(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フランジを連結するために締め付けられる複数のボルトに対し、個別に対応して設けられた各締付力検出器から、被験者の前記複数のボルトの締付作業に伴って出力される出力信号を受信する受信部と、
前記受信部が受信した、前記複数のボルト各々の締付作業開始時から締付作業完了時までの各々の前記出力信号の変化の推移を示す複数の計測結果を得る計測部と、
複数の前記計測結果を演算して、前記複数のボルトの締付作業中における各々の前記締付力検出器の出力信号値のばらつきを示す第一演算結果と、前記複数のボルトの締付作業完了時における各々の前記締付力検出器の出力信号値のばらつきを示す第二演算結果と、前記複数のボルトの前記締付作業完了時における各締付力の程度を示す第三演算結果と、をそれぞれ技能判定項目として得る演算部と、
各々の前記技能判定項目を判定基準と照合した結果に基づき、前記各ボルトの締付作業に係る被験者の技能を3つ以上の技能レベルのいずれであるかを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果を出力する出力部とを備える、フランジ締結スキル判定装置。
前記演算部は、前記複数のボルトの前記締付作業中の全ての前記単位締付動作の完了時の前記出力信号値における最大値と最小値との最大差のものを前記第一演算結果として得る、請求項2に記載のフランジ締結スキル判定装置。
前記演算部は、前記複数のボルトの締付作業完了時における各々の前記出力信号値のうちの最大値と最小値との差を前記第二演算結果として得る、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフランジ締結スキル判定装置。
前記計測結果及び前記第一、第二、第三演算結果、並びに前記判定結果を記憶するための記憶部をさらに備える、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフランジ締結スキル判定装置。
前記記憶部は、さらに被験者のID情報を、前記計測結果及び前記第一、第二、第三演算結果、並びに前記判定結果と関連付けて記憶する、請求項7に記載のフランジ締結スキル判定装置。
フランジを連結するために締め付けられる複数のボルトに対し、個別に対応して設けられた各締付力検出器から、被験者の前記複数のボルトの締付作業に伴って出力される出力信号を受信し、前記受信した前記複数のボルト各々の締付作業開始時から締付作業完了時までの各々の前記出力信号の変化の推移を示す複数の計測結果を得るとともに、複数の前記計測結果を演算して、前記複数のボルトの締付作業中における各々の前記締付力検出器の出力信号値のばらつきを示す第一演算結果と、前記複数のボルトの締付作業完了時における各々の前記締付力検出器の出力信号値のばらつきを示す第二演算結果と、前記複数のボルトの前記締付作業完了時における各締付力の程度を示す第三演算結果と、をそれぞれ技能判定項目として得る演算ステップと、
各々の前記技能判定項目を判定基準と照合した結果に基づき、前記各ボルトの締付作業に係る被験者の技能を3つ以上の技能レベルのいずれであるかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで得られた前記判定結果を出力する出力ステップと、をコンピュータに実行させる、フランジ締結スキル判定プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を各図を参照して説明する。
【0018】
<実施形態1>
[フランジ締結スキル判定装置1の構成]
図1及び
図2に、実施形態1に係るフランジ締結スキル判定装置1(以下、「判定装置1」と称する。)を示す。判定装置1は、ダミーフランジ2と、ダミーフランジ2に取り付けられた複数の締付力検出器付ボルト3(以下、「ボルト3」と称する。)と、ボルト3から延びる配線が接続された受信部4と、受信部4に接続されたパーソナルコンピュータ5(以下、「PC5」と称する。)と、PC5に接続された表示部6及び入力手段7とを備える。
【0019】
