特許第6166286号(P6166286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6166286シクロドデカンポリフェノールのポリシアナートおよびその熱硬化性樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166286
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】シクロドデカンポリフェノールのポリシアナートおよびその熱硬化性樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/28 20060101AFI20170710BHJP
   C08G 73/06 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C08G8/28 A
   C08G73/06
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-558846(P2014-558846)
(86)(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公表番号】特表2015-508124(P2015-508124A)
(43)【公表日】2015年3月16日
(86)【国際出願番号】US2013027246
(87)【国際公開番号】WO2013126643
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年2月8日
(31)【優先権主張番号】61/602,890
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・イー・ヘフナー
(72)【発明者】
【氏名】エリッチ・ジェイ・モリター
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−513542(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/126641(WO,A1)
【文献】 特表2015−513585(JP,A)
【文献】 特表2011−513581(JP,A)
【文献】 特表2011−513490(JP,A)
【文献】 特表2011−517441(JP,A)
【文献】 特開平08−217974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00−16/06
C08G 73/00−73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式のポリシアナートであって、
【化1】
式中
pは、ゼロから20の値を有し
各Zは、Hまたは−C≡Nであり、前記Z基の少なくとも25%は−C≡Nであり;
各Qは、独立に、水素またはC1〜C6アルキルであ、ポリシアナート。
【請求項2】
Qは、HまたはC1〜C2アルキルである、請求項1に記載のポリシアナート。
【請求項3】
前記Z基の少なくとも50%は、−C≡Nである、請求項1または2に記載のポリシアナート。
【請求項4】
は、0または1である、請求項1、2または3に記載のポリシアナート。
【請求項5】
下式のポリフェノールを、塩基の存在下で、任意選択として触媒、溶媒または両方の存在下で、ハロゲン化シアンと反応させるステップを含む、請求項1に記載の化合物を作る方法:
【化2】
式中、Qおよびpは、請求項1〜4のいずれか一項に定義した通りである。
【請求項6】
前記反応は、少なくとも1種類の溶媒の存在下で行われ、前記少なくとも1種類の溶媒は、脂肪族ケトン、脂環式ケトン、塩素化炭化水素またはそれらの混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基は、第3アミンであり、前記ハロゲン化シアンは、塩化シアンまたは臭化シアンである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
下式のポリシアナートを含み、任意選択として少なくとも1種類の硬化触媒および/または硬化促進剤を含む、硬化性組成物:
【化3】
式中、QZおよびpは、請求項1〜4のいずれか一項に定義した通りである。
【請求項9】
請求項1に記載のポリシアナート以外の1種類以上の熱硬化性モノマーをさらに含み、前記熱硬化性モノマーは、1)請求項1に記載のシアナート以外のジまたはポリ(シアナート)、2)ビスまたはポリ(マレイミド)、3)エポキシ樹脂、4)ジまたはポリ(イソシアナート)、5)ジまたはポリ(シアナミド)、あるいは6)重合性モノ、ジまたはポリ(エチレン系不飽和)モノマーの1種類以上をさらに含む、請求項8に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
請求項8または9のいずれか一項に記載の硬化性組成物から調製された部分オリゴマー化または重合(B段階)生成物、または硬化(熱硬化)生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書においては、シクロドデカン(cyclododecane、以下「CDD」)のポリフェノールをベースとするシアナート樹脂を調製する方法および使用する方法が開示される。これらのシアナート樹脂を用いて新しいオリゴマーおよび/または熱硬化ポリマーを創製することができる。
【背景技術】
【0002】
フェノール化合物およびフェノール樹脂は、分子構造が非常に多様な合成材料である。この多様さによって、これらの化合物の複数の用途、たとえば硬化剤としての使用および/または対応するエポキシ、シアナートおよび/またはアリル熱硬化性モノマーおよび樹脂を調製するための使用が可能になる。これらの硬化剤および/またはモノマーは、硬化組成物に増強された物理的および/または機械的性質、たとえば高くなったガラス転移温度(Tg)を提供することができる。しかし、改善された特性を実現するには、熱硬化性モノマーが高い官能性(すなわち架橋に利用可能な化学基)を有する必要があろう。しかし、これらのモノマー中の官能性が増加するとモノマーの分子量も増加し、そのことがモノマーの溶融粘度を増加させ、そのようなモノマーの使用が難しくなり得る。同様に、熱硬化性モノマー中の高い官能性は、過大なエンタルピー硬化エネルギーを生じ得る。硬化する際の過大な発熱は、ラミネート、複合材料または注型品などの部分を損傷させ、亀裂または剥離の原因となり得る。
【0003】
