特許第6166178号(P6166178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6166178表面タンパク質の単純化したグリコシル化によるウイルス粒子の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166178
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】表面タンパク質の単純化したグリコシル化によるウイルス粒子の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20170710BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20170710BHJP
   C07K 14/11 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20170710BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20170710BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   C12N7/00
   C12N7/02
   C07K14/11
   A61K39/145
   A61P31/16
   !C12N15/00 A
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-537890(P2013-537890)
(86)(22)【出願日】2011年11月4日
(65)【公表番号】特表2014-500012(P2014-500012A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】US2011059449
(87)【国際公開番号】WO2012061776
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2014年10月23日
(31)【優先権主張番号】61/410,257
(32)【優先日】2010年11月4日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,チ−フェイ
(72)【発明者】
【氏名】マ,チェ
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,ユン−チエ
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0247571(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0121521(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0188977(US,A1)
【文献】 Archives of Biochemistry and Biophysics,1984年12月,Vol. 235, No. 2,p. 579-588
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,1990年,Vol. 265, No. 26,p. 15599-15605
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
A61P 31/00
C07K 14/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原性組成物の生産方法であって、該方法は:
a)マンノシダーゼ阻害剤の効果的な量を有する適切な宿主においてインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)抗原を生産する工程であって、ここで、前記マンノシダーゼ阻害剤の濃度は、N−グリコシル化経路においてα−マンノシダーゼIを阻害するのに充分であり、前記インフルエンザウイルスHA抗原は、全粒子インフルエンザウイルスに含まれ、該全粒子インフルエンザウイルスは、特定病原体除去(SPF)発育鶏卵の宿主において増殖する工程;
b)工程aで生産されたインフルエンザウイルスHA抗原を回収する工程;
c)工程bで回収したインフルエンザウイルスHA抗原をエンドグリコシド(Endo H)と接触させる工程であって、ここで、Endo Hの濃度は、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原を生産するために高マンノース型グリカンを除去するのに充分である、工程;
d)工程cで生産されたモノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原を分離する工程;及び
e)工程dで分離して得られたモノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原と、少なくとも薬学的に許容可能な担体又はアジュバントとを含む免疫原性組成物を生産する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記インフルエンザウイルスHA抗原は、H5N1インフルエンザウイルスに由来することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記H5N1インフルエンザウイルスは、NIBRG−14であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マンノシダーゼ阻害剤はキフネンシン(Kif)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記マンノシダーゼ阻害剤はデオキシマンノジリマイシン(DMJ)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
α−マンノシダーゼIの前記阻害は、Man(GlcNAc)を有する糖タンパク質をもたらすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記マンノシダーゼ阻害剤は、特定病原体除去(SPF)発育鶏卵の宿主の尿膜腔に加えられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記キフネンシンは、0.005乃至0.5mg/mlの濃度で加えられることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記インフルエンザウイルスHA抗原の回収は:
インフルエンザウイルスを増殖するのに充分な時間、特定病原体除去(SPF)発育鶏卵の宿主においてインキュベートする工程;及びその後、
インフルエンザウイルスを含む尿膜液をSPF発育鶏卵から分離する工程
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
回収された前記インフルエンザウイルスHA抗原は、0.1乃至100μg/mLのEndo Hにより処置されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
インフルエンザウイルスHA抗原を含む前記インフルエンザウイルスは、密度勾配超遠心法を含む方法により分離されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、該方法は更に、工程eの前に、限外濾過を含む方法によって、インフルエンザウイルスHA抗原を精製する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記限外濾過は、0.2μmのフィルタの使用を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、該方法は更に、電子顕微鏡検査によって、インフルエンザウイルスHA抗原を分析する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、該方法は更に、PNGaseによる処置を含む方法によって、インフルエンザウイルスHA抗原を定量化する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、該方法は更に、SDS−PAGE電気クロマトグラフィーを含む方法によって、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原を定量化する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、該方法は更に、質量分析方法を含む方法によって、インフルエンザウイルスHA抗原のグリカン組成物を分析する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスHI、H3、及びH5から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1乃至17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〈関連出願への相互参照〉
