(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程c)及び前記工程d)は、流体を吹き付けて地盤を掘削することにより、スラリを形成し、前記壁付き凹所から前記スラリを除去する工程を備えることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【背景技術】
【0002】
地盤を掘削し、掘削現場に構造物を建設したり、汚染土壌を除去したりすることが知られている。しかし、このような掘削を行う前には、掘削現場の周辺の地盤を動かないようにする、即ち保持し、掘削現場に土砂が崩れ込んで作業が中断したり、その他の好ましくない障害が生じたりしないようにするための対策を講じる必要がある。擁壁は、地盤が動かないようにするために用いられるそのような対策の1つであって、保持された区域から土砂のない区域(即ち掘削現場)に土砂が移動するのを防止するために設置される。
【0003】
通常、擁壁は、垂直に直立した壁、または側面に段がある壁であって、一方の面が掘削現場に向くと共に、他方の面は掘削現場に向かおうとする土砂を食い止めている。現場の状況や要求条件に応じ、現場の周囲に複数の擁壁を立設することもある。また、擁壁は、例えば防水堰の壁の形成、または埋め立て現場の封止もしくはせき止めに用いる場合のように、水が現場に入り込むのを防止するために使用されることもある。
【0004】
擁壁が構築されると力が擁壁に作用し、擁壁はこれに耐える必要があるが、この力は、擁壁により保持される地盤の土砂の質量による力、擁壁上に設けられる何らかの物体の質量による力、及び擁壁が地中にある点の周りにおいて地盤により生じる回転力である。また、擁壁に対して別の力(即ち、地震、交通荷重、局部振動荷重などによる力)も作用することがある。公知の擁壁において、これらの力は、擁壁の慣性質量及び擁壁に対して地盤により生じる摩擦によって支えられる。従って、擁壁は水平方向の移動による力と、回転モーメントによる力との両方を支える必要がある。
【0005】
さまざまな形式の擁壁及び擁壁の構築方法が知られている。
【0006】
例えば、シートパイルで形成した擁壁が知られている。シートパイルは、木材や他の材料を用いることも可能であるが、金属製の波板であるのが一般的であり、金属製の波板を結合し、または組み立てて擁壁が形成される。一般的にシートパイルは、アンカーで固定しない場合、掘削の最終深度より遙かに下方となる深さまで、適切な打ち込み装置を用いて地盤内に打ち込む必要がある。シートパイルの一部は、地面から突き出したままとなるのが一般的である。地盤へのシートパイルの打ち込みが完了すると、その区域の掘削を行うことが可能となる。擁壁を構築するためにシートパイルを用いることに伴う不都合には以下が含まれる。
【0007】
a)シートパイルを地中にたたき込むまたは打ち込む必要があり、大きな騒音が生じるおそれがあって、騒音規制のために夜間に擁壁を構築することはできない。
b)シートパイルは、自立性を有しておらず、幅の広い擁壁、または深く設けられる擁壁に用いるには適切でないことが多い。
c)シートパイルが地中にあって、隣接する構造物がその両側に存在する場合には、アンカーを打ち込むための十分なスペースが得られないことが多い。
d)シートパイルは、地下の硬い岩盤層を貫通させることができないため、ドリルで岩盤層を破砕する必要があり、擁壁構築の時間が長びくと共にコストが増大する。
e)シートパイルは、現場に隣接する建物の基礎部分の周辺の地盤を不安定にしないようにする必要があるような人口密集市街地の現場には不向きであることが多い。
f)シートパイルの継ぎ目で漏洩が生じる可能性があり、腐食により金属の接合部分が破損する可能性があるため、遮水性を有した防壁を形成するには適切でない場合が多い。
【0008】
「ベルリンの壁」或いは土留め壁としての擁壁も知られている。これらの擁壁は、土留め杭(基本的に、コンクリート製もしくは金属製の、柱体、H型ビームまたは板材)を一定の間隔で地中に打ち込むことによって構築されるのが一般的である。そして、極めて浅い掘削が行われる。その後、一般的に木製またはコンクリート製のパネルからなり、掘削区域に向かおうとする土砂を食い止めるための横板、即ち土留め板で土留め杭が連結される。土留め杭やベルリンの壁からなる擁壁の不都合な点には以下が含まれる。
【0009】
i)まず第一に、一時的な設置に限られるものである。
ii)シートパイルと同じく、遮水性を有した防壁として用いるには適切でない。
iii)木製の土留め板は、湿潤な地盤中において時間の経過と共に腐食することが多いため、地盤を保持する能力が低下すると共に、有害なバクテリアが発生する可能性がある。
iv)シートパイルと同じく、土留め杭を打ち込む際には大きな騒音が生じる。
v)安定性を確保するためにビーム及びアンカーが必要であり、建造物のレイアウトに干渉する可能性がある。
【0010】
もう1つの擁壁の形式にはコンクリート製のものが含まれる。コクラン(Cochran)に与えられた米国特許(特許文献1)は、壁で囲まれたプール用掘削凹所を構築するための方法及び装置に関するものであり、プールを設けるために地面を掘削し、セメント状の材料からなる壁で囲まれた凹所を形成するための方法及び装置が示されている。
【0011】
リー(Lee)による米国特許出願(特許文献2)は、支え棒式の自立型土留め用擁壁を構築する方法に関するものである。この文献には、掘削に先立って土圧のような外部からの力を支えるために用いられる、支え棒式の自立型土留め用擁壁を構築する方法が示されており、流動性のある硬化材料もついても述べられている。
【0012】
特許文献3〜6も、擁壁に関するものであり、擁壁またはその他の類似した構造物を構築するための方法に関するものである。
【0013】
米国以外の特許文献7〜16も公知である。
【0014】
これらの公知の擁壁及びその構築方法のいくつかについて生じる不都合には、以下が含まれる。
【0015】
I)擁壁用の地盤を整備するために極めて大型の機械が必要となる場合が多く、作業場所に制限のある現場での擁壁の構築能力を阻害するおそれがある。
II)コンクリートやその他の材料の使用を最小限にする必要があるため、構築された擁壁は比較的薄くなる場合が多く、補強やアンカーによる固定が必要となって工事が複雑化する。
III)このような擁壁は、他の構造物、車両、設備などを支持する上で十分な強度を有していないおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の説明において、同様の要素については同じ参照符号を用いる。また、簡素化及び明瞭化のため、即ち、個々の参照符号で図面が過度に複雑にならないようにするため、本発明の擁壁の構築方法における構成、工程及び特徴の全てには参照符号を付しておらず、構成、工程及び特徴のいくつかは、1つの図のみにおいて参照符号を付す場合があり、別の図に示した構築方法における構成、工程及び特徴については、参照符号を付した図から容易に推測可能である。図に示した実施内容、外形形状、材料及び寸法は、任意のものであって例示のみを目的として示したものである。