熱硬化性モノマーを調製するための1つの方策は、ビスフェノールAなどのフェノールを対応するシアナートに変換することである。ビスフェノールAジシアナート(4,4′−イソプロピリデンジフェノールのシアヌル酸エステル(cyanuric acid ester)(BPA DCN:Bisphenol A dicyanate)は、市販された最初のジシアナートモノマーであり、依然として業界標準として用いられている。BPA DCNのホモポリトリアジンは比較的高い275℃のTgを提供するが、多数の問題に見舞われた。これらの問題は、不完全な硬化、過大なエンタルピー硬化エネルギーの発生、ある種の機械的性質、特に引張り伸長および破壊靱性の不足につながる貧弱な耐湿性および脆性を含んでいた。これらの不足に対して試みられた1つの解決策は、他の熱硬化性モノマー、特にエポキシ樹脂およびビス(マレイミド)とのブレンド中の反応性成分としてBPA DCNを使用する。一般に、これらのブレンドは、加工特性および機械的性質においてある程度の改善をもたらすが、通常はTgも低下する。さらに、機械的性質の改善には代償が存在する。たとえば、BPA DCNとノボラックエポキシ樹脂との硬化されたブレンドにおいて、共重合によるオキサゾリジノン構造は、曲げ強さをいくぶんか増強することができるが、引張強さの大きな(>50%)低下という犠牲を伴う[マシュー(Mathew)ら、ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(Journal of Applied Polymer Science)、74巻、1675〜1,685頁](1999)。試みられた別の解決策である、熱可塑性添加剤を用いる強靭化には、Tgの低下を防ぐために環化三量化反応時に相分離に対する制御が必要であった。リームズ(Reams)らによる最近の刊行物(エイシーエス・オンライン・パブリケーションズ(ACS online publications)、エイシーエス・アプライド・マテリアルズ・アンド・インターフェーセズ(ACS Applied Materials & Interfaces)、2012年2月6日(dx.doi.org/10.1021/am201413t)は、BPA DCNと関連する複雑な耐湿性の問題の広範な調査を提供する。
【0004】
熱硬化シアナート樹脂の改善への別の手法は、さまざまな化学構造を有するフェノール前駆体を用いる。米国特許出願公開第2011/0009559号に1つの例が教示され、そこでは、ジフェノールである1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカンが対応するジシアナートに変換される。このジシアナートを単独環化三量化すると202.1℃のTgが得られた。これは、単独環化三量化されたBPA DCNの場合の275℃のTgからは顕著な低下であるが、この生成物は、硬化開始温度および終了温度を増加させることなく、増強された耐熱性も有し、低い吸湿性、優れた誘電特性およびエンタルピー硬化エネルギーの軽減をもたらした。
【0005】
単独環化三量化して300℃より実質的に高いTgを有するポリトリアジンを生じることができるポリシアナートが求められているが実現されていない。同様に、BPA DCNなどの他のシアナートおよび/またはビス(マレイミド)などの他の熱硬化性モノマーとブレンドして硬化プロファイルを改善(たとえば硬化開始温度およびエンタルピー硬化エネルギーを低下)しながら、275℃より高いTgを有するコポリトリアジンまたは共重合体をそれぞれ生成させることができるポリシアナートが求められている。
【0006】
今や、驚くべきことに、CDDポリフェノールのシアナート樹脂の熱硬化性樹脂が、注目に値するTg(≧400℃)と、迅速な硬化開始および低下した硬化エンタルピーを含む改善された硬化プロファイルとをもたらすことが分かった。さらに、他の熱硬化性モノマー、たとえばBPA DCNまたは4,4′−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミドとブレンドされて用いられると、CDDポリフェノールのシアナート樹脂は、その熱硬化性樹脂に高くなったTg、熱安定性および/または改善された硬化プロファイルを付与することができる。これらの特性の1つ以上における改善は、構造用または電気用ラミネートおよび/または複合材料、多層電子回路、集積回路パッケージング(「IC基板」など)、フィラメントワインディング、成形物、カプセル化物、注型物、航空宇宙用途向け複合材料、接着剤、機能性粉体コーティングおよび他の保護コーティングにおいて有用である、より高い性能の熱硬化性樹脂を提供する。本明細書に記載される硬化組成物は、航空宇宙産業およびエレクトロニクス産業において特に有用であり、シート、フィルム、ファイバーまたは他の形状の物品の形で用いることができる。
【0007】
2012年2月24日出願の関連する米国特許出願第61/602,840号において、本出願人は、シクロドデカトリエンのトリアルデヒドの調製と、それに続くヘキサフェノールなどのポリフェノールへの変換とを報告した。今回、本出願人は、CDDポリフェノールの、対応する熱硬化性ポリシアナートへの変換を報告する。前記ポリシアナートは、1つ以上の他の熱硬化性モノマーまたは樹脂、たとえばBPA DCNと、任意選択として1つ以上の硬化触媒とブレンドされ、BPA DCN単独の熱硬化性樹脂と比較して高くなったTg、増加した熱安定性および/または改善された硬化プロファイルを有する硬化性ブレンドを形成することができる。本明細書に開示されるポリシアナートの高い官能性は、硬化時の高い架橋密度を提供する。この高い架橋密度は、実施例(下記)に示されるように、非常に高いTg、増強された熱安定性、硬化時のより迅速なTgの進み具合および硬化における改善された反応性につながる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面では、本明細書においては、式1によって表されるCDDポリフェノールのポリシアナートが開示される。
【0009】
【化1】
【0010】
式中、各Zは、Hまたは−C≡N基であり、Z基の少なくとも25%は−C≡Nであり;各mは、独立に、ゼロから3の値を有し、pは、ゼロから20、好ましくはゼロから5、最も好ましくはゼロから1の値を有し;各Rは、独立に、ハロゲン、好ましくはフッ素、塩素または臭素;ニトリル;ニトロ;C〜CアルキルまたはC〜Cアルコキシであって、好ましくは該アルキル基およびアルコキシ基は、独立に、1から4、最も好ましくは1から2の炭素原子を有し、該炭素原子は、1つ以上のハロゲン原子、好ましくは塩素または臭素で置換されていてもよい、C〜CアルキルまたはC〜Cアルコキシ;あるいはC〜CアルケニルまたはC〜Cアルケニルオキシであって、好ましくは上述のアルケニル基は、2〜4、最も好ましくは2から3の炭素原子を有するC〜CアルケニルまたはC〜Cアルケニルオキシであり;各Qは、独立に、水素またはC〜Cアルキルであって、該アルキル基は、好ましくは1から4、最も好ましくは1から2の炭素原子を有し;2つのR基は、独立にC〜Cアルキレン基であってよく、該C〜Cアルキレン基は、任意選択として1つまたは2つの二重結合を含み、それぞれが結合している環の2つの隣り合った炭素と結合し、それによって、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インデニルまたはインダニルなどの縮合二環系を形成する。
