特許第6166156号(P6166156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166156
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】燃焼解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/04 20060101AFI20170710BHJP
   G01J 5/60 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   G01M15/04
   G01J5/60 C
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-238197(P2013-238197)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-99055(P2015-99055A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 勇人
(72)【発明者】
【氏名】河野 正顕
(72)【発明者】
【氏名】姉崎 幸信
(72)【発明者】
【氏名】西田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 剛
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/059976(WO,A1)
【文献】 特開2005−164128(JP,A)
【文献】 飯田 訓正,”ディーゼル排気微粒子の性状およびエンジン内燃焼におけるすすの生成と制御”,エアロゾル研究,1997年,Vol.12,No.3,183〜188頁
【文献】 SUN Duo et al.,"Measurement of Soot Temperature, Emissivity and Concentration of a Heavy-Oil Flame through Pyrometric Imaging",Instrumentation and Measurement Technology Conference(12MTC),2012 IEEE International,2012年 5月13日,[検索日 2017.05.12] インターネット<URL:ieeexplore.ieee.org/document/6229499><DOI:10.1109?12MTC.2012.6229499>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/04
G01J 5/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火炎からの放射光に関し、異なる2つの波長の光強度を一定時間毎に検出する光強度計測器と、
検出した2つの波長の光強度の比率を基準物体における同じ2つの波長の光強度の比率と比較して火炎温度を求める火炎温度算出部と、
この火炎温度算出部にて求められた火炎温度を用いてKL値を算出するKL値算出部と、
今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも低いか否かを判定すると同時に今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも大きいか否かを判定する煤生成・酸化判定部と、
今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも高く、かつ今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも小さいとの前記煤生成・酸化判定部での判定結果に基づき、前回算出したKL値に対して今回算出したKL値の減少分を煤の酸化量として算出する煤酸化量算出部と、
今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも低く、かつ今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも大きいとの前記煤生成・酸化判定部での判定結果に基づき、前回算出したKL値に対して今回算出したKL値の増分を煤の生成量として算出する煤生成量算出部と
を具えたことを特徴とする燃焼解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼機関などにおける燃焼状態を解析するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮点火機関などの燃焼機関においては、燃焼室およびこれに連通する吸排気ポートの形状や燃焼室に供給される燃料の噴射時期および噴射圧力などを最適化させるため、燃焼室内での燃料の燃焼状態を実時間で把握できるようにすることが有効である。この目的のため、二色法を利用して燃焼室にて生成する火炎の温度とKL値とを計測し、煤の濃度を取得するようにした技術が特許文献1などで提案されている。
【0003】
