特許第6166185号(P6166185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166185
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】MEMSセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/00 20060101AFI20170710BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20170710BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   G01L9/00 303M
   H01L29/84 B
   H01L29/84 A
   B81B3/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-93(P2014-93)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-129643(P2015-129643A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 健一
(72)【発明者】
【氏名】大川 尚信
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 久幸
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 宏行
(72)【発明者】
【氏名】臼井 学
(72)【発明者】
【氏名】石曽根 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】梅津 英治
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−151614(JP,A)
【文献】 特開2007−171040(JP,A)
【文献】 特開昭62−291072(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0145853(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 9/00
B81B 3/00
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共にシリコン基板である第1の基板ならびに第2の基板が重ねられたMEMSセンサにおいて、
前記第1の基板は、空間部とこの空間部を囲む枠体部とを有し、前記第2の基板には、前記空間部に対向する撓み変形可能な感知部と、前記感知部の撓み変形に応じた検知出力を得る検知素子部とが形成され、
前記第2の基板の表面に絶縁層が形成されて、前記絶縁層の表面に電極パッドが形成され、前記電極パッドと前記検知素子部との間に連結配線層が形成されており、
前記連結配線層は、前記第2の基板と前記絶縁層との間に形成されて前記検知素子部に接続されるアルミニウムの下部配線層と、前記絶縁層の表面で前記電極パッドから延びる上部配線層とから成り、前記上部配線層がアルミニウムよりも温度変化による残留応力の変動が小さい導電性金属材料で形成されており、前記上部配線層と前記下部配線層とが、前記絶縁層を介して互いに導通されていることを特徴とするMEMSセンサ。
【請求項2】
前記上部配線層が金で形成されている請求項1記載のMEMSセンサ。
【請求項3】
前記第2の基板は正方形で、前記電極パッドが正方形の全ての角部に位置しており、前記連結配線層は、正方形の各辺と平行に形成されており、前記連結配線層の長さならびに前記下部配線層と前記上部配線層の長さの比は、正方形のそれぞれの辺において同じである請求項1または2記載のMEMSセンサ。
【請求項4】
前記連結配線層の配線パターンは、前記第2の基板の図心を中心として180度の回転対称である請求項3記載のMEMSセンサ。
【請求項5】
前記下部配線層と前記検知素子部との導通部と前記金属パッドとを除く前記連結配線層の全長をL0とし、前記上部配線層と前記下部配線層との導通部を含み且つ前記金属パッドを除いた前記上部配線層の長さをL1としたときに、L1/L0は、0.46〜0.88である請求項3または4記載のMEMSセンサ。
【請求項6】
