【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年4月23日、北海道大学、学術交流会館において開催された、「ナノマクロ物質・デバイス・システム創製アライアンス 平成24年度 成果報告会」で発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誘電体多孔質膜の前記第1の透水性電極側の主面の親水性が、前記第2の透水性電極側の主面の親水性よりも高く、前記第1の透水性電極は、前記誘電体多孔質膜とは反対側の表層に親水層を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気浸透流ポンプ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、電気浸透流ポンプの一例が記載されている。特許文献1に記載の電気浸透流ポンプのように、従来の電気浸透流ポンプを駆動させるためには、直流電圧を印加する必要がある。
【0006】
電気浸透流ポンプを作動させるために直流電圧を印加すると、並行的に液体の電気分解反応が起きる。液体の電気分解反応が進行すると、液体のpHが変化したり、液体中に気泡が発生するという問題が生じる。特に液体として水を用いると水素や酸素が発生して危険である。従って、これらの問題が発生しない新たな電気浸透流ポンプが強く求められている。
【0007】
本発明の主な目的は、新規な交流駆動可能な電気浸透流ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第1の電気浸透流ポンプは、誘電体多孔質膜と、第1の透水性透水性電極と、第2の透水性電極とを備える。第1の透水性電極は、誘電体多孔質膜の一方側に配されている。第2の透水性電極は、誘電体多孔質膜の他方側に配されている。誘電体多孔質膜の第1の透水性電極側の主面の親水性と、第2の透水性電極側の主面の親水性とが相互に異なる。
【0009】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、第1の透水性電極及び第2の透水性電極は、それぞれ、誘電体多孔質膜表面に成膜された導電多孔膜、導電メッシュ、導電微粒子焼結膜、又は多孔質絶縁フイルムに印刷されたパターン電極であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る第1の電気浸透流ポンプは、誘電体多孔質膜は、一主面に親水層を有していてもよい。
【0011】
本発明に係る第2の電気浸透流ポンプは、誘電体多孔質膜と、第1の透水性電極と、第2の透水性電極とを備える。第1の透水性電極は、誘電体多孔質膜の一方側に配されている。第2の透水性電極は、誘電体多孔質膜の他方側に配されている。誘電体多孔質膜の一方面のゼータ電位と、他方面のゼータ電位とが相互に異なるか、または誘電体多孔質膜の一方面の流動電位と、他方面の流動電位とが相互に異なる。
【0012】
本発明に係る第3の電気浸透流ポンプは、誘電体多孔質膜と、第1の透水性電極と、第2の透水性電極とを備える。第1の透水性電極は、誘電体多孔質膜の一方側に配されている。第2の透水性電極は、誘電体多孔質膜の他方側に配されている。誘電体多孔質膜は、第1の透水性電極と第2の透水性電極との間に交流電圧が印加されたときに誘電体多孔質膜内の液体に、第1の透水性電極側と第2の透水性電極側の一方から他方へ選択的に移動させる力を付与するように構成されている。
【0013】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜は、積層された第1の誘電体多孔質膜及び第2の誘電体多孔質膜を含み、一主面が第1の誘電体多孔質膜により構成されており、他主面が第2の誘電体多孔質膜により構成されていてもよい。
【0014】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプは、第1の透水性電極と第2の透水性電極との間に交流電圧を印加する電源をさらに備えていてもよい。その場合は、電源は、1MHz以下の周波数の交流電圧を印加するものであることが好ましい。
【0015】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜の厚みが5μm〜100μmの範囲内にあることが好ましい。
【0016】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜の厚さの自乗に対する、第1及び第2の透水性電極の面積の比((第1及び第2の透水性電極の面積)/(誘電体多孔質膜の厚さ)
2)が100より大きいことが好ましい。
【0017】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜における平均孔径が10nm〜50μmの範囲内にあることが好ましい。
【0018】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、第1及び第2の透水性電極は、それぞれ、厚み方向に貫通する貫通孔を有することが好ましい。