【0028】
また、本発明の擁壁の構築方法は、例えばセメント状の材料からなる擁壁の構築に用いることが可能であるが、別の流動性材料で形成される擁壁または別の形式の壁の構築に適用することも可能である。このため、「セメント状」、「コンクリート」などの表記は、本発明による方法の適用範囲をこれらの特定の材料に限定するものではなく、本発明による方法を適用可能であって有用となりうる、あらゆる種類の材料、対象物、用途を包含するものである。
【0029】
更に、擁壁の構築方法のさまざまな選択的形態を説明する際、「保持」、「防止」、「抑制」、「制限」及びその他の同様の表現は、相互に入れ替えて適用可能である場合がある。また、「注入」、「充填」、「伝達」、「搬送」及び「挿入」といった表現は、別の同様の表現を適用することが可能である。
【0030】
また、付随する図面に示した選択的形態は、さまざまな構成要素からなり、開示した方法の実行は、ここで説明し図示するような特定の形状的形態を伴うものであるが、これらの構成要素及び形状的形態の全てが必須というわけではないため、限定的解釈すべきではなく、本発明による擁壁の構築方法を限定するものではない。別の適切な形状的形態に加え、別の適切な構成要素及びそれらの組み合わせを、簡潔に説明するとおり、また容易に推測できるように、本発明の方法の範囲から逸脱することなく、本発明による擁壁の構築方法及び対応する擁壁に適用することが可能である。
【0031】
全般に、本発明による擁壁の構築方法は、擁壁の構築を容易にし、地盤の掘削前、掘削中及び掘削後にかけて、擁壁の周辺の地盤の安定性を高めることができる。こうした安定化により、掘削作業をより一層安全なものとすると共に、構築された擁壁への荷重を軽減することが可能である。擁壁の周辺の地盤を高密度化することにより、後述するように、擁壁に対して作用する力を軽減することが可能となる。
【0032】
実際に、高密度化していない地盤は、高密度化した地盤とは異なる固有の特性を有しており、擁壁に対してより大きな力が働くことになるため、水平方向の移動及び回転モーメントに十分に抗するだけの能力がない。高密度化(即ち締め固め)は、必要な抵抗力を地盤に与えるので、高密度化した地盤では、より小さな応力を擁壁に作用させることが可能となる。このように高密度化した区域の外側では、地盤が本来の特性を有している。
【0033】
図1に示すように、後述する方法により構築された擁壁10は、構造物の建設や作業などを行うような現場14にとって、例えば地盤12の土砂や液体などの物質が障害とならないようにするため、これらの物質を保持または確保するために用いることができる構造物である。
【0034】
本発明の一態様によれば、セメント状の材料からなる擁壁を構築するための方法が提供される。この方法を説明する場合、「構築」という用語は、擁壁の形成、設置、硬化などのことをいう。また、「セメント状」という用語は、コンクリートやそれ以外の硬化する流動性材料のような物質のことをいう。これに代えて、流動性を有さない別の材料を擁壁の構築に用いることも可能である。これらの材料には、金属製補強材、フレーム材、プラスチック、木材、断熱材、液固混合物、エポキシ材などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
擁壁の構築方法には、構築しようとする擁壁の外形を地盤の表面に画定する工程として工程a)が含まれており、その一例が
図1A及び
図2に示されている。工程a)を説明する際に用いる「画定」という用語は、地盤12の表面に対し、境界の設定、範囲の設定、輪郭線の設定などを行い、構築しようとする擁壁の外形16で地取りを行うことをいう。従って、外形16の画定には、地盤12への視覚的なマーキング、地盤12の削り取り、或いはこれらに類似した別の行為を行うことにより、構築しようとする擁壁の境界を定める作業が含まれる。外形16により、構築しようとする擁壁の長さ及び幅が定まるので、後述する工程において掘削する地盤12の区域18が外形16によって取り囲まれる。
図2は、外径16及び区域18の一例を立体画法により示している。図に示すように、地盤12の表面における擁壁の外形16は、擁壁がある程度の距離にわたって延設されることから、細長くなっている。
【0036】
擁壁の構築方法には、区域18を締め固めることにより、区域18の下方及びその周辺の地盤12の密度を高める工程として、
図1A及び
図2に一例を示した工程b)も含まれる。この工程によって生じる影響は、
図2における地盤12中の網掛け線によって例示されている。「締め固め」という用語は、体積の減少及び密度の上昇の少なくとも一方を意味するものと理解することができる。締め固めの目的は、区域18の地盤12の密度を高めることであって、その処理は「高密度化処理」として知られており、これによって地盤12の安定性が増す。締め固めによって極めて集中的に力を加えることにより、擁壁を構築しようとする区域18の地盤12の密度が均一化すると共に高まり、締め固めによって地盤12に伝達されるエネルギにより、地盤12中の空所や別の障害物が破壊されると共に、地盤12中の受動土圧が徐々に増大し、地盤12の剪断強度及び安定性を増大させることが可能となる。飽和していない細土からなる地盤12の場合、高密度化により、地盤12の吸水能力が増し、掘削が行われる際の地盤12の安定性が更に増す。また、極めて集中化されたエネルギにより、地盤12から水分が効果的に排出され、地盤の密度がより一層高まると共に安定性が増す。従って、締め固め処理により、多くの場合には約10フィート(約3.048m)の深さにわたり、安定化した地盤12の土砂からなる柱が、締め固められた区域18の直下に形成される。このような処理は、「地中深部締め固め」として知られている。このような安定性は、区域18の直下の地盤12のみに限定して得られるわけではなく、地盤12の側方の周辺領域に拡張して得られるものである。従って、締め固めにより区域18の下方及びその周辺の地盤12が安定化され、掘削の際の区域18における安定性が得られると理解することができる。
【0037】