L1/L0が、0.76〜0.88である請求項5記載のMEMSセンサ。
【請求項7】
前記第2の基板と逆側で、前記第2の基板に接合された支持基板が設けられて、前記空間部が閉鎖され、前記感知部が気体の圧力で変形する圧力センサである請求項1ないし6のいずれかに記載のMEMSセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板に外力で変形する感知部と前記変形を検知する検知素子部とが形成されたMEMSセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1と特許文献2にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)で構成された圧力センサが開示されている。圧力センサはシリコンで形成されたセンサチップを有しており、センサチップに、圧力によって変形するダイヤフラム部と、ダイヤフラム部の変形を検知する歪みゲージが形成されている。歪みゲージは、シリコンに不純物を拡散させることで形成されている。
【0003】
特許文献1に記載された圧力センサは、センサチップがシリコーン系接着剤でガラス台座に接着固定されている。特許文献1には、この構成によると、雰囲気温度を低温から高温などへ変化させたときに、熱ヒステリシスによる応力がセンサチップに作用して、出力変動が発生すると記載され、これを防止するために、ダイヤフラム部を囲むようにアルミニウム膜が形成されて、アルミニウム膜の残留歪みにより、センサチップに設けられた歪みゲージに対する応力の影響を低減させることが示されている。
【0004】
次に、特許文献2に記載された圧力センサでは、N型シリコン基板にP型ボロンを注入して歪みゲージとなるピエゾ抵抗が形成されるが、このピエゾ抵抗から延び出る配線としてアルミニウム膜が使用され、または、配線がアルミニウム膜で形成され、導通用ハンダが載せられる部分にのみ、アルミニウム膜にTi,Ni,Auなどが積層される構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−344402号公報
【特許文献2】特開2008−20433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミニウムは熱の変化が与えられたときの残留応力のヒステリシスが大きい。特許文献1に記載の発明は、ダイヤフラム部の外周をアルミニウム膜で囲む構成とすることで、外周に形成されたアルミニウム膜に発生する残留応力で、アルミニウム配線の残留応力を相殺させ、熱ヒステリシスによる出力変動を低減させるというものである。
【0007】
しかしながら、前記構造ではダイヤフラム部の外周にアルミニウム膜を形成するためのスペースを広く形成しておくことが必要となり、センサチップのサイズを小さくするのが困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載された圧力センサのように、ピエゾ抵抗から延び出る配線がアルミニウム膜で形成されているものでは、温度変化があったときにアルミニウム膜に残留する応力がピエゾ抵抗に作用し、圧力の検知出力に変動が生じやすくなる。
【0009】
これらの問題に対処するためには、ピエゾ抵抗(歪みゲージ)から延びる配線を温度変化による残留応力の変動が小さい金などで形成することも考えられる。しかし、金はシリコンとの相溶性があるため、熱が与えられると金がシリコン基板に入り込み、配線層として機能できなくなる。
【0010】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、シリコン基板に形成された検知素子部からの配線層を安定して形成でき、しかも、製品サイズを大きくすることなく、熱ヒステリシスの影響を低減できる構造のMEMSセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、共にシリコン基板である第1の基板ならびに第2の基板が重ねられたMEMSセンサにおいて、
前記第1の基板は、空間部とこの空間部を囲む枠体部とを有し、前記第2の基板には、前記空間部に対向する撓み変形可能な感知部と、前記感知部の撓み変形に応じた検知出力を得る検知素子部とが形成され、
前記第2の基板の表面に絶縁層が形成されて、前記絶縁層の表面に電極パッドが形成され、前記電極パッドと前記検知素子部との間に連結配線層が形成されており、