ダミーフランジ2は、実際の配管の端部を模した形状及び構造を有する。ここでは一例として、ダミーフランジ2は、一対の環状のフランジを有する。各フランジは、一定の面幅を有し、周方向に等間隔に複数(一例として8カ所)の挿通孔が形成されている。各フランジは、不図示のガスケットを挟んで対向配置される。
【0020】
ボルト3は、軸部に不図示の締付力検出器が埋設されている。この締付力検出器は、一例として、公知の温度補正3線式の歪ゲージを用いて構成されている。通電状態にある歪ゲージからは、その電気抵抗値が出力信号として出力される。ボルト3の締め付けに伴って歪ゲージが歪むと、歪ゲージの電気抵抗が変化し、歪ゲージの出力信号が変化する。判定装置1では、複数のボルト3(一例として8本のボルト3a〜3h)を用いている。各ボルト3は、ダミーフランジ2における各フランジの各挿通孔に挿通される。被験者は、判定試験のフランジ締結作業として、各ボルト3にナットを螺合し、スパナSで各組のボルト3及びナットを締め付ける。これにより、ダミーフランジ2の一対の環状のフランジが、ガスケットを挟んで締結される。以下では、一組のボルト3及びナットを締め付けることを、単に「ボルト3を締め付ける」と称する。
【0021】
判定装置1において、ボルト3に埋設された歪ゲージは、ボルト3の軸方向の歪を検出する。フランジの締結作業においては、ダミーフランジ2における一対の環状のフランジに挟まれたガスケットの反発力等により、ボルト3が軸方向に歪む。すなわち、歪ゲージの出力信号(歪ゲージで検出される歪)は、ボルト3及びナットの締付力(フランジ締結面の面圧)に対応する。
【0022】
受信部4は、各ボルト3の歪ゲージから延びる配線が接続されており、各ボルト3の締付作業に伴って各歪ゲージから出力される出力信号を受信する。受信部4は、一例として公知のデータ収集インターフェース(DAQ)で構成され、受信した各ボルト3の歪ゲージからの出力信号をAD変換してPC5側に送信する。
【0023】
PC5は、受信部4に接続され、AD変換後の各ボルト3の歪ゲージからの受信信号を受信部4より取得する。PC5は、汎用コンピュータの一例であって、
図2に示すように、受信部4と、表示部6と、入力手段7とに接続された処理部50と、処理部50がアクセス可能に配された記憶部51とを備える。処理部50は、PC5におけるCPUを含んで構成される。
図2に示すように、処理部50は、機能的には、計測部50aと、演算部50bと、判定部50cとを有する。記憶部51は、例えば、ハードディスクまたは不揮発性メモリを用いて構成される。記憶部51には、所定のフランジ締結スキル判定プログラム(以下、「判定プログラム」と称する。)と、当該判定プログラムで用いる複数の判定基準とが格納されている。処理部50の計測部50aと、演算部50bと、判定部50cとは、判定装置1の駆動時において、判定プログラムに基づいて機能する。さらに、記憶部51には、複数の被験者のID情報と、被験者毎に判定試験中に受信部4で受信した各測定結果と、判定装置1の処理部50が判定プログラムに基づいて演算する第一、第二及び第三演算結果と、これらの各演算結果に基づいて処理部50が判定した判定レベル結果とが、互いに関連付けられて格納されている。
【0024】
尚、PC5には、オペレータが入力情報を入力するための入力手段7が、処理部50に接続されるように配されている。入力手段7は、一例としてキーボードで構成される。
【0025】
表示部6は、判定装置1の出力部の一例であって、処理部50の計測データ及び演算結果、並びに判定結果が出力(表示)される。表示部6は、一例として液晶モニタで構成される。
【0026】
[判定試験の流れ]
図3に示す動作フローに基づき、判定プログラムを用いた判定装置1による、フランジ締付スキル判定試験(以下、「判定試験」と称する。)の実施の概要を説明する。
【0027】
判定試験は、まず判定装置1を起動させた状態とし、処理部50に記憶部51に格納されている判定プログラムを読み込ませる。さらに、試験官または判定装置1の入力者(以下、「オペレータ」と称する。)が入力手段7を介し、被験者のID情報を判定装置1に入力する。このID情報には、一例として、被験者の氏名及び判定試験の実施日等の情報が含まれる。
【0028】
