特許第6166280号(P6166280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166280
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】配管検査ロボット、及び配管の検査方法
(51)【国際特許分類】
   F17D 5/02 20060101AFI20170710BHJP
   B25J 5/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   F17D5/02
   B25J5/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-553148(P2014-553148)
(86)(22)【出願日】2013年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2013083725
(87)【国際公開番号】WO2014098068
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-276238(P2012-276238)
(32)【優先日】2012年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512326931
【氏名又は名称】株式会社移動ロボット研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 栄次
【審査官】 仲村 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−203525(JP,A)
【文献】 特開2008−215815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 5/02
B25J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の外周面に載置されて該配管の軸方向に進退可能であり、且つ該配管の異常の有無を検査する配管検査ロボットであって、
前記配管の外周面に嵌合する凹陥部を備えたメインフレームと、
前記メインフレームを前記配管の軸方向へ進退させるメインフレーム駆動機構と、
前記メインフレームの前記凹陥部内において円弧状の軌跡に沿って進退可能に支持された回動部材と、
前記回動部材を移動させる回動部材駆動機構と、
前記回動部材に搭載された検査装置と、
を備え、
前記メインフレーム駆動機構は、前記凹陥部の中心位置に対応した前記メインフレーム部位により該メインフレームの移動方向と交差する方向へ回動自在に軸支された可動ベースと、該可動ベースの回動角度を変化させる可動ベース駆動機構と、該可動ベースによって回転自在に支持された一対の走行用車輪と、該走行用車輪を回転駆動させる車輪駆動機構と、を備え、
前記一対の走行用車輪は、前記可動ベースの軸部を中心として左右対称に配置されていることを特徴とする配管検査ロボット。
【請求項2】
前記検査装置は、前記回動部材の移動方向と交差する方向へ進退自在に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の配管検査ロボット。
【請求項3】
前記可動ベースは、前記凹陥部の中心位置と対向する前記配管の外周面に想定される接線と直交する軸部によって回動自在に軸支されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の配管検査ロボット。
【請求項4】
前記車輪駆動機構は、前記可動ベースに搭載された走行用モータと、該可動ベースにより回転自在に支持され、該走行用モータの出力ギアからの駆動力の伝達を受ける従動ギアと、該従動ギアの回転軸の両端部に夫々連結された自在継ぎ手と、を備え、
前記各自在継ぎ手を介して前記各走行用車輪の軸端部と連結したことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の配管検査ロボット。
【請求項5】
前記検査装置は、中性子水分計を備えた水分計測装置、超音波探傷装置、磁気探傷装置、又はX線探傷装置の何れかであることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の配管検査ロボット。
【請求項6】
前記各駆動機構は、無線、又は有線により遠隔操作されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の配管検査ロボット。
【請求項7】
請求項1乃至に記載の前記配管検査ロボットを用いた配管の検査方法であって、
前記凹陥部を前記配管外面に嵌合するセット工程と、
前記検査装置により前記配管の異常の有無を測定する工程と、
前記検査装置を前記配管の周方向に移動させて前記配管の周方向各部位の異常の有無を測定する工程と、
前記検査装置を前記配管の軸方向へ移動させる工程と、
を備えたことを特徴とする配管の検査方法。
【請求項8】
前記検査装置として前記水分計測装置を用いた請求項に記載の配管の検査方法であって、
計測時には前記水分計測装置を前記配管に接近させ、非計測時には前記水分計測装置を前記配管から離間させることを特徴とする配管の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の損傷の有無等を検査する自走型の配管検査ロボット、及び配管の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種プラントに設置されて液体、粉体、気体等の流体を移送するために用いられる配管は、鋼製の管体等の外面を、断熱材(保温材)と保護鉄板により順次覆った構造を有している。
管体の損傷、劣化、流体漏れ等の異常を検査する手法として、管体の内部に検査機器を挿入して直接的に点検する方法が従来から多数提案されている。しかし、管体内部から検査を行う方法では、管体の外面に発生した腐食、損傷と、それらに起因した減肉、穴空き、ひび割れ等のダメージ発生箇所と、流体漏れの有無を発見することが難しい。
特に、保温材等により被覆された管体に発生した異常を外部から目視により直接観察して発見することは難しいため、湿度、水分量の変化を手掛かりとして外部から間接的に検知する方法が提案されている。
例えば、特許文献1(特開平8−285717号公報)には、配管破断想定箇所に湿度センサを設けて、漏洩の初期段階で漏洩を検知するシステムが提案されている。
特許文献2(特開平10−292893号公報)には、配管の外側に漏水受け皿を設け、溜まった漏水を検知する漏水検知装置が提案されている。
