特許第6166341号(P6166341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166341
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】シクロスポリンAに基づく水性点眼溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20170710BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170710BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170710BHJP
【FI】
   A61K38/12
   A61K9/08
   A61P27/02
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K47/34
【請求項の数】22
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-500964(P2015-500964)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2015-510921(P2015-510921A)
(43)【公表日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】FR2013050557
(87)【国際公開番号】WO2013140071
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】1252583
(32)【優先日】2012年3月22日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】61/614,218
(32)【優先日】2012年3月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503171360
【氏名又は名称】ラボラトワール テア
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRES THEA
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ミュリオー エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】メルシエ ファブリス
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−058906(JP,A)
【文献】 特表2010−540446(JP,A)
【文献】 特表2010−540682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 41/00−45/08
A61K 48/00
A61K 50/00
A61K 51/00−51/12
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫抑制剤としてシクロスポリンAと;
第1の重合体としてセルロースエーテルと;
第2の重合体としてポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンのいずれかであるポリビニル誘導体と;
第3の重合体としてヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリンと:
含有する水性点眼溶液。
【請求項2】
シクロスポリンAが、前記溶液の質量あたり0.05%以上を占め
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
シクロスポリンAが、前記溶液の質量あたり0.05%以上0.1%以下を占める、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有しない、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶液。
【請求項5】
25℃においてブルックフィールド粘性が50 mPa秒以下であ
ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の溶液。
【請求項6】
25℃においてブルックフィールド粘性が5 mPa秒から15 mPa秒の間である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶液。
【請求項7】
前記セルロースエーテルは、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びそれらの塩から選ばれるものである
ことを特徴とする請求項に記載の溶液。
【請求項8】
前記セルロースエーテルは、カルボキシメチルセルロースナトリウムである、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液。
【請求項9】
前記ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリンヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリン40である
ことを特徴とする請求項に記載の溶液。
【請求項10】
前記セルロースエーテルが、前記溶液の質量あたり0.1%以上3%以下を占める
ことを特徴とする請求項に記載の溶液。
【請求項11】
前記セルロースエーテルが、前記溶液の質量あたり0.5%以上0.8%以下又は0.8%以上1.5%以下を占める、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液。