本出願は、2010年11月4日出願の米国仮特許出願第61/410,257号、表題「METHODS FOR PRODUCING MONO−GLYCOSYLATED INFLUENZA VIRUS HEMAGGLUTININ」の優先権を主張するものであり、その内容は引用により全体において本明細書に組み込まれる。
【0002】
〈本発明の技術分野〉
本発明は、ウイルスに関するものであり、特に、単純化したグリカンによるウイルス粒子の生産に関する。特に、本発明は、単純化したグリコシル化によるインフルウイルス粒子の生産に関する。具体的に、本発明は、モノグリコシル化した(mono−glycosylated)インフルエンザウイルス粒子の生産方法に関する。
【背景技術】
【0003】
〈背景技術〉
本発明は、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスの模範的な調製に関して、本明細書で開示される。同じ方法は、レトロウイルス(ヒト免疫不全ウィルス(HIV)など)、及びフラビウイルス科(デングウイルス、西ナイル熱ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)など)を含む、単純化したグリカン構造により他のウイルスを調製するために使用され得ることが、熟慮される。
【0004】
インフルエンザは、オルトミクソウイルス科のRNAウイルスにより引き起こされる。これらウイルスの3つのタイプが存在し、これらは、インフルエンザの3つの異なるタイプ:A型、B型、及びC型、を引き起こす。インフルエンザウイルスのA型ウイルスは、哺乳動物(ヒト、ブタ、フェレット、ウマ)及び鳥類に感染する。これは、世界中の大流行の病気を引き起こしてきたウイルスのタイプであることから、このことは人類にとって非常に重要である。インフルエンザウイルスのB型(単にインフルエンザBとしても知られる)は、ヒトのみに感染する。これは時に、インフルエンザの地域的な大流行を引き起こす。インフルエンザのC型ウイルスも、ヒトのみに感染する。ヒトが若い時に、C型ウイルスは大半のヒトに感染し、滅多に重病を引き起こさない。
【0005】
インフルエンザAウイルスは、多種多様な哺乳動物(ヒト、ウマ、ブタ、フェレットを含む)及び鳥類に感染する。主なヒトの病原体は、伝染病及び大流行の病気に関連する。少なくとも1つの既知の赤血球凝集素(H)血清型、及び9つの既知のノイラミニダーゼ(N)血清型が存在する。ブタと鳥類は、特に重要なリザーバーであると考えられ、ヒトと動物の間の密接な接触によりヒト個体群に戻される遺伝的及び抗原性的に多様なウイルスのプールを生成する。インフルエンザのB型ウイルスは、哺乳動物のみに感染し、疾患を引き起こすが、一般にA型ほど重度なものではない。インフルエンザのA型ウイルスと異なり、インフルエンザのB型ウイルスは、識別可能な血清型を有していない。インフルエンザのC型ウイルスも哺乳動物のみに感染するが、滅多に疾患を引き起こさない。それらは、A型及びB型とは遺伝的及び形態学的に異なる。
【0006】
インフルエンザウイルス内に存在する4つの抗原、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、ヌクレオカプシド(NA)、マトリックス(M)、及びヌクレオカプシドタンパク質(NP)が存在する。NPは、ヒトインフルエンザウイルスの分類の基礎を提供する、3つの形態、A、B、及びCにおいて生じる、型特異抗原である。マトリックスタンパク質(Mタンパク質)は、ヌクレオカプシドを包囲し、粒子質量の35−45%を作る。2つの表面糖タンパク質は、桿状の突起として表面上に見られる。赤血球凝集素(HA)は、3つの同一のタンパク質の鎖を含有する三量体前駆体(HA0)として最初に合成され、タンパク質の鎖の各々は、タンパク質に関して、単一のジスルフィド結合により共有結合で保持される2つのサブユニット、HA1とHA2へと処理される。HAは、細胞受容体へのウイルスの付着を媒介する。ノイラミニダーゼ(NA)分子は、エンベロープにおいてより少ない量で存在する。ヒト流行株は、1年から次の年まで突然変異を蓄積する傾向に関して有名であり、再発性の伝染病を引き起こす。
【0007】
真核生物において、糖の残基は一般に、4つの異なるアミノ酸残基に結合される。これらアミノ酸残基は、O結合(セリン、トレオニン、及びヒドロキシリジン)並びにN結合(アスパラギン)として分類される。O結合の糖は、ヌクレオチド糖からのゴルジ又は粗面小胞体(ER)において合成される。N結合の糖は、一般的な前駆体から合成され、その後処理される。N結合の糖質鎖の追加は、フォールディングの安定性、小胞体における分解の予防、オリゴマー化、生物活性、及び糖タンパク質の輸送に重要であることが既知である。特異的なAsn残基へのN結合のオリゴ糖の追加は、ウイルスの成熟したタンパク質の活性、安定性、又は抗原性を制御するのに重要な役割を果たす(Opdenakker G. et al FASEB Journal 7, 1330−1337 1993)。N結合グリコシル化が、フォールディング、輸送、細胞表面発現、糖タンパク質の分泌(Helenius, A., Molecular Biology of the Cell 5, 253−265 1994)、タンパク質分解を生ずる分解の予防、及び糖タンパク質の溶解度の増強(Doms et al., Virology 193, 545−562 1993)に必要とされることも、示唆されてきた。ウイルスの表面糖タンパク質は、正確なタンパク質のフォールディングに必要とされるだけでなく、「グリカンの遮蔽物」として中和抗体に対して保護を提供する。結果として、強力な宿主特異性の選択は頻繁に、N結合のグリコシル化のコドンの位置に関連する。結果的に、N結合のグリコシル化部位は、株及びクレードにわたって保存される傾向がある。
【0008】
インフルエンザAウイルスの大発生は、世界中で広範囲の罹患率及び死亡率を引き起こし続ける。米国のみにおいて、人口のおよそ5乃至20%が、毎年インフルエンザのA型ウイルスに感染し、およそ200,000人の入院患者、及び36,000人の死者が出る。包括的なワクチン接種の政策の確立は、インフルエンザの罹患率を制限するのに効果的な手段であった。しかし、ウイルスの頻繁な遺伝子的浮動は、ワクチンの改良を毎年必要とし、潜在的に、ワクチン中に存在してウイルス流行株の間のミスマッチを引き起こす。故に、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤治療は、発病度と、同様に疾患流行を制限するのに重要なツールである。
【0009】
高い病原性のH5N1インフルエンザウイルスは、2003年から飼鳥類と野鳥において大発生した(Li K S et al. (2004) Nature 430:209−213)。2010年2月現在、これらウイルスは、鳥類の種だけでなく、478人以上のヒトにも感染し、その中の286の事例が、致死的であると証明された(www.who.int/csr/disease/avian_influenza/country/cases_table_2010_02_17/en/index.html)。高い病原性のH5N1及び2009年のブタ由来のインフルエンザA(H1N1)ウイルスは、世界的な大発生を引き起こし、ウイルス内の更なる変化が致命的な大流行の病気を引き起こすように生じ得るという、大きな懸念を生じさせた(Garten R J, et al.(2009) Science 325:197−201, Neumann G, et al. (2009) Nature 459:931−939)。インフルエンザウイルスは、ヒトの間で効果的に広まる能力を得て、それにより大流行の病気の脅威となりつつあるという大きな懸念が存在する。インフルエンザワクチンは、故に、任意の大流行の病気の準備計画の不可欠な一部でなくてはならない。
【0010】