区域18の締め固めの一適用例では、適切な装置を用い、区域18と、その周囲の地盤12の表面との両方の締め固めが行われる。区域18の周囲において締め固めされる地盤12の範囲は、当該周辺部分に求められる安定性の程度、締め固める地盤12の特性、最終的に構築される擁壁の特性などに加え、これらに限定されないさまざまな要素に応じて変更することが可能である。このような周辺領域の締め固めを行う際には、適度に密度を高めた土砂からなる多数の柱を、締め固めを行う場所の下方に形成してもよい。これらの柱の内側の高密度の地盤12は、密度を高めていない地盤による通常の応力や動きを受けにくくなるので、これらの柱は、最終的に構築される擁壁に対して作用する力を効果的に低減しうるものとなる。
【0038】
選択的な一構成例では、
図2に例示するように、振動力11を加えることによって締め固めが行われる。このような振動力11は、極めて高い周波数で繰り返し印加される力としてもよい。このような振動力11の印加は、締め固める地盤12を継続的に繰り返してたたくことにより行われ、締め固めを行う場所の下方及びその周辺の地盤12の密度が高められる。この振動力11は、とりわけ締め固めの現場における騒音規制を満たす締め固めの範囲で変化するさまざまな要素に応じ、約0.5G〜約5Gの加速度で印加することができる。
【0039】
締め固めは、
図6に一例を示す振動プレート13のような任意の適切な機具を用いて行うことができる。このような振動プレート13は、とりわけ現場で使用可能な設備及び動力源に応じ、液圧または空気圧により駆動することができる。いくつかの実施可能な構成例では、振動プレート13が、液圧回路15に接続され駆動されるようになっており、この液圧回路15は、現場の設備から形成するか、或いは振動プレート13専用の別個の回路として設けることができる。この液圧回路15により、振動力11を地盤表面及び地盤内部の両方に印加する上で必要な動力及び耐久性が効果的に得られる。液圧回路15が現場の装置19から形成されている場合、そのような装置19に振動プレート13を結合することができる。そのような選択的な一構成例では、例えば掘削に用いる掘削機具17を駆動する装置19と共に、振動プレート13を用いることができるようになっている。掘削作業を一旦中断して、掘削機具17を振動プレート13に交換することができる。このような相互運用の一例は以下のとおりである。即ち、地盤12を締め固めるために装置19に振動プレート13を取り付け、締め固め作業が完了すると、振動プレート13を掘削機具17に交換し、締め固めが完了した地盤12の掘削が行われる。このようにして掘削機具17を振動プレート13と交換することにより、極めて強力な振動力11を用いることが可能となり、7m以上の深さにわたって、地盤12の密度を適切に高めることができる。
【0040】
別の選択的な構成例では、より大きなシステムの一部を形成する締め固め装置19を用いて締め固めが行われる。締め固め装置19は、擁壁を形成しようとする区域18の地盤12を締め固めることができるようになっている。締め固め装置19は、約2.5フィート(約0.762m)×2フィート(0.610m)の大きさの振動プレート13を備えているが、別の大きさの振動プレート13を用いることも可能である。振動プレート13は、例えば、一般的に建設現場で容易に使用可能な油圧式ショベルのアームに作動可能に装着することができる。このような構成において、油圧式ショベルのアームにより振動プレート13を下降させ、さまざまな深度まで締め固めを行うことが可能である。別の選択的な構成例では、クレーンまたはこれに類似する装置に、振動プレート13が作動可能に装着され、後述するように、トレンチボックス及びその下方の掘削によって得られる空間内に締め固めのエネルギを伝えて締め固めを行うべく、掘削深度に応じて下降される。これにより、擁壁を構築する際に、さまざまな向きの深度で地盤12の特性を改善することが可能となる。このような締め固めの手法により、現場の作業者は、例えば締め固めや掘削を行う場所の近くで障害を発見した場合など、必要に応じて容易に対応処置を行うことができる。
【0041】
通常の作業の際、締め固めの装置19は、締め固めようとする地盤12の対象範囲の上方に配置することが可能であり、構築しようとする擁壁の軸線に概ね沿って配置される。次に、締め固めの装置19が作動すると、振動プレート13が対象範囲を丹念且つ力強くたたき、打ち、締め固める。対象範囲の地盤12が十分に締め固められたことを確認すると、締め固めの装置19は別の対象範囲に移動し、作業が繰り返される。このような作業は区域全体にわたって行われる。ここで用いている「区域」という用語は、表面において境界が画定された場所のことであり、形成しようとする擁壁の外形の幅と長さとに概ね一致する。このような区域には、締め固めの装置19によって締め固められる地盤12が含まれる。このような締め固め工法は3次元で作用が及ぶものであって、擁壁の外形に沿う面も締め固められる。
【0042】
締め固めは、所望の地盤12の特性が得られるまで継続して行うことが可能である。そのような特性の1つは、最大密度に対する実密度の比率である締め固め度である。締め固め度は、締め固めの後に現場で計測された密度を、実験室で計測された同様の地盤の実験値と比較したものである。いくつかの構成では、比較対象となる所定の地盤についての標準プロクタ(Proctor)密度と比較した場合に、締め固めによって、約90%〜約100%の締め固め度を得ることができる。
【0043】
擁壁の構築方法には、一例を
図1A及び
図3に示した工程c)も含まれ、この工程c)は、工程b)で締め固められた区域において、初期深度20まで地盤12を掘削することにより、壁付き凹所22を形成する工程である。この壁付き凹所22は、底面24と側面26とを備えている。
【0044】
地盤12の掘削は、任意の適切な装置を用いて完了することができる。
図6には、そのような装置の一例として、掘削機具17が示されている。このような装置は、上述した更に大きなシステムの一部として用いることが可能である。この掘削装置は、工程b)に関して説明したようにして締め固められた区域の地盤12を掘削するために用いることができる。掘削装置は、ショベル、掘削機、スコップ、金ごて、浚渫機などの公知の任意の装置とすることが可能であり、機械式、空気圧式及び液圧式のいずれか、またはその組み合わせとすることができる。実施可能な一構成例として、
図7に例示するように、水噴射など、ホース23からの供給による流体噴射21によって掘削を行うことが可能である。掘削しようとする区域の地盤12に向け、加圧して流体噴射21を行うことにより、掘削しようとする地盤の土砂が液状化し、一種のスラリ25が形成される。その後、例えば負圧ホース27を用い、壁付き凹所22からスラリ25を吸引または除去することができる。このような手法により、後に続く地盤12の層を掘削することが可能となり、現場の作業スペースが限られて機械式または液圧式の掘削器具を用いることができない場合には極めて実用的である。掘削しようとする地盤12の中に、識別が困難であるか、または十分に識別できない障害物が多数埋まっているような場合にも、このような手法は同様に実用的である。また、このような手法を用いた掘削により、既存の地下構造物の下方に、当該構造物の解体を要することなく、トンネルを形成することが可能となる。
