特許第6166261号(P6166261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166261
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】塩素化プロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20170710BHJP
   C07C 21/04 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 17/04 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 19/01 20060101ALI20170710BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07C21/04
   C07C21/18
   C07C17/04
   C07C19/01
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-525083(P2014-525083)
(86)(22)【出願日】2012年8月4日
(65)【公表番号】特表2014-527052(P2014-527052A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】US2012049669
(87)【国際公開番号】WO2013022806
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年7月28日
(31)【優先権主張番号】61/515,947
(32)【優先日】2011年8月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515160552
【氏名又は名称】ブルー キューブ アイピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】マックス マーカス ティルトウィッドジョジョ
(72)【発明者】
【氏名】バリー フィッシュ
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド スティーブン ライター
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−005037(JP,A)
【文献】 特開昭50−004006(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/158321(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0155942(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101955414(CN,A)
【文献】 特表2009−522365(JP,A)
【文献】 特表2010−534679(JP,A)
【文献】 特開昭48−067209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 31/00−63/04
C07C 1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2,3−トリクロロプロパンを単独で又は1,2,2,3−テトラクロロプロパンとの組み合わせで含む供給材料からの1,1,2,3−テトラクロロプロペンの連続製造方法であって、第1塩素化反応器で起こる少なくとも1回の塩素化反応の前に第1脱塩化水素化反応器で少なくとも1回の脱塩化水素化反応が起こり、少なくとも1回の塩素化反応又は少なくとも1回の脱塩化水素化反応が液相中で起こり、前記第1塩素化反応器で起こる前記少なくとも1つの塩素化反応の生成物流の少なくとも一部が第1脱塩化水素化反応器に再循環され、少なくとも2回の反応が同一の反応器で起こり、所望の塩素化プロペンへの選択率が80%以上である、1,1,2,3−テトラクロロプロペンの連続製造方法。
【請求項2】
少なくとも2回の塩素化反応が同一の反応器で起こり、及び/又は、少なくとも2回の脱塩化水素化反応が塩素化反応器とは別の同一の反応器で起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1回の塩素化反応が、i)液相中で行われ、ii)塩素化剤がCl2、SO2Cl2又はこれらの組み合わせを含み、iii)塩素化反応が、AlCl3、I2、FeCl3、硫黄、鉄、五塩化アンチモン、三塩化ホウ素、1種以上のハロゲン化ランタン、1種以上の金属トリフラート、又はそれらの組み合わせを含むイオン性塩素化触媒、あるいは、
アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)又はこれらの組み合わせを含むフリーラジカル開始剤
の存在下又は不在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1脱塩化水素化反応が液相中で起こり、ジクロロプロペン、トリクロロプロペン及び1,1,2,3−テトラクロロプロペンを含む混合物が生成する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法により1,1,2,3−テトラクロロプロペンを製造して、該1,1,2,3−テトラクロロプロペンを2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンに変換することを含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンの製造方法。
【請求項6】
1,2,3−トリクロロプロパンを単独で又は塩化アリル及びテトラクロロプロパンのうちの1種以上との組み合わせで含む供給材料からの1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンの連続製造方法であって、第1塩素化反応器で起こる少なくとも1回の塩素化反応の前に第1脱塩化水素化反応器で少なくとも1回の脱塩化水素化反応が起こり、少なくとも1回の塩素化反応又は少なくとも1回の脱塩化水素化反応が液相中で起こり、第1塩素化反応器で起こる前記少なくとも1回の塩素化反応の生成物流の少なくとも一部が前記第1脱塩化水素化反応器に再循環され、少なくとも2回の反応が同一の反応器で起こり、所望の塩素化プロパンへの選択率が80%以上である、1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンの連続製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化プロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロフルオロカーボン(HFC)生成物は、冷凍、空調、フォームの膨張、及び医療エアゾール装置などのエアゾール製品用の噴射剤としてなど、多くの用途で幅広く利用されている。HFCは、代用されるクロロフルオロカーボンやヒドロクロロフルオロカーボン製品よりも気候に優しいことが示されているが、それらはかなりの地球温暖化係数(GWP)を示すことが分かっている。