上述した二色法は、特許文献1や非特許文献1などで周知のように、火炎の輝度を同時に2つの異なる波長にて計測することにより、火炎温度およびKL値を算出することが可能である。KL値は火炎温度と煤の濃度とに比例した値であるので、火炎温度とKL値とが分かれば煤の濃度を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144673号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本機械学会論文集B編47巻417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃焼室内において燃料の着火により火炎が発生し、これに伴って煤の生成とその酸化とが燃焼室のあちこちにて連続的に起こる。この場合、特許文献1に開示された従来の二色法では、燃焼室内にて生成した煤の酸化の程度を本質的に把握することができない。つまり、従来の二色法では煤の生成量からその酸化量を差し引いた最終的な煤の濃度しか把握することができず、生成した煤の酸化の程度を分離して計測することができないという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、燃焼機関における燃料の燃焼に伴って生成する煤の酸化状態を実時間にて連続的に計測することができるようにした方法およびこの方法を実施し得る装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態は、火炎からの放射光に関し、異なる2つの波長の光強度を一定時間毎に検出する光強度計測器と、検出した2つの波長の光強度の比率を基準物体における同じ2つの波長の光強度の比率と比較して火炎温度を求める火炎温度算出部と、この火炎温度算出部にて求められた火炎温度を用いてKL値を算出するKL値算出部と、今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも低いか否かを判定すると同時に今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも大きいか否かを判定する煤生成・酸化判定部と、今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも高く、かつ今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも小さいとの前記煤生成・酸化判定部での判定結果に基づき、前回算出したKL値に対して今回算出したKL値の減少分を煤の酸化量として算出する煤酸化量算出部と、今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも低く、かつ今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも大きいとの前記煤生成・酸化判定部での判定結果に基づき、前回算出したKL値に対して今回算出したKL値の増分を煤の生成量として算出する煤生成量算出部とを具えたことを特徴とする燃焼解析装置にある。
【0009】
本発明において、高温かつ酸素不足に晒された火炎内における未燃の燃料は、熱分解による脱水素反応、すなわち炭化を経て煤前駆物質を生成し、この煤前駆物質が凝集・合体することで煤となる。この反応は吸熱反応であるので、煤前駆物質が生ずる箇所での火炎温度は低下することとなる。煤が生成した火炎内に酸素が導入されると、煤が燃えて酸化し、火炎温度が上昇する。つまり、煤が生成した場所では火炎温度が低下すると共に煤の生成によりKL値が増加するのに対し、煤が酸化した場所では火炎温度が上昇すると共に煤の減少によりKL値も低下する。
【0010】
本発明の第2の形態は、火炎からの放射光に関し、異なる2つの波長の光強度を一定時間毎に検出するステップと、検出した2つの波長の光強度の比率を基準物体における同じ2つの波長の光強度の比率と比較して火炎温度を求めるステップと、求めた火炎温度を用いてKL値を算出するステップと、今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも低いか否かを判定するステップと、今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも大きいか否かを判定するステップと、今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも低く、かつ今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも大きいと判断した場合、前回算出したKL値に対して今回算出したKL値の増分だけ煤が生成していると判定するステップと、今回求めた火炎温度が前回求めた火炎温度よりも高く、かつ今回算出したKL値が前回算出したKL値よりも小さいと判断した場合、前回算出したKL値に対して今回算出したKL値の減少分だけ煤が酸化していると判定するステップとを具えたことを特徴とする燃焼解析方法にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、火炎温度およびKL値の時系列変化を取得することにより、煤の生成量のみならず、煤の酸化量をも連続的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による燃焼解析装置の一実施形態を模式的に表すブロック図である。
