特許第6166204号(P6166204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166204
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/14 20060101AFI20170710BHJP
   H04B 1/713 20110101ALI20170710BHJP
   G01S 3/38 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   H04L27/14 A
   H04B1/713
   G01S3/38
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-63710(P2014-63710)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-186212(P2015-186212A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 正義
(72)【発明者】
【氏名】前田 登
(72)【発明者】
【氏名】三治 健一郎
【審査官】 北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−258637(JP,A)
【文献】 特開2002−218571(JP,A)
【文献】 特開平09−130300(JP,A)
【文献】 特開2008−045953(JP,A)
【文献】 特開2003−215227(JP,A)
【文献】 特開平05−282565(JP,A)
【文献】 米国特許第07203246(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/14
G01S 3/38
H04B 1/713
IEEE Xplore
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置から送信される被変調信号であって、送信元の前記送信装置ごとに異なる識別信号を含むデジタル信号が所定の中心周波数を基準とする周波数の変化として表され、前記中心周波数が複数のホッピング周波数のうちのいずれかに順次変化する前記被変調信号、を受信する複数のアンテナ素子を備える少なくとも1つのアレイアンテナ(11)と、
前記アレイアンテナで受信された前記被変調信号の周波数スペクトルを離散フーリエ変換によって求め、前記周波数スペクトルの経時的変化に基づいて前記ホッピング周波数を基準とする周波数の変化を検出し、当該周波数の変化が特定の前記識別信号を表す前記被変調信号を、対象受信信号として検出する対象信号検出手段(16、18)と、
前記アレイアンテナの指向性の向きを順次変化させ、前記対象受信信号の振幅が最大となる前記アレイアンテナの指向性の向きを特定する方位特定手段(18)と、
を備え
前記方位特定手段は、前記周波数スペクトルの振幅が所定の閾値以上となった時点に基づいて、前記被変調信号が受信されている期間のうちの一部である第2の期間を特定し、該第2の期間において前記アレイアンテナの指向性の向きを順次変化させ、前記周波数スペクトルの経時的な変化に基づいて前記対象受信信号の電力が最大となる時点での前記アレイアンテナの指向性の向きを特定する
ことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置であって、
前記対象信号検出手段は、前記周波数スペクトルの電力が所定の閾値以上となった時点に基づいて、前記被変調信号が受信されている期間のうちの一部である第1の期間を特定し、該第1の期間における前記周波数スペクトルの経時的変化に基づいて前記ホッピング周波数を基準とする周波数の変化を検出し、当該周波数の変化を前記識別信号として検出する
ことを特徴とする通信装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の通信装置であって、
前記アンテナ素子のそれぞれに接続され、前記アンテナ素子で受信された前記被変調信号の位相を変化させる移相器(13)を備え、
前記方位特定手段は、前記移相器の位相を変化させることによって、前記アレイアンテナの指向性の向きを変化させる
