(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
耐熱性樹脂からなる外側基材層と、熱可塑性樹脂からなる内側シーラント層と、前記外側基材層と前記内側シーラント層との間に配設された金属箔層と、前記外側基材層の金属箔層側とは反対の側に形成されたマットコート層とを有し、
前記マットコート層が、フェノキシ樹脂およびウレタン樹脂を含む主剤樹脂と、硬化剤と、固体微粒子とを含む樹脂組成物からなる下層と、フッ素含有樹脂を含む樹脂組成物からなる上層とを備えた複層であることを特徴とする成形用包装材。
前記マットコート層の上層を構成する樹脂組成物のフッ素含有樹脂は、主剤の骨格中にフッ素が付加された耐熱性樹脂を主成分として含む請求項1に記載の成形用包装材。
前記マットコート層の上層を構成する樹脂組成物のフッ素含有樹脂は、テトラフルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体からなる二液硬化型のフッ素樹脂を主成分として含む請求項1または2に記載の成形用包装材。
前記マットコート層の下層を構成する樹脂組成物の主剤樹脂は、フェノキシ樹脂とウレタン樹脂との質量比がフェノキシ樹脂1に対してウレタン樹脂0.6〜1.6の比率で配合されている請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記マットコート層に用いられる樹脂はそれぞれに特徴がある。
【0009】
ウレタン系樹脂は柔軟であり良好な成形性が得られるが、耐薬品性および耐溶剤性に難がある。二次電池ケース用包装材では、電池の製造工程で包装材の外側層にも電解液が付着するおそれがあり、電解液付着による外観品質の悪化を防止するためにケースの最外層となるマットコート層にも耐薬品性および耐溶剤性が求められている。
【0010】
また、フッ素系樹脂は耐薬品性および耐溶剤性に優れた樹脂であるが、印刷インクの密着性に難がある。このため、製品表面に印刷する文字やバーコードににじみが発生することがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、優れた成形性、耐薬品性、耐溶剤性、印字性を兼ね備えたマットコート層を有する成形用包装材およびその関連技術を提供するものである。
【0012】
即ち、本発明は下記[1]〜[10]に記載の構成を有する。
【0013】
[1]耐熱性樹脂からなる外側基材層と、熱可塑性樹脂からなる内側シーラント層と、前記外側基材層と前記内側シーラント層との間に配設された金属箔層と、前記外側基材層の金属箔層側とは反対の側に形成されたマットコート層とを有し、
前記マットコート層が、フェノキシ樹脂およびウレタン樹脂を含む主剤樹脂と、硬化剤と、固体微粒子とを含む樹脂組成物からなる下層と、フッ素含有樹脂を含む樹脂組成物からなる上層とを備えた複層であることを特徴とする成形用包装材。
【0014】
[2]前記マットコート層の上層を構成する樹脂組成物のフッ素含有樹脂は、主剤の骨格中にフッ素が付加された耐熱性樹脂を主成分として含む前項1に記載の成形用包装材。
【0015】
[3]前記マットコート層の上層を構成する樹脂組成物のフッ素含有樹脂は、テトラフルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体からなる二液硬化型のフッ素樹脂を主成分として含む前項1または2に記載の成形用包装材。
【0016】
[4]前記マットコート層の下層の厚さが2〜5μmである前項1〜3のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材。
【0017】
[5]前記マットコート層の上層の厚さが0.2〜2μmである前項1〜4のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材。
【0018】
[6]前記マットコート層の下層を構成する樹脂組成物の主剤樹脂は、フェノキシ樹脂とウレタン樹脂との質量比がフェノキシ樹脂1に対してウレタン樹脂0.6〜1.6の比率で配合されている前項1〜5のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材。
【0019】
[7]前記マットコート層の下層を構成する樹脂組成物の固体微粒子の平均粒径が1〜5μmである前項1〜6のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材。
【0020】
