【実施例1】
【0013】
本発明に係る第一実施例について、
図1乃至
図4Cに基づいて説明する。
【0014】
本実施例の乗客コンベア1の構成について、
図1乃至
図3に基づいて説明する。
図1は下階建屋2と上階建屋3間に架かる乗客コンベア1の全体図である。
図2は乗客コンベア1の床断面を示す図であり、通常時の状態を示す図である。
図3は、乗客コンベア1の床平面図である。なお、
図3の床平面図は、後述する第二実施例及び第三実施例の床平面に対しても適用される。
【0015】
本明細書において説明する乗客コンベア1は、建屋(建造物)を含む構造物(構造体とも言う)の異なる階の間に架けられるエスカレーターや、水平或いは緩やかな傾斜で2つの異なる構造物間に設けられる動く歩道を対象としている。また、本発明の床(以下、スライド床と言う)は下階建屋2か上階建屋3の一方もしくは両方、すなわち乗客コンベア1の2つの乗降口のうち少なくともいずれか一方の乗降口に設ける。本実施例ではエスカレーターについてスライド床を下階建屋側に設置した例を説明する。
【0016】
エスカレーター及び緩やかな傾斜を付けて設置される動く歩道では、地震時の振動により、下階建屋2と上階建屋3との間に層間変位が発生する。水平方向に設置される動く歩道で、2つの異なる構造物間に設置した場合には、動く歩道の二つの乗降口間における相対変位が発生する。なお、この相対変位及び層間変位は、本明細書において、フレーム(枠体)13の長手方向(踏段の走行方向)に沿い、水平方向に平行な変位として説明する。また、二つの乗降口間における相対変位は、エスカレーター及び緩やかな傾斜を付けて設置される動く歩道における層間変位を含む上位概念として用いる。
【0017】
乗客コンベア1は、
図1に示すように、下階建屋2の床F1に連なる一方の乗降口である下部乗降口102から上階建屋3の床F2に連なる他方の乗降口である上部乗降口103にかけて、無端状に連結されて循環移動する踏段104、この踏段104と同期して移動するハンドレール105、及び踏段104の幅方向の両側に立設され、ハンドレール105の走行路を形成する欄干106などの構造部品を備えている。なお、本明細書においては、踏段104の幅方向は、踏段104の移動方向に対して垂直、かつ踏段104の踏み面に平行な方向(水平方向)であり、踏段104の移動方向に沿い、かつ踏段104の踏み面に平行な方向を奥行き方向と定義する。この奥行き方向を後述するフレーム(本体枠とも言う)13或いは乗客コンベア1の長手方向と呼ぶ場合もある。
【0018】
また、欄干106などの構造部品の長手方向、すなわち下部乗降口102から下部曲線路104A、傾斜路104B、上部曲線路104Cを経由して上部乗降口103に至る全長Lのフレーム13を、下部水平部107A、傾斜部107B、及び上部水平部107Cを連結した形で、下階建屋2の床F1と上階建屋3の床F2との間に配置してある。このフレーム13は、例えば鋼材から成る。
【0019】
フレーム13の上部側(床F2側)端部に固定された支持部(梁体とも言う)7は、上部側の建築構造体108に移動不能に、かつ、離脱不能に強固に一体化されて固定され、これによりフレーム13の固定側部101Aを形成する。また、フレーム13の下部側(床F1側)の端部に固定された支持部(梁体とも言う)7は、下階建屋2の床F1に対して非固定状態で載置され、フレーム13の載置側部101Bを形成している。載置側部101Bは、地震などで床F1と床F2との間に大きな層間変位(相対変位)が発生してフレーム13と床F1側の建築構造物である段付部(受梁とも言う)2Aとの間に相対変位が生じた場合に、床F1の段付部2Aから離脱して落下することが防止されるように構成されている。また、載置側部101Bを設けることにより、フレーム13に圧縮方向の力が加わることを防止したり、その力を低減したりすることができる。このために、載置側部101Bには、床F1側の段付部2Aに対して滑動する滑動部100を備えている。
【0020】
次に、載置側部101Bの構成について、
図2及び
図3に基づいて説明する。
【0021】
フレーム13の上に本体床4、乗客コンベア1の支持部7の上に第1の床5があり、下階建屋2の段付部2Aには第2の床5aが設置される。
【0022】
支持部7はL字鋼で構成されており、L字鋼の鉛直方向の辺7vはフレーム13の端部に固定され、L字鋼の水平方向の辺7hは下階建屋2に対して非固定状態で段付部2A上にジスピ17を介して載置されている。この構成により、支持部7はスライド床を構成する第2の床5aが下階建屋2に対してスライドするための滑動部100を構成している。支持部7と段付部2Aのフレーム13側の端面2A2との間には間隙12が形成され、床F1と床F2との間の層間変位(相対変位)が発生した場合に、載置側部101Bは段付部2Aに対して間隙12の範囲内で下階建屋2の床14(床F1と同じ)側にスライドして変位することができる。なお、ジスピ17は支持部7の設置高さ調整を行うための設置高さ調整部材である。