インフルエンザ感染の理解への重要な寄与は、赤血球凝集素(HA)、呼吸器官において特異的なシアル化グリカン受容体に結合するウイルスコート糖タンパク質(viral coat glycoprotein)に関する研究から生じ、ウイルスの細胞への侵入を可能にする(Kuiken T, et al.(2006) Science 312:394−397;Maines TR, et al.(2009) Science 325:484−487;Skehel JJ, Wiley DC(2000) Ann Rev Biochem 69:531−569;van Riel D, et al.(2006) Science 312:399−399)。種の壁を越え、ヒト個体群に感染するため、鳥類のHAは、α2,6(ヒト)結合シアル酸モチーフに結合したα2,3(鳥類)を含有する、末端にシアル化したグリカンからの受容体−結合優先度(receptor−binding preference)を変更せねばならず(Connor RJ, et al.(1994) Virology 205:17−23)、及びこの切り替えは、1918年に大流行した病気のように、2つの突然変異のみを通じて生じる(Tumpey TM, et al.(2007) Science 315:655−659)。故に、グリカン受容体に結合するインフルエンザに影響を及ぼす因子の理解は、大流行の病気の可能性を有する任意の将来的な交差インフルエンザ株を制御する方法を発展させるために重要である。
【0011】
インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)は、球形の頭部とステム領域で構成される細胞外ドメインを有する、ホモ三量体膜貫通型タンパク質である(Kuiken T, et al.(2006) Science 312:394−397)。両方の領域は、N結合オリゴ糖(Keil W, et al.(1985) EMBO J 4:2711−2720)を運び、それは、HAの機能的な特性に影響を及ぼす(Chen ZY, et al.(2008) Vaccine 26:361−371;Ohuchi R, et al.(1997) J Virol 71:3719−3725)。HAは、伝染性のプロセスを開始するため、受容体にウイルスを付着し、ウイルスエンベロープとエンドサイトーシス小胞の膜を融合する、ビリオン表面糖タンパク質である(Crecelius D. M., et al.(1984) Virology 139, 164−177)。HAはまた、防御抗体の形成を刺激するビリオン構成要素である。HAのグリコシル化の性質と範囲は、受容体の結合特性を変更すること、及び細胞変性の増強(Aytay S., Schulze I.T.(1991) J. Virol. 65,3022−3028)及び病原性(Deshpande K. L., et al.(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84, 36−40)を有するウイルス変異体の出現、並びにその抗原性部位をマスクすること(Skehel J.J., et al.(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 1779−1783)に関係する。HAグリコシル化部位の突然変異による削除は、ウイルス受容体結合に影響を及ぼし得る(Gunther I, et al.(1993) Virus Res 27:147−160)。
【0012】
HAのアミノ酸配列、及び従ってそのN−グリコシル化部位の位置は、ウイルスゲノムによって決定される。これらオリゴ糖の構造は、HA上での位置によって(Keil W., et al.(1985) EMBO J. 4,2711−2710)、及びウイルスが増殖する宿主細胞によって提供される生合成性の及びトリミング(trimming)酵素によって、決定されるように思われる。ウイルスゲノムの可塑性及び宿主特異性のグリコシル化の機構は、共に、何れか一方のみの処理によって発展され得るよりもかなり、構造と機能において不均一性であるウイルス個体群を作成し得る。この多様性は、これらウイルスの生存、及び、中和抗体及び抗ウイルス剤の阻害効果を克服する能力の原因であると考えられる。
【0013】
HAは、グリコシル化されねばならない領域、オリゴ糖が無い状態でなければならない他の領域、及び、グリコシル化がウイルスの生存に対して利益がある又は不利益であるかの何れかであるまた他の領域を有するように思われる。様々な動物及びヒトから分離されるインフルエンザのA型ウイルスのHA上の特定の位置にあるグリコシル化部位は、高度に保存され、故に、機能的なHAの形成及び/又は維持に不可欠であるように思われる(Gallagher P.J., et al.(1992) J. Virol. 66, 7136−7145)。反対に、HAの特定の領域におけるグリコシル化部位の生成は、細胞表面へのその輸送、及びその安定性及び/又は機能を減少する(Gallagher P., et al. (1988) J. Cell Biol. 107, 2059−2073)。それは、グリコシル化が妨げられず、又は、ウイルスが増殖すると予測される特異的な環境に依存して、オリゴ糖の多様性が、主な選択的な効果を有し得る機能的なHAの組成に必要とされない領域にある。
【0014】
グリコシル化部位にある、又はその近くにあるペプチド配列の変化は、HAの3次元構造、及び故に受容体結合特異性並びに親和性を変更し得る。実際、異なるH5N1のサブタイプからのHAは、異なるグリカン結合パターンを有する(Stevens J, et al.(2008) J Mol Biol 381:1382−1394)。
【0015】
H1及びH3上のグリコシル化部位の突然変異誘発は、全粒子ウイルスのシステムにおいて研究されてきた(Chandrasekaran A, et al.(2008) Nat Biotechnol 26:107−113;Deom CM, et al. (1986) Proc Natl Acad Sci USA 83:3771−3775)。グリコシル化の変化は、特に最も多くの病原性のH5N1 HAに関して、受容体結合特異性及び親和性に影響を及ぼし得る。
【0016】
赤血球凝集素の、あまり高度で無いグリコシル化又は非グリコシル化領域は、宿主の免疫システムから逃避するために突然変異を続ける。モノグリコシル化したHAを使用するワクチン設計は、米国特許出願公報第2010/0247571号(Wong et al)に開示される。故に、モノグリコシル化したインフルエンザウイルス粒子の生産のための新たな及び効果的な方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0017】
本明細書の開示は、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスの生産の模範的な実証を提供する。開示された方法は、構造的なタンパク質上で単純化したグリカンを有するウイルスの生産に等しく適用可能である。高度なグリコシル化により保存された構造的なタンパク質の領域は、一度ワクチン設計のために標的とされ、これら部位に存在するグリコシル化パターンは、モノグリコシル化、ジグリコシル化、トリグリコシル化、又は他のグリコシル化の領域へと単純化される。
【0018】
具体的に、現在の及び将来的に製造されるワクチンにおける交差中和エピトープの質及び抗原性を維持又は増強する、ワクチン生産プロセスの設計及び検証において使用され得る、交差中和モノクローナル抗体の必要性が存在する。抗原に結合する抗体が構造的な保全性と抗原性の可能性を反映すると仮定して、モノグリコシル化したHAポリペプチド等の交差中和抗体の結合が試みられ、それらの交差中和の可能性が定量的に評価される。インフルエンザHAのモノグリコシル化した誘導体に対して由来するワクチンは、普遍的なエピトープに対する免疫原生を増加すると予測される。
【0019】
抗原は、(高度に保存される、及び突然変異しない、又は積極的に突然変異しない)グリコシル化部位を曝露するため、ウイルス糖タンパク質から糖を部分的に除去することにより生成され、及び同時に、糖タンパク質の三次構造を保存するのに適切な糖を保持する。部分的にグリコシル化したウイルスの糖タンパク質は、特定のグリコシル化部位が1、2、又は3つの糖ユニットを保持するように、糖タンパク質を部分的に脱グリコシル化することにより生成される。幾つかの態様において、部分的にグリコシル化した糖タンパク質は、1以上の特定のグリコシル化部位にてグリコシル化されないタンパク質又はポリペプチドを提供することによって、及び単糖、二糖、又は三糖をグリコシル化部位に共役させることによって生成され得る。
【0020】
ワクチンは、少なくとも1つの部分的にグリコシル化したHA糖タンパク質と薬学的に許容可能な担体を含むように開示される。幾つかの実行において、部分的にグリコシル化したHA糖タンパク質は、部分的にグリコシル化したインフルエンザウイルスHI、H3、及びH5から成る群から選択される。
【0021】
方法は、少なくとも1つの脱グリコシル化したHA糖タンパク質及び薬学的に許容可能な担体を含むワクチンを、インフルエンザにかかりやすい被験体に投与する工程を含むように開示される。幾つかの実行において、脱グリコシル化したHA糖タンパク質は、HI、H3、及びH5から成る群から選択される。
【0022】
