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特許6166269電気浸透流ポンプ、その製造方法及びマイクロ流体デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166269
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】電気浸透流ポンプ、その製造方法及びマイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   F04D 33/00 20060101AFI20170710BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   F04D33/00
   B81B1/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-536813(P2014-536813)
(86)(22)【出願日】2013年10月22日
(86)【国際出願番号】JP2013078575
(87)【国際公開番号】WO2015059767
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年3月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年4月23日、北海道大学 学術交流会館において開催された「ナノマクロ物質・デバイス・システム創製アライアンス 平成24年度 成果報告会」で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集62巻1号[2013](平成25年5月14日)公益社団法人高分子学会発行に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年5月29日、国立京都国際会館において開催された「第62回高分子学会年次大会」で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100195305
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 恵
(72)【発明者】
【氏名】奥村 泰志
(72)【発明者】
【氏名】菊池 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】樋口 博紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 学
(72)【発明者】
【氏名】山本 一喜
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221978(JP,A)
【文献】 特開2012−189498(JP,A)
【文献】 特開2014−165109(JP,A)
【文献】 特開2010−216902(JP,A)
【文献】 特許第4555597(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体多孔質膜と、
前記誘電体多孔質膜の一方側に配された第1の透水性電極と、
前記誘電体多孔質膜の他方側に配された第2の透水性電極と、
前記誘電体多孔質膜の厚み方向における中心よりも一方側に配された親水層と、
を備え
前記親水層が、前記第1の透水性電極の表面が化学的または物理的に親水処理されることにより、前記第1の透水性電極の表面に形成されている、電気浸透流ポンプ。
【請求項2】
前記親水層が、前記誘電体多孔質膜と前記第1の透水性電極との間に配されている、請求項に記載の電気浸透流ポンプ。
【請求項3】
前記第1の透水性電極と前記第2の透水性電極との間に交流電圧を印加する電源をさらに備え、
前記電源は、1MHz以下の周波数の交流電圧を印加する、請求項に記載の電気浸透流ポンプ。
【請求項4】
前記誘電体多孔質膜の厚みが5μm〜100μmの範囲内にある、請求項に記載の電気浸透流ポンプ。
【請求項5】
前記誘電体多孔質膜における平均孔径が10nm〜50μmの範囲内にある、請求項に記載の電気浸透流ポンプ。
【請求項6】
