(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、抗血栓剤としては、抗血小板薬、抗凝固剤などが使用されているが、抗血小板薬および抗凝固剤は異なるメカニズムで血栓の形成を抑制する。抗血小板薬の薬理活性は、例えば、その薬剤の血小板凝集に対する阻害活性を測定することで得られ、一方、抗凝固剤の薬理活性は、例えば、その薬剤の血液凝固時間に対する延長活性を測定することで得られる。しかし、基本的に、抗血小板薬は血液凝固時間に、抗凝固剤は血小板凝集に、それぞれ影響しない。
【0006】
従って、これらの薬剤を併用する際に、血液凝固時間や血小板凝集といった測定方法を用いても、その併用効果は評価できなかった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、異なるメカニズムの抗血栓剤を併用する際に、一つの評価系で簡便に、その併用効果を評価できる測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)(a)多血小板血漿(Platelet Rich Plasma)(以下、「PRP」という場合がある。)に、抗凝固剤、P2Y
12受容体阻害剤、アデノシン二リン酸(以下、「ADP」という場合がある。)および組織因子(以下、「TF」という場合がある。)を添加する工程、(b)蛍光標識したトロンビン基質、および、カルシウム含有溶液を添加する工程、および、(c)蛍光強度を測定する工程、を含む、トロンビン産生を測定する方法;
(2)抗凝固剤が第Xa因子阻害剤である、前記(1)に記載の方法;
(3)第Xa因子阻害剤がエドキサバンである、前記(2)に記載の方法;
(4)P2Y
12受容体阻害剤がクロピドグレルまたはチカグレロルである、前記(1)〜(3)いずれか1項に記載の方法;
(5)工程(a)におけるADPの最終濃度が5〜20μMである、前記(1)〜(4)いずれか1項に記載の方法;
(6)工程(a)におけるTFの最終濃度が0.05〜0.25pMである、前記(1)〜(5)いずれか1項に記載の方法;
(7)工程(c)で得られた蛍光強度をトロンビン濃度に変換する工程をさらに含む、前記(1)〜(6)いずれか1項に記載の方法;
(8)(d)抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤が投与された哺乳動物から採取された血液からPRPを得る工程、(e)得られたPRPにADPおよびTFを添加する工程、(f)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、および、(g)蛍光強度を測定する工程、を含む、トロンビン産生を測定する方法;
(9)工程(g)で得られた蛍光強度をトロンビン濃度に変換する工程をさらに含む、前記(viii)に記載の方法;
(10)(h)抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤が投与された哺乳動物から採取された血液からPRPを得る工程、(i)得られたPRPにADPおよびTFを添加する工程、(j)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、(k)蛍光強度を測定する工程、(l)抗凝固剤またはP2Y
12受容体阻害剤が投与された、あるいは、いずれの薬剤も投与されていない哺乳動物から採取された血液からPRPを得る工程、(m)得られたPRPにADPおよびTFを添加する工程、(n)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、(o)蛍光強度を測定する工程、(p)工程(k)で得られた値と工程(o)で得られた値を比較する工程、を含む、抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤の併用効果を評価する方法;
(11)(q)抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤が投与された哺乳動物から採取された血液からPRPを得る工程、(r)得られたPRPにADPおよびTFを添加する工程、(s)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、(t)蛍光強度を測定する工程、(u)工程(t)で得られた蛍光強度をトロンビン濃度に換算する工程、(v)抗凝固剤またはP2Y
12受容体阻害剤が投与された、あるいは、いずれの薬剤も投与されていない哺乳動物から採取された血液からPRPを得る工程、(w)得られたPRPにADPおよびTFを添加する工程、(x)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、(y)蛍光強度を測定する工程、(z)工程(y)で得られた蛍光強度をトロンビン濃度に換算する工程、(aa)工程(u)で得られた値と工程(z)で得られた値を比較する工程、を含む、抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤の併用効果を評価する方法;ならびに
(12)(q)抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤を含有する多血小板血漿に、アデノシン二リン酸および組織因子を添加する工程、(r)蛍光標識したトロンビン基質、および、カルシウム含有溶液を添加する工程、および、(s)蛍光強度を測定する工程を含む、トロンビン産生を測定する方法;