幾つかの実行において、脱グリコシル化は、糖タンパク質上の1以上のグリコシル化部位にて、モノグリコシル化を残す(1つの糖が残る)。幾つかの実行において、脱グリコシル化は、糖タンパク質上の1以上のグリコシル化部位にて、ジグリコシル化を残す(2つの糖が残る)。幾つかの実行において、脱グリコシル化は、糖タンパク質上の1以上のグリコシル化部位にて、トリグリコシル化を残す(3つの糖が残る)。幾つかの実行において、脱グリコシル化は、糖タンパク質上の1以上のグリコシル化部位にて、モノグリコシル化、ジグリコシル化、及びトリグリコシル化を残す。
【0023】
幾つかの実施形態において、インフルエンザHA抗原は、細胞培地において組み換えることで生産される。細胞培地は、MDCK細胞、ベロ細胞、又はPER.C6細胞を含む。キフネンシンは、組み換え型インフルエンザHA抗原を持つ宿主細胞に加えられる。
【0024】
幾つかの態様において、α−マンノシンIの阻害は、Man(GlcNAc)を有する糖タンパク質をもたらす。
【0025】
他の実施形態において、インフルエンザHA抗原は、全粒子インフルエンザウイルスを含む。全粒子インフルエンザウイルスは、特定病原体除去(SPF)発育鶏卵の宿主において増殖する。
【0026】
その後、キフネンシンは、特定病原体除去(SPF)発育鶏卵の宿主の尿膜腔に加えられる。
【0027】
幾つかの態様において、キフネンシンは、0.005乃至0.5mg/mlの濃度で加えられる。
【0028】
回収したインフルエンザウイルスHA抗原は、約0.1乃至約100μg/mLのEndoHにより処置される。
【0029】
幾つかの態様において、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスは、密度勾配超遠心法を含む方法により分離される。
【0030】
幾つかの態様において、方法はさらに、限外濾過を含む方法によって、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原を精製する工程を含む。幾つかの実施形態において、限外濾過は、0.2μmのフィルタの使用を含む。
【0031】
幾つかの態様において、方法はさらに、電子顕微鏡検査によって、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスを分析する工程を含む。
【0032】
幾つかの態様において、方法はさらに、PNGaseによる処置を含む方法によって、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスを定量化する工程を含む。幾つかの態様において、方法はさらに、SDS−PAGE電気クロマトグラフィーを含む方法によって、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスを定量化する工程を含む。
【0033】
幾つかの態様において、方法はさらに、質量分析方法を含む方法によって、分離されたモノグリコシル化したインフルエンザウイルスのグリカン組成物を分析する工程を含む。
【0034】
本発明は、本明細書に開示の任意の方法によって調製される、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原(全粒子ウイルス又は組み換え体)に関する。
【0035】
本発明は、ワクチンの調製のため、本明細書に開示の任意の方法によって調製される、モノグリコシル化したインフルエンザウイルスHA抗原(全粒子ウイルス又は組み換え体)の使用に関する。
【0036】
これら及び他の態様は、以下の図面と組み合わせた好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるが、その中の変更と改変は、開示の新しい概念の精神及び範囲から逸脱すること無く、影響され得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の特定の態様、即ち、本明細書で提供される具体的な実施形態の詳細な説明と組み合わせた、これら図面の1以上への言及によってより良く理解され得る発明をさらに実証するように含まれる。特許又は特許出願は、色付きで作成される少なくとも1つの図面を含有する。色付き図面を備えたこの特許又は特許出願公報のコピーは、要求し、必要料金の支払いの際に、庁によって提供されるであろう。
図1図1は、モノグリコシル化したNIBRG−14ウイルスの調製を示す。(図1A)ウイルスは、N−グリコシル化処理の阻害剤、キフネンシンの異なる濃度において増殖する。(図1B)高マンノースグリコシル化ウイルスは、Endo Hの異なる濃度によってモノグリコシル化したウイルスへ消化される。(図1C)精製された、十分にグリコシル化したウイルスと比較して、精製されたモノグリコシル化したウイルスは、HA1とHA2の両方において明白なダウンシフトを有する。これらサンプルは、抗−H5 HAウサギ抗−血清を使用するウエスタンブロット解析により分析される。
図2図2は、十分にグリコシル化した及びモノグリコシル化したウイルスの電子顕微鏡写真を示す。(図2A)十分にグリコシル化したNIBRG−14。(図2B)モノグリコシル化したNIBRG−14。ウイルス粒子は、2%のタングステン酸メチルアミンによって染色され、透過型電子顕微鏡法により分析される。
図3図3は、赤血球凝集素の定量化を示す。NIBRG−14ウイルスの赤血球凝集素の量は、SDS−PAGEにおいてPNGaseFにより脱グリコシル化したHA1の強度により決定された。
図4図4は、モノグリコシル化したNIBRG−14赤血球凝集素の糖ペプチド分析を示す。(図4A)NIBRG−14赤血球凝集素のグリコシル化部位は、アミノ酸残基の番号により標識化される。構造は、PDBコード1jsmにより作られ、グリコシル化部位は赤で色付けられた。(図4B)モノグリコシル化したNIBRG−14赤血球凝集素の糖ペプチド分析。Endo Hの消化後、グリコシル化部位の大半は、モノグリコシル化され、グリコシル化部位295及び489は未だに部分的に(<10%)高度なマンノースによりグリコシル化されることが予測される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書で使用される用語は一般的に、当該技術分野において、本発明の範囲内で、及び各用語が使用される具体的な文脈において、通常の意味を有する。本発明を説明するために使用される特定の用語は、本発明の説明に関する従事者に追加のガイダンスを提供するため、以下に、又は本明細書の他の場所で議論される。利便性のため、特定の用語は、例えばイタリック体及び/又は引用符を使用して強調され得る。強調表示の使用は、用語の範囲及び意味に影響を及ぼさない;用語の範囲と意味は、強調されてもされなくても、同じ文脈において同じである。同じものは、様々な意味で述べられ得ることが認識されるであろう。
【0039】
結果的に、代替の言語及び同義語は、本明細書で議論される用語の任意の1以上のために使用され、又は、用語が本明細書で詳述又は議論されるかに関わらず、その中に置かれる特段の意味は無い。特定の用語に関する同義語が提供される。1以上の同義語の詳述は、他の同義語の使用を除外しない。本明細書で議論される任意の用語の例を含む、本明細書のあらゆる場所にある例の使用は、説明のためだけのものであり、本発明の及び任意の例示の用語の範囲又は意味を全く制限しない。同様に、本発明は、この明細書で与えられる様々な実施形態に対して制限されない。
【0040】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者によって共通して理解されるような、同じ意味を有する。矛盾がある場合、定義を含む本書類によって制御されるであろう。以下の言及は、本発明において使用される用語の多くの一般的な定義を、当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd Ed. 1993);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed., Cambridge University Press. 1990);The Glossary of Genetics, 5th ed., R. Rieger et al.(eds.), Springer Verlag(1991);及びHale & Margham, The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。
【0041】