ことを特徴とする通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信用の通信信号(電波)を受信した通信装置において、該通信信号の到来方位(送信元の送信装置が存在する方位)を推定する種々の技術が知られている。特許文献1には、アレイアンテナによって受信された、周波数が既知である通信信号の位相を変化させて、該通信信号の到来方位を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7203246号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、無線通信用の通信信号の周波数を頻繁に変更する周波数ホッピングの技術が利用されている。例えば、Bluetooth(登録商標)やBluetooth Low Energy(BLE)では、2.4GHz帯の周波数を複数のチャンネルに分けて、チャンネルをランダムに変えて通信を行う。このような周波数ホッピングの技術を利用して通信信号を送信する送信装置が複数存在する状況においては、ある通信信号がどの送信装置から送信されたものであるかを、その通信信号の周波数からは判定することができない。したがって、前述した通信装置では、このような状況において特定の送信装置が存在する方位を推定することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、周波数ホッピングの技術を利用して通信信号を送信する送信装置が複数存在する状況において、特定の送信装置が存在する方位を推定するための技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、通信装置であって、1つのアレイアンテナと、対象信号検出手段と、方位特定手段とを備える。
アレイアンテナは、送信装置から送信される被変調信号を受信する複数のアンテナ素子を備える。この被変調信号は、送信元の送信装置ごとに異なる識別信号を含むデジタル信号が所定の中心周波数を基準とする周波数の変化として表された信号である。また、この被変調信号は、中心周波数が複数のホッピング周波数のうちのいずれかに順次変化する。
【0007】
対象信号検出手段は、アレイアンテナで受信された被変調信号の周波数スペクトルを離散フーリエ変換によって求め、周波数スペクトルの経時的変化に基づいてホッピング周波数を基準とする周波数の変化を検出し、当該周波数の変化が特定の識別信号を表す被変調信号を、対象受信信号として検出する。
【0008】
方位特定手段は、アレイアンテナの指向性の向きを順次変化させ、対象受信信号の振幅が最大となるアレイアンテナの指向性の向きを特定する。
このような構成によれば、受信した被変調信号(FSK変調方式による変調信号)を周波数スペクトルの経時的変化に基づいて復調することができるため、特定の識別信号を表す被変調信号を対象受信信号として検出することができる。
【0009】
したがって、周波数ホッピングの技術を利用して(中心周波数を順次変化させて)通信信号(被変調信号)を送信する送信装置が複数存在する状況において、特定の送信装置が存在する方位を推定することができる。
【0010】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】測定装置及び被測定装置の構成を示すブロック図。
図2】測定用通信信号の構成を示す図。
図3】FSK変調方式を説明するための図。
図4】方位推定処理のシーケンス図。
図5】加算器からの出力の一例を示す図。
図6】FSK変調方式で変調された被変調信号のスペクトルの一例を示す図。
図7】特定装置検出処理のシーケンス図。
図8】スペクトログラムの一例を示す図。
図9】中心周波数の変化(周波数ホッピング)の一例を示す図。
図10】複数の被測定装置が存在する状況におけるスペクトログラムの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.構成]
図1に示す測定装置10は、BLE規格に従った通信方式で通信を行う被測定装置20の方位を推定する装置である。
【0013】
被測定装置20は、制御部21と、通信部22と、アンテナ23とを備える。制御部21は、図示しないCPU、ROM、RAM等を中心に構成された周知のマイクロプロセッサを備え、2値信号(「0」又は「1」)で表された、BLE規格に従った通信信号(パケット)を生成する。通信信号は1Mbpsの信号である。
【0014】
制御部21は、通信信号の1つとして、図2に示すように、所定の識別信号と所定の測定信号からなる測定用通信信号を生成する。