オペレータは、被験者のID情報を入力後、入力手段7を操作して入力完了の旨を判定装置1に入力する。これにより判定装置1の処理部50は、ID情報が完了したと判断する(S1)。
【0029】
その後、計測部50aは、判定プログラムに基づいて計測ステップを実行し、受信部4を通じて、各ボルト3に対応する各々の歪ゲージの出力信号の変化の推移を連続的に計測する。また、処理部50は、その計測データを記憶部51に記憶する(S2)。一方、オペレータは、前記入力完了の旨の入力後、被験者にスパナSを用いてダミーフランジ2の各ボルト3の締付作業を開始するように指示する。
【0030】
ここで被験者は、フランジ締結作業において、1本のボルトを1回の締付作業で目標締付力F
targetまで締め付けるのではなく、1本のボルトの締結作業をm回の単位締付動作に分けて段階的に実施する(但し、m>1)。そして、例えば、アメリカ機械学会(ASME)または日本高圧力技術協会の団体規格(HPIS)等に記載されている、いわゆるラウンド法によるボルトの締付順序のように、n本のボルトに対して順々に単位締付動作を行う周回作業をm回繰り返すことで、n本のボルトを目標締付力F
targetまで締め付ける。このように、複数且つ同数の単位締付動作を繰り返して各ボルト3の締付を行うので、各ボルト3の締付力は、各単位締付動作とともに段階的に変化する。よって、各ボルトの各歪ゲージの出力信号の信号値も、各ボルト3の各単位締付動作とともに段階的に推移する。
【0031】
被験者が全てのボルト3について締付作業を完了したら、オペレータは、入力手段7から全てのボルト3(8本のボルト3a〜3h)の締付作業を完了した旨を入力する。これにより、処理部50は、計測ステップを終了する(S3)。
【0032】
尚、判定プログラムでは、S2における測定の開始時点から計測部50aに時間を計測させ、一定時間(例えば600秒)が経過した時点で計測部50aに計測を自動的に終了させることもできる(S3)。
【0033】
続いて、演算部50bは、判定プログラムに基づき、記憶部51に記憶した上記各計測結果を演算し、以下の3つの演算結果を得るための演算ステップを実施する(S4)。
【0034】
具体的に、演算部50bは、各ボルト3の締付作業中における各々の歪ゲージの出力信号値のばらつきを示す第一演算結果と、各ボルト3の締付作業完了時における各々の歪ゲージの出力信号値のばらつきを示す第二演算結果と、各ボルト3の締付作業完了時における各締付力の程度を示す第三演算結果とを技能判断項目として得る。以降、便宜上、第一演算結果を「α」、第二演算結果を「β」、第三演算結果を「γ」と表記する。ここでαは、フランジローテーションの発生を抑制できる各ボルト3の締付をしているか否かを評価できる。βは、全てのボルト3について平均的に締付がなされているか否かを評価できる。γは、ダミーフランジ2の一対の環状フランジ間に配されたガスケットが要求する最低締付面圧まで各ボルト3が締め付けられているか否かを評価できる。
【0035】
次に、判定部50cは、判定プログラムに基づき、判定部として判定ステップを実行する(S5)。具体的に判定部50cは、演算ステップで得られたα、β、γをそれぞれ技能判断項目として用い、各技能判定項目を予め用意した判定基準と比較し、その比較結果に基づき、ボルトの締付作業に係る被験者の技能が、3つ以上に分けて用意されたいずれの技能レベルであるかを判定する。各判定基準は、詳細を後述するように、例えば段階的な複数の数値範囲とすることができる。
【0036】
次に、処理部50は、出力ステップを実行し、判定部50cによる判定結果を表示部6に出力させる(S6)。以上で判定装置1は、判定試験を終了する。オペレータ及び被験者等は、表示部6の表示内容により判定結果を知ることができる。
【0037】
以下、特に判定ステップ(S5)と出力ステップ(S6)の詳細について順に説明する。
【0038】
[判定ステップ]
演算ステップで得られるαは、各ボルト3の締付作業中における各々の歪ゲージの出力信号値のばらつきに対応しているので、αには、各ボルト3の締付力の経時的な変化の推移が示される。従って、β及びγにαを加えた3つの技能判定項目を用いることで、判定ステップでは、被験者の各ボルト3の締付に係るスキルを多角的なデータで捉えることが可能となり、前記スキルを各判定基準と照合することで的確に評価できる。