【0003】
現在のフルオロカーボン生成物の許容可能な代替品の探索は、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)生成物の出現をもたらした。HFO類は、従来のものと比べてオゾン層に及ぼす有害な影響がより少ないか又はないという形で大気に及ぼす影響が少ないこと、また、HFC類に比べてはるかに低いGWPを示すことが期待されている。有利なことに、HFOは低い引火性及び低い毒性も示す。
【0004】
HFO類の環境上及びそれによる経済上の重要性が高まっているため、その製造に使用される前駆体に対する需要も高まっている。例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンなどの多くの望ましいHFO化合物は、典型的には、クロロカーボン類、特に塩素化プロペンの供給原料(feedstocks)を使用して製造することができ、塩素化プロペンは、ポリウレタン発泡剤、殺生物剤及びポリマーの製造用の供給原料としての用途も見出されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
残念なことに、多くの塩素化プロペンは、それらの製造に典型的に使用される複雑で多段階の方法に少なくとも部分的に起因して、商業的入手性が限られており及び/又は法外に高いコストでしか入手できない。例えば、塩化アリル又は1,2,3−トリクロロプロパン(TCP)を出発物質として使用する方法では、連続的な脱塩化水素化と元素状塩素による塩素化を、所望の数の塩素原子が付加されるまで実施することができる。あるいは、幾つかの従来の方法は、最終生成物において望まれるものよりも少ない塩素原子を有する塩素化アルカンの塩素化を必要とする。
【0006】
かかる多段階反応は典型的には、回分式及び/又は半回分式プロセスとして実施され、そのため、生産能力が低いという問題があることがある。多段階反応工程に加えて、かかるプロセスは、これらの反応工程の間又は後に精製工程を行うことを必要とすることもあり、そのためにこれらの多段階プロセスは非常に資本集約的である。さらに、かかる方法は、多量の塩化ナトリウム及び1種以上の塩素化有機化合物を含む多量の汚染廃水の生成をもたらすこともある。この廃水を環境に放出する前に、この廃水を典型的には処理しなくてはならず、さらなる費用がかかる。回収された塩化ナトリウムは、回収可能なコストの点でほとんど利益がない。
【0007】
そのため、冷媒及び他の市販製品の合成における供給原料として有用なクロロカーボン前駆体の改善された大容量及び/又は連続製造方法を提供することが望ましい。より具体的には、かかる方法は、処理時間のみならずそのプロセスの実施及び維持にかかる資本コストがあまりかからないならば、当該現状の技術に対する改善を提供するであろう。塩化ナトリウムよりも高い価値のある又は何らかの価値のある副生成物の生成は、もしかかる方法でもたらされるならばさらなる利点が実現される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、塩素化プロペンの効率的な製造方法を提供する。有利なことに、当該方法は、出発物質として1,2,3−トリクロロプロパンを使用するが、それにもかかわらず、当該方法は、実施に必要な工程数が少ない及び/又は反応器が少ないことによりかなりの時間及びコストの節約を提供する。さらに、当該方法は、1又は2つ以上の苛性脱塩化水素化工程の代わりに、少なくとも1つの触媒的脱塩化水素化工程を使用することができ、そのため、廃水の生成が最低限に抑えられ、低価値副生成物である塩化ナトリウムの生成も最低限に抑えられる。最後に、当該方法は、脱塩化水素化工程で始まり、その結果、第1塩素化は二重結合で起こる。その結果、この工程に触媒は必要とされず、さらなるコストの節約がもたらされる。
【0009】
一態様において、本発明は、1,2,3−トリクロロプロパンから塩素化プロペンを製造する方法であって、第1塩素化工程の前に脱塩化水素化工程が実施され、同一の反応器で少なくとも2つの反応が実施される。脱塩化水素化反応は、気相又は液相で実施でき、脱塩化水素化触媒、すなわちFeCl3、Cr23、活性炭又はこれらの組み合わせの存在下で実施できる。脱塩化水素化反応のうちの1又は2つ以上は、水性苛性アルカリとの反応により液相中で実施してもよい。少なくとも2つの塩素化反応又は少なくとも2つの脱塩化水素化反応を同一の反応器で実施でき、あるいは、幾つかの有利な実施形態において、塩素化反応の全て及び/又は脱塩化水素化反応の全てを同一の反応器で実施することができる。全ての実施形態において塩素化工程のために触媒が必要とされるわけではないが、それらの使用は他の利点を提供することがあり、かかる実施形態において、イオン性塩素化触媒又はフリーラジカル開始剤が使用されることが望ましい。
【0010】
塩素化剤は、塩素、SO2Cl2又はこれらの組み合わせを含むことができる。生成した塩素化プロペンは、望ましくは、3〜5個の塩素原子を含み、幾つかの実施形態において、1,1,2,3−テトラクロロプロペンであることができる。幾つかの実施形態において、当該プロセスにより副生成物としてHClが生成し、HClは、例えば下流プロセスでの使用のために、その無水物形態で回収することができる。さらに、1又は2種以上の反応物を当該プロセスの中又は当該プロセスの上流で生成させることができる。
【0011】
本方法により提供される利点は、塩素化プロペンを使用することによって、さらに下流の生成物、例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンなどを製造することに及ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に従う方法の概略図を示す。
【0013】
図2図2は、さらなる実施形態に従う方法の概略図を示す。
【0014】
