらに、第1実施形態の複合材1Aでは、全ての金属層2のうち積層方向(即ち上下方向)の両最外側の一方側としての最上側に配置された金属層2を特に「最上側金属層2a」及び他方側としての最下側に配置された金属層2を特に「最下側金属層2b」といい、更に、最上側金属層2aと最下側金属層2bとの間に配置された金属層2を特に「内側金属層2c」という。
【0032】
この複合材1Aの長さは例えば10〜300mm、その幅は例えば10〜200mm、その厚さ(即ち積層方向の厚さ)は例えば0.5〜20mmの範囲に設定されている。ただし本発明では、複合材1Aの大きさ(長さ、幅、厚さ)はこのような範囲内に設定されることに限定されるものではなく、複合材1Aの用途などに応じて様々に設定されるものである。
【0033】
この複合材1Aでは、炭素繊維層3を挟んだ両側の金属層2、2のそれぞれの金属が炭素繊維層3を通過して相手の金属層2中へ熱拡散することにより、両金属層2、2同士が接合されており、その結果、全ての金属層2及び炭素繊維層3が一体化されている。
【0034】
金属層2を形成する金属は限定されるものではないが、特にアルミニウム又は銅であることが望ましく、こうすることにより、複合材1Aの熱伝導率を確実に高めることができる。
【0035】
本第1実施形態では、全ての金属層2は同種の金属で形成されており、具体的にはアルミニウムで形成されているか又は銅で形成されているとして以下に説明する。
【0036】
炭素繊維層3を形成する炭素繊維40(図2B参照)は、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維及びカーボンナノチューブ類(例えば、気相成長カーボンナノファイバー、シングルウォールカーボンナノファイバー、マルチウォールカーボンナノチューブ)からなる群より選択される1種の繊維径0.1nm〜20μm及び繊維長0.5μm〜1.0mmの短炭素繊維であるか又は2種以上の繊維径0.1nm〜20μm及び繊維長0.5μm〜1.0mmの混合短炭素繊維であることが望ましい。特に、PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維についてはチョップドファイバー又はミルドファイバーであって繊維径5〜15μm及び繊維長50μm〜1mmのものであることが望ましく、更に、気相成長カーボンナノファイバーについては繊維径0.1nm〜20μm及び繊維長0.5μm〜1mmのものであることが望ましく、こうすることにより、炭素繊維40がバインダー41及び溶剤42と混合された混合物45を確実に塗料液化することができる。
【0037】
また、炭素繊維層3では、炭素繊維40が積層方向に対し垂直方向(即ち面方向)に配向した状態に配置されている。
【0038】
ここで、炭素繊維層3は炭素繊維40を主体として形成されたものである。具体的には、炭素繊維層3は、炭素繊維40だけで形成されていても良いし、炭素繊維40と後述するバインダー41とで形成されていても良いし、バインダー41の乾燥残留物と炭素繊維40とで形成されていても良いし、バインダー41の燃焼残渣と炭素繊維40とで形成されていても良い。さらに、炭素繊維層3は、バインダー41が乾燥又は燃焼することで残った炭素繊維40だけで形成されていても良い。
【0039】
本第1実施形態の複合材1Aでは、金属層2と炭素繊維層3が交互に複数積層された構造を有している。これにより、複合材1Aの線膨張係数は小さく且つ複合材1Aの熱伝導率は高くなっている。さらに、最上側金属層2a及び最下側金属層2bの厚さはそれぞれ各内側金属層2cの厚さよりも厚く設定されている。これにより、複合材1Aの上面1a及び下面1b(即ち複合材1Aの積層方向の両外面)の機械的強度が高くなっており、したがって上下各面1a、1bが傷付くことによる表面欠陥(炭素繊維層3の露出、最外側金層層2a、2bの剥がれ等)の発生を防止することができる。しかも、最上側金属層2a及び最下側金属層2bだけが厚いので、複合材1Aの線膨張係数の増大及び熱伝導率の低下を極力抑制することができる。
【0040】
金属層2の望ましい厚さは以下のとおりである。
【0041】