【0039】
以下、判定装置1の判定ステップについて、
図4に例示する判定ステップのフローを用いて具体的に説明する。
【0040】
図4に示すフローでは、判定部50cは、判定プログラムに基づき、一例として、α、β、γの順に、それぞれの値が予め成績の優劣の段階に合わせて用意した3つ以上の段階の数値範囲のいずれに属するかを判定する。そしてα、β、γのうち、先行するいずれかの技能判定項目が、比較の結果、NGであると判定された場合には、後続するその他の技能判定項目の判定を行わないで当該フローを終了する。
【0041】
ここで、具体例として、演算ステップ(S4)では、各ボルト3を目標締付力F
targetで締め付けた際の出力信号の信号値を100%とし、α[%]と、β[%]と、γ[%]とを以下の演算結果として得る。
【0042】
α[%]:各ボルト3の締付作業中における各々の歪ゲージの出力信号値のばらつきとして、各ボルト3の締付作業中のいずれかの単位締付動作の完了時における各ボルト3の各々の歪ゲージの出力信号値のうちの最大値と最小値の差。ここでは、一例として、各ボルト3の締付作業中の全ての単位締付動作の完了時の前記出力信号値における最大値と最小値との最大差のものを用いる。
【0043】
β[%]:各ボルト3の締付作業完了時における各々の歪ゲージの出力信号値のばらつきとして、各ボルト3の締付作業完了時(フランジ締結作業完了時)において各々の歪ゲージより出力される各出力信号値のうちの最大値と最小値との差。
【0044】
γ[%]:各ボルト3の締付作業完了時における各締付力の程度として、各ボルト3の締付作業完了時(フランジ締結作業完了時)の締付力の目標締付力F
targetに対する割合。
【0045】
ボルト3の目標締付力F
targetの値は、適宜設定することが可能であるが、例えば、ダミーフランジ2の一対の環状フランジ間に挟み込むガスケットの推奨締付面圧に対応したボルト3の締付力の値に設定可能である。α[%]、β[%]、γ[%]は、上記以外の演算結果として得ることも可能である。以下の例では、一例として、F
targetの60%をガスケットの推奨締付面圧と同じとした。
【0046】
また、判定装置1では、各技能判定項目の判定基準として、4つの判定基準をそれぞれ用いる。具体的には、α[%]をレベル判定するため、一例として、「A1」(13%以内)、「A2」(13%超16%以内)、「A3」(16%超20%以内)、「A4」(20%超)の4つの数値範囲を各判定基準として用いる。また、β[%]をレベル判定するため、一例として、「B1」(10%以内)、「B2」(10%超15%以内)、「B3」(15%超20%以内)、「B4」(20%超)の4つの数値範囲を各判定基準として用いる。さらに、γ[%]をレベル判定するため、一例として、「C1」(51%以上70%以内)、「C2」(46%以上75%以内)、「C3」(36%以上65%以内)、「C4」(36%未満または75%超)の4つの各数値範囲を各判定基準として用いる。尚、γの「C1」〜「C3」の各数値範囲は、一例として、互いに部分的に重畳させており、α及びβと併せてγを判定することにより、被験者のレベル判定を行えるようにしている。このように、実施形態1では、αは、A1、A2、A3、A4の順に、レベルが低くなる。また、βは、B1、B2、B3、B4の順に、レベルが低くなる。さらに、γは、C1、C2、C3、C4の順に、レベルが低くなる。
【0047】
判定ステップでは、一例として、α[%]を「A1」と判定し、且つ、β[%]を「B1」と判定し、且つ、γ[%]を「C1」と判定した場合にのみ、被験者の技能が、最高ランクの「III判定」に相当する技能レベルであると判定する。また、判定ステップでは、一例として、α[%]を「A2以上」と判定し、且つ、β[%]を「B2以上」と判定し、且つ、γ[%]を「C2以上」と判定し、且つ、「III判定」に相当しない場合に、「II判定」に相当する技能レベルであると判定する。また、判定ステップでは、一例として、α[%]を「A3以上」と判定し、且つ、β[%]を「B3以上」と判定し、且つ、γ[%]を「C3以上」と判定し、且つ、「III判定」及び「II判定」のいずれにも相当しない場合に、「I判定」に相当する技能レベルであると判定する。さらに、判定ステップでは、一例として、α[%]を「A4」と判定した場合と、β[%]を「B4」と判定した場合と、γ[%]を「C4」と判定した場合のいずれかの場合に、「NG」に相当する技能レベルであると判定する。