前記第1及び第2の透水性電極は、それぞれ、厚み方向に貫通する貫通孔を有する、請求項に記載の電気浸透流ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気浸透流ポンプ、その製造方法及びマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ流体デバイスの1種であるマイクロポンプの需要が高まってきている。マイクロポンプの用途はマイクロリアクター、携帯型医療機器、燃料電池の燃料送液など様々である。従来、マイクロポンプとしては、機械式マイクロポンプが知られている。しかしながら、機械式マイクロポンプは、精密部品で構成されている。このため、機械式マイクロポンプでは、低コスト化と小型化に限界がある。こうした背景から、機械式ポンプに代わるマイクロポンプとして電気浸透流ポンプが注目を集めている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
電気浸透流とは、液体と固体が接している電気二重層に電圧が印加されたときに生じる液体の流れである。電気浸透流は、19世紀初めの物理学者ロイスにより電気泳動と共に発見された。液体の中にある溶質や荷電粒子が動く電気泳動と対照的に、電気浸透流では固体が固定されている。このため、バルクの液体が動く。電気浸透流は、水やアルコールのようなプロトン性溶媒を始めとする分極性の分子からなる液体またはイオン液体等で観測される。電気浸透流を用いて送液するポンプが電気浸透流ポンプである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−216902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、電気浸透流ポンプの一例が記載されている。特許文献1に記載の電気浸透流ポンプのように、従来の電気浸透流ポンプを駆動させるためには、直流電圧を印加する必要がある。
【0006】
電気浸透流ポンプを作動させるために直流電圧を印加すると、並行的に液体の電気分解反応が起きる。液体の電気分解反応が進行すると、液体のpHが変化したり、液体中に気泡が発生するという問題が生じる。特に液体として水を用いると水素や酸素が発生して危険である。従って、これらの問題が発生しない新たな電気浸透流ポンプが強く求められている。
【0007】
本発明の主な目的は、新規な交流駆動可能な電気浸透流ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電気浸透流ポンプは、誘電体多孔質膜と、第1の透水性電極と、第2の透水性電極と、親水層とを備える。第1の透水性電極は、誘電体多孔質膜の一方側に配されている。第2の透水性電極は、誘電体多孔質膜の他方側に配されている。親水層は、誘電体多孔質膜の厚み方向における中心よりも一方側に配されている。
【0009】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、第1の透水性電極及び第2の透水性電極は、それぞれ、誘電体多孔質膜表面に成膜された導電多孔膜、導電メッシュ、導電微粒子焼結膜、又は多孔質絶縁フイルムに印刷されたパターン電極であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、親水層が第1の透水性電極の表面に形成されていてもよい。
【0011】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、第1の透水性電極の表面が化学的または物理的に親水処理されていてもよい。
【0012】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、親水層が、第1の透水性電極に積層されていてもよい。
【0013】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、親水層が、誘電体多孔質膜と第1の透水性電極との間に配されていてもよい。
【0014】
本発明に係る電気浸透流ポンプは、第1の透水性電極と第2の透水性電極との間に交流電圧を印加する電源をさらに備え、電源は、1MHz以下の周波数の交流電圧を印加するものであってもよい。
【0015】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜の厚みが5μm〜100μmの範囲内にあることが好ましい。
【0016】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜の厚さの自乗に対する、透水性電極の面積の比((透水性電極の面積)/(誘電体多孔質膜の厚さ))が100より大きいことが好ましい。
【0017】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜における平均孔径が10nm〜50μmの範囲内にあることが好ましい。
