【文献】
飯田 訓正,”ディーゼル排気微粒子の性状およびエンジン内燃焼におけるすすの生成と制御”,エアロゾル研究,1997年,Vol.12,No.3,183〜188頁
【文献】
SUN Duo et al.,"Measurement of Soot Temperature, Emissivity and Concentration of a Heavy-Oil Flame through Pyrometric Imaging",Instrumentation and Measurement Technology Conference(12MTC),2012 IEEE International,2012年 5月13日,[検索日 2017.05.12] インターネット<URL:ieeexplore.ieee.org/document/6229499><DOI:10.1109?12MTC.2012.6229499>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による燃焼解析装置を圧縮点火方式の内燃機関に応用した実施形態について、
図1〜
図7を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、火花点火方式の内燃機関などの他の燃焼機関に対しても応用することができる。
【0014】
本実施形態における燃焼解析装置を模式的に
図1に示し、その光強度計測器の概略構成を模式的に
図2に示す。すなわち、本実施形態における燃焼解析装置10は、異なる2つの波長λ
1,λ
2の光強度を一定時間毎に検出する光強度計測器20と、この光強度計測器20からの情報に基づいて煤の生成量および酸化量を連続的に算出する解析ユニット30とを具えている。
【0015】
本実施形態おける光強度計測器20は、火炎Fからの放射光を2方向に分けるビームスプリッター21と、一対の干渉フィルター22
1,22
2と、火炎Fに対する撮影領域が同一となるように設定される一対の高速度モノクロビデオカメラ23
1,23
2とを有する。一対の干渉フィルター22
1,22
2の一方である第1の干渉フィルター22
1は、ビームスプリッター21から導かれる一方の放射光のうち、第1の波長λ
1の放射光のみを透過させる。一対のモノクロビデオカメラ23
1,23
2の一方である第1のモノクロビデオカメラ23
1は、第1の干渉フィルター22
1を通過した第1の波長λ
1の放射光の光強度を計測してこれを解析ユニット30の火炎温度算出部31に出力する。一対の干渉フィルター22
1,22
2の他方である第2の干渉フィルター22
2は、ビームスプリッター21から導かれる他方の放射光のうち、第2の波長λ
2の放射光のみを透過させる。一対のモノクロビデオカメラ23
1,23
2の他方である第2のモノクロビデオカメラ23
2は、第2の干渉フィルター22
2を通過した第2の波長λ
2の放射光の光強度を計測してこれを解析ユニット30の火炎温度算出部31に出力する。
【0016】
本実施形態における解析ユニット30は、火炎温度算出部31と、KL値算出部32と、煤生成・酸化判定部33と、煤酸化量算出部34と、煤生成量算出部35とを有する。
火炎温度算出部31は、検出した2つの波長λ
1,λ
2の光強度の比率を基準物体における同じ2つの波長λ
1,λ
2の光強度の比率と比較して火炎温度Tを求めてこれをKL値算出部32と煤生成・酸化判定部33とに出力する。従って、この火炎温度算出部31には基準物体、すなわち黒体における同じ2つの波長λ
1,λ
2の光強度の比率とその温度との関係を示すマップが記憶されている。
【0017】
二色法において、黒体およびそれ以外の一般物体の分光放射のうち、2つの波長の輝度に着目し、2つの接近した適当な波長を選択した場合、両者の放射率はほぼ同じとなる。一般物体において2つの波長の放射率が等しいという前提が成立する場合、その輝度の比率は黒体における2つの波長の輝度の比率に等しくなる。従って、測定対象の輝度の比率を求め、あらかじめ測定しておいた黒体の輝度の比率と比較し、同じ輝度の比率となっている黒体の温度を測定対象の温度と見なすことが可能となる。本実施形態における火炎温度算出部31は、測定対象となる火炎Fに関し、光強度計測器20により計測された異なる2つの波長λ