特許文献3(特許第4763632号公報)には、配管の外側に中性子水分計を配置して、保温材に含まれる水分を測定する方法が提案されている。
【0003】
また、配管は、高所、狭所等、作業員が容易に近づけない箇所にも配置されている。あるいは、原子力発電所等の配管設備では、被曝の危険回避のために配管に接近できなかったり、或いは、配管近傍での作業時間が制限を受けることがある。
このように作業員が接近できない箇所にある配管を非破壊により検査(探傷)する手法として、特許文献4(特開2006−184029号公報)には、地上を走行する自走ロボットから点検アームを伸ばして配管にアクセスする方法が提案されている。
特許文献5(特開2006−126022号公報)には点検アームを手持ちで操作する方法が提案されている。
【0004】
しかし、検査対象となる配管近傍の他の構造物の配置や作業環境の危険性等によって、地上からアクセスして点検する方法は制約を受けることがあり、この場合には特許文献4、5に開示された手法では対応し切れない。
そこで、本発明者は、配管そのものを支持体として利用して点検する自走式のロボットを特許文献6(特開2010−203525号公報)として提案した。
しかし、特許文献6に記載された検査用台車は、円筒状の配管の上半分に設置された状態で自走して配管の上半分のみを検査し、配管の下半分に設置された状態で自走して配管の下半分のみを検査するものである。従って、配管の所定の長さ範囲を上半分と下半分に分けて個別に検査する必要があり、検査の作業性、検査効率が低かった。
即ち、配管の外面下方を検査する場合は、中性子水分計を含む重量物としての機体がアームのみを手掛かりとして配管の下方にぶら下がった状態になるため、アームの強度を高める必要がある。このため、走行装置等の構成部品も複雑あるいは強固に構成する必要があり、また配管側の重量負担が大きくなり、動作に時間が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−285717号公報
【特許文献2】特開平10−292893号公報
【特許文献3】特許第4763632号公報
【特許文献4】特開2006−184029号公報
【特許文献5】特開2006−126022号公報
【特許文献6】特開2010−203525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、配管の損傷、腐食等のダメージ、異常の有無を配管外部から非破壊により検査する際に、配管外面の上半分にセットされて自走しながら配管の下半分を含む外面全体を漏れなく検査することができる配管検査ロボット、及びこの配管検査ロボットを用いた配管の検査方法を提供することを目的としている。
外表面に保温材と金属薄板が順次被覆された配管における保温材中の水分量を非破壊的手法によって計測する手段としては、中性子水分計が適している。
保温材の有無と関係なく、外部から配管全体の異常を検知(検査、点検)する他の手段としては、磁気的検査装置、超音波検査装置、X線検査装置を例示することができる。
本発明は、半円形の凹部を設けたフレームを備え、下方が開放した本体を配管の上方に載置した状態で、中性子水分計を配管の周囲に回動できる構成とすることにより、機器構成を簡素にして、全体に軽量化することができ、機動性、操作性を向上させた。下方が開放しているので、配管の下方を支えるT形架台がある部分も通過することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る配管検査ロボットは、配管の外周面に載置されて該配管の軸方向に進退可能であり、且つ該配管の異常の有無を検査する配管検査ロボットであって、前記配管の外周面に嵌合する凹陥部を備えたメインフレームと、前記メインフレームを前記配管の軸方向へ進退させるメインフレーム駆動機構と、前記メインフレームの前記凹陥部内において円弧状の軌跡に沿って進退可能に支持された回動部材と、前記回動部材を移動させる回動部材駆動機構と、前記回動部材に搭載された検査装置と、を備え、前記メインフレーム駆動機構は、前記凹陥部の中心位置に対応した前記メインフレーム部位により該メインフレームの移動方向と交差する方向へ回動自在に軸支された可動ベースと、該可動ベースの回動角度を変化させる可動ベース駆動機構と、該可動ベースによって回転自在に支持された一対の走行用車輪と、該走行用車輪を回転駆動させる車輪駆動機構と、を備え、前記一対の走行用車輪は、前記可動ベースの軸部を中心として左右対称に配置されていることを特徴とする。
請求項2の発明は、前記検査装置は、前記回動部材の移動方向と交差する方向へ進退自在に構成されていることを特徴とする
【0008】
請求項の発明は、前記可動ベースは、前記凹陥部の中心位置と対向する前記配管の外周面に想定される接線と直交する軸部によって回動自在に軸支されていることを特徴とする。
請求項の発明は、前記車輪駆動機構は、前記可動ベースに搭載された走行用モータと、該可動ベースにより回転自在に支持され、該走行用モータの出力ギアからの駆動力の伝達を受ける従動ギアと、該従動ギアの回転軸の両端部に夫々連結された自在継ぎ手と、を備え、前記各自在継ぎ手を介して前記各走行用車輪の軸端部と連結したことを特徴とする。
請求項の発明は、前記検査装置は、中性子水分計を備えた水分計測装置、超音波探傷装置、磁気探傷装置、又はX線探傷装置の何れかであることを特徴とする。
【0009】
請求項の発明は、前記各駆動機構は、無線、又は有線により遠隔操作されることを特徴とする。
請求項の発明に係る検査方法は、請求項1乃至に記載の前記配管検査ロボットを用いた配管の検査方法であって、前記凹陥部を前記配管外面に嵌合するセット工程と、前記検査装置により前記配管の異常の有無を測定する工程と、前記検査装置を前記配管の周方向に移動させて前記配管の周方向各部位の異常の有無を測定する工程と、前記検査装置を前記配管の軸方向へ移動させる工程と、を備えたことを特徴とする。
請求項の発明は、前記検査装置として前記水分計測装置を用いた請求項に記載の配管の検査方法であって、計測時には前記水分計測装置を前記配管に接近させ、非計測時には前記水分計測装置を前記配管から離間させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の配管検査ロボットは、半円形の凹部を設けたフレームを備え、下方が開放した本体を配管の上方に載置した状態で、測定装置を配管の周囲に回動できる構成とすることにより、機器構成を簡素にして、全体に軽量化することができ、機動性、操作性を向上させた。下方が開放しているので、配管の下方を支えるT形架台がある部分も通過することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】配管上に装着された配管検査ロボットの斜視図である。