【0045】
図3に戻ると、ステップb)で対象となる区域の地盤12を締め固めた後は、地盤12を掘削することが可能になると共に、周囲の側面26が壁付き凹所22内に崩れ込む危険性が大幅に減少する。掘削は初期深度20まで行われるが、この初期深度20は、例えば約2m〜約3mの範囲で変更することが可能である。初期深度20は、第1掘削段階における底部の位置に相当する。後述するように、複数回にわたって掘削が行われるに従い、初期深度20は、実施される掘削段階の数に対応して、異なるn個の中間深度に置き換わっていく。掘削が行われることにより壁付き凹所22が形成され、掘削により形成される壁付き凹所22は、任意の立て坑、クレータ、穴、窪みなどとすることができる。締め固め及び掘削が繰り返し行われるに従い、壁付き凹所22の形状が変化し、具体的には次第に深くなっていく。但し、それぞれの掘削の後、壁付き凹所22は、そのときの掘削段階において壁付き凹所22の底部となる底面24を有することになり、この底面24は、実質的に平坦であってもよいし、でこぼこの面であってもよい。壁付き凹所22は、側部に側面26を有し、これら側面26も各掘削段階において下降していくことになるが、上述した区域の周辺の地盤12に対して締め固めが行われているため、側面26は極めて安定した状態とすることができる。側面26は、掘削によって露出した、締め固められた地盤12からなる。いくつかの構成例として、プラスチック製または木製のシート材といった覆いを側面26に付加してもよい。
【0046】
いくつかの選択的な構成例として、擁壁の経費及び効果を可能な限り最適化するため、側面26を支保構造体29で補強または支持するのが望ましい。支保構造体29はさまざまな形態とすることができる。そのような形態の1つは、鋼製プレート、及び「ケーソン」として知られる鋼製ボックスまたはシートパイルボックスの少なくとも一方からなるものであって、これらは一時的に設置することができる。これら鋼製プレート及びケーソンは、深さを約1m〜3mの範囲で変更することが可能である。多くの場合、これらの支保構造体29は、第1掘削段階の間にのみ、安定化のために設置される。このような支保構造体29の設置の一例として、約1mの深度まで掘削が行われた後に、ケーソンが地中に押し込まれ、次の締め固め及び掘削が開始される。ケーソンは、必要に応じ、材料や大量の土砂を支えて圧力に耐えるように補強された基本的に大きな鋼製の箱体である。支保構造体29の設置の別の一例として、掘削を行うと共に、掘削中にケーソンを設置するようにしてもよい。
【0047】
擁壁の構築方法には、一例を
図1A及び
図3に示した工程d)も含まれ、この工程d)は、壁付き凹所22の底面24を締め固めた後、締め固めた底面24において地盤12を掘削する工程である。底面24の締め固めは、工程b)に関して上述したようにして行うことができる。締め固めは初期深度20において行われるので、適切な締め固め装置を用いて作業を完了することができる。このような装置の一例には、上述したような掘削機具が含まれ、振動プレートを掘削機具と交換して締め固めに用いることができる。底面24の締め固めにより、上述した対象の区域における締め固めと同様の効果が得られる。より具体的には、例えば振動力11のような締め固め力の印加により、締め固められた底面24の下方及びその周辺の地盤12の密度が増す。このような影響の範囲は
図3に例示されており、密度の増した地盤12が網掛け線によって示されている。このような高密度化により、壁付き凹所22の下方及び周辺の地盤12が安定化し、掘削が容易になると共に、構築された擁壁に対する荷重を軽減することが可能となる。
【0048】
底面24が十分に締め固められると、その後、締め固められた地盤12が掘削されることによって壁付き凹所22がより深くなり、更に継続して掘削が行われる。工程d)において用いる「その後」という用語は、締め固め工程及び掘削工程の連続した状態を示すものである。例えば、締め固め作業は掘削作業の前に行われ、このような一連の作業は、後述するように、締め固め及び掘削が不要となるまで、同じ順序で繰り返し行われる。この一連の作業の繰り返し回数は限定されるものではなく、締め固め及び掘削が行われる地盤12の特性、掘削の最終深度、現場の作業規制などを含む、さまざまな要素に基づいて決定することができる。
【0049】
擁壁の構築方法には、一例を
図1A、
図3及び
図4に示した工程e)も含まれ、この工程e)は、壁付き凹所22の深度が最終深度に達するまで、行程d)の締め固め及び掘削を繰り返す工程である。第1掘削段階での掘削が行われると、
図3に基づき上述したように、掘削によって形成された底面24の締め固めを、適切な締め固め装置で開始することが可能となる。この底面24が締め固められると、次の段階まで掘削を行うことが可能となり、掘削段階毎に個別の底面24が得られる。必要に応じ、鋼製プレートのような支保構造体29を側面26に配置して保持することにより、地盤12を一時的に支え、掘削の進行に従い、掘削装置に追従して移動させるようにしてもよい。掘削装置は、例えばケーソンの下方などの側面26を掘削することも可能であって、これにより、支保構造体29を地中に打ち込むことなく容易に下降させることが可能となり、騒音を低減することができる。
【0050】
従って、所望の掘削深度、または最終深度に達するまで、上述したような締め固め及び掘削の手法をどのように繰り返すかが明らかとなった。最終深度28の位置の一例は
図5に示されている。最終深度28は任意の値とすることが可能であり、主として現場の必要条件と制限とに依存したものとなる。一例として、最終深度28の範囲は、約4m〜約12mとすることができる。いくつかの選択的な構成例において、隣接する掘削現場の深度より深い最終深度28とすることにより、構築される擁壁に何らかの受動的抵抗力が与えられる。ときには、掘削の深度より下方には僅かな根入れ深さしか必要とされない場合もある。締め固め及び掘削の周期をさまざまに異ならせることが可能であることは明らかである。例えば、まず初めに、深く長い距離にわたって締め固めを行い、次に第1の掘削を行い、更に、地盤12が十分な深さまで締め固められていることから、第1の掘削後に締め固めを実施せずに第2の掘削を行うことも可能である。このように、締め固め作業を終える度に、直ちに掘削作業を行う必要はないし、それぞれの掘削作業の直前に常に締め固め作業を必要とするわけでもない。
【0051】
擁壁の構築方法には、一例を
図1A及び