【0019】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜は、厚み方向に貫通する貫通孔を有することが好ましい。
【0020】
本発明に係る第1〜第3の電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜の第1の透水性電極側の主面の親水性が、第2の透水性電極側の主面の親水性よりも高い場合に、第1の透水性電極が、誘電体多孔質膜とは反対側の表層に親水層を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、新規な交流駆動可能な電気浸透流ポンプを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0024】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る電気浸透流ポンプの模式的断面図である。
図2は、本実施形態における送液膜の一部分の模式的断面図である。
【0026】
図1に示される送液モジュール1は、固定治具10,11と、固定治具10,11に取り付けられた電気浸透流ポンプ2とを備えている。電気浸透流ポンプ2は、第1の透水性電極と第2の透水性電極に挟まれた送液膜20を含む。電気浸透流ポンプ2には、交流電力が供給される。送液膜20は第1の貯留部12と、第2の貯留部13とを区画している。第2の貯留部13には、液体貯留槽30が接続されている。この液体貯留槽30から液体が第1の貯留部12に供給される。第1の貯留部12に供給された液体は、送液膜20によって第2の貯留部13に送液され、第2の貯留部13に設けられた排出口14から排出される。
【0027】
なお、第1の貯留部12と、第2の貯留部13とは、電気浸透流ポンプ2の一面と他面に液体を導くためのものであり、液体が輸送される経路となるものであればよい。第1及び第2の貯留部12,13には、特定の体積は必ずしも必要ない。第1の貯留部12と、第2の貯留部13とは、マイクロ流体デバイスの任意のチャネル流路の一部であってもよい。また、第1の貯留部12と、第2の貯留部13とは、それぞれ、透水性の多孔体やゲルで満たされていてもよい。
【0028】
送液膜20は、平板状であってもよいし、たわんだ構造、複数の凹凸を有する構造、折り畳まれた構造を有していてもよい。その場合、送液膜20の平面視における面積に対する、表面の実面積の比((送液膜20の表面の実面積)/(送液膜20の平面視における面積))を大きくすることができる。従って、電気浸透流ポンプ2の送液能力を向上することができる。
【0029】
送液膜20は、誘電体多孔質膜21を有する。誘電体多孔質膜21は、適宜の誘電体により構成されている。誘電体多孔質膜21は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PET)、ポリイミド(PI)等からなるポリマー膜や、セラミックス、シリコン、ガラス、酸化アルミニウム質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化珪素質焼結体、ガラスセラミックス焼結体等からなる無機膜により構成されていてもよい。また、誘電体多孔質膜21は、例えば、モノリシック多孔体であってもよい。
【0030】
誘電体多孔質膜21は、トラックエッチド膜であることが好ましい。ここで、トラックエッチド膜とは、トラックエッチングされた膜を意味する。トラックエッチングとは、膜に強力な重イオンを照射することにより直線トラックを形成するケミカルエッチングのことである。
【0031】
なお、誘電体多孔質膜21がポリマー膜や無機膜である場合は、レーザー光の照射により細孔を形成することができる。
【0032】
誘電体多孔質膜21は、連続気泡を有する膜であることが好ましく、厚み方向に貫通する貫通孔を複数有する膜であることが好ましい。通常、トラックエッチド膜は、厚み方向に貫通する貫通孔を多数有している。
【0033】
誘電体多孔質膜21の厚みは、特に限定されないが、5μm〜100μm程度であることが好ましく、10μm〜60μmであることがより好ましい。誘電体多孔質膜21の厚みをこのような厚みとすることにより、誘電体多孔質膜21の厚みと、形成される電気二重層の厚みとを拮抗させることができる。従って、電気浸透流ポンプ2の作動が好適になる。
【0034】
誘電体多孔質膜21における平均孔径は、10nm〜50μmであることが好ましく、20nm〜10μmであることがより好ましく、50nm〜2μmであることがさらに好ましい。誘電体多孔質膜21における平均孔径が小さすぎると、流動抵抗が大きく送液量が小さくなる場合がある。誘電体多孔質膜21における平均孔径が大きすぎると、送液の水圧が低下し、電気浸透流のエネルギー効率が悪くなる場合がある。
【0035】
誘電体多孔質膜21の開口率は、1%〜50%であることが好ましく、3%〜30%であることがより好ましい。誘電体多孔質膜21の開口率が高すぎると、隣り合う孔が融合しやすく膜としての自立性に問題がでる場合がある。誘電体多孔質膜21の開口率が低すぎると、送液量が小さくなる場合がある。