金属層2がアルミニウムで形成されている場合、各内側金属層2cの厚さは20μm以下であり且つ最上側金属層2a及び最下側金属層2bの厚さはそれぞれ30μm以上(特に望ましくは50μm以上)であることが望ましく、こうすることにより、複合材1Aの線膨張係数を小さく且つ熱伝導率を高めた状態で表面欠陥の発生を確実に防止できる。各内側金属層2cの厚さの下限は限定されるものではないが、特に10μmであることが望ましく、こうすることにより、炭素繊維層3を挟んだ両側の金属層2、2同士を強固に拡散接合により接合することができて接合強度を確実に高めることができる。最上側金属層2a及び最下側金属層2bの厚さの上限は限定されるものではなく、例えば10mmに設定される。
【0042】
金属層2を形成するアルミニウムとしては、箔になりうるアルミニウムであれば何でも用いることができ、例えば、純アルミニウム、JIS(日本工業規格)合金記号A1000、A3000、A8000番系のアルミニウムが好適に用いられる。
【0043】
金属層2が銅で形成されている場合、各内側金属層2cの厚さは15μm以下であり且つ最上側金属層2a及び最下側金属層2bの厚さはそれぞれ20μm以上(特に望ましくは30μm以上)であることが望ましく、こうすることにより、複合材1Aの線膨張係数を小さく且つ熱伝導率を高めた状態で表面欠陥の発生を確実に防止できる。各内側金属層2cの厚さの下限は限定されるものではないが、特に6μmであることが望ましく、こうすることにより、炭素繊維層3を挟んだ両側の金属層2、2同士を強固に拡散接合により接合することができて接合強度を確実に高めることができる。最上側金属層2a及び最下側金属層2bの厚さの上限は限定されるものではなく、例えば10mmに設定される。
【0044】
金属層2を形成する銅としては、圧延銅や電解銅などが用いられる。すなわち、金属層2は圧延銅箔や電解銅箔などから形成される。
【0045】
複合材1Aにおける最上側金属層2a及び最下側金属層2bを除いた炭素繊維40の体積含有率(以下、単に「炭素繊維の体積含有率Vf」と記する)については、炭素繊維40の種類や複合材1Aの用途に応じて様々に設定されるものであるが、特に30〜50体積%の範囲に設定されることが望ましい。このように炭素繊維の体積含有率Vf及び炭素繊維層3の厚さを設定することにより、接合強度を確実に高めることができるし複合材1Aの線膨張係数を確実に小さくすることができるし複合材1Aの熱伝導率を確実に高めることができる。
【0046】
複合材1Aにおける内側金属層2cの数及び炭素繊維層3の数はそれぞれ限定されるものではなく、複合材1Aの用途に応じて様々に設定されるものであり、内側金属層2cの数は1層以上で炭素繊維層3の数は2層以上であれば良い。また、内側金属層2cの数の上限及び炭素繊維層3の数の上限についてもそれぞれ限定されるものではなく、例えば数千層(例:3000層)であっても良い。
【0047】
この複合材1Aでは、各内側金属層2cは1枚の金属箔12から形成された層である。両最外側金属層2a、2bのうち最上側金属層2aは1枚の金属箔12aから形成された層であり、一方、最下側金属層2bは互いに積層された複数枚としての2枚の金属箔12、12b同士が拡散接合により接合一体化されて形成された層である。
【0048】
次に、本第1実施形態の複合材1Aの製造方法について図2A〜4を参照して以下に説明する。
【0049】
本第1実施形態の複合材1Aの製造方法は、図2Aに示すように、混合物付着工程S1、乾燥工程S2、積層体形成工程S3、接合工程S4などを具備している。
【0050】
混合物付着工程S1は、図2Bに示すように、炭素繊維40がバインダー41及び溶剤42と混合されてなる塗料液としての混合物45を金属箔12上として金属箔12の両面のうち少なくとも片面上に層状に付着させ、これにより、金属箔12の少なくとも片面上に混合物層13が形成されたプリフォーム箔20を得る工程である。本第1実施形態では、混合物45は金属箔12の片面としての上面上にその略全面に亘って層状に付着されており、したがって、プリフォーム箔20は金属箔12の上面上にその略全面に亘って混合物層13が形成されたものである。
【0051】
ここで、複合材1Aの金属層2がアルミニウムで形成される場合、金属箔12としてアルミニウム箔が用いられる。複合材1Aの金属層2が銅で形成される場合、金属箔12として銅箔が用いられる。金属箔12の望ましい厚さについては後述する。
【0052】
バインダー41としては、ポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン)、アクリル等の樹脂が好適に用いられる。その溶剤42としては、水、アルコール(例:メタノール)、グリコール系溶剤(例:エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールのエーテル類(セロソルブ)、アセテート類、ジエチレングリコールのエーテル類、アセテート類、プロピレングリコールのエーテル類、アセテート類)等が用いられる。