ここで、識別信号は、所定のID信号と測位命令信号とを備える。ID信号は、被測定装置20ごとに異なる信号であり、測位命令信号は方位を測定する命令を表す信号である。すなわち、識別信号は、被測定装置20が複数存在する場合に個々の被測定装置20を識別するための、被測定装置20ごとに異なる信号である。
【0015】
識別信号は、測定用通信信号(パケット、すなわち所定の期間Tp(所定のビット数)の信号)において占める領域が予め定められている。本実施形態では、識別信号が占める領域は、図2に示すように、測定用通信信号の先頭から所定の期間Ts(所定のビット数)までというように定められている。
【0016】
一方、測定信号は、測定用通信信号から識別信号を除いた残りの期間Tm(残りのビット数)における信号である。測定信号は、一例として、「0」と「1」とが交互に連続する信号に定められている。また、測定信号の期間Tmは、識別信号よりも長く定められている。
【0017】
図1に戻り説明を続ける。通信部22は、制御部21で生成された測定用通信信号を入力し、測定用通信信号の論理に従って周波数を変化させた信号(FSK変調方式により変調された被変調信号)を生成する。アンテナ23は該被変調信号を電波として送信する。
【0018】
具体的には、FSK変調方式では、図3に示すように、中心周波数fcを基準とし、中心周波数fcからの偏移の最大値を最大周波数偏移fmとして、測定用通信信号の論理「0」に対応する被変調信号の周波数がfc−fmで表され、測定用通信信号の論理「1」に対応する被変調信号の周波数がfc+fmで表される。なお、本実施形態では、最大周波数偏移fmは1MHzに設定されている。
【0019】
ここで、BLE通信においては周波数ホッピング方式が採用されているため、通信部22は、被変調信号の中心周波数fcを、BLEで用いられる2.4GHz帯の複数のチャンネルのうちいずれかのチャンネルの中心周波数(以下では、ホッピング周波数という)に、ランダムに変化させる。なお、通信部22は、FSK変調方式であって、BLEで用いられるGFSK(Gaussian Frequency Shift Keying)と呼ばれる連続位相周波数偏移変調方式によって被変調信号を生成する。
【0020】
図1に戻り説明を続ける。
測定装置10は、アレイアンテナ11と、複数の受信部12a、12b、…と、複数の移相器13a、13b、…と、加算器14と、A/D変換器15と、FFT処理部16と、時系列記憶部17と、方位推定部18とを備える。
【0021】
アレイアンテナ11は、複数(n個(nは2以上の整数))のアンテナ素子110a、110b、…を備え、アンテナ素子110a、110b、…ごとに、受信した被変調信号を出力する。
【0022】
アンテナ素子110a、110b、…のそれぞれには、受信部12a、12b、…が接続され、受信部12a、12b、…のそれぞれには、移相器13a、13b、…が接続されている。移相器13a、13b…のそれぞれは、加算器14に接続されている。なお以下では、アンテナ素子110a、110b、…、受信部12a、12b、…、移相器13a、13b、…のように複数備えられた同一の構成については、個々について説明する場合を除き、アンテナ素子110、受信部12、移相器13といったように符号のアルファベットを省略して記載する。
【0023】
受信部12は、図示していないが、一例としてローノイズアンプ(LNA)を備え、アンテナ素子110から入力された被変調信号を増幅して移相器13へ出力する。
移相器13は、受信部12から入力された被変調信号の位相を、方位推定部18から出力される制御信号に従って変化させる。移相器13は、制御信号に従って位相を変化させた被変調信号を加算器14へ出力する。なお、移相器13は、制御信号に従って初期状態に設定されているときは、入力された被変調信号の位相を変化させずそのまま加算器14へ出力する。
【0024】
加算器14は、複数の移相器13a、13b、…のそれぞれから入力された被変調信号を合成した合成信号を生成する。
つまり、移相器13による位相の制御によってアレイアンテナ11の指向性の向きを変化させて、変化させた指向性の向きが被変調信号の送信元の方位に一致すると、加算器14から振幅の大きな合成信号が出力される。
【0025】
A/D変換器15は、加算器14から出力された合成信号(被変調信号)をデジタルデータに変換する。
