特許第6166166号(P6166166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166166
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/00 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   B66B23/00 B
   B66B23/00 C
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-252779(P2013-252779)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2015-110454(P2015-110454A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000232944
【氏名又は名称】日立水戸エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内山 香緒利
(72)【発明者】
【氏名】三村 一美
(72)【発明者】
【氏名】宇津宮 博文
(72)【発明者】
【氏名】名田部 豊
【審査官】 岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−086939(JP,A)
【文献】 特開2001−158585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00−31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の床に設けた段付部に両端部を支持される本体枠を備え、前記本体枠の少なくとも一方の端部が前記段付部に対して前記本体枠の長手方向に相対変位可能に支持されると共に、前記本体枠側に構成される床と建造物側の床との間に配設され、建造物側の前記床に対してスライド可能に設けられたスライド床を有する乗客コンベアにおいて、
前記スライド床は、利用者の歩行面となる表面プレートと、前記段付部に設置されて前記表面プレート裏面を支持する補強構造とを備え、
前記補強構造は、前記本体枠の長手方向において、前記本体枠側との間に第1の隙間を、また前記段付部の段差面側との間に第2の隙間を有するように配置され、前記本体枠が前記段付部に対して前記長手方向に相対変位する場合に、前記本体枠側からの押圧力を受けて前記段付部上を移動可能に設置されることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
請求項1において、
前記表面プレートを建造物側の床上と前記本体枠側に構成される床の表面上に重なるように配置し、前記表面プレートが建造物の床側と前記本体枠側に構成される床側との両方向にスライド可能な構成としたことを特徴する乗客コンベア。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記表面プレートと前記本体枠上に構成される床との間に作用する第1の摩擦力と、前記補強構造と前記段付部との間に作用する第2の摩擦力と、前記補強構造が受ける前記本体枠から受ける押圧力との間に、第1の摩擦力<第2の摩擦力<押圧力の関係が成立するように構成したことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記本体枠が前記段差面側に移動する場合に、前記本体枠に設けられた前記補強構造への当接部は前記第1の隙間を移動して前記補強構造に当接し、前記当接部が前記補強構造に当接することにより前記補強構造は前記本体枠側からの押圧力を受けて前記第2の隙間側に移動することを特徴とする乗客コンベア。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記表面プレートは前記補強構造と一体となって移動するように構成され、
前記表面プレートが前記長手方向において前記本体枠側に構成される床と重なる長さを、少なくとも想定される最大の相対変位の大きさと前記第2の隙間の大きさとの和よりも大きくしたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項6】
請求項5において、
前記表面プレートが前記長手方向において建造物側の床と重なる長さを、少なくとも前記第1の隙間よりも大きくしたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記表面プレートは前記本体枠と一体となって移動するように構成され、
前記表面プレートが前記長手方向において建造物側の床と重なる長さを、少なくとも想定される最大の相対変位よりも大きくしたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項8】