【0011】
式1の化合物の組成物は、さまざまなpの値を有する混合物であってよいと理解すべきである。そのような混合物の場合、pの値は、数平均オリゴマー化度として記載することができる。同様に、式1の化合物の組成物は、実施例(下記)に示されるように、Zの一部が−C≡Nであり、Zの残りの部分が−H(未反応−OH)である混合物であってよいと理解すべきである。
【0012】
さまざまな実施態様の場合に、mがゼロ以外の値を有すると、Qと結合した炭素は、好ましくは−OH基に対してオルトおよび/またはパラ位にある。当然のことながら、−OH基に対してオルトおよびパラ位の両方においてQに結合した炭素を有する化合物の混合物が可能である。−OH基に対してメタ位でQに結合した炭素を有することも可能である。
【0013】
別の側面では、本明細書において、式2のポリフェノールを出発原料として用いて式1のポリシアナートを作る方法が開示される。
【0014】
【化2】
【0015】
式中、R、Q、mおよびpは、先に定義した通りである。
【0016】
別の側面では、本明細書において、1)式1のシアナート樹脂、2)任意選択として、式1のシアナート以外の1種類以上の熱硬化性モノマー、および任意選択として、3)少なくとも1種類の硬化触媒および/または硬化促進剤を含む、硬化性組成物、部分オリゴマー化または重合(B段階)生成物、または硬化(熱硬化)生成物が開示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において用いられる用語「熱硬化性樹脂」は、加熱されると不可逆的に固化すなわち「硬化」することができるポリマーを指す。用語「硬化性」、「硬化」、「熱硬化性」および「熱硬化」は、同義語であり、組成物が硬化されたかまたは熱硬化された状態もしくは条件に変換され得ることを意味する。用語「硬化」または「熱硬化」は、L.R.ホイッティングトン(L.R.Whittington)によって「ホイッティングトンズ・ディクショナリー・オブ・プラスティックス(Whittington’s Dictionary of Plastics)」(1968)の239ページに以下のように定義されている。「仕上げられた物品としての最終状態において実質的に非溶融性かつ非溶解性である樹脂またはプラスチックスコンパウンド。熱硬化性樹脂は、それらの製造または加工のある段階において多くの場合に液体であり、熱、触媒作用またはなんらかの他の化学的手段によって硬化される。完全に硬化されると、熱硬化性樹脂は、熱によって再軟化させることができない。普通は熱可塑性樹脂である一部のプラスチックは、他の材料との架橋を用いて熱硬化性にすることができる。」
【0018】
本明細書において用いられる用語「B段階」は、A段階を超えて熱的に反応し、それによって、生成物がアルコールまたはケトンなどの溶媒中で完全ないし部分的な溶解性を有する、熱硬化樹脂を指す。
【0019】
一実施態様において、式1の好ましい化合物は、式3の化合物、すなわち、pは、先に定義した通りであり、各mは、0であり;各Qは、Hであり;Z基の少なくとも50%は−C≡Nである、式1の化合物である。より好ましくは、Z基の80〜100%は−C≡Nである。Z基の少なくとも約80%が−C≡Nである式3の化合物は、非常に高いTgを有する熱硬化性樹脂の調製において特に有用である。
【0020】
開示されたポリシアナートを調製するために、CDDジフェノールおよび/またはテトラフェノールとヘキサフェノール、もしあればさらにオリゴマー、との混合物が使用されてよい。式4によって、飽和CDD環を有するテトラポリシアナートの例が表される。
【0021】
【化3】
【0022】
式中、Z、R、Q、mおよびpは、先に定義した通りである。pが0のとき、オリゴマーのないテトラシアナートが作り出される。pが0より大きいと、オリゴマー成分が存在する。Zの一部だけが−C≡Nであると、残りの部分のZは、‐H(未反応−OH)である。
【0023】
式1のポリシアナートを作る好ましい方法は、フェノールヒドロキシル基あたり0.5から1.25、より好ましくは0.95から1.15、最も好ましくは1.0から1.05当量の塩基化合物を存在下、および適当な溶媒の存在下で、フェノールヒドロキシル基の当量あたり0.5から1.25、より好ましくは0.95から1.15、最も好ましくは1.0から1.05当量のハロゲン化シアンを用いて、式2のポリフェノールをハロゲン化シアンと反応させることを含む。この反応は、触媒の存在下で行ってもよく、あるいは触媒なしで行ってもよい。化学量論より少ないハロゲン化シアンが用いられると、Z基のいく分かは−H(未反応−OH)となる。Zによって表される−OH基の25%〜50%が−C≡N基に変換された式1のポリシアナートが好ましく、Z基の50%〜80%が−C≡Nであるポリシアナートがより好ましいが、Z基の少なくとも80%〜100%が−C≡Nであるポリシアナートが最も好ましい。
【0024】
−40℃から60℃の反応温度が、実施可能であり、−15℃から10℃の反応温度が好ましく、−10℃から0℃の反応温度が最も好ましい。反応時間は、たとえば使用される反応体、反応温度、用いられる溶媒、反応のスケール等に応じて大幅に変化させることができるが、一般には15分から4時間の間であり、30分から90分の反応時間が好ましい。
【0025】
適当なハロゲン化シアンは、塩化シアン、臭化シアンおよびヨウ化シアンを含むがこれに限定されるものではなく、塩化シアンおよび臭化シアンがより好ましい。あるいは、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)によって刊行されたオーガニック・シンセシス(Organic Synthesis)、61巻35〜68頁(1983)に記載されているマーティン(Martin)およびバウアー(Bauer)の方法を用いて、シアン化ナトリウムおよび塩素または臭素などのハロゲンから必要なハロゲン化シアンをインサイチュ発生させることができる。
【0026】
適当な塩基化合物は、無機塩基および第三アミンの両方、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヒューニッヒ(Hunig)塩基、それらの混合物等を含む。トリエチルアミンが好ましい塩基化合物である。シアナート形成反応のための適当な溶媒は、水、脂肪族および脂環式ケトン、塩素化炭化水素、脂肪族および脂環式エーテルおよびジエーテル、芳香族炭化水素、それらの混合物等を含むことができる。アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレンまたはクロロホルムが溶媒として特に適している。溶媒は、反応体、もしあれば中間生成物、および最終生成物に対して不活性であることを含めて、シアナート形成反応に実質的に不活性であればよい。溶媒は、シアナート形成反応が完了したら、たとえば真空蒸留などの従来の手段を用いて除去されてよい。あるいは、溶媒のすべてまたは一部をポリシアナート生成物中に残し、後でたとえばコーティングまたはフィルムの調製において用いることができる、溶媒含有ポリシアナートを提供してもよい。