前記連結配線層は、前記第2の基板と前記絶縁層との間に形成されて前記検知素子部に接続されるアルミニウムの下部配線層と、前記絶縁層の表面で前記電極パッドから延びる上部配線層とから成り、前記上部配線層がアルミニウムよりも温度変化による残留応力の変動が小さい導電性金属材料で形成されており、前記上部配線層と前記下部配線層とが、前記絶縁層を介して互いに導通されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のMEMSセンサは、シリコン基板である第2の基板の表面にアルミニウムの下部配線層が形成されているため、下部配線層を安定した状態で形成できる。また、連結配線層が前記下部配線層と、アルミニウムよりも温度変化による残留応力の変動が小さい導電性金属材料の上部配線層とから構成されているため、アルミニウムの熱ヒステリシスが過大になるのを制限でき、熱による出力変動を抑制できるようになる。
【0013】
本発明は、前記上部配線層が金で形成されていることが好ましい。
本発明は、前記第2の基板は正方形で、前記電極パッドが正方形の全ての角部に位置しており、前記連結配線層は、正方形の各辺と平行に形成されており、前記連結配線層の長さならびに前記下部配線層と前記上部配線層の長さの比は、正方形のそれぞれの辺において同じであることが好ましい。
【0014】
また、前記連結配線層の配線パターンは、前記第2の基板の図心を中心として180度の回転対称であることが好ましい。
【0015】
本発明では、下部配線層と上部配線層を正方形の各辺において同じ状態で形成することで、アルミニウムの下部配線層の残留応力が各辺の相互でバランスをとれるようになり、よって検知素子部に作用する残留応力の影響を低減できるようになる。
【0016】
本発明のMEMSセンサは、前記下部配線層と前記検知素子部との導通部と前記金属パッドとを除く前記連結配線層の全長をL0とし、前記上部配線層と前記下部配線層との導通部を含み且つ前記金属パッドを除いた前記上部配線層の長さをL1としたときに、L1/L0は、0.46〜0.88であることが好ましい。
さらには、L1/L0が、0.76〜0.88であることが好ましい。
【0017】
本発明のMEMSセンサは、例えば、前記第2の基板と逆側で、前記第2の基板に接合された支持基板が設けられて、前記空間部が閉鎖され、前記感知部が気体の圧力で変形する圧力センサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のMEMSセンサは、シリコン基板である第2の基板の上に形成された下部配線層がアルミニウムであるため、下部配線層は常に安定した状態を保てるようになる。アルミニウムは残留応力が熱ヒステリシスを持つ特性があるが、検知素子部と電極パッドとを導通させる連結配線層を、アルミニウムの下部配線層と、金などの導電性金属材料で形成された上部配線層とで形成しているため、アルミニウムの下部配線層を残留応力による影響が小さくなる長さ寸法に調整できるようになる。そのため、アルミニウムの残留応力による検知出力の変動を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は本発明の実施の形態のMEMSセンサの平面図、(B)は検知素子部のパターン構成を示す説明図、
図2図1に示すMEMSセンサをII−II線で切断した断面図、
図3図1に示すMEMSセンサをIII−III線で切断した断面図、
図4】比較例1のMEMSセンサを示す平面図、
図5】比較例2のMEMSセンサを示す平面図、
図6図5に示す比較例2のMEMSセンサをVI−VI線で切断した断面図、
図7】アルミニウムを配線層として使用したMEMSセンサの熱ヒステリシスによる出力変動を説明する線図、
図8】実施例と比較例との出力変動を比較した線図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1ないし図3に示すMEMSセンサ1は圧力センサとして使用される。本発明のMEMSセンサ1は、圧力センサの他に押圧力を検知する力センサなどとして構成することも可能である。
【0021】
図2の断面図に示すように、MEMSセンサ1は、SOI基板(Silicon On Insurator wafer)2の図示下側に支持基板3が接合されて構成されている。SOI基板2は、第1の基板11と第2の基板12が酸化絶縁層13を介して接合されている。第1の基板11と第2の基板12はシリコン(Si)基板であり、酸化絶縁層13は酸化ケイ素(SiO)層である。