【0048】
以下、フローチャートを使用して、具体例を説明する。判定部50cは、各技能判定項目のうち、まずα[%]が「A1」か否かを判断し(S50)、「A1」であると判断した場合には、β[%]が「B1」か否かを判断(S51)し、「B1」であると判断した場合には、γ[%]が「C1」か否かを判断し(S52)、「C1」であると判断した場合には、被験者の技能が最高ランクの「III判定」に相当する技能レベルであると判定し(S53)、当該フローを終了する。
【0049】
一方、
図4に示すように、判定部50cが、α[%]が「A2」であると判断した場合(S54)、または、β[%]が「B1」でないと判断した場合には(S51)、判定部50cは、β[%]が「B2」以上であるか否かを判断し(S55)、「B2以上」であると判断した場合には、γ[%]が「C2以上」である否かを判断し(S56)、「C2以上」であると判断した場合には、被験者の技能が「III判定」の次に劣位する「II判定」に相当する技能レベルであると判定し(S57)、当該フローを終了する。このように、
図4に示すフローの例では、α[%]が「A2」であれば、β[%]及びγ[%]の判断結果に関わらず、「III判定」は得られない設定としている。
【0050】
或いは、判定部50cは、α[%]が「A3」であると判断した場合(S61)、またはβ[%]が「B2以上」でないと判断した場合には(S55)、判定部50cは、β[%]が「B3以上」であるか否かを判断し(S58)、「B3以上」であると判断した場合には、γ[%]が「C3以上」であるか否かを判断し(S59)、「C3以上」であると判断した場合には、被験者の技能が「II判定」の次に劣位する「I判定」に相当する技能レベルであると判定し(S60)、当該フローを終了する。
【0051】
尚、判定部50cは、S61でα[%]が「A3」でないと判断した場合、α[%]が「A4」であると判断する(S62)。また、判定部50cは、S58でβ[%]が「B3」でないと判断した場合、β[%]が「B4」であると判断する(S63)。或いは、判定部50cは、S59でγ[%]が「C3以上」でないと判断した場合、γ[%]が「C4」であると判断する(S64)。判定部50cは、S62〜S64のいずれかの判断を実行した後、被験者の技能を「NG判定」に相当する技能レベルであると判定し(S65)、当該フローを終了する。
【0052】
このように判定装置1では、判定部50cが技能判定項目であるα、β、γを各判定基準と照合した結果に基づき、各ボルト3の締付作業に係る被験者の技能が3つ以上の技能レベル(「III判定」、「II判定」、「I判定」、「NG判定」)のいずれに対応するかを判定する。ここで「III判定」は、例えば、単独で渦巻きガスケットを用いた工場の全てのラインの配管におけるボルトの締付作業が行える技能レベルである。「II判定」は、例えば、単独で渦巻きガスケットを用いたフランジにおけるボルトの締付作業は行えないが、単独でジョイントシートガスケットを用いたフランジにおけるボルトの締付作業が行える技能レベルである。「I判定」は、例えば、「II判定」以上の技能レベル保持者との共同作業のみにおいてフランジに対するボルトの締付作業が行えるが、「III判定」の技能レベル保持者とペアであっても、渦巻きガスケットを用いたフランジにおけるボルトの締付作業は行えない技能レベルである。「NG判定」は、例えば、ボルトの締付作業は行えず、フランジ面とボルトとナットとの手入れ等の作業は行える技能レベルである。作業現場では、例えば、各技能レベルを表示したシールを視認しやすいヘルメットの位置に予め貼っておくことで、各作業者の技能レベルを容易に確認することができる。
【0053】
このように、判定装置1では、単に締結後のボルトの締付状態を監視または計測するのではなく、従来は評価が困難であった、フランジの締結作業自体の評価を行うことが可能である。特に、判定装置1では、αを技能判定項目として用いた判定ステップを行うことにより、締付作業中の一の時点における各ボルト3の締付力のばらつき度合を評価することができる。これにより、あるボルトを急激に締め付けることで発生しうるフランジローテーション等の発生を招くか否かを判定できる。
