特許第6166262号(P6166262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166262
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】光量調節装置および光学機器
(51)【国際特許分類】
   G03B 9/06 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   G03B9/06
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-531509(P2014-531509)
(86)(22)【出願日】2013年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2013004977
(87)【国際公開番号】WO2014030356
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2016年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-185747(P2012-185747)
(32)【優先日】2012年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 隆仁
【審査官】 高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−203576(JP,A)
【文献】 特開平01−130140(JP,A)
【文献】 特開2011−215319(JP,A)
【文献】 特開2008−197177(JP,A)
【文献】 特開2006−084658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光量調節羽根のそれぞれが他の光量調節羽根と重なり合って光通過開口を形成し、該複数の光量調節羽根が回動することにより前記光通過開口のサイズが変更される光量調節装置であって、
前記複数の光量調節羽根はそれぞれ、前記光通過開口の径方向における前記光通過開口の縁を形成する端縁部側とは反対側の端部を形成する厚肉部と、前記端縁部と前記厚肉部との間に、前記厚肉部から前記端縁部に向かって厚さが減少するように形成された薄肉部とを有し、
前記薄肉部は、前記複数の光量調節羽根のそれぞれに部分的に設けられ、
前記光通過開口が最小絞り口径のときには、前記複数の光量調節羽根の前記薄肉部の最も薄い部分のみが前記光通過開口の縁を形成することを特徴とする光量調節装置。
【請求項2】
光通過開口のサイズが最小絞り口径に変化するまでの過程において、
隣接する前記複数の光調節羽根の前記薄肉部を面接触させながら、前記複数の光量調節羽根の先端の反り上がりを前記複数の光調節羽根に隣接する前記複数の光調節羽根の前記薄肉部によって案内することを特徴とする請求項1に記載の光量調節装置。
【請求項3】
前記薄肉部は、前記端縁部側における前記光量調羽根の基端側から先端までの間のうち、少なくとも中央部分に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の光調節装置。
【請求項4】
前記薄肉部の前記光通過開口の径方向での幅が、前記薄肉部の最大厚さの3倍以上、30倍以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項5】
前記薄肉部の前記光通過開口の径方向での幅が、前記光通過開口における最小絞り開口径の直径よりも広いことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項6】
前記複数の光量調節羽根の周縁に面取り部が形成されており、
前記薄肉部が前記面取り部とは別に形成されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項7】
前記複数の光量調節羽根の開口側部分に、中空シェル状の構造を有するカーボンブラックを含有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項8】
前記薄肉部は、前記複数の光量調節羽根の重なり合いにより発生する負荷または反力を低減するための形状を有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項9】