【0022】
図1(A)に示すように、MEMSセンサ1を平面で見たときの形状は正方形であり、第1の辺1aと第2の辺1bと第3の辺1cならびに第4の辺1dを有している。第1の基板11と第2の基板12も正方形であり、その形状ならびに寸法は、MEMSセンサ1の平面形状ならびに寸法と同じである。
【0023】
図2に示すように、第1の基板11は、中央部の空間部11aと、空間部11aを囲む枠体部11bとを有している。空間部11aは第1の基板11を上下に貫通して形成されている。図1(A)に、空間部11aの内壁面11cが破線で示されている。第1の辺1aと第2の辺1bと第3の辺1cならびに第4の辺1dのそれぞれと、内壁面11cとの間隔は、全て同じであす。すなわち、枠体部11bの幅寸法は、全ての辺1a,1b,1c,1dで均一である。
【0024】
第2の基板12は、前記空間部11aを覆っている部分(空間部11aと対向する部分)が、撓み変形可能な感知部(変形部または撓み部)12aであり、枠体部11bと重ねられている枠状部分が配線部(配線領域)12bである。
【0025】
図3に拡大して示すように、第2の基板12の表面12cに、絶縁層14が形成されている。絶縁層14は、第2の基板12の表面12cに薄く形成された下部絶縁層14aとその上に積層された上部絶縁層14bとから構成されている。両絶縁層14a,14bは無機絶縁層である。下部絶縁層14aは酸化ケイ素(SiO)層であり、上部絶縁層14bは窒化ケイ素(Si)層である。
【0026】
図1(A)に示すように、第2の基板12の4か所に検知素子部15a,15b,15c,15dが形成されている。第1の検知素子部15aは第1の辺1aから離れて位置し、第2の検知素子部15bは第2の辺1bから離れて位置し、第3の検知素子部15cは第3の辺1cから離れて位置し、第4の検知素子部15dは第4の辺1dから離れて位置している。
【0027】
検知素子部15a,15b,15c,15dは少なくとも一部が感知部12aに位置し、感知部12aが変形したときに歪みを生じる領域に形成されている。検知素子部15a,15b,15c,15dは、N型シリコン基板である第2の基板12の表面12cに、P型ボロンなどの不純物がドープされて、第2の基板12の一部に形成されたピエゾ抵抗であり、このピエゾ抵抗は歪みゲージとして機能する。
【0028】
図1(A)に示すように、第2の基板12の表面12cに形成されている絶縁層14の表面14cに電極パッド16a,16b,16c,16dが形成されている。電極パッド16a,16b,16c,16dは、正方形のMEMSセンサ1の角部のそれぞれに配置されている。電極パッド16a,16b,16c,16dは、熱ヒステリシスに関してアルミニウムよりも温度変化による残留応力の変動が小さい導電性金属材料で形成されており、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などであり、以下で説明する好ましい実施の形態では金で形成されている。導電性金属材料はスパッタ工程などで形成されている。
【0029】
図1(A)に示すように、電極パッド16aと第1の検知素子部15aとの間、ならびに電極パッド16aと第3の検知素子部15cとの間が第1の連結配線層20によって導通されている。電極パッド16aと対角線側に位置している電極パッド16cと第2の検知素子部15bとの間、ならびに電極パッド16cと第4の検知素子部15dとの間も第1の連結配線層20によって連結されている。
【0030】
図1(A)と図3に示すように、第1の連結配線層20は、第2の基板12の表面の下部絶縁層14aと上部絶縁層14bとの間に形成された下部配線層21と、上部絶縁層14bの表面14cに形成された上部配線層22とから構成されている。上部配線層22は電極パッド16aならびに電極パッド16cと一体に形成されている。
【0031】
下部配線層21はアルミニウムによって、下部絶縁層14aの表面に形成されている。下部配線層21の一部は、検知素子部15a,15b,15c,15dのいずれかと導通する導通部21aとなっている。図3に示すように、導通部21aでは、下部絶縁層14aが部分的に除去されて、下部配線層21の一部が検知素子部15a,15b,15c,15dと接触している。上部配線層22の一部は、下部配線層21と導通する導通部22aとなっている。図3に示すように、導通部22aでは、上部絶縁層14bが部分的に除去されて、上部配線層22が下部配線層21と接触している。