【0018】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、誘電体多孔質膜は、厚み方向に貫通する貫通孔を有することが好ましい。
【0019】
本発明に係る電気浸透流ポンプでは、第1及び第2の透水性電極は、それぞれ、厚み方向に貫通する貫通孔を有することが好ましい。
【0020】
本発明に係る第1の電気浸透流ポンプの製造方法は、上記電気浸透流ポンプを製造する方法に関する。誘電体からなる多孔質のマザー膜の一主面上に第1の透水性電極を複数相互に間隔をおいて形成すると共に、マザー膜の一主面の第1の透水性電極が形成されない部分に液体を透過させない第1のマスクを形成する。マザー膜の他主面上に第1の透水性電極と対向するように第2の透水性電極を複数形成すると共に、マザー膜の他主面の第2の透水性電極が形成されない部分に液体を透過させない第2のマスクを形成する。これらにより、マザー積層体を作製する。マザー積層体を、第1及び第2のマスクが形成された部分で切断することにより複数に分断し、複数の電気浸透流ポンプを得る。
【0021】
本発明に係る第2の電気浸透流ポンプの製造方法は、上記電気浸透流ポンプを製造する方法に関する。誘電体からなる多孔質のマザー膜の一主面上に第1の透水性電極を複数相互に間隔をおいて形成すると共に、マザー膜の一主面の第1の透水性電極が形成されない部分に液体を透過させない第1のマスクを形成する。マザー膜の他主面上に第1の透水性電極と対向するように第2の透水性電極を複数形成すると共に、マザー膜の他主面の第2の透水性電極が形成されない部分に液体を透過させない第2のマスクを形成する。これらにより、誘電体多孔質膜の一部分と一対の第1及び第2の透水性電極により構成された複数のポンプ部を有する電気浸透流ポンプを得る。
【0022】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、上記電気浸透流ポンプと、誘電体多孔質膜の一方側に配された第1の貯留部と、誘電体多孔質膜の他方側に配された第2の貯留部とを備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新規な交流駆動可能な電気浸透流ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、第1の実施形態に係る電気浸透流ポンプを備える送液モジュールの模式的断面図である。
図2図2は、第1の実施形態における交流駆動電気浸透流ポンプの親水層の模式図である。
図3図3は、第2の実施形態における電気浸透流ポンプの一部分の模式的断面図である。
図4図4は、第3の実施形態における交流駆動電気浸透流ポンプの一部分の模式的断面図である。
図5図5は、第4の実施形態におけるマザー積層体の模式的断面図である。
図6図6は、第5の実施形態におけるマザー積層体の模式的断面図である。
図7図7は、第6の実施形態におけるマイクロ流体デバイスの模式的断面図である。
図8図8は、実施例において使用したトラックエッチド膜の破壊断面写真である。
図9図9は、実施例における印加電圧と流量との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0026】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電気浸透流ポンプを備える送液モジュールの模式的断面図である。
【0028】
図1に示される送液モジュール1は、固定治具10,11と、固定治具10,11に取り付けられた電気浸透流ポンプ2とを備えている。電気浸透流ポンプ2は、送液膜20を含む。電気浸透流ポンプ2には、交流電源が供給される。固定治具10,11は、それぞれ第1の貯留部12と第2の貯留部13を備えている。電気浸透流ポンプ2の送液膜20は、第1の貯留部12と、第2の貯留部13とを区画している。第2の貯留部13には、液体貯留槽15が接続されている。この液体貯留槽15から液体が第2の貯留部13に供給される。第2の貯留部13に供給された液体は、電気浸透流ポンプ2によって第1の貯留部12に送液され、第1の貯留部12に設けられた排出口14から排出される。
【0029】
送液膜20は、平板状であってもよいし、たわんだ構造、複数の凹凸を有する構造、折り畳まれた構造を有していてもよい。その場合、送液膜20の平面視における面積に対する、表面の実面積の比((送液膜20の表面の実面積)/(送液膜20の平面視における面積))を大きくすることができる。従って、電気浸透流ポンプ2の送液能力を向上することができる。