図2】配管上に装着された配管検査ロボットの正面図である。
図3】配管上に装着された配管検査ロボットの平面図である。
図4】配管上に装着された配管検査ロボットの側面図である。
図5】配管上に装着された配管検査ロボットの縦断面図である。
図6】配管上に装着された配管検査ロボットの要部縦断面図である。
図7】配管上に装着された配管検査ロボットの中央位置の縦断面図である。
図8】水分計測装置(検査装置)が下方位置にある状態における配管検査ロボットの斜視図である。
図9】配管検査ロボットの走行装置を示す斜視図である。
図10】配管検査ロボットの回動部材駆動機構(上方位置)を示す斜視図である。
図11】配管検査ロボットの回動部材駆動機構(下方位置)を示す斜視図である。
図12】水分計測装置の昇降状態を示す側部縦断面図であり、(a)は下降(配管接触)位置、(b)は上昇位置を示す図である。
図13】水分計測装置の原理を示す図である。
図14】本発明にかかる配管検査ロボットの制御ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係る配管検査ロボットについて詳細に説明する。
図1は配管上に装着された本発明の実施形態に係る配管検査ロボットの斜視図であり、図2は同配管検査ロボットの正面図であり、図3は同配管検査ロボットの平面図であり、図4は同配管検査ロボットの側面図であり、図5は同配管検査ロボットの縦断面図であり、図6は同配管検査ロボットの要部断面図であり、図7は同配管検査ロボットの中央位置の縦断面図であり、図8は水分計測装置(検査装置)が下方位置にある状態における配管検査ロボットの斜視図であり、図9は配管検査ロボットの走行装置を示す斜視図であり、図10は配管検査ロボットの回動部材駆動機構(上方位置)を示す斜視図であり、図11は配管検査ロボットの回動部材駆動機構(下方位置)を示す斜視図であり、図12は水分計測装置の昇降状態を示す側部縦断面図であり、(a)は下降(配管接触)位置、(b)は上昇位置を示している。
【0013】
本発明に係る配管検査ロボットAは、配管Pの外面を抱え込むように搭載され、配管の外面上をその軸方向(長手方向)へ自走して、搭載した検査装置により配管の外面に発生した腐食、損傷等のダメージ、その他の異常を検知する手段である。
検査装置としては、水分量、湿度等に基づいて異常を検出する検査装置、磁気の変化により異常を検出する検査装置、超音波により異常を検出する検査装置、X線により異常を検出する検査装置等々、種々の検査装置(探傷装置)を適用することができる。
以下の実施形態では、検査装置の一例として水分計測装置(中性子水分計)を用いた場合を説明する。
なお、ここで配管とは、金属管体自体を指すこともあるが、配管を取り巻く断熱材を含んだ状態の配管のことをいう。
【0014】
本実施形態に係る配管検査ロボットAは、搭載した水分計測装置9を用いて配管の外面に被覆された保温材P2に含まれる水分を測定することにより、配管Pの腐食、損耗、損傷、その他のダメージの有無、流体漏れの危険性を検知、報知する手段である。
図1等に示すように、配管Pは、金属製鋼管であるパイプP1の外周面に、断熱性等の保温材P2を被覆し、更に保温材の外表面を薄鋼板等の被覆材P3で被覆した構成を備えている。被覆材P3は鋼板のはぜ組で固定されていることが多く、はぜ組の施工部分はシール材等で保護されているが、経年変化や外力が加わることでシール部分が劣化し、雨水や海霧が保温材P2に浸透する。そのため、保温材P2に含まれる水分が増加すると、鋼管の外面から腐食が進み、鋼管の肉が痩せて、ピンホールから開孔に至り、冷温水等を安全に供給することができなくなる。配管Pは、プラントや発電所、原子力発電施設において、作業員の手が届きにくい高所に配置されたり、複雑に配置されている。また、そのような施設の事故現場では接近することも困難である。
配管検査ロボットAは、配管Pの外面に上方から被さった状態で安定してセット(嵌合)される凹陥部(下方開放部)を有し、凹陥部を配管外面に上方から嵌合させた状態で配管の軸方向に移動するばかりでなく、配管の任意の位置において水分計測装置を配管の外周面に沿って周回移動させることができる。このため、機器構成を簡素化し、且つ軽量化しながらも、配管検査ロボットを配管上に一回セットするだけで、高い作業効率の下に、配管の外周面全体の検査を行うことができる。
【0015】
本発明に係る配管検査ロボットによる検査対象となるのは、鋼管等の金属管体の外周面に断熱材等の保温材を巻き、更にその表面を薄鋼板等で被覆した配管である。この種の配管は、外面からの目視点検のみでは金属管体の外面腐食等の異常を発見することは困難である。
一方、金属管体の外面が腐食する主な原因は保温材に含まれる水分量であるため、腐食の有無を正確に判定するためには保温材に含まれる水分量を検知することが重要である。或いは、配管内を移送される流体が配管の腐食部、損傷部等から漏れを起こしている場合にも、漏れ出た流体が液体となって保温材に含浸されていることがあり、この液体量の増加を検知することにより、腐食等の発生を知ることができる。
【0016】
まず、配管検査ロボットの全体構成を説明する。
図1の斜視図に示すように、配管検査ロボットAは、配管Pの外周面に載置され、該配管の軸方向に進退(移動)しつつ該配管の異常の有無を検査する手段である。
配管検査ロボットAは、配管Pの外周面に嵌合する形状(配管の外周面と略整合する内面形状)を有した凹陥部17を備えたメインフレーム1と、メインフレーム1を配管Pの軸方向へ進退させるメインフレーム駆動機構(第1の駆動機構)D1と、メインフレーム1の凹陥部17内において円弧状の移動軌跡に沿って進退可能に支持された円弧状の回動部材32と、回動部材32を移動させる回動部材駆動機構(第2の駆動機構)D2と、回動部材32によって凹陥部17の内周縁に沿って移動する水分計測装置(検査装置)9と、を概略備えている。
メインフレーム1は、凹陥部17を構成する略円弧状(略半円状)の凹部11aを下縁中央部に有した前フレーム板11と、前フレームの後方に離間して並行に配置され、且つ凹陥部17を構成する略円弧状(略半円状)の凹部12aを下縁中央部に有した後フレーム板12と、両フレーム板11、12間を連結する複数のビーム材13と、を概略備えている。
凹陥部17を構成する各凹部11a、12aは、上部に位置する半円形(円弧状)凹部14と、円弧状凹部14の両端縁から下方へ直線状に延びる直線部15と、を備えている。
【0017】
前フレーム板11と後フレーム板12の円弧状凹部14の中央部(中心部)に対応する外面部位に夫々走行装置2を設置する。