図2図1に示した実施形態における光強度計測器の部分の概念図である。
図3図1に示した実施形態における火炎解析手順を表すフローチャートである。
図4】圧縮火花点火機関の燃焼室におけるスワール状となる火炎の模式図である。
図5図1に示した実施形態において、煤生成量から煤酸化量を減算した値と、煤排出量との関係を表すグラフである。
図6】光強度計測器の他の実施形態の概念図である。
図7】光強度計測器の別な実施形態の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による燃焼解析装置を圧縮点火方式の内燃機関に応用した実施形態について、図1図7を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、火花点火方式の内燃機関などの他の燃焼機関に対しても応用することができる。
【0014】
本実施形態における燃焼解析装置を模式的に図1に示し、その光強度計測器の概略構成を模式的に図2に示す。すなわち、本実施形態における燃焼解析装置10は、異なる2つの波長λ,λの光強度を一定時間毎に検出する光強度計測器20と、この光強度計測器20からの情報に基づいて煤の生成量および酸化量を連続的に算出する解析ユニット30とを具えている。
【0015】
本実施形態おける光強度計測器20は、火炎Fからの放射光を2方向に分けるビームスプリッター21と、一対の干渉フィルター22,22と、火炎Fに対する撮影領域が同一となるように設定される一対の高速度モノクロビデオカメラ23,23とを有する。一対の干渉フィルター22,22の一方である第1の干渉フィルター22は、ビームスプリッター21から導かれる一方の放射光のうち、第1の波長λの放射光のみを透過させる。一対のモノクロビデオカメラ23,23の一方である第1のモノクロビデオカメラ23は、第1の干渉フィルター22を通過した第1の波長λの放射光の光強度を計測してこれを解析ユニット30の火炎温度算出部31に出力する。一対の干渉フィルター22,22の他方である第2の干渉フィルター22は、ビームスプリッター21から導かれる他方の放射光のうち、第2の波長λの放射光のみを透過させる。一対のモノクロビデオカメラ23,23の他方である第2のモノクロビデオカメラ23は、第2の干渉フィルター22を通過した第2の波長λの放射光の光強度を計測してこれを解析ユニット30の火炎温度算出部31に出力する。
【0016】
本実施形態における解析ユニット30は、火炎温度算出部31と、KL値算出部32と、煤生成・酸化判定部33と、煤酸化量算出部34と、煤生成量算出部35とを有する。
火炎温度算出部31は、検出した2つの波長λ,λの光強度の比率を基準物体における同じ2つの波長λ,λの光強度の比率と比較して火炎温度Tを求めてこれをKL値算出部32と煤生成・酸化判定部33とに出力する。従って、この火炎温度算出部31には基準物体、すなわち黒体における同じ2つの波長λ,λの光強度の比率とその温度との関係を示すマップが記憶されている。
【0017】
二色法において、黒体およびそれ以外の一般物体の分光放射のうち、2つの波長の輝度に着目し、2つの接近した適当な波長を選択した場合、両者の放射率はほぼ同じとなる。一般物体において2つの波長の放射率が等しいという前提が成立する場合、その輝度の比率は黒体における2つの波長の輝度の比率に等しくなる。従って、測定対象の輝度の比率を求め、あらかじめ測定しておいた黒体の輝度の比率と比較し、同じ輝度の比率となっている黒体の温度を測定対象の温度と見なすことが可能となる。本実施形態における火炎温度算出部31は、測定対象となる火炎Fに関し、光強度計測器20により計測された異なる2つの波長λ,λの輝度の比率を算出する。そして、算出した比率と予め記憶しておいた黒体における同じ波長λ,λでの輝度の比率のデーターとを比較し、同じ輝度比率となる黒体の温度を火炎温度Tとして読み出している。このため、あらかじめ火炎撮影で用いる光強度計測器20と同じ光学系を同じ撮影条件にて標準光源からの放出光を撮影する。そして、2つの波長λ,λに対する画像の輝度値から、それぞれの波長λ,λに対応する(4)式のA,Bを算出し、火炎温度算出部31に記憶させておく。
【0018】
KL値算出部32は、この火炎温度算出部31にて求められた火炎温度Tを用いてKL値を算出する。一般に、煤のような黒体からの輻射光の強度E0(λ, T)は、波長をλ,火炎温度をT,黒体放射第1定数(3.74×10−16)をc、黒体放射第2定数(1.44×10−2)をcで表すと、ウィーンの近似式から以下のように記述することができる。
0(λ, T)=cλ−5・exp(−c/λT) ・・・(1)
【0019】
ここで、黒体ではない火炎の放射率をελで表すと、この火炎の輻射光の強度E(λ, T)は以下の(2)式の通りとなる。
(λ, T)=ελ0(λ, T)=ελλ−5・exp(−c/λT) ・・・(2)
【0020】
また、波長λにおける火炎の輝度に対応した黒体の輝度温度をTで表すと、(1)式は以下の(3)式のように変形することができる。
(λ, T)=ελ0(λ,Ta)=cλ−5・exp(−c/λT) ・・・(3)