前記光量調節羽根の周縁のうち前記光通過開口のサイズが最大となる部分よりも内側に進入する部分の端部には、前記薄肉部または前記面取り部が設けられていることを特徴とする請求項から8のいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項10】
前記薄肉部は、前記端縁部に向かって厚さが連続的に減少するように形成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の光量調節装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の光量調節装置を有することを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置や交換レンズ等の光学機器に搭載される光量調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような光量調節装置(絞り装置)において形成される光通過開口としての絞り開口の形状は、できるだけ円形に近い方が好ましく、円形に近い絞り開口を形成するために3枚以上の多数枚の絞り羽根(光量調節羽根)が用いられる場合が多い。
【0003】
特許文献1には、ベース部材に形成した固定開口の周囲で回動可能な駆動リングによって多数枚の絞り羽根を回動させることで、円形に近い多角形の絞り開口を形成する虹彩絞り装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−48928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にて開示されているような虹彩絞り装置において、絞り羽根同士の重なり合いにより発生する負荷が大きすぎる場合がある。
本発明は、光量調節羽根同士の重なり合いにより発生する負荷を減少させることができるようにした光量調節装置およびこれを備えた光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光量調節装置は、複数の光量調節羽根のそれぞれが他の光量調節羽根と重なり合って光通過開口を形成し、該複数の光量調節羽根が回動することにより前記光通過開口のサイズが変更される光量調節装置であって、前記複数の光量調節羽根はそれぞれ、前記光通過開口の径方向における前記光通過開口の縁を形成する端縁部側とは反対側の端部を形成する厚肉部と、前記端縁部と前記厚肉部との間に、前記厚肉部から前記端縁部に向かって厚さが減少するように形成された薄肉部とを有し、前記薄肉部は、前記複数の光量調節羽根のそれぞれに部分的に設けられ、前記光通過開口が最小絞り口径のときには、前記複数の光量調節羽根の前記薄肉部の最も薄い部分のみが前記光通過開口の縁を形成することを特徴とする。
なお、上記光量調節装置を備えた光学機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光量調節羽根同士の重なり合いにより発生する負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例である絞り装置の分解斜視図。
図2】実施例の絞り装置に用いられる絞り羽根の平面図および断面図。
図3】実施例の絞り装置の中間絞り状態での絞り羽根を光軸方向から見た図。
図4】実施例の絞り装置の小絞り状態での絞り羽根を光軸方向から見た図。
図5】実施例の絞り装置の小絞り状態での絞り羽根の反りを示す斜視図。
図6】実施例の絞り装置を搭載した撮像装置の断面図。
図7】従来の絞り装置の小絞り状態での絞り羽根の反りを示す斜視図。
図8】従来の絞り装置を搭載した撮像装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0010】
本発明の実施例としての光量調節装置では、複数の光量調節羽根のそれぞれが他の光量調節羽根と重なり合って光通過開口を形成し、該複数の光量調節羽根が回動することにより光通過開口のサイズが変更される。そして、光量調節羽根は、複数の光量調節羽根が環状に重なり合う部分であり、光通過開口の縁を形成する端縁部を含む開口側部分に該光量調節羽根の回動方向において端縁部に向かって厚さが減少するように形成された薄肉部を有することを特徴とする。端縁部に向かって厚さが減少するように形成される薄肉部を有することによって、羽根同士が重なる部分に生じる反力が小さくなる。また、羽根同士が重なる部分に生じる反力が小さくなることによって、絞り開口の口径をより小さい口径まで絞り易くなる。