請求項7において、
前記表面プレートを前記本体枠側に構成される床で構成したことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記長手方向における前記第1の隙間の大きさと前記第2の隙間の大きさの和を、想定される最大の相対変位の大きさ以上にしたことを特徴とする乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや動く歩道等を含む乗客コンベアに係り、特に地振動に伴う建物の層間変位や2つの建物間の揺れに対応可能な乗客コンベアに係り、特にその床構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、地震発生時は建築物が揺れ、下階と上階の間に設置している乗客コンベアも一緒に揺らされる。建築物の構造によっては、下階と上階の揺れの大きさが異なるため、乗客コンベアの支持部がスライドし、床面に隙間が出来たり、本体枠が塑性変形したりしてしまう。これに対応する為、乗客コンベアには特開2001-158585号公報(特許文献1)に示すようなスライド可能な床を設けて対応した例がある。
【0003】
特許文献1の乗客コンベアでは、本体枠の上部側の終端部の縁部を建築構造体に対して移動不能に固定する固定側部と、本体枠の下部側の終端部の縁部を建築構造体に載置する載置側部とを備え、本体枠と載置側部の位置する建築構造体との間に、本体枠の長手方向の移動を可能にする間隔を有し、本体枠の長手方向の移動による建築構造体との間の位置ずれに対して、その長手方向にのみ追従可能な滑動部を載置側部に備えるとともに、本体枠と建築構造体との衝突力を吸収する緩衝手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-158585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の乗客コンベアの支持部(滑動部)上の床は、建築物の層間変位を吸収するために床の一端を乗客コンベアの支持部に溶接などで固定し、他端を非固定にして建屋側の床の上をスライドするようにしている。また床は、床プレートとこれを支える補強材(受材)とで構成されている。
【0006】
しかし、特許文献1の構成の場合、上下階の層間変位が大きい場合に対応しようとすると、床プレート下の空隙(補強材(受材)と建築構造体との間隔)も大きく(長く)確保する必要がある。空隙を大きく(長く)確保すると、床プレートも長くする必要があるとともに、床プレートがたわみやすくなるため、たわみを防止するために床プレートを厚くする必要があった。しかし、床プレートを厚くすると、建屋側の床の上に乗せた床プレートの厚さにより、利用者の歩行面に大きい段差が生じるという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、上下階の層間変位を含む、乗客コンベアの二つの乗降口間の相対変位に対応するために建屋側の床の上をスライドするスライド床を備えた構成にあって、二つの乗降口間の相対変位が大きい場合にも対応可能で、スライド床を構成する床プレートによる段差を小さくした乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の目的を達成するため、建造物の床に設けた段付部に両端部を支持される本体枠を備え、前記本体枠の少なくとも一方の端部が前記段付部に対して前記本体枠の長手方向に相対変位可能に支持されると共に、前記本体枠側に構成される床と建造物側の床との間に配設され、建造物側の前記床に対してスライド可能に設けられたスライド床を有する乗客コンベアにおいて、前記スライド床は、利用者の歩行面となる表面プレートと、前記段付部に設置されて前記表面プレート裏面を支持する補強構造とを備え、前記補強構造は、前記本体枠の長手方向において、前記本体枠側との間に第1の隙間を、また前記段付部の段差面側との間に第2の隙間を有するように配置され、前記本体枠が前記段付部に対して前記長手方向に相対変位する場合に、前記本体枠側からの押圧力を受けて前記段付部上を移動可能に設置される。
【発明の効果】
【0009】
上下階の層間変位を含む、乗客コンベアの二つの乗降口間の相対変位に対応するために建屋側の床の上をスライドするスライド床を備えた構成にあって、二つの乗降口間の相対変位が大きい場合にも対応可能で、スライド床を構成する表面プレートによる段差を小さくした乗客コンベアを提供することができる。
【0010】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】乗客コンベア全体図。
図2】本発明に係る一実施例(第一実施例)における乗客コンベアの床断面図であり、通常時の状態を示す図である。