[8]前記マットコート層の下層を構成する樹脂組成物における固体微粒子の含有率が1〜50質量%である前項1〜7のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材。
【0021】
[9]前項1〜8のうちのいずれか1項に記載の成形用包装材を深絞り成形または張り出し成形してなることを特徴とする成形ケース。
【0022】
[10]電池ケースとして用いられる前項9に記載の成形ケース。
【発明の効果】
【0023】
[1]に記載の発明によれば、マットコート層の下層を形成する樹脂組成物の樹脂成分の主剤樹脂として、高い安定性を有するフェノキシ樹脂と高い柔軟性を有するウレタン樹脂の混合樹脂が用いられているので、成形性、耐薬品性、耐溶剤性を兼ね備えた成形用包装材となし得る。また、マットコート層の上層を形成するフッ素含有樹脂は耐電解液性、耐摩耗性の優れた樹脂であるから、マットコート層の耐電解液性、耐摩耗性の良好なものとなし得る。さらに、上層が下層の固体微粒子による表面の凹凸を緩和するので、良好な印字性が得られる。
【0024】
[2][3]に記載の各発明によれば、特に良好な耐電解液性および耐摩耗性を得ることができる。
【0025】
[4]に記載の発明によれば、成形性と塗布性が共に良好なマットコート層の下層となし得る。
【0026】
[5]に記載の発明によれば、成形性、印字性、耐電解液性、耐摩耗性の特に良好なマットコート層の上層となし得る。
【0027】
[6]に記載の発明によれば、前記主剤樹脂におけるフェノキシ樹脂とウレタン樹脂の混合比により、成形性、耐電解液性、耐溶剤性のバランスが特に良好なマットコート層となし得る。
【0028】
[7]に記載の発明によれば、樹脂組成物に含まれる固体微粒子の粒径が所定範囲内に規定されているので、特に成形性の良いマットコート層となし得る。
【0029】
[8]に記載の発明によれば、樹脂組成物中の固体微粒子の含有率が所定範囲内に規定されているので、特に成形性が良く、外観も良いマットコート層となし得る。
【0030】
[9]に記載の発明によれば、成形性、耐薬品性、耐溶剤性、耐電解液性を兼ね備え、さらに印字性の良い成形ケースが提供される。
【0031】
[10]に記載の発明によれば、成形性、耐薬品性、耐溶剤性、耐電解液性を兼ね備え、さらに印字性の良い電池ケースが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[成形用包装材]
図1に、本発明にかかる成形用包装材(1)の一実施形態を示す。この成形用包装材(1)は、リチウムイオン2次電池ケース用包装材として用いられるものである。即ち、前記成形用包装材(1)は、深絞り成形等の成形に供されて2次電池ケースとして用いられるものである。
【0034】
前記成形用包装材(1)は、金属箔層(11)の一方の面に外側接着剤層(12)を介して外側基材層(13)が積層一体化されるとともに、該外側基材層(13)の外面、即ち金属箔層(11)の反対側の面に二層構造のマットコート層(14)が形成されている。また、前記金属箔(11)の他方の面に内側接着剤層(15)を介して内側シーラント層(16)が積層一体化されている。
【0036】
(外側基材層)
前記外側基材層(13)は耐熱性樹脂からなり、樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。これらのなかでも、成形性および強度の点で、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたは二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ポリアミドフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、前記外側基材層(13)、単層で形成されていても良いし、あるいは、例えばPETフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層で形成されていても良い。
【0037】
前記外側基材層(13)の厚さは、9μm〜50μmであるのが好ましい。ポリエステルフィルムを用いる場合には厚さは9μm〜50μmであるのが好ましく、ポリアミドフィルムを用いる場合には厚さは10μm〜50μmであるのが好ましい。上記好適下限値以上に設定することで包装材として十分な強度を確保できるとともに、上記好適上限値以下に設定することで張り出し成形時や絞り成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。
【0038】
(内側シーラント層)