【0023】
上述したように、本実施例における乗客コンベアでは、建造物の床に設けた段付部2Aに両端部を支持されるフレーム13を備え、フレーム13の少なくとも一方の端部が載置側部101Bとして構成され、段付部2Aに対してフレーム13の長手方向に相対変位可能に支持されている。
【0024】
第1の床5の上面は第1の床プレート8aで覆われており、第1の床プレート8aの表面(上面)は利用者の歩行面となる。第1の床5及び第1の床プレート8aは地震時の層間変位に伴って、フレーム13と一体となって段付部2Aに対して変位(スライド)する。
【0025】
本実施例では、フレーム13側に構成された第1の床5と建造物側の床である下階建屋2の床14との間に配設され、床14に対してスライド可能に設けられた第2の床(スライド床)5aを有する。
【0026】
第2の床5aは、第2の床プレート(表面プレートとも言う)8bと補強構造20とを備えている。補強構造20は、床補強部6とガイド組品30とで構成され、段付部2Aに設置されて第2の床プレート8bの裏面を支持する。第2の床プレート8bと床補強部6とは相互に固定されて一体化された構造(一体構造)を成しており、床補強部6がガイド組品30に支持される構造である。ガイド組品30は、床補強部6を保持するガイド30aと、ガイド30aが載置されて固定されたベース30bとで構成されている。ガイド30aはフレーム13の長手方向において床補強部6の両側に配設されており、ボルト30dでベース30bに固定されている。
【0027】
床補強部6は、第2の床プレート8bを支えてたわみを抑制するために、第2の床プレート8bの裏面中央付近に配置されている。補強構造20は、フレーム13の長手方向において、フレーム13側との間に第1の隙間9を、また段付部2Aの段差面2A1側との間に第2の隙間9aを有するように配置されている。具体的には、フレーム13の長手方向において、床補強部6の両側に隙間が設けられており、第1の隙間9は床補強部6と支持部7もしくは第1の床5との間に設けられ、第2の隙間9aは床補強部6と段付部2Aの段差面2a1との間に設けられている。これにより、フレーム13が段付部2Aに対してフレーム13の長手方向に相対変位する場合に、補強構造20がフレーム13側からの押圧力を受けて段付部2A上を移動可能に設置される。
【0028】
また第2の床プレート8bは、
図3に示す通り、下階建屋2の床14の上と、フレーム13側に構成される床である第1の床プレート8aの表面上に重なるようにした。そして、第2の床プレート8bが床14側と第1の床プレート8a側との両方向にスライド可能な構成としている。なお、第2の床プレート8bが床14と重なる幅をB、第1の床プレート8aと重なる幅をAとする。
【0029】
また、第2の床プレート8bの裏面と第1の床プレート8aの表面との接触部分の摩擦力(第1の摩擦力)は、ベース30bの下面と段付部2Aとの接する部分の摩擦力(第2の摩擦力)よりも小さくし、且つ第2の摩擦力よりも、地震時の層間変位が生じた場合に、支持部7もしくは第1の床5が補強構造20を押す押し力(押圧力)の方が大きくなるようにする。
【0030】
地震などの発生時、揺れの規模が小さい場合には、載置側部101Bが
図2の矢印Yで示す方向に動いた時、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が層間変位分だけ第1の隙間9を移動する。この場合、第1の摩擦力<第2の摩擦力なので、まずは第2の床5aは動かず、第1の床5と第2の床5aとの間の第1の隙間9が小さくなる。また、それより大きい規模の揺れが発生し、第1の隙間9より大きい層間変位が発生した場合は、第1の床5が第1の隙間9を越えて更に移動することにより、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの床補強部6を押す。これにより、第2の床プレート8bを含む第2の床5aがフレーム13の長手方向に第2の隙間9a側へ移動し、第2の隙間9aが小さくなる。なお、第2の床5aに構成されるスライド面はベース30bの下面である。
【0031】
上述した様に、床補強部6を第2の床プレート8bの裏面中央付近に配置して両側に隙間を設けてあるため、建物の層間変位に対して、床を壊すことなく対応することが出来る。また、乗客コンベア1の載置側部101Bのスライドできる距離を長くすることができるので、大きな揺れに対しても、フレーム13等の構造部品に損傷を与えることなく、対応することが出来る。
【0032】