【0053】
図2Bに示すように、混合物付着工程S1では、炭素繊維40、バインダー41及び溶剤42を混合容器49内に入れてこれらを撹拌器(例:ミキサー)48により撹拌混合し、これにより、炭素繊維40を含有した混合物45を塗料液として得る。このとき、炭素繊維40だけではなく更に金属箔12(金属層2)の金属と同種の金属粒子(その粒径:1〜150μm)も混合しても良い。さらに、混合物(塗料液)45の調整用の分散剤、表面調整剤、増粘剤なども混合しても良い。
【0054】
次いで、塗工装置50を用いて混合物45を金属箔12の上面上にその略全面に亘って層状に付着(塗布)させる。混合物45の付着量は限定されるものではないが、望ましくは、後述する乾燥工程S2で混合物45を乾燥させた後の状態で20〜50g/mの範囲になるように設定するのが良い。
【0055】
塗工装置50としてはロールコーター、グラビアコーター等が用いられる。図2Bに示した塗工装置50では、巻出しロール51から巻き出された金属箔12の条材12Aが塗布ロールユニット52及び乾燥炉55を順次通過して巻取りロール53で巻き取られる。混合物45の付着は、塗布ロールユニット52で行われる。すなわち、巻出しロール51から巻き出された金属箔12の条材12Aは、塗布ロールユニット52を通過する際にその上面上に塗布ロールユニット52により混合物45が層状に付着されて、混合物層13が形成されたプリフォーム箔20の条材20Aとなり、そして乾燥炉55を通過したのち巻取りロール53で巻き取られる。なお、塗布ロールユニット52は、混合物用パン52a、ピックアップロール52b、アプリケーターロール52c、バックアップロール52d等を備えている。
【0056】
乾燥工程S2は、プリフォーム箔20の混合物層13を乾燥させる工程である。本第1実施形態では、混合物層13の乾燥は上述した塗工装置50の乾燥炉55(例:熱風式乾燥炉)により行われる。
【0057】
混合物層13の乾燥条件は、混合物層13中に含まれる溶剤成分を混合物層13から蒸発除去可能な条件であれば限定されるものではないが、特に、乾燥温度80〜180℃及び乾燥時間1〜10minの条件が適用されることが多い。この乾燥工程S2によってプリフォーム箔20の混合物層13中の溶剤成分が蒸発除去されて、混合物層13中には主に炭素繊維40が残存し、即ち混合物層13は炭素繊維主体の層となる。
【0058】
積層体形成工程S3は、金属箔12と混合物層13との最終積層体30Aを形成する工程である。この工程S3では、まず乾燥工程S2で混合物層13が乾燥されて巻取りロール53で巻き取られたプリフォーム箔20の条材20Aから所定形状(例:四角形状)のプリフォーム箔20を複数切り出す。そして、プリフォーム箔20を図3に示すように同じ向きにして上下方向に複数積層してプリフォーム箔積層体25を形成(製作)するとともに、混合物層13が形成されていない金属箔12を最上側金属箔12a及び最下側金属箔12bとしてプリフォーム箔積層体25の上面及び下面に対してそれぞれ積層する。これにより、金属箔12と混合物層13との最終積層体30Aが形成(製作)される。この最終積層体30Aでは、上下方向(即ち積層方向)の最上側と最下側にはそれぞれ混合物層13が形成されていない金属箔12が配置されている。互いに積層される複数のプリフォーム箔20の形状及び寸法は、互いに同形及び同寸である。
【0059】
また、この最終積層体30Aでは、最上側金属箔12aはプリフォーム箔20の混合物層13にその上側に隣接して配置されており、一方、最下側金属箔12bはプリフォーム箔20の金属箔12にその下側に隣接して配置されている。
【0060】
接合工程S4は、最終積層体30A(詳述すると、最終積層体30Aを形成する全ての箔(即ち、全てのプリフォーム箔20、最上側金属箔12a及び最下側金属箔12b))を非酸化雰囲気又は真空中にて金属箔12の溶融温度(即ち金属箔12の融点)よりも低い接合温度で拡散接合により接合一体化する工程である。拡散接合としては放電プラズマ焼結法(SPS法)、ホットプレス法、熱圧延ロール法等が用いられる。本第1実施形態では、拡散接合として放電プラズマ焼結法が用いられる。
【0061】