前記内側シーラント層(16)は熱可塑性樹脂からなり、リチウムイオン二次電池等で用いられる腐食性の強い電解液などに対しても優れた耐薬品性を具備するとともに、包材にヒートシール性を付与する役割を担うものである。
【0039】
前記内側シーラント層(16)を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂未延伸フィルムであるのが好ましい。前記熱可塑性樹脂未延伸フィルムは、特に限定されるものではないが、耐薬品性およびヒートシール性の点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系共重合体、これらの酸変性物およびアイオノマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる未延伸フィルムにより構成されるのが好ましい。
【0040】
前記内側シーラント層(16)の厚さは、20μm〜80μmに設定されるのが好ましい。20μm以上とすることでピンホールの発生を十分に防止できるとともに、80μm以下に設定することで樹脂使用量を低減できてコスト低減を図り得る。中でも、内側シーラント層(16)の厚さは30μm〜50μmに設定されるのが特に好ましい。なお、前記内側シーラント層(16)は、単層であってもよいし、複層であってもよい。
【0041】
(金属箔層)
前記金属箔層(11)は、成形用包装材(1)に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。
【0042】
前記金属箔層(11)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられ、アルミニウム箔が一般的に用いられる。前記金属箔層(11)の厚さは、20μm〜100μmであるのが好ましい。20μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できるとともに、100μm以下であることで張り出し成形時や絞り成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。
【0043】
また、前記金属箔層(11)は表面に化成皮膜が形成されていることも好ましい。成形用包装材(1)の外側層および内側層は樹脂層であり、これらの樹脂層には極微量ではあるが、ケースの外部からは光、酸素、液体が入り込むおそれがあり、内部からは内容物(電池の電解液、食品、医薬品等がしみ込むおそれがある。これらの侵入物が金属箔層(11)に到達すると金属箔層(11)の腐食原因となる。かかる現象に対して、金属箔層(11)の表面に耐食性の高い化成皮膜を形成することにより、金属箔層(11)の耐食性向上を図ることができる。
【0044】
化成皮膜は金属箔表面に化成処理を施すことによって形成される皮膜であり、例えば、金属箔にクロメート処理、ジルコニウム化合物を用いたノンクロム型化成処理を施すことによって形成することができる。例えば、クロメート処理の場合は、脱脂処理を行った金属箔の表面に下記1)〜3)のいずれかの水溶液を塗工した後乾燥する。
1)リン酸、クロム酸およびフッ化物の金属塩の混合物からなる水溶液
2)リン酸、クロム酸、フッ化物金属塩および非金属塩の混合物からなる水溶液
3)アクリル系樹脂または/およびフェノール系樹脂と、リン酸と、クロム酸と、フッ化物金属塩との混合物からなる水溶液
前記化成皮膜はクロム付着量として0.1〜50mg/m
2であることが好ましく、特に2〜20mg/m
2が好ましい。前記クロム付着量の化成皮膜によって高耐食性の成形用包装材となし得る。
【0045】
(外側接着剤層)
前記外側接着剤層(12)は、金属箔層(11)と外側基材層(13)との接着を担う層である。
【0046】
前記外側接着剤層(12)を構成する接着剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオール成分及びイソシアネート成分を含有してなる二液硬化型のウレタン系接着剤等が挙げられる。この二液硬化型のウレタン系接着剤は、特にドライラミネート法で接着する際に好適に用いられる。前記ポリオール成分としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。前記イソシアネート成分としては、特に限定されるものではないが、例えばTDI(トリレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、MDI(メチレンビス(4,1−フェニレン)ジイソシアネート)等のジイソシアネート類などが挙げられる。前記外側接着剤層(12)の厚さは、2μm〜5μmに設定されるのが好ましく、なかでも3μm〜4μmに設定されるのが特に好ましい。