また、この様に床プレートの裏側に、両側に第1の隙間9と第2の隙間9aを有するように補強構造20を設けることにより、第2の床プレート8bの端部のみで支える場合に比べて第2の床プレート8bのたわみを抑制できるので、第2の床プレート8bの厚さを薄くすることができるため、床プレート端部の段差を小さくすることが可能である。また、載置側部101Bのスライドできる距離を長くするために、フレーム13の長手方向における床プレート(特に、第2の床プレート8b)の長さが長くなっても、床プレートが上下方向に撓むのを防ぐことができる。
【0033】
次に、第2の床5aの動作について、
図2、
図4A乃至
図4Cに基づいて説明する。なお、本実施例では、第2の床プレート8bが補強構造20と一体構造であるため、補強構造20と一体となって移動する。
【0034】
図2に示すように、層間変位の発生していない通常時においては、第2の床5aの第2の床プレート8bが第1の床5或いは第1の床プレート8a(以下、単に第1の床5側と言う)と重なり合う長さAは、第2の床プレート8bがフレーム13の長手方向において、少なくとも想定される最大の層間変位(相対変位)γmaxの大きさと第2の隙間9aの大きさとの和よりも大きくしている。具体的には、余裕αを有するように、数1に基づいて設定される。
A=第2の隙間9a+層間変位γmax+余裕α (数1)
第2の床プレート8bが、フレーム13の長手方向において、下階建屋2の床14と重なり合う長さBは、少なくとも第1の隙間9よりも大きくしている。具体的には、余裕αを有するように、数2に基づいて設定される。尚、数1における余裕αと数2における余裕αとが異なっていてもよい。
B=第1の隙間9+余裕α (数2)
長さAは、以下で説明する
図4A及び
図4Bの動作を考慮して設定される。また長さBについては、利用者が第2の床プレート8b上を歩行することにより、第2の床プレート8bにフレーム13側への位置ずれが生じた場合を考慮して、第1の隙間9の長さが加えられている。
【0035】
図4Aは第2の床5aの動作を説明する図であり、補強構造20が第1の床5に押圧されて
図2に示す通常時の状態から矢印Yで示す方向に第2の隙間9aを移動した状態を示す図である。この場合、想定した最大の層間変位γmaxに相当する層間変位が発生したものとする。
【0036】
フレーム13が段差面2A1側に移動する場合には、フレーム13に設けられた補強構造20への当接部(本体床5又は支持部7)は第1の隙間9を移動して補強構造20に当接し、この当接部が補強構造20に当接することにより補強構造20はフレーム13側からの押圧力を受けて第2の隙間9a側に移動する。
【0037】
図4Aに示す状態では、補強構造20の両側の隙間(第1の隙間9、第2の隙間9a)はなくなっている。そして、第2の床プレート8bが第1の床5側と重なり合う長さA1は、Aよりも第1の隙間9の長さ分だけ増加している。また、第2の床プレート8bが下階建屋2の床14と重なり合う長さB1は、第2の隙間9aの長さ分だけ増加している。
【0038】
図4Bは第2の床5aの動作を説明する図であり、第1の床5及びフレーム13が
図4Aの状態から反対方向(矢印Zで示す方向)に移動して通常時の位置からさらに想定した最大の層間変位γmax分だけ移動した状態を示す図である。このとき、補強構造20は
図4Aの状態における位置を維持する。このため、補強構造20と第1の床5との間には、第1の隙間9と第2の隙間9aと層間変位γmaxとの和に相当する間隔が形成される。そして、第2の床プレート8bが第1の床5側と重なり合う長さA2は、余裕αだけになる。しかし、通常時における重なり長さAを
図2及び数1のように設定することにより、フレーム13及び第1の床5が想定された最大の層間変位γmaxにより下階建屋2の床14から最大限離れた
図4Bの状態でも、第2の床プレート8bと第1の床5側との間に余裕αに相当する重なり長さA2を残すことができる。
【0039】
尚、この状態では第2の床プレート8bはたわみやすい状態となってしまうが、このような状態は地震発生時など非常時に限られ、この状態が継続することはまれであり、このような状態になった後は、保全作業員等が
図2のように第2の隙間9aを有するように第2の床5aを移動させるようにすればよい。あるいは、ばね等の弾性部材を設けるなどして、自動的に第2の隙間9aが形成されるように移動させてもよい。
【0040】
図4Cは第2の床5aの動作を説明する図であり、
図2に示す通常時の状態から層間変位γにより第1の床5が第1の隙間9を拡大する方向(矢印Zで示す方向)に移動した状態を示す図である。この場合、補強構造20と第1の床5との間には、第1の隙間9と層間変位γmaxとの和に相当する間隔が形成される。そして、第2の床プレート8bが第1の床5側と重なり合う長さA3は、層間変位γmaxの長さが減少した長さ、すなわち第2の隙間9aと余裕αとの和に相当する長さになる。この場合も、第2の床プレート8bと第1の床5側との間に重なり長さA3を残すことができる。