1,λ
2の輝度の比率を算出する。そして、算出した比率と予め記憶しておいた黒体における同じ波長λ
1,λ
2での輝度の比率のデーターとを比較し、同じ輝度比率となる黒体の温度を火炎温度Tとして読み出している。このため、あらかじめ火炎撮影で用いる光強度計測器20と同じ光学系を同じ撮影条件にて標準光源からの放出光を撮影する。そして、2つの波長λ
1,λ
2に対する画像の輝度値から、それぞれの波長λ
1,λ
2に対応する(4)式のA,Bを算出し、火炎温度算出部31に記憶させておく。
【0018】
KL値算出部32は、この火炎温度算出部31にて求められた火炎温度Tを用いてKL値を算出する。一般に、煤のような黒体からの輻射光の強度E
0(λ, T)は、波長をλ,火炎温度をT,黒体放射第1定数(3.74×10
−16)をc
1、黒体放射第2定数(1.44×10
−2)をc
2で表すと、ウィーンの近似式から以下のように記述することができる。
E
0(λ, T)=c
1λ
−5・exp(−c
2/λT) ・・・(1)
【0019】
ここで、黒体ではない火炎の放射率をε
λで表すと、この火炎の輻射光の強度E
(λ, T)は以下の(2)式の通りとなる。
E
(λ, T)=ε
λE
0(λ, T)=ε
λc
1λ
−5・exp(−c
2/λT) ・・・(2)
【0020】
また、波長λにおける火炎の輝度に対応した黒体の輝度温度をT
aで表すと、(1)式は以下の(3)式のように変形することができる。
E
(λ, T)=ε
λE
0(λ,Ta)=c
1λ
−5・exp(−c
2/λT
a) ・・・(3)
ここで、高速度ビデオカメラなどで撮影した画像の輝度値Xと火炎の輻射光の強度E
(λ, T)との間に比例関係、すなわちE
(λ, T)=k・Xが成立すると仮定する。この場合、−λ/c
2=Aおよび(λ/c
2)・ln(c
1/λ
5k)=Bで表すと、(3)式を以下の(4)式のように変形することができる。
1/T
a=A・ln(E
(λ, T))+B ・・・(4)
【0021】
一方、HottelおよびBroughtonは火炎の輻射に関して以下の(5)式を提唱している。
ε
λ=1−exp(−KL/λα) ・・・(5)
【0022】
ここで、Kは火炎中の煤の濃度に比例する吸収係数であり、Lは輻射光を検出する方向に関する火炎の厚みであり、αは放射率の波長依存性を表す指数であり、可視域では1.38となる。つまり、KL値とは輻射光を検出する火炎の奥行き方向に関する煤濃度の積分値となる。(5)式と(2),(3)式とを用いてKLについて解くと、以下の(6)式が得られる。
KL=−λα・ln〔1−exp[−(c
2/λ)・{(1/T
a)−(1/T)}]〕 ・・・(6)
【0023】
従って、黒体ではない火炎に対して求められた火炎温度Tから上の(6)式を用いてKL値を算出することができる。
【0024】
煤生成・酸化判定部33は、今回求めた火炎温度T
nが前回求めた火炎温度T
n−1よりも低いか否かを判定すると同時に今回算出したKL値KL
nが前回算出したKL値KL
n−1よりも大きいか否かを判定する。
【0025】
煤酸化量算出部34は、今回の火炎温度T
nが前回の火炎温度T
n−1よりも高く、かつ今回のKL値KL
nが前回のKL値KL
n−1よりも小さいとの煤生成・酸化判定部33での判定結果に基づき、今回のKL値KL
nの減少分を煤の酸化量として算出する。
【0026】
煤生成量算出部35は、今回の火炎温度T
nが前回の火炎温度T
n−1よりも低く、かつ今回のKL値KL
nが前回のKL値KL
n−1よりも大きいとの煤生成・酸化判定部33での判定結果に基づき、今回のKL値KL
nの増分を煤の生成量として算出する。
【0027】
より具体的には、あらかじめ設定した一定の撮影周期t
nにて光強度計測器20により火炎画像を撮影し、火炎温度算出部31およびKL値算出部32にて撮影画像の各画素に対する火炎温度T