【0047】
なお、外側接着剤層(12)には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、無機系や有機系のアンチブロッキング剤、アマイド系のスリップ剤が前記構成樹脂に添加されていても良い。
【0048】
(内側接着剤層)
前記内側接着剤層(15)は、金属箔層(11)と内側シーラント層(16)との接着を担う層である。
【0049】
前記内側接着剤層(15)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、エラストマー系接着剤、フッ素系接着剤等により形成された接着剤層が挙げられる。中でも、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤を用いるのが好ましく、この場合には、包装材(1)の耐電解液性および水蒸気バリア性を向上させることができる。
【0050】
(マットコート層)
前記マットコート層(14)は外側基材層(13)の外面に形成され、成形用包装材(1)の表面に良好な滑り性を付与して成形性を向上させるとともに、優れた耐薬品性、耐摩耗性、成形性を付与する層である。前記マットコート層(14)は、外側基材層(13)側の下層(14a)と表面側の上層(14b)とを含む複層構造である。
【0051】
(マットコート層の下層)
前記下層(14a)は樹脂成分と固体微粒子とを含む樹脂組成物からなる。
【0052】
前記樹脂組成物の樹脂成分としてフェノキシ樹脂およびウレタン樹脂を含む主剤樹脂および硬化剤を用いる。
【0053】
主剤樹脂において、ウレタン樹脂は柔軟性があり優れた成形性を有するが、その反面耐薬品性、耐溶剤性が十分ではない。一方、フェノキシ樹脂はビスフェノール類とエピクロルヒドリンより合成される線状高分子であり、強靱で安定性があり、広範囲の加工温度においても優れた熱安定性を有している。また、構造内にOH基を含んでいるので、架橋することにより優れた密着性および耐薬品性を備えた樹脂となる。かかる特性を備えたフェノキシ樹脂は優れた耐薬品性および耐溶剤性を有するが、ウレタン樹脂よりも柔軟性が劣っている。本発明においては、主剤樹脂として、相反する特性を有する2種類の樹脂、即ち高い柔軟性を有するウレタン樹脂と高い耐薬品性および耐溶剤性を有するフェノキシ樹脂を混合して用いることにより、成形性と耐薬品性および耐溶剤性とを兼ね備えた樹脂組成物となし得る。なお、前記フェノキシ樹脂はビスフェノールA型フェノキシ樹脂およびビスフェノールF型フェノキシ樹脂のどちらでも使用でき、これらを併用することもできるが、耐溶剤性が優れている点でビスフェノールA型フェノキシ樹脂を推奨できる。
【0054】
また、ウレタン樹脂は印字性が極めて良好であり、フェノキシ樹脂も印字性が良好であるから、これらの混合樹脂も印字性は良好である。
【0055】
前記主剤樹脂はウレタン樹脂の含有率が高くなるほど柔軟性が増して成形性が向上するが、相対的にフェノキシ樹脂の含有率が低くなるので耐薬品性および耐溶剤性は低下する。逆に、フェノキシ樹脂の含有率が高くなるほど耐薬品性および耐溶剤性は向上するが、相対的にウレタン樹脂の含有率が低くなって成形性の向上の度合いが小さくなる。本発明は主剤樹脂における混合比を限定するものではないが、成形性と耐薬品性および耐溶剤性とのバランスの良い混合比として、質量比でフェノキシ樹脂1に対してウレタン樹脂が0.6〜1.6の範囲を推奨できる。特に好ましい質量比はフェノキシ樹脂1に対してウレタン樹脂が0.8〜1.4の範囲である。
【0056】
また、硬化剤は特に限定されるものではないが、イソシアネート成分を用いることが好ましい。イソシアネート成分としては、例えばTDI(トリレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、MDI(メチレンビス(4,1−フェニレン)ジイソシアネート)等のジイソシアネート類などを挙げることができ、1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0057】
前記硬化剤は前記主剤樹脂100質量部に対して5〜50質量部を配合することが好ましい。5質量部未満では外側基材層(13)への密着性および耐溶剤性が低下するおそれがある。また50質量部を超えると、下層(14a)が硬くなり、印字性および成形性が低下するおそれがある。特に好ましい硬化剤の配合量は前記主剤樹脂100質量部に対して10〜40質量部である。