【請求項12】
記ポリビニル誘導体が、前記溶液の質量あたり0.25%以上0.5%以下又は0.5%以上3%以下を占める
ことを特徴とする請求項に記載の溶液。
【請求項13】
前記ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリンが、前記溶液の質量あたり0.5%以上20%以下を占める
ことを特徴とする請求項に記載の溶液。
【請求項14】
前記ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリンが、前記溶液の質量あたり5%以上10%以下又は10%以上15%以下を占める、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の溶液を包含する、
一回使い切り用又は複数回投与用のLDPE製のバイアル。
【請求項16】
免疫性の炎症を背景とする眼球の表面の病気の治療に使用される、
請求項1〜14のいずれかに記載の溶液。
【請求項17】
免疫性の炎症を背景とするドライアイ症候群及び/又は角膜知覚の減退の治療に使用される、
請求項1〜14のいずれかに記載の溶液。
【請求項18】
一日あたり一滴又は二滴以上を、各眼に対して局所投与することで、前記溶液を人間又は動物に投薬する、
ことを特徴とする請求項16又は17に記載の溶液。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれかに記載の溶液を調合する方法であって以下の工程を有する方法:
− 第1の重合体の少なくとも一部と、水との存在下で、免疫抑制剤を可溶化する工程;
− 第1の重合体の残部の全てを他の二つの重合体と、水あるいは緩衝系と、等張化剤とに混合する工程;
− 前記各工程で得られた産物を混合する工程。
【請求項20】
請求項1〜14のいずれかに記載の溶液を調合する方法であって以下の工程を有する方法:
第1の重合体の少なくとも一部と、水との存在下で、撹拌しながら、免疫抑制剤を可溶化する工程;
撹拌し、かつ/または温度60℃に加熱しながら、第1の重合体の残部の全てを他の二つの重合体と、水あるいは緩衝系と、等張化剤とに混合する工程;
撹拌し、かつ/または温度60℃に加熱しながら、前記各工程で得られた産物を混合する工程。
【請求項21】
免疫抑制剤としてシクロスポリンAと;
第1の重合体としてメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びそれらの塩から選ばれるセルロースエーテルと;
第2の重合体としてポリビニルアルコールと;
第3の重合体としてヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリン40と:
を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水性点眼溶液。
【請求項22】
免疫抑制剤としてシクロスポリンAと;
第1の重合体としてカルボキシメチルセルロースと;
第2の重合体としてポリビニルアルコールと;
第3の重合体としてヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリン40と:
を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水性点眼溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロスポリンAを有効成分とする免疫抑制剤を含有する水性点眼溶液を提案するものである。上記溶液の毒性及びアレルゲン性は、目の乾燥又は角膜知覚の喪失のような免疫性の炎症を背景とする眼球の表面の病気の治療における許容範囲内にある。
【0002】
より正確に言えば、本発明は水性点眼溶液であって、有効成分、特にシクロスポリンAが三元重合系の組成からなるため治療上有効な分量で溶解することができ、かつ保存料を含有せずとも優れて安定している水性点眼溶液に関する。
【背景技術】
【0003】
眼球乾燥症候群は、涙腺が十分な涙を産生しない状態であり、ドライアイ又は乾性角結膜炎(KCS, keratoconjunctivitis sicca)とも呼ばれる。ドライアイでは、かゆみ、ヒリヒリ感及び/又は灼熱感を伴う目の不快感がある。
【0004】
ドライアイは涙腺の異常、眼瞼の炎症、アレルギー性の目の炎症、屈折矯正手術(特にレーザーを用いるもの)、日常の脂質摂取量の不足、長期間のコンタクトレンズの着用、ホルモンの変動、自己免疫疾患、又は特定の医薬品による副作用により起こる。
【0005】
角膜知覚の減退は、例えば角膜手術、角膜潰瘍の形成、角膜へのウィルス感染(ウィルス性角膜炎)の結果起きる。
【0006】
ドライアイの治療において、点眼潤滑剤又は給湿点眼剤としても知られる人工涙液の塗布により短期間、局所的に症状を軽減し得るが、全身で見た場合に問題を解決できていない:生体において涙の量を増やし、涙の質を高めることに寄与せず、一時的に置き換えるための液でしかない。低い粘性の又は中程度の粘性の人工涙液は一般にポリビニルアルコール誘導体又はセルロース誘導体を基剤としている一方でより高い粘性のものはカルボマーやヒアルロン酸を含有している。
【0007】
これらの二つの状態に対し、シクロスポリンA(ciclosporin A又はcyclosporin A)を外用し塗布することで行う治療が有望である。
【0008】
シクロスポリンAは一般にシクロスポリンと呼ばれ、特に生体移植に用いられ、移植臓器の急性拒絶反応を予防し得る、効果の高い免疫抑制剤である。
【0009】
シクロスポリンはカルシニューリンを抑制することで作用する。カルシニューリンはインターロイキン−2遺伝子の転写と関係する脱リン酸化酵素であって、通常、T細胞から分泌される。さらにシクロスポリンAはリンホカインの生成及びインターロイキンの放出を抑制することでエフェクターT細胞の活性を実質的に低下させる。すなわち、シクロスポリンAは免疫系の働きを抑制し又は妨げることのできる分子である。