nとKL値KL
nとを求める。次に、画像上の同一座標に対し、時刻t
nおよび時刻t
n−1での火炎温度T
n,T
n−1およびKL値KL
n,KL
n−1を比較する。KL値が増加し、かつ火炎温度が低下している場合には、煤の生成により吸熱反応が生じたと判断し、KL値の増加分を煤の生成量とする。また、KL値が減少しかつ火炎温度が増加する場合は、煤の酸化(再燃焼)による発熱反応が生じたと判断し、KL値の減少分を煤の酸化量とする。なお、上記の条件以外のKL値の変化は、同一座標への煤の進入か、あるいは同一座標からの煤の移動に伴う変化と見なすことができる。以上のルーチンを、画像上の各画素および各時刻間で行うことで、煤の生成量と酸化量とについて空間分布と時系列データーの計測とが可能となる。
【0028】
本実施形態においては一対の高速度モノクロビデオカメラ23
1,23
2を用いるようにしたが、高速度カラービデオカメラを用いることも可能である。この場合、ビームスプリッター21や一対の干渉フィルター22
1,22
2も不要となり、しかも1台のカラービデオカメラのみで光強度計測器20を構成することができる。カラービデオカメラを用いる場合、RGB信号のうちの少なくとも2つの信号(例えばRとGか、RとBか、GとB)を用いることで異なる2種類の波長の光に対する火炎画像の輝度値、すなわち光強度を検出すればよい。通常、カラービデオカメラのR信号の中心波長は700nmであり、G信号は546nmであり、B信号は435nm近辺に設定されている。従って、例えばR信号とG信号の輝度を抽出することで、異なる2種類の波長の光強度を検出することができる。
【0029】
本実施形態における火炎の解析手順について
図3に示すフローチャートを用いて説明すると、まずS11のステップにて火炎Fの光強度を異なる2つの波長λ
1,λ
2にて検出し、S12のステップにてその火炎温度T
nおよびKL値KL
nを算出する。次いで、S13のステップにて今回算出した火炎温度T
nおよびKL値KL
nが初回であるか否かを判定し、ここで今回算出した火炎温度T
nおよびKL値KL
nが初回であると判断した場合には、S11のステップに戻り、上述した処理を繰り返す。なお、S12のステップでの火炎温度T
nおよびKL値KL
nの算出は、火炎温度算出部31,KL値算出部32,煤生成・酸化判定部33,煤酸化量算出部34,煤生成量算出部35での演算周期に応じた所定の周期t
nにて連続的に行われる。
【0030】
S13のステップにて今回算出した火炎温度T
nおよびKL値KL
nがこの処理を開始してから2回目以降であると判断した場合には、S14のステップに移行して今回求めた火炎温度T
nが前回求めた火炎温度T
n−1と同じであるか否かを判定する。ここで、今回の火炎温度T
nと前回の火炎温度T
n−1とが同じである、すなわち火炎温度が変化していないので煤の発生も煤の酸化も実質的に起こっていないと判断した場合には、S11のステップに戻り、再度上述した処理を繰り返す。
【0031】
一方、S14のステップにて今回の火炎温度T
nと前回の火炎温度T
n−1とが相違していると判断した場合には、S15のステップに移行して今回求めた火炎温度T
nが前回求めた火炎温度T
n−1よりも低いか否かを判定する。ここで、今回の火炎温度T
nが前回の火炎温度T
n−1よりも低い、すなわち火炎温度T
nが低下していると判断した場合には、S16のステップに移行して今度は今回算出したKL値KL
nが前回算出したKL値KL
n−1よりも大きいか否かを判定する。ここで、今回のKL値KL
nが前回のKL値KL
n−1よりも大きい、すなわち火炎温度の低下に伴って煤が発生していると判断した場合には、S17のステップに移行する。そして、前回のKL値KL
n−1に対して今回のKL値KL
nの減少分を煤の酸化量として算出する。
【0032】
先のS15のステップにて今回の火炎温度T
nが前回の火炎温度T
n−1よりも高い、すなわち火炎温度T
nが上昇していると判断した場合には、S18のステップに移行する。このS18のステップでは、今回算出したKL値KL