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、抗血栓剤の併用効果を簡便に測定できるという効果を奏する。さらに、本発明は、抗凝固剤および/またはP2Y
12受容体阻害剤が投与される場合の出血リスクをトロンビン産生を指標にして予測できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ADP単独(濃度5〜20μM)がトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図2】
図2は、ADPおよびTFがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である(triplicateの測定)。上のグラフはADP(10μM)がトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。真ん中のグラフはADP(10μM)およびTF(0.05pM)がトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。下のグラフはADP(10μM)およびTF(0.25pM)がトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図3A】
図3Aは、コントロール、クロピドグレル10μg/mL、エドキサバン40ng/mLおよびクロピドグレル10μg/mLとエドキサバン40ng/mLがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図3B】
図3Bは、コントロール、クロピドグレル10μg/mL、エドキサバン80ng/mLおよびクロピドグレル10μg/mLとエドキサバン80ng/mLがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図3C】
図3Cは、コントロール、クロピドグレル20μg/mL、エドキサバン40ng/mLおよびクロピドグレル20μg/mLとエドキサバン40ng/mLがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図3D】
図3Dは、コントロール、クロピドグレル20μg/mL、エドキサバン80ng/mLおよびクロピドグレル20μg/mLとエドキサバン80ng/mLがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図4】
図4は、エドキサバンおよび/またはクロピドグレルがトロンビン産生に関するパラメータに及ぼす影響を示す図である。AはLag time、BはETP、CはPeak、DはTime to Peak、EはMaxRを示す。
【
図5A】
図5Aは、コントロール、チカグレロル3μg/mL、エドキサバン40ng/mLおよびチカグレロル3μg/mLとエドキサバン40ng/mLがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図5B】
図5Bは、コントロール、チカグレロル3μg/mL、エドキサバン80ng/mLおよびチカグレロル3μg/mLとエドキサバン80ng/mLがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。縦軸はトロンビンの濃度(nM)を表し、横軸は時間(min)を表す。
【
図6】
図6は、エドキサバンおよび/またはチカグレロルがトロンビン産生に及ぼす影響を示す図である。AはLag time、BはETP、CはPeak、DはTime to Peak、EはMaxRを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、PRPに、抗凝固剤、P2Y
12受容体阻害剤、ADPおよびTFを添加する工程、さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、および、蛍光を測定する工程を含む、トロンビン産生を測定する方法である。
【0012】
本発明で使用されるPRPは、哺乳動物のPRPであれば特に限定されないが、好ましくはヒトPRPである。PRPは、例えば、クエン酸ナトリウム、EDTAなど、好ましくはクエン酸ナトリウムを充填したシリンジを用いて哺乳動物から血液を採取し、得られた血液を遠心分離に供し、上清液を回収することで得ることができる。
【0013】
本発明で使用される抗凝固剤としては、特に限定されないが、ダビガトラン、アルガトロバン、ヒルジン、ヘパリン、エノキサパリン、ダルテパリン、ワルファリン、フォンダパリヌクス、エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバン、ベトリキサバン、オタミキサバン、それらの塩、それらの活性代謝物などが挙げられる。
【0014】
本発明で使用されるP2Y
12受容体阻害剤は、血小板上のADP受容体のP2Y
12クラスに結合して血小板の活性化および/または凝集を阻害する薬剤である。P2Y
12受容体阻害剤としては、特に限定されないが、チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル、エリノグレル、チカグレロル、カングレロール、それらの塩、それらの活性代謝物などが挙げられる。
【0015】
本明細書において「塩」とは、抗凝固剤またはP2Y