FFT処理部16は、CPU、ROM、RAM等を中心に構成され、更に、周波数解析(離散フーリエ変換、ここでは高速フーリエ変換(FFT))等の信号処理を実行する演算処理装置(例えば、DSP)を備える。FFT処理部16は、A/D変換器15からデジタルデータを取り込み、そのデジタルデータに基づくFFTを所定の周期で実行する。一例として、FFT処理部16は、測定用通信信号の周期の倍の周期(本実施形態では2MHz周期)で、繰り返しFFTを実行する。FFTでの解析結果は、時系列記憶部17へ出力される。
【0026】
時系列記憶部17は、フラッシュROM等の書き換え可能な記憶装置であり、FFT処理部16から出力されたFFTでの解析結果を時系列に記憶する。
方位推定部18は、CPU、ROM、RAM等を中心に構成され、時系列記憶部17に時系列に記憶されたFFTでの解析結果に基づいて、被測定装置20の方位を推定する。
【0027】
[2.処理]
測定装置10において実行される方位推定処理の手順について、図4のシーケンス図を参照しながら説明する。
【0028】
はじめに、方位推定部18は、制御信号によって、移相器13を初期状態に設定する(S100)。ここで、アレイアンテナ11(各アンテナ素子110)で受信された被変調信号は、移相器13によって位相を変化させられること無く、そのまま加算器14へ入力され、加算器14からは合成信号が出力される。一例として図5に示すように、被変調信号を受信している期間Tpの加算器14からの出力(合成信号)は、被変調信号を受信していない期間の出力(ノイズレベル)と比べて、明らかに大きい。
【0029】
図4に戻り説明を続ける。FFT処理部16は、加算器14から出力された合成信号がA/D変換器15でA/D変換されたデジタルデータを取り込み、そのデジタルデータに基づくFFTを実行する(S110)。
【0030】
被変調信号についてのFFTでの解析結果(周波数スペクトル)について図6を用いて説明する。前述のように、被変調信号は、中心周波数fcを基準とし、最大周波数偏移をfmとして、測定用通信信号の論理「0」に対応する被変調信号の周波数がfc−fmで表され、測定用通信信号の論理「1」に対応する被変調信号の周波数がfc+fmで表される。すなわち、中心周波数fcを中心として最大周波数偏移fm分上下した周波数に測定用通信信号の論理が対応している。
【0031】
ここで、図6における(a)に示すように、論理「0」に対応する被変調信号についてのFFTでの解析結果では、信号強度(電力)がピーク(最大)となる周波数成分(ピーク周波数成分)として、周波数fc−fmが検出される。一方、図6における(b)に示すように、論理「1」に対応する被変調信号についてのFFTでの解析結果では、信号強度がピークとなる周波数成分(ピーク周波数成分)として、周波数fc+fmが検出される。
【0032】
図4に戻り説明を続ける。FFT処理部16は、図6に一例として示したような被変調信号についてのFFTでの解析結果に基づいて、BLEで用いられる2.4GHz帯における周波数スペクトルの信号強度(電力)が所定の閾値以上となったか否かを判断する。具体的には、ピーク周波数成分の信号強度(電力)が所定の閾値以上となったか否かを判断する(S120)。ここで、閾値未満と判断された場合、S110へ移行し、ピーク周波数成分の信号強度が閾値以上となるまで、被変調信号についてのFFTでの解析を継続して実行する。一方、ピーク周波数成分の信号強度が閾値以上と判断された場合、FFT処理部16は、トリガ信号を方位推定部18へ出力する(S130)。閾値は、ノイズレベルよりも大きく、ピーク周波数成分の信号強度よりも小さい値に設定される。つまり、2.4GHz帯におけるピーク周波数成分の信号強度が閾値以上となったということは、被変調信号を受信したことを意味する。なお以下では、2.4GHz帯における周波数スペクトルの信号強度(電力)が所定の閾値以上となった時点を、信号受信時点というものとする。
【0033】
FFT処理部16は、トリガ信号を出力した以降は、すなわち信号受信時点以降は、被変調信号についてFFTでの解析を継続して実行し(S140)、このFFTでの解析結果を時系列記憶部17に転送(保存)する(S150)。時系列記憶部17は、FFTでの解析結果として(ピーク周波数成分が複数存在する場合はピーク周波数成分ごとに)、ピーク周波数成分の周波数と信号強度とを、時系列に保存(記憶)する。
【0034】
FFT処理部16は、方位推定部18から測位終了フラグを受信すると(S160;YES)、FFTでの解析結果を時系列記憶部17へ転送(保存)することを中止する。そして、FFT処理部16は、再び方位推定部18によって移相器13が初期化(S100)された後に、S110〜S170の処理を繰り返す。