【0054】
さらに、判定装置1では、βを技能判定項目として用いた判定ステップを行うことで、締付作業完了時(フランジ締結作業完了時)における各ボルト3の締付力のばらつき度合が一定以上存在する場合に発生しうる片締め等の発生を招くか否かを判定できる。
【0055】
また、判定装置1では、γを技能判定項目として用いた判定ステップを行うことで、ボルトの締付力の不足によって発生しうる配管漏れ等の問題の発生を招くか否かを判定できる。
【0056】
結果として、判定装置1及び判定プログラムによれば、被験者のボルト締付作業に係る経験や勘とは無関係に、被験者が有するフランジ締結作業のスキルを客観的且つ明確に評価することができる。よって、フランジ締結作業に最適な人材の選定を適切に行うことが可能である。
【0057】
尚、上記したα、β、γの各判定基準の数値範囲(A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4)は当然ながら例示に過ぎず、これらの少なくともいずれかを適宜変更することができる。
【0058】
[出力ステップ]
図5に示すように、処理部50は、出力ステップにおいて表示部6に判定画面10を表示させる。判定画面10は、第一表示部11と、第二表示部12と、第三表示部13と、第四表示部14と、第五表示部15とを含む。
【0059】
第一表示部11には、試験日と、受験者氏名と、試験官と、判定結果とが示される。
【0060】
第二表示部12には、締付作業中の各時点での8本の各ボルト3(ボルト3a〜3h)の締付力の計測結果がグラフィックでそれぞれ表示される。
【0061】
第三表示部13には、目標締付力F
targetを100%とした場合の当該目標締付力F
targetに対する各ボルトの締付力の割合[%]が、所定の数値範囲毎(一例として、5%ごと)に異なる背景色の色表示を伴って表示される。また、第三表示部13には、各ボルト3(ボルト3a〜3h)の締付力[%](目標締付力F
targetに対する割合)のばらつき度合が併せて表示される。この第三表示部13におけるばらつき度合の値は、全ボルト3の締付作業完了後においてはβ[%]の値として表示される。
【0062】
第四表示部14には、判定試験の経過時間が示される。第五表示部15には、第三表示部13で表示した各背景色が、目標締付力F
targetに対する各ボルト3の締付力の割合[%]におけるどの数値範囲に対応するかを確認するための色見本が示される。
【0063】
処理部50は、出力ステップで判定画面10を表示部6に表示させるとともに、判定画面10中の第一表示部11に、
図4のフローにおけるS53、S57、S60、S65のいずれかのステップで処理部50が判定した判定結果を表示する。この第一表示部11の表示内容により、被験者の判定試験の結果を知ることができる。
【0064】
図6に示すように、オペレータが判定画面10中のグラフ表示ボタン16を選択することで、グラフ判定画面20が判定画面10の上に重ねて表示される。グラフ判定画面20の中央に表示される第六表示部21は、一例として、判定試験におけるボルト締付作業の経過時間[sec]を横軸に表示し、ガスケット面圧(Gasket Load)[Mpa]を左側縦軸に表示し、各ボルト3の目標締付力F
targetを100%とした場合における、F
targetに対する各ボルトの締付力の割合[%]を右側縦軸とした二次元座標系のグラフを表示する。第六表示部21の右側縦軸は、選択ボタン22を操作することで、締付力の測定値[Mpa]を選択することもできる。第六表示部21では、各ボルト3のデータが互いに異なる態様、具体的には、互いに異なる色表示にて、経過時間とともに連続的に曲線状に表示される。これにより、第六表示部21では、各ボルト3の締付に伴う演算ステップS5の各技能判定項目(α、β、γ)の値が容易に確認できるようになっている。
【0065】