12受容体阻害剤のフリー体と酸または塩基とを反応させることにより形成される塩をいう。本明細書において「活性代謝物」とは、生体に投与された抗凝固剤またはP2Y
12受容体阻害剤が生体内で酵素的または化学的に代謝を受けることにより化学構造が変化して、抗凝固作用または抗血小板作用を発揮する化合物をいう。
【0016】
本発明で使用されるADPの最終濃度は、好ましくは5〜20μMであり、より好ましくは10μMである。
【0017】
本発明で使用されるTFは、組換え型組織因子でも非組み換え型組織因子でもよく、好ましくは組換え型組織因子であり、さらに好ましくは組換え型ヒト組織因子である。TFは、例えば、Thrombinoscope BV社、Dade Behring社などから購入できる。工程1で使用されるTFの最終濃度は、好ましくは0.05〜1pMであり、より好ましくは、0.05〜0.25pMであり、さらにより好ましくは0.25pMである。
【0018】
本発明において、PRPに抗凝固剤、P2Y
12受容体阻害剤、ADPおよびTFを添加する順番は特に限定されないが、好ましくは、抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤を添加した後、ADPおよびTFを添加する順番である。
【0019】
本発明で使用されるカルシウム含有溶液としては、塩化カルシウム含有溶液が好ましい。本発明で使用される蛍光標識したトロンビン基質としては、トロンビンによって分解され、蛍光を発する基質であれば特に限定されないが、例えば、Bachem社から販売されているZ-Gly-Gly-Arg-AMC・HClなどが挙げられる。蛍光原としては、7-アミド-4-メチル-クマリン(AMC)などが挙げられる。AMCは390nmで励起し、460nmで放出される。
【0020】
上述の通り、カルシウム含有溶液と蛍光標識したトロンビン基質は別々に入手することができるが、両方を含有するFluCa-kit(Thrombinoscope BV社製)を用いてもよい。
【0021】
産生されたトロンビンの濃度を測定するために本発明では蛍光強度を測定する。トロンビンの濃度を直接測定する代わりに蛍光強度を測定する理由は次の通りである。蛍光標識したトロンビン基質はトロンビンと接触することにより、蛍光原を脱離する。脱離された蛍光原の蛍光強度はトロンビン濃度に依存するため、蛍光強度を測定することによりトロンビンの濃度を間接的に確認することができる。
【0022】
蛍光強度をトロンビン濃度に変換するために、検量線を予め作成することが好ましい。または、Thrombinoscope BV社から市販されている、Thrombin Calibrator、FluCa-kitおよびThrombinoscopeソフトウェアを使用することで、容易に蛍光強度をトロンビン濃度に変換することができる。
【0023】
蛍光強度を測定する方法としては、例えば、蛍光光度計(Fluoskan Ascent、Themo Scientific社製)を用いて測定する方法が挙げられる。さらに、経時的に測定された蛍光強度をトロンビン濃度に変換するために、Thrombinoscope BV社製のThrombinoscopeソフトウェアを使用することが好ましい。
【0024】
トロンビン産生を評価する項目としては、トロンビン産生開始までの時間を表す「Lag time(min)」、トロンビン濃度が最大に達した時間を表す「Time to Peak(min)」、トロンビン濃度曲線下の面積を表す「ETP(nM×min)」、トロンビン濃度の最大値を表す「Peak(nM)」、および、トロンビン産生の最大速度を表す「MaxR(nM/min)」が挙げられる。MaxRは以下の式で算出することができる。
【0026】
トロンビンはフィブリノーゲンを可溶性フィブリンに変換し、かつ、第XIII因子を活性化する酵素である。可溶性フィブリンは第XIIIa因子により不溶性フィブリンに変換される。従って、トロンビンの産生を抑制できれば、不溶性フィブリンの産生も抑制することができる。従って、本発明によれば、抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤を併用した場合における抗血栓効果を、一つの評価系で確認することができる。
【0027】
抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤を併用した場合における抗血栓効果を確認するためには、前記トロンビン産生の測定方法を応用すればよい。例えば、次のような工程を実施して評価することができる。(h)抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤が投与された哺乳動物から採取された血液から多血小板血漿を得る工程、
(i)得られた多血小板血漿にアデノシン二リン酸および組織因子を添加する工程、
(j)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、
(k)蛍光を測定する工程、
(l)抗凝固剤またはP2Y
12受容体阻害剤が投与された、あるいは、いずれの薬剤も投与されていない哺乳動物から採取された血液から多血小板血漿を得る工程、
(m)得られた多血小板血漿にアデノシン二リン酸および組織因子を添加する工程、
(n)さらにカルシウム含有溶液および蛍光標識したトロンビン基質を添加する工程、
(o)蛍光強度を測定する工程、および