図3図3は、さらなる実施形態に従う方法の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書は、本発明をよりよく規定し、本発明の実施において当業者を導くための特定の定義及び方法を提供する。特定の用語又は語句についての定義の有無は、いかなる特定の重要性の有無を示すことを意味するものではない。むしろ、そして、特に断らない限り、用語は、当業者による従来の用法に従って理解されるべきである。
【0016】
本明細書で使用する「第1」、「第2」などの用語は、いかなる順序、数量又は重要度を意味するものでなく、むしろ1つの要素を別の要素と区別するために使用される。また、単数形は数量の限定を意味するものではなく、むしろ記載事項の少なくとも1つの存在を意味し、用語「前(front)」、「後ろ(back)」、「底部(bottom)」及び/又は「頂部(top)」は、特に断らない限り、単に説明の便宜上使用され、いずれか1つの位置又は空間的配向に限定されない。
【0017】
範囲が開示されている場合、同じ成分又は特性に関するすべての範囲の端点が包含され、また、独立に組み合わせ可能である(例えば、「最大25質量%、又はより具体的には5質量%〜20質量%」という範囲は、各端点と5質量%〜25質量%の範囲の全ての中間値を包含する)。本明細書において、転化率(%)は、流入する流れに対する比で反応器内の反応物のモル又は質量流量の変化を意味し、選択率(%)は、反応物のモル流量の変化に対する比で反応器内の生成物のモル流量の変化を意味する。
【0018】
明細書中に記載の「一実施形態」又は「実施形態」は、実施形態について記載された特定の特徴、構造又は特性が少なくとも1つの実施形態に包含されることを意味する。従って、明細書を通じて様々な箇所に出現する用語「一実施形態において」又は「実施形態において」は、必ずしも同じ実施形態を指さない。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、1つ又は2以上の実施形態において、任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0019】
いくつかの例において、「TCP」を1,2,3−トリクロロプロパンの略語として使用することがあり、「ACL」を塩化アリル又は3−クロロプロペンの略語として使用することがあり、さらに「TCPE」を1,1,2,3−テトラクロロプロペンの略語として使用することがある。用語「クラッキング(cracking)」及び「脱塩化水素化」は、同じタイプの反応、すなわち、典型的には塩素化炭化水素試薬中の隣接する炭素原子からの水素及び塩素原子の除去による二重結合の生成をもたらす反応を表すために、互換的に使用される。
【0020】
本発明は、TCPを含む供給流から塩素化プロペンを連続製造するための効率的な方法であって、脱塩化水素化を最初に行う方法を提供する。当該供給流は、さらに、1又は2種以上の他の塩素化アルカン又はアルケン、例えば塩化アリルを含むことができる。当該方法は、連続的に実施できるというそれらの能力の点で有利であるだけでなく、脱塩化水素化工程を最初に実施するためにその後の塩素化工程における触媒の使用が必要とされず、幾つかの実施形態では触媒を使用しなくてよいという点で有利である。しかしながら、本発明は、それに限定されず、場合によっては、反応速度及びスループットの増加が望ましい場合に塩素化触媒を使用することができる。
【0021】
本方法は、複数の反応のうちの少なくとも2つが望ましくは同一反応器内で起こり、時間及びコストの節約がもたらされるという点でさらに有利である。本明細書において、用語「少なくとも2つの反応」は、同じ試薬の連続する反応というよりもむしろ少なくとも1種の異なる試薬が関わる2つの反応を指すことを意図する。すなわち、「少なくとも2つの塩素化反応」は、例えば、連続法で典型的に起こりうるTCPの多重塩素化(multiple chlorinations)というよりもむしろ、2,3−ジクロロプロペン及び1,2,3−トリクロロプロペンの塩素化を指すことを意図する。さらなる一例として、「少なくとも2つの脱塩化水素化反応」は、例えば、連続法で典型的に起こりうるTCPの多重脱塩化水素化(multiple dehydrochlorinations)というよりもむしろ、TCPの脱塩化水素化及びテトラ−及び/又はペンタクロロプロパン異性体の脱塩化水素化を指すことを意図する。
【0022】
2つの塩素化反応を同一の塩素化反応器で行っても、2つの脱塩化水素化を同一の脱塩化水素化反応器で行っても、もしくは両方を行っても、又は、塩素化反応の全てを同一の塩素化反応器で行っても及び/又は全ての脱塩化水素化反応を同一の脱塩化水素化反応器で行っても、もしくは両方を行っても、あるいはこれらの任意の組み合わせであってもよい。本発明が必要とすることは、資本コストがより低く、処理時間がより短く、従って生産能力がより高いという利点を提供するために、少なくとも2つの塩素化及び/又は少なくとも2つの脱塩化水素化反応が同一の反応器内で起こるということである。
【0023】
本方法は、いくつかの実施形態において、従来の方法と比べて苛性クラッキング工程の縮減をもたらすこともでき、そのため、多量の無水HClを回収することができる。無水HClは、典型的には多数の苛性クラッキング工程を使用する従来の塩素化プロペン製造方法における副生成物として生成する塩化ナトリウムよりも価値を有する。本方法のこれらの実施形態は、販売されるか、又は他の方法、例えば二塩化エチレンを製造するためのエチレンのオキシ塩素化のための供給原料として使用できる副生成物の生成をもたらす。
【0024】
かかる実施形態において、本方法の脱塩化水素化工程の1又は2つ以上は、触媒の存在下で実施することができる。好適な脱塩化水素化触媒としては、塩化第二鉄(FeCl)が挙げられるが、これに限定されない。当業者に知られている気相脱塩化水素化触媒の他の好適な例は、国際特許出願第2009/015304 A1号に開示されている。
【0025】
他の実施形態において、本方法の脱塩化水素化工程の1つ又は2つ以上は、液体苛性アルカリの存在下で実施することができる。気相脱塩化水素化は、有利なことに、液相脱塩化水素化よりも高い価値の副生成物の形成をもたらすが、液相脱塩化水素化反応は、反応物の蒸発を必要としないため、コスト削減をもたらすことができる。また、液相反応において使用されるより低い反応温度は、気相反応において使用されるより高い反応温度よりも低いファウリング速度をもたらすことができ、そのため、反応器の寿命も、少なくとも1つの液相脱塩化水素化が使用された場合に最適化することができる。
【0026】