【0010】
シクロスポリンAは11アミノ酸からなる環状ペプチドであり、微小な菌類Tolypocladium inflatum)によって産生される。シクロスポリンAは化学式[R−[[R,R−(E)]]−シクロ(L−アラニル−D−アラニル−N−メチル−L−ロイシル−N−メチル−L−ロイシル−N−メチル−L−バリル−3−ヒドロキシ−N,4−ジメチル−L−2−アミノ−6−オクテノイル−L−α−アミノ−ブチリル−N−メチルグリシル−N−メチル−L−ロイシル−L−バリル−N−メチル−L−ロイシル)(CAS登録番号59865-13-3)で表され、以下の構造を有する。
【0011】
【化1】
【0012】
実用上の問題としてシクロスポリンAは水相中に非常に微量しか溶けない。溶解量は25℃においてわずか約20〜30g/l、質量当たり(w/v)0.002から0.003%である。一方でこの分子はアルコール(エタノール又はメタノール等)、アセトニトリル、酢酸エチル及び油(オリーブ油、トウモロコシ油、ヒマシ油)に可溶である。
【0013】
タクロリムス(CAS登録番号:104987-11-3)又はラパマイシン(CAS登録番号:53123-88-9)のような他の点眼用の免疫抑制剤もこれと同様に溶解性に問題がある。
【0014】
ドライアイ及び角膜知覚の減退にかかる眼の治療のための洗眼剤の組成であって、標的とする組織においてその刺激が許容可能なものであり、かつ標的とする組織におけるシクロスポリンAの生物学的利用能を有する組成を得るために多大な努力が続けられている。
【0015】
許容性は例えばドレーズらによって提供された尺度によって、点眼後の、洗眼による眼への刺激に基づいて測定する(Methods for the study of irritation and toxicity of substances applied topically to the skin and mucous membranes. J. Pharmacol. and Exp. Therapeutics, 1944; 82: 377−390)。
【0016】
さらに様々な組織すなわち結膜(眼球及び眼瞼の)及び角膜における、シクロスポリンAの生物学的利用能を反映する、洗眼剤の浸透の効果を点眼後に測定する
【0017】
シクロスポリンAの水への溶解性は非常に低いので、眼科領域における開発は、乳剤又は水性アルコール溶液の剤形の洗眼剤に向けられてきた
【0018】
このため、シクロスポリンはヒマシ油含有の0.05%乳剤の剤形にてアメリカ合衆国で市販されている。この製品は防腐剤無添加の単一用量にて、レスタシス(商標)という名で販売され、乾性角結膜炎の治療用として推奨されている。
【0019】
欧州、特にフランスではシクロスポリンAの投与は本質的に院内製剤に依拠する。しかしながら、油性媒質(オリーブ油、ヒマシ油又はトウモロコシ油)中及び/又はアルコール存在下の有効な組成として、0.05〜2%の間で濃度の違いはあれど、院内製剤が安定なのは数週間である。
【0020】
さらに言えば、いずれの場合においても、投与に対する許容性は満足できるものとは言えず、したがって患者は治療において必要な用法用量を遵守しなくなるため、その有効性を削いでいる。
【0021】
Nourryらによれば(Etude de la cytotoxicite de differents collyres a base de ciclosporine A buvable (SandimmunTM). J. Fr. Ophtalmol., 2006 ; 29, 3, 251-257)、これらの洗眼剤中の賦形剤(油及びアルコール)は結膜の炎症若しくは充血の痛み、角膜上皮に対する毒性、かゆみ、又は灼熱感といった副作用を生じることが示唆されている。同じ著者らは水性アルコール及び油性(乳剤)の洗眼剤について許容性を比較し、油性の洗眼剤は水性アルコールよりも点眼時の刺激が少ないと結論付けている。
【0022】
これが、特にシクロスポリンAを有効成分とする洗眼剤の直近の開発において、溶解性の問題を克服すると同時に、それらの点眼に対する許容性を高めるために、油性の洗眼剤又は乳剤の洗眼剤の有効性を高めることをその目的としている理由である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Draize et al., Methods for the study of irritation and toxicity of substances applied topically to the skin and mucous membranes. J. Pharmacol. and Exp. Therapeutics, 1944; 82: 377−390
【非特許文献2】Nourry et al., Etude de la cytotoxicite de differents collyres a base de ciclosporine A buvable (SandimmunTM). J. Fr. Ophtalmol., 2006 ; 29, 3, 251-257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、以下の特徴を有する、特にシクロスポリンAを用いた、免疫抑制剤を有効成分とする眼科用製剤の開発が必要であることは明白である:
− 剤形が水溶液であり、
− 時間が経過しても安定であり、
− 点眼後も眼が十分に許容することができて、
− 角膜への浸潤が良好であり、
− 特にドライアイ症候群及び角膜知覚の減退の治療における好適な用量を含有すること。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】結膜におけるシクロスポリンA量(ng/g)