(p)(k)で得られた値と(o)で得られた値を比較する工程。
【0028】
工程(k)で得られた値と工程(o)で得られた値を比較する場合、蛍光強度をThrombinoscopeソフトウェアなどを用いてトロンビン濃度に換算し、Lag time(min)、Time to Peak(min)、ETP(nM×min)、Peak(nM)、および、MaxR(nM/min)をそれぞれ比較して、少なくとも1つのパラメータで有意差があれば併用効果があると判断できる。その併用効果が、相加的であるか、または、相乗的であるかは、様々な観点から判断される。
【0029】
抗凝固剤およびP2Y
12受容体阻害剤は共に血栓の形成を抑制する薬剤であるので、投与後に出血が発生することもある。本発明は、このような出血のリスクをLag time(min)、Time to Peak(min)、ETP(nM×min)、Peak(nM)、および/または、MaxR(nM/min)を用いて予測するために利用することもできる。
【0030】
本発明はまた、アデノシン二リン酸、組織因子、蛍光標識したトロンビン基質、および、カルシウム含有溶液を含有するトロンビン産生を測定するためのキットを提供する。
【0031】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(HEPES緩衝液の調製)
20mMのHEPESおよび140mMの塩化ナトリウムになるように両試薬を蒸留水に溶解し、1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いてpH7.4に調整した。得られた溶液を4℃で保存し、使用時にウシ血清アルブミン(BSA)(最終濃度0.5%)を添加した。
【0033】
(ADP溶液の調製)
BSAを添加したHEPES緩衝液に10mMとなるように溶解し、-30℃で保存した。使用時に解凍し、BSAを添加したHEPES緩衝液(で必要な濃度に希釈して使用した。
【0034】
(TF溶液の調製)
PRP reagent(Thrombinoscope BV社製)1バイアルを1mLの蒸留水で溶解し(TF濃度6pM)、BSAを添加していないHEPES緩衝液で希釈して使用した。
【0035】
(エドキサバン溶液の調製)
エドキサバントシル酸水和物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した後、DMSO濃度が1%となるように生理食塩水で希釈した。
【0036】
(クロピドグレル溶液の調製)
クロピドグレルの活性代謝物(2-{1-[(1S)-1-(2-クロロフェニル)-2-メトキシ-2-オキソエチル]-4-スルファニル-3-ピペリジニリ-ジエン}酢酸、Thromb Haemost 2000; 84:891-6)をメタノールに溶解した後、メタノール濃度が5%となるように生理食塩水で希釈した。
【0037】
(チカグレロル溶液の調製)
チカグレロルをDMSOに溶解した。
【0038】
(ヒトPRPの調製)
クエン酸ナトリウム38mg/mLを含む溶液を2mL充填したシリンジを用いて健常ボランティアの橈骨静脈から18mLの血液を採取した。得られた血液を室温で150×g、10分間遠心し、上清液をPRPとして得た。PRPを分取した後の残渣を室温で2000×g、10分間遠心し、上清液を乏血小板血漿(Platelet poor plasma)(以下、「PPP」という場合がある)として得た。PRP中の血小板数が2×10
5platelets/μLとなるように、PRPをPPPで希釈した。得られたPRPは16℃で30分以上放置した後、トロンビン産生の測定に用いた。
【0039】
(測定条件の検討)
96-wellプレートに1%DMSO含有生理食塩水を10μL添加後、上記で得られたヒトPRPを70μL添加した。さらに、ADP溶液(最終濃度5、10または20μM)を20μL、または、ADP溶液(最終濃度10μM)およびTF溶液(最終濃度0.05または0.25pM)を等容量で混合した溶液を20μL添加し、37℃でインキュベートした。
【0040】
トロンビン濃度の検量線に用いられるwellには、ADP溶液またはTF溶液の代わりにThrombin Caliblator(Thrombinoscope BV社製)を20μL添加した。
【0041】
5〜7分後、加温したFluCa-kit液(Thrombinoscope BV社製)を20μL添加して反応を開始した。蛍光光度計(Fluoroskan Ascent、Thermo Scientific社製)でex390nm/em460nmにおける蛍光強度を37℃で150分間測定し、Thrombinoscopeソフトウェア(Thrombinoscope BV社製)を用いてLag time(min)、Time to Peak(min)、ETP(nM×min)、Peak(nM)、および、MaxR(nM/min)を算出した。なお、測定はtriplicateで実施した。
【0042】
トロンビン濃度の経時変化を
図1に示す。ADPはトロンビン産生を惹起することがわかった。また、ADP濃度が、Peak、Lag timeおよびTime to Peakに影響を及ぼすことがわかった。
【0043】
図2に示すように、ADPを単独で使用した場合、triplicateの測定間で安定した結果が得られなかった。一方、ADPとTFを使用した場合、ADPを単独で使用した場合に比較してtriplicateの測定間で安定した結果が得られ、TFの濃度を高くするにつれて、さらに安定した結果が得られた。