前フレーム板11と後フレーム板12の内側面には、夫々凹陥部の内面、即ち円弧状凹部14に沿って往復して回動可能な円弧状の回動部材32を有する回動部材駆動機構(第2の駆動機構)D2が設けられている。帯状の金属薄板から成る円環状体の一部を切除することにより円弧状に構成された各回動部材32は、各フレーム板11、12に夫々設けられた駆動モータ31により駆動されて、円周の軌道に沿って一体的に移動する。なお、回動部材32の円弧の範囲は後述する案内ロール33a、33bのうち、フレーム板11、12の最下部に設けた左右の案内ロールと配管Pの略中央とを結ぶ二直線のなす角度θ+α以上であり、かつ360度−(θ−α)以下である。ここでαは回動部材が案内ロールから抜け落ちないようにするための突出量を定めるものであり、本実施例では10度程度である。したがって、回動部材32の円弧とは、好ましくは180度以上、250度以下である。すなわち、回動部材の円弧の範囲をθ+α以上とすることで回動部材32を回転させた際に案内ロール33a、33bから抜け落ちることを防ぎ、かつ、360度−(θ−α)以下とすることで配管Pの外周面に配管検査ロボットAを載置する際に回動部材32がじゃまにならない。図2に示した案内ロール33a、33bの配置であれば、θは約120度である。
【0018】
対向配置された各回動部材32の中間部を中心とした位置に水分計測装置9が取り付けられている。水分計測装置9を構成する中性子水分計は配管の外面に接触(近接)した状態で計測され、メインフレーム1が軸方向へ移動する場合や、回動部材が周方向へ移動する時には中性子水分計を配管表面から離間させて退避状態にする。
配管検査ロボットAは、離れた位置から操縦できるように、無線、或いは有線による遠隔操作が可能な構成となっている。
検査装置として水分計測装置9を用いた場合には、配管検査ロボットAは水平方向に配置された配管の点検に適している。これは保温材に保持された水分は重力によって移動するが、水平方向の配管の場合には配管の長手方向に水分が移動しにくいからである。
次に、配管検査ロボットAの各構成要素について説明する。
【0019】
(1)メインフレーム
メインフレーム1は、配管検査ロボットAの機体枠を構成する。メインフレーム1の全体構成は、図1及び図8に記載された配管検査ロボットの斜視図に表されている。正面、平面、側面等については、他の図に表されている。
図1図8に示されるメインフレーム1は、前後のフレーム板11、12を数本のビーム材13にて連結して一体化され、枠状に構成されている。メインフレーム1の下方側は開放されていて、配管Pが挿通する空間である凹陥部17となっている。メインフレーム1の内部には水分計測装置9が配置されている。水分計測装置9は、前後のフレーム板11、12の内面側に取り付けられた回動部材32に搭載されている。ビーム材13は、回動部材32及び水分計測装置9の動作(移動軌跡)と干渉しない位置に配置されている。
【0020】
図2の正面図に示すように、ほぼ同形状の前後のフレーム板11、12の同一位置には、円弧状凹部14が設けられており、円弧状凹部14の両端縁から連続して下方に直線部15が延在しており、下端16は凹陥部17内に嵌合した配管Pの中心より下方に位置している(載置状態における安定性を確保)。円弧状凹部14とそれに続く直線部15によって凹陥部17が形成される。凹陥部17(円弧状凹部14)の開放巾Dは、配管Pの直径よりやや大きい程度に設定する。配管Pの規格に合わせて、開放巾Dを含めた凹陥部17の形状が設計される。
本例の円弧状凹部14は、半円弧状凹部として構成されているが、半円弧状(180度の周方向角度)である必要はなく、180度未満であってもよい。
各円弧状凹部14の周方向中央部に相当する各フレーム板11、12の適所(本例では外面)には、夫々走行装置2が取り付けられている。また、各フレーム板11、12の他の部位には、回動部材駆動機構D2の駆動モータ31が取り付けられている。
【0021】
前後のフレーム板11、12の内側には、円弧状の移動軌跡に沿って進退する回動部材32を案内する案内ロール33a、33bが回動部材の巾にほぼ相当する間隔を隔てて2列配置されている。回動部材32の外側周縁に沿って配列された複数の案内ロール33aと、内側周縁に沿って配列された複数の案内ロール33bと、から構成される。
各案内ロール33a、33bは、例えば各フレーム板11、12の内側面に突設されたピンにより回転自在に軸支された回転部材としてのロールとしてもよいし、低摩擦材料から成る回転しないロールであってもよい。
図6図10等に示すように、各駆動モータ31の回転軸(出力軸)31aは、各フレーム板11、12を貫通して各フレーム板の内側に突出しており、各回転軸31aには駆動ギア34の軸心が固定されている。駆動ギア34は外周面にラックのギア35を備え、この駆動ギア34は回動部材32の長手方向に沿って形成されたラックギア35と噛合してモータからの駆動力を伝達し、回動部材32を円弧状の移動軌跡(各案内ロール列間に形成される)に沿って進退させる。具体的には、回動部材32は、図10に示した上方位置と、図11に示した下方位置との間を回動しながら移動することができる。
回動部材32は凹陥部17の内周面(円弧状凹部14、直線部15)に沿った円形の移動軌跡に沿って進退するように構成されており、図6に示した上方位置にある時には、回動部材の両端部はフレームの両側の下端16の近傍にて終端している。
なお、回動部材32の両端部の先端の幅を他の部位よりも細くすることにより、回動部材の回動時に回動部材の一方の端部が一方の下端16から凹陥部を経由して他方の下端16に移動したときに、下端部を案内ロール33a、33bの間にスムーズに進入させることができる。
【0022】
図6等に示すように、回動部材32の外面には、その長手方向(周方向)に沿って駆動ギア34と噛み合うラックギア35が設けられている。また、図3図8図10に示すように、回動部材32には水分計測装置9をガイドするガイドレールであるガイド93と、水分計測装置を昇降させる昇降用モータ92が設置されている。水分計測装置9の外面にはガイド93によりスライド自在にガイドされる被ガイド部が設けられており、昇降用モータ92に駆動されて配管外面に接近する方向と、離間する方向へ進退自在に案内される。図6には、回動部材32を含む回動部材駆動機構D2がフレーム板11の内面に取り付けられた状態が示されている。図11には、回動部材32が図10の状態から180度回動した状態を示している。回動部材32は180度回動してから逆方向に回動して戻るようにしてもよいし、駆動モータ31を複数備え、常にいずれかの駆動モータ31の駆動ギア34が回動部材32のラックギア35と噛合しているように構成するか、駆動モータ31は単数であっても、駆動モータ31の駆動ギア34と回動部材32のラックギア35とが常に噛合うよう駆動ギア34を複数設ければ、180度以上同方向に回転するようにしてもよい。回動部材32の円周方向長は、最下部に設けた左右の案内ロールと配管Pの略中央とを結ぶ二直線のなす角度θ+α以上、好ましくは180度を十分に超えた長さとすることにより、下端16間の開放部から脱落することが防止される。なお、開放部からの脱落の虞がない場合には、回動部材の周方向長を180以下としてもよい。