最終積層体30Aを放電プラズマ焼結法により接合一体化する方法について以下に説明する。
【0062】
図4に示すように、導電性を有する筒状ダイ61、導電性を有する一対のパンチ62、62などを備えた放電プラズマ焼結装置60を準備する。各パンチ62には電極63が電気的に接続されている。ダイ61内に最終積層体30Aを配置するとともに最終積層体30Aの積層方向の両側にそれぞれパンチ62を配置する。そして、不活性ガス(例:窒素ガス、アルゴンガス)雰囲気等の非酸化性雰囲気又は真空(真空度:例えば1〜30Pa)中にて両パンチ62、62で最終積層体30Aを積層方向に加圧しつつ両パンチ62、62間にパルス電流を通電することにより、最終積層体30A(詳述すると、最終積層体30Aを形成する全ての箔(即ち、全てのプリフォーム箔20、最上側金属箔12a及び最下側金属箔12b))を接合一体化する。これにより、図1に示した所望する複合材1Aを得る。
【0063】
放電プラズマ焼結法による好ましい接合条件は以下のとおりである。
【0064】
金属箔12がアルミニウム箔である場合には、接合温度は450〜600℃、接合時間(即ち接合温度の保持時間)は10〜300min、最終積層体30Aへの加圧力10〜40MPaの範囲に設定されるのが良い。金属箔12が銅箔である場合には、接合温度は800〜1000℃、接合温度の保持時間は10〜300min、最終積層体30Aへの加圧力は10〜40MPaの範囲に設定されるのが良い。
【0065】
この接合工程S4では、混合物層13から炭素繊維層3が形成され、また混合物層13を挟んだ両側の金属箔12、12からそれぞれ金属層2、2が形成されるとともに、両金属層2、2(両金属箔12、12)のそれぞれの金属が接合時の熱によって炭素繊維層3(混合物層13)を通過して相手の金属層2(金属箔12)中へ熱拡散することにより、両金属層2、2(両金属箔12、12)同士が接合される。さらに、最下側金属箔12bとこれに隣接するプリフォーム箔20の金属箔12とが直接的に接合一体化されて、1つの最下側金属層2bが形成される。
【0066】
ここで上述したように、炭素繊維層3には、バインダー41、バインダー41の乾燥残留物、バインダー41の燃焼残渣などが残存していても良いし、あるいは、バインダー41が乾燥又は燃焼することにより完全に除去されて炭素繊維40だけが残存していても良い。
【0067】
以上の複合材1Aの製造方法において、積層体形成工程S3では、最上側金属箔12a及び最下側金属箔12bの間に、複数のプリフォーム箔20が積層されて配置されている。プリフォーム箔20の金属箔12がアルミニウム箔である場合、上述した理由によりアルミニウム箔の厚さは20μm以下であることが望ましく、またその厚さの下限は10μmであることが望ましい。プリフォーム箔20の金属箔12が銅箔である場合、上述した理由により銅箔の厚さは15μm以下であることが望ましく、また厚さの下限は6μmであることが望ましい。
【0068】
最上側金属箔12a及び最下側金属箔12bのうちプリフォーム箔20の混合物層13に隣接して配置される最上側金属箔12aの厚さは、プリフォーム箔20の金属箔12の厚さよりも厚く設定されている。
【0069】
金属箔12がアルミニウム箔である場合、上述した理由により最上側金属箔12aの厚さは30μm以上(特に望ましくは50μm以上)であることが望ましい。最上側金属箔12aの厚さの上限は限定されるものではなく、例えば10mmに設定される。一方、最上側金属箔12aが銅箔である場合、上述した理由により最上側金属箔12aの厚さは20μm以上(特に望ましくは30μm以上)であることが望ましい。最上側金属箔12aの厚さの上限は限定されるものではなく、例えば10mmに設定される。
【0070】
最上側金属箔12a及び最下側金属箔12bのうちプリフォーム箔20の金属箔12に隣接して配置される最下側金属箔12bは、上述したように当該最下側金属箔12bに隣接して配置される金属箔12と接合一体化されて、1つの最下側金属層2bが形成され、その結果、その厚さがプリフォーム箔20の金属箔12(即ち内側金属箔12c)の厚さよりも厚くなる。したがって、最下側金属層2bの厚さを内側金属層2cの厚さよりも厚くするための最下側金属箔12bの厚さの下限は限定されるものではない。しかるに、金属箔12がアルミニウム箔である場合、上述した理由により、最下側金属箔12bの厚さは、当該最下側金属箔12bの厚さと隣接する金属箔12(即ち内側金属箔12c)の厚さとの合計厚さが30μm以上(特に望ましくは50μm以上)になるように設定されるのが望ましい。