多くの化学塩基が液体苛性クラッキングに有用であることが知られており、それらのいずれも使用できる。例えば、好適なクラッキング塩基としては、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなど;アルカリ金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウムなど;リチウム、ルビジウム及びセシウム、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。相間移動触媒、例えば第四級アンモニウム及び第四級ホスホニウム塩(例えば、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム又は臭化ヘキサデシルトリブチルホスホニウムなど)などを、これらの化学塩基により脱塩化水素化反応速度を改善するために添加してもよい。
【0027】
塩素化工程前の脱塩化水素化工程の使用は、有利なことに、その後の塩素化工程のための触媒の使用の必要性を低減又はなくすことができる。それにもかかわらず、反応速度を増加させるために、必要に応じて、塩素化触媒を使用できる。例えば、本方法を促進するために、フリーラジカル触媒又は開始剤を使用できる。かかる触媒は、典型的には、1又は2以上の塩素、過酸化物又はアゾ−(R−N=N−R’)基を含むことができ、及び/又は反応器の相移動度/活性度を示すことができる。本明細書において、語句「反応器の相移動度/活性度」は、相当量の触媒又は開始剤が、反応器の設計上の制限の範囲内で、生成物、塩素化及び/又はフッ素化プロペンの有効なターンオーバーを開始し伝播することのできる十分なエネルギーのフリーラジカルを生成するために利用可能であることを意味する。
【0028】
さらに、触媒/開始剤は、理論的に最大量のフリーラジカルが本方法の温度/滞留時間で所定の開始剤から生成されるように十分な等方的解離エネルギーを有するべきである。低い濃度又は反応性のために初期ラジカルのフリーラジカル塩素化が妨げられる濃度でフリーラジカル開始剤を使用することは特に有用である。驚くべきことに、フリーラジカル開始剤の使用は、当該方法による不純物の生成を増加させないが、少なくとも50%、もしくは60%以下、70%以下、いくつかの実施形態において、80%以下又はそれより高い塩素化プロペンへの選択率をもたらす。
【0029】
かかるフリーラジカル開始剤は当業者によく知られており、例えば、“Aspects of some initiation and propagation processes,” Bamford, Clement H. Univ. Liverpool, Liverpool, UK., Pure and Applied Chemistry, (1967), 15(3-4), 333-48及びSheppard, C. S.; Mageli, O. L. “Peroxides and peroxy compounds, organic,” Kirk-Othmer Encycl. Chem. Technol., 3rd Ed. (1982), 17, 27-90に概説されている。
【0030】
上記事項を考慮し、塩素を含む好適な触媒/開始剤の例としては、四塩化炭素、ヘキサクロロアセトン、クロロホルム、ヘキサクロロエタン、ホスゲン、塩化チオニル、塩化スルフリル、トリクロロメチルベンゼン、過塩素化アルキルアリール官能基、あるいは、有機及び無機の次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸、次亜塩素酸t−ブチル、次亜塩素酸メチルなど、塩素化アミン(クロラミン)及び塩素化アミド又はスルホンアミド、例えばクロロアミン−T(商標)などが挙げられるが、これらに限定されない。1又は2以上の過酸化物基を含む好適な触媒/開始剤の例としては、過酸化水素、次亜塩素酸、脂肪族及び芳香族過酸化物又はヒドロペルオキシド、例えばジ−t−ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化クミルなどが挙げられる。ジペルオキシドは、競合的プロセス(例えば、TCP(及びその異性体)及びテトラクロロプロパンへのPDCのフリーラジカル塩素化)を伝播することができないという利点をもたらす。さらに、アゾ基を含む化合物、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)は、本発明の条件下で、トリクロロプロパン及びテトラクロロプロパンへのPDCの効果的な塩素化を実施する際に有用であり得る。また、これらの任意の組み合わせも有用であり得る。
【0031】
本方法又は反応器ゾーンは、Breslow, R.によりOrganic Reaction Mechanisms W.A. Benjamin Pub, New York, p 223-224に教示されているように、フリーラジカル触媒/開始剤の光分解を誘導するのに好適な波長でパルスレーザー又は連続UV/可視光源に曝されてもよい。光源の300〜700nmの波長は、市販のラジカル開始剤を解離するのに十分である。かかる光源としては、例えば、反応器チャンバを照射するように構成された適切な波長又はエネルギーのハノビア(Hanovia)UV放電灯、太陽灯又はパルスレーザービームが挙げられる。代わりに、BailleuxらによりJournal of Molecular Spectroscopy, 2005, vol. 229, pp. 140-144に教示されているように、反応器に導入されたブロモクロロメタン供給原料へのマイクロ波放電からクロロプロピルラジカルを生成させることができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、イオン性塩素化触媒を1又は2以上の塩素化工程において使用できる。本方法におけるイオン性塩素化触媒の使用は、アルカンを脱塩化水素化するとともに塩素化するため、特に有利である。すなわち、イオン性塩素化触媒は、隣接する炭素原子から塩素及び水素を除去し、当該隣接する炭素原子は二重結合を形成し、HClが放出される。塩素分子は、次に、再付加し、二重結合を置換し、より高級の塩素化アルカンをもたらす。
【0033】
イオン性塩素化触媒は、当技術分野においてよく知られており、そのいずれかを本発明の方法において使用できる。イオン性塩素化触媒の例としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄(FeCl3)及び他の鉄含有化合物、ヨウ素、硫黄、五塩化アンチモン(SbCl5)、三塩化ホウ素(BCl3)、ハロゲン化ランタン、金属トリフラート、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