一般的に、本明細書に記載される、細胞及び組織培養、分子生物学、並びにタンパク質及びオリゴ−又はポリヌクレオチド化学及びハイブリダイゼーションと組み合わせて利用される命名法、及びそれらの技術は、当該技術分野において周知であり、一般的に使用される。標準的な技術は、組換DNA、オリゴヌクレオチド合成、及び組織培養並びに形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)のために使用される。酵素反応及び精製技術は、製造業者の仕様に従って、又は当該技術分野において一般的に達成されるように、或いは本明細書に記載の通りに実行される。本発明の実行は、それとは反対に具体的に示されない限り、当業者の考え得る範囲内で、ウイルス学、免疫学、微生物学、分子生物学及び組換えDNA技術の従来の方法、説明目的のため以下に記載される多くのものを利用するであろう。このような技術は、文献において十分に説明される。例えば、Sambrook, et al. Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition, 1989);Maniatis et al. Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);DNA Cloning:A Practical Approach, vol. I&II(D. Glover, ed.);Oligonucleotide Synthesis(N. Gait, ed., 1984);Nucleic Acid Hybridization(B. Hames & S. Higgins, eds., 1985);Transcription and Translation(B.Hames & S.Higgins, eds., 1984);Animal Cell Culture(R.Freshney, ed., 1986);Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)を参照。
【0042】
用語「インフルエンザAサブタイプ」又は「インフルエンザAウイルスサブタイプ」は交換可能に使用され、赤血球凝集素(H)ウイルスの表面タンパク質によって特徴づけられるインフルエンザAウイルスの変異体を指し、故に、例えばH1、H3、及びH5などのHの数によって標識化される。加えて、サブタイプは、例えばN1及びN2等のNの数によって示される、ノイラミニダーゼ(N)ウイルスの表面タンパク質によって更に特徴づけられ得る。そのため、サブタイプは、例えばH1N1、H5N1、及びH5N2など、HとNの数の両方によって称され得る。用語は具体的に、通常は突然変異の結果から生じ、異なる病原性の特性を示す、各サブタイプ内の全ての株(消滅した株を含む)を含む。このような株はまた、過去、現在、及び将来全ての分離株を含む、ウイルスのサブタイプの様々な「分離株」として称されるであろう。従って、この文脈において、用語「株」及び「分離株」は、交換可能に使用される。サブタイプは、インフルエンザAウイルスに基づく抗原を含有する。抗原は、赤血球凝集素ウイルスの表面タンパク質に基づき、「HA抗原」として指定され得る。幾つかの例において、このような抗原は、H1抗原及びH5抗原にそれぞれ指定され得る、特定のサブタイプ(例えば、H1サブタイプ及びH5サブタイプなど)のタンパク質に基づく。
【0043】
本開示において使用されるように、用語「脱グリコシル化した」又は「部分的にグリコシル化した」タンパク質は、タンパク質の十分にグリコシル化した事例のグリカン構造から除去される1以上の糖を有し、且つ、タンパク質がその天然構造/フォールディングを十分に保持する、タンパク質を意味する。「脱グリコシル化した」タンパク質は、脱グリコシル化処理が、糖タンパク質上に存在する1以上のグリコシル化部位にて、モノグリコシル化、ジグリコシル化、又はトリグリコシル化を残す、部分的にグリコシル化したタンパク質を含む。
【0044】
「部分的にグリコシル化した」タンパク質は、1以上の糖が各グリコシル化部位にて保持される「脱グリコシル化した」タンパク質を含み、各部分的なグリコシル化部位は、糖タンパク質の十分にグリコシル化した事例における部位と比較して、より小さなグリカン構造(より少量の糖ユニットを含む)を含有し、部分的にグリコシル化したタンパク質は、その天然構造/フォールディングを十分に保持する。「部分的にグリコシル化した」タンパク質は、糖タンパク質の十分にグリコシル化した事例の少なくとも1つのグリコシル化部位のグリカン構造の部分的な脱グリコシル化により、生成される。「部分的にグリコシル化した」タンパク質はまた、タンパク質のグリコシル化していない部位にグリコシル化を導入することによって生成され、その結果、加えられたグリコシル化配列は、糖タンパク質の十分にグリコシル化した事例における部位にあるグリカン構造よりも小さい。「部分的にグリコシル化した」タンパク質はまた、ウイルスの糖タンパク質の配列、又はその断片を合成し、配列のグリコシル化部位にあるグリコシル化アミノ酸ユニット(例えば、GlcNAc−アルギニン部分)を導入することによって生成され、その結果、加えられたグリカン構造は、糖タンパク質の十分にグリコシル化した事例における部位にあるグリカン構造よりも小さい。
【0045】
ウイルス伝播は、インフルエンザのウイルス被膜上にある赤血球凝集素(HA)糖タンパク質と、宿主細胞表面上にあるシアル酸(SA)含有グリカンとの間の重大な相互作用によって始まる。この重要な相互作用におけるHAグリコシル化の役割を解明するため、様々な定義されたHAグリコフォームが調製され、それらの結合親和性と特異性は、合成のSAマイクロアレイを使用して試験された。N−グリカン構造の短縮化がSA結合親和性を増加した一方で、異なるSAリガンドに対する特異性が減少した。HA結合エネルギーに対する、SAリガンド構造内にある各単糖及び硫酸塩基の寄与は、定量的に細かく調べられた。硫酸塩基は、十分にグリコシル化したHAへの結合エネルギーにおいて100倍近く(2.04kcal/mol)を加え、そして、モノグリコシル化したHAグリコフォームに二分岐のグリカンを加える。各グリコシル化部位にて、単一のN結合GlcNAcのみを有するHAタンパク質に対して作製した抗体は、誘発された十分にグリコシル化したHAよりも優れた結合親和性及びインフルエンザサブタイプに対する中和活性を示した。故に、ウイルスの表面糖タンパク質上の構造的に不必要なグリカンの除去は、インフルエンザウイルス及び他のヒトウイルスに対するワクチン設計に対し、非常に効果的で一般的な手法である。
【0046】
ポリペプチドのグリコシル化は典型的に、N結合又はO結合の何れかである。N結合は、アスパラギン残基の側鎖への、糖質部分の付着を指す。「シークオン」は、N結合グリカンと呼ばれる多糖類(糖)への付着部位としての機能を果たし得るタンパク質における、3つの連続したアミノ酸の配列である。これは、アスパラギン(Asn)の側鎖における窒素原子を介して、タンパク質に結合される多糖類である。シークオンは、Asn−Xaa−Ser又はAsn−Xaa−Thrの何れかであり、Xaaは、プロリンを除く任意のアミノ酸である。故に、ポリペプチド内の3つのトリペプチド配列の何れかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作成する。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はトレオニンへの、糖、N−アセチルグルコサミン、ガラクトース、又はキシロースの1つの付着を指すが、5−ヒドロキシプロリン又は5−ヒドロキシリジンも使用され得る。シークオンAsn−X−Ser/Thrは、糖タンパク質へのN結合オリゴ糖の付着に完全に必要とされる一方で(Marshall RD, Biochemical Society Symposia 40, 17−26 1974)、その存在は常にグリコシル化をもたらさず、糖タンパク質における幾つかのシークオンはグリコシル化されずに残る(Curling EM, et al., BiochemicalJournal 272, 333−337 1990)。
【0047】
本発明の1つの態様は、単純化した糖質構造を有する非天然の糖タンパク質を生産する方法である。
【0048】
従って、方法は、HIVなどのレトロウイルス、C型肝炎、デング熱、及び西ナイル熱などのフラビウイルスに適用可能である。
【0049】
gp120の分子質量のほぼ半分、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の受容体結合エンベロープタンパク質は、N結合グリカンから成る。これらグリカンの半分近くは、高マンノース型のものである。これら高マンノースグリカンは、免疫システムのマンノース特異性のレクチンとの相互作用のためHIVを主要な目標にするウイルス表面上にあるマンノース残基の豊富な森(forest)を供給する。
【0050】
C型肝炎ウイルス(HCV)エンベロープ糖タンパク質は、一般的にE1及びE2のそれぞれの上にある4及び11のN結合グリカンにより、高度にグリコシル化される。様々なグリカンは、HCVccアセンブリ及び/又は感染性において重要な役割を果たす。E2上の少なくとも5つのグリカン(E2N1、E2N2、E2N4、E2N6、及びE2N11を表わす)は、抗体中和に対するHCVの感度を強く減少する(Helle F et al, J Virol. 2010 Nov;84(22):11905−15)。
【0051】