ここで、高速度ビデオカメラなどで撮影した画像の輝度値Xと火炎の輻射光の強度E(λ, T)との間に比例関係、すなわちE(λ, T)=k・Xが成立すると仮定する。この場合、−λ/c=Aおよび(λ/c)・ln(ck)=Bで表すと、(3)式を以下の(4)式のように変形することができる。
1/T=A・ln(E(λ, T))+B ・・・(4)
【0021】
一方、HottelおよびBroughtonは火炎の輻射に関して以下の(5)式を提唱している。
ελ=1−exp(−KL/λα) ・・・(5)
【0022】
ここで、Kは火炎中の煤の濃度に比例する吸収係数であり、Lは輻射光を検出する方向に関する火炎の厚みであり、αは放射率の波長依存性を表す指数であり、可視域では1.38となる。つまり、KL値とは輻射光を検出する火炎の奥行き方向に関する煤濃度の積分値となる。(5)式と(2),(3)式とを用いてKLについて解くと、以下の(6)式が得られる。
KL=−λα・ln〔1−exp[−(c/λ)・{(1/T)−(1/T)}]〕 ・・・(6)
【0023】
従って、黒体ではない火炎に対して求められた火炎温度Tから上の(6)式を用いてKL値を算出することができる。
【0024】
煤生成・酸化判定部33は、今回求めた火炎温度Tが前回求めた火炎温度Tn−1よりも低いか否かを判定すると同時に今回算出したKL値KLが前回算出したKL値KLn−1よりも大きいか否かを判定する。
【0025】
煤酸化量算出部34は、今回の火炎温度Tが前回の火炎温度Tn−1よりも高く、かつ今回のKL値KLが前回のKL値KLn−1よりも小さいとの煤生成・酸化判定部33での判定結果に基づき、今回のKL値KLの減少分を煤の酸化量として算出する。
【0026】
煤生成量算出部35は、今回の火炎温度Tが前回の火炎温度Tn−1よりも低く、かつ今回のKL値KLが前回のKL値KLn−1よりも大きいとの煤生成・酸化判定部33での判定結果に基づき、今回のKL値KLの増分を煤の生成量として算出する。
【0027】
より具体的には、あらかじめ設定した一定の撮影周期tにて光強度計測器20により火炎画像を撮影し、火炎温度算出部31およびKL値算出部32にて撮影画像の各画素に対する火炎温度TとKL値KLとを求める。次に、画像上の同一座標に対し、時刻tおよび時刻tn−1での火炎温度T,Tn−1およびKL値KL,KLn−1を比較する。KL値が増加し、かつ火炎温度が低下している場合には、煤の生成により吸熱反応が生じたと判断し、KL値の増加分を煤の生成量とする。また、KL値が減少しかつ火炎温度が増加する場合は、煤の酸化(再燃焼)による発熱反応が生じたと判断し、KL値の減少分を煤の酸化量とする。なお、上記の条件以外のKL値の変化は、同一座標への煤の進入か、あるいは同一座標からの煤の移動に伴う変化と見なすことができる。以上のルーチンを、画像上の各画素および各時刻間で行うことで、煤の生成量と酸化量とについて空間分布と時系列データーの計測とが可能となる。
【0028】
本実施形態においては一対の高速度モノクロビデオカメラ23,23を用いるようにしたが、高速度カラービデオカメラを用いることも可能である。この場合、ビームスプリッター21や一対の干渉フィルター22,22も不要となり、しかも1台のカラービデオカメラのみで光強度計測器20を構成することができる。カラービデオカメラを用いる場合、RGB信号のうちの少なくとも2つの信号(例えばRとGか、RとBか、GとB)を用いることで異なる2種類の波長の光に対する火炎画像の輝度値、すなわち光強度を検出すればよい。通常、カラービデオカメラのR信号の中心波長は700nmであり、G信号は546nmであり、B信号は435nm近辺に設定されている。従って、例えばR信号とG信号の輝度を抽出することで、異なる2種類の波長の光強度を検出することができる。
【0029】
本実施形態における火炎の解析手順について図3に示すフローチャートを用いて説明すると、まずS11のステップにて火炎Fの光強度を異なる2つの波長λ,λにて検出し、S12のステップにてその火炎温度TおよびKL値KLを算出する。次いで、S13のステップにて今回算出した火炎温度TおよびKL値KLが初回であるか否かを判定し、ここで今回算出した火炎温度TおよびKL値KLが初回であると判断した場合には、S11のステップに戻り、上述した処理を繰り返す。なお、S12のステップでの火炎温度TおよびKL値KLの算出は、火炎温度算出部31,KL値算出部32,煤生成・酸化判定部33,煤酸化量算出部34,煤生成量算出部35での演算周期に応じた所定の周期tにて連続的に行われる。
【0030】
S13のステップにて今回算出した火炎温度TおよびKL値KLがこの処理を開始してから2回目以降であると判断した場合には、S14のステップに移行して今回求めた火炎温度Tが前回求めた火炎温度Tn−1と同じであるか否かを判定する。ここで、今回の火炎温度Tと前回の火炎温度Tn−1とが同じである、すなわち火炎温度が変化していないので煤の発生も煤の酸化も実質的に起こっていないと判断した場合には、S11のステップに戻り、再度上述した処理を繰り返す。
【0031】