すなわち、例えば、最下側金属箔12bと隣接する金属箔12(内側金属箔12c)の厚さが10μmである場合、最下側金属箔12bの厚さは20μm以上(特に望ましくは40μm以上)であることが望ましい。一方、金属箔12が銅箔である場合、上述した理由により、最下側金属箔12bの厚さは、当該最下側金属箔12bの厚さと隣接する金属箔(即ち内側金属箔12c)の厚さとの合計厚さが20μm以上(特に望ましくは30μm以上)になるように設定されるのが望ましい。すなわち、例えば、最下側金属箔12bと隣接する金属箔12(内側金属箔12c)の厚さが6μmである場合、最下側金属箔12bの厚さは14μm以上(特に望ましくは24μm以上)であることが望ましい。
【0071】
上記第1実施形態の複合材1Aの製造方法によれば、接合工程S4では、最終積層体30Aを非酸化雰囲気又は真空中にて金属箔12の溶融温度よりも低い温度で拡散接合により接合一体化するので、金属箔12の金属と炭素繊維40との化学反応による金属炭化物の生成を防止できる。これにより、金属炭化物の生成に伴う複合材1Aの特性変化を防止できる。特に、金属箔12がアルミニウム箔である場合には、金属炭化物として炭化アルミニウム(Al)の生成を防止できる。そのため、炭化アルミニウムの生成による内部欠陥が発生しない複合材1Aを得ることができ、これにより、複合材1Aの機械的強度及び熱伝導率を良好な状態に維持することができる。
【0072】
さらに、乾燥工程S2で混合物層13が乾燥されて混合物層13中の液成分が除去されているので、接合工程S4において最終積層体30Aをより強固に接合一体化することができる。
【0073】
図5及び6は、本発明の第2実施形態の金属と炭素繊維との複合材1Bを説明する図である。以下では、本第2実施形態について上記第1実施形態との相異点を中心に説明する。
【0074】
本第2実施形態の複合材1Bの製造方法では、図6に示すように、金属箔12上に混合物層13が形成された複数のプリフォーム箔20のうち、最下側に配置されるプリフォーム箔20の金属箔12の厚さは、他のプリフォーム箔20の金属箔12の厚さよりも厚くなっている。このプリフォーム箔20を説明の便宜上、特に「厚肉プリフォーム箔20b」という。なお、この厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12が最下側金属箔12bに対応している。
【0075】
積層体形成工程S3では、プリフォーム箔20を複数積層してプリフォーム箔積層体25を形成するとともに、混合物層13が形成されていない金属箔12を最上側金属箔12aとしてプリフォーム箔積層体25の上面に対して積層し、且つ、厚肉プリフォーム箔20bを最下側に厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12が配置されるようにプリフォーム箔積層体25の下面に対して積層する。これにより、金属箔12と混合物層13との最終積層体30Bを形成する。この最終積層体30Bでは、上下方向(即ち積層方向)の最上側には混合物層13が形成されていない金属箔12が配置されており、一方、最下側には厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12が最下側金属箔12bとして配置されている。
【0076】
次いで、接合工程S4において、最終積層体30B(詳述すると、最終積層体30Bを形成する全ての箔(即ち、全てのプリフォーム箔20、20b、最上側金属箔12a))を非酸化雰囲気又は真空中にて金属箔12の溶融温度よりも低い温度で拡散接合により接合一体化する。
【0077】
本第2実施形態におけるその他の構成は、上記第1実施形態と同じである。
【0078】
ここで、上記第1実施形態の複合材1Aでは、最下側金属層2bは、上述したように、最下側金属箔12bとこれに隣接するプリフォーム箔20の金属箔12とが直接的に接合一体化されて形成されたものである(図1参照)。これに対し、本第2実施形態の複合材1Bでは、最下側金属層2bは厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12だけで形成されている(図5参照)。
【0079】
図7及び8は、本発明の第3実施形態の金属と炭素繊維との複合材1Cを説明する図である。以下では、本第3実施形態について上記第1及び第2実施形態との相異点を中心に説明する。