【0035】
つまり、S110〜S170では、FFT処理部は、変調信号についてFFTでの解析を所定の周期で繰り返し実行し、信号受信時点以降は、FFTでの解析結果を時系列記憶部17へ転送(保存)するという処理を、繰り返し実行する。
【0036】
方位推定部18は、FFT処理部16が出力したトリガ信号を受信(S210)した以降は、すなわち信号受信時点以降は、まず、信号受信時点から所定のID期間が経過したか否かを判断する(S220)。この所定のID期間は、測定用通信信号における識別信号の期間Ts(図2参照)に相当する。ここで、ID期間が経過していない場合(S220;NO)、ID期間が経過するまで待機する。なお待機している間、前述したように、FFT処理部16は被変調信号についてFFTでの解析を実行し、解析結果を時系列記憶部17に転送(保存)している。すなわち、待機している間、指向性を初期状態に設定されたアレイアンテナ11で受信された被変調信号について、FFTでの解析結果が時系列に時系列記憶部17に保存(記憶)されている。
【0037】
一方、ID期間が経過した場合(S220;YES)、方位推定部18は、アレイアンテナ11としての指向性の向きが所定の角度変化するように、複数の移相器13a、13b、…のそれぞれに、位相を変化させる制御信号を出力する(S230)。
【0038】
アレイアンテナ11の指向性の向きが所定の角度変化する(S240)と、方位推定部18は、所定の測位期間Thが経過したか否かを判断する(S250)。ここで、測位期間が経過していない場合(S250;NO)、測位期間が経過するまで待機する。なお待機している間、前述したように、FFT処理部16は被変調信号についてFFTでの解析を実行し、解析結果を時系列記憶部17に転送(保存)している。すなわち、待機している間、S230において設定された指向性のアレイアンテナ11で受信された被変調信号について、FFTでの解析結果が時系列に時系列記憶部17に保存(記憶)されている。
【0039】
一方、測位期間Thが経過した場合(S250;YES)、方位推定部18は、予め定めた所定の回数であるM(Mは正の整数)回、アレイアンテナ11の指向性の向きを変化させたか否かを判断する(S260)。ここで、指向性の向きをM回変化させていない場合(S260;NO)、S230へ移行し、S230〜S260の処理を繰り返す。一方、指向性の向きをM回変化させた場合(S260;YES)、方位推定部18は、FFT処理部16へ、測位終了フラグを送信する(S270)。測位終了フラグの送信後、方位推定部18は、特定装置検出処理を実行して特定の被測定装置20の方位を推定し(S280)、その後、S100へ移行する。そして、再び、S100以降の処理を実行する。
【0040】
つまり、S210〜S270では、測定装置10は、被測定装置20の方位を推定するために、アレイアンテナ11の指向性の向きを変化させる。アレイアンテナ11の指向性の向きを変化させたい範囲(探索範囲)は予め定められている。アレイアンテナ11の指向性の向きを変化させる期間は、測定用通信信号における測定信号の期間Tm(図2参照)に相当し、期間Tmを測位期間Thで除算した回数(Tm/Th回)が、所定の回数Mに相当する。なお、探索範囲を所定の回数Mで除算した範囲が、被測定装置20の方位を探索(推定)する際の分解能となる。
【0041】
次に、方位推定処理(図4)のS280で方位推定部18により実行される特定装置検出処理の手順について、図7のシーケンス図を参照しながら説明する。
方位推定部18は、時系列記憶部17に保存(記憶)されている、FFTでの解析結果の時系列データを取得する(S300)。
【0042】
ここで、FFTでの解析結果の時系列データについて説明する。前述のように、論理「0」に対応する被変調信号についてのFFTでの解析結果では、ピーク周波数成分として、周波数fc−fmが検出され、論理「1」に対応する被変調信号についてのFFTでの解析結果では、ピーク周波数成分として、周波数fc+fmが検出される(図6参照)。そこで、FSK変調された被変調信号についてのFFTでの解析結果(ピーク周波数成分の周波数、及び信号強度(電力))を時系列に取得し、ピーク周波数成分(周波数fc−fm、または、周波数fc+fm)に対応する論理(「0」又は「1」)を時系列に並べたデータを生成すれば、このデータが測定用通信信号のデータに一致することになる。
【0043】