【0030】
送液膜20は、誘電体多孔質膜21を有する。誘電体多孔質膜21は、適宜の誘電体により構成されている。誘電体多孔質膜21は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PET)、ポリイミド(PI)等からなるポリマー膜や、セラミックス、シリコン、ガラス、酸化アルミニウム質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化珪素質焼結体、ガラスセラミックス焼結体等からなる無機膜により構成されていてもよい。また、誘電体多孔質膜21は、例えば、モノリシック多孔体であってもよい。
【0031】
誘電体多孔質膜21は、トラックエッチド膜であることが好ましい。ここで、トラックエッチド膜とは、トラックエッチングされた膜を意味する。トラックエッチングとは、膜に強力な重イオンを照射することにより直線トラックを形成するケミカルエッチングのことである。
【0032】
なお、誘電体多孔質膜21がポリマー膜や無機膜である場合は、レーザー光の照射により細孔を形成することができる。
【0033】
誘電体多孔質膜21は、連続気泡を有する膜であることが好ましく、厚み方向に貫通する貫通孔を複数有する膜であることが好ましい。通常、トラックエッチド膜は、厚み方向に貫通する貫通孔を多数有している。
【0034】
誘電体多孔質膜21の厚みは、特に限定されないが、5μm〜100μm程度であることが好ましく、10μm〜60μmであることがより好ましい。誘電体多孔質膜21の厚みをこのような厚みとすることにより、誘電体多孔質膜21の厚みと、形成される電気二重層の厚みとを拮抗させることができる。従って、電気浸透流ポンプ2の作動が好適になる。
【0035】
誘電体多孔質膜21における平均孔径は、10nm〜50μmであることが好ましく、20nm〜10μmであることがより好ましく、50nm〜2μmであることがさらに好ましい。誘電体多孔質膜21における平均孔径が小さすぎると、流動抵抗が大きく送液量が小さくなる場合がある。誘電体多孔質膜21における平均孔径が大きすぎると、送液の水圧が低下し、電気浸透流のエネルギー効率が悪くなる場合がある。
【0036】
誘電体多孔質膜21の開口率は、1%〜50%であることが好ましく、3%〜30%であることがより好ましい。誘電体多孔質膜21の開口率が高すぎると、隣り合う孔が融合しやすく膜としての自立性に問題がでる場合がある。誘電体多孔質膜21の開口率が低すぎると、送液量が小さくなる場合がある。
【0037】
誘電体多孔質膜21の細孔密度は、4E2/cm2〜5E13/cm2であることが好ましく、3E4/cm2〜7.5E10/cm2であることがさらに好ましい。誘電体多孔質膜21の細孔密度が高すぎると、開口率が高くなりすぎるか平均孔径が小さくなりすぎる場合がある。誘電体多孔質膜21の細孔密度が低すぎると電気浸透流のエネルギー効率が悪くなる場合がある。
【0038】
誘電体多孔質膜21の第1の貯留部12側には、第1の透水性電極22が設けられている。誘電体多孔質膜21の第2の貯留部13側には、第2の透水性電極23が設けられている。第1及び第2の透水性電極22,23は、液体が供給された際に、誘電体多孔質膜21の表面上に電気二重層が形成されるように設けられていればよい。第1及び第2の透水性電極22,23のそれぞれが誘電体多孔質膜21に接触していることが望ましい。しかしながら、第1及び第2の透水性電極22,23のそれぞれと誘電体多孔質膜21との間に局所的な僅かな隙間が存在していてもよい。
【0039】
第1及び第2の透水性電極22,23は、液体が厚み方向に通過可能に設けられている。第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、厚み方向に貫通する貫通孔を有することが好ましい。この第1及び第2の透水性電極22,23の貫通孔と誘電体多孔質膜21の貫通孔とが接続されていることが好ましい。
【0040】
第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、例えば、誘電体多孔質膜21の上に金属などの導電物質を、誘電体多孔質膜21の細孔が完全に閉鎖されないように成膜させることにより形成することができる。また、第1及び第2の透水性電極22,23は、導電メッシュ、導電微粒子焼結膜、多孔質絶縁フイルムに印刷されたパターン電極、の何れかにより構成されていてもよい。パターン電極としては、例えば、網状電極、くし型電極、千鳥状電極、フラクタル状パターン電極などのパターニングされた電極により構成されていてもよい。