昇降用モータ92の出力ギア94を、水分計測装置9の外面に設けたラックギア95と噛合させることにより、出力ギア94の回転によって水分計測装置9を配管側に接近させたり、配管から離間させるように昇降(進退)させることができる(図3)。
【0023】
(2)走行装置
走行装置2は、前後のフレーム板11、12の外面側に設置されている。
走行装置2を構成する第1の駆動機構(メインフレーム駆動機構)D1は、メインフレーム1を配管Pの軸方向へ進退させる手段である。
第1の駆動機構D1は、図9に示すように凹陥部17(円弧状凹部14)の周方向中心位置に対応したメインフレーム1の部位によりメインフレームの移動方向(配管の軸方向)と交差する方向(円弧状凹部14の半径方向)へ延びる軸部5aによって回動自在に軸支された可動ベース5と、可動ベース5の回動角度を変化させる可動ベース駆動機構(第3の駆動機構)D3と、可動ベース5によって夫々独立して回転自在に支持された一対の走行用車輪21a、21bと、各走行用車輪21a、21bを回転駆動させる車輪駆動機構(第4の駆動機構)D4と、を備える。
即ち、第1の駆動機構D1は、凹陥部17の中心位置に対応したメインフレーム1の部位により該メインフレームの移動方向(配管の軸方向)と交差する方向へ回動自在に軸支された可動ベース5と、該可動ベース5の回動角度を変化させる可動ベース駆動機構(第3の駆動機構)D3と、該可動ベースによって回転自在に支持された一対の走行用車輪21a、21bと、該走行用車輪を回転駆動させる車輪駆動機構(第4の駆動機構)D4と、を備え、一対の走行用車輪は、可動ベースの軸部5aを中心として左右対称に配置されている。
【0024】
また、可動ベース5は、凹陥部17の中心位置と対向する配管の外周面に想定される接線と直交する軸部5aによって回動自在に軸支されている。
一対の走行用車輪21a、21bは、可動ベース5の軸部5aを中心として左右対称に配置されている。可動ベース5が図1等において水平方向へ回動することにより、各走行用車輪も同方向へ回動することができる。
可動ベース駆動機構D3は、各フレーム板11、12により固定された固定部材11b、12bに設けられた軸部5a(操舵用軸24)を中心として水平方向へ回動する可動ベース上に搭載された操舵用モータ23と、可動ベース5に一体化されて、操舵用モータの出力軸に軸心を固定された出力ギア23aと噛合することにより動作する可動ベース従動ギア5bと、を有する。
【0025】
操舵用軸(軸部5a)24は操舵用モータ23によって±7°程度の回動範囲で操作可能に設定されている。これは配管Pのうねりや撓みにより、走行用車輪21a、21bを同じように駆動しても、配管検査ロボットAが配管の最上部から少しずつ円周方向に傾いて移動する現象があり、これを補正するため設けたものである。
図示しない制御手段(操縦装置)からの指令により、操舵用モータ23を駆動して出力ギア23aを正逆回動させることにより、可動ベース従動ギア5bを介して可動ベース5(各走行用車輪21a、21b)を軸部5aを中心として水平方向へ回動させることができる。
走行用車輪21a、21bを回転駆動させる車輪駆動機構(第4の駆動機構)D4は、可動ベース5に搭載された走行用モータ(自走用モータ)22と、走行用モータからの駆動力を各走行用車輪に伝達する等速ジョイント25と、各等速ジョイントに連結される左右に設けた走行用車輪21a、21bと、を備えている。
即ち、第4の駆動機構D4は、可動ベース5に搭載された走行用モータ22と、該可動ベースにより回転自在に支持され、該走行用モータの出力ギア22aからの駆動力の伝達を受ける従動ギア25aと、該従動ギアの回転軸の両端部に夫々連結された等速ジョイント25(自在継ぎ手)と、を備え、各自在継ぎ手を介して各走行用車輪の軸端部と連結した構成を備えている。
【0026】
走行用モータ22の出力ギア22aは従動ギア25aと噛合しており、従動ギア25aの軸部両端に等速ジョイント25が連結されている。
2つの走行用車輪21a、21bは、配管の表面に沿うように傾斜して配置される。
等速ジョイント25を自在継ぎ手から構成することにより、2つの走行用車輪21a、21bが配管の表面形状の変化等に応じて変位することを許容する。
必要に応じて各可動部材の動作、位置等を知るためのセンサ類(光センサ、リミットスイッチ等)を配置しても良い。
各モータは、有線又は無線によって遠隔コントロールされる。
有線で遠隔コントロールする場合には、図示しない操縦装置からの各種信号及び電力を供給するためのケーブルが接続されている。これにより、走行装置、回動部材駆動機構等の可動部の駆動について遠隔操作が可能になっている。また、検査装置である中性子水分計の遠隔操作も可能となっている。
無線により遠隔コントロールする場合には、メインフレーム1の適所にバッテリーを搭載し、これを電源として用いる。
【0027】
(3)回動部材駆動機構
回動部材駆動機構D2は、前後のフレーム板11、12の内面に配置されていて、水分計測装置9を保持して配管Pの外周に沿って回動させる機構である。回動部材駆動機構D2は図6図8図10図11を主に参照できる。
前後のフレーム板11、12の内面に配置された2つの回動部材32を回動部材ビーム36で連結し、各回動部材の間に水分計測装置9を可動な状態で配置している。
回動部材駆動機構D2は、回動部材32を案内する2列構成の外側の案内ロール33a群、及び内側の案内ロール33b群と、回動部材32を回動させる駆動用モータ31と、回動モータの回転軸から動力伝達される駆動ギア34と、駆動ギア34に噛み合うように回動部材32に設けられたラックギア35と、を備える。
駆動モータ31を遠隔操作して駆動ギア34を回転させて、回動部材32を回動させ、取り付けられている水分計測装置9を配管Pの外周に添って周方向へ移動させる。
回動部材駆動機構D2が上方位置にある状態が図10に示されており、回動部材駆動機構D2が下方位置にある状態を図11に示している。
図10に示した位置に回動部材駆動機構D2がある時には、水分計測装置9は配管Pの最上部と対向しており、この部位の水分を計測できる状態にある。また、図11の位置では水分計測装置9は配管Pの最下部と対向しており、この部位の水分を計測できる状態にある。さらに、図10の上部位置と図11の下部位置との間の移動経路において水分計測装置は配管Pの外周面の水分を測定することができ、トータルで配管全周の水分測定を行うことが可能となる。