【0058】
また、前記主剤樹脂と硬化剤とからなる樹脂成分の物性として、20℃で固形分濃度25質量%液をザーンカップ#4で測定した粘度が10〜30秒の範囲であることが好ましく、特に15〜25秒の範囲であることが好ましい。
【0059】
なお、本発明はフェノキシ樹脂およびウレタン樹脂以外の樹脂や添加剤を排除するものではなく、成形性、耐薬品性および耐溶剤性を損なわない限り他の成分の添加が許容される。
【0060】
前記樹脂組成物において固体微粒子は、マットコート下層(14a)に滑り性を付与して成形性を向上させるために添加される成分である。また、固体微粒子の添加によって、包装材同士がくっつきにくくなって取り扱いが容易になり、樹脂の光沢を抑えて落ち着いた外観を作り出す効果も得られる。
【0061】
かかる効果を奏する固体微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のいずれでも使用でき、それらを混合して用いることもできる。ここに、無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック等の1種または2種以上を使用しうるが、なかでもシリカの使用が好適である。また、有機微粒子としては、アクリル酸エステル系化合物、ポリスチレン系化合物、エポキシ系樹脂、ポリアミド系化合物、またはそれらの架橋物等の微粒子を使用しうる。
【0062】
これらの微粒子は、良好な滑り性が得られる粒径として平均粒径が1μm〜6μmのものが好適に用いられ、なかでも2μm〜5μmが好ましい。1μm未満の粒径の小さすぎる微粒子を用いるときは、塗布液の中に埋もれてしまい所望の特性を実現するために多量の微粒子の添加を必要とし、十分な滑り性が得られ難い。一方、6μmを超える粒径の大きい微粒子を用いるときは、粒径が塗布厚みを超えてしまい脱落し易くなる。
【0063】
固体微粒子としてシリカを用いる場合は、粒径が数nmの一次粒子が凝集した二次粒子の粒径が上記の粒径になるものを用いても良い。
図2は複数個の一次粒子(100)の凝集によって二次粒子(101)が形成された状態を示している。
【0064】
また、樹脂組成物における固体微粒子の含有率は、包装材に求める滑り性の程度、添加する微粒子の粒径、種類等に応じて、1〜50質量%の範囲で適宜に決定される。含有率が1質量%未満では滑り性の向上効果が小さく、ひいては成形性の向上効果を十分に得られないおそれがある。逆に50質量%を超えて過多に含有するときは、外観を損ねることが懸念される。微粒子の含有量の好ましい範囲は10〜45質量%の範囲であり、特に好ましくは20〜40質量%の範囲である。無機微粒子として例えばシリカを用いる場合、その粒径、含有量が前記上下限範囲にあることにより、最適な滑り性を付与できる。
【0065】
前記マットコート下層(14a)の硬化後の厚さは2〜5μmが好ましい。前記下限値よりも薄い層では滑り性向上効果が少なく艶消し感が低下し、上限値よりも厚くすると塗りにくくなる。特に好ましい厚さは2.5〜4μmの範囲である。
【0066】
(マットコート層の上層)
一方、マットコート層(14)の上層(14b)は、表面の滑り性を一層向上させて成形性を向上させ、さらに一層優れた耐電解液性、耐摩耗性を付与する層である。また、下層(14a)の固体微粒子による表面の凹凸を緩和して印字性を向上させる効果がある。
【0067】
前記上層(14b)はフッ素含有樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0068】
前記フッ素含有樹脂としては、主剤の骨格中にフッ素が付加された樹脂を用いることが好ましく、かかる樹脂を用いることによって特に良好な耐電解液性および耐摩耗性を得ることができる。主剤の骨格中にフッ素が付加された樹脂としては、例えばテトラフルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体、テトラフルオロオレフィンとアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体、クロロトリフルオロオレフィンとアルキルビニルエーテル共重合体等の二液硬化型の樹脂を用いることができる。これらのフッ素含有樹脂のなかでも、テトラフルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体を好適に用いることができる。また、上記のフッ素含有樹脂に更にウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂を加えて、更なる強度および成形性の向上を図るものとしても良い。