図1B】角膜におけるシクロスポリンA量(ng/g)
図2】25μlのT1580の複数回投与後のシクロスポリンAの濃度
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明において、出願人は、眼科用免疫抑制剤は水溶性が低いにもかかわらず、好ましくは防腐剤無添加である、安定な水溶液を開発した。水溶液中、シクロスポリンAの濃度は生成物が効能を有することを保証するものであり、その医薬製剤は非常に良好な点眼への許容性を有することが保証されている。
【0027】
したがって第1実施形態によれば、本発明は免疫抑制剤、好ましくはシクロスポリンA及び少なくとも3個の重合体を含有する水性点眼溶液に関する。
【0028】
熟慮の末選択された3個の重合体を組み合わせて用いることで、治療上の有効な量の免疫抑制剤、好ましくはシクロスポリンAを、水に溶解することができる。一方でかかる組成物は眼への外用薬として適切な粘度を有するものとなっている。すなわち3個の重合体は可溶化及び/又はゲル化の役割を果たし、かつ可溶化剤及び/又はゲル化剤、あるいは協同型の可溶化剤及び/又は協同型のゲル化剤と定義される。
【0029】
したがって本発明に係る水性点眼溶液は、難溶解性の免疫抑制剤、好ましくはシクロスポリンAを有効成分として含有する。それにもかかわらず、他の構造のシクロスポリン、タクロリムス(CAS登録番号:104987-11-3)又はラパマイシン(CAS登録番号:53123-88-9)のような、水にほとんど溶解しない、他の外用薬としての眼科用免疫抑制剤に対し同じ処方原理を応用することができる。
【0030】
有効成分、好ましくはシクロスポリンAの溶液中の濃度は、質量あたり約0.01〜0.2%(質量/体積又はw/v)であり、好ましくは0.05〜0.1%である。これらは治療上有効な量であり、かつ上述の配合系における溶解の限界に対応している。好ましい実施態様において、特にシクロスポリンの濃度は質量あたり0.05%以上であり、好ましくは0.05%より大きく、さらに好ましくは0.1%以上である。これらは通常の水溶液としては決して達成できない溶解量である。特により高い水溶性を有する、シクロスポリン以外の免疫抑制剤において、本発明に係る溶液中の上記質量/体積比は0.1%以上でもよく、好ましくは0.2%より大きくてもよく、さらに好ましくは0.5%以上、あるいは1%以上でもよい。
【0031】
本発明に係る溶液は同一の種別に係るもの(すなわち免疫抑制剤)とは異なる他の種別に係る有効成分を含有してもよいことを強調する。改変された態様において、かかる他の有効成分はまた可溶化された形態を有する。好ましい態様において、他の有効成分はコル地ステロイドではない。
【0032】
本発明に係る組成物は水溶液であることを特徴とする。定義によれば水溶液は液相がいくつかの化学種を含有し、その中の一つ、すなわち水は主な種であり、溶質又は「溶解している化学種」を構成しているそれ以外の種の溶媒(媒質)として働く。本発明に係る溶液は有機溶媒、特にエタノールのような任意のアルコールを含有しないことが好ましい。
【0033】
したがって、本発明において、シクロスポリンは、先行技術に示すように乳剤中でミセル化しておらず(油相中にあるわけではなく)、溶液に溶解している。このため、本発明の溶液は油、特にヒマシ油のような植物由来の油を含有していないことが好ましい。
【0034】
他の好ましい態様において、本発明に係る溶液は、特に欧州薬局方における方法2.9.19により定義される通りに、粒子を含まないことを必須とする。特に溶液はミセルを含有しないことが好ましい。
【0035】
本発明によれば、三元重合系によって可溶化する。
【0036】
本発明に係る水性点眼溶液は各種セルロース誘導体から、より正確に言えば各種セルロースエーテルから選ばれる第1の重合体を含有することが好ましい。これらの誘導体は特徴としてゲル化することが知られているが、出願人は、驚くべきことに、これらが免疫抑制剤を、好ましい態様においてシクロスポリンAを前可溶化(presolubilization)することを見出した。したがって、この第1の重合体を共可溶化(cosolubilisation)剤/共ゲル化剤として定義可能である。
【0037】
セルロース誘導体はメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はそれらの塩を含む群から選ばれることが好ましい。カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na)であることがより好ましい。
【0038】
かかる第1の重合体、好ましくはセルロース誘導体の濃度は、溶液の質量あたり0.1から3%の間であることが適切であり、0.5から1.5%の間であることが好ましく、0.8%であることが好ましい(質量/体積又はw/v)。
【0039】
好ましい態様において免疫抑制剤、好ましくはシクロスポリンAを、水中のかかる第1の重合体の存在下の第1の工程において前可溶化する。かかる第1の工程により、この後、上記溶液の他の二つの重合体と混合すべき懸濁液を得る。
【0040】
本発明に係る水溶性点眼薬は第2の重合体、好ましくはポリビニル重合体、より好ましくはポリビニルアルコールを含有する。
【0041】
ポリビニルアルコール(CAS登録番号9002-89-5)はゲル化する特徴を有することが知られており、このため、ゲル化剤として用いられる。特に、かかるポリビニル誘導体はおそらく水酸基を用いることで、シクロスポリンAの共可溶化と密接に関係する。
【0042】
他に用いることのできるポリビニル誘導体はポリビニルピロリドン又はポビドン(PVP)(CAS登録番号9003-39-8)である.