図3】本発明に係る一実施例(第一実施例)における乗客コンベアの床平面図。
図4A】第一実施例の第2の床5aの動作を説明する図であり、補強構造20が第1の床5に押圧されて図2に示す通常時の状態から矢印Yで示す方向に第2の隙間9aを移動した状態を示す図である。
図4B】第一実施例の第2の床5aの動作を説明する図であり、第1の床5及びフレーム13が図4Aの状態から反対方向(矢印Zで示す方向)に移動して通常時の位置からさらに層間変位γ分だけ移動した状態を示す図である。
図4C】第一実施例の第2の床5aの動作を説明する図であり、図2に示す通常時の状態から層間変位γにより第1の床5が第1の隙間9を拡大する方向(矢印Zで示す方向)に移動した状態を示す図である。
図5】本発明に係る一実施例(第二実施例)における乗客コンベアの床断面図。
図6】第二実施例における第2の床5aの動作を説明する図であり、図5に示す通常時の状態から層間変位γにより第1の床5が第1の隙間9を拡大する方向(矢印Zで示す方向)に移動した状態を示す図である。
図7】本発明に係る一実施例(第三実施例)における乗客コンベアの床断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る乗客コンベアの実施例を図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明に係る第一実施例について、図1乃至図4Cに基づいて説明する。
【0014】
本実施例の乗客コンベア1の構成について、図1乃至図3に基づいて説明する。図1は下階建屋2と上階建屋3間に架かる乗客コンベア1の全体図である。図2は乗客コンベア1の床断面を示す図であり、通常時の状態を示す図である。図3は、乗客コンベア1の床平面図である。なお、図3の床平面図は、後述する第二実施例及び第三実施例の床平面に対しても適用される。
【0015】
本明細書において説明する乗客コンベア1は、建屋(建造物)を含む構造物(構造体とも言う)の異なる階の間に架けられるエスカレーターや、水平或いは緩やかな傾斜で2つの異なる構造物間に設けられる動く歩道を対象としている。また、本発明の床(以下、スライド床と言う)は下階建屋2か上階建屋3の一方もしくは両方、すなわち乗客コンベア1の2つの乗降口のうち少なくともいずれか一方の乗降口に設ける。本実施例ではエスカレーターについてスライド床を下階建屋側に設置した例を説明する。
【0016】
エスカレーター及び緩やかな傾斜を付けて設置される動く歩道では、地震時の振動により、下階建屋2と上階建屋3との間に層間変位が発生する。水平方向に設置される動く歩道で、2つの異なる構造物間に設置した場合には、動く歩道の二つの乗降口間における相対変位が発生する。なお、この相対変位及び層間変位は、本明細書において、フレーム(枠体)13の長手方向(踏段の走行方向)に沿い、水平方向に平行な変位として説明する。また、二つの乗降口間における相対変位は、エスカレーター及び緩やかな傾斜を付けて設置される動く歩道における層間変位を含む上位概念として用いる。
【0017】
乗客コンベア1は、図1に示すように、下階建屋2の床F1に連なる一方の乗降口である下部乗降口102から上階建屋3の床F2に連なる他方の乗降口である上部乗降口103にかけて、無端状に連結されて循環移動する踏段104、この踏段104と同期して移動するハンドレール105、及び踏段104の幅方向の両側に立設され、ハンドレール105の走行路を形成する欄干106などの構造部品を備えている。なお、本明細書においては、踏段104の幅方向は、踏段104の移動方向に対して垂直、かつ踏段104の踏み面に平行な方向(水平方向)であり、踏段104の移動方向に沿い、かつ踏段104の踏み面に平行な方向を奥行き方向と定義する。この奥行き方向を後述するフレーム(本体枠とも言う)13或いは乗客コンベア1の長手方向と呼ぶ場合もある。
【0018】
また、欄干106などの構造部品の長手方向、すなわち下部乗降口102から下部曲線路104A、傾斜路104B、上部曲線路104Cを経由して上部乗降口103に至る全長Lのフレーム13を、下部水平部107A、傾斜部107B、及び上部水平部107Cを連結した形で、下階建屋2の床F1と上階建屋3の床F2との間に配置してある。このフレーム13は、例えば鋼材から成る。
【0019】