図5に示した工程f)も含まれ、この工程f)は、壁付き凹所22の少なくとも一部にセメント状の材料110を充填し、擁壁を形成する工程である。地盤12が最終深度28まで掘削されれば、擁壁が容易に構築される。工程f)の説明で用いる「充填」という用語は、セメント状の材料110を壁付き凹所22内に加える何らかの作業を示すものである。
図5には、セメント状の材料110で完全に満たされた壁付き凹所22の一例を示しているが、壁付き凹所22の一部のみに充填するようにしてもよい。例えば、後述するように、構築した擁壁上に別の構造物を設置しようとする場合、壁付き凹所22の部分的な充填が必要となることがある。工程f)で用いる「セメント状の材料」110は、時間の経過と共に硬化する任意の流動性材料とすることが可能である。これに代え、石、砂利、材木、フレーム、金属などの、従来から用いられている非流動性材料で擁壁を構築することも可能である。
【0052】
工程f)の一例について以下に説明する。セメント状の材料からなる擁壁を形成するための、壁付き凹所22へのセメント状の材料110の注入による充填には、上述したシステムの一部とすることが可能な充填装置を用いることができる。充填装置には、固まる前のコンクリートやセメントなどを壁付き凹所22に打設可能な公知の任意の裏込め装置を用いることが可能である。比較的深い最終深度28(即ち、約8m程度)である場合、大量のセメント状の材料110の注入により、掘削した区域の最終深度28にある底面24を、落下時の衝撃で更に締め固めることができる。使用するセメント状の材料110の種類は、約0.5MPa〜約60MPaの範囲の強度を有したコンクリートとすることができる。この強度は、擁壁の使用目的に応じて変更することが可能である。例えば、保持された地盤12によって生成される荷重のみを支えるのに擁壁が用いられる場合は、約0.2MPa〜約15MPaの範囲の強度とすることができる。例えば、輸送路に隣接して擁壁が設けられる場合、約15MPa〜約30MPaの範囲の強度とすることができる。このような擁壁は、鉄道線路の近くに配置することが可能であり、列車が通過する線路用の盛り土を安定化するために用いることができる。更に別の例では、構造物または重量物用に一時的または恒久的な基礎として擁壁を用いる場合、約20MPa〜約50MPaの範囲の強度とすることができる。注入により形成される擁壁の厚みや、必要とされるコンクリートの強度は、地盤12の土砂の量、支えようとする荷重、現場の地盤12の状態、擁壁の使用目的などといったさまざまな要素に応じて変更することができる。
【0053】
セメント状の材料からなる擁壁の使用は、周囲の物質の保持に加えて、遮水性を有した防壁としても機能する必要がある場合に有効である。例えば、地下水流、湿潤な地盤、スラリ状廃棄物、液体、もしくは汚染された地盤が存在する場合、または擁壁が埋め立て地に隣接して設けられるか、もしくはダムとして機能する場合がこれに該当する。このような擁壁により、移動しようとするスラリ状廃棄物の安定化、堤防の封止、或いは地滑り箇所の保全を行うことができる。一般的に、シートパイルの壁は接合部分を有するため、遮水性が十分ではない。しかしながら、セメント状の材料からなる厚い擁壁は遮水性を持たせることが可能である、このような遮水性を強化するため、例えば高分子添加剤のような化学添加剤をセメント状の材料の混合物に添加してもよい。また、セメント状の材料の注入前または注入後に設けることが可能な内張材またはジオメンブレンにより、擁壁の遮水性を強化することが可能である。
【0054】
セメント状の材料からなる擁壁の厚みにより、擁壁は断熱体としても良好に機能し、現場周辺から保持している地盤12に伝達されうる低温を遮断する。厚みは擁壁の外形に対応するものであるが、厚みの範囲の一例は、約1m〜約6mである。このような厚みにより、保持している地盤12の凍結を防止すると共に、凍結による予測不能の応力が擁壁の全深度にわたって生じるのを良好に防止することができる。これは、熱伝導体として機能することによって、保持している地盤の土砂に低温が伝わるような金属製のシートパイルからなる擁壁とは全く異なるものである。擁壁を構築することにより、擁壁の所望の側の地盤12を掘削することが可能となる。
【0055】
上述した擁壁の構築方法及びシステムをさまざまな形式の擁壁の形成に適用可能であることは理解しうるものであり、そのいくつかについて、以下に説明すると共に図に例示する。これらの擁壁は、「マッシーフ(massifs)」または「マス(masses)」と称することもあり、本発明者の名前と共に用い、例えば「ガルツォンマッシーフ(Garzon massifs)」または「ガルツォンマス(Garzon masses)」と称することもある。
【0056】
図8は、コンクリートブロック30からなる柱の間に場所打ち壁140が介装されたサンドイッチ状構造体を上部に有する擁壁10(或いは単に壁10)の一例を示している。これに代え、コンクリートブロック30からなる柱を垂直方向に積み重ねた後、コンクリートの注入により壁140を形成することも可能である。このようなサンドイッチ状の擁壁10の構成は、一方の側または両側に、固まる前のコンクリートを注入する地盤12がない場合、またはタイバックのような補強部材40を支える地盤12がない場合に用いることが可能である。この構成におけるコンクリートブロック30は、アンカ40を支持するために用いることが可能であり、アンカ40の高さに達するまでコンクリートブロック30が垂直方向に積み重ねられる。アンカ40は、補強用バー、鉄筋、鋼線、またはプラスチックケーブルなど、擁壁10を支える任意の部材とすることができる。
【0057】
図9は、もう1つの例を示しており、比較的高い土地が隣接している場合の擁壁10を示すものである。一般的な作業では、約2.4mの深さの支保ボックスまたは鋼製のケーソンが速やかに地盤12中に押し込まれて設置されることにより、掘削が開始された際に地盤12の壁が一時的に補強される。この方法は、例えば擁壁10が鉄道または盛土道に隣接している場合に特に有用である。
図1に例示した擁壁10と同様に、この方法ではアンカ40をコンクリートブロック30の高さに設けて擁壁10を補強することが可能である。次に、支保ボックスがある部分の掘削された領域に注入を行うことにより、別のプレキャスト式の壁140を形成することができる。
【0058】
図10は、更に別の例を示しており、この例では、擁壁10が、その上部に設けられたプレキャスト式の壁140のための基礎壁として使用可能となっている。このような構成は、プレキャスト式の壁140が必要とされているものの、地盤12の特性がプレキャスト式の壁140を支持するには不十分である場合に適している。従って、擁壁10は、プレキャスト式の壁140のための基礎として機能する。プレキャスト式の壁140は、選択的に、タイバック40、アンカ、或いは補強土(ジオメンブレン、または地盤に強度を与えるメッシュを形成するプラスチックシートなど)を用いて補強してもよい。このような構成では、擁壁10が「アンカマス」として知られているものであってもよい。