大半のフラビウイルスのEタンパク質は、残基153/154での、及び残基67にある第2グリカンによる4つのデング熱ウイルス(DENV)血清型の場合において、Asn結合グリコシル化により修飾される。デング熱ウイルスにおいて、Eタンパク質上のN結合グリカンは、高マンノースと複雑なグリカンの混合物である。西ナイル熱ウイルスエンベロープ(E)タンパク質は、残基154にて単一のN結合グリコシル化部位を含有する。これら部位でのグリカンの切除が著しく減少したが、除去されていないため、感染力、単純化したグリコシル化において存在する際に保存された部位にて標的とされるワクチンは、ウイルスにおける突然変異の変動にあまり感度が無い効果的な治療に通じ得る。
【0052】
〈グリコシダーゼ阻害剤〉
グリコシド加水分解酵素(グリコシダーゼ又はグリコシル加水分解酵素とも呼ばれる)は、より小さな糖を放出するためにグリコシド結合の加水分解を触媒する。それらは、抗細菌の防衛戦略(例えば、リゾチーム)における、病因機構(例えば、ウイルスのノイラミニダーゼ)における、及び標準の細胞の機能(例えば、N結合糖タンパク質の生合成に関与するマンノシダーゼをトリミングする)における、セルロース及びヘミセルロースなどのバイオマスの分解を含む性質における役割を有する一般的な酵素である。グリコシルトランスフェラーゼと共に、グリコシダーゼは、グリコシド結合の合成及び破壊のための主要な触媒機構を形成する。
【0053】
グリコシル化の阻害剤は、本発明の方法に従った使用について熟慮される。このような阻害剤の例は、キネフシン(Kinefusine)、オーストラリン(Australine)、カスタノスペルミン、デオキシノジリマイシン、デオキシマンノジリマイシン、スウェインソニン(Swainsoninne)、マノスタチンAなどを含む。
【0054】
オーストラリンは、アルファ−グルコシダーゼアミログルコシダーゼ(5.8μMで50%の阻害)の優れた阻害剤であるが、ベータ−グルコシダーゼ、アルファ−又はベータ−マンノシダーゼ、或いは、アルファ−又はベータ−ガラクトシダーゼを阻害しない、ポリヒドロキシル化したピロリジジンアルカロイドである。カスタノスペルミンは、アルファ−グルコシダーゼ活性を阻害し、グリコーゲン分布を変更する、インドリジンアルカロイドである。カスタノスペルミンはデング熱ウイルス感染を阻害する(Whitby K et al., J Virol. 2005 July;79(14):8698−8706)。
【0055】
N結合オリゴ糖構造の様々なタイプの生合成は、2つの一連の反応に関与する:1)ドリコール−PへのGlcNAc、マンノース、及びグルコースの段階的な追加による、脂質結合サッカライド前駆体、GlcMan(GlcNAc)2−ピロホスホリル−ドリコールの形成;及び2)膜結合グリコシダーゼによるグルコース及びマンノースの除去、及び、異なる複雑なオリゴ糖構造を生産するためゴルジに局在化されたグリコシルトランスフェラーゼによるGlcNAc、ガラクトース、シアル酸、及びフコースの追加。
【0056】
異なる段階で修飾反応を遮断する阻害剤の使用は、細胞に、変更された糖質構造を有する糖タンパク質を生産させる。アルカロイド様化合物の数は、糖タンパク質処理に関与するグルコシダーゼ及びマンノシダーゼの特異的な阻害剤であると識別された。これら化合物は、阻害の部位に依存して、グルコース含有の高マンノース構造、又は様々な高マンノース或いはハイブリッド鎖を有する糖タンパク質の形成を引き起こす(Elbein AD FASEB J. 1991 Dec;5(15):3055−3063)。
【0057】
N結合糖タンパク質の処理において機能する最初の4つの酵素はグリコシダーゼである。GlcNAc−リン酸転移酵素は、マンノース6−ホスファート決定因子の合成における最初の工程を触媒する。適切な糖質構造は、GlcNAc−リン酸転移酵素により効果的なリン酸化を大きく促進する。リン酸化に結合される糖質構造は、GAA分子上でのマンノース−6−ホスファートシグナルの合成に必要であり、高マンノースN−グリカンである。
【0058】
様々なマンノシダーゼ処理阻害剤が知られている。ロコ草から分離されるスウェインソニンは、ゴルジマンノシダーゼIIの有力な阻害剤であるが、マンノシダーゼ1の効果を有していないと示された(James, L. F., Elbein, A. D., Molyneux, R. J., and Warren, C. D.(1989) Swainsonine and related glycosidase inhibitors. Iowa State Press, Ames, Iowa)。デオキシマンノジリマイシンは、ラット肝臓マンノシダーゼIのかなり有力な阻害剤である。無傷の細胞において、デオキシマンノジリマイシン(deoxymannojinimycin)は、N結合オリゴ糖の複合型の合成を遮断し、Man7−9(GlcNAc)構造を有する糖タンパク質の蓄積を引き起こし、Man(GlcNAc)オリゴ糖が優位を占める(Elbein, A. D., et al.(1984) Arch. Biochem. Biophys. 235, 579−588)。マノスタチンAは、微生物(Streptoverticillium verticillus)によって生産される代謝物質であり、この化合物は、ラットの精巣上体のα−マンノシダーゼの有力な阻害剤であると報告された。(Aoyagi, T., et al.(1989) J. Antibiot. 42, 883−889)。
【0059】
キフネンシン(Kif)は、放線菌、Kitasatosporia kifunense No. 9482から最初に分離され(M. Iwami, O. et al. J. Antibiot., 40, 612, 1987)、1−アミノ−マンノジリマイシンの環式オキサミド誘導体である。キフネンシンは、動物のゴルジ酵素、マンノシダーゼIを阻害する。キフネンシンが1μg/ml以上の濃度で培養された哺乳動物細胞に加えられた時、それは、マンノシダーゼIの阻害に沿って、複合鎖からMan(GlcNAc)構造までの、N結合オリゴ糖の構造における完全な変化を引き起こす。一方、デオキシマンノジリマイシンは、50μg/mlであっても、全ての複合鎖の形成を妨げない(Elbein, A. D., et al.(1990) Kifunensine, a potent inhibitor of the glycoprotein processing mannosidase I. J Biol. Chem. 265, 15599−15605)。故に、キフネンシンは、最も効果的な糖タンパク質処理阻害剤の1つである。
【0060】
キフネンシンはまた、α−マンノシダーゼの阻害において免疫調節活性を約束すると示した。キフネンシンの合成は、Fujisawa Pharmaceutical Co. (H. Kayakiri, et al, Tetrahedron Lett., 31, 225, 1990; H. Kayakiri, et al., Chem. Pharm. Bull., 39, 1392, 1991)及びHudlicky et al. (J. Rouden and T. Hudlicky, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1095, 1993; J. Rouden, T. et al., J. Am. Chem. Soc, 116, 5099, 1994)の両方によって報告された。
【0061】
キフネンシン(Kif)による細胞の処置は、それら細胞における糖タンパク質処理の阻害をもたらす(Elbein et al (1991) FASEB J(5):3055−3063;and Bischoff et al(1990) J. Biol. Chem. 265(26):15599−15605)。Kifは、修飾したタンパク質への複雑な糖の付着を遮断する。しかし、十分なKifが、リソソームの加水分解酵素上で糖タンパク質処理を完全に阻害するために利用される場合、結果として生じた加水分解酵素は、GlcNAcリン酸転移酵素に最も効果的な基質でない、マンノース−9の構造を有する。
【0062】
本発明に従って、Kifなどのグリコシダーゼ阻害剤は、0.25、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.25、9.5、9.75、及びその間にある全ての値を含む、少なくとも0.01μg/ml乃至少なくとも約500μg/mlの量で、細胞に加えられる。
【0063】
キフネンシンは、N−グリコシル化経路における酵素α−マンノシダーゼIの機能を阻害し、及びManGlcNAc組成物を有する糖タンパク質をもたらす。
【0064】