【0032】
本明細書での第1の連結配線層20の長さL0は、電極パッド16a,16cと前記導通部21aを除く部分での、下部配線層21と上部配線層22の長さの合計を意味している。また、上部配線層22の長さL1は、電極パッド16a,16cを除き且つ導通部22aを含む長さ寸法を意味している。第1の連結配線層20を構成する下部配線層21と上部配線層22は、MEMSセンサ1の各辺1a,1b,1c,1dと平行で直線的に延びている。
【0033】
図1(A)に示すように、電極パッド16bと第1の検知素子部15aとの間、ならびに電極パッド16bと第4の検知素子部15dとの間は第2の連結配線層25によって導通させられている。電極パッド16bと対角線側に位置している電極パッド16dと第2の検知素子部15bとの間、ならびに電極パッド16dと第3の検知素子部15cとの間は、第2の連結配線層25によって導通させられている。
【0034】
第2の連結配線層25は、下部配線層26と上部配線層27を有している。下部配線層26は第1の連結配線層20の下部配線層21と同様に、下部絶縁層14aの上に形成されて、その一部が検知素子部15a,15b,15c,15dに接触する導通部となっている。上部配線層27は、第1の連結配線層20の上部配線層22と同じであり、上部絶縁層14bの表面14cにおいて電極パッド16b,16dと一体に形成されており、その一部が上部絶縁層14bの部分除去部において下部配線層26に接触する導通部となっている。
【0035】
第2の連結配線層25の長さ寸法Laは、電極パッド16b,16dを除き、且つ下部配線層26のうちの検知素子部15a,15b,15c,15dとの導通部を除く長さ寸法である。上部配線層27の長さ寸法Lbは、電極パッド16b,16dを除き且つ上部配線層27のうちの下部配線層26との導通部を含む長さ寸法である。すなわち長さ寸法LaはL0と同じ基準で設定され、長さ寸法Lbは長さ寸法L1と同じ基準で設定されている。
【0036】
第2の連結配線層25は、MEMS素子1の各辺1a,1b,1c,1dと平行で直線的に形成されている。ただし、第2の連結配線層25の長さ寸法Laは、第1の連結配線層20の長さ寸法L0よりも短い。
【0037】
電極パッド16a,16b,16c,16dのパターンと、第1の連結配線層20ならびに第2の連結配線層25のパターンは、図1(A)に示されるMEMSセンサ1の図心(重心)Oを中心とする180度の回転対称形状である。また、電極パッド16a,16b,16c,16dならびに第1の連結配線層20と第2の連結配線層25は、全て第2の基板12の配線部12bの上に形成されている。
【0038】
図2に示すように、支持基板3は第1の基板11の図示下面側に接合され、空間部11aが支持基板3で下側から塞がれている。
【0039】
図1(B)に示すように、検知素子部15a,15b,15c,15dでは、ピエゾ抵抗層がいわゆるミアンダ形状に形成されており、抵抗体の長手方向が全ての検知素子部で同じ方向に向けられている。したがって、第2の基板12の感知部12aが図2の下方に向けて撓んだときに、検知素子部15a,15bで抵抗が増大し検知素子部15c,15dで抵抗が低下するように、互いに逆極性の抵抗値となる。
【0040】
図1(A)に示すように、4つの電極パッド16a,16b,16c,16dによって、検知素子部15a,15b,15c,15dがブリッジ回路を構成するように接続されている。例えば電極パッド16aに電源電圧が印加され、電極パッド16cが接地される。感知部12aが変形し、検知素子部15a,15b,15c,15dに歪みが与えられると、電極パッド16bと電極パッド16dのそれぞれの中点電位が変化する。電極パッド16bの中点電位と電極パッド16dの中点電位は逆極性で変化するため、2つの中点電位の差動をとることで、感知部12aに作用する気体の圧力に比例した検知出力を得ることができる。
【0041】
図1ないし図3に示す本発明の実施の形態のMEMSセンサ1では、第1の連結配線層20がアルミニウムの下部配線層21と金の上部配線層22とで構成され、第2の連結配線層25もアルミニウムの下部配線層26と金の上部配線層27とで形成されている。
【0042】