【0027】
高圧液体クロマトグラフィー(HPLC:high pressure liquidchromatography)などの分析方法を使用してCDDポリフェノールのポリシアナートの形成と並行してCDDポリフェノールの反応を監視してよい。
【0028】
CDDポリフェノールのポリシアナートの回収および精製は、さまざまな方法を用いて行うことができる。たとえば、重力ろ過、真空ろ過、遠心分離、水洗または水抽出、溶媒抽出、デカンテーション、カラムクロマトグラフィー、真空蒸留、流下膜蒸留、およびその他のプロセス方法等を使用してよい。回転蒸発などの真空蒸留は、溶媒、および存在するなら残留塩基化合物などの軽沸点留分の除去のための好ましい方法であり、これらの軽沸点留分は、リサイクルされてもよい。
【0029】
ポリシアナート中に存在するオリゴマーは、(1)CDDポリフェノール中に存在するオリゴマー成分(式2、pの一部ないしすべてが0より大)のシアナート形成反応、または(2)たとえば置換トリアジン基を形成するシアナート基の部分インサイチュ反応から生じてもよい。
【0030】
大過剰量のフェノールおよび/または置換フェノールを使用する縮合反応(フェノール化)は、低い多分散度および重量平均分子量を有するポリシアナート(polycanate)のCDDポリフェノール前駆体に有利であることが分かっている。同様に、フェノールおよび/または置換フェノールの量が減らされると、CDDポリフェノールのオリゴマーの増加が可能であり、重量平均分子量を増加させる。増加したオリゴマー含有量は、分子あたりのより高いヒドロキシル官能性に有利であり、ある種の最終用途、たとえばTgを増加させること、にとっては非常に有利になることがあるが、より高い粘度という犠牲を伴う。したがって、非常に大過剰な量のフェノールおよび/または置換フェノールが用いられてもよいが、参考例1(下記)は、CDDポリフェノールに富み、オリゴマーが少ない生成物を製造するために必要なモル比を使用している。
【0031】
CDDTトリアルデヒドから出発すると、化合物のMwの大きな増加なく、得られるCDDポリフェノールにおいて高いレベルの官能性を得ることができる。高いレベルの官能性を有するポリフェノールを形成する従来の試みでは、そうはならなかった。たとえば、本開示の実施態様は、ヒドロキシル当量あたり約120グラムという低いヒドロキシル当量において約6個の官能基を提供する。本開示の実施態様は、硬化性組成物の分子量および粘度の顕著な増加なく、官能性のレベルの縮小拡大可能な変化を達成可能にすることもできる。
【0032】
式1のポリシアナート化合物は、比較的低い分子量で高いレベルの官能性(すなわち分子あたり2より大きな、より好ましくは3より大きな、さらにより好ましくは4より大きな、なおもより好ましくは5以上の官能基)を達成するが、これは、硬化性組成物の比較的低い溶融粘度を可能にすることもできる。本ポリシアナートは、2未満の多分散指数(PDI)を有することができる。PDIは当分野において所定のポリマー試料中の分子量の分布の尺度として公知である。たとえば、本ポリシアナートのPDIは、1.3から1.4であってよい。このような種類の結果は、本ポリシアナートのp値が非常に均一であることを示す。ポリシアナートの前駆体(式2)を形成するために用いられるフェノール化反応は、多くの場合に、はるかに大きな多分散度(たとえば2から5)を有する生成物を作り出すので、この結果は驚くべきものである。ポリシアナートが均一な鎖長を有することは、本開示の硬化性組成物の粘度において、より望ましい粘度予測性が可能となる。本開示のポリシアナートのあるものについての多分散度の値は、Mwの顕著な増加のない官能性のレベルの増加を示す。高い官能性と、その結果得られる高い架橋密度とが、非常に望ましい高いTgを提供することができる。
【0033】
本明細書において、1)式1のポリシアナート樹脂、2)任意選択として、式1のシアナート以外の1種類以上の熱硬化性モノマー、および任意選択として、3)少なくとも1種類の硬化触媒および/または硬化促進剤、を含む硬化性組成物、部分オリゴマー化または重合(B段階)生成物、または硬化(熱硬化)生成物も開示される。1つ以上の熱硬化性モノマー、たとえば式1のシアナート以外のジおよびポリ(シアナート)、ビスおよびポリ(マレイミド)、エポキシ樹脂、ジおよびポリ(イソシアナート)、ジおよびポリ(シアナミド)、アクリラートおよびメタクリラート、ビニルベンジルエーテル、アリルおよびアリルオキシ化合物を含む重合性モノ、ジまたはポリ(エチレン系不飽和)モノマーも硬化性組成物に含まれてよい。触媒量の1種類以上の硬化触媒(または助触媒)および/または硬化促進剤も、本開示の硬化性組成物とともに用いられてよい。適当な触媒の例は、酸、塩基、塩、窒素化合物およびリン化合物、たとえば、AlCl、BF、FeCl、TiCl、ZnCl、SnCl、ホウ酸などのルイス酸、HCl、HPOなどのプロトン酸、フェノール、p−ニトロフェノール、ノニルフェノール、ピロカテコール、ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ヒドロキシル化合物、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムフェノラート、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、キノリン、イソキノリン、テトラヒドロイソキノリン、テトラエチルアンモニウムクロリド、ピリジン−N−オキシド、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、オクタン酸亜鉛、オクタン酸スズ、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクタン酸コバルト、コバルトアセチルアセトネート等などを含むがこれに限定されるものではない。たとえば、遷移金属と二座または三座配位子とのキレート、特に鉄、コバルト、亜鉛、銅、マンガン(copper manganese)、ジルコニウム、チタン、バナジウム、アルミニウムおよびマグネシウムのキレートなどの金属キレートも触媒として適している。ナフテン酸コバルト、オクタン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートおよびオクタン酸マンガンが触媒として最も好ましい。ノニルフェノールが助触媒として最も好ましい。DMP−30(1,3,5−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール)(tris(1,3,5−dimethylaminomethylene)phenol)、トリエタノールアミン、およびカルボン酸のアミン塩、たとえばステアリン酸トリエチルアンモニウムなどの促進化合物を用いることができる。