つまり、周波数スペクトルの経時的変化に基づいて、被変調信号の中心周波数fcを基準とする周波数の変化(中心周波数fc±fm)を検出し、測定用通信信号のデータを復調することができる。
【0044】
ここで、周波数スペクトルの時系列データ(スペクトログラム)の一例を、図8に示す。図8において、(b)は、(a)の一部を拡大した図である。スペクトログラムでは、横軸が時間(msec)を示し、縦軸が周波数(MHz)を示し、ピーク周波数成分ごとに、そのピーク周波数成分の周波数のある時間における信号強度(電力)が表されている。
【0045】
周波数スペクトルの経時的変化に基づく測定用通信信号のデータの復調は、具体的には次のように行われる。すなわち、本実施形態では測定用通信信号のデータレートが1Mbpsであることから、1μsecごとに、ピーク周波数成分(周波数fc−fm、及び、周波数fc+fm)の信号強度(電力)を比較する。周波数fc−fmの信号強度(電力)が周波数fc+fmの信号強度(電力)よりも大きい場合、論理「0」に対応すると判断し、周波数fc+fmの信号強度(電力)が周波数fc−fmの信号強度(電力)よりも大きい場合、論理「1」に対応すると判断する。このようにして得られた論理(「0」または「1」)を時系列に並べたデータ(以下では、信号強度比較データという)を生成することで、測定用通信信号のデータが復調される。
【0046】
なお、被変調信号の中心周波数fcは、図9に示すように、複数のホッピング周波数のうちいずれかにランダムに順次変化している。このため、図8(a)において、被変調信号の中心周波数fcが、時間方向において変化している。
【0047】
図7に戻り説明を続ける。方位推定部18は、取得した時系列データに基づいて、ホッピング周波数ごとに、信号強度比較データにおけるID期間のデータを検出する(S310)。ID期間は、前述のように信号受信時点から所定の期間Tsであり、測定用通信信号において識別信号が含まれている、先頭から所定の期間Tsに相当する(図2参照)。
【0048】
方位推定部18は、信号強度比較データにおいてID期間に特定の識別信号を含んだ、ホッピング周波数を特定する(S320)。前述のように、識別信号は、被測定装置20に固有のID信号と、測位命令信号とを含む信号である。つまり、複数の被測定装置20から送信された被変調信号の中から、特定の被測定装置20により送信された被変調信号が特定される。特定の被測定装置20とは、方位推定の対象とする被測定装置20である。これにより、周波数の変化が特定の識別信号を表す被変調信号、換言すれば、特定の被測定装置20により送信された被変調信号(対象受信信号という)の、その時点での中心周波数fcが特定される。
【0049】
すなわち、周波数ホッピングの技術を利用して被変調信号を送信する被測定装置20が複数存在する状況においては、同じ時間帯に、異なるホッピング周波数を基準(中心周波数fc)とする被変調信号、換言すれば周波数の変化(ピーク周波数成分)が出現する(図10に、特定の被測定装置20及び他の被測定装置20の2つが存在する状況におけるスペクトログラムの一例を示す)。S310〜S320では、異なるホッピング周波数のそれぞれについて、信号強度比較データにおいてID期間のデータを抽出し、抽出したデータの中から特定の被測定装置20についての識別信号と一致するデータを検出し、対象受信信号の中心周波数fc(ホッピング周波数)を特定している。
【0050】
次に、方位推定部18は、特定したホッピング周波数について、被変調信号の周波数スペクトルの時系列データを参照し、ID期間後から被変調信号の受信の終了迄において、すなわち所定の期間Tm(図2参照)に相当する期間において、信号強度の最も強い時間帯を検出する(S330)。そして、方位推定部18は、信号強度の最も強い時間帯でのアレイアンテナ11の指向性の向きを算出する(S340)。
【0051】
最後に、方位推定部18は、算出されたアレイアンテナ11の指向性の向きを、対象受信信号を送信した、特定の被測定装置20が存在する方位として推定し、本特定装置検出処理を終了する。
【0052】
つまり、S330〜340では、前述したように順次変化するアレイアンテナ11の指向性の向きの中から(S210〜S270)、対象受信信号の信号強度が最大となる向きを特定することによって、特定の被測定装置20が存在する方位を推定している。
【0053】
[3.効果]
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