【0036】
誘電体多孔質膜21の細孔密度は、4 E2 /c m
2〜 5E 13 /c m
2であることが好ましく、3E 4/ cm
2〜 7.5 E1 0/ cm
2であることがさらに好ましい。誘電体多孔質膜21の細孔密度が高すぎると、開口率が高くなりすぎるか平均孔径が小さくなりすぎる場合がある。誘電体多孔質膜21の細孔密度が低すぎると、電気浸透流のエネルギー効率が悪くなる場合がある。
【0037】
誘電体多孔質膜21の第2の貯留部13側には、第1の透水性電極22が設けられている。誘電体多孔質膜21の第1の貯留部12側には、第2の透水性電極23が設けられている。第1及び第2の透水性電極22,23は、液体が供給された際に、誘電体多孔質膜21の表面上に電気二重層が形成されるように設けられていればよい。第1及び第2の透水性電極22,23のそれぞれが誘電体多孔質膜21に接触している必要は必ずしもない。例えば、第1及び第2の透水性電極22,23のそれぞれと誘電体多孔質膜21との間に、高い弾性率を有する導電性ラバーを介在させてもよい。
【0038】
第1及び第2の透水性電極22,23は、液体が厚み方向に通過可能に設けられている。第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、厚み方向に貫通する貫通孔を有することが好ましい。この第1及び第2の透水性電極22,23の貫通孔と誘電体多孔質膜21の貫通孔とが接続されていることが好ましい。
【0039】
第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、例えば、誘電体多孔質膜21の上に金属などの導電物質を、誘電体多孔質膜21の細孔が完全に閉鎖されないように成膜させることにより形成することができる。また、第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、例えば、網状電極、くし型電極、千鳥状電極、フラクタル状パターン電極などのパターニングされた電極により構成されていてもよい。
【0040】
第1及び第2の透水性電極22,23の材質は、導電材料である限りにおいて特に限定されないが、第1及び第2の透水性電極22,23は、良導電材料により構成されていることが好ましい。具体的には、第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、金、銀及び銅の少なくとも一種の金属、カーボンナノチューブ等のカーボンを主体とする複合材、インジウムスズ酸化物(ITO)等の透明導電性酸化物(Transparent Conductive Oxide)等により構成されていてもよい。
【0041】
電気浸透流ポンプ2は、交流電源40を備えている。この交流電源40により第1及び第2の透水性電極22,23の間に交流電圧が印加される。交流電源40は、第1及び第2の透水性電極22,23の間に1MHz以下の周波数の交流電圧を印加することが好ましく、0.5Hz〜20kHzの交流電圧を印加することがより好ましく、1Hz〜100Hzの交流電圧を印加することがさらに好ましい。第1及び第2の透水性電極22,23の間に印加される交流電圧の周波数が高すぎると、電気浸透流ポンプ2が好適に作動しなくなる場合がある。
【0042】
図2に示されるように、電気浸透流ポンプ2では、誘電体多孔質膜21は、第1の透水性電極22側の主面に親水層21aを有する。例えば、誘電体多孔質膜21がトラックエッチド膜である場合は、誘電体多孔質膜21の一方の表層が親水層21aとなっている。誘電体多孔質膜21がトラックエッチド膜ではない場合は、誘電体多孔質膜21の一方の表面に、常圧プラズマ化学処理等のプラズマ処理に代表される親水処理や親水性官能基をもつ分子で化学修飾を施すことにより親水層21aを形成することができる。親水性官能基を含むポリマーとしては、ホスホリルコリン基を含有するポリウレタンウレアが好適に用いられる。また、親水性官能基を含むポリマーとして、アミノ基を分子鎖中に多数有するポリリシンやポリアリルアミン等も用いることができる。誘電体多孔質膜21の表面を親水性官能基をもつ分子で化学修飾する方法はこれらに限られるわけではなく、当業者の知りうる化学修飾親水化技術を適用しうる。
【0043】
親水層21aの表面の親水性は、誘電体多孔質膜21の第2の透水性電極23側の主面の親水性よりも高い。このため、誘電体多孔質膜21の第1の透水性電極22側の主面のゼータ電位と、第2の透水性電極23側の主面のゼータ電位とが相互に異なるか、または、誘電体多孔質膜21の第1の透水性電極22側の主面の流動電位と、第2の透水性電極23側の主面の流動電位とが相互に異なる。具体的には、誘電体多孔質膜21の第1の透水性電極22側の主面のゼータ電位の大きさが、第2の透水性電極23側の主面のゼータ電位の大きさよりも大きいか、または、誘電体多孔質膜21の第1の透水性電極22側の主面の流動電位の大きさが、第2の透水性電極23側の主面の流動電位の大きさよりも大きい。よって、第1の透水性電極22と第2の透水性電極23との間に交流電圧を印加すると、液体が第1の貯留部12から第2の貯留部13に移送される。これにより、電気浸透流ポンプ2が作動する。