【0043】
第2の重合体、好ましくはポリビニル誘導体の濃度は、溶液の質量あたり0.25%から3%の間であることが適切であり、0.5%であることが好ましい(質量/体積又はw/v)。
【0044】
これらの2種の重合体は特にドライアイの治療のための点眼薬の調合に幅広く用いることができる賦形剤群から選ばれたものである。このため、レスタシス(商標)による治療においては付随して人工涙液を利用することが推奨されるところ、本発明に係る点眼薬は「2 in 1」型の製品として機能する。
【0045】
本発明にかかる水溶性点眼薬は、主要な可溶化剤として働く第3の重合体、好ましくは非イオン性重合体を含有することを特徴とする。ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリン(macrogolglycerol hydroxystearate)のような疎水性官能基を有する重合体が好ましい。ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリンは、特に無極性部位により、例えばシクロスポリンAの共可溶化に適している、非イオン性可溶化剤である
【0046】
これらの重合体はC18の脂肪酸分子、オメガ−9ヒドロキシル化されたリシノール酸又は(R)−(+)−12−ヒドロキシ−9Z−オクタデセン酸(無極性部位)及び35個のポリエチレングリコール、H−(0−CH=CH)−OHの分子であって、様々な炭素鎖長(C,C25,C40又はC60)を有し、7,25,40,60の階級が与えられている分子から構成されている。
【0047】
第3の重合体はPEG40水添ヒマシ油と呼ばれ、CAS登録番号61788-85-0を有するヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリン40であることが一層好ましい。
【0048】
第3の重合体、好ましくはヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリンの濃度は、溶液の質量あたり0.5%から20%の間であることが適切であり、好ましくは5%から15%の間であり、より好ましくは10%である(質量/体積又はw/v)。このため、三元系の主要な重合体となる。
【0049】
本発明に係る溶液はシクロデキストリンを含有しないことが好ましい。他の好ましい態様によれば、有効成分の可溶化を補助し、角膜上皮を構成する細胞膜を不安定化させることが知られているBAK又はDMSOのような浸透増強剤を含有しないことが好ましい。
【0050】
これらの3つの重合体を組み合わせることで、眼科用に必要な外用薬として用いるのに適した粘度を有する、本発明に係る溶液とすることが好ましい。
【0051】
このため、本発明にかかる溶液の適切な粘度は、25℃においてブルックフィールド型RVDV III回転粘度計を用いて測定したとき、50 mPa秒以下であり、好ましくは5 mPa秒から50 mPa秒の間であり、より好ましくは5 mPa秒から15 mPa秒の間である。
【0052】
かかる粘度は、20℃において約6.5 mPa秒であり、速度勾配はゼロに近いと考えられている人間の涙の粘度に近いことが実用上好ましい。このため、本発明に係る溶液を外用しても不快感や刺激といった感覚を生じない。実際に点眼液/涙の混合液の粘度が50 mPa秒よりも低くなければ、不快感を感じることなしには、簡単な除去もできないとされてきた。
【0053】
加えて上記水性点眼溶液が、非イオン性の等張化剤、酸化防止剤及び/又は緩衝系からなる群から選ばれる添加物を含有してもよいことは当然である。
【0054】
本発明に係る溶液は中性pHであることが好ましく、6.5から7の間であることが好ましい。等張性の製剤であることが好ましく、重量モル浸透圧濃度が290 mosmol/kgから350 mosmol/kgの間であることが好ましい。
【0055】
ある態様において、本発明に係る溶液は以下の表に挙げた成分からなり、以下に示す百分法の組成を有することが好ましい:
【0056】
【表1】
【0057】
応用例としては、又は好ましい態様において、本発明に係る溶液は抗菌性の保存料を含まず、特に、例えば塩化ベンザルコニウム(BAK)のような四級アンモニウム系の保存料を含まない。
【0058】
本発明において「抗菌性保存料」又は「抗菌性」とは抗菌性を有する保存料、すなわち、予想され得る微生物の混入から点眼液を保護することを保障するための化合物を表す。四級アンモニウム系の化合物、特に塩化ベンザルコニウム又はポリクワット(polyquad)はEDTA(例えばエデト酸二ナトリウム)と組み合わせられる場合もあるが、通常、保存料として用いられる。
【0059】
他の保存料の候補としては以下のものを含むがこれに限定されない:
− グアニジン系保存料(PHMB、クロルヘキシジンなど);
− ベンジルアルコール;
− パラベン(メチルパラベン、プロピルパラベン等);
− チメロサールのような水銀系保存料;
− クロルブタノール;
− 塩化ベンゼトニウム;