【0069】
また、二液硬化型のフッ素含有樹脂を用いる場合に用いる硬化剤は下層(14a)と同じものを推奨できる。配合量も5〜50質量部が同様な理由で好ましい。
【0070】
なお、本発明は上層用樹脂組成物の成分としてフッ素含有樹脂および硬化剤以外の樹脂や添加剤を排除するものではなく、上層の特性を損なわない限り他の成分の添加が許容される。
【0071】
前記上層(14b)の硬化後の厚さは0.2〜2μmが好ましい。前記下限値よりも薄い層では成形性、耐電解液性、耐摩耗性等の向上効果が少なくなる。また、上層(14b)が薄すぎると下層(14a)の固体微粒子による表面の凹凸を緩和する効果が小さくなるため、印刷性向上効果も小さくなる。一方、上限値よりも厚い層では下層(14a)による艶消し感が損なわれるおそれがある。特に好ましい厚さは0.5〜1.5μmの範囲である。
【0072】
なお、前記下層(14a)および上層(14b)の厚さは、塗布した樹脂の固形分の重量から、密度を1g/cm
3として、計算によって求めている。
【0073】
(成形用包装材の作製)
上述した各層を有する成形用包装材(1)は、金属箔層(11)の一方の面に外側接着剤層(12)を介して外側基材層(13)を貼り合わせ、他方の面に内側接着剤層(15)を介して内側シーラント層(16)を貼り合わせて5層の積層体(10)を作製し、この積層体(10)の外側基材層(13)の表面にマットコート層(14)の下層(14a)用のペースト状の樹脂組成物を塗布して乾燥させ、さらに上層(14b)用のペースト状の樹脂組成物を塗布して乾燥させることにより作製することができる。
【0074】
前記積層体(10)の作製において各層の貼り合わせ方法は限定されないが、ドライラミネートと呼ばれる方法を例示できる。具体的には、金属箔層(11)の上面または外側基材層(13)の下面、あるいはこれらの両方の面に外側接着剤層(12)の接着剤を塗布し、溶媒を蒸発させて乾燥皮膜とした後に金属箔層(11)と外側基材層(13)を貼り合わせる。金属箔層(11)と内側シーラント層(16)と貼り合わせも同様であり、金属箔層(11)の下面または内側シーラント層(16)の上面、あるいはこれらの両方の面に内側接着剤層(15)の接着剤を塗布し、溶媒を蒸発させて乾燥皮膜とした後に金属箔層(11)と内側シーラント層(16)を貼り合わせる。そしてさらに、接着剤の硬化条件に従って硬化させることにより、5層の積層体(10)が作製される。また、Tダイ法により、外側基材層(13)と外層接着剤層(12)、内側シーラント層(16)と内側接着剤層(15)を積層フィルムとして押出し、これらの積層フィルムを金属箔層(11)に熱圧着することにより積層体(10)を作製することもできる。また、金属箔層(11)の両方の面において異なる手法で貼り合わせることもできる。
【0075】
一方で、マットコート層(14)の下層(14a)用のペースト状樹脂組成物および上層(14b)用のペースト状の樹脂組成物を調製しておく。
【0076】
そして、前記積層体(10)の外側基材層(13)の表面に下層(14a)用の樹脂組成物を塗布して乾燥させ、さらに上層(14b)用の樹脂組成物を塗布して乾燥させる。樹脂組成物の塗布方法は限定されないが、例えばグラビアロール法を挙げることができる。樹脂組成物の乾燥により、複層構造のマットコート層(14)が形成されるとともに下層(14a)が外側基材層(13)に接合されて所期する成形用包装材(1)が作製される。
【0077】
塗布した樹脂組成物の乾燥方法としては、
図3に示すように、樹脂組成物を塗布した積層体(10)をロール間を通過させながら熱ロール(20)で加熱する方法を例示できる。この方法において樹脂組成物に接するロールを熱ロール(20)とし、ロール温度を例えば130〜220℃に熱する。
【0078】
なお、本発明の成形用包装材は各層の貼り合わせ方法やマットコート層の形成方法を上記の方法および工程に限定するものではなく、他の方法や工程によって作製した場合も本発明に含まれる。
【0079】
[成形ケース]
本発明の成形用包装材(1)を成形(深絞り成形、張り出し成形等)することにより、成形ケース(電池ケース等)を得ることができる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに限定されるものではない。
【0081】
実施例1〜5として、