【0011】
ここで、「薄肉部」は、複数の光量調節羽根を環状に重なり合うように配置したときの重なり合う部分の縁、すなわち光通過開口を形成する端縁部を含む開口側部分において、当該端縁部に向かって厚さが減少する部分のことである。この薄肉部は、羽根同士の重なり合いによって発生する相互の負荷(摩擦等の物理的な干渉による抵抗)を低減すべく、所望の形状で構成することが可能である。例えば、薄肉部に相当する羽根の断面形状においては、光通過開口側の縁に向かうほど厚さが小さくなる鋭角状のくちばし形状であってもよい。あるいは、薄肉部において光通過開口側の縁に向かって厚さが連続的に減少する三角形状であってもよい。いずれにしても、薄肉部によって羽根同士の重なり合いによる相互の負荷を低減できればよいので、薄肉部の形状は光軸方向において表面の少なくとも一部が凸状あるいは凹状の表面形状を有するように形成してもよい。
【0012】
なお、複数の光量調節羽根は、回動させて光通過開口を形成する関係から、少なくとも相互に接触する表面において回動方向の動作を制限するような段差を設けることは好ましくない。このため、複数の光量調節羽根の相互に接触する部分の表面形状は、比較的滑らかな表面形状であることが好ましい。
【0013】
また、複数の光量調節羽根においては、薄肉部によって軽量化にも有効であることから、高速動作と円滑動作の両方を実現することができる。
【0014】
これらのことから、薄肉部は、光通過開口側の縁において角を削って設けた面取りレベルでは効果は非常に限定的であり、光量調節羽根の可動範囲において相互に重なり合う部分に亙って、羽根表面を構成するように比較的広範囲に設けることが好ましい。
【0015】
また、光量調節羽根の光通過開口側の端縁部のうち、特に中央部分、すなわち光通過開口を形成する部分のみに薄肉部を形成すればよく、場合によって光通過開口の形成に関与しない羽根先端や基端側まで積極的に設けなくてもよい。しかし、羽根同士の干渉を効果的に低減するためには、光通過開口の端縁部に亙って少なからず薄肉部を設けることが好ましい。なお、光量調節羽根のような構成は、薄くして軽量化するのが好ましいが、薄くし過ぎると返って安定した光通過開口を形成することが難しくなる。したがって、光量調節羽根には、ある程度の厚さは必要である一方、あまり厚過ぎると羽根の円滑動作が難しくなり羽根相互の干渉も強くなる傾向となる。実施例では、このような観点に立ち、羽根同士が干渉する部分において広範囲に羽根の表面の一部を形成する薄肉部を設けて相互干渉を減らしつつ、薄肉部以外の厚肉部によって羽根としての必要な剛性を確保することによって、円滑動作を実現しつつ、光通過開口を安定的に形成することを可能とするものである。なお、実施例では、各光量調節羽根の光通過開口側の端縁部に達するまで薄肉部が形成されているので、当該光量調節羽根の端縁部では乱反射を防止することができる。
【0016】
また、実施例にて用いられる光量調節羽根は、以下のように言い換えることもできる。すなわち、各光量調節羽根のうち他の光量調節羽根と重なり合う部分であり、光通過開口の縁を形成する端縁部を含む開口側部分が、該重なり合いによる反力(反り)を低減するために該光量調節羽根の回動方向において端縁部に向かって厚さが連続的に減少するように形成されている。これにより、複数の羽根同士による反りを抑えて、最小絞り口径に絞った場合に、カム部材、回転部材および押さえ部材等から構成される光量調節装置のベース部材の筐体内に光量調節羽根を留めることができる。光量調節羽根を光量調節装置の筐体の外に反りあがらないようにすることで、光量調節装置の配置を撮像装置のレンズ等と近づけることができ、光量調節装置を搭載した光学機器を小型化することができる。
【0017】
図1には、本発明の実施例である光量調節装置としての虹彩絞り装置を分解して示す。また、図2には、該絞り装置に使用される光量調節羽根としての複数の絞り羽根のうち1枚の絞り羽根の正面から見た形状とA−A線での断面とを示している。
【0018】