塩素化及び/又は脱塩化水素化触媒のいずれか又は全てを、バルク、又は基材、例えば活性炭、グラファイト、シリカ、アルミナ、ゼオライト、フッ素化グラファイト及びフッ素化アルミナなどに結合させて提供することができる。所望の触媒(もしあれば)又はその構成がどのようなものであっても、当業者は、それらの適切な濃度及び導入方法を決定する方法をよく知っている。例えば、多くの触媒は、典型的には、別の供給物として又は他の反応物、例えばTCPとの溶液として、反応ゾーンに導入される。
【0035】
使用される任意の塩素化及び/又は脱塩化水素化触媒の量は、選択された触媒及び他の反応条件に依存する。一般的に、触媒の使用が望ましい本発明の実施形態において、反応プロセス条件(例えば、必要とされる温度の低下など)又は実現される製品にいくらかの改善をもたらすために十分な触媒が用いられるべきであるが、もし経済的実用性のためだけの場合には、さらなる利益はもたらされない。
【0036】
例示のためだけに示すが、イオン性塩素化触媒又はフリーラジカル開始剤の有用な濃度は、0.001質量%〜20質量%、0.01質量%〜10質量%、又は0.1質量%〜5質量%であり、それらの間のすべての部分範囲を含むと考えられる。脱塩化水素化触媒が1又は2以上の脱塩化水素化工程に使用される場合、有用な濃度は、70℃〜200℃の温度において、0.01質量%〜5質量%、又は0.05質量%〜2質量%であることができる。化学塩基が1又は2以上の脱塩化水素化に使用される場合、これらの有用な濃度は、0.01〜12グラムモル/L、0.1グラムモル/L〜5グラムモル/L、又は1グラムモル/L〜2グラムモル/Lであり、それらの間のすべての部分範囲を含む。各触媒/塩基の濃度は、供給材料、例えば1,2,3−トリクロロプロパン及び/又は塩化アリルに対して与えられる。
【0037】
本発明の方法は、所望の塩素化プロペンを生成させるために1,2,3−トリクロロプロペンを含む供給原料を使用することができる。当該方法の供給原料は、再循環された1,2,2,3−テトラクロロプロパン、又は必要に応じて他の塩素化アルカンを含む再循環されたアルカンも含むことができる。必要に応じて、当業者に知られている任意の方法によって、当該プロセス内で又は当該プロセスの上流側で1,2,3−トリクロロプロパンを生成させてもよい。
【0038】
本方法の塩素化工程は、任意の塩素化剤を使用して実施することができ、これらのいくつかは当技術分野において知られている。例えば、好適な塩素化剤としては、塩素及び/又は塩化スルフリル(SO2Cl2)が挙げられるが、これらに限定されない。塩素化剤の組み合わせも使用できる。上記イオン性塩素化触媒の使用によって促進される場合は、Cl2及び塩化スルフリルの一方又は両方が特に有効である。
【0039】
任意の塩素化プロペンは、本発明の方法を使用して製造できるが、3〜5個の塩素原子を有するものが特に商業的に魅力的であり、そのためいくつかの実施形態において好ましいことがある。いくつかの実施形態において、当該方法は、冷媒、ポリマー、殺生物剤などを得るための好ましい供給原料であり得る1,1,2,3−テトラクロロプロペンの製造に使用できる。
【0040】
さらなる実施形態において、本方法の1又は2以上の反応条件は、さらなる利点、すなわち、反応副生成物の選択率、転化率又は生成の改善をもたらすために最適化することができる。特定の実施形態において、複数の反応条件が最適化され、反応副生成物の選択率、転化率及び生成における更なる改善が見られる。
【0041】
最適化することのできる本方法の反応条件としては、例えば製造フットプリントにおいて既存の装置及び/又は材料の使用により調節することのできる又は低リソースコストで得られるなど、都合良く調節される任意の反応条件が挙げられる。かかる条件の例としては、温度、圧力、流量、反応物のモル比などの調節を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書に記載の各工程で使用される特定の条件は重要ではなく、当業者によって容易に決定される。重要なことは、脱塩化水素化反応が第1塩素化工程前に起こるということ、及び少なくとも2つの反応が同一容器で起こるということ、すなわち2つの塩素化反応又は2つの脱塩化水素化反応が単一の反応器で行われるということである。当業者は、各工程に好適な装置や、塩素化、脱塩化水素化、分離、乾燥及び異性化工程を行うことのできる特定の条件を容易に決定することができる。
【0043】
本方法において、フレッシュな1,2,3−トリクロロプロパンを単独で又は幾つかの実施形態において塩化アリル及び/又は再循環されたTCP、テトラクロロプロパン及び/又はペンタクロロプロパンとの組み合わせで含む供給流を、一連の連続する脱塩化水素化及び塩素化反応を使用してTCPEに変換する。脱塩化水素化及び塩素化反応のうちの少なくとも2つは同一の反応器で起こる。
【0044】
1つの例示的な実施形態において、TCPを含む供給流を、まず、気相脱塩化水素化反応器、例えばコイル内に配置され加熱ボックス内で加熱される連続的な長い反応管に供給する。TCPの触媒的クラッキングに好適な固定床触媒が管に充填されたシェル−多管反応器を使用してもよい。プロセス効率のために、連続法に適合することができる反応器の使用が好ましい。
【0045】
この最初の気相脱塩化水素化反応器に対して好適な反応条件としては、周囲温度(例えば、200℃)〜700℃、250℃〜600℃、又は300℃〜500℃の温度が挙げられる。周囲圧力、100kPa〜1000kPa、100kPa〜500kPa、又は100kPa〜300kPaの圧力を使用できる。かかる条件で、TCPの脱塩化水素化により、HCl、2,3−ジクロロプロペン、1,2,3−トリクロロプロペン及び未反応のTCPが生成する。
【0046】
あるいは、気相脱塩化水素化反応器の代わりに液相脱塩化水素化反応器を使用でき、単独の又は他の三塩素化、四塩素化及び五塩素化プロパン中間体との組み合わせのTCPをそれぞれジクロロ−、トリクロロ−及びテトラクロロプロペンに変換するために液体苛性アルカリを使用できる。かかる反応をもたらす苛性クラッキング反応器の条件は当業者によく知られているか又は当業者により容易に決定される。一般的に、苛性脱塩化水素化反応器に50%水溶液で苛性ソーダを装入し、三塩素化及び四塩素化プロペンに対して苛性物をわずかにモル過剰とし、周囲圧力から400kPaまでの圧力、40℃〜150℃、又は60℃〜120℃の温度、3時間未満の滞留時間で運転する。苛性脱塩化水素化は、相間移動触媒を使用して又は使用せずに実施できる。
【0047】
第1脱塩化水素化が気相で実施される実施形態において、生成物流が、無水HClをそのオーバーヘッドラインに供給するのに有効な条件で運転される第1分離カラム、例えば蒸留カラムに供給される。第1脱塩化水素化が液相で実施される実施形態において、その生成物流は、典型的には、乾燥カラムに供給される。