【0059】
図11及び
図12は、別の例を示しており、擁壁10は、鉛直アンカ50、及び例えば支持杭のような鉛直杭70の少なくとも一方と共に用いられる。鉛直アンカ50は、保持している地盤12の土砂の質量によって生じるモーメントを相殺することにより、擁壁10にモーメントに関する安定性を与える。鉛直アンカ50は、安全面の要素を満たすために用いられることが多い。別の形態の補強を行うことも可能である。例えば、鉛直杭70は、擁壁10の下端部近傍に安定性を与えることで、保持している地盤12の土砂の質量が引き起こす回転モーメントにより擁壁10の下端部周りに発生する応力によって生じる可能性のある液状化力を相殺する。また、選択的に、最終深度より下方に挿入した石により鉛直杭70を形成することも可能であり、この石は、固まる前の注入コンクリートを通過して、柔らかな地盤の中に容易に挿入される。補強の別の例には、擁壁10に水平に取り付けてデッドマンまで延設し固定することが可能な、金属製の円筒またはH型鋼のようなタイバックアンカ40が含まれる。鉛直アンカ50は、コンクリートの注入前または注入後に、掘削区域に追加することができる。また、別の例として、鉛直アンカ50は、比較的薄い擁壁10に更なる安定性を与えことも可能であり、それによって擁壁10に剪断強度及びモーメントに対する強度を与えることができる。軟弱な鋭敏粘土上に擁壁10がある場合には、固まる前の打設コンクリートの内側に埋設杭70を設けることにより、擁壁の下端部及びその周辺の粘土に対する応力の印加を抑制し、粘土の可塑化及び液状化を防止して、好ましくない退行性地滑りの発生を防止することができる。
【0060】
図13は、擁壁10の更に別の例を示しており、この擁壁10は、ブロック30、鉛直アンカ50及び補強土52の少なくとも1つと組み合わせて用いられる。補強土52は、剪断補強材及び引張補強材を有した任意の摩擦性裏込め土とすることが可能であり、自立性を有するように地盤12に安定性を加えるものであって、締め固めてもよい。補強土52には、金属片、メッシュ、ジオテキスタイルのさまざまなシートからなる布、或いは地盤12に安定性を与えるような同様の材料もしくは部材を含めることができる。
【0061】
図14は、擁壁10の更に別の例を示しており、傾斜グラウトアンカ60及びマイクロパイルの少なくとも一方と共に鉛直アンカ50が用いられることにより、擁壁10に更なる安定性を与えている。傾斜グラウトアンカ60は、岩盤、漂礫土または高密度地層の中に、任意の適切な角度で設けることが可能である。鉛直アンカ50は、傾斜グラウトアンカ60にに加えて固定を行うものであって、デッドマンや傾斜アンカを設置するのに十分な余地がない場合に好適である。
【0062】
図15は、擁壁10の更に別の例を示しており、橋梁などの既存構造物124と、これから建設する新構造物126との間に擁壁10が設けられる。このような選択的構成においては、擁壁10及び鉛直アンカ50の少なくとも一方を、既存構造物124に固定することができる。また、任意の構成として、現場の掘削面より下方の地盤12中に擁壁10を埋設することにより、擁壁下端部を支持する土砂の受動的な抵抗力を高めることができる。このような擁壁10の構成は、既存構造物124と新構造物126との間に限られたスペースしかなく、限られた幅しか擁壁10の構築に利用することができない場合に好適である。鉛直アンカ50は、既存構造物の上部で擁壁10を固定することができるよう、固まる前の打設コンクリート内に鉛直アンカ50を導入するようにしてもよい。
【0063】
このような擁壁10では、上部基礎面128のように、作業用の幅を擁壁10の頂部に確保することができ、削岩及びグラウチングを行う設備、ポンプ機構、計測及び監視用設備などの小型の装備からなる物を通路に沿って車両で移動することができる。上部基礎面128の幅は約1m〜約6mとすることができる。また、上部基礎面128は、擁壁上端に設けられるフェンスのほか、新たにカバーやその他の保護構造を設置して固定するためのプラットフォームとなる。例えば橋梁の修復で、一方の側の交通を維持しつつ他方の側を取り壊して修復する必要がある場合のように、擁壁10の一方の側で掘削を行い、次に他方の側で掘削を行おうとする場合、単一の擁壁10が両方の状況に用いられ、反転して作用する力を受け止めることになる。
【0064】
図16は、擁壁10の更に別の例を示しており、複数の擁壁10が設置されることにより、極めて強固な基礎が得られる。このような擁壁10の構成は、もともと液状化しやすい地盤に対して有効であり、或いは軟弱な地盤の上で流体的に制御された浮遊構造物を可能とする上で有効である。また、このような構成は、例えば地震の発生によって地盤が液状化するおそれがある地域のように、基礎に更なる支持や補強が必要とされる場合にも有効である。更に、複数の擁壁10を用いることで、巨大で極めて重厚な単一の擁壁10を設ける必要性を減らし、コンクリートの使用量を低減すると共に、局所的に生じる荷重を低減することが可能となる。
図16には3つの擁壁10を用いた例を示しているが、これより多いまたは少ない数の擁壁10を用いることも可能であることがわかる。
【0065】
擁壁10に応じて画成される区域の地盤12は、前述したようにして締め固められ、掘削され、充填を行うことができる。擁壁10同士の間の領域の掘削が、擁壁10の深度より浅い深度まで行われることにより、回転力及び剪断力に抗するモーメント及びその他の支持が擁壁10によって得られる。擁壁10が打設された後、鉛直柱72を挿入して擁壁10の下端部に安定性を与えることにより、土圧に対抗する剪断抵抗を増大させることが可能である。任意の構成として、対応する擁壁10の深度より下方まで鉛直柱72を打ち込むようにしてもよい。鉛直柱72は、アンカ40を用い、固化した擁壁10内に保持することが可能であり、アンカ40は固化する前の打設コンクリート内に挿入される。鉛直柱72は、固化する前の打設コンクリート内に挿入され、掘削を行う位置となる鉛直柱72の少なくとも一部には、発泡ポリスチレンのカバーが設けられるようにしてもよい。この発泡体のカバーは、打設コンクリートが少なくとも部分的に固化した時点で、鋼製水平ビーム80を連結するために取り去るようにしてもよい。また、打設コンクリートが固化する前に、さまざまな掘削深度で、鋼製水平ビーム80を挿入し、2以上の鉛直柱72を連結するようにしてもよい。これらの鋼製水平ビーム80は、鉛直柱72を介して擁壁10を連結することで擁壁10に更なる拘束力及び剪断抵抗を与え、これにより、必要な場合に鋼製水平ビーム80が中間的基礎構造体となって、地盤から受ける力に屈しにくい構造的慣性を有した1つの大きな構造体を効果的に形成することができる。