図1において、1,2,3,4,5,6,7は絞り羽根である。本実施例では、7枚の絞り羽根を用いる場合について説明するが、本発明は、3枚以上の複数の絞り羽根(光量調節羽根)を使用する絞り装置に適用することができる。以下の説明において、絞り羽根1,2,3,4,5,6,7を絞り羽根1〜7と略記し、また該絞り羽根1〜7のそれぞれの部分についても1x〜7xのように略記する。
【0019】
絞り羽根1〜7は、合成樹脂により薄板状に形成された一体成型部品である。絞り羽根1〜7はそれぞれ、図2に示すように、回動中心軸となる第1軸部1c〜7cおよび回動のための駆動力が入力される被駆動軸である第2軸部1d〜7dが互いに反対側の面に形成された基部と、基部から先端に向かって先細り形状に形成された羽根部1b〜7bとを有する。そして、羽根部1b〜7bには、後で詳しく説明する傾斜部(薄肉部)1a〜7aが形成されている。これら絞り開口を形成する端縁部に向かって厚さが減少する傾斜部1a〜7aが環状に重なり合うことで、羽根同士に生じる反力を従来よりも低減することができる。羽根同士に生じる反力を低減することで、円滑な絞り動作を行えるとともに、羽根同士の反力による反り量を低減することができる。
【0020】
また、図1において、8はリング状に形成された回転部材であり、その中央には開口部8aが形成されている。以下の説明において、この開口部8aおよび後述する部材(9,10)に形成された開口部(9a,10a)の開口面に直交する方向を光軸方向という。回転部材8には、その周方向7箇所に形成された軸穴部8b〜8hと、周方向に7つに分割された突条部8iと、周方向一部に形成されたギア部8jとを有する。また、回転部材8の周方向1箇所には、遮光部8kが形成されている。
【0021】
9はリング状に形成されたカム部材であり、本実施例の絞り装置のベース部材を兼ねている。カム部材9の中央には、開口部9aが形成されている。また、カム部材9には、その周方向7箇所にカム溝部9b〜9hが形成されている。さらに、カム部材9の周方向1箇所には、穴部9iとモータ取り付け部9jが設けられている。
【0022】
10はリング状に形成された押さえ部材であり、その中央には開口部10aが形成されている。
【0023】
11は回転部材8を駆動するステッピングモータである。ステッピングモータ11の出力軸には、ピニオンギア12が該出力軸と一体回転するよう取り付けられている。ステッピングモータ11は、カム部材9のモータ取り付け部9jに固定され、ピニオンギア12は、カム部材9の穴部9iを貫通して回転部材8のギア部8jと噛み合う。なお、ステッピングモータ11を、押さえ部材10に固定してもよい。回転部材8、カム部材9、ステッピングモータ11およびピニオンギア12により、本実施例の絞り装置の駆動機構が構成される。
【0024】
13は位置センサであり、フォトインタラプタにより構成されている。位置センサ13の投光部と受光部との間に回転部材8に形成された遮光部8kが入り込むことにより、回転部材8がその初期位置にあることを検知することができる。ここにいう初期位置は、絞り羽根1〜7によって形成される絞り開口の径(サイズ)が所定の開放開口径となる位置である。位置センサ13により検出された初期位置を基準として、ステッピングモータ11に与える駆動パルス信号の数をカウントすることで、絞り開口径を制御し、光量を調節することができる。
【0025】
押さえ部材10は、カム部材9との間に絞り羽根1〜7および回転部材8をこの順で配置する空間を形成してカム部材9に固定されることで、カム部材9に対する回転部材8および絞り羽根1〜7の脱落を防止する。回転部材8に形成された突条部8iは、押さえ部材10の開口部10a内に回転可能に挿入される。回転部材8は、突条部8iの外周面が押さえ部材10の開口部10aの内周面に対して摺動することで、周方向(光軸回り方向)にて回転可能に支持される。
【0026】
また、絞り羽根1〜7の第1軸部1c〜7cはそれぞれ、回転部材8に形成された軸穴部8b〜8hに回動可能に挿入される。一方、第2軸部1d〜7dはそれぞれ、カム部材9に形成されたカム溝部9b〜9hに挿入される。
【0027】
カム部材9に固定されたステッピングモータ11が駆動されてピニオンギア12が回転すると、該ピニオンギア12にギア部8jが噛み合っている回転部材8も回転する。これにより、絞り羽根1〜7は、第2軸部1d〜7dがカム部材9のカム溝部9b〜9hに沿って移動し(すなわち、第2軸部1d〜7dがカム溝部9b〜9hから駆動力を受けて)、第1軸部1c〜7cを中心に回動する。
【0028】