複雑な糖質構造のレベル及び/又はタイプは、既知の方法を使用して測定され得る。例えば、糖タンパク質及びそれに関連するオリゴ糖は、高マンノースと複素数型オリゴ糖との間で区別するために、エンドグリコシダーゼを使用して特徴化され得る(Maley et al (1989) Anal. Biochem. 180:195−204)。ペプチド−N4−(N−アセチル−β−グルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ(PNGaseF)は、アンモニア、アスパラギン酸、及び還元末端上に無傷のdi−N−アセチルキトビオースを有するオリゴ糖をもたらすため、B−アスパルチルグリコシラミン結合にて、アスパラギン結合(N結合)オリゴ糖を加水分解することが出来る。高マンノース型、ハイブリッド型、ジ−、トリ−、及びテトラ分枝性複合体型、硫酸化及びポリシアル化オリゴ糖が基質であるため、PNGaseの特異性は広い。加えて、α−1,6−マンノースの結合の手(arm)が、付着される別のマンノースを有する場合、endo−B−N−アセチルグルコサミニダーゼH(EndoH)は、3つのマンノース残基にて処理するハイブリッド含有及びマンノース含有のN結合オリゴ糖の保持において、キトビオースユニットを効果的に加水分解する。複雑なオリゴ糖は、EndoHの消化に耐性がある。
【0065】
糖タンパク質に存在するN結合オリゴ糖のタイプを特徴化するため、タンパク質のアリコートは、還元条件下で、PNGaseF(0.5%のSDS、1%のβ−メルカプトエタノール、50mMのNP−40、50mMのリン酸ナトリウム、pH7.5)又はEndoH(0.5%のSDS、1%のB−メルカプトエタノール、50mMのクエン酸ナトリウム、pH5.5)により消化され得る。天然の及び消化されたタンパク質はその後、還元条件下でSDS−ポリアクリルアミド電気泳動法により分析され、相対的な移動度を比較する。糖タンパク質が高度なマンノースオリゴ糖のみを含有する場合、PNGaseF及びEndoH処置されたサンプルは、未処置のタンパク質よりも大きな移動度を有するであろう。EndoH処置されたタンパク質は、各N結合グリコシル化部位にて、1つの残りのN−アセチルグルコサミンにより、僅かに高い分子量を有する。糖タンパク質が複雑なオリゴ糖のみを有する場合、EndoH処置されたタンパク質は、未処置のタンパク質と比較される移動における変化を有さない。複雑な及び高度なマンノースオリゴ糖の両方がある場合、その後、EndoH処置されたタンパク質は、非処置の糖タンパク質よりも小さいが、PNGaseF処置されたタンパク質より大きい。違いは、残りのN−アセチルグルコサミンについて説明され得るものよりも大きい。
【0066】
標的糖タンパク質上で単純化したグリカンを生成するため、エンドグリコシダーゼが使用される。エンドグリコシダーゼは、糖タンパク質又は糖脂質からオリゴ糖を放出する酵素である。又は、エンドグリコシダーゼは、末端残基でない残基の間の多糖類の鎖を開裂するだけであるが、糖タンパク質又は脂質分子からのオリゴ糖の放出は、共通する。エンドグリコシダーゼは、ポリマーにおける2つの糖のモノマー間のグリコシドの結合を破壊する。エンドグリコシダーゼの例は、限定されないが、エンドグリコシダーゼD、エンドグリコシダーゼF、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼH、及びエンドグリコシダーゼSを含む。
【0067】
〈モノグリコシル化したインフルエンザウイルスの調製〉
高マンノース糖タンパク質を有するタンパク質を生産するため、インフルエンザウイルスを持つ細胞は、糖タンパク質処理を阻害するためにKif(及び/又はDMJ)に曝露される。モノグリコシル化したインフルエンザウイルスを生産するため、ウイルスは、キフネンシンなどのマンノシダーゼ阻害剤と共に、病原体の無い発育鶏卵の尿膜腔に注入される。
【0068】
キフネンシンは、N−グリコシル化経路における酵素α−マンノシダーゼIの機能を阻害し、Man(GlcNAc)組成物を有する糖タンパク質をもたらす。赤血球凝集素のグリコシル化の阻害におけるキフネンシンの濃度は、5、10、25、50、75、100、200、500μg/mLと、500μg/mLまでの間、並びにその間の全ての値に及ぶ。
【0069】
インキュベーションの1乃至3日後、キフネンシン処置された尿膜液が採取され、高マンノース型のグリカン、即ち、Man(GlcNAc)から単一のGlcNAcまで変換できる濃度を除去するため、エンドグリコシダーゼ(Endo H)により消化される。モノグリコシル化した赤血球凝集素を生産するための尿膜液におけるEndo Hの濃度は、尿膜液の少なくとも約0.1、0.5、1、2、5、7、10、20、30、40、50、60、75、100、150、200、500μg/mL以上の範囲である。
【0070】
その後、モノグリコシル化したウイルスは回収し、精製される。
【0071】
〈モノグリコシル化したインフルエンザウイルスの使用〉
本明細書で開示されたモノグリコシル化したインフルエンザウイルス抗原は、インフルエンザウイルス感染に対して免疫化するために使用され得る。抗原が由来する具体的なウイルスは、保護を提供する具体的なウイルスと同じであるか、又はそれとは相違する。なぜなら、異なる分離株間での交差防御は、インフルエンザウイルスで、特に同じウイルスのサブタイプ内で起きることが既知であるためである。
【0072】
現在使用されているインフルエンザワクチンは、全粒子ウイルス(WV)ワクチン又はサブビリオン(SV)(「スプリット」又は「生成された表面抗原」と呼ばれる)として指定される。WVワクチンは、無傷の不活性ウイルスを含むが、SVワクチンは、残留ウイルスの化学的不活性化の後に、脂肪を含有するウイルスエンベロープを可溶化する界面活性剤で破壊された、精製されたウイルスを含む。インフルエンザに対する弱毒化されたウイルスのワクチンもまた、発達途上にある。通常のワクチンを調製する方法に関する議論については、Wright,P.F.& Webster,R.G.,FIELDS VIROLOGY,4d Ed.(Knipe,D.M.et al.Ed.),1464−65(2001)で参照することができる。
【0073】
ワクチンが1を超えるインフルエンザの株を含む場合には、異なる株が典型的に別々に増殖し、ウイルスが収集され、抗原が調製された後に、混合される。あるいは、インフルエンザウイルスの異なる分離株の異なるセグメントが混合され、多能性のワクチンが生成され得る。本発明の過程で使用されるインフルエンザウイルスはリアソータントな株である、及び/又は逆遺伝子操作によって得られたものでもよい。ウイルスは弱毒されてもよい。ウイルスは温度感受性であってもよい。ウイルスは低温に適していてもよい。病原性のある株に由来するHA及び/又はNAウイルスのセグメントを含む、及び非病原性の株由来の残存している6又は7のセグメントを含むリアソータントな菌株が使用されてもよい。
【0074】
本発明による免疫原性成分において使用される、インフルエンザウイルス抗原は、生菌又は、好ましくは不活性化されたウイルスの形態であってもよい。ウイルスの不活性化は、ホルマリン又はβ−プロピオラクトンのような化学薬品を用いる処置を、典型的に含んでいる。不活性化されたウイルスが使用される場合には、抗原は、全粒子ウイルス、スプリットウイルス、又はウイルスサブユニットであってもよい。サブビリオン製剤を生成するための界面活性剤(例えば、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコレート、tri−N−ブチルリン酸塩、Triton X−100、Triton N101、セチルトリメチルアンモニウムブロミドなど)を用いたウイルスの処置により、スプリットウイルスが得られる。サブユニットのワクチンは、インフルエンザ表面抗原の血球凝集素及びノイラミニダーゼの一方又は両方を含んでいる。インフルエンザ抗原もウイロゾームの形態で提供される。
【0075】
抗原がインフルエンザウイルスから調製された場合には(すなわち、インフルエンザウイルスの増殖と関係のない組み換え体又は合成システムにおいて生産されるよりはむしろ)、ウイルスは卵又は細胞培地のいずれかの上で増殖し得る。具体的な無菌の発育鶏卵における増殖は、インフルエンザウイルスがワクチン生産のため増殖される伝統的な経路であって、細胞培地はより最近発展している。細胞培地が使用される場合には、インフルエンザウイルスワクチンは、MDCK細胞、ベロ細胞、又はPER.C6細胞のような哺乳細胞上で、典型的に増殖されるであろう。これらの細胞株は、例えば、American Type Cell Culture(ATCC) collection、又はCoriell Cell Repositories(Camden, NJ)から、広く利用可能である。例えば、ATCCは、カタログ番号CCL−81、CCL−81.2、CRL−1586及びCRL−1587で様々な異なるベロ細胞を供給しており、また、カタログ番号CCL−34でMDCK細胞を供給する。例えば、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)などの雌鳥に由来する細胞株を含む、鳥類細胞株における増殖も可能である。