具体的に、第六表示部21では、締付作業中の一の時点における各ボルト3の締付力のばらつきを、右側縦軸のスケールを用いながら比較することにより、α[%]を導出できる。これにより、判定試験の結果において、例えば、ある締付作業中の時点でのα[%]がA1〜A4のいずれの数値範囲に該当するかをオペレータ及び被験者等が判定できる。一例として、α[%]がA4に該当し、且つその値が25%を超えていると、渦巻きガスケットを使用した場合にフープの外周が潰れ、シール面積の減少によりガスケットのシール性能が低下するおそれがあることをオペレータが判定できる。このように、判定画面10を表示させた場合には、オペレータは、第三表示部13におけるばらつき度合[%]を見ることによってα[%]を確認できる。
【0066】
尚、オペレータは、判定試験の締付作業中に判定画面20を表示させることで、リアルタイムで被験者の単位締付動作を検討することができる。一例として、オペレータは、フランジ締結作業の第1回目の周回作業におけるいずれかのボルト3について行った単位締付動作によって、締付力の変化量ΔFが目標締付力F
targetの25%を超えたことを確認した際には、直ちに判定試験を終了させることが可能である。
【0067】
第六表示部21では、各ボルト3の締付作業完了時の締付力の割合が、γ[%]として表示される。これにより判定試験の結果において、γ[%]がC1〜C4のいずれの数値範囲に属するかをオペレータ及び被験者等が判定できる。第二表示部12と第六表示部21の(Reference)[%]の値とを併せて見ることにより、一例として、γ[%]が目標締付力F
targetに達していない場合には、締付力の不足によってリークを生じうるおそれがあることを確認できる。
【0068】
グラフ判定画面20では、画面右側上方に配置された各ボルト3a〜3hの選択ボタン23のいずれかを選択することで、いずれかのボルトの曲線のみを表示できる。また、第六表示部21は、判定装置1を操作することで、判定試験の計測ステップ(S2)中においてもリアルタイムで確認することができる。
【0069】
このように出力ステップ(S6)では、演算部50bが演算ステップで得たα、β、γを、人が確認可能な態様で表示部6が表示する。従って、例えば、オペレータ及び被験者等が表示部6の表示内容を見るだけで、被験者が有するフランジ締結作業のスキルが、単に判定基準に対する合否のいずれであるかを判定できるだけでなく、被験者が有するフランジ締結作業のスキルが、予め用意した3つ以上の技能レベルのいずれに対応するレベルにあるかを客観的及び明確に評価することが可能である。また、被験者のID情報と関連付けて当該被験者の判定試験の各データを記憶部51に記憶することにより、被験者のID情報と、当該被験者の過去の判定試験の結果とを併せていつでも確認することができる。
【0070】
結果として、実施形態1によれば、作業者のフランジの締結に係るスキルの判定を、客観的且つ明確に行うことが可能なフランジ締結スキル判定装置及びフランジ締結スキル判定プログラムを提供できる。これにより、例えば、フランジ締結に従事する作業者の人材を適切に選定することによって、一定以上の作業品質を期待できる作業者の班編成を容易に組むことができる。これにより、ボルトの締付に関する施工不良を減少させ、工事品質の向上を図ることも可能となる。
【0071】
また、被験者が自らのスキルのレベルを客観的且つ明確に確認することによって、その技術レベルの底上げを短期間に図ることが可能であるとともに、フランジ締結作業に従事する上で必要な意識レベルの向上を期待することもできる。
【0072】
以下、本発明の別の実施形態について、実施形態1との差異を中心に述べる。
【0073】
<実施形態2>
図7は、実施形態2に係る判定装置において、表示部6に表示されるグラフ判定画面20Aを示している。
【0074】
グラフ判定画面20Aでは、空間座標系を用い、α、β、γを順に、空間座標におけるX軸、Y軸、Z軸に対応させて表示する。これにより、「III判定」、「II判定」、「I判定」のそれぞれに対応する各技能レベルの数値範囲を、立方体状の空間Q1〜Q3としてそれぞれ示している。尚、「NG判定」の数値範囲は、空間Q1〜Q3のいずれにも重ならない空間として示している。判定試験で得られた被験者のα、β、γの各値は、当該空間座標系内におけるP点の位置として示される。
【0075】