【0066】
鋼製水平ビーム80の挿入について説明する。まず、鋼製水平ビーム80を掘削場所の適切な深度まで降下させ、その両端を、対応する鉛直柱72または擁壁10に溶接またはボルト留めする。これに代えて、擁壁10内に鋼管などの目印を残すか或いは目印を設けた状態で打設コンクリートが固化した後、ドリルで穴を開けて鋼製水平ビーム80を設けるようにしてもよい。また、好ましくは、補強用ロッドまたは鉛直アンカ50を擁壁10中に設け、上述したように更なる安定性を得るようにしてもよい。
【0067】
従って、全体的に結合されて安定化した擁壁を構築し、液状化や周囲の地面の変動が生じにくい地盤を得ることを目的とし、擁壁10、鋼製水平ビーム80及び鉛直柱72の構成により、掘削を深く行って、擁壁10の間の地盤の整備及び高密度化を行うことができることがわかる。構造物の周囲の地盤が変動しようとしても、このような擁壁10の構成により、擁壁10によって保持された地盤の変動が防止され、構造物自体の変動も大幅に抑制することが可能となる。
【0068】
また、任意の構成として、少なくとも1つの基礎ビーム90を、擁壁10間で当該擁壁10の上端に渡して設け、最終的に基礎ビーム90の上に設置する構造物の基本的な支持を行うようにしてもよい。基礎ビーム90は、任意のビーム(即ち、I型ビーム、H型ビーム、Z型ビーム、鉄筋コンクリートビーム、プリキャスト鉄筋コンクリートビーム、現場打ち鉄筋コンクリートビームなど)とすることが可能である。基礎ビーム90は、適切な鉛直アンカまたは水平アンカを用い、擁壁10に固定されているのが好ましい。
【0069】
最終的に、擁壁10の間の掘削区域は、適切に整えられた土砂及び材料の少なくとも一方を用いて埋め戻され、埋め戻しに用いる材料は、液状化に対する安定性を有するように徐々に高密度化して整っていくようにしてもよい。
【0070】
図17は、
図16に示した構成を例示する平面図(即ち、上方から見た図)である。複数の基礎ビーム90が擁壁10を横切るように示されている。溶接またはボルト留めされた鋼製ビーム80は、擁壁10内で固定されたアンカ40に連結された状態で示されている。鉛直アンカ50は、擁壁10内で下方に延びるているように示されている。従って、複数の基礎ビーム90が複数の擁壁10を横切って設けられる場合に、当該基礎ビーム90が、その上に立設された構造物をどのようにして支持することができるかは明らかである。
【0071】
図18及び
図19は、複数の擁壁10の更に別の構成例を示す平面図(即ち、上方から見た図)及び立面図である。これらの「セル型」または「クリブ状」の構造は、さまざまな地盤状態に適しており、個々の小室100による土圧の均一化、或いは個々の小室100における土圧の均一化が可能である。また、小室100の1つから、それとは別の小室100に対して、環境中または地盤中の汚染物質を隔離する必要がある場合にも有用である。この構造体の下部は、遮水性の地盤12または高密度の地盤12の中に配置されるのが好ましい。この構造体の残りの部分は、処置の難しい空隙のある地盤135に配置することができる。下部とそれ以外の部分とを異なる地盤に配置することにより、安定性の確保及び汚染抑制の少なくとも一方を行うことが可能となる。
【0072】
各小室100は、壁10が交差することによって形成され、壁10のそれぞれは、上述したようにして形成することができる。小室100のそれぞれは互いに異なっており、このことは、小室100のそれぞれは異なる深度まで掘削されること、内部に含まれる土砂及び材料の少なくとも一方が異なること、並びに固定及び支持の少なくとも一方が異なる方法で行われることの少なくとも1つを意味する。実施可能な一構成例では、隣り合う小室100が、例えば海水などの液体を収容している。隣り合う小室100が連通していることにより、一方の小室100内の海水のレベルが上昇すると、双方の小室100において海水のレベルが自動的に新たなレベルに調整される。従って、隣り合う小室100が、水位の変化に対してどのように自動的且つ速やかに適応し、これらの上に設置される構造物に安定性を与えるかは明らかである。別の例として、各小室100内を加圧するユニットが、小室100内の圧力及び水位の少なくとも一方を調整して各小室100に対する荷重配分を修正することにより、これらの上に設置される構造物を容易に水平に維持することができる。また、さまざまな深さまたは密度の地盤についても同様の調整を自動的に実行可能であることがわかる。
【0073】
図20は、擁壁10の別の使用目的の一例を示している。擁壁10には、上部基礎面128が形成されており、この上部基礎面128は、当該上部基礎面128に付加される直立構造物127を支持することが可能である。また、上部基礎面128は、その上で車両または設備を移動可能な通路を設けることもできる。実施可能な一構成例として、直立構造物127は、2以上の擁壁10にアンカ固定されるようにしてもよい。
【0074】
図21は、擁壁10の構成の別の一例を示している。掘削現場の両側において地盤12を保持するために2つの擁壁10が用いられている。擁壁10はそれぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、一方の擁壁10の高さは、他方の高さより高くすることが可能である。また、このような擁壁10は、掘削現場を取り囲むように設けることも可能であり、そのような構成における擁壁10は、矩形またはその他の閉じた形状を形成するように互いに連結される。
【0075】
本発明による方法及びシステムは、効率的で迅速且つ安価に擁壁を構築することができるという利点がある。また、本発明の方法により、公知の方法に比べて騒音が少なく、且つ迅速に擁壁10を構築することが可能となり、周辺の住民に迷惑をかけずに、夜間に擁壁10を形成することが可能である。多くの場合、擁壁10は、約2時間でセメント状の材料を注入することができる。他の種類のコンクリートに比べて安価な比較的低強度のコンクリートで擁壁を構築することが可能であるため、擁壁10のコスト削減効果をより一層大きなものとすることができる。
【0076】
従来の擁壁を用いた場合、擁壁に対して作用する土圧の全てについて、アンカや杭などの、擁壁とは別個の部材により支える必要がある。これに対し、締め固め及び掘削を繰り返し行うことにより、構築された擁壁は自立可能となり、水平方向の力及び回転力に適切に対抗することが可能となる。現場に既にある機具を用いるなどして行うことが可能な締め固めの方法は、締め固めを局所的に行うこと、即ち必要なところだけを締め固めることが可能となり、作業時間及びコストを更に低減することができる。このような締め固めにより、