図1に示した二層構造のマットコート層を有する成形用包装材(1)を作製した。また、比較例1、2として単層のマットコート層を有する成形用包装材を作製した。各例の成形用包装材(1)はマットコート層のみが異なり、マットコート層を除く積層体(10)の材料および作製工程は各例で共通である。
【0082】
積層体(10)の材料および作製は以下のとおりである。
【0083】
〈積層体〉
金属箔層(11)は厚さ35μmのアルミニウム箔であり、このアルミニウム箔の両面に、ポリアクリル酸、三価クロム化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布し、180℃で乾燥を行って化成皮膜を形成した。この化成皮膜によるクロム付着量は10mg/m
2である。
【0084】
化成皮膜を形成した金属箔層(11)の一方の面に、外側基材層(13)として厚さ15μmの二軸延伸6ナイロンフィルムを、外側接着剤層(13)として二液硬化型のウレタン系接着剤を用いてドライラミネートした。
【0085】
また、内側接着剤層(15)の接着剤として金属箔層(11)とポリプロピレンの双方に接着性を有するマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂と、内側シーラント層(16)として融点が140℃、MFRが7g/10minのエチレン−プロピレンランダム共重合体樹脂とをTダイ法により、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂層が7μm、エチレン−プロピレンランダム共重合体層が28μmの積層フィルムとして押出して準備した。即ち、この積層フィルムは内側シーラント層(16)と内側接着剤層(15)とが積層されたフィルムである。
【0086】
次いで、前記金属箔層(11)の他方の面に、前記積層フィルムの内側接着剤層(15)を重ね合わせ、150℃に熱せられた熱ロールを通過させて積層体(10)を得た。
【0087】
作製した前記積層体(10)を共通に用いて各例の成形用包装材を作製した。
【0088】
〈実施例1〜5〉
マットコート層(14)の下層(14a)用に以下の樹脂組成物を準備した。
【0089】
フェノキシ樹脂およびウレタン樹脂を1:1.2の質量比で混合して主剤樹脂とし、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を質量比で1:1で混合したものを硬化剤とし、主剤樹脂100質量部に対して硬化剤15質量部を溶剤(トルエン)で希釈して配合したものを樹脂成分とした。前記樹脂成分の粘度は、20℃でザーンカップ#4で粘度を測定した結果15秒であった。そして、下層用樹脂組成物は、前記樹脂成分に平均粒径2μmのシリカを20質量%含有させ、均一に分散させることによって調製した。
【0090】
マットコート層(14)の上層(14b)用に以下の樹脂組成物を準備した。
【0091】
テトラフルオロエチレンとビニルアセテートの共重合体からなる二液硬化型の樹脂組成物を主剤樹脂とし、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を質量比で1:1で混合したものを硬化剤とした。そして、上層用樹脂組成物は、前記主剤樹脂100質量部に対して硬化剤18質量部を溶剤(トルエン)に希釈して調整した。
【0092】
前記下層(14a)および上層(14b)の厚さは硬化剤の希釈率を調整して塗布量を調節することによって行った。なお、硬化剤の溶剤はメチルエチルケトンを使用しても良い。
【0093】
マットコート層(14)は多色印刷機の2つのコーターを用いて上記材料を積層体(10)に塗布することにより形成した。まず、次に、前記積層体(10)の外側基材層(13)にグラビアロールにて下層用樹脂組成物を連続して2回塗布し、乾燥させて下層(14a)を形成した。次に、下層(14a)を形成した積層体(10)を再度多色印刷機に通し、上層用樹脂組成物をグラビアロールにて連続2回塗布し、乾燥させて上層(14b)を形成した。この工程により、下層(14a)および上層(14b)からなる二層構造のマットコート層(14)が形成され、成形用包装材(1)を得た。
【0094】
前記下層(14a)および上層(14b)の乾燥後の厚みは表1に示す通りである。
【0095】
〈比較例1〉
本例はマットコート層が固体微粒子を含む下層(14a)のみの単層からなる例である。
下層(14a)用に以下の樹脂組成物を準備した。
【0096】