【0080】
本第3実施形態の複合材1Cは、図7に示すように、3層の金属層2(その内訳:2層の最外側金属層2a、2b及び1層の内側金属層2c)と2層の炭素繊維層3とで形成されている。そして、上記第1実施形態の複合材1Aと同様に、内側金属層2cは1枚の金属箔12から形成された層である。両最外側金属層2a、2bのうち最上側金属層2aは1枚の金属箔12aから形成された層であり、一方、最下側金属層2bは、最下側金属箔12bとこれに隣接するプリフォーム箔20の金属箔12とが直接的に接合一体化されて形成されたものである(図8参照)。
【0081】
本第3実施形態の複合材1Cは、図8に示すように、2枚のプリフォーム箔20と、混合物層13が形成されていない1枚の最上側金属箔12aとしての金属箔12aと、混合物層13が形成されていない1枚の最下側金属箔12bとしての金属箔12bとを用いて、上記第1実施形態の複合材1Aの製造方法と同じ方法で製造される。
【0082】
図9及び10は、本発明の第4実施形態の金属と炭素繊維との複合材1Dを説明する図である。以下では、本第4実施形態について上記第1〜第3実施形態との相異点を中心に説明する。
【0083】
本第4実施形態の複合材1Dは、図9に示すように、上記第3実施形態の複合材1Cと同様に、3層の金属層2(その内訳:2層の最外側金属層2a、2b及び1層の内側金属層2c)と2層の炭素繊維層3とで形成されている。そして、上記第2実施形態の複合材1Aと同様に、内側金属層2cは1枚の金属箔12から形成された層である。両最外側金属層2a、2bのうち最上側金属層2aは1枚の金属箔12aから形成された層であり、一方、最下側金属層2bは厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12だけで形成されている(図10参照)。
【0084】
本第4実施形態の複合材1Dの製造方法における積層体形成工程S3では、図10に示すように、2枚のプリフォーム箔20、20bを厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12が上下方向(即ち積層方向)の最下側に配置されるように積層してプリフォーム箔積層体25を形成するとともに、混合物層13が形成されていない金属箔12を最上側金属箔12aとしてプリフォーム箔積層体25の上面に対して積層する。これにより、金属箔12と混合物層13との最終積層体30Dを形成する。この最終積層体30Dでは、上下方向(即ち積層方向)の最上側には混合物層13が形成されていない金属箔12が配置されており、一方、最下側には厚肉プリフォーム箔20bの金属箔12が最下側金属箔12bとして配置されている。
【0085】
次いで、接合工程S4において、最終積層体30D(詳述すると、最終積層体30Aを形成する全ての箔(即ち、全てのプリフォーム箔20、20b及び最上側金属箔12a))を非酸化雰囲気又は真空中にて金属箔12の溶融温度よりも低い温度で拡散接合により接合一体化する。
【0086】
本第4実施形態におけるその他の構成は、上記第1及び第2実施形態と同じである。
【0087】
以上で、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々に変更可能である。
【0088】
また本発明では、最外側金属層の外面に、チタン、ステンレス鋼、ニッケル等を貼り合わせることで外面について耐腐食性を向上させても良いし、亜鉛等を貼り合わせることで外面についてメッキ性を向上させても良い。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に説明する。
【0090】
<実施例>
図1に示した上記第1実施形態の金属と炭素繊維との複合材1Aを、以下の手順で製造した。
【0091】
炭素繊維40として炭素繊維ミルドファイバー(日本グラファイトファイバー(株)製:XN−100)10gとメタノール50mlと分散剤としてポリビニルアセトアミド(昭和電工(株)製:PNVA(登録商標))0.2gとをミキサーにより混合分散し、炭素繊維分散液を得た。
【0092】
また、バインダー樹脂41としてポリオキシエチレン(明成化学工業(株)製:アルコックス(登録商標)E−45)とその溶剤42とを質量比0.2:1で混合した混合液2gを、炭素繊維分散液に添加して撹拌混合し、これにより、塗料液としての混合物45を得た。溶剤42としてはメタノール−水(体積比1:1)溶液を用いた。