[3A]受信した被変調信号を周波数スペクトルの経時的変化に基づいて復調することができ、特定の識別信号を表す被変調信号を対象受信信号として検出することができる。したがって、周波数ホッピングの技術を利用して(中心周波数を順次変化させて)被変調信号を送信する被測定装置20が複数存在する状況において、特定の被測定装置20が存在する方位を推定することができる。
【0054】
[3B]受信した被変調信号(FSK変調方式による変調信号)を周波数スペクトルの経時的変化に基づいて復調するため、対象受信信号を簡易な構成で検出することができる。
【0055】
[3C]周波数スペクトルの信号強度(電力)が所定の閾値以上となった信号受信時点(S120〜S130)に基づいて、被変調信号が受信されている期間Tpのうちの一部であるID期間(所定の期間Ts)を特定している。これによれば、受信した被変調信号において、識別信号を表す部分を特定することができる。したがって、被変調信号からの識別信号の検出を容易に行うことができる。
【0056】
[3D]周波数スペクトルの信号強度(電力)が所定の閾値以上となった信号受信時点(S120、S130)に基づいて、被変調信号が受信されている期間Tpのうちの一部である、ID期間後から被変調信号の受信の終了迄(所定の期間Tm)を特定している。これによれば、受信した被変調信号において、識別信号以外を表す部分を特定することができる。したがって、アレイアンテナ11の指向性の向きを、期間Tmにおいて適切に変化させることができる。
【0057】
なお、第1実施形態では、測定装置10が通信装置の一例に相当し、FFT処理部16及び方位推定部18が対象信号検出手段の一例に相当し、方位推定部18が方位特定手段の一例に相当する。また、識別信号を含むデジタル信号が測定用通信信号の一例に相当し、ID期間(所定の期間Ts)が第1の期間の一例に相当し、ID期間後から被変調信号の受信の終了迄が第2の期間の一例に相当する。
【0058】
[4.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0059】
[4A]上記実施形態では、アレイアンテナ11のアンテナ素子110ごとに備えた移相器13を用いることによって、アレイアンテナ11の指向性の向きを変化させていた。これに対し、アンテナ素子110ごとに受信した被変調信号について信号処理を行うことによって、アレイアンテナ11の指向性の方向を変化させた場合と同様の受信信号を得るよう、測定装置10を構成してもよい。
【0060】
[4B]上記実施形態では、測定装置10は、1つのアレイアンテナ11を備えていたが、これに限らず、複数のアレイアンテナ11を備えていてもよい。このような構成によれば、複数のアレイアンテナ11を異なる位置(互いに離れた位置)に設置し、複数のアレイアンテナ11を用いて特定の被測定装置20の方位をそれぞれ推定することで、この被測定装置20の位置を推定することができる。
【0061】
[4C]上記実施形態では、被変調信号を直接A/D変換しFFT処理部16へ入力していたが、被変調信号をIF周波数に変換したIF信号をA/D変換しFFT処理部16へ入力するように、測定装置10を構成してもよい。
【0062】
[4D]上記実施形態では、測定用通信信号において、先頭から所定の期間Tsに識別信号が含まれていたが、これに限らず、先頭を基準として予め定められた他の期間に含まれていてもよい。また、上記実施形態では、アレイアンテナ11の指向性の向きを変化させる期間が、受信した被変調信号においてID期間後から被変調信号の受信の終了迄に定められていたが、これに限らず、被変調信号を受信してから受信を終了するまでの他の期間に定められてもよい。
【0063】
[4E]上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0064】
[4F]本発明は、前述した測定装置10の他、当該測定装置10を構成要素とするシステム、当該測定装置10の一部としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した媒体、方位の推定方法など、種々の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0065】
10…測定装置 11…アレイアンテナ 110…アンテナ素子 13…移相器 16…FFT処理部 18…方位推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10