絞り羽根1〜7は、周方向にて均等間隔で配置されており、それぞれの羽根部1b〜7bが他の絞り羽根の羽根部と重なり合うことで、それらの内側に光通過開口である絞り開口を形成する。そして、絞り羽根1〜7が回動することで羽根部1b〜7bの重なり量が変化するとともに、絞り開口径が連続的に変更される。絞り羽根1〜7(羽根部1b〜7b)の重なり量が大きいほど絞り開口径は小さくなる。以下の説明において、各絞り羽根が回動する方向を羽根回動方向という。
【0029】
図6には、上記のように構成された絞り装置を搭載した撮像装置の構成を示している。14は絞り装置の像側に隣接して配置されたレンズであり、13は該レンズ14および絞り装置を含む撮影光学系により形成された被写体像を光電変換する撮像素子である。
【0030】
ここで、従来の虹彩絞り装置およびこれを搭載した撮像装置が有する問題について説明する。図8には、従来の虹彩絞り装置を搭載した撮像装置の構成を示している。101は絞り装置のベース部材であり、103はベース部材101の固定開口の周囲で回動可能な駆動リングである。106は駆動リング103を回動させるアクチュエータであり、105は駆動リング103によってベース部材101に設けられた軸部(図示せず)を中心として回動される複数の絞り羽根である。さらに、114は絞り装置に隣接して配置されたレンズであり、113は該レンズ114および絞り装置を含む撮影光学系により形成された被写体像を光電変換する撮像素子である。
【0031】
図8には、複数の絞り羽根105を絞り込んで小絞り開口を形成した状態(小絞り状態)を示している。また、図7には、この小絞り状態での複数の絞り羽根105を拡大して示している。絞り開口を絞り込んでいくと、複数の絞り羽根105は、その先端同士が互いに重なり合うことでレンズ114側に反っていく。このため、この反った絞り羽根105とレンズ114との干渉を避けるために、絞り装置に対するレンズ114の退避スペースh′を予め確保しておく必要がある。この結果、撮像装置が大型化する。
【0032】
また、この羽根同士の重なり合いにより発生する負荷によって、絞り羽根に傷が生じ、傷での光の反射によって光学特性が劣化するおそれがある。
【0033】
さらに、絞り羽根はある程度の肉厚を有するため、絞り羽根の厚みが絞り開口の開口面に対して大きな段差となり、いわゆる小絞り回折が発生して光学性能が劣化し易い。
【0034】
これに対して、実施例の光量調節装置では、複数の絞り羽根を絞り込んだ状態での羽根同士の重なり合いにより発生する反力(およびこれに起因する羽根の反り)を低減することができ、さらに羽根同士の重なり合いにより発生する負荷を減少させたり小絞り回折を抑制したりすることができる。
【0035】
このように各絞り羽根の開口側部分を端縁部に向かって厚さが連続的に減少するように形成することで、複数の絞り羽根を絞り込んだ状態での羽根同士の重なり合いによる反りを低減するので、光量調節装置を厚さ方向にて小型化することができる。このため、実施例の光量調節装置を搭載した光学機器の光学性能を向上させることができる。しかも、開口側部分が上記のように形成されることで、羽根同士の重なり合いにより発生する負荷を低減して羽根に傷が付くことを防止したり、羽根と光通過開口との段差を小さくして光学性能の劣化を抑制したりすることもできる。
【0036】
図7および図8を用いて説明したように、従来の絞り装置では、複数の絞り羽根105を絞り込んで小絞り開口を形成した小絞り状態では、複数の絞り羽根105は、それらの先端同士の重なり合いによって光軸方向(レンズ114側)に大きく反る。
【0037】
この小絞り状態での羽根反りの問題を解消するためにも、本実施例では、各絞り羽根(1〜7)の羽根部(1b〜7b)を以下のように形成している。図2および図3に示すように、各絞り羽根の羽根部のうち他の絞り羽根の羽根部と重なり合う部分(複数の絞り羽根が環状に重なり合う部分)であり、かつ絞り開口の縁を形成する端縁部(1e〜7e)を含む部分を、開口側部分(1a〜7a)という。そして、本実施例では、この開口側部分(1a〜7a)を、該重なり合いによる反力(反り)を低減するために羽根回動方向において端縁部(1e〜7e)に向かって厚さが連続的に減少する傾斜部(薄肉部)として形成している。図2では、羽根回動方向を、A−A線に沿った方向として示している。なお、図3には、小絞り開口より大きい絞り開口径を形成している絞り羽根1〜7を回転部材8側から(左図)とカム部材9側から(右図)見て示している。また、図4は、小絞り開口を形成している絞り羽根1〜7を回転部材8側から(左図)とカム部材9側から(右図)見て示している。