【0034】
式1のポリシアナートを含む硬化性組成物は、任意選択として1種類以上の触媒(または助触媒)および/または促進剤を触媒量で存在させ、大気圧(たとえば760mmHg(1.013×10Pa))、大気圧より高い圧力または大気圧より低い圧力において、50℃から400℃に加熱することによって、好ましくは100℃から300℃に加熱することによって硬化(熱硬化)させることができる。硬化を完了するために必要な時間は、使用される温度に応じて決めればよい。高い温度ほど一般に短い時間を要し、低い温度ほど一般に長い時間を要する。もしあれば、用いられる触媒および/または促進剤の量は、特定の触媒の構造、硬化されるポリシアナートの構造、調合に用いられる何らかの追加の熱硬化性モノマーの構造、硬化温度、硬化時間等によって決まる。一般に、0.001から2重量パーセントの触媒濃度が好ましい。式1のポリシアナートから調製された硬化組成物は、硬化プロセスに関与するポリシアナート中に他の官能基が存在しなければ、シアナート基単独重合構造、ポリトリアジン環を有することができる。
【0035】
硬化性組成物を部分的に硬化させ(B段階)、次に後で硬化を完了することも可能である。硬化性組成物のB段階化または予備重合は、より低い温度および/またはより短い硬化時間を用いることによって達成することができる。形成されたB段階生成物のその後の硬化は、次に、温度および/または硬化時間を増加させることによって達成することができる。
【0036】
硬化性組成物、部分オリゴマー化または重合(B段階)生成物は、コア/シェルゴム、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンおよびポリウレタンを含む熱可塑性樹脂などであるがこれに限定されるものではない他の成分と調合されてもよい。得られる硬化性調合物は、次に完全に硬化されてよい。本開示の硬化組成物は、上述のものなどの1種類以上の他の成分と組み合わされてもよい。
【0037】
本開示の硬化性組成物は、他の材料、たとえば溶媒または希釈剤、フィラー、顔料、染料、流動調節剤、増粘剤、強化剤、離型剤、湿潤剤、安定剤、難燃剤、界面活性剤またはそれらの組み合わせとブレンドすることができる。本明細書において使用することができる強化剤は、とりわけ織布、マット、モノフィラメント、マルチフィラメント、一方向性ファイバー、粗紡、ランダムファイバーまたはフィラメント、無機ファイバーまたはホイスカの形の天然および合成繊維、中空球を含む。適当な補強材は、たとえばガラス、セラミック、ナイロン、レーヨン、綿、アラミド、グラファイト、炭化ケイ素、ポリベンゾオキサゾール、ポリアルキレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化アルミニウム、ホウ素、それらの組み合わせまたはそれらのハイブリッドを含む。本明細書において使用することができる適当なフィラーは、たとえば無機酸化物、セラミックマイクロスフェア、プラスチックマイクロスフェアまたはそれらの組み合わせを含む。
【0038】
本開示の硬化性組成物とともに用いられるこれら他の添加剤の量は、用いられる本開示のポリシアナート、もしあれば調合物中に用いられる追加の熱硬化性モノマー、用いられる硬化触媒および/促進剤の種類、使用されるプロセス処理温度、用いられる添加剤の種類、用いられるプロセス処理方法および他の公知の変数の関数として幅広く変化させることができる。
【0039】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、いかなる意味においても本発明の範囲を限定すると解釈すべきでない。
【実施例】
【0040】
参考例1−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールの合成
シクロドデカトリエンのヒドロホルミル化から得たCDDトリアルデヒドをガスクロマトグラフィーによって分析し、以下の組成を示した。シクロドデカトリエン(0.15重量%)、CDDモノアルデヒド(0.16重量%)、CDDジアルデヒド(9.52重量%)およびCDDトリアルデヒド(88.72重量%)。3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸触媒(用いた触媒全量は1.25g、CDDトリアルデヒド反応体に対して0.05モル%であった)を用いるCDDトリアルデヒド(39.74g、0.16モル、0.48アルデヒド当量)と溶融フェノール(301.2g、3.2モル)との反応は、CDDトリアルデヒドのポリフェノールを赤褐色の粉体(107.00g)としてもたらした。生成物の試料のHPLC分析は、1.89面積%の残留フェノールの存在を示した。KBrペレットのFTIR分光光度分析は、1610.8(1595.5にショルダー)および1510.2cm−1における強い芳香環吸光度、3382.3cm−1を中心とする幅の広い強いヒドロキシルO−H伸縮および1229.4(1170.5にショルダー)cm−1における幅の広い強いC−O伸縮の出現とともに、1721.9cm−1におけるアルデヒドカルボニル伸縮の完全な消失を示した。HPLC分析は、CDDトリアルデヒドのポリフェノールが3.24から8.30分の間に溶出する複数の成分を含むことを示した(残留フェノールは2.49分に溶出した)。
【0041】
実施例1−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(残留未反応ヒドロキシルを含む)の合成
500ミリリットルの3つ口ガラス丸底反応器に2.56グラムの参考例1からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノール(名目上0.02ヒドロキシル当量)、無水ジクロロメタン(250ミリリットル)および無水アセトン(75ミリリットル)を入れた。この反応器にさらにコンデンサ(0℃に維持する)、温度計、頂部窒素導入口(毎分1リットルを用いる)、セプタムで栓をしたポートおよび磁気撹拌装置を装備した。室温(22℃)で撹拌を開始し、溶液を準備した後に冷却のためにドライアイス−アセトンバスを反応器の下に設置した。撹拌した溶液を8℃に冷却してから、臭化シアン(2.23グラム、0.02105モル、臭化シアン:名目ヒドロキシル当量比1.05:1)を溶液に加え、溶液に溶解した。撹拌しながら、溶液をさらに−8℃に冷却した。ポリプロピレン注射器中のトリエチルアミン(2.06グラム、0.0204モル、トリエチルアミン:名目ヒドロキシル当量比1.02)を大体同じ量で4回に分けて反応器に加え、それによって反応温度を−8℃から−7℃に維持した。トリエチルアミンの全添加時間は、5分であった。初回分のトリエチルアミンの添加後、薄い琥珀色の透明な溶液が淡黄色の濁った溶液に変り、トリエチルアミン臭化水素塩の生成を示した。