図3に示すように、金の上部配線層22,27は上部絶縁層14bの表面14cに形成され、金の層が第2の基板12から離れている。そのため、高温になっても、上部配線層22,27の金が第2の基板12であるシリコン基板に拡散することがなく、電極パッド16a,16b,16c,16dと上部配線層22,27を安定した状態を保つことができる。一方、第2の基板12の表面の下部絶縁層14aの上に形成されている下部配線層21,26はアルミニウムであるが、アルミニウムは、シリコン基板に拡散しにくく安定した状態を維持するため、高温となったときでも下部配線層21,26のパターンは安定した状態を保つことができる。
【0043】
ただし、アルミニウムは熱サイクル内に置かれると応力残留が大きく変動する性質を有しており、この応力が検知素子部15a,15b,15c,15dに直接に作用すると、圧力を検知すべき検知出力に変動が生じる。しかし、図1ないし図3に示す本発明の実施の形態のMEMSセンサ1では、第1の連結配線層20がアルミニウムの下部配線層21と金の上部配線層22とで構成され、第2の連結配線層25がアルミニウムの下部配線層26と金の上部配線層27とで構成されているため、アルミニウムの残留応力に起因する検知素子部15a,15b,15c,15dへの残留歪みの影響を低減できるようになっている。
【0044】
図7は、後に説明する実施例3のMEMSセンサ1を温度サイクル下においたときの検知出力の変化を示している。横軸が環境温度で、縦軸が大気圧下における検知出力の変化を示している。図7では、大気圧の下で環境温度を25℃から80℃まで上昇させ、その後25℃まで戻している。温度を初期の25℃としたときの検知出力と、温度を80℃から25℃に戻したときの検知出力との差が出力変動(Pa:パスカル)である。この出力の変動は、熱ヒステリシスによるMEMSセンサ1内の残留応力の変動が原因と考えられるが、本発明の実施の形態の好ましい例である実施例3では、熱ヒステリシスによる出力変動が20Pa(パスカル)程度のきわめて微細な値となっている。
【0045】
その第1の理由は次のように予測できる。第1の連結配線層20と第2の連結配線層25では、アルミニウムの下部配線層21,26を配線長の一部分にのみ形成し、その他を金の上部配線層22,27で形成している。そのため、アルミニウムの長さを残留応力の影響を及ぼしにくい最適な長さに設定することが可能である。すなわち、図1に示す上部配線層22,27の長さ寸法L1,Lbを選択することで、アルミニウムの下部配線層21,26を残留応力の影響を及ぼしにくい寸法に設定しやすくなる。
【0046】
第2の理由は次のように予測できる。図1(A)に示す電極パッド16aに着目すると、1つの電極パッド16aから互い直交して延びる2つの配線層が、同じ長さの第1の連結配線層20となっている。これにより、電極パッド16aを起点として、その両側に2つのアルミニウムの下部配線層22が同じ長さで同じ距離を空けて均等に配置される。そのため、アルミニウムに内部応力が残留したとしても、その応力が電極パッド16aの両側で均等に作用するようになる。しかも、電極パッド16aの両側に互いに逆極性の抵抗変化となる第1の検知素子部15aと第3の検知素子部15cが配置されているため、下部配線層22に応力が残留しても、2つの検知素子部15aと15cに、抵抗変化を打ち消すように均等な応力が与えられる。しかも、上部配線層22の長さ寸法L1を適正に選択することで、検知素子部15a,15cに作用する応力をバランスのよい値に設定できるようになる。
【0047】
上記理由は、電極パッド16cとその両側の第1の連結配線層20,20との関係において同じである。さらに電極パッド16b,16dはその両側に同じ長さの第2の連結配線層25が配置されている。よってこの構造もバランスの良いものであり、下部配線層26に応力が残留したとしても検知素子部に対してバランスよく作用するものとなる。
【実施例】
【0048】
実施例1ないし4として、図1ないし3の示す構造のMEMSセンサ1についてシミュレーションを行った。図1に示す正方形の1辺の寸法は500μm、第2の基板12の厚みを5μmとした。上部配線層22,27の幅寸法をそれぞれ18μmとし、下部配線層21,26の幅寸法をそれぞれ10μmとした。
【0049】
第2の連結配線層25の長さ寸法は、Laを60μm、Lbを52μmに固定した。第1の連結配線層20のL0を112μmに固定し、上部配線層22の長さ寸法L1を実施例ごとに変化させた。
(実施例1):L1=52μm、