なお、回動部材32の周方向両端部付近の適所、例えば2つの回動部材の周方向両端部間を連結する回動部材ビーム36aに重量バランスを確保するための錘(カウンターウェイト)を配置することにより、回動部材が回動して水分計測装置9が周方向に移動することにより重心の位置が移動する際の安定性を確保することができる。
【0028】
(4)水分計測装置
水分計測装置9は、図3図4図5図7図8図12等に主に表されている。図3は配管Pに載置された状態の配管検査ロボットAの平面であって、水分計測装置9の取り付け構成が表されている。図8は、回動部材が下方に回動した状態における水分計測装置9が現れている。
水分計測装置9は、管体と管体に巻かれた断熱材との間、或いは断熱材に含まれた水分量を測定するための装置である。中性子水分計91は、線源から高エネルギーを有する高速中性子を放出する。高速中性子は、質量の最も小さい水素原子と衝突するとエネルギーを失い、低速の熱中性子となる。熱中性子へと変換される変化量は、測定対象物中の水素量に比例する。中性子水分計91は、この熱中性子だけを選択的に検出するセンサを有しており、熱中性子の検出量に基づいて水分量を計測できるようになっている。
即ち、水分計測装置9は、中性子水分計91を内蔵した筐体(検査装置収容部)96を備え、筐体96は測定装置駆動機構D5によって配管Pの周面に向けて(配管の直径方向へ)進退駆動される。筐体96の回動部材32に対向する側面97には、ガイド93に沿ってスライド移動する係合片(被ガイド部材)と、少なくとも一方の回動部材に固定されて水分計測装置を配管表面に向けて進退させる昇降用モータ92により回転駆動されるピニオンギア94と噛み合うラックギア95(図3)と、が設けられている。
【0029】
昇降用モータ92を駆動して筐体96を下降させて、配管Pに水分計測装置を接触させて測定し、非測定時には配管Pに接触しない位置に上昇させる。配管Pに接触した状態を図12(a)に示し、上方に位置(離間)した状態を図12(b)に示している。離間した時の配管との間の距離(スペースS)は10mm程度に設定されている。
メインフレーム1は、例えば配管Pの長手方向上を250mm移動する毎に停止する。そして、停止しているときに、中性子水分計91によって、水分量が計測され記録される。このような動作が繰り返されることによって、配管Pの断熱材の水分量が計測される。
中性子水分計91が配管Pの頂部に設置されているときにおいて、配管の頂部の±35度の周方向範囲における水分量が計測される。また中性子水分計91が配管の底部に設置されているときにおいて、配管の底部の±35度の範囲における水分量が計測される。これは、経験上、配管に錆が生ずるときには配管の頂部又は底部に生ずることが分かっているためである。
尚、中性子水分計と配管との位置関係(間隔I)を上下方向に微調整できるような機構を設けることとしてもよい。このようにすることによって、水分量の計測をより正確に行えるようになる。また、本実施形態では、筐体96に中性子水分計を収容することとして、断熱材に含まれる水分量を計測することとしたが、他の計測装置、探傷装置(磁気的計測装置、超音波計測装置、X線計測装置)を収容することとしてもよい。
【0030】
(5)中性子水分計
中性子水分計による水分検出原理の概略を図13に示す。
中性子水分計は、中性子源101から放出される中性子104が、水分中の水素等と多重弾性衝突することによってエネルギーを失って発生する熱中性子105を、熱中性子検出器102で検出するものである。中性子は、金属のような大きい原子番号の元素は透過しやすく、水素のような小さい原子番号の元素には衝突しやすいという特性をもつ。衝突を繰り返した中性子はエネルギーを失い、熱中性子と呼ばれるエネルギーまで減速した段階で熱中性子検出器で検出できる。中性子水分計については、特開2011−27559号公報等に例示されている。
配管は鋼管P1と金属製の被覆材P3との間に保温材P2が挟まれている積層構成であり、保温材P2に含まれる水分量に比例する水素成分に衝突したときに発生する熱中性子の数が変化するので、この熱中性子を検出することで水分を検出する。
本発明では、熱中性子の進入筒を傾かせて保温材の検出部位から発生する熱中性子に焦点をあてて捕捉できるように設定している。そして、中性子水分計を昇降する機構を採用しているので、測定対象箇所を測定するために熱中性子の進入筒にシャッター103を設けて、計測タイミングに合わせて測定して、精度向上させている。シャッターの開と閉の両方で計測し、その差分を取ることによって、測定対象のみから情報を検知する。
【0031】
(6)操作
測定シーケンスは、次の通りである。
(a)配管検査ロボットAを配管Pの任意の箇所(例えば一端部)の外周面上部に設置(載置)して図1乃至図7の状態にする。
(b)測定装置駆動機構D5を制御して中性子水分計91を配管に向けて移動させて配管外面に接触させる。中性子水分計91と配管周面との適切な位置関係については、図示しないリミットスイッチ、フォトセンサ(特に反射型)等々のセンサを用いて検出する。
(c)中性子水分計内部のシャッター103を開放し外乱を測定する(およそ15秒)。
(d)シャッター103を閉じ測定を開始する(およそ15秒)。
(f)測定終了の信号を確認する。
(g)測定装置駆動機構D5を制御して中性子水分計を配管Pから離す。
(h)配管検査ロボットAを所定距離(例えば、250mm)走行させる。
(i)必要に応じ操舵し配管検査ロボットを配管上の他の位置に誘導する。
そして(b)から(h)を繰り返して、長さ方向に水分を検査する。
なお、本発明の配管検査ロボットを用いた点検作業において最低限必要な工程は、凹陥部を前記配管外面に嵌合するセット工程と、検査装置により前記配管の異常の有無を測定する工程と、検査装置を配管の周方向に移動させて配管の周方向各部位の異常の有無を測定する工程と、検査装置を配管の軸方向へ移動させる工程と、である。
【0032】
配管Pの下方を検査する場合は、回動部材駆動機構を回動して、図8に示すように中性子水分計を下方に位置させて、同様の測定シーケンスを行う。
本実施例は、横置き配管(配管の水平部分)の計測に適した配管検査ロボットの構成である。
横置き配管は、下方からT形の架台で支持されているので、回動部材を回転して下方を開放した状態で、架台部分を通過することができるので、配管の水平部分は支障なく検査することができる。配管は、プラントや発電所、原子力発電施設において、高所や複雑に配置されている。事故現場では配管に接近することも困難である。本配管検査ロボットは、離れた位置から操縦できる。
【0033】