【0038】
図2では、「端縁部に向かって厚さが連続的に減少する」形状の例として、開口側部分(1a〜7a)における厚さ方向両面うち回転部材8側の面(第1の面)が、カム部材9側の面(第2の面)に対して一定の傾き角度θで傾いた傾斜面である場合を示している。この例は、端縁部に向かって厚さが連続的に、かつ一定の割合で減少する例でもある。ただし、「端縁部に向かって厚さが連続的に減少する」形状はこれに限られず、第1の面と第2の面が共に羽根部(1b〜7b)のうち開口側部分(1a〜7a)以外の平行平板状の部分に対してどのような割合で減少して傾斜する傾斜面であってもよい。この場合の第1の面と第2の面とのなす角度(傾き角度)θは、1度以上、30度以下のくちばし状であることが望ましい。さらに言えば、角度θが小さいほど羽根反りが低減することから、角度θは20度以下や10度以下である緩やかな先細り形状とすることがより望ましい。θを30度以下とすることで、複数の絞り羽根を絞り込む状態での絞り羽根同士の重なり合いによる反りを連続的に緩やかに変化させることができる。このため、絞り羽根の急激な反り上がりによる羽根の傷付きと変形とを防止することができる。また、θを小さくするにつれて複数の羽根同士の重なり合いによる負荷変動も低減され、絞り装置としての動作不良を防止することもできる。
【0039】
また、第1の面と第2の面のうち少なくとも一方が傾斜面のような平面形状ではなく曲面形状として形成されることにより、端縁部に向かって厚さが連続的に減少するものの、その減少率が一定でなくてもよい。この場合の第1の面と第2の面のなす接線同士がなす角度(上述した傾き角度に相当する角度の範囲)も、1度以上、30度以下であることが望ましく、20度以下や10度以下であることがより望ましい。
【0040】
さらに、開口側部分(1a〜7a)の羽根回動方向での幅Wは、該開口側部分の最大厚さTの3倍以上、30倍以下であることが望ましい。幅Wは、絞り開口径が変化しても絞り開口の端縁部から羽根同士が反り合って離れる部分よりも手前の羽根同士が重なる部分全域に渡って肉厚の羽根部よりも薄肉となる部分が形成されることによって、羽根同士の反力をより低減することができる。角度θが小さいほど幅Wの最大厚さTに対する倍率は大きくなる。また、本実施例(図2)では、開口側部分(1a〜7a)が、羽根部(1b〜7b)における羽根回動方向の一部に形成されている場合について説明しているが、羽根部(1b〜7b)における羽根回動方向の全体に形成されていてもよい。
【0041】
加えて、各絞り羽根(1〜7)の開口側部分(1a〜7a)は、端縁部(1e〜7e)に一定の厚さの部分を有してもよい。「端縁部に向かって厚さが連続的に減少する」は、必ずしも端縁部まで一定の厚さの部分を含まないように厚さが連続的に減少することまでを必要としない。
【0042】
本実施例のように端縁部に向かって厚さが連続的に減少する場合と、単に厚さを薄く形成した端縁部と羽根部の厚さとを同じとした(つまり絞り羽根の全体が薄い)場合とを、端縁部が同じ厚さであるとして比較すると、本実施例の方が絞り羽根の強度が向上する。このため、絞り羽根に必要な強度を確保するためにも、端縁部に向かって厚さが連続的に減少するように開口側部分を形成することにより、端縁部の厚さが薄いにもかかわらず、高い羽根強度を有する絞り羽根を実現することができる。
【0043】
なお、図2に示すように、本実施例の絞り羽根(1〜7)の周縁には面取り部(1f〜7f)が形成されているが、開口側部分(1a〜7a)は該面取り部とは別に、言い換えれば、面取り部より大きな幅Wを有するように形成されている。面取り部には、角を除去する効果しかなく、開口側部分(1a〜7a)のように絞り羽根同士の重なり合いによる羽根反りを低減する効果は全くない。面取り部(1f〜7f)は角を除去することによって、光路内での光の乱反射を防止している。従って、ベース部材の開口を通って撮像素子への光路となる部分には薄肉部(1a〜7a)または面取り部(1f〜7f)が設けられることが好ましい。従って、光通過開口のサイズが最大となる部分よりも内側に進入する部分のうち端縁部(1e〜7e)に達するまで厚さが連続的に減少する傾斜部(薄肉部)(1a〜7a)が設けられていない部分には、面取り部(1f〜7f)が設けられることが好ましい。