フレーム13の上部側(床F2側)端部に固定された支持部(梁体とも言う)7は、上部側の建築構造体108に移動不能に、かつ、離脱不能に強固に一体化されて固定され、これによりフレーム13の固定側部101Aを形成する。また、フレーム13の下部側(床F1側)の端部に固定された支持部(梁体とも言う)7は、下階建屋2の床F1に対して非固定状態で載置され、フレーム13の載置側部101Bを形成している。載置側部101Bは、地震などで床F1と床F2との間に大きな層間変位(相対変位)が発生してフレーム13と床F1側の建築構造物である段付部(受梁とも言う)2Aとの間に相対変位が生じた場合に、床F1の段付部2Aから離脱して落下することが防止されるように構成されている。また、載置側部101Bを設けることにより、フレーム13に圧縮方向の力が加わることを防止したり、その力を低減したりすることができる。このために、載置側部101Bには、床F1側の段付部2Aに対して滑動する滑動部100を備えている。
【0020】
次に、載置側部101Bの構成について、図2及び図3に基づいて説明する。
【0021】
フレーム13の上に本体床4、乗客コンベア1の支持部7の上に第1の床5があり、下階建屋2の段付部2Aには第2の床5aが設置される。
【0022】
支持部7はL字鋼で構成されており、L字鋼の鉛直方向の辺7vはフレーム13の端部に固定され、L字鋼の水平方向の辺7hは下階建屋2に対して非固定状態で段付部2A上にジスピ17を介して載置されている。この構成により、支持部7はスライド床を構成する第2の床5aが下階建屋2に対してスライドするための滑動部100を構成している。支持部7と段付部2Aのフレーム13側の端面2A2との間には間隙12が形成され、床F1と床F2との間の層間変位(相対変位)が発生した場合に、載置側部101Bは段付部2Aに対して間隙12の範囲内で下階建屋2の床14(床F1と同じ)側にスライドして変位することができる。なお、ジスピ17は支持部7の設置高さ調整を行うための設置高さ調整部材である。
【0023】
上述したように、本実施例における乗客コンベアでは、建造物の床に設けた段付部2Aに両端部を支持されるフレーム13を備え、フレーム13の少なくとも一方の端部が載置側部101Bとして構成され、段付部2Aに対してフレーム13の長手方向に相対変位可能に支持されている。
【0024】
第1の床5の上面は第1の床プレート8aで覆われており、第1の床プレート8aの表面(上面)は利用者の歩行面となる。第1の床5及び第1の床プレート8aは地震時の層間変位に伴って、フレーム13と一体となって段付部2Aに対して変位(スライド)する。
【0025】
本実施例では、フレーム13側に構成された第1の床5と建造物側の床である下階建屋2の床14との間に配設され、床14に対してスライド可能に設けられた第2の床(スライド床)5aを有する。
【0026】
第2の床5aは、第2の床プレート(表面プレートとも言う)8bと補強構造20とを備えている。補強構造20は、床補強部6とガイド組品30とで構成され、段付部2Aに設置されて第2の床プレート8bの裏面を支持する。第2の床プレート8bと床補強部6とは相互に固定されて一体化された構造(一体構造)を成しており、床補強部6がガイド組品30に支持される構造である。ガイド組品30は、床補強部6を保持するガイド30aと、ガイド30aが載置されて固定されたベース30bとで構成されている。ガイド30aはフレーム13の長手方向において床補強部6の両側に配設されており、ボルト30dでベース30bに固定されている。
【0027】
床補強部6は、第2の床プレート8bを支えてたわみを抑制するために、第2の床プレート8bの裏面中央付近に配置されている。補強構造20は、フレーム13の長手方向において、フレーム13側との間に第1の隙間9を、また段付部2Aの段差面2A1側との間に第2の隙間9aを有するように配置されている。具体的には、フレーム13の長手方向において、床補強部6の両側に隙間が設けられており、第1の隙間9は床補強部6と支持部7もしくは第1の床5との間に設けられ、第2の隙間9aは床補強部6と段付部2Aの段差面2a1との間に設けられている。これにより、フレーム13が段付部2Aに対してフレーム13の長手方向に相対変位する場合に、補強構造20がフレーム13側からの押圧力を受けて段付部2A上を移動可能に設置される。
【0028】
また第2の床プレート8bは、図3に示す通り、下階建屋2の床14の上と、フレーム13側に構成される床である第1の床プレート8aの表面上に重なるようにした。そして、第2の床プレート8bが床14側と第1の床プレート8a側との両方向にスライド可能な構成としている。なお、第2の床プレート8bが床14と重なる幅をB、第1の床プレート8aと重なる幅をAとする。
【0029】
また、第2の床プレート8bの裏面と第1の床プレート8aの表面との接触部分の摩擦力(第1の摩擦力)は、ベース30bの下面と段付部2Aとの接する部分の摩擦力(第2の摩擦力)よりも小さくし、且つ第2の摩擦力よりも、地震時の層間変位が生じた場合に、支持部7もしくは第1の床5が補強構造20を押す押し力(押圧力)の方が大きくなるようにする。
【0030】