一方、S14のステップにて今回の火炎温度Tと前回の火炎温度Tn−1とが相違していると判断した場合には、S15のステップに移行して今回求めた火炎温度Tが前回求めた火炎温度Tn−1よりも低いか否かを判定する。ここで、今回の火炎温度Tが前回の火炎温度Tn−1よりも低い、すなわち火炎温度Tが低下していると判断した場合には、S16のステップに移行して今度は今回算出したKL値KLが前回算出したKL値KLn−1よりも大きいか否かを判定する。ここで、今回のKL値KLが前回のKL値KLn−1よりも大きい、すなわち火炎温度の低下に伴って煤が発生していると判断した場合には、S17のステップに移行する。そして、前回のKL値KLn−1に対して今回のKL値KLの減少分を煤の酸化量として算出する。
【0032】
先のS15のステップにて今回の火炎温度Tが前回の火炎温度Tn−1よりも高い、すなわち火炎温度Tが上昇していると判断した場合には、S18のステップに移行する。このS18のステップでは、今回算出したKL値KLが前回算出したKL値KLn−1よりも小さいか否かを判定する。ここで、今回のKL値KLが前回のKL値KLn−1よりも小さい、すなわち火炎温度Tの上昇に伴って煤が酸化していると判断した場合には、S19のステップに移行して前回のKL値KLn−1に対して今回のKL値KLの減少分を煤の酸化量として算出する。
【0033】
S16のステップにて今回のKL値KLが前回のKL値KLn−1以下である、すなわち煤の発生も煤の酸化も実質的に起こっていないと判断した場合には、S11のステップに戻り、再度上述した処理を繰り返す。S18のステップにて今回のKL値KLが前回のKL値KLn−1以上である、すなわち煤の発生も煤の酸化も実質的に起こっていないと判断した場合も同様に、S11のステップに戻って再度上述した処理を繰り返す。
【0034】
なお、先のS17およびS19のステップを実行した後、再びS11以降のステップが繰り返され、これらS17のステップおよびS19のステップにて煤の生成量と煤の酸化量とがそれぞれ累積的に算出される。
【0035】
ところで、内燃機関の燃焼室では、この燃焼室内に発生するスワール流によって火炎が移動するため、この火炎を本発明の燃焼解析装置10を用いて解析する場合、光強度計測器20によって得られる画像に対する補正処理が必要となる。つまり、今回の算出時刻tおよび前回の算出時刻tn−1における火炎温度T,Tn−1およびKL値KL,KLn−1を比較する際に、スワール流によって火炎が移動する分だけ比較座標の位置補正を行う必要があり、これを図4を用いて模式的に説明する。二点鎖線で示す前回の算出時刻tn−1における火炎Fの画像に対し、スワール流Sによって移動した後の実線で示す今回の算出時刻tにおける火炎Fの画像をスワール流Sの移動方向と逆方向に移動させて二つの火炎Fの画像が重なり合うようにすればよい。
【0036】
本実施形態による火炎Fの解析結果を図5に示すが、これは本実施形態による燃焼解析装置10を用いて算出した煤の累積排出量から煤の累積酸化量を減算した値を横軸に取り、実際の煤の排出量を縦軸に取ったものである。この図5において、算出された煤の生成量と実際の煤の排出量とに直線状の比例関係が得られていることからも明らかなように、本計測における煤の生成量と酸化量の計測結果が妥当であることを確認することができよう。
【0037】
上述した光強度計測器20の構成に関しては、本実施形態以外の任意の構成を採用することが可能であり、例えば図6図7に示したものなどを挙げることができる。
【0038】
図6に示す光強度計測器20は、1台の高速度モノクロビデオカメラ23と、このモノクロビデオカメラ23の焦点面に対して画像を2分割して撮影するためのステレオアダプター24と、一対の干渉フィルター22,22とを有する。ステレオアダプター24は、モノクロビデオカメラ23の光軸を中心に一方側と他方側とに対称に配された2組の反射鏡25,25を組み合わせたものである。本実施形態では1台のモノクロビデオカメラ23の焦点面に2つの波長λ,λの火炎Fの画像が半分ずつ形成されることになり、火炎Fの解像度が1/2に低下してしまう。しかしながら、モノクロビデオカメラ23が1台だけであっても干渉フィルター22,22とステレオアダプター24とを組み合わせることによって光強度計測器20を構成することが可能となる。
【0039】
図7に示す光強度計測器20は、撮像光学系26と、イメージファイバー27と、ビームスプリッター21と、一対の干渉フィルター22,22と、一対の光電子増倍管28,28とを有する。2つの異なる波長λ,λの火炎Fの輝度情報が一対の光電子増倍管28,28に導かれるようになっており、上述したような高速度ビデオカメラを用いずとも光強度計測器20を構成することが理解できよう。
【0040】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0041】
10 燃焼解析装置
20 光強度計測器
21 ビームスプリッター
22,22 干渉フィルター
23,23,23 高速度モノクロビデオカメラ
24 ステレオアダプター
25,25 反射鏡
26 撮像光学系
27 イメージファイバー
28,28 光電子増倍管
30 解析ユニット
31 火炎温度算出部
32 KL値算出部
33 煤生成・酸化判定部
34 煤酸化量算出部
35 煤生成量算出部
λ,λ 波長
F 火炎
S スワール流
,Tn−1 火炎温度
KL,KLn−1 KL値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7