nが前回算出したKL値KL
n−1よりも小さいか否かを判定する。ここで、今回のKL値KL
nが前回のKL値KL
n−1よりも小さい、すなわち火炎温度T
nの上昇に伴って煤が酸化していると判断した場合には、S19のステップに移行して前回のKL値KL
n−1に対して今回のKL値KL
nの減少分を煤の酸化量として算出する。
【0033】
S16のステップにて今回のKL値KL
nが前回のKL値KL
n−1以下である、すなわち煤の発生も煤の酸化も実質的に起こっていないと判断した場合には、S11のステップに戻り、再度上述した処理を繰り返す。S18のステップにて今回のKL値KL
nが前回のKL値KL
n−1以上である、すなわち煤の発生も煤の酸化も実質的に起こっていないと判断した場合も同様に、S11のステップに戻って再度上述した処理を繰り返す。
【0034】
なお、先のS17およびS19のステップを実行した後、再びS11以降のステップが繰り返され、これらS17のステップおよびS19のステップにて煤の生成量と煤の酸化量とがそれぞれ累積的に算出される。
【0035】
ところで、内燃機関の燃焼室では、この燃焼室内に発生するスワール流によって火炎が移動するため、この火炎を本発明の燃焼解析装置10を用いて解析する場合、光強度計測器20によって得られる画像に対する補正処理が必要となる。つまり、今回の算出時刻t
nおよび前回の算出時刻t
n−1における火炎温度T
n,T
n−1およびKL値KL
n,KL
n−1を比較する際に、スワール流によって火炎が移動する分だけ比較座標の位置補正を行う必要があり、これを
図4を用いて模式的に説明する。二点鎖線で示す前回の算出時刻t
n−1における火炎Fの画像に対し、スワール流Sによって移動した後の実線で示す今回の算出時刻t
nにおける火炎Fの画像をスワール流Sの移動方向と逆方向に移動させて二つの火炎Fの画像が重なり合うようにすればよい。
【0036】
本実施形態による火炎Fの解析結果を
図5に示すが、これは本実施形態による燃焼解析装置10を用いて算出した煤の累積排出量から煤の累積酸化量を減算した値を横軸に取り、実際の煤の排出量を縦軸に取ったものである。この
図5において、算出された煤の生成量と実際の煤の排出量とに直線状の比例関係が得られていることからも明らかなように、本計測における煤の生成量と酸化量の計測結果が妥当であることを確認することができよう。
【0037】
上述した光強度計測器20の構成に関しては、本実施形態以外の任意の構成を採用することが可能であり、例えば
図6や
図7に示したものなどを挙げることができる。
【0038】
図6に示す光強度計測器20は、1台の高速度モノクロビデオカメラ23と、このモノクロビデオカメラ23の焦点面に対して画像を2分割して撮影するためのステレオアダプター24と、一対の干渉フィルター22
1,22
2とを有する。ステレオアダプター24は、モノクロビデオカメラ23の光軸を中心に一方側と他方側とに対称に配された2組の反射鏡25
1,25
2を組み合わせたものである。本実施形態では1台のモノクロビデオカメラ23の焦点面に2つの波長λ
1,λ
2の火炎Fの画像が半分ずつ形成されることになり、火炎Fの解像度が1/2に低下してしまう。しかしながら、モノクロビデオカメラ23が1台だけであっても干渉フィルター22
1,22
2とステレオアダプター24とを組み合わせることによって光強度計測器20を構成することが可能となる。
【0039】
図7に示す光強度計測器20は、撮像光学系26と、イメージファイバー27と、ビームスプリッター21と、一対の干渉フィルター22
1,22
2と、一対の光電子増倍管28
1,28
2とを有する。2つの異なる波長λ
1,λ
2の火炎Fの輝度情報が一対の光電子増倍管28
1,28
2に導かれるようになっており、上述したような高速度ビデオカメラを用いずとも光強度計測器20を構成することが理解できよう。
【0040】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。