地震などの発生時、揺れの規模が小さい場合には、載置側部101Bが図2の矢印Yで示す方向に動いた時、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が層間変位分だけ第1の隙間9を移動する。この場合、第1の摩擦力<第2の摩擦力なので、まずは第2の床5aは動かず、第1の床5と第2の床5aとの間の第1の隙間9が小さくなる。また、それより大きい規模の揺れが発生し、第1の隙間9より大きい層間変位が発生した場合は、第1の床5が第1の隙間9を越えて更に移動することにより、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの床補強部6を押す。これにより、第2の床プレート8bを含む第2の床5aがフレーム13の長手方向に第2の隙間9a側へ移動し、第2の隙間9aが小さくなる。なお、第2の床5aに構成されるスライド面はベース30bの下面である。
【0031】
上述した様に、床補強部6を第2の床プレート8bの裏面中央付近に配置して両側に隙間を設けてあるため、建物の層間変位に対して、床を壊すことなく対応することが出来る。また、乗客コンベア1の載置側部101Bのスライドできる距離を長くすることができるので、大きな揺れに対しても、フレーム13等の構造部品に損傷を与えることなく、対応することが出来る。
【0032】
また、この様に床プレートの裏側に、両側に第1の隙間9と第2の隙間9aを有するように補強構造20を設けることにより、第2の床プレート8bの端部のみで支える場合に比べて第2の床プレート8bのたわみを抑制できるので、第2の床プレート8bの厚さを薄くすることができるため、床プレート端部の段差を小さくすることが可能である。また、載置側部101Bのスライドできる距離を長くするために、フレーム13の長手方向における床プレート(特に、第2の床プレート8b)の長さが長くなっても、床プレートが上下方向に撓むのを防ぐことができる。
【0033】
次に、第2の床5aの動作について、図2図4A乃至図4Cに基づいて説明する。なお、本実施例では、第2の床プレート8bが補強構造20と一体構造であるため、補強構造20と一体となって移動する。
【0034】
図2に示すように、層間変位の発生していない通常時においては、第2の床5aの第2の床プレート8bが第1の床5或いは第1の床プレート8a(以下、単に第1の床5側と言う)と重なり合う長さAは、第2の床プレート8bがフレーム13の長手方向において、少なくとも想定される最大の層間変位(相対変位)γmaxの大きさと第2の隙間9aの大きさとの和よりも大きくしている。具体的には、余裕αを有するように、数1に基づいて設定される。
A=第2の隙間9a+層間変位γmax+余裕α (数1)
第2の床プレート8bが、フレーム13の長手方向において、下階建屋2の床14と重なり合う長さBは、少なくとも第1の隙間9よりも大きくしている。具体的には、余裕αを有するように、数2に基づいて設定される。尚、数1における余裕αと数2における余裕αとが異なっていてもよい。
B=第1の隙間9+余裕α (数2)
長さAは、以下で説明する図4A及び図4Bの動作を考慮して設定される。また長さBについては、利用者が第2の床プレート8b上を歩行することにより、第2の床プレート8bにフレーム13側への位置ずれが生じた場合を考慮して、第1の隙間9の長さが加えられている。
【0035】
図4Aは第2の床5aの動作を説明する図であり、補強構造20が第1の床5に押圧されて図2に示す通常時の状態から矢印Yで示す方向に第2の隙間9aを移動した状態を示す図である。この場合、想定した最大の層間変位γmaxに相当する層間変位が発生したものとする。
【0036】
フレーム13が段差面2A1側に移動する場合には、フレーム13に設けられた補強構造20への当接部(本体床5又は支持部7)は第1の隙間9を移動して補強構造20に当接し、この当接部が補強構造20に当接することにより補強構造20はフレーム13側からの押圧力を受けて第2の隙間9a側に移動する。
【0037】
図4Aに示す状態では、補強構造20の両側の隙間(第1の隙間9、第2の隙間9a)はなくなっている。そして、第2の床プレート8bが第1の床5側と重なり合う長さA1は、Aよりも第1の隙間9の長さ分だけ増加している。また、第2の床プレート8bが下階建屋2の床14と重なり合う長さB1は、第2の隙間9aの長さ分だけ増加している。
【0038】
図4Bは第2の床5aの動作を説明する図であり、第1の床5及びフレーム13が図4Aの状態から反対方向(矢印Zで示す方向)に移動して通常時の位置からさらに想定した最大の層間変位γmax分だけ移動した状態を示す図である。このとき、補強構造20は図4Aの状態における位置を維持する。このため、補強構造20と第1の床5との間には、第1の隙間9と第2の隙間9aと層間変位γmaxとの和に相当する間隔が形成される。そして、第2の床プレート8bが第1の床5側と重なり合う長さA2は、余裕αだけになる。しかし、通常時における重なり長さAを図2及び数1のように設定することにより、フレーム13及び第1の床5が想定された最大の層間変位γmaxにより下階建屋2の床14から最大限離れた図4Bの状態でも、第2の床プレート8bと第1の床5側との間に余裕αに相当する重なり長さA2を残すことができる。