【0041】
第1及び第2の透水性電極22,23の材質は、導電材料である限りにおいて特に限定されないが、第1及び第2の透水性電極22,23は、良導電材料により構成されていることが好ましい。具体的には、第1及び第2の透水性電極22,23は、それぞれ、金、銀及び銅の少なくとも一種の金属、カーボンナノチューブ等のカーボンを主体とする複合材、インジウムスズ酸化物(ITO)等の透明導電性酸化物(Transparent Conductive Oxide)等により構成されていてもよい。
【0042】
電気浸透流ポンプ2は、交流電源40に接続される。この交流電源40により第1及び第2の透水性電極22,23の間に交流電圧が印加される。電気浸透流ポンプ2と交流電源40の接続において、導電性ラバー等の高弾性導電体が介在してもよい。交流電源40は、第1及び第2の透水性電極22,23の間に1MHz以下の周波数の交流電圧を印加することが好ましく、0.5Hz〜20kHzの交流電圧を印加することがより好ましく、1Hz〜100Hzの交流電圧を印加することがさらに好ましい。第1及び第2の透水性電極22,23の間に印加される交流電圧の周波数が高すぎると、電気浸透流ポンプ2が好適に作動しなくなる場合がある。
【0043】
図2に示されるように、電気浸透流ポンプ2では、第1の透水性電極22の表面に、親水層22aが形成されている。具体的に、本実施形態では、第1の透水性電極22の表面が親水処理されることにより、親水層22aが形成されている。親水層22aは、親水化された多孔質薄膜を第1の透水性電極22の表面に積層されていてもよいが、第1の透水性電極22の表面を親水性官能基をもつ分子で化学修飾または物理修飾することにより形成されていてもよい。
【0044】
第1の透水性電極22の表面を親水性官能基をもつ分子で化学修飾する具体的方法としては、第1の透水性電極22が金を含む場合には、第1の透水性電極22の表面が、金−チオール結合しうる自己組織化試薬等により表面処理されることにより、親水層22aが形成される。
【0045】
この場合、好ましく用いられる自己組織化試薬としては、チオール官能基端末と、親水基により構成された他端末とを含む主鎖を有する分子が選ばれる。このような自己組織化試薬の具体例としては、例えば、
HS−(CH−COOH ……… (1)
HOOC−(CH−S−S−(CH)n−COOH ……… (2)
HS−(CH−OH ……… (3)
HS−(CH−(OCH−CH−(CH−OCH−COOH ……… (4)
HS−(CH−NHCl ……… (5)
HS−(CH−(OCH−CH−NHCl ……… (6)
などが挙げられる。
【0046】
図2には、上述のような自己組織化試薬(具体的には、1,1−メルカプトウデカン酸)を用いて形成した親水層22aが模式的に示されている。
【0047】
なお、自己組織化試薬による親水化処理を行う前に、脱脂処理、超臨界CO洗浄、プラズマ処理やコロナ放電処理などを追加的に行ってもよい。
【0048】
第1の透水性電極22の表面を親水性官能基をもつ分子で化学修飾する具体的方法の別の例としては、親水官能基を含むポリマーで被覆する方法がある。親水性官能基を含むポリマーとしては、ホスホリルコリン基を含有するポリウレタンウレアが好適に用いられる。また、親水性官能基を含むポリマーとして、アミノ基を分子鎖中に多数有するポリリシンやポリアリルアミン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等も用いることができる。第1の透水性電極22の表面を親水性官能基をもつ分子で化学修飾する方法はこれらに限られるわけではなく、当業者の知りうる化学修飾親水化技術を適用しうる。
【0049】
以上のように、本実施形態では、誘電体多孔質膜21の厚み方向における中心よりも第1の透水性電極22側に親水層22aが配されている。親水層22aの表面近傍では、透水性電極23の表面近傍と比べて液体中のカウンターイオンの数が異なっている。このため、交流電圧が印加された際に、第2の貯留部13から第1の貯留部12に向けての液体の移動量が、第2の貯留部13から第1の貯留部12に向けての液体の移動量と異なって非対称になる。従って、電気浸透流ポンプ2に交流電圧を印加すると、一方の貯留部から他方の貯留部へと液体が送液される。これにより、電気浸透流ポンプ2が作動する。すなわち、電気浸透流ポンプ2は、交流電圧により駆動可能である。従って、電気浸透流ポンプに直流電圧を印加する場合とは異なり、電気浸透流ポンプ2の駆動時に、液体が並行的な電気分解反応によりpH変化を起こしたり、気泡が発生したりすることがない。
