特許第6166140号(P6166140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166140
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/43 20120101AFI20170710BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20170710BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20170710BHJP
   A47L 13/16 20060101ALI20170710BHJP
   A47K 7/08 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   D04H1/43
   D04H1/425
   D04H1/492
   A47L13/16 A
   A47K7/08
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-206397(P2013-206397)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-67936(P2015-67936A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】見正 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】村社 咲希
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−079320(JP,A)
【文献】 特開2001−207362(JP,A)
【文献】 特開2010−059592(JP,A)
【文献】 特開昭63−309675(JP,A)
【文献】 特表2013−538625(JP,A)
【文献】 特開2006−291437(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3147741(JP,U)
【文献】 特開平08−260234(JP,A)
【文献】 特開平08−060425(JP,A)
【文献】 特開2002−263043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00− 18/04
A47L 13/16
A47K 7/00− 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系短繊維と、異型断面を有するアクリル短繊維とを構成繊維とし、構成繊維同士が三次元的に交絡一体化してなる不織布であり、
アクリル短繊維は、その断面形状が短冊形であって、かつ、短冊形には、短軸方向にそれぞれ突出してなる円弧状の突出部を有し、該突出部のそれぞれの突出高さが短軸の長さの0.5〜1.5倍の範囲にあり、短冊形における短軸と長軸との比が1:10〜1:15の範囲であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
突出部の位置が、短冊形の長軸方向のほぼ中央の位置であることを特徴とする請求項1記載の不織布。
【請求項3】
高圧水流の作用により交絡一体化してなるスパンレース不織布であることを特徴とする請求項1または2記載の不織布。
【請求項4】
アクリル短繊維とセルロース系繊維の混合比率が質量比で、アクリル短繊維/セルロース=50/50〜70/30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の不織布。
【請求項5】
セルロース系短繊維が、コットン、レーヨン、リヨセルのいずれかから選択された繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の不織布。
【請求項6】
請求項1〜5の不織布から構成されることを特徴とする拭き布。
【請求項7】
請求項1〜6の不織布から構成されることを特徴とするワックスの拭き取り布。
【請求項8】
請求項1〜6の不織布から構成されることを特徴とする対人用の拭き取り布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関するものであり、特にワックス等の粘性物や固形物の拭き取りや、対人用である排泄物の拭き取りに好適な不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対人あるいは対物用途として各種ワイパーが提案され、使用されている。特にスパンレース不織布は、構成繊維同士が交絡することによってのみ一体化してなるものであるため、風合いが良く、拭き取り対象物に対してキズ等を付ける恐れがないため、各種の拭き取り用途に好適に使用されている(例えば、特許文献1)。この技術によれば、特定の開孔を設けているため、ドライ状態でもウェット状態でも、また、小さなゴミから粘着物まで幅広く捕捉するというものである。しかしながら、実施例によれば、粘性物の捕集率は50%程度であり、高い拭き取り性を有するとはいいがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−045161号公報 特許請求の範囲、段落番号0036
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、捕捉物が粘性状のものであっても、高い捕集率となる拭き取り性能に優れた不織布を提供することを課題とする。
【0005】