【0044】
厚肉部の縁部に面取り部を設けることで、入射光または撮像素子からの反射光の乱反射を防止でき、図2に示すように、絞り羽根のうち回動してベース部材の開口部分に進入する部分には、乱反射を防止する形状とすることが好ましい。このため、実施例において、各絞り羽根の薄肉部に隣接して厚肉部の面取り部を設けることによって光の乱反射を防止し、該絞り羽根の強度向上を図ることができる。また、絞り羽根(1〜7)の周縁には、羽根の先端側から開口側部分(1a〜7a)及び、第1軸部(1c〜7c)側から開口側部分(1a〜7a)にかけて、羽根の厚さが連続的または段階的に減少するように、厚み変化部分(1g〜7g)が設けられている。厚み変化部分(1g〜7g)によって、それぞれの開口側部分(1a〜7a)の厚さを薄くしても強度を確保しやすい。また、本実施例の絞り羽根(1〜7)には、樹脂材料による一体成形の際に、遮光材料としてケッチェンブラックEC300J(ライオン株式会社製)を添加した。ケッチェンブラックEC300Jは、中空シェル状の構造を有するカーボンブラックであり、導電性に優れるとともに、樹脂に同重量のカーボンブラックを混練した際の重量混合割合において、粒子内が充填されたカーボンブラックよりも遮光性に優れる。そのため本実施例の絞り羽根は、肉厚の薄い部分がある絞り羽根においても光線漏れを起こしにくい。また、ケッチェンブラックEC300Jは、導電性に優れるため、絞り羽根(1〜7)を傾斜させて表面積が増加している場合にも、帯電を防止しゴミ、塵等が付着しにくい。
【0045】
以上説明した本実施例によれば、各絞り羽根(1〜7)の羽根部(1b〜7b)に、羽根回動方向において端縁部(1e〜7e)に向かって厚さが連続的に減少する開口側部分(1a〜7a)を形成することで、図5および図6に示すように羽根反りを低減することができる。図5には、小絞り状態での絞り羽根1〜7を拡大して示している。図6においてHは本実施例での小絞り状態での羽根反り量を示しており、図8に示した従来の絞り装置の羽根反り量H′に比べて少ない。そして、羽根反り量が少ないことで、絞り装置に対して羽根反りの方向に隣接したレンズその他の光学部材の絞り装置からの退避スペースhを、従来の退避スペースh′に比べて小さくすることが可能であり、その分、撮像装置を小型化することができる。
【0046】
さらに、本実施例では、開口側部分(1a〜7a)を形成することで、絞り羽根(1〜7)が重なり合って回動するときに発生する負荷を低減することができる。具体的には、図3および図4に示すように、各絞り羽根(1a〜7a)は、その開口側部分(1a〜7a)の傾斜面(第1の面)上を他の絞り羽根の開口側部分の平面(第2の面)が摺動しながら回動して絞り開口径を増減させる。このとき、開口側部分(1a〜7a)が端縁部(1e〜7e)に向かって厚さが連続的に減少するように薄く形成されていることで、絞り羽根同士の摺動性が良好となり、負荷の発生を抑えることができる。このため、絞り装置の良好な動作特性を得ることができるとともに、各絞り羽根に傷が付くことを防止することができる。
【0047】
なお、本実施例では、小絞り状態での最小絞り開口径として、直径1mm以下という極めて小さな絞り開口径を想定しており、このような極めて小径の小絞り状態を少ない羽根反り量、かつ小さな摺動負荷で実現できる点が、従来とは異なる本実施例の特徴である。そして、開口側部分(1a〜7a)の羽根回動方向での幅Wを最小絞り開口径の直径よりも広くするようにすれば、最小絞り開口径に絞る際の摺動性がより良好となる。
【0048】
また、本実施例では、開口側部分(1a〜7a)の端縁部(1e〜7e)が薄いため、絞り羽根(1〜7)の厚みが絞り開口の開口面に対して大きな段差とならず、該段差が大きいことによる光学性能の劣化を防止することができる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
良好な絞り開口形状を有する小型の光量調節装置およびこれを搭載した小型の光学機器を提供できる。
【符号の説明】
【0050】
1〜7 絞り羽根
8 回転部材
9 カム部材
10 押さえ部材
11 ステッピングモータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8