【0050】
電気浸透流ポンプ2の送液能力をより高くする観点からは、親水層22aは、第1の透水性電極22の誘電体多孔質膜21とは反対側の表面に形成されていることが好ましい。
【0051】
誘電体多孔質膜21の厚さの自乗に対する、第1及び第2の透水性電極22,23の面積の比((第1及び第2の透水性電極22,23の面積)/(誘電体多孔質膜21の厚さ))が100より大きいことが好ましい。この比が小さすぎると、送液の効率が悪くなる。この比が大きい分には制約はない。
【0052】
なお、本発明の電気浸透流ポンプは、交流電圧を印加することに作動するものであるが、直流電圧を印加した際に作動しないものである必要は必ずしもない。
【0053】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0054】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態における電気浸透流ポンプの一部分の模式的断面図である。
【0055】
図3に示されるように、第2の実施形態では、第1の透水性電極22の上に配された、親水性材料からなる膜により親水層22aが構成されている。このような場合であっても、第1の実施形態の電気浸透流ポンプ2と同様に、交流駆動が可能である。
【0056】
なお、親水層22aが第1の透水性電極22と接触している必要は必ずしもない。50μm以下程度であれば、親水層22aは、第1の透水性電極22から離間して設けられていてもよい。すなわち、親水層22aは、第1の透水性電極22の上方に設けられていてもよい。
【0057】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態における電気浸透流ポンプの一部分の模式的断面図である。
【0058】
図4に示されるように、第3の実施形態では、親水層22aに加え、第1の透水性電極22と誘電体多孔質膜21との間にさらなる親水層24が設けられている。親水層22aに加えて親水層24を設けることにより、送液機能をさらに向上することができる。
【0059】
親水層24は、例えば、粉末ポリエチレン焼結体を化学的に親水化した膜等を挿入することにより形成することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、親水層22aに加えて親水層24を設ける例について説明した。但し、本発明は、これに限定されない。例えば、第1の透水性電極の誘電体多孔質膜とは反対側には親水層を設けず、第1の透水性電極と誘電体多孔質膜との間に親水層を設けてもよい。その場合であっても、電気浸透流ポンプは交流駆動可能である。
【0061】
(第4の実施形態)
図5は、第4の実施形態におけるマザー積層体の模式的断面図である。
【0062】
本実施形態では、電気浸透流ポンプの製造に際し、まず、誘電体からなる多孔質のマザー膜31を用いする。このマザー膜31は、複数の誘電体多孔質膜21を構成するためのものである。次に、このマザー膜31の一主面の上に、第1の透水性電極22を複数相互に間隔をおいて形成すると共に、マザー膜31の一主面の第1の透水性電極22が形成されない部分に液体を実質的に透過させない第1のマスク32を形成する。マザー膜31の他主面の上に、第1の透水性電極22と対向するように第2の透水性電極23を複数形成すると共に、マザー膜31の他主面の第2の透水性電極23が形成されない部分に液体を実質的に透過させない第2のマスク33を形成する。これにより、マザー積層体30を作製する。次に、マザー積層体30を、第1及び第2のマスク32,33が形成された部分で切断することによりマザー積層体30を複数の電気浸透流ポンプに分断する。
【0063】
以上の要領で電気浸透流ポンプを作製することにより、複数の電気浸透流ポンプを高い製造効率で製造することができる。
【0064】
なお、第1及び第2のマスク32,33は、それぞれ、例えば、粘着フイルム、ホットメルト樹脂、熱硬化性樹脂、打抜きラバー膜等により形成することができる。第1及び第2のマスク32,33を同時に形成してもよい。また、第1及び第2のマスク32,33が誘電体多孔質膜21に浸透し融着しても構わない。
【0065】
(第5の実施形態)
図6は、第5の実施形態におけるマザー積層体の模式的断面図である。
【0066】