そして、この課題を達成するために検討した結果、スパンレース不織布において、セルロース系繊維と特定の異型断面を有するアクリル繊維とを構成繊維とすることにより、高い拭き取り性能を発揮することを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、セルロース系短繊維と、異型断面を有するアクリル短繊維とを構成繊維とし、構成繊維同士が三次元的に交絡一体化してなる不織布であり、アクリル短繊維は、その断面形状が短冊形であって、かつ、短冊形には、短軸方向にそれぞれ突出してなる円弧状の突出部を有し、該突出部のそれぞれの突出高さが短軸の長さの0.5〜1.5倍の範囲にあり、短冊形における短軸と長軸との比が1:10〜1:15の範囲であることを特徴とする不織布を要旨とするものである。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の不織布は、セルロース系短繊維と特定の異型断面を有するアクリル短繊維とを構成繊維とし、構成繊維同士が三次元的に交絡一体化してなる。
【0009】
本発明で用いるアクリル短繊維は、横断面形状が特定の異型断面であって、ここに特徴を有する。この横断面形状(1)は、図1に示すように、短冊形(2)であって、かつ、短冊形の長軸方向の特定の位置において、短軸方向にそれぞれ突出してなる円弧状の突出部(3)を有する。このように断面形状が短冊形であるため、角のエッジ部分がシャープであり、かつ扁平な形状であることから、良好に粘性物をこそぎ取ることができ、粘性物の捕集性が向上すると推定する。また、横断面形状が、単なる短冊形や楕円形等の扁平な繊維の場合、布帛としたときには、横断面形状の長軸方向が布帛の厚み方向に位置するように配列しにくく、繊維間の空隙が小さく厚みの薄い布帛になるが、本発明のごとく、繊維同士が機械的に三次元交絡した場合であって、特に交絡手段として高圧水流を施した場合は、繊維断面の長軸方向が厚み方向に配列したり、厚み方向に対して斜めの方向に配列したりと、ランダムに配列することとなり、繊維間の空隙をより大きく保持できる嵩高な不織布が得られる。本発明においては、短冊形であり、かつ、短冊形の長軸方向の特定の位置に、短軸方向にそれぞれ突出してなる円弧状の突出部を有することから、隣接する繊維の間に、この突出部の存在によって空隙をより容易に保持できるため、よりいっそう嵩高な形態が保持できうる不織布が得られる。なお、図1は、突出部の位置が短冊形の長軸方向のほぼ中央の位置に存在している例を示し、図2は、突出部の位置が長軸方向の片側に偏った位置に存在している例である。本発明においては、より効果的に空隙を保持できること等の理由から、突出部の位置は、短冊形の長軸方向のほぼ中央の位置に存在していることが好ましい。
【0010】
突出部(3)のそれぞれの突出高さは、短軸の長さの0.5〜1.5倍の範囲である。短軸長さの0.5倍よりも小さいと、突出している効果を良好に奏しない傾向となり、また、1.5倍を超えると、アクリル短繊維の断面形状自体が扁平なものとはいいがたくなる。
【0011】
アクリル短繊維の横断面形状における短冊形の短軸と長軸との比は、1:10〜1:15である。この範囲にすることにより、不織布に良好な空隙を保持させることができることから、この繊維間の空隙に捕集した粘性物や固形物等を保持することができ、また、捕捉物を良好に保持できるために、汚れが他面に移行することなく、手で拭き取りを行った際に手が汚れにくい。
【0012】
アクリル短繊維の繊度は、3〜8デシテックス程度が好ましい。8デシテックスを超えると、剛性が高くなり、拭き取り対象物を傷つける恐れが生じ、また、3デシテックス未満であると、繊維にコシがなくなり、繊維間の空隙を良好に保持できない傾向となり、また、被対象物との摩擦抵抗が大きくなるため、拭き取り時に抵抗を感じやすい。
【0013】
本発明の不織布は、上記したアクリル短繊維とセルロール系短繊維とから構成される。セルロース系短繊維としては、コットン、レーヨン、リヨセル(溶剤紡糸セルロース繊維)が挙げられ、これらの1種または複数種を用いるとよい。セルロース系繊維は、その性質上、吸水性を有していることから、不織布に吸水性能や吸湿性能を具備させることができる。また、セルロース系短繊維は、交絡手段である高圧水流のエネルギーにより、容易に曲げられるため、強固に絡みつくことができる。したがって、上記したアクリル短繊維が、高圧水流の作用によって、良好に曲げにくいものであっても、アクリル短繊維同士を絡める繋ぎの役目を果たし、良好に交絡一体化してなる不織布を得ることができる。セルロース系短繊維の繊度としては、1〜2.5デシテックス程度のものを好ましく用いることができる。
【0014】
本発明の不織布は、構成繊維同士が三次元的に交絡一体化したものであるが、三次元的に交絡する手段としては、上記した高圧水流を施す以外に、ニードルパンチ法も挙げられる。得られる不織布の風合い等を考慮すると、高圧水流を施す、いわゆるスパンレース法が好ましい。
【0015】
アクリル短繊維とセルロース系短繊維との混合比率は、アクリル短繊維/セルロース系短繊維=30〜70/70〜30がよく、より好ましくは、アクリル短繊維/セルロース系短繊維=70〜50/30〜50である。アクリル短繊維を30質量%以上とすることにより、本発明が目的とする嵩高性、適度な厚み、汚れのかきとり性、拭き取った汚れの保持性が向上するものとなり、一方、70質量%以下とすることにより、構成繊維同士が良好に絡んで一体化し、実用的な強度が保持でき、また、不織布に吸水性を具備させて拭き取り性が良好となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明で得られる不織布は、特定の断面形状を有するアクリル短繊維とセルロース系短とを構成繊維とし、三次元的に交絡一体化したものであり、アクリル短繊維有する特定の断面形状により、嵩高性の良好なものとなるとともに、拭き取り用として使用した場合には、良好な掻き取り性を発揮するとともに、拭き取った汚れを良好に保持する保持性を発揮する。また、セロース系短繊維により、不織布に吸水性を具備させるとともにも実用的な強度をも具備できる。
したがって、本発明の不織布は、ワックス等の粘性物や固形物の拭き取りや、対人用である排泄物の拭き取りに好適に使用できる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例の各種物性値は以下の方法により測定した。
(1)目付(g/m):縦10cm×横10cmの試料片を10点作成し、標準状態の各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して、目付(g/m)とした。