(実施例2):L1=60μm、
(実施例3):L1=85μm、
(実施例4):L1=98μm、
【0050】
図4は、(比較例1)のMEMSセンサ101の平面図である。このMEMSセンサ101は、第2の基板12の表面に上部絶縁層14bが形成されておらず、下部絶縁層14aの表面に、電極パッド116a,116b,116c,116dならびに第1の連結配線層120と第2の連結配線層125が、全てアルミニウムで形成されている。そして、アルミニウムの第1の連結配線層120と第2の連結配線層125が、検知素子部15a,15b,15c,15dに導通している。それ以外の構造は前記実施例と同じである。
【0051】
図5図6は、(比較例2)のMEMSセンサ201を示している。このMEMSセンサ201は、電極パッド16a,16b,16c,16dが、上部絶縁層14bの表面14cにおいて金で形成されている。電極パッド16a,16cの両側に延びる第1の連結配線層は、金の上部配線層22のみで形成され、電極パッド16b,16dの両側に延びる第2の連結配線層は、金の上部配線層27のみで形成されている。
【0052】
そして、図6に示すように、上部配線層22の先部の導通部22aと検知素子部15aとの間に、アルミニウムの接続層121が形成されている。これは、上部配線層27と検知素子層との導通部27aにおいても同じである。比較例2は、第1の連結配線層と第2の連結配線層が金のみで形成され、金と検知素子との接続部にのみアルミニウムが形成されたものである。
【0053】
実施例1ないし4と比較例1ならびに比較例2に関して、図7に示すように、大気圧下で初期検知出力を得る。その後温度を25℃から80℃まで上昇させ、25℃まで低下させたときの検知出力と、前記初期検知出力との差を算出して出力変動とした。
【0054】
結果は図8に示す通りであり、実施例1の熱ヒステリシスによる出力変動は−34.16Pa,実施例2の出力変動は−27.98Pa,実施例3の出力変動は−19.02、実施例4の出力変動は+15.66であった。比較例2の出力変動は−111.11、比較例2の出力変動は+52.66であった。
【0055】
比較例1は、電極パッドと検知素子部とを導通させる連結配配線層が全長に渡ってアルミニウムで形成されているため、熱ヒステリシスによりアルミニウムに残留する応力の範囲が広くなり、検知素子部15a,15b,15c,15cに大きな歪みを与える結果になり、熱ヒステリシスによる出力変動が大きくなっている。
【0056】
実施例1,2,3,4のMEMSセンサ1は、電極パッド16a,16cの両側に第1の連結配線層20が均一に配置され、電極パッド16b,16dの両側に第2の連結配線層25が均一に配置されている。これより、検知素子部15a,15bとこれとは抵抗値の変化が逆となる検知素子部15c,15dに対し、アルミニウムの残留応力に起因するバランスのよい適度な力が作用し、これによって出力変動が相殺されて抑制されている。
【0057】
これに対し、比較例2は、応力のバランスを与えるアルミニウム層がほとんどなくなるため、本来は、アルミニウムの応力によって相殺すべき潜在的な応力がMEMSセンサ全体に作用し、その結果、比較例1とは逆位相の出力変動が生じているものと予測される。
【0058】
このように、実施例1,2,3,4は、アルミニウムによる下部配線層の配置と長さのバランスがよいため、熱ヒステリシスによる出力変動を抑制できるようになる。実施例1,2,3,4から、第1の連結配線層20の長さL0に対する上部配線層22の長さL1の比の好ましい範囲L1/L0は、0.46〜0.88である。
【0059】
図8から実施例3から実施例4の範囲で出力変動がきわめて小さくなる。したがって、L1/L0が、0.76〜0.88であることがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0060】
1 MEMSセンサ
2 SOI基板
11 第1の基板
11a 空間部
11b 枠体部
12 第2の基板
12a 感知部
12b 配線部
14 絶縁層
15a,15b,15c,15c 検知素子部
16a,16b,16c,16d 電極パッド
20 第1の連結配線層
21 下部配線層
22 上部配線層
25 第2の連結配線層
26下部配線層
27 上部配線層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8