本実施形態では、第4の実施形態と実質的に同様にして作製したマザー積層体30を、そのまま電気浸透流ポンプとする。そうすることにより、マザー膜31の一部分により構成された誘電体多孔質膜21と、一対の透水性電極22,23とを有するポンプ部35を複数有する電気浸透流ポンプを製造することができる。
【0067】
(第6の実施形態)
図7は、第6の実施形態におけるマイクロ流体デバイスの模式的断面図である。
【0068】
本発明に係る電気浸透流ポンプは、例えば、マイクロ流体デバイスに適用可能である。
【0069】
図7に示されるマイクロ流体デバイス3は、電気浸透流ポンプ2と、第1の貯留部12と第2の貯留部13とを有する。第1の実施形態と同様に、第1の貯留部12は、電気浸透流ポンプ2の送液膜20の誘電体多孔質膜21の一方側に配されており、第2の貯留部13は、誘電体多孔質膜21の他方側に配されている。第1の貯留部12と第2の貯留部13とは、送液膜20により区画されている。電気浸透流ポンプ2には、交流電源が供給される。液体貯留槽15から液体が第2の貯留部13に供給される。第2の貯留部13に供給された液体は、電気浸透流ポンプ2によって第1の貯留部12に送液され、第1の貯留部12に設けられた排出口14から排出される。
【0070】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0071】
(実施例)
以下の要領で、第1の実施形態に係る電気浸透流ポンプ2と実質的に同様の構成を有する電気浸透流ポンプを作製した。厚さが20μmであり、平均孔径が400nmであるトラックエッチド膜(Millipore、isopore membrane filters HTTP04700)の両面にマグネトロンスパッタ装置(株式会社真空デバイス、MSP−1S)を用いて厚さ20nmの金を成膜さることにより、第1及び第2の透水性電極を形成した。このとき、膜の表裏は電気的に絶縁していることを確認した。次に、第1の透水性電極の誘電体多孔質膜とは反対側の表面を1,1−メルカプトウデカン酸により処理し、親水層を形成した。以上の工程により実施例に係る電気浸透流ポンプを作製した。
【0072】
なお、金からなる第1及び第2の透水性電極には、導電性ラバー電極を介して交流電源に接続した。第1の透水性電極と第2の透水性電極との間の距離は、トラックエッチド膜の厚みと等しく、20μmであった。図8に、実施例において使用したトラックエッチド膜の破壊断面写真を示す。
【0073】
作製した電気浸透流ポンプに、液体(脱イオン水)の背圧をゼロに保ちながら、25Hzの交流電圧を印加した。結果を図9に示す。
【0074】
なお、本実施例では、交流電圧を10分印加し続けても気泡は実質的に発生しなかった。
【0075】
図9に示される結果から、本実施例において作製した電気浸透流ポンプは、交流電圧を印加した際に駆動することが分かる。また、印加する電圧を高めることにより、流量を増大できることが分かる。
【0076】
また、本実施例で作製した装置に、脱イオン水にpH指示薬を溶かした液体を供給し、第1及び第2の透水性電極間に15分間、25Hzで9.34Vrmsの交流電圧を印加した。その後、第1及び第2の貯留部の色調を観察したところ、第1及び第2の貯留部の色調は、電圧印加前と同様でpHは変化せず、電気分解によるガスは発生しなかった。また、溶媒として0.9wt%のNaCl水溶液を用いた場合も第1及び第2の貯留部はpH変化を示さず、電気分解によるガスは発生しなかった。
【0077】
一方、第1及び第2の透水性電極間に9.34Vの直流電圧を15分間印加したところ、第1の貯留部の色調が弱酸性色に変化し、第2の貯留部が弱アルカリ性色に変化し、電気分解によるガスが発生した。また、溶媒として0.9wt%のNaCl水溶液を用いた場合、第1の貯留部の色調が強酸性色に変化し、第2の貯留部が強アルカリ性色に変化し、電気分解によるガスが発生した。
【符号の説明】
【0078】
1:送液モジュール
2:電気浸透流ポンプ
3:マイクロ流体デバイス
10:固定治具
11:固定治具
12:第1の貯留部
13:第2の貯留部
14:排出口
15:液体貯留槽
20:送液膜
21:誘電体多孔質膜
22:第1の透水性電極
22a:親水層
23:第2の透水性電極
24:親水層
30:マザー積層体
31:マザー膜
32:第1のマスク
33:第2のマスク
35:複数のポンプ部を有する電気浸透流ポンプ
40:交流電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9