【0048】
前者の場合、無水HClの回収のための分離カラムの頂部温度は、典型的には0℃未満に設定することができ、より好ましくは−70℃〜−10℃の温度に設定することができる。かかるカラムの底部温度は、望ましくは10℃〜150℃、又は30℃〜100℃であり、当業者に知られているように、正確な温度は底部混合組成物にある程度依存する。この精製カラムの圧力は、望ましくは200kPa超に設定され、好ましくは350kPa〜2000kPa、より好ましくは500kPa〜1000kPaに設定される。かかる条件で運転されるカラムの底部流は、過剰な塩素、未反応のTCP及びモノクロロプロペン中間体を含むことが期待され、一方、オーバーヘッド流は無水HClを含むことが期待される。
【0049】
無水HCl回収カラムの底部流は、実施される個々の実施形態に応じて、所望により、塩素化反応器に直接供給されるか、又はさらなる分離カラムに供給される。
【0050】
より具体的には、例示的な一実施形態において、TCPは、例えば、内部冷却コイルを備える回分式又は連続式攪拌槽反応器などの液相塩素化反応器に供給される。シェル−多管反応器と、それに続いて気液分離槽又は容器を使用してもよい。好適な反応条件としては、周囲温度(例えば、20℃)〜200℃、30℃〜150℃、40℃〜120℃又は50℃〜100℃の温度が挙げられる。周囲圧力、100kPa〜1000kPa、100kPa〜500kPa、又は100kPa〜300kPaの圧力を使用できる。いくつかの実施形態において、FeCl3又はAlCl3を含む1又は種以上の触媒を塩素化反応器において使用でき、一方、他では、それらの使用は利点がない。
【0051】
塩化アリルを塩素化反応器に加えることができ、塩化アリルを加えた場合には、塩化アリルは、60%を超える、70%を超える、80%を超える、85%を超える、90%を超える、又は95%を超える、あるいは最大100%にもなる転化率で、トリクロロプロパンに塩素化される。かかる実施形態において、塩素化反応器は、1,2,2,3−テトラクロロプロパン及び1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンを含む生成物流を生成すると考えられる。
【0052】
液相塩素化は、ニート、すなわち溶媒の不在下で実施してもよく、あるいは、1もしくは2種以上の溶媒を、塩素化反応器に供給してもよく、また、供給原料の成分として供給してもよく、又は、塩素化反応器からの流れを受けるように効果的に配置された1又は2個以上の分離カラムに再循環させてもよい。例えば、モノクロロプロペン中間体を、1つの分離カラムから塩素化反応器に再循環させることができ、トリ−及びテトラクロロプロペン中間体を、別の分離カラムから再循環させることができる。あるいは、塩素化反応器に、例えば四塩化炭素、塩化スルフリル、1,1,2,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,2,2,3,3−ヘキサクロロプロパン、他のヘキサクロロプロパン異性体、又はこれらの組み合わせなどの、塩素化反応に好適な任意の溶媒を供給することができる。
【0053】
幾つかの実施形態において、HCl回収カラムからの底部流は、塩素化反応器に供給される前に、分離カラムに供給することができる。かかる実施形態において、分離カラムは、塩素化反応器への1,2,3−トリクロロプロパン及び他の塩素化プロパンを含むオーバーヘッド流を生成するのに十分な条件で運転されることが望ましく、典型的には1,1,2,3−TCPE、1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパン及び1,2,2,3−テトラクロロプロパンを含むそれからの底部流を、オーバーヘッド流中に1,1,2,3−TCPEを回収し、気相脱塩化水素化反応器へ1,1,2,3−ペンタクロロプロパン及び1,2,2,3−テトラクロロプロパンを再循環させるための分離カラムに供給することができる。
【0054】
幾つかの実施形態において、塩素化反応器からの液体生成物流は、脱塩化水素化反応器に再循環される前に、分離カラムに供給されてもよく、塩素化反応器の前に精製工程が実施される場合に、この液体生成物流は、たんに、脱塩化水素化反応器に直接再循環されてもよい。前者の場合、分離カラムは、五塩素化プロパンから三塩素化プロパン及び四塩素化プロパンを分離するのに有効な条件で運転されることが望ましい。三塩素化プロパン及び四塩素化プロパンを含むこの分離カラムからのオーバーヘッド流を脱塩化水素化反応器に戻して塩素化プロペンを生成させることができ、ペンタクロロプロパン、例えば1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパン及びより重質の副生成物を含むことが期待される底部流は、次に、1,1,2,3−TCPEを含む生成物流を生成するのに有効な条件で運転されるさらなる気相脱塩化水素化反応器に送られる。
【0055】
1,1,2,3−TCPEを含む第2脱塩化水素化反応器からの反応流は、必要に応じて、HClとテトラクロロプロペンよりも軽質の他の副生成物とを除去するために分離カラムに供給されてもよく、そこからの流れは、適切な条件下で2,3,3,3−テトラクロロプロペンを1,1,2,3−テトラクロロプロペンに異性化するさらなる反応器に供給される。例えば、異性化を促進するために触媒を用いてもよく、その場合、好適な触媒としては、(i)例えばカオリナイト、ベントナイト及びアタパルジャイトなどの、極性表面を有するシリカ質顆粒、(ii)例えばサポナイト、石英などの、シリカの他の鉱物塩、(iii)例えばシリカゲル、ヒュームドシリカ及びガラスなどのシリカ質非鉱物物質、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。また、かかる反応流に対する乾燥カラムの好適な条件も、米国特許第3,926,758号明細書に示されているように、当業者によく知られている。
【0056】
脱塩化水素化が望ましくは液相中で実施される、すなわち苛性塩基により実施される実施形態において、無水HClは生成せず、そのため、HCl回収カラムは使用されない。かかる実施形態では無水HClというよりもむしろNaClが生成するが、これらの実施形態は、従来の方法と比べて、必要とする装置が少なく、多重又は全ての脱塩化水素化を同一の反応器で行うことができるため、さらに単純化されている。脱塩化水素化反応器からの生成物流が無水HCl回収カラムに供給される代わりに、生成物流が乾燥カラムに供給される。1,1,2,3−TCPEとジ−、トリ−及び他のテトラクロロプロペンとを含む乾燥された流れは、次に、テトラクロロプロペンからジクロロプロペン及びトリクロロプロペンを分離するのに十分な条件で運転される蒸留カラムに供給される。ジクロロプロペン及びトリクロロプロペンは、次に、塩素化反応器に供給されてテトラ−及びペンタクロロプロペンを生成し、テトラクロロプロペンは、オーバーヘッド流として精製された1,1,2,3−TCPEの流れを提供するように運転可能な精製カラムに供給することができる。テトラクロロプロペンの流れの残りは廃棄物として廃棄される。