1)掘削の際の地盤を安定化させ、掘削時間及び安全性を改善することができ、
2)構築しようとする擁壁周辺の地盤を高密度化して、擁壁の抵抗能力を改善できる。
という2つの作用効果が得られる。
【0077】
更に、本発明の方法で構築された擁壁10の利点は、その厚みにある。厚いコンクリート製の擁壁10は、断熱体として機能し、寒冷な気候において地盤が凍結する可能性を低減し、保持した地盤における凍結及び解凍の繰り返しによる応力の発生を防止することができる。事実、擁壁10の通常の最小限の厚みは、低温が擁壁10を貫通して擁壁10の後方で凍結が生じるのを防止する上で十分な厚みである。これは、熱伝導体として機能して、保持している地盤に低温を伝達する鋼製のシートパイルからなる擁壁とは全く異なるものである。
【0078】
締め固めを掘削前及び掘削中に行えるので、このような厚みのある断熱壁は、部分的に形成可能であり、周辺の土砂の柱を安定化することにより、擁壁に対して作用する荷重を軽減することができる。このような締め固め及びそれに伴う地盤の安定化により、別の種類のコンクリートに比べて一般的に安価な、比較的強度の低いコンクリートを使用することが可能となる。
【0079】
更に、地盤の締め固めにより、地盤の密度及び安定性を高めるといった利点があり、これらは、例えば重機ローラなど、掘削には不適切な手法による公知の締め固めでは得ることができない。
【0080】
また、本発明の方法によれば、掘削と共に締め固めを繰り返し行うことにより、現場の作業者は、新たに掘削を行う区域の処理を行う前に、掘削した箇所の処理を終えることができ、擁壁10の安定性が増すと共に、作業者が現場の地盤状態に適応可能となるので、不明であった地盤状態及び障害の少なくとも一方に速やかに対応することが可能となる。従って、作業者は、必要に応じ、例えば追加のアンカ設置やモーメント対策を迅速に行うことにより、さまざまな要因や応力に対して迅速且つ容易に対策を講じることができる。また、実行される締め固め及び掘削により、鉛直アンカ、水平アンカまたはグラウトアンカを擁壁10中に容易に挿入することが可能となり、必要に応じてプレストレスを与えることが可能である。
【0081】
現場での補強及び修正を補助するもう1つの要素は、擁壁10の選択的に厚くした厚みにある。擁壁を構築してしまうと更に掘削を行うことが困難となる場合が多い従来の擁壁とは異なり、広大な上部基礎面により、車両や別の設備を擁壁10の上部に保持することが可能であり、作業者が擁壁10に穴を開けて下方に別の壁を組み込んだり、水をくみ出したり、材料を注入したり、或いはその他必要な作業を行ったりすることができる。このような上部基礎面により、直立構造物を支持することも可能であり、設置に経費がかかるような極めて大きな幅を有した基礎支持体を設ける必要性が減少する。
【0082】
接合部を有することによって漏洩が生じる公知のシートパイル及びベルリンの壁の少なくとも一方を用いる方法に比べ、中実のコンクリート製の擁壁10は優れた遮水性を有している。このことは、上述したように擁壁10が交差して小室100を形成する場合に特に有効であって、このようなセル型構造により、汚染物質、液体、土砂などを必要に応じて分離することができる。
【0083】
また、擁壁10は、鉄道または盛土道が損壊し、公知のシステムによる作業を行うには十分な余地がないような現場において、容易に構築することが可能である。地滑りや損壊の後で危険な状態にある可能性がある地盤を安定化させるため、及び保持する地盤を補強するために擁壁10を構築することが可能であり、盛土が再び損壊する可能性を低減することができる。
【0084】
上述した擁壁10は、近隣の資産に対する干渉を避ける必要があるような地域にも構築することが可能である。また、擁壁10は、回避したり取り除いたりすることができないような、でこぼこの地下岩盤が存在する場合にも好適である。コンクリート打設を適用することができることから、このようなでこぼこの岩盤に擁壁10を安定して設置することが可能となり、地盤に対して十分な保持を行うことができる。
【0085】
更に、複数の擁壁10とすることにより、地盤の液状化や極めて大きな局所的荷重を生じる可能性のある重厚な擁壁の構築を必要とすることなく、広大な掘削区域に顕著な安定性をもたらすことができる。このような間隔を開けた配置構造により、擁壁10の間に掛け渡された基礎ビーム90の配置が可能となり、上部に立設される任意の構造物を支持する付加的な横方向支持構造が得られる。
【0086】
また、擁壁10は、他にも利点があるものの、以下のような利点がある。
1)工業技術設計基準に加え、適用しうる規約にも適合した一時的または恒久的構造物とすることができる。
2)地下漏出物の堰として機能することにより、環境への影響を最小限にして、水流を封じ込めたり囲い込んだりすることができる。
3)不安定な斜面を安定化し、修復を可能とする。
4)鉄道及び盛土道の不安定な状態を速やか且つ適切に調整し、安定した状態とすることができる。
5)既存の物資供給ラインを妨げることなく構築が可能である。
6)不飽和状態または地下水位より低い状態にある、最大限の土砂及び高破砕岩の少なくとも一方と共に用いることが可能である。
7)約60MPaから約1MPa以下までの範囲の強度のさまざまな種類のコンクリートで形成することが可能である。
8)鋼、プラスチックもしくはロープを用いたケージ、及びプラスチックもしくは鋼製の繊維もしくはメッシュにより補強を行うことが可能である。
9)溶接または接着されてコンクリートとの接合を容易にするアンカヘッドを用い、遮水性の平坦な堰板を組み込むことが可能である。
10)擁壁に用いるコンクリートは、空気封入性、遮水性、流動性及び作業性、早強性などを高める添加物を含んでいてもよい。
11)擁壁に用いるコンクリートは、セメント砂、砂利及び水をさまざまな比率で適切に混合したもの、またはセメントグラウト及び丸石の少なくとも一方からなるものとすることができる。
12)擁壁の上流側、中央または下流側の部分にコンクリートを打設する前または後に導入される杭またはアンカロッドを組み込むことにより、擁壁の安定性を更に高めることが可能である。
13)コンクリートに併せて、杭、及び圧力グラウチングを行った鉛直または傾斜アンカロッドの少なくとも一方を用いることにより、特定の地盤条件及び荷重条件に良好に適合させることができる。
14)補強土を擁壁と共に用いることにより、土留め能力及び負担荷重を改善することが可能である。
【0087】
添付の特許請求の範囲に規定するような発明の範囲から逸脱することなく、上述した構成にさまざまな変更を行うことが可能であることは当然である。