【0042】
−6℃から−4.5℃において30分間後反応させた後に、磁気撹拌した脱イオン水(1リットル)およびジクロロメタン(500ミリリットル)のビーカーに生成物の溶液を加えた。2分間の撹拌の後に、混合物を分液ロートに入れ、分液してからジクロロメタン層を回収し、水層を廃棄物として捨てた。ジクロロメタン溶液を再び分液ロートに入れ、新しい脱イオン水(125ミリリットル)で抽出した。得られた濁ったジクロロメタン溶液を粒状無水硫酸ナトリウム上で乾燥させて透明な溶液とし、次に枝付き真空フラスコに取り付けた400ミリリットルの粒度が中のフリットガラスロートに載せた無水硫酸ナトリウムの層を通過させた。最高オイルバス温度50℃を用いて0.25mmHg(33.3Pa)の真空が達成されるまで透明な淡黄色のろ液を回転蒸発させた。次に、固体生成物を75℃の真空オーブンに入れ、16時間乾燥した。合計2.06グラムの固体の明るい黄色の生成物を回収した。シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートの臭化カリウムペレットのFTIR分析は、2264.5、2235.2および2208.8cm−1における強いシアナート基吸光度の出現と同時に3422.7cm−1における少量のヒドロキシル基吸光度の存在を示した。KBrペレットを形成するために用いたKBr粉体中の微量の水が寄与するヒドロキシル基吸光度を除いた後に、1499.1cm−1における芳香環吸光度に対するヒドロキシル基吸光度(3422.7cm−1)の強度比は、0.26であった。芳香環吸光度(1499.1cm−1)に対するシアナート基吸光度(2264.5cm−1)の強度比は、1.13であった。HPLC分析は、シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートが5.74から11.02分の間で溶出する複数の成分を含み、2つの優勢な成分が27.5および24.3面積%を占めることを示した(1.18面積%を占めるフェニルシアナート残分が3.53分に溶出した)。存在する各成分は、シクロドデカントリアルデヒド反応体のポリフェノールのHPLC分析において観測したものと異なる保持時間を有した。
【0043】
実施例2−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートのホモポリトリアジン(残留未反応ヒドロキシルを含む)の合成
毎分35立方センチメートルで流れる窒素の気流の下で25℃から400℃まで毎分7℃の昇温速度を用いて実施例1からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートの一部(8.6ミリグラム)の示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)分析を行った。この分析にはDSC2910モジュレート型(Modulated)DSC(ティーエー・インスツルメンツ(TA Instruments)を用いた。溶融吸熱を検出しなかった。120.3℃の始点、212.3℃の中点および247.4℃の終点を有し、1グラムあたり166.7ジュールのエンタルピーを伴う、環化三量化に帰属される鋭い発熱が検出された。253.5℃の始点、324.5℃の中点および380.5℃の終点を有し、1グラムあたり59.2ジュールのエンタルピーを伴う、第2の幅の広い発熱がこれに続いた。
【0044】
実施例3−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートのホモポリトリアジン(残留未反応ヒドロキシルを含む)の透明無充填注型物の調製
実施例1からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(0.5グラム)をアルミニウム皿に入れ、100℃に予熱したオーブンに入れた。1時間後に、固体ポリシアナートを含む皿を150℃のオーブンへ移し、その中に1時間保持した。次に、この生成物を200℃に1時間保持してから室温(22℃)に徐々に冷却した。ホモポリトリアジン生成物は、透明な琥珀色の堅い固体であった。毎分35立方センチメートルで流れる窒素の気流の下で0℃から375℃まで毎分7℃の加熱速度を有する実施例2の方法を用いて、生成物の一部(23.2ミリグラム)のDSC分析を行った。218.9℃の始点、292.7℃の中点および372.0℃の終点を有し、1グラムあたり79.3ジュールのエンタルピーを伴う、幅の広い発熱を検出した。2回目の走査のDSC分析は、297.1℃の弱いガラス転移温度を示した。DSC分析から回収したホモポリトリアジンは、透明な琥珀色の堅い固体であった。
【0045】
比較例1−ビスフェノールAジシアナートのホモポリトリアジンの合成
毎分35立方センチメートルで流れる窒素の気流の下で25℃から350℃まで毎分7℃の加熱速度を用いてビスフェノールAジシアナート(10.1ミリグラム)のDSC分析を行った。用いたビスフェノールAジシアナートは、未反応ヒドロキシルを含んでいなかった。83.0℃の中点を有し、1グラムあたり98.7ジュールのエンタルピーを伴う、溶融に帰属することができる単独の鋭い溶融吸熱を検出した。244.1℃の始点、320.7℃の中点および352.6℃の終点を有し、1グラムあたり588.9ジュールのエンタルピーを伴う、環化三量化に帰属される単独の発熱を検出した。得られたホモポリトリアジンの2回目の走査は、319.9℃で始まる少量のさらなる発熱を示した(注意:150℃で始まる段階的な放熱シフトがあった)。3回目の走査は、209.8℃で始まる発熱とともに、320.4℃で始まるもっと顕著な放熱シフトを示した。DSC分析から回収したホモポリトリアジンは、透明な琥珀色の堅い固体であった。
【0046】
比較例2−ビスフェノールAジシアナートのホモポリトリアジンの透明無充填注型物の調製
ビスフェノールAジシアナート(0.5グラム、比較実施例1で用いたものと同じ)を用いて実施例3の方法を繰り返し、オーブン中250℃で1時間および300℃で1時間の追加の硬化を行った。なお、ビスフェノールAジシアナートは、オーブン中で100℃の間に均一な液体になった。ホモポリトリアジン生成物は、透明な黄色の堅い固体であった。比較例1の方法を用いた生成物の一部(19.5ミリグラム)のDSC分析は、275.7℃の温度を有する強いガラス転移を示した。
【0047】
実施例4−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(残留未反応ヒドロキシルなし)の調製