【0018】
(2)厚み(μm):標準状態の試料から、縦10cm×横10cmの試料片を10点作成し、平衡水分に至らしめた後、厚み測定器(株式会社 大栄科学精機製作所製)を用いて、各試料片に圧力0.294kPa(3gf/cm)を印加して厚みを測定し、その平均値を厚み(μm)とした。
【0019】
(3)嵩密度(g/cc):上記(1)で得られた目付(g/m)と上記(2)で得られた厚み(μm)を用い、目付/厚みで算出した値を、嵩密度(g/cc)とした。また、厚みに関しては単純な厚さだけではなく繊維間の空隙を設け汚れの吸収と保持を行う機能を有する事が必要なため、本発明においては、嵩密度で0.10g/cc以下であることが好ましく、0.09g/cc以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.08g/cc以下である。
【0020】
(4)引張強度(N/5cm):JIS−L−1906(2000年)Aに記載の方法に準じて測定した。すなわち、試料巾5cmの短冊状態試料片を準備し、定速伸張型引張試験機(東洋ボールドウィン社製 テンシロン 型式:UTM−4−100)を用いて、試料片をチャック間10cm、引張速度10m/分で伸張し、各試料片の破断したときの荷重を引張強力とした。
【0021】
(5)拭き取り除去率(%):平滑な板(アクリル板)を用意した。絵の具(Pentel WATERCOLORS F COBALTBLUE XWFCT23)0.5gをアクリル板の上に10円玉サイズに拡げ、絵具を載せた状態のアクリル板の重量を測定し、これを「拭き取り前のアクリル板と絵具の重量(g)」とした。試料(10cm×10cm)を用意し、この試料に、試料質量の240%の量の水を含ませて2つに折りたたんものを、アクリル板上に乗せ、その上に荷重100gを乗せる。試料を手で引っ張り、絵具を拭き取った後、絵具が一部残存しているアクリル板の重量(「拭き取り後のアクリル板と絵具の重量(g)」)を測定し、下記式から除去率を算出した。本発明においては、除去率は70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。
(拭き取り前のアクリル板と絵具の重量(g)−拭き取り後のアクリル板と絵具の重量(g))×100/拭き取り前の絵の具の重量(g)=除去率(%)
【0022】
(6)吸水量(mm/10分):JIS−L−1907 バイレック法に準じて測定した。なお、試料としては、試料長25cm、試料幅2.5cmのものを用いた。本発明においては、ここでの評価による値が40mm以上であることが好ましい。
【0023】
実施例1
アクリル短繊維(三菱レイヨン社製 H180BRE 繊度6.5デシテックス、繊維長51mm、短軸と長軸の比が1:12、突出部の高さがそれぞれ短軸の長さの0.8倍)を準備した。また、セルロース系短繊維として平均繊度1.65デシテックス、平均繊維長25mmのコットンを準備した。
【0024】
アクリル短繊維とコットンとを、質量比で(アクリル短繊維/コットン)=50/50の比率で均一に混綿して、カード機に供給して、目付40g/mのウェブとした。
【0025】
得られたウェブを、目開き100メッシュの金属製メッシュスクリーン(金属線を用い、平織組織にて製織されたメッシュ織物)上に担持し、ウェブ側から高圧水流を施した。高圧水流は、支持体に上方50mmに位置した孔径0.1mmの噴射孔が孔間隔0.6mmで一列配置された噴射装置を用い、水圧2.75MPaで1回、4.12MPaで2回の合計3回について、ウェブの両面から噴射した。高圧水流を施すことにより、ウェブの構成繊維が三次元的に交絡して一体化した。次いで、構成繊維同士が交絡したウェブより余剰の水分をマングルロールにて除去し、温度120℃の乾燥機で乾燥させて、本発明のスパンレース不織布を得た。
【0026】
実施例2
実施例1において、アクリル短繊維とコットンの比率を、質量比で(アクリル短繊維/コットン)=70/30とした以外は、実施例1と同様にしてスパンレース不織布を得た。
【0027】
実施例3
実施例1において、アクリル短繊維とコットンの比率を、質量比で(アクリル短繊維/コットン)=30/70とした以外は、実施例1と同様にしてスパンレース不織布を得た。
【0028】
実施例4
実施例1において、コットンに代えてリヨセル(繊度:1.7デシテックス 繊維長:38mm)使用した以外は、実施例1と同様にしてスパンレース不織布を得た。
【0029】
実施例5
実施例1において、コットンに代えてレーヨン(繊度:1.7デシテックス 繊維長:40mm)を使用した以外は実施例1と同様にしてスパンレース不織布を得た。
【0030】
比較例1
実施例1において、セルロース系短繊維を用いずに、アクリル短繊維(三菱レイヨン株式会社製 H180BRE 繊度6.5デシテックス、繊維長51mm)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。得られた不織布は、機械的強度に乏しく実用性のないものであった。
【0031】
比較例2
実施例1において、アクリル短繊維を用いずに、コットン(平均繊度1.65デシテックス、平均繊維長25mm)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンレース不織布を得た。得られた不織布は、拭き取り除去率が70%に満たないものであった。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に用いるアクリル短繊維の横断面形状の一例を示す概略図である。
図2】本発明に用いるアクリル短繊維の横断面形状の他の一例を示す概略図である。
図3】本発明の実施例に用いたアクリル短繊維の横断面形状を観察した電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の実施例1で得られた不織布の断面を観察した電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0035】
1 アクリル短繊維の横断面形状
2 短冊形
3 突出部
図1
図2
図3
図4