【0041】
第1の隙間9、第2の隙間9a及び上述した隙間12は想定される最大の層間変位γmaxの大きさ(長さ)を考慮して決定される。すなわち、第1の隙間9と第2の隙間9aとを合わせた長さ及び隙間12の大きさは、想定される最大の層間変位(相対変位)γmaxの大きさ以上であることが好ましい。第1の隙間9と第2の隙間9aとを合わせた長さ及び隙間12を前記の如くすることにより、フレーム13の載置側部101Bの変位を妨げることがなくなり、乗客コンベア1や建屋側がダメージを受けることがなくなる。そして上述したように、第1の隙間9と第2の隙間9aとを合わせた長さを、想定される最大の層間変位γmax及び隙間12の大きさと等しくするか、層間変位γmax及び隙間12よりも大きくすることにより、乗客コンベア1や建屋側がダメージを受けることがなくなる。
【0042】
なお、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さBについては、補強構造20がさらに層間変位γmaxに相当する長さ分だけ第1の床5側に位置ずれした場合を考慮して、以下のように設定してもよい。
B=第1の隙間9+層間変位γmax+余裕α (数3)
これにより、第2の床プレート8bと下階建屋2側の床14との間に隙間が生じることを確実に防ぐことができる。
【0043】
また、第1の床5を設けず、本体床4を延長して本体床4で第1の床5を兼ねる構成としてもよい。
【実施例2】
【0044】
本発明に係る第二実施例について、
図5及び
図6に基づいて説明する。
図5は乗客コンベア1の床断面を示す図である。
図6は、本実施例における第2の床5aの動作を説明する図であり、
図5に示す通常時の状態から想定した最大の層間変位γmaxにより第1の床5が第1の隙間9を拡大する方向(矢印Zで示す方向)に移動した状態を示す図である。
【0045】
本構造は、第2の床プレート8bと床補強部6とが一体構造ではなく、床補強部6に対して第2の床プレート8bが相対変位可能に構成されている。補強構造20は、床補強部6で構成され、第一実施例におけるガイド組品30は設けられていない。床補強部6はボルト16で段付部2Aに固定されている。ボルト16による固定は、床補強部6の位置ずれを防止するために行われる。ボルト16による固定により、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの床補強部6に衝突して床補強部6が押されてボルト16が切断されるまで、床補強部6が所定の位置を維持する。
【0046】
また、第2の床プレート8bは、第1の床プレート8aとネジ18で固定している。これにより、第1の床5が長手方向に移動した際、第2の床プレート8bは第1の床5と一緒に移動する。或いは、第2の床プレート8bを設ける代わりに、第1の床5の第1の床プレート8aを下階建屋2の床14まで延長してもよい。
【0047】
図5において第1の床5が矢印Yで示す方向に動いた時、乗客コンベア1の支持部7もしくは第1の床5が層間変位γ分だけ第1の隙間9を移動する。層間変位γが第1の隙間9より大きいとき、乗客コンベアの支持部7もしくは第1の床5が第2の床5aの補強部6を押す。この第1の床5が第2の床5aの補強部6を押す力によりボルト16が切断され、第2の床5aの補強部6はフレーム13の長手方向に第2の隙間9a側へ可動する。
【0048】
本実施例においては、第2の床プレート8bと第1の床5側との重なりの長さA’は、第2の床プレート8bをネジ18で固定できる長さA4が確保されていれば良い。第2の床プレート8bと第1の床5側とが固定されていることにより、長さA’は第一実施例ほど長くする必要はない。
【0049】
図6に示すように、第1の床5が矢印Zで示す方向に動いた時、第2の床プレート8bは第1の床5と一体となって矢印Zで示す方向に移動する。このため、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さB’側には、想定される最大の層間変位(相対変位)γmax分の長さを確保する必要がある。従って、第2の床プレート8bが下階建屋2側の床14と重なり合う長さB’は、少なくとも想定される最大の層間変位γmaxよりも大きくしている。具体的には、余裕αを有するように数4のように設定される。
B’=層間変位γmax+余裕α (数4)
これにより、第2の床プレート8bと下階建屋2側の床14との間に隙間が生じることを確実に防ぐことができる。
【0050】
上述した構成及び動作以外は、第一実施例と同様である。