以下の反応体、溶媒および化学量論を用いて実施例1の方法を繰り返した。2.56グラムの参考例1からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノール(名目上0.02ヒドロキシル当量)、無水アセトン(75ミリリットル)、臭化シアン(2.65グラム、0.025モル、臭化シアン:名目ヒドロキシル当量比1.25:1)およびトリエチルアミン(2.53グラム、0.025モル、トリエチルアミン:名目ヒドロキシル当量比1.25)。トリエチルアミンを大体同じ分量で8回に分けて反応器に加え、それによって反応温度を−8℃から−5℃に維持した。トリエチルアミンのための全添加時間は、17分であった。3回目の分のトリエチルアミンの添加の後、薄い琥珀色の透明な溶液が明るい黄色のスラリーに変り、トリエチルアミン臭化水素塩の生成を示した。
【0048】
−7℃から−4.5℃における40分間の後反応の後に、生成物のスラリーを粒度が中のフリットガラスロートを通してろ過して磁気撹拌した脱イオン水(800ミリリットル)を含むフラスコに入れた。1分間の撹拌の後に、この微細なスラリーを分液ロートに入れ、4回に分けたジクロロメタン(500ミリリットル)で抽出した。合わせたジクロロメタン抽出物を、粒状の無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、ロートに載せた紙(ワットマン114V)を通してスラリーをろ過した。透明な、淡黄色のろ液を回転蒸発させ、実施例1Bの方法を用いて乾燥させた。合計2.28グラムの固体の明るい黄色の生成物を回収した。シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートの臭化カリウムペレットのFTIR分析は、2264.1、2235.4および2208.7cm−1における強いシアナート基吸光度の出現と同時に3382.3cm−1におけるヒドロキシル基吸光度の消失を示した。芳香環吸光度(1498.8cm−1)に対するシアナート基吸光度(2264.1cm−1)の強度比は、1.14であった。HPLC分析は、シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートが5.88から11.02分の間に溶出する複数の成分を含み、2つの優勢な成分が34.2および23.8面積%を占めることを示した(0.76面積%を占めるフェニルシアナート残留分が3.52分に溶出した)。存在する各成分は、シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノール反応体のHPLC分析において観測したものと異なる保持時間を有した。
【0049】
実施例5−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(残留未反応ヒドロキシルを含まない)のホモポリトリアジンの合成
実施例2の方法を用いて実施例4からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートの一部(8.3ミリグラム)のDSC分析を行った。溶融吸熱を検出しなかった。150.2℃の始点、229.3℃の中点および264.4℃の終点を有し、1グラムあたり142.3ジュールのエンタルピーを伴う、環化三量化に帰属される急な発熱を検出した。272.0℃の始点、324.6℃の中点および375.3℃の終点を有し、1グラムあたり38.6ジュールのエンタルピーを伴う第2の広い発熱がこれに続いた。
【0050】
実施例6−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(残留未反応ヒドロキシルを含まない)のホモポリトリアジンの透明無充填注型物の調製
実施例4からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(0.5グラム)をアルミニウム皿に入れ、実施例3の方法を用いて硬化させた。ホモポリトリアジン生成物は、透明な琥珀色の堅い固体であった。実施例2の方法(25℃から400℃への毎分7℃の加熱)を用いて生成物の一部(21.2ミリグラム)のDSC分析を行った。216.6℃の始点、310.1℃の中点および386.2℃の終点を有し、1グラムあたり101.7ジュールのエンタルピーを伴う、幅の広い発熱を検出した。2回目、3回目および4回目の走査のDSC分析は、ガラス転移温度を検出しなかったが、2回目の走査で344.5℃における発熱シフトを示した(3回目および4回目の走査では発熱はなかった)。DSC分析から回収したホモポリトリアジンは、透明な琥珀色の堅い固体であった。
【0051】
実施例7−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートとビスフェノールAジシアナートとの共重合
4桁の精度を有するはかりを用いて、実施例4からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(0.1100グラム)およびビスフェノールAジシアナート(比較例1および2において用いたものと同じ)(0.1100グラム)をガラスバイアルに秤量した。バイアルにジクロロメタン(1ミリリットル)を入れてからバイアルを封じ、振って溶液を得た。溶液をアルミニウムの皿に空け、ジクロロメタンのバルクを換気フードに蒸発させた。次に、アルミニウム皿の中の固体生成物を真空オーブンに入れ、22℃で1時間乾燥させた。固体ブレンドは、硬い結晶性の粉体であり、非固着性(室温で)の粉体に挽くことができた。
【0052】
毎分35立方センチメートルで流れる窒素の気流の下で25℃から400℃まで毎分7℃の加熱速度を用いてブレンドの一部(10.8ミリグラム)のDSC分析を行った。65.5℃の中点を有し、1グラムあたり20.6ジュールのエンタルピーを伴う、溶融に帰属することができる単独の鋭い溶融吸熱を検出した。165.4℃の始点、248.8℃の中点および336.9℃の終点を有し、1グラムあたり339.2ジュールのエンタルピーを伴う、共環化三量化に帰属される単独の発熱を検出した。得られた共重合トリアジンの2回目の走査は、379.1℃において始まる非常に少量のさらなる発熱を示した。DSC分析から回収した共重合トリアジンは、透明な薄い琥珀色の堅い固体であった。
【0053】
実施例8−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートとビスフェノールAジシアナートとの共重合トリアジンの清澄な無充填注型物の調製
実施例7からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートとビスフェノールAジシアナートとの残りのブレンドを用いて、実施例3の方法を繰り返し、オーブンの中で250℃で1時間および300℃で1時間の追加の硬化を行った。共重合トリアジン生成物は、透明な琥珀色の堅い固体であった。実施例2の方法(0℃から360℃まで毎分7℃の加熱)を用いて生成物の一部(23.4ミリグラム)のDSC分析を行った。308.0℃の始点、340.6℃の中点および357.2℃の終点を有し、1グラムあたり2.6ジュールのエンタルピーを伴う、幅の広いなだらかな発熱が検出された。2回目の走査(0℃から370℃まで毎分7℃の加熱)は、340.3℃のガラス転移温度を示した。DSC分析から回収した共重合トリアジンは、透明な琥珀色の堅い固体であった。