テトラフルオロエチレンとビニルアセテートの共重合体からなる二液硬化型の樹脂組成物を主剤樹脂とし、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を質量比で1:1で混合したものを硬化剤とし、主剤樹脂100質量部に対して硬化剤18質量部を溶剤(トルエン)に希釈して配合したものを樹脂成分とした。下層用樹脂組成物は、前記樹脂成分に平均粒径2μmのシリカを20質量%含有させ、均一に分散させることによって調製した。厚さの調節は、実施例と同じく硬化剤の希釈率を調整して塗布量を調節することによって行った。
【0097】
上記の下層樹脂組成物を、実施例と同じく、多色印刷機を用いて積層体(10)に連続して2回塗布し、乾燥させた。これにより、単層のマットコートが形成され、成形用包装材得た。
【0098】
前記下層(14a)の乾燥後の厚みは表1に示す通りである。
【0099】
〈比較例2〉
本例はマットコート層が固体微粒子を含む下層(14a)のみの単層からなる例であり、比較例1とは下層用の樹脂組成物の樹脂成分が異なる。
【0100】
下層(14a)用の樹脂組成物は、実施例1〜5の下層用樹脂組成物と同じである。即ち、フェノキシ樹脂およびウレタン樹脂を1:1.2の質量比で混合して主剤樹脂とし、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を質量比で1:1で混合したものを硬化剤とし、主剤樹脂100質量部に対して硬化剤15質量部を溶剤(トルエン)で希釈して配合したものを樹脂成分とした。そして、下層用樹脂組成物は、前記樹脂成分に平均粒径2μmのシリカを20質量%含有させ、均一に分散させることによって調製した。
【0101】
上記のようにして得られた各成形用包装材について、下記の評価法に基づいて性能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0102】
〈成形性評価法〉
株式会社アマダ製の張り出し成形機(品番:TP−25C−X2)を用いて成形用包装材に対して縦55mm×横35mm×深さ8mmの直方体形状に張り出し成形を行い、成形品のコーナーR部におけるピンホールおよび割れを観察し、下記判定基準に基づいて成形性を評価した。
(判定基準)
「◎」…ピンホールが全くなく、割れも全く発生しなかった。
「○」…ピンホールは全くないが、マットコート層が僅かに白く濁った。
「△」…ピンホールがごく一部で僅かに発生したものの実質的に殆どなかった。
「×」…ピンホールと割れがコーナーR部に発生した。
【0103】
〈印字性評価法〉
マットコート層の面にインクジェットプリンターを用いて白インクでバーコードを印刷した。印刷したインクジェットのドットサイズは直径0.428mmであり、バーコード寸法は4.5mm×3.5mmである。このバーコードをバーコードリーダーで読み取り可能であるかどうか、また目視によりドットおよび線のにじみの有無を調べて評価した。
(判定基準)
「◎」…読み取り可能。にじみなし。
「○」…読み取り可能。僅かににじみあり。
「△」…読み取り可能。にじみあり。
「×」…読み取り不可能。にじみあり。
【0104】
〈耐摩耗性評価法〉
成形用包装材を10cm×10cmにカットして試験片とした。この試験片のマットコート層(14)に先端部の直径1cm、重さ1kgの分銅にサンドペーパー(粗さ:800)を巻き付けた摺動具で最大50往復擦り、外観の目視観察によって耐摩耗性を評価した。
(判定基準)
マット層がなくなって下地のナイロンの光沢が見えたときを変化ありとした。
「◎」…50往復させても外観に変化がなかった。
「○」…30往復で外観に変化があった。
「△」…10往復で外観に変化があった。
「×」…5往復で外観に変化があった。
【0105】
〈耐電解液性評価法〉
成形用包装材を10cm×10cmにカットして試験片とした。この試験片のマットコート層に電解液1mlを滴下してから最大60分放置し、エタノール漬け綿棒で拭き、外観の目視観察によって耐電解液性を評価した。
(判定基準)
マット層がなくなって下地のナイロンの光沢が見えたときを変化ありとした。
「◎」…60分でも外観に変化がなかった。
「○」…30分で外観に変化があった。
「△」…20分で外観に変化があった。
「×」…10分で外観に変化があった。
【0106】
【表1】
【0107】
表1の性能評価の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜5の成形用包装材は、良好な成形性、印字性、耐摩耗性、耐電解液性を兼ね備えたものであった。これに対し、マットコート層が単層の比較例1、2は耐電解液性、印字性、耐摩耗性、のうちのいずれかが劣るものであった。