次に、図14は本発明にかかる配管検査ロボットの制御ブロックを示す図であり、モータ等の出力装置としては、走行用モータ22、操舵用モータ23と、これら走行用モータ22及び操舵用モータ23を制御する移動用モータコントローラ110と、水分計測装置昇降用モータ92と、該水分計測装置昇降用モータ92を制御する水分計測装置昇降用モータコントローラ112と、駆動モータ31と、該駆動モータ31を制御する駆動モータコントローラ114を備えている。
また、センサ等の入力装置としては、配管検査ロボットの姿勢を制御するためのジャイロセンサ116及び加速度センサ118と、前記駆動モータ31によって駆動される回動部材の回転位置を検出するポテンションメータ120と、前記走行用モータ22の駆動により配管検査装置の配管上の移動距離を把握するためのエンコーダ122と、水分計測装置9と、該水分計測装置の配管への鉛直方向の近接を検出するリミットスイッチ124と、配管検査装置の進行方向或いはその周囲を撮像するためのカメラ126とを備えている。なお、水分計測装置昇降用モータ92にもエンコーダ122が設けられており、前記リミットスイッチ124による近接検出と共にモータ92の回転量を把握している。
さらに、これら各コントローラや入力装置を制御するためのCPU128と、収集したデータを送信するための通信装置130及び通信コントローラ132を備える。
【0034】
この配管検査ロボットは、走行用モータ22を駆動することで被検査物である配管上を移動すると共に、ジャイロセンサ116及び加速度センサ118により配管検査ロボットの姿勢を把握し、配管検査ロボットが配管の軸方向に移動する際に配管の円周方向最上部から円周方向に傾いて移動しつつある場合、そのずれ量を把握し操舵用モータ23を制御して配管検査ロボットを配管の円周方向最上部近傍を確実に移動させることができる。
また、走行用モータ22に取り付けられたエンコーダ122により配管検査ロボットの水平方向の移動距離を把握することができ、所望の箇所で水分計測を実施できる。
配管検査ロボットが所望の箇所に移動した後は、水分計測装置9の昇降用モータ92を駆動し、水分計測装置9を初期位置から配管に近接させ、その近接度合をリミットスイッチ124により検知することで水分計測装置昇降用モータコントローラ112は昇降用モータ92を制御する。また、水分計測が終了した後は再び昇降用モータ92を駆動し、水分計測装置9を初期位置に復帰させる。なお、初期位置に復帰させるための制御としては、水分計測装置昇降用モータにポテンションメータを取り付け、測定時に移動させた昇降用モータの回転量に相当する量を初期位置復帰のための移動量としても良いし、図示は省略したが、水分計測装置9を対象とした近接センサをメインフレーム1に設け、初期位置に復帰したことを近接センサが検出した場合に昇降用モータ92の駆動を停止する等の制御を行っても良い。
【0035】
次に、配管の下側の水分を計測するため回動部材32を回転させる際には、駆動モータ31を駆動し、その回転状態をポテンションメータ120の出力で把握することで、所望の位置に回動部材に取り付けられた水分計測装置9を配置することができる。
上記のように制御された配管検査ロボットは被測定配管の所望の箇所で水分計測を行い、計測で得られたデータをデータ収集を行うセンターのPCやサーバに通信装置130を介して送信する。
配管検査装置の各モータ、通信装置、及び水分計測装置等の各種センサはバッテリー(図示省略)により駆動できる。
このように本発明にかかる配管検査装置は各種センサを備え、各センサ出力に基づいて移動や測定を行うと共に、測定したデータを通信装置により遠隔のセンター等に送信すると共に、電力供給の配線が不要なので、測定箇所における構造物と配線等との絡みを気にする必要がなく、作業員等の手を煩わせることなく、自立してデータ収集を行うことができる。
なお、上記実施例においてはリミットスイッチの接触式検出センサを用いたが、PSD(Position Sensitive Detector)等、非接触式検出センサを用いても良い。
【0036】
<本発明の構成、作用、効果のまとめ>
第1の本発明に係る配管検査ロボットAは、配管Pの外周面に載置、接触、近接されて該配管の軸方向(長手方向)に進退可能であり、且つ該配管の異常の有無を検査する手段であって、配管の外周面に嵌合する凹陥部17を備えたメインフレーム1と、メインフレームを配管の軸方向へ進退させるメインフレーム駆動機構(第1の駆動機構)D1と、メインフレームの凹陥部内において円弧状の軌跡に沿って進退可能に支持された回動部材32と、回動部材を移動させる回動部材駆動機構(第2の駆動機構)D2と、回動部材に搭載された検査装置と、を備えたことを特徴とする。
単一の配管検査ロボットを用いて配管の周方向の各部位の異常(配管の腐食、損耗、損傷、流体漏れ等)の有無を検知、測定することができ、作業効率を大幅に高めることができる。
即ち、従来の配管検査ロボットでは検査装置を配管の周方向へ移動させることができなかったため、ロボットが配置された配管の周面部位以外の周面部位を測定するには、別途配管に対してロボットをセットし直すか、別のロボットをセットするしか方法がなく作業効率が悪かった。
【0037】
これに対して本発明では、一つの配管検査ロボットが配管の軸方向に移動するばかりでなく、検査装置を周方向に移動させることができるので、検査作業効率を大幅に高めることができる。
検査装置としては、配管の劣化、腐食、損傷、損耗、内部の流体漏れを測定できる手段であればどのようなものをも適用することができる。
本配管検査ロボットは、配管上を自走して、搭載した検査装置、例えば中性子水分計を用いて保温材に含まれる水分を測定して腐食の危険性を検知できる。人間が近づきにくい場所に配置された配管を容易に点検し検査することが可能である。
また、ロボットの本体は配管の上方に載置された状態で、検査装置、例えば中性子水分計を反転できるので、中性子水分計を備えた水分計測装置を軽量にすることができる。その結果、フレームや走行機構等の構成機器も軽量化することができる。したがって、上面と下面を検査できる機構を備えた軽量な配管検査ロボットが実現でき、取り扱い及び検査対象の配管の負担も小さくなる。
開放型のフレームを使用しているのでT型の配管支持架台にじゃまされずに本配管検査ロボットは配管上方を移動することができる。
【0038】
第2の本発明に係る配管検査ロボットは、検査装置は、回動部材の移動方向と交差する方向へ進退自在に構成されていることを特徴とする。
検査装置の種類によっては、検査時には配管外面に接近(接触)する必要があるので配管外面に向けて進退可能とした。検査装置が配管から一定の距離を保ったままでも検査を行うことができる場合には進退自在とする必要はない。