【0044】
ADP濃度が10μMであり、かつ、TF濃度が0.25pMである場合に得られたトロンビン産生の各パラメータを以下の実施例においてコントロールとして用いた。
【0045】
(実施例1:抗血栓剤の併用効果の確認1)
96-wellプレートに、エドキサバンおよびクロピドグレルのPRP中での濃度が表1に示す値になるように、エドキサバン溶液および/またはクロピドグレル溶液を各5μL、および、ヒトPRPを70μL添加した。さらに120μMのADP溶液(最終濃度10μM)と3pMのTF溶液(最終濃度0.25pM)を等容量で混合した溶液を20μL添加し、37℃でインキュベートした。
【0046】
その後、上記「測定条件の検討」と同様に各パラメータを算出した。
【0047】
【表1】
【0048】
トロンビン濃度の経時変化を
図3A〜3Dに示す。コントロールに対し、エドキサバンおよびクロピドグレルの活性代謝物は、それぞれ単独でトロンビンの産生を抑制することがわかった。そして、これらの薬剤を併用することによりさらにその抑制効果が増強されることがわかった。
【0049】
各パラメータの値を
図4に示す。対応のあるt検定、または、二元配置分散分析、または、Spearmanの順位相関係数の検定を用いて、得られたパラメータを比較した。統計解析にあたっては、全て両側検定で行い、有意水準を5%未満とした。統計解析の結果を表2に示す。表において、E40はエドキサバン40ng/mL、E80はエドキサバン80ng/mL、C10はクロピドグレルの活性代謝物10μg/mL、C20はクロピドグレルの活性代謝物20μg/mL、Cx/Eyはクロピドグレルの活性代謝物xμg/mLとエドキサバンyng/mLとの併用をそれぞれ表す。
【0050】
【表2】
【0051】
エドキサバンは、Lag time、Peak、Time to PeakおよびMaxRに対して、トロンビンの産生を抑制する方向に濃度依存的かつ有意な作用を示すことがわかった(No.11、12)。クロピドグレルの活性代謝物は、Lag time、Peak、Time to PeakおよびMaxRについて、トロンビンの産生を有意に抑制することがわかった(No.5)。エドキサバンとクロピドグレルの活性代謝物との併用群とそれぞれの単独群との比較では、全てのパラメータで有意差が認められた(No.1〜4)。併用効果は、エドキサバンの濃度に依存することもわかった(No.9、10)。さらに、二元配置分散分析(No.6)の結果、ETPおよびTime to Peakについて有意差が認められ、エドキサバンとクロピドグレルの代謝物とを併用すると、より高いトロンビン産生抑制作用が得られることもわかった。
【0052】
(実施例2:抗血栓剤の併用効果の確認2)
ヒトPRPに1/200容量のチカグレロル溶液を添加し、室温で15分間インキュベートした。96-wellプレートに、チカグレロルを含有するPRPを75μL添加した後、エドキサバン溶液5μLを添加した。120μMのADP(最終濃度10μM)と3pMのTF(最終濃度0.25pM)を等容量で混合した溶液をさらに20μL添加し、37℃でインキュベートした。
【0053】
96-wellプレートに、エドキサバン溶液を、化合物の濃度が表3に示す値になるように添加した後、ヒトPRPを70μL添加した。さらに120μMのADP溶液(最終濃度10μM)と3pMのTF溶液(最終濃度0.25pM)を等容量で混合した溶液を20μL添加し、37℃でインキュベートした。
【0054】
その後、上記「測定条件の検討」と同様に各パラメータを算出した。
【0055】
【表3】
【0056】
トロンビン濃度の経時変化を
図5Aおよび5Bに示す。コントロールに対し、エドキサバンおよびチカグレロルは、それぞれ単独でトロンビンの産生を抑制することがわかった。そして、これらの薬剤を併用することによりさらにその抑制効果が増強されることがわかった。
【0057】
各パラメータの値を
図6に示す。対応のあるt検定、二元配置分散分析、または、Spearmanの順位相関係数の検定を用いて、得られたパラメータを比較した。統計解析にあたっては、全て両側検定で行い、有意水準を5%未満とした。統計解析の結果を表4に示す。表において、E40はエドキサバン40ng/mL、E80はエドキサバン80ng/mL、T3はチカグレロル3μg/mL、T3/Eyはチカグレロル3μg/mLとエドキサバンyng/mLとの併用をそれぞれ表す。
【0058】
【表4】
【0059】
エドキサバンは、Lag time、Peak、Time to PeakおよびMaxRについて、トロンビンの産生を濃度依存的かつ有意に抑制した(No.7、8)。チカグレロルは、Peak、Time to PeakおよびMaxRについて、トロンビンの産生を有意に抑制することがわかった(No.3)。エドキサバンとチカグレロルとの併用群とそれぞれの単独群との比較では、ETP、Peak、Time to PeakおよびMaxRについて有意差が認められた(No.1および2)。併用効果は、エドキサバンの濃度に依存することもわかった(No.6)。さらに、二元配置分散分析(No.4)の結果、ETPについて有意差が認められ、エドキサバンとチカグレロルとを併用すると、より高いトロンビン産生抑制作用が得られることもわかった。
【0060】
以上の結果から、in vivoの測定系を利用しなくても本発明のin vitroの測定系を利用すれば、様々な観点から抗血栓剤の併用効果を評価することができることがわかった。