【0057】
当該プロセスの一実施形態の概略図が図1に示されている。図1に示されているように、プロセス100は、気相脱塩化水素化反応器102及び110、分離カラム104、108、112及び114、並びに塩素化反応器106を使用する。運転の際、1,2,3−トリクロロプロパンが気相脱塩化水素化反応器102に供給される。気相脱塩化水素化反応器102は、望ましくは、HCl、ジクロロプロペン、1,2,3−トリクロロプロペン及び未反応のクロロプロパンを生成するのに十分な条件で運転される。この反応流は、オーバーヘッド流中にHClを回収するために分離カラム104に供給される。
【0058】
分離カラム104からの底部流は塩素化反応器106に供給され、塩素化反応器106はテトラクロロプロパンとペンタクロロプロパンを含む反応流を生成する。塩素化反応器106から生成物流中の未反応の1,2,3−TCP及び1,2,2,3テトラクロロプロパンは分離カラム108により回収され、気相脱塩化水素化反応器102に再循環される。塩素化反応器106により生成した1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンは、分離カラム108からの底部流として分離され、第二の脱塩化水素化反応器110に送られる。
【0059】
TCPE、未反応のペンタクロロプロパン及びHClを含む脱塩化水素化反応器110からの生成物流は分離カラム112に供給され、分離カラム112は、さらなる無水HClを含むオーバーヘッド流を生成することができる。分離カラム112からの1,1,2,3−TCPEおよび未反応のペンタクロロプロパンを含む底部流は分離カラム114に供給される。分離カラム114は、TCPEを含む生成物流を提供し、未反応のペンタクロロプロパンを脱塩化水素化反応器110に再循環させる。
【0060】
図1に示すプロセスでは、フレッシュなTCPが反応器102に供給されるため、脱塩化水素化反応器102における第1脱塩化水素工程は、塩素化反応器106における第1塩素化工程の前に行われる。さらに、TCP、テトラクロロプロパン及び他の異性体は、有利なことに、実質的に同じ条件で、同一の気相脱塩化水素化反応器、すなわち脱塩化水素化反応器102で脱塩化水素化される。とはいえ、反応器102への入口組成は脱塩化水素化反応の相対反応速度に依存する。一般的に、入口組成は、30〜70モル%のTCPと、30〜70モル%の1,2,2,3−テトラクロロプロパン及び他のテトラクロロプロパン異性体である。もし両方の反応物で速度が同じである場合には、入口組成は全ての反応物についてほぼ同じであることがある。
【0061】
塩素化プロペンを製造するための1つのさらなる例示的なプロセスが図2に概略的に示されている。プロセス200は、たった1つの脱塩化水素化反応器が使用されることを除いて、プロセス100と同様である。プロセス200は、脱塩化水素化反応器202、分離カラム204、208及び214、並びに塩素化反応器206を使用する。
【0062】
運転の際、フレッシュな1,2,3−トリクロロプロパンは、再循環された1,2,3−トリクロロプロパンと、必要に応じてテトラ−及びペンタクロロプロパン異性体とともに、気相脱塩化水素化反応器202に供給される。脱塩化水素化反応器202は、望ましくは、塩酸、ジクロロプロペン、トリクロロプロペン、1,1,2,3−TCPE及び未反応のクロロプロペンを生成するのに十分な条件で運転される。HClが分離カラム204で除去された後、未反応のTCPを含む生成物流が分離カラム208からオーバーヘッド抜き取りされ、塩素化反応器206に送られる。
【0063】
塩素化反応器206からの塩素化生成物流は、脱塩化水素化反応器202に戻される。分離カラム208からの1,1,2,3−TCPE及び2,3,3,3−TCPEを含む底部流は分離カラム214に供給される。分離カラム214は、1,1,2,3−TCPE及びその異性体をオーバーヘッド生成物として回収し、テトラ−及びペンタクロロプロパンを脱塩化水素化反応器202に再循環させ、より重質の副生成物をパージする。2,3,3,3−テトラクロロプロペン異性体は、Sあらに、異性化ユニット(図示せず)においてTCPEに変換される。
【0064】
プロセス200の場合、フレッシュなTCPが反応器202に供給されるため、脱塩化水素化反応器202における第1脱塩化水素化工程は、第1塩素化工程の前に行われる。さらに、TCP、テトラクロロプロパン、ペンタクロロプロパン及び他の異性体は、有利なことに、実質的に同じ条件で、同一の気相脱塩化水素化反応器、すなわち脱塩化水素化反応器202で脱塩化水素化される。とはいえ、反応器202への入口組成は脱塩化水素化反応の相対反応速度に依存する。一般的に、入口組成は、20〜50モル%のTCPと、20〜50モル%の1,2,2,3−テトラクロロプロパンと、20〜50モル%のペンタクロロプロパンである。もし両方の反応物で速度が同じである場合には、入口組成は全ての反応物についてほぼ同じであることがある。
【0065】
本方法のさらなる実施形態を図3に示す。より具体的には、図3は、第1の、かつ、唯一の脱塩化水素反応器が液体苛性脱塩化水素化反応器302で行われるプロセス300を示す。プロセス300は、乾燥カラム316、塩素化反応器306、並びに分離カラム308及び314を使用する。
【0066】
運転の際、テトラクロロプロパン及びペンタクロロプロパン異性体が加わったTCPが塩素化反応器306から再循環され、フレッシュなTCPとともに苛性脱塩化水素化反応器302に供給される。この供給流は、脱塩化水素反応器302において2,3−ジクロロプロペン、1,2,3−トリクロロプロペン及びTCPEに脱塩化水素化され、その生成物流は乾燥カラム316に供給される。
【0067】
カラム316中で乾燥後、ジ−、トリ−およびテトラクロロプロペンを含むオーバーヘッド粗生成物流は分離カラム308に供給される。より軽質のオレフィン、すなわち、ジ−及びトリクロロプロペンが精製カラム308から塩素化反応器306にオーバーヘッド送給され、次に脱塩化水素化反応器302に再循環される。TCPEは底部流として分離カラム308から回収され、最終分離カラム314からオーバーヘッド抜き取りされ、より重質の副生成物はパージされる。