【0093】
次いで、金属箔として厚さ15μmのアルミニウム箔(材質:JIS合金記号A1N30)12の条材12Aの上面上にその全面に亘って混合物45を100g/mの付着量で層状に付着(塗布)させ、これにより、混合物層13がアルミニウム箔12の上面上に形成されたプリフォーム箔20の条材20Aを得た。なお、このアルミニウム箔12の融点は680℃である。そして、プリフォーム箔20の条材20Aの混合物層13を乾燥温度100℃×乾燥時間10minの条件で乾燥させ、その結果、乾燥後の混合物層13の付着量が約20g/mになった。
【0094】
次いで、プリフォーム箔20の条材20Aから方形状のプリフォーム箔(その寸法:縦50mm及び横50mm)20を複数切り出した。そして、プリフォーム箔20を同じ向きにして上下方向に80枚積層してプリフォーム箔積層体25を形成するとともに、混合物層13が形成されていない厚さ30μmのアルミニウム箔(材質:A1N30)12を最上側アルミニウム箔12aとしてプリフォーム箔積層体25の上面に対して積層し、且つ、混合物層13が形成されていない厚さ15μmのアルミニウム箔(材質:A1N30)12を最下側アルミニウム箔12bとしてプリフォーム箔積層体25の下面に対して積層した。これにより、アルミニウム箔12と混合物層13との最終積層体30Aを得た。
【0095】
そして、放電プラズマ焼結装置60を用いて最終積層体30A(詳述すると、最終積層体30Aを形成する全ての箔(即ち、全てのプリフォーム箔12、最上側アルミニウム箔12a及び最下側アルミニウム箔12b))を真空中にて放電プラズマ焼結法により接合一体化し、これにより、金属と炭素繊維との複合材1Aを製造した。この際の接合条件は、接合温度550℃、接合時間3h、最終積層体30Aへの加圧力30MPa、真空度10Paである。
【0096】
得られた複合材1Aの特性は、比重2.54、積層方向に対し垂直方向の熱伝導率300W/(m・K)、積層方向に対し垂直方向の線膨張係数1.6×10−6/Kであった。
【0097】
そして、得られた複合材1Aについて機械的強度を評価するため、複合材1Aの上面1aを金属へらで擦ったところ、上面1aに傷は付いたが最上側アルミニウム層2aは破壊されず表面欠陥は生じなかった。したがって、複合材1Aの上面1aの機械的強度が高いことを確認し得た。
【0098】
<比較例>
上記実施例と同じ方法で製作したプリフォーム箔20の条材20Aからプリフォーム箔20を複数切り出した。そして、プリフォーム箔20を同じ向きにして上下方向に80枚積層するとともに、混合物層13が形成されていない厚さ15μmのアルミニウム箔(材質:A1N30)12を最上側アルミニウム箔12aとしてプリフォーム箔積層体25の上面に対して積層し、一方、プリフォーム箔積層体25の下面に対しては何ら積層しなかった。これにより、アルミニウム箔と混合物層との最終積層体を得た。
【0099】
次いで、最終積層体を上記実施例と同じ接合条件で放電プラズマ焼結法により接合一体化し、これにより、金属と炭素繊維との複合材を製造した。
【0100】
得られた複合材の特性は、比重2.53、積層方向に対し垂直方向の熱伝導率300W/(m・K)、積層方向に対し垂直方向の線膨張係数1.6×10−6/Kであった。
【0101】
そして、得られた複合材について機械的強度を評価するため、複合材の上面を金属へらで擦ったところ、上面に傷による穴が開いてこの穴から炭素繊維が露出した。したがって、複合材の上面の機械的強度は弱いことを確認し得た。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、金属と炭素繊維との複合材及びその製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1A〜1D:金属と炭素繊維との複合材
2:金属層
2a:最上側金属層(最外側金属層)
2b:最下側金属層(最外側金属層)
2c:内側金属層
3:炭素繊維層
12:金属箔
12a:最上側金属箔(最外側金属箔)
12b:最下側金属箔(最外側金属箔)
13:混合物層
20:プリフォーム箔
25:プリフォーム箔積層体
30A〜30D:金属箔と混合物層との最終積層体
40:炭素繊維
41:バインダー
42:溶剤
45:混合物
50:塗工装置
60:放電プラズマ焼結装置
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10