【0039】
第3の本発明に係る配管検査ロボットでは、第1の駆動機構D1は、凹陥部17の中心位置に対応したメインフレーム部位により該メインフレームの移動方向と交差する方向へ回動自在に軸支された可動ベース5と、該可動ベースの回動角度を変化させる可動ベース駆動機構(第3の駆動機構)D3と、該可動ベースによって回転自在に支持された一対の走行用車輪21a、21bと、該走行用車輪を回転駆動させる車輪駆動機構(第4の駆動機構)D4と、を備え、一対の走行用車輪は、可動ベースの軸部5aを中心として左右対称に配置されていることを特徴とする。
可動ベース5によって回転自在に支持された走行用車輪は、可動ベースが軸部5aを中心として水平方向その他の交差方向へ旋回することができるため、配管の外面形状の変化等によって走行安定性を損なわれることがなくなる。つまり、配管外面の条件変化に対応して走行用車輪が旋回、回動しながら回転することができる。
【0040】
第4の本発明に係る配管検査ロボットでは、可動ベース5は、凹陥部17の中心位置と対向する配管の外周面に想定される接線と直交する軸部5aによって回動自在に軸支されていることを特徴とする。
凹陥部17の中心位置とは、円弧状凹部14の周方向中心部であり、この位置に配置された軸部5aによって可動ベース5を前記交差方向へ回動自在に軸支することにより、各走行用車輪を左右のバランスよく安定して配管上を走行させることが可能となる。
【0041】
第5の本発明に係る配管検査ロボットでは、第4の駆動機構D4は、可動ベースに搭載された走行用モータ22と、該可動ベースにより回転自在に支持され、該走行用モータの出力ギアからの駆動力の伝達を受ける従動ギア25aと、該従動ギアの回転軸の両端部に夫々連結された自在継ぎ手25と、を備え、各自在継ぎ手を介して各走行用車輪の軸端部と連結したことを特徴とする。
走行用車輪は、更に、自在継ぎ手によってその回転軸の角度を変位可能とされているため、左右のバランスよく安定して配管上を移動することが可能となる。
【0042】
第6の本発明では、検査装置は、中性子水分計を備えた水分計測装置、超音波探傷装置、磁気探傷装置、又はX線探傷装置の何れかであることを特徴とする。
検査装置としては、配管の異常を検知できる手段であれば、いかなるものをも採用することができる。
【0043】
第7の本発明に係る配管検査ロボットでは、各駆動機構は、無線、又は有線により遠隔操作されることを特徴とする。
無線により各駆動機構を駆動する場合には電源としてバッテリーを搭載させる。有線の場合にはケーブルを用いて電力、信号を供給する。
【0044】
第8の本発明に係る配管検査ロボットを用いた検査方法では、請求項1乃至7に記載の前記配管検査ロボットを用いた配管の検査方法であって、凹陥部を前記配管外面に嵌合するセット工程と、検査装置により前記配管の異常の有無を測定する工程と、検査装置を配管の周方向に移動させて配管の周方向各部位の異常の有無を測定する工程と、検査装置を配管の軸方向へ移動させる工程と、を備えたことを特徴とする。
以上の必要最小限の工程を実施することにより、検査装置を用いて配管の外面全体を効率的に検査することが可能となる。
配管は、プラントや発電所、原子力発電施設において、高所や複雑に配置されている。またそのような施設の事故現場では配管に接近することも困難である。本配管検査ロボットは、離れた位置から操縦できる。そして、横方向に配置された配管の点検に適している。
【0045】
第9の本発明に係る配管検査方法は、検査装置として水分計測装置を用いた請求項8に記載の配管の検査方法であって、計測時には水分計測装置を配管に接近させ、非計測時には水分計測装置を前記配管から離間させる。
一つの配管検査ロボットに種々の検査装置を搭載することにより異なった手法による配管の検査を実施することが可能となる。検査装置として水分計測装置を用いる場合には、検査精度を高めるために検査装置を配管外面に対して進退自在に構成するのが好ましい。
測定シーケンスでは、(1)配管検査ロボットを配管上に設置し、(2)昇降装置で中性子水分計を降ろして配管に接触させ、(3)中性子水分計のシャッターを開放し熱中性子を測定し、(4)シャッターを閉じて熱中性子を測定し、(5)測定終了の信号を確認し、(6)昇降装置で水分計を上昇させて配管から離し、(7)ロボットを所定距離(約250mm)走行させ、(8)必要に応じ操舵してロボットを配管中央に誘導する。そして(2)から(8)を繰り返して、長さ方向に水分を検査する。また、回動部材を回転させて水分計測装置を配管の下面側に移動させて、上記(2)〜(8)を繰り返して、配管下面を長手方向に検査する。
なお、シャッターの開閉の二状態を測定するのは、その差分を検査対象からの熱中性子量として計測して、精度を向上させるためである。
これによって、所定間隔で配管の長さ方向の上下面において、保温材に含まれる水分量を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本配管検査ロボットによれば、高所や入りくんだ箇所にある配管の損傷、流体漏れ等の有無を、離れた位置から操縦しながら、配管の被覆材の上から非破壊的診断をすることができる。化学プラントや発電所、原子力発電施設において、高所や複雑に配置されている配管の検査に適している。特に、接近することが困難な原子力施設の事故現場では有効である。
【符号の説明】
【0047】
1…メインフレーム、11…前フレーム板、11a…凹部、11b…固定部材、12…後フレーム板、12a…凹部、12b…固定部材、13…ビーム材、14…円弧状凹部、15…直線部、16…下端、17…凹陥部、2…走行装置、21a…走行用車輪、22…走行用モータ、23…操舵用モータ、23a…出力ギア、24…操舵用軸、25…等速ジョイント(自在継ぎ手)、31…駆動モータ、32…回動部材、33a…案内ロール、33b…案内ロール、34…駆動ギア、35…ラックギア、36…回動部材ビーム、5…可動ベース、5a…軸部、5b…可動ベース従動ギア、9…水分計測装置、91…中性子水分計、92…昇降用モータ、93…ガイド、94…ピニオンギア、94…出力ギア、95…ラックギア、96…筐体、97…側面、101…中性子源、102…熱中性子検出器、103…シャッター、104…中性子、105…熱中性子、A…配管検査ロボット、D1…メインフレーム駆動機構(第1の駆動機構)、D2…回動部材駆動機構(第2の駆動機構)、D3…可動ベース駆動機構(第3の駆動機構)、D4…車輪駆動機構(第4の駆動機構)、D5…測定装置駆動機構(第5の駆動機構)、P…配管、P1…鋼管(金属管体)、P2…保温材、P3…被覆材、S…スペース
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