【0068】
プロセス300の場合、フレッシュなTCPが反応器302に供給されるため、脱塩化水素化反応器302における第1脱塩化水素化工程は、第1塩素化工程の前に行われる。
さらに、例えばTCP、テトラクロロプロパン及びペンタクロロプロパンなどの全ての脱塩化水素化反応が液相苛性脱塩化水素化反応器302において行われる。プロセス300は、無水HClというよりもむしろNaClを生成するけれども、従来の方法と比べて必要な装置がより少ないために単純化されている。さらに、気相触媒は必要とされない。その結果、触媒寿命及びファウリングが重要な問題にならないと期待される。プロセス300もおだやかな運転条件で実施可能であるため、エネルギーの節約がもたらされる。プロセス300は、そのため、本発明に見合った利点を提供し、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0069】
本方法により製造された塩素化プロペンは、典型的には、例えば1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン(HFO−1234ze)などのヒドロフルオロオレフィンなどのさらなる下流生成物をもたらすように処理することができる。本発明は、塩素化プロペンの改善された製造方法を提供するため、提供される改善は、これらの下流プロセス及び/又は生成物に及ぶと考えられる。例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン(HFO−1234yf)などのヒドロフルオロオレフィンの改善された製造方法も本発明で提供される。
【0070】
ヒドロフルオロオレフィンを提供するための塩素化プロペンの転化は、式C(X)mCCl(Y)n(C)(X)mで表される化合物を、式CF3CF=CHZで表される少なくとも1種の化合物(ここで、各X、Y及びZは独立にH、F、Cl、I又はBrであり、各mは独立に1、2又は3であり、nは0又は1である)にフッ素化することを含む、概して、単一の反応又は2以上の反応を含むことができる。より具体的な1つの例は、塩素化プロペンの供給原料が、例えば1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)などの化合物を形成するために、触媒気相反応でフッ素化される多段階プロセスを含み得る。1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパンは、次に、触媒気相反応により、2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンに脱塩化水素化される。
【実施例】
【0071】
実施例1
攪拌棒を備えたフラスコに、テトラブチルアンモニウムクロリド(20mg)、及び1,2,3−トリクロロプロパンと1,2,2,3−テトラクロロプロパンの混合物7グラムを装入した。この混合物を窒素でフラッシュし、80℃に加熱した。NaOH水溶液(9mL、5N)を数分間かけて滴下添加した。混合物を80℃で激しく撹拌し、1時間後及び3時間後に採取した。1H NMR分光法による分析から、表1に示す反応混合物の組成が示された。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例2
圧力反応器にジ−及びトリクロロプロペン(3.35g)と四塩化炭素(45mL)の混合物を装入した。撹拌(900rpm)を開始し、反応器を塩素/窒素混合物(30%Clv/v)により約140psigの圧力に加圧した。塩素/窒素混合物を25℃及び流量200sccmで、少なくとも140psigで反応器に約30分間通した。次に、混合物を1H NMR分光法により分析し、2,3−ジクロロプロペン及び1,2,3−トリクロロプロペンがそれぞれ高い選択率で1223−及び11223−ペンタクロロプロパンに変換されたことが示された。結果を以下の表2に示す。
【0074】
【表2】

本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
1,2,3−トリクロロプロパンを含む供給材料からの塩素化プロペンの連続製造方法であって、第1塩素化反応の前に脱塩化水素化反応が起こり、少なくとも2つの反応が同一の反応器で起こる、塩素化プロペンの連続製造方法。
[態様2]
少なくとも2つの塩素化反応が同一の反応器で起こる、上記態様1に記載の方法。
[態様3]
少なくとも2つの脱塩化水素化反応が同一の反応器で起こる、上記態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
少なくとも1つの塩素化反応が液相中で行われ、塩素化剤がCl2、SO2Cl2又はこれらの組み合わせを含む、上記態様1に記載の方法。
[態様5]
塩素化反応が、AlCl3、I2、FeCl3、硫黄、鉄、五塩化アンチモン、三塩化ホウ素、1種以上のハロゲン化ランタン、1種以上の金属トリフラート、又はそれらの組み合わせを含むイオン性塩素化触媒の存在下で行われる、上記態様4に記載の方法。
[態様6]
塩素化反応が、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)又はこれらの組み合わせを含むフリーラジカル開始剤の存在下で行われる、上記態様4に記載の方法。
[態様7]
前記供給材料がさらに塩化アリルを含む、上記態様1に記載の方法。
[態様8]
前記供給材料流の少なくとも1つの成分が、当該方法において又は当該方法の蒸留で生成したものである、上記態様1又は7に記載の方法。
[態様9]
第1脱塩化水素化反応が、気相で起こり、無水HClを含む生成物流を生成する、上記態様1に記載の方法。
[態様10]
第1脱塩化水素化反応が液相で起こる、上記態様1に記載の方法。
[態様11]
第1脱塩化水素化反応によりジクロロプロペン、トリクロロプロペン及びTCPEを含む混合物が生成する、上記態様10に記載の方法。
[態様12]
前記塩素化プロペンが3〜5個の塩素原子を含む、上記態様1に記載の方法。
[態様13]
前記塩素化プロペンが1,1,2,3−テトラクロロプロペンを含む、上記態様12に記載の方法。
[態様14]
請求項1に記載の方法により製造した塩素化及び/又はフッ素化プロペンを2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンに変換することを含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン又は1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンの製造方法。
図1
図2
図3