【0054】
実施例9−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートと4,4′−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミドとの共重合
4桁の精度を有するはかりを用いて、実施例4からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナート(0.1105グラム)および4,4′−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミド(0.1105グラム)をガラスバイアルに秤量した。バイアルにジクロロメタン(1ミリリットル)を入れてからバイアルを封じ、振って溶液を得た。溶液をアルミニウムの皿に空け、ジクロロメタンのバルクを換気フードに蒸発させた。次に、アルミニウム皿の中の固体生成物を真空オーブンに入れ、22℃で1時間乾燥させた。
【0055】
毎分35立方センチメートルで流れる窒素の気流の下で25℃から400℃まで毎分7℃の加熱速度を用いてブレンドの一部(11.0ミリグラム)のDSC分析を行った。144.3℃の中点を有し、1グラムあたり23.9ジュールのエンタルピーを伴う、溶融に帰属することができる単独の鋭い溶融吸熱を検出した。154.5℃の始点、227.5℃の中点および364.9℃の終点を有し、1グラムあたり236.5ジュールのエンタルピーを伴う、共重合に帰属される単独の発熱を検出した。DSC分析から回収した共重合体は、透明な琥珀色の堅い固体であった。
【0056】
実施例10−シクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートと4,4′−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミドとの共重合体の透明無充填注型物の調製
実施例9からのシクロドデカントリアルデヒドのポリフェノールのポリシアナートと4,4′−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミドとの残りのブレンドを用いて実施例3の方法を繰り返し、オーブン中250℃で1時間、および300℃で1時間追加の硬化を行った。共重合体生成物は、透明な琥珀色の堅い固体であった。実施例2の方法(0℃から400℃まで毎分7℃の加熱)を用いて生成物の一部(18.1ミリグラム)のDSC分析を行った。309.5℃の始点、335.9℃の中点および361.1℃の終点を有し、1グラムあたり1.5ジュールのエンタルピーを伴う、幅の広いなだらかな発熱と、その直後に続く374.4℃における放熱のシフトアップとを検出した。2回目の走査(0℃から400℃まで毎分7℃の加熱)は、ガラス転移温度を検出しなかった。DSC分析から回収した共重合体は、透明な琥珀色の堅い固体であった。
【0057】
【表1】
本開示は以下も包含する。
[1] 下式のポリシアナートであって、
【化1】
式中、
各mは、独立に、ゼロから3の値を有し;
pは、ゼロから20の値を有し;
各Rは、独立に、ハロゲン;ニトリル;ニトロ;C1〜C6アルキルまたはC1〜C6アルコキシであって、前記アルキルおよびアルコキシ基は、1つ以上のハロゲン原子で置換されてよいC1〜C6アルキルまたはC1〜C6アルコキシ;C2〜C6アルケニル、またはC2〜C6アルケニルオキシであり;
各Zは、Hまたは−C≡Nであり、前記Z基の少なくとも25%は−C≡Nであり;
各Qは、独立に、水素またはC1〜C6アルキルであり、
あるいは、mが2のとき、2つのR基は、独立にC3〜C4アルキレン基であってよく、該C3〜C4アルキレン基は、任意選択として、1つまたは2つの二重結合を含み、それらが結合している環の2つの隣り合った炭素と結合し、それによって縮合二環を形成する、ポリシアナート。
[2] Rは、Hである、上記態様1に記載のポリシアナート。
[3] Qは、HまたはC1〜C2アルキルである、上記態様1または2に記載のポリシアナート。
[4] 前記Z基の少なくとも50%は、−C≡Nである、上記態様1、2または3に記載のポリシアナート。
[5] pは、0または1である、上記態様1、2、3または4に記載のポリシアナート。
[6] 前記Z基の80〜100%は、−C≡Nである、上記態様1、2、3または4に記載のポリシアナート。
[7] 下式のポリフェノールを、塩基の存在下で、任意選択として触媒、溶媒または両方の存在下で、ハロゲン化シアンと反応させるステップを含む、上記態様1に記載の化合物を作る方法:
【化2】
式中、R、Q、mおよびpは、上記態様1〜6のいずれかに定義した通りである。
[8] 前記反応は、少なくとも1種類の溶媒の存在下で行われる、上記態様7に記載の方法。
[9] 少なくとも1種類の溶媒は、脂肪族ケトン、脂環式ケトン、塩素化炭化水素またはそれらの混合物である、上記態様7または8に記載の方法。
[10] 前記塩基は、第3アミンである、上記態様7、8または9に記載の方法。
[11] 前記ハロゲン化シアンは、塩化シアンまたは臭化シアンである、上記態様7、8、9または10に記載の方法。
[12] 前記反応温度は、−10℃から0℃である、上記態様7、8、9、10または11に記載の方法。
[13] 下式のポリシアナートを含み、任意選択として少なくとも1種類の硬化触媒および/または硬化促進剤を含む、硬化性組成物:
【化3】
式中、R、Q、Z、mおよびpは、上記態様1〜6のいずれかに定義した通りである。
[14] 上記態様1に記載のポリシアナート以外の1種類以上の熱硬化性モノマーをさらに含む、上記態様13に記載の硬化性組成物。
[15] 前記熱硬化性モノマーは、1)上記態様1に記載のシアナート以外のジまたはポリ(シアナート)、2)ビスまたはポリ(マレイミド)、3)エポキシ樹脂、4)ジまたはポリ(イソシアナート)、5)ジまたはポリ(シアナミド)、あるいは6)重合性モノ、ジまたはポリ(エチレン系不飽和)モノマーの1種類以上をさらに含む、上記態様14に記載の硬化性組成物。
[16] 任意選択として少なくとも1種類の硬化触媒および/または硬化促進剤をさらに含む、上記態様15に記載の硬化性組成物。
[17] 上記態様13、14、15または16のいずれかに記載の硬化性組成物から調製された部分オリゴマー化または重合(B段階)生成物、または硬化(熱硬化)生成物。
[18] 構造用または電気用ラミネートおよび/または複合材料、多層電子回路、集積回路パッケージング(「IC基板」など)、フィラメントワインディング、成形物、カプセル化物、注型物、航空宇宙用途向け複合材料、接着剤、機能性粉体コーティングおよび他の保護コーティングである、上記態様13、14、15、16または17のいずれかに記載の硬化性組成物から調製された硬化組成物。
[19] シート、フィルム、ファイバーまたは他の成形物品の形態の、上記態様18に記載の硬化組成物。