このような表示内容によっても、演算部50bが演算ステップにおける演算で取得したα、β、γを、オペレータ及び被験者等が確認可能な態様で表示できる。また、各技能判定項目のα、β、γを順に、X軸、Y軸、Z軸に対応づけて表示しているので、例えば、判定部50cが判定ステップにおいて判定した被験者の判定結果の理由をグラフ判定画面20Aを用いて技能判定項目毎に容易に確認できる。尚、「III判定」、「II判定」、「I判定」を示す空間Q1〜Q3を区別し易いように、空間Q1〜Q3を互いに区別可能な態様(例えば異なる色)で表示してもよい。
【0076】
<実施形態3>
図8は、実施形態3に係る判定装置において、表示部6に表示されるグラフ判定画面20Bを示している。
【0077】
グラフ判定画面20Bでは、二次元座標系のグラフを用い、各技能判定項目をそれぞれ個別に且つ上下方向に並列的に表示する。これにより、各技能判定項目に対する「III判定」、「II判定」、「I判定」、「NG判定」の各判定基準の数値範囲(A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4)を併せて表示して、判定試験で得られた被験者のα、β、γの各値(図中、太線L1〜L3で示す)が各判定基準の数値範囲のどこに位置するかを表示可能としている。
【0078】
このような表示内容によっても、演算部50bが演算ステップにおける演算で取得したα、β、γを、オペレータ及び被験者等が確認可能な態様で表示できる。また、α、β、γの各値を各判定基準の範囲と照合して個別且つ容易に確認でき、被験者のα、β、γのレベルが各基準範囲と比べて相対的にどのレベルにあるかを詳細に検討することができる。
【0079】
<その他の事項>
実施形態1において、判定部50cは、α、β、γの順に判定を行ったが、本発明は、これに限定されない。判定部50cは、α、β、γをいずれの順で判定を行ってもよい。
【0080】
実施形態1において、判定装置1における受信部4は、PC5と別体としたが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、受信部4をPC5の内部に配置し、PC5の構成要素として構成してもよい。また、記憶部51もPC5の内部に配置する構成に限定されず、例えば、PC5に接続された外部のネットワーク上に記憶部を配置してもよい。
【0081】
判定装置に配する出力部の構成は、いわゆるPC5のディスプレイとしての表示部6のみに限定されない。例えば、判定部50cの判定ステップにおける判定結果を、紙またはシート、或いは、各種記録媒体のいずれかに対して出力する構成であってもよい。
【0082】
本発明がスキルを判定することが可能なボルトの締付作業は、当然ながら生産工場等における配管のフランジを連結するためのボルトの締付作業に限定されない。例えば、減圧チャンバ等の圧力容器やモータ軸等の回転機器等の各種構造物を密閉または連結し、或いは、組み立てるためのボルトの締付作業であっても、良好にスキル判定を行うことができる。
【0083】
本発明において用いる歪ゲージは、締結に用いる複数のボルトに個別に対応して設ければよい。従って、例えば、ダミーフランジの一対のフランジの間に配するガスケットに対し、各ボルトに対応する各位置に個別に歪ゲージを設けてもよい。
【0084】
上記各実施形態では、締付力検出器として歪ゲージを例示したが、締付力検出器は、歪ゲージのみに限定されず、その他の構成、例えば、圧電素子を用いることもできる。この場合、一対のフランジの間に、各ボルトに対応する位置に圧電素子をそれぞれ配置することにより、歪ゲージを用いた場合と同様の検出を行うことができる。
【0085】
締付力検出器として歪ゲージを用いる場合、歪ゲージは、温度補正3線式に限定されず、その他の方式の歪ゲージを用いることもできる。
【0086】
上記各実施形態では、α、β、γの3つの技能判定項目をともに用いてフランジの締結に係るスキルの判定を行ったが、場合によっては、この中から選んだ2つの技能判定項目のみを用いてフランジの締結に係るスキルの判定を行うこともできる。このような場合でも、2つの技能判定項目によって、フランジの締結に係るスキルの判定を多角的な視点から行うことが可能であり、有用である。