【0039】
尚、この状態では第2の床プレート8bはたわみやすい状態となってしまうが、このような状態は地震発生時など非常時に限られ、この状態が継続することはまれであり、このような状態になった後は、保全作業員等が図2のように第2の隙間9aを有するように第2の床5aを移動させるようにすればよい。あるいは、ばね等の弾性部材を設けるなどして、自動的に第2の隙間9aが形成されるように移動させてもよい。
【0040】
図4Cは第2の床5aの動作を説明する図であり、図2に示す通常時の状態から層間変位γにより第1の床5が第1の隙間9を拡大する方向(矢印Zで示す方向)に移動した状態を示す図である。この場合、補強構造20と第1の床5との間には、第1の隙間9と層間変位γmaxとの和に相当する間隔が形成される。そして、第2の床プレート8bが第1の床5側と重なり合う長さA3は、層間変位γmaxの長さが減少した長さ、すなわち第2の隙間9aと余裕αとの和に相当する長さになる。この場合も、第2の床プレート8bと第1の床5側との間に重なり長さA3を残すことができる。
【0041】
第1の隙間9、第2の隙間9a及び上述した隙間12は想定される最大の層間変位γmaxの大きさ(長さ)を考慮して決定される。すなわち、第1の隙間9と第2の隙間9aとを合わせた長さ及び隙間12の大きさは、想定される最大の層間変位(相対変位)γmaxの大きさ以上であることが好ましい。第1の隙間9と第2の隙間9aとを合わせた長さ及び隙間12を前記の如くすることにより、フレーム13の載置側部101Bの変位を妨げることがなくなり、乗客コンベア1や建屋側がダメージを受けることがなくなる。そして上述したように、第1の隙間9と第2の隙間9aとを合わせた長さを、想定される最大の層間変位γmax及び隙間12の大きさと等しくするか、層間変位γmax及び隙間12よりも大きくすることにより、乗客コンベア1や建屋側がダメージを受けることがなくなる。
【0042】
なお、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さBについては、補強構造20がさらに層間変位γmaxに相当する長さ分だけ第1の床5側に位置ずれした場合を考慮して、以下のように設定してもよい。
B=第1の隙間9+層間変位γmax+余裕α (数3)
これにより、第2の床プレート8bと下階建屋2側の床14との間に隙間が生じることを確実に防ぐことができる。
【0043】
また、第1の床5を設けず、本体床4を延長して本体床4で第1の床5を兼ねる構成としてもよい。
【実施例2】
【0044】
本発明に係る第二実施例について、図5及び図6に基づいて説明する。図5は乗客コンベア1の床断面を示す図である。図6は、本実施例における第2の床5aの動作を説明する図であり、図5に示す通常時の状態から想定した最大の層間変位γmaxにより第1の床5が第1の隙間9を拡大する方向(矢印Zで示す方向)に移動した状態を示す図である。
【0045】
本構造は、第2の床プレート8bと床補強部6とが一体構造ではなく、床補強部6に対して第2の床プレート8bが相対変位可能に構成されている。補強構造20は、床補強部6で構成され、第一実施例におけるガイド組品30は設けられていない。床補強部6はボルト16で段付部2Aに固定されている。ボルト16による固定は、床補強部6の位置ずれを防止するために行われる。ボルト16による固定により、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの床補強部6に衝突して床補強部6が押されてボルト16が切断されるまで、床補強部6が所定の位置を維持する。
【0046】
また、第2の床プレート8bは、第1の床プレート8aとネジ18で固定している。これにより、第1の床5が長手方向に移動した際、第2の床プレート8bは第1の床5と一緒に移動する。或いは、第2の床プレート8bを設ける代わりに、第1の床5の第1の床プレート8aを下階建屋2の床14まで延長してもよい。
【0047】
図5において第1の床5が矢印Yで示す方向に動いた時、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が層間変位γ分だけ第1の隙間9を移動する。層間変位γが第1の隙間9より大きいとき、乗客コンベアの支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの補強部6を押す。この第1の床5が第2の床5aの補強部6を押す力によりボルト16が切断され、第2の床5aの補強部6はフレーム13の長手方向に第2の隙間9a側へ可動する。