− 酸化型保存料(ピューライト(Purite、商標)等);
− その他。
【0060】
保存料無しで数日間、点眼液を運搬するために、本発明の組成は、Abak(商標)、Comod(商標)又はこれらと同等のもののような一回使い切り(一回投与用)又は複数回投与用のバイアルで供給することができる。
【0061】
本発明はまた、上述の点眼液を包含する、例えばLDPEで作られた、一回使い切り(一回投与用)又は複数回投与用のバイアルに関するものであり、点眼液は欧州(EP)品質において添加剤無添加であることが好ましい。
【0062】
さらに、本発明にかかる溶液は、室温(25℃−30℃)において、少なくとも24か月間又は少なくとも36か月間安定である。
【0063】
本発明は免疫性の炎症を背景とする眼球の表面の病気の治療における上記溶液の使用に関する。
【0064】
眼科診療において、上記溶液は特に眼球乾燥症候群及び/又は角膜知覚の減退の治療に好適である。
【0065】
例えば次に示すものは角膜知覚の減退に関連する:
− 角膜に影響する手術;
− ウィルス感染(例えばヘルペスのHSV-I、HSV-II又はVZVウィルス);
− 屈折矯正角膜手術又は全層角膜移植;
− 放射状角膜切開を行った患者;
− 光屈折性の角膜切開術(photorefractive keratotomy);
− レーシック(レーザーによる角膜切削形成術、LASIK、laser-assisted in situ keratomileusis)手術、特にEPIレーシック(上皮レーシック、EPI-LASIK、epithelial LASIK)又はラセック(レーザー上皮下角膜曲率形成術、LASEK、laser sub-epithelial keratomileusis)。
【0066】
さらに、本発明に係る溶液は、特に以下の場合に動物用医薬品として使用することができる:
− イヌの乾性角結膜炎;
− イヌ、ネコ、ウマの慢性表在性角膜炎における角膜血管新生、角膜色素沈着及び細胞浸潤の問題(イヌの場合はイヌCSK);
− イヌの瞬膜のリンパ形質細胞性の浸潤;
− ネコ及びウマの好酸球による角膜炎;
− イヌ(ダックスフントなど)又はウマの点状角膜炎;
− ウマの角膜ぶどう膜炎、内皮炎、不活発な潰瘍のうちのいくつか及び周期的な流出(periodic fluxion);
− ;イヌ、ネコ及びウマの免疫の原因となる炎症反応の治療に際して組み合わせること
− イヌ、ネコ及びウマにおける角膜移植片拒絶反応の予防。
【0067】
実施において、左眼及び右眼のいずれにも、一日あたり一滴又は二滴以上を、局所投与することで、本発明に係る溶液を人間又は動物に投薬する。
【0068】
他の態様及び特にセルロース誘導体を用いることに関連する態様において本発明は上記発明に係る溶液を調製するための方法であって以下の工程を含むものに関する:
− 少なくとも(好ましくは25質量%の)第1の重合体、好ましくはセルロース誘導体の一部と、水との存在下で、好ましくは撹拌しながら、免疫調節剤、好ましくはシクロスポリンAを前可溶化する工程;
− 好ましくは撹拌し、かつ/または例えば温度60℃に加熱しながら、好ましくはセルロース誘導体である、第1の重合体の残部の全て(好ましくは75質量%)を他の二つの重合体と、水あるいは緩衝系と、等張化剤とに混合する工程;
− 好ましくは撹拌し、かつ/または例えば温度60℃に加熱しながら、上記工程で得られた産物を混合する工程。
【0069】
上記工程の最後に、その保存及びかつ眼科診療における使用の観点から、熱で、好ましくは高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)で滅菌してもよい。
【0070】
応用例に裏付けられるとおり、本発明に係る水性点眼溶液は元来有する特徴及び長所がいくつかある:
− 時間経過しても安定である;
− 油性の乳剤及び/又は水性アルコール溶液よりも点眼を許容できる;
− 結膜に集積することなく、又は房水若しくは血液に移ることなく、角膜に良好に浸透し;
− 眼球の乾燥及び/又は角膜知覚の減退のような、免疫性の炎症を背景とする眼球の表面の病気の治療に適する分量のシクロスポリンAを含有する。;
【実施例】
【0071】
本発明及びその長所を、添付した図面により裏付けられる例示であって、以下の情報を提供する目的の例示により詳述する。
【0072】
図1は結膜(A)及び角膜(B)における、時間経過に伴う眼球へのシクロスポリンAの浸透を3点の濃度(それぞれ0.01、0.05及び0.1%)において表したものである。
図2は結膜(Cj)及び角膜(Co)において0.1%シクロスポリンAを含有する本発明の溶液の投与を繰り返した(1日につき3回、9日間投与(複数回投与))のち、D10における28回目の投与時に分析した薬物動態特性を示す。
【0073】
I− 0.1%(w/w)シクロスポリンA溶液の調合(100kgバッチ)
【0074】
I−1/ 画分Aの調合:
200gのカルボキシメチルセルロースナトリウム(第1の重合体;最終的な分量の25%)を100gのシクロスポリンA(有効成分であって、欧州薬局方に記載の基準を満たす品質のもの)と混合したのち3リットルの水を加えた。これを一時間撹拌することで混合した。
【0075】
シクロスポリンAは微細粉末であり、操作者にとって毒性がある。かかる第1の前可溶化工程によりシクロスポリンAの乳状の懸濁液が得られ、操作者にとってより安全となる。
【0076】
I−2/ 画分Bの調合:
500gのポリビニルアルコール(又はPVA、第2の重合体)を約65リットルの冷水(水の最終的な体積の75%)に加える。これを撹拌しながら混合し、徐々に温度を上げて60℃とする。
【0077】
PVAが溶解したところで(300rpmであれば、少なくとも30分後)、10kgのヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセリン40(又はPEG40水添ヒマシ油、第3の重合体)を加える。かかる溶液を60℃で約20分間撹拌しながら混合する。
【0078】
その後、緩衝剤(NaH2PO4・H2O及びNa2HPO4・2H2O)を添加し、かかる溶液を60℃で約20分間撹拌しながら混合する。同じ条件(60℃で約20分間)で、600gのカルボキシメチルセルロース(第1の重合体;最終的な分量の75%)をさらに加える。
【0079】
I−3/ 最終溶液の調合:
画分Aを画分Bに加える。均質化した後、水を加えて最終的な体積とし、60℃で10分間混合する。
【0080】
このようにして得られた水性点眼溶液を撹拌しながら121℃で20分間滅菌する。一回使い切り用のLDPE(low density polyethylene、低密度ポリエチレン)バイアルか、若しくは複数回投与用のABAK(商標)バイアル若しくはCOMOD(商標)バイアル、又は他の種類のものに、保存料、特に抗菌性保存料を加えずに詰めることができる。
【0081】
本発明に係る滅菌済み水性点眼溶液は、従来技術の手順によるもの、特に、少なくとも1回は一晩混合する工程を有するWO2009/099467のものに比べ、その調合時間が非常に短い(最大でも8時間)という特徴を有する。
【0082】
長期にわたって工業的設備を固定することは微生物の増殖という観点でリスク要因となるが、これをせずとも、かかる製造工程によれば、通常の手法により、滅菌された眼科用製剤を工業生産することができる。
【0083】
I−4/ 得られた溶液の組成
【0084】
【表2】
【0085】
特に、0.01%及び0.1%の間の濃度、例えば0.05%のシクロスポリンAを含有する溶液の調合のために上記と同一の手順を利用してもよい。
【0086】
I−5/ 得られた溶液の特性
【0087】
【表3】
【0088】
得られた溶液が以下の長所を有することが表されている:
− 中性pH;
− 等張性の組成;
− 人間の涙に近い粘性を有する。実際に、人間の涙の粘性は20℃において約6.5 mPa秒であり、速度勾配はゼロに近い。瞼によって加わる力は、通常の瞬目時に約0.2Nであり、強制的に行う瞬目時には約0.7Nから0.8Nである。本発明に係る溶液が眼の表面にあったとしても、患者は、瞼を0.9N以上の力で動かさなければいけないときの瞬目時に表れるような不快感又は刺激を感じることがない。なぜなら涙という方法で速やかに除去しようとする反射性の瞬目によって、この不快感が引き起こされるからである。
【0089】
有効成分の水に対する溶解性が極めて低いにも拘らず、かかる溶液の組成は許容度が高い。
【0090】
II−本発明の溶液の安定性
【0091】
25℃(Table 1、表4)及び40℃(Table 2、表5)における安定性試験が示すように本発明に係る溶液の安定性は極めて良好なため、室温の保存条件において36か月という貯蔵期間の要求を満たすものである。
【0092】
【表4】
【0093】
テーブル1:25℃、相対湿度40%における本発明の水性点眼溶液の安定性
【0094】
【表5】
【0095】
テーブル2:40℃、相対湿度40%における本発明の水性点眼溶液の安定性
【0096】
本発明に係る溶液の眼に対する許容性
【0097】
上述の通り調合した、0.1質量%のシクロスポリンAの溶液を7日間、毎日8回ずつ50μlをウサギに投与することで試験した。
【0098】
眼に対する実験は次の通り行った:
− 処置前及びその日の最後の投与後に、検眼鏡を用いて両眼を観察し、ドレーズ尺度でそれらを評価し;
− 処置前、第1日目における最後の投与の直前、さらに第8日目に細隙灯顕微鏡を使用し、McDonald-Shadduck尺度を用いてそれらを評価することで両目の眼に対する実験を行い;
− 全ての眼球を採取し、固定した。
【0099】
他の組成と比べ、特にMODUSIK-A(商標)のような非イオン性界面活性剤を含有するアルコール性の製剤に比べ、本発明に係る溶液はウサギにおいて良好な眼への許容性を示した。
【0100】
IV− 市販の乳剤(レスタシス(商標))と比較した時の本発明に係る溶液の動態の研究
【0101】
下記を50μl、ウサギの右眼に一回投与した後の、眼におけるシクロスポリンAの分配を結膜(眼球結膜の眼瞼結膜のプール)上、及び角膜上で分析した:
− 本発明に係る水溶液であって0.05%(質量)のシクロスポリンAを含有しポイントIで述べたとおり調合し、T1580のラベルを付したもの;
− レスタシス(Restasis、商標)、市販の乳液であって0.05%(質量)のシクロスポリンAを含有するもの。
【0102】
これを行うため、色素を有するウサギ(Fauve de Bourgogne種−ref: HY R NZ 104)48匹を24匹ずつの2群に分けた。さらに、6回の分析時(それぞれ20分、40分、1時間、4時間、12時間、24時間)に対応するように、各部分群を4匹ずつの6群に細分した。各動物の右眼に50μlのT1580又はレスタシス(商標)を一回投与した。各分析時間において動物をと殺し、結膜(眼球及び眼瞼)(Ci)及び角膜(Co)の試料を得て、測定まで-20℃で保管した。結膜及び角膜中のシクロスポリンA量をHPLC-MS(high performance liquid chromatography combined with mass spectrometry、高速液体クロマトグラフィー/質量分析)により定量した。
【0103】
下記のテーブル3(表6)に結果を示すが、テーブル3中:
− Cmaxは観察されたうちの最大濃度であり;
− Tmaxは上記最大濃度に到達するまでにかかった時間であり;かつ
− AUCはゼロ時から濃度を測定可能な最も遅い時までの時間に対する曲線の積分値(面積)である。かかる計算のため、非連続的な試料のためのランダム法を用いた。
【0104】
【表6】
【0105】
テーブル3:いずれも0.05%のシクロスポリンAを含有する、本発明に係る水性点眼溶液及び市販の乳液レスタシス(商標)の薬物動態の比較。
【0106】
色素を有するウサギの右眼に50μlのT1580又はレスタシス(商標)を投与した後、シクロスポリンAは主に結膜について20分から4時間の間で検出され、角膜については20分から24時間の間で検出された。レスタシス(商標)で処置した動物に比べて、T1580で処置した動物では、結膜中のシクロスポリンAの量が多く、特に角膜においては、20分から12時間の間で角膜中のシクロスポリンAの量が多かった。このことは本発明に係る組成により有効成分の利用能が高まっていることを示す。
【0107】
V− 本発明に係る溶液であって3種の異なる濃度の溶液を、各一回分の投与したときの薬物動態研究
【0108】
結膜及び角膜における、本発明に係る溶液の一回分の投与量あたりの眼への浸透を定量し、色素を有するウサギの各眼に25μl投与した後の時間(投与後0.33、0.66、1、2、4、8、12及び24時間)に対する関数として表した。シクロスポリンAは3種の濃度:0.01、0.05及び0.1%で試験した。この研究では72匹、すなわち各期間あたりウサギ3匹のウサギを用いた。
【0109】
結膜に対する図1A、及び角膜に対する図1BはシクロスポリンAの濃度と、結膜及び角膜について得られた薬物動態特性との間の投与量依存的な効果を示す。
【0110】
角膜において得られたAUCは結膜において測定された大きさの4から5倍であり、かつシクロスポリンAは結膜中よりも角膜中で残存していたことから、シクロスポリンAの角膜に対する特定の指向性が分かる。
【0111】
VI− 本発明に係る溶液を繰り返し投与したときの薬物動態研究
【0112】
本研究では、0.1% (w/w)のシクロスポリンAを含有する本発明の溶液を所定の分量(25μl)を、10日間にわたり1日につき3回ずつ、色素を有するウサギのそれぞれの眼(右眼及び左眼)に投与した。
【0113】
より正確には、投与は9日間継続して行い(すなわち27回投与)、その後28回目の投与時に、すなわち第10日(D10)の朝に薬物動態を定量した。0時間(C0トラフ値の推定)さらに結膜及び角膜におけるCmaxに対応する0.33時間(h)後及び0.66時間(h)後、さらに1、2、4、8及び24時間後に試料を採取した.
【0114】
図2の結果を得た。かかる濃度及び投与量において:
− 結膜にシクロスポリンAは蓄積せず、また濃度は持続しなかった。上述の構造において、連続する24時間(sur le nycthemere)作用させるべき免疫調節剤のカバー(couverture)は、その期間が限定されていると考えられる。
− 角膜1gあたり1,000から2,000ngの量のシクロスポリンAが、24時間にわたり持続的に、角膜において蓄積した。角膜においては24時間作用する(nycthemerale)所望の免疫調節剤のカバー(couverture)を得ることができた。
なお、房水への浸透は観察されず、また血液への有意な浸透も観察されなかった
【0115】
得られた値の大きさはレスタシス(商標)に関して利用可能な部分的なデータと同等であり、免疫調節剤の効果を得るための有効成分の濃度は標的となる組織において100から400 ng/gとすることを推奨する上記記載の値と同等であるから、本発明に係る溶液の効果は示されたと言える。
図1A
図1B
図2