【0044】
このように、本実施形態では、誘電体多孔質膜21が、第1の透水性電極22と第2の透水性電極23との間に交流電圧が印加されたときに誘電体多孔質膜21内の液体に、第1の透水性電極22側から第2の透水性電極23側に移動させる力が付与されるように構成されている。このため、電気浸透流ポンプ2は、交流電圧により駆動可能である。従って、電気浸透流ポンプに直流電圧を印加する場合とは異なり、電気浸透流ポンプ2の駆動時に、液体が電気分解され、液体のpHが変化したり、気泡が変化したりしにくい。
【0045】
誘電体多孔質膜21の厚さの自乗に対する、第1及び第2の透水性電極22,23の面積の比((第1及び第2の透水性電極22,23の面積)/(誘電体多孔質膜21の厚さ)
2)が100より大きいことが好ましい。比((第1及び第2の透水性電極22,23の面積)/(誘電体多孔質膜21の厚さ)
2)が小さすぎると、送液の効率が悪くなる。この比が大きい分には制約はない。
【0046】
なお、親水性は、自動接触角計(協和界面科学社、DM−300)により測定することができる。
【0047】
ゼータ電位:水溶液に代表されるプロトン性溶媒と接する固体または液体の界面は、特別の場合を除き電荷を帯びている。この電荷による電場は,溶液側から反対符号のイオン(対イオン)を引き寄せ,表面近傍にイオン雰囲気(電気二重層)を形成する。固体表面には特に強く吸着したイオンであるカウンターイオンがあり、カウンターイオンが殆ど動かないシュテルン層(Stern layer)と固体表面から離れるほどに薄くなってカウンターイオンが移動可能な状態で拡散した構造になっている拡散電気二重層とが存在する。ゼータ電位は、シュテルン層と拡散電気二重層との境界の“滑り面”(ずり面とも言う)での電位である。膜の表面におけるゼータ電位は、例えば、膜ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社ELSZ−1)により測定することができる。細孔内におけるゼータ電位は、例えば、固体ゼータ電位測定装置(アントンパール・ジャパン、SurPASS)により測定することができる。
【0048】
流動電位は、固体ゼータ電位測定装置(アントンパール・ジャパン、SurPASS)により測定することができる。
【0049】
なお、本発明の電気浸透流ポンプは、交流電圧を印加することに作動するものであるが、直流電圧を印加した際に作動しないものである必要は必ずしもない。通常、本発明の電気浸透流ポンプは、交流電圧印加時に加え、直流電圧印加時にも作動するものである。
【0050】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0051】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態における送液膜の一部分の模式的断面図である。
【0052】
本実施形態に係る電気浸透流ポンプは、第1の透水性電極22が誘電体多孔質膜21とは反対側の表層に親水層22aを有する点で、第1の実施形態に係る電気浸透流ポンプ2と異なる。
【0053】
本実施形態のように、親水層22aを設けることにより、送液性能を向上することができる。
【0054】
なお、親水層22aは、例えば第1の透水性電極22が金を含む場合は、金−チオール結合しうる自己組織化試薬等により表面処理を行うことにより形成することができる。好ましく用いられる自己組織化試薬としては、硫黄原子により構成された一端末と、親水基により構成された他端末とを含む主鎖を有する分子である。このような自己組織化試薬の具体例としては、例えば、
HS−(CH
2)
n−COOH ……… (1)
HOOC−(CH
2)
n−S−S−(CH
2)n−COOH ……… (2)
HS−(CH
2)
n−OH ……… (3)
HS−(CH
2)
n−(OCH
2−CH
2)
6−(CH
2)
n−OCH
2−COOH ……… (4)
HS−(CH
2)
n−NH
3Cl ……… (5)
HS−(CH
2)
n−(OCH
2−CH
2)
6−NH
3Cl ……… (6)
などが挙げられる。
【0055】
図4に、上述のような自己組織化試薬(具体的には、1,1−メルカプトウデカン酸)を用いて形成した親水層22aの模式図を示す。
【0056】
なお、自己組織化試薬による親水化処理を行う前に、脱脂処理、超臨界CO
2洗浄、プラズマ処理やコロナ放電処理などを追加的に行ってもよい。
【0057】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態における送液膜の一部分の模式的断面図である。
図5に示されるように、本実施形態では、誘電体多孔質膜21は、第1の誘電体多孔質膜21Aと、第2の誘電体多孔質膜21Bとを備えている。第1の誘電体多孔質膜21Aと、第2の誘電体多孔質膜21Bとは積層されている。第1の誘電体多孔質膜21Aが第1の透水性電極22側に位置しており、第2の誘電体多孔質膜21Bが第2の透水性電極23側に位置している。第1の誘電体多孔質膜21Aは、第2の誘電体多孔質膜21Bよりも親水性が高い材料により構成されている。このため、本実施形態においても、誘電体多孔質膜21の第1の透水性電極22側の表面の親水性が、第2の透水性電極23側の表面の親水性よりも高い。従って、本実施形態の電気浸透流ポンプも、交流電圧を印加することにより作動する。