【0048】
本実施例においては、第2の床プレート8bと第1の床5側との重なりの長さA’は、第2の床プレート8bをネジ18で固定できる長さA4が確保されていれば良い。第2の床プレート8bと第1の床5側とが固定されていることにより、長さA’は第一実施例ほど長くする必要はない。
【0049】
図6に示すように、第1の床5が矢印Zで示す方向に動いた時、第2の床プレート8bは第1の床5と一体となって矢印Zで示す方向に移動する。このため、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さB’側には、想定される最大の層間変位(相対変位)γmax分の長さを確保する必要がある。従って、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さB’は、少なくとも想定される最大の層間変位γmaxよりも大きくしている。具体的には、余裕αを有するように数4のように設定される。
B’=層間変位γmax+余裕α (数4)
これにより、第2の床プレート8bと下階建屋2側の床14との間に隙間が生じることを確実に防ぐことができる。
【0050】
上述した構成及び動作以外は、第一実施例と同様である。
【実施例3】
【0051】
本発明に係る第三実施例について、図7に基づいて説明する。図7は乗客コンベア1の床断面を示す図である。本実施例は、第二実施例の変形例であり、その違いは、第二実施例の補強構造20を、床補強部6だけでなく第一実施例で説明したようなガイド30aも追加して構成した点である。
【0052】
本構造は、第2の床プレート8bと床補強部6とが一体構造ではなく、床補強部6に対して第2の床プレート8bが相対変位可能に構成されている。補強構造20は、床補強部6とガイド30aとで構成されている。ガイド30aはフレーム13の長手方向において床補強部6の両側に配設されている。一方のガイド30aはボルト16で段付部2Aに固定されている。なお、本実施例では支持部7側のガイド30aがボルト16で段付部2Aに固定されている。ボルト16による固定は、補強構造20の位置ずれを防止するために行われる。ボルト16による固定により、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの補強構造20に衝突して補強構造20が押されてボルト16が切断されるまで、補強構造20が所定の位置を維持できるようにする。
【0053】
本実施例では、ガイド30aの下面が段付部2A上をスライドする構造である。その他の構成及び動作は第二実施例と同様であり、第二実施例における第一実施例との共通部分は本実施例においても共有される。
【0054】
本実施例においては、第2の床プレート8bと第1の床5側との重なりの長さA’と、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さB’とは、第二実施例と同様に設定される。
【0055】
また、第一実施例と同様に、ガイド30aがベース30b上に設けられるように構成してもよい。
【実施例4】
【0056】
本発明に係る第四実施例について説明する。本実施例では、図2で説明した第一実施例において、図5図7で説明した第二実施例、第三実施例のように、補強構造20のボルト16による固定により、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの補強構造20に衝突して補強構造20が押されてボルト16が切断されるまで、補強構造20が所定の位置を維持できるようにしたものである。
【0057】
その他の構成及び動作は第一実施例から第三実施例の対応する部分と同様である。
【0058】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、エスカレーターや、傾斜または水平に設置される動く歩道等の乗客コンベアに利用出来る。
【符号の説明】
【0060】
1…乗客コンベア、2…下階建屋、2A…段付部、3…上階建屋、4…本体床、5…第1の床、5a…第2の床、6…床補強部、7…乗客コンベアの支持部、8…本体床の床プレート、8a…第1の床プレート、8b…第2の床プレート、9…第1の隙間、9a…第2の隙間、12…隙間、13…フレーム(枠体)、14…下階建屋の床、16…ボルト、17…ジスピ、18…ネジ、20…補強構造、30…ガイド組品、30a…ガイド、30b…ベース、30d…ボルト、100…滑動部、A…第2の床と第1の床との重なり、B…第2の床と建屋側の床との重なり、γ…層間変位(相対変位)、γmax…想定される最大の層間変位(相対変位)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7