【0076】
同様に、ウイルス(HIV、HCV、デング熱ウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス及びその他同種のものなど)は、1又はそれ以上のグリコシダーゼ阻害剤(キネフシン、オーストラリン、カスタノスペルミン、デオキシノジリマイシン、デオキシマンノジリマイシン、スウェインソニン、マンノスタチンA、及びその他同種のものなど)の存在下の細胞培地で増殖され得る。これらのウイルスの増殖のための細胞培養システムは、当該技術分野において周知である。西ナイル熱ウイルスは、サル腎臓上皮細胞又はニワトリ胚細胞組織培地において増殖され得る。HIVは、末梢血単核球(PBMC)培地において培養され得る。HCは、ヒト肝癌細胞株Huh−7に由来する細胞において増殖され得る。
【0077】
本発明の免疫原性及び薬の組成物は、患者への投与に適している。これは、限定されないが、皮内注入;経皮投与;及び局所投与を含む、様々な方法によって達成され得る。これらは、例えばエメリーペーパーによる、又は微小研磨剤(microabrasives)の使用による、皮膚剥削術と組み合わせて使用される。本発明の免疫原性及び薬の組成物は、好ましくはワクチンとして提示される。
【0078】
本発明の組成物は、アジュバントを含んでいてもよい。インフルエンザワクチンにおいて使用されたアジュバントは、アルミニウム塩、キトサン、CpG7909のようなCpGオリゴデオキシヌクレオチド、MF59のような水中油型エマルジョン、水中油中水型エマルジョン、E.coliの易熱性毒素及びその解毒された突然変異体、モノホスホリルリピドA及びその3−O−脱アシル化誘導体、百日咳毒素の突然変異体、ムラミルジペプチド、などを含む。
【0079】
〈実施例〉
本発明の範囲を限定する意図なしに、本発明の実施形態に従って、例示的な器具、装置、方法及びそれらに関連する結果を以下に提供する。読者の便宜のために、実施例において表題又は副題が使用され得るが、それらは決して、本発明の範囲を限定するものではないことに注意されたい。さらに、本明細書においては特定の理論が提示され、開示されている;しかしながら、決してそれらは、正しかろうと間違っていようと、いかなる特定の理論又は動作のスキームを考慮することなく、本発明に従って本発明を実施する限りにおいて、本発明の範囲を限定するべきではない。
【0080】
〈実施例1:十分にグリコシル化した及びモノグリコシル化したウイルスの調製〉
インフルエンザAウイルス、NIBRG−14(H5N1)(Nicolson C, et al.(2005)Vaccine 23(22):2943−2952)を、孵卵後10日目の特定病原体除去(SFP)発育鶏卵(10−days−old specific pathogen free(SFP)embryonated chicken eggs)の尿膜腔に注入し(20μlのPBS中の1000 TCID50(50%の組織培養感染量))、通常の十分にグリコシル化したウイルス(WHO(2005)WHO manual on animal influenza diagnosis and surveillance.(World Health Organization,Geneva))を生産した。
【0081】
モノグリコシル化したウイルスを生産するために、0.2mg/mlのキフネンシン(Cayman Chemical)を用いて、ウイルスを尿膜腔に注入した。キフネンシンは、N−グリコシル化経路における酵素α−マノシダーゼIの機能を阻害し、その結果、Man9GlcNAc2組成物を有する糖タンパク質をもたらす(Elbein AD, et al.(1990) J Biol Chem265(26):15599−15605)。
【0082】
血球凝集素のグリコシル化を阻害するキフネンシンの濃度依存性を分析した(図1A)。インキュベーションの3日後、尿膜液を回収し、デブリを除去するために3,000gで10分間、遠心分離した。その後、キフネンシン処置した尿膜液を、4℃で12時間、エンドグリコシダーゼ Endo H(20μg/mlの尿膜液)で消化し、即ち、Man9GlcNAc2から単独GlcNAcまで、高マンノース型グリカンを除去した。モノグリコシル化した血球凝集素を生産するための、尿膜液におけるEndo Hの濃度依存性を分析した(図1B)。
【0083】
続いて、モノグリコシル化したウイルスを、46,000gで90分間、超遠心分離機によりペレット状にし、PBSで再懸濁し、270,000gで90分間、非連続的なスクロース密度勾配(25%、40%)により精製した。勾配中のウイルスを集め、120,000gで90分間、超遠心分離機によりペレット状にした。最後に、そのペレットをPBSで再懸濁し、0.22μmのフィルタにより濾過した(CDC(1982)Concepts and Procedures for Laboratory−based Influenza Surveillance(U.S.Dept. of Health and Human Services.,Washington,DC);Harvey R,et al.(2008)Vaccine 26(51):6550−6554)。精製された十分にグリコシル化したウイルスと比較すると、精製されたモノグリコシル化したウイルスは、HA1及びHA2(図1C)の両方で、明らかにダウンシフトした。
【0084】
〈実施例2:十分にグリコシル化した及びモノグリコシル化したウイルスの電子顕微鏡分析〉
ウイルス溶液を、銅グリッド(Electron Microscopy Science)の、コロジオン−炭素で覆われた表面に置いた。余分な液体を濾紙を用いて除去し、2%のタングステン酸メチルアミン(Ted Pella,Inc.)を加え、30秒間染色した。余分な液体を濾紙を用いて除去し、HOで30秒間洗浄した。その後、グリッドを4時間風乾し、ウイルスの粒子を透過型電子顕微鏡(Hitachi H−7000)によって撮影した。十分にグリコシル化した及びモノグリコシル化したインフルエンザNIBRG−14ウイルスは、大きさと形態共に類似している(図2)。
【0085】
〈実施例3:ウイルスにおける血球凝集素の定量化〉
ウイルスを変性緩衝液(5%のSDS及び10%のβ−メルカプトエタノール)と混合し、10分間煮沸し、その後そのサンプルを10%のNP−40に加え、25℃で一晩にわたりPNGase F(New England Biolabs)で処置した。そのサンプルをSDS−PAGEサンプル緩衝液と混合し、ゲルに充填する前に10分間、95℃まで加熱した。そのゲルをSYPRO RUBY(登録商標)(Invitrogen)で染色し、VERSA DOC(登録商標)イメージングシステム(Bio−rad)で分析した。SDS−PAGE分析の前のPNGase Fの処置は、十分にグリコシル化したウイルスサンプル中のNPタンパク質からHA1を分離することである。これにより、ウイルス中の血球凝集素の定量化のため、SDS−PAGE上の十分にグリコシル化した及びモノグリコシル化したウイルスの両方からのHA1タンパク質の、直接的な強度の比較が可能となる(図3)。
【0086】
〈実施例4:LC−MS−MSを用いたグリコペプチド分析〉
モノグリコシル化したウイルスのグリカンの組成物を、分析するために質量分析を使用した。ウイルス溶液を非還元のサンプル緩衝液と混合し、ゲルに充填する前に10分間、95℃まで加熱した。そのゲルをクマシーブルーで染色した。HA0バンドを、トリプシンによるゲル内でのトリプシン分解のために、小片に切り分けた。消化の後、サンプルをLC−MS−MSにより分析した(Wu Y,et al.(2010) Rapid Commun Mass Spectrom 24(7):965−972)(Agilent Technologies,Thermo Scientific)。インフルエンザNIBRG−14ウイルスの6つのN−グリコシル化部位が存在する。残基295(〜10% Man(GlcNAc))及び残基489(〜10% Man7−9(GlcNAc))における高マンノース型グリカンの存在の低い割合を除いて、すべての他のグリカンは、付着される単一のGlcNAcサッカリド残基により、十分にグリコシル化した(図4)。
【0087】
各個別の刊行物又は特許出願が、具体的及び個別的に参照によって組み込まれることを示されたように、本明細書で引用されたすべての刊行物と特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0088】
前述の発明は、明確な理解を目的として、図及び実施例を用いて詳細に記載されたが、本発明の教示の観点において、当業者にとって容易に明白であって、添付の特許請求の範囲の精神又は範囲から逸脱することなく、特定の変更及び修正がなされ得る。
図1
図2A
図2B
図3
図4