【0058】
なお、第1の誘電体多孔質膜21Aの膜厚と、第2の誘電体多孔質膜21Bの膜厚との比(第1の誘電体多孔質膜21Aの膜厚:第2の誘電体多孔質膜21Bとの膜厚)は、1:100〜100:1であることが好ましく、1:10〜10:1であることがより好ましい。
【0059】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0060】
(実施例1)
以下の要領で、第1の実施形態に係る電気浸透流ポンプ2と実質的に同様の構成を有する電気浸透流ポンプを作製した。厚さが20μmであり、平均孔径が400nmであるトラックエッチド膜(Millipore、isopore membrane filters HTTP04700)の両面にマグネトロンスパッタ装置(株式会社真空デバイス、MSP−1S)を用いて厚さ20nmの金膜を成膜させることにより、送液膜を形成した。このとき、膜の表裏は電気的に絶縁されていることを確認した。金からなる第1及び第2の透水性電極には、導電性ラバー電極を介して交流電源に接続した。第1の透水性電極と第2の透水性電極との間の距離は、トラックエッチド膜の厚みと等しく、20μmであった。
図6に、実施例1において使用したトラックエッチド膜の破壊断面写真を示す。
【0061】
トラックエッチド膜の表面のゼータ電位を、膜ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社ELSZ−1)を用い測定した。具体的には、トラックエッチド膜に並行に電場を印加して誘起される電気浸透流の速度を、ヒドロキシプロピルセルロースの修飾によって帯電していないポリスチレンラテックス(500nm)の運動速度として観察し、その運動速度からゼータ電位を測定した。なお、液体としては、10mMのNaCl水溶液を用いた。結果を下記の表1に示す。
【表1】
【0062】
トラックエッチド膜の細孔内のゼータ電位を、固体ゼータ電位測定装置 (アントンパール・ジャパン、SurPASS)を用いて流動電位法により測定した。水圧の印加により生じる流動電位からゼータ電位を算出した結果、
第1の透水性電極側から第2の透水性電極側への流動電位から計算されたゼータ電位は、−36.01mVであり、
第2の透水性電極側から第1の透水性電極側への流動電位から計算されたゼータ電位は、−40.11mVであった。細孔内部のゼータ電位は、膜表面のゼータ電位よりずっと低かった。
【0063】
作製した電気浸透流ポンプに、液体(脱イオン水)の背圧をゼロに保ちながら、25Hzの交流電圧を印加した。結果を
図7に示す。
【0064】
なお、本実施例では、交流電圧を10分印加し続けても気泡は実質的に発生しなかった。
【0065】
図7に示される結果から、本実施例において作製した電気浸透流ポンプは、交流電圧を印加した際に駆動することが分かる。また、印加する電圧を高めることにより、流量を増大できることが分かる。
【0066】
(実験例2)
第1の透水性電極の誘電体多孔質膜とは反対側の表面を1,1−メルカプトウデカン酸により処理し、親水層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電気浸透流ポンプを作製した。
【0067】
(実験例3)
第1の透水性電極の誘電体多孔質膜側の表面を1,1−メルカプトウデカン酸により処理し、親水層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電気浸透流ポンプを作製した。
【0068】
実施例2,3において作製した電気浸透流ポンプに、液体(水)の背圧をゼロに保ちながら、25Hzの交流電圧を印加した。結果を、実施例1の結果と共に、
図8に示す。
【0069】
図8に示される結果から、第1の透水性電極の誘電体多孔質膜とは反対側の表面に親水層を形成することにより、送液能力を向上できることが分かる。
【0070】
(実施例4)
実施例1において作製した装置に、脱イオン水にpH指示薬を溶かした液体を供給し、第1及び第2の透水性電極間に15分間、25Hzで9.34Vrmsの交流電圧を印加した。その後、第1及び第2の貯留部の色調を観察したところ、第1及び第2の貯留部の色調は、電圧印加前と同様でpHは変化せず、電気分解によるガスは発生しなかった。また、溶媒として0.9質量%のNaCl水溶液を用いた場合も第1及び第2の貯留部はpH変化を示さず、電気分解によるガスは発生しなかった。
【0071】
一方、第1及び第2の透水性電極間に9.34Vの直流電圧を15分間印加したところ、第1の貯留部の色調が酸性色に変化し、第2の貯留部がアルカリ性色に変化し、電気分解によるガスが発生した。また、溶媒として0.9質量%のNaCl水溶液を用いた場合、第1の貯留部の色調が強酸性色に変化し、第2の貯留部が強アルカリ性色に変化し、電気分解によるガスが発生した。