特許第6166345号(P6166345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6166345石油化学製品を生成させる、統合された、原油の水素化処理、水蒸気熱分解、及びスラリー水素化処理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166345
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】石油化学製品を生成させる、統合された、原油の水素化処理、水蒸気熱分解、及びスラリー水素化処理
(51)【国際特許分類】
   C10G 69/06 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   C10G69/06
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-501890(P2015-501890)
(86)(22)【出願日】2013年3月20日
(65)【公表番号】特表2015-511654(P2015-511654A)
(43)【公表日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】US2013033181
(87)【国際公開番号】WO2013142617
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年3月17日
(31)【優先権主張番号】61/613,294
(32)【優先日】2012年3月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/785,894
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511304464
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100197572
【弁理士】
【氏名又は名称】尼崎 匡
(72)【発明者】
【氏名】エッサム・サイード
(72)【発明者】
【氏名】ラヒール・シャフィ
(72)【発明者】
【氏名】アブデュル・ラーマン・ザフェル・アクラ
(72)【発明者】
【氏名】アブデヌール・ブラーヌ
(72)【発明者】
【氏名】イブラヒム・エイ・アバ
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−098387(JP,A)
【文献】 特表2002−501551(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0095032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油を直接変換してオレフィン及び芳香族の石油化学製品を生成させる、統合された、水素化処理、水蒸気熱分解、及びスラリー水素化処理方法であって:
a. 原油を、減少した汚染物質の含有量、増加したパラフィン度、減少した鉱山局相関指標(Bureau of Mines Correlation Index)、そして増加した米国石油協会比重を有する、水素化処理したエフルエントを生成させるのに有効な条件下で水素の存在下で水素化処理すること;
b. 水素化処理したエフルエント及びスラリー処理生成物を、水蒸気熱分解ゾーン内で水蒸気の存在下、混合生成物流を生成させるのに有効な条件下で熱分解すること;
c. 前記水素化処理したエフルエント、前記水蒸気熱分解ゾーン内の加熱流、又は前記混合生成物流の一つ又は複数に由来する廃棄残油又はボトムを、スラリー水素化処理ゾーン中で処理して、スラリー処理生成物を生成させること;
d. 混合生成物流を分離すること;
e. ステップ(d)で回収した水素を精製して、それを水素化処理のステップに再循環させること;及び
f. オレフィン及び芳香族を、前記分離した混合生成物流から回収すること、を含む処理方法。
【請求項2】
熱分解燃料油を、前記混合生成物流から回収し、ステップ(c)において分解される廃棄残油又はボトムの少なくとも一部分として使用することをさらに含む、請求項1に記載の統合処理方法。
【請求項3】
ステップ(a)からの前記水素化処理されたエフルエントを、気液分離ゾーンにおいて気相と液相に分離し、前記気相をステップ(b)において熱分解し、前記液相の少なくとも一部分を、ステップ(c)において処理することをさらに含む、請求項1に記載の統合処理方法。
【請求項4】
前記気液分離ゾーンがフラッシュ分離装置である、請求項3に記載の統合処理方法。
【請求項5】
気液分離ゾーンが、気相と液相を分離する、物理的、又は機械的装置である、請求項3に記載の統合処理方法。
【請求項6】
請求項3に記載の統合処理方法であって、前記気液分離ゾーンが、吸入口に気液分離器を有するフラッシュ容器を含み、前記気液分離器が、
予備回転の構成要素であって、流入部分及び遷移部分を有し、前記流入部分は、前記水素化処理したエフルエントを受け入れる吸入口、及び曲線の導管を有する、予備回転の構成要素と、
制御されたサイクロン区域であって、
前記予備回転の構成要素に、前記曲線の導管及び前記サイクロン区域を通じて接続する吸入口、及び
気体が通過するサイクロン部材の上端にライザー区域を有するサイクロン区域と、を有し、
前記フラッシュ容器の底部分が、前記液相のすべて又は一部分をステップ(c)に移行させるのに先立って、前記液相の収集及び沈降ゾーンとしての役割を果たす処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載の統合処理方法であって、ステップ(b)がさらに、
水素化処理したエフルエントを、水蒸気熱分解ゾーンの対流区域において加熱すること、
前記加熱した水素化処理したエフルエントを、気相と液相に分離すること、
前記気相を、前記水蒸気熱分解ゾーンの熱分解区域に受け渡すこと、及び
前記液相を排出して、ステップ(c)において処理される前記廃棄残油又はボトムの少なくとも一部分として使用すること、を含む処理方法。
【請求項8】
前記加熱した水素化処理したエフルエントを気相と液相に分離することを、物理的及び機械的分離に基づく気液分離器を用いて行う、請求項7に記載の統合処理方法。
【請求項9】
前記加熱した水素化処理したエフルエントの気相と液相へ分離を、気液分離器を用いて行う、請求項8に記載の統合処理方法であって、前記気液分離器が、
予備回転の構成要素であって、流入部分及び遷移部分を有し、前記流入部分は、前記加熱した水素化処理したエフルエントを入れる吸入口、及び曲線の導管を有する、予備回転の構成要素と、
制御されたサイクロン区域であって、
前記予備回転の構成要素に、前記曲線の導管及び前記サイクロン区域を通じて接続する吸入口、及び
気相が通過するサイクロン部材の上端にライザー区域を有するサイクロン区域と、
液相のすべて又は一部分をステップ(c)に搬送するのに先立って、前記液相が通過する液体収集器/沈降区域と、を有する処理方法。
【請求項10】
請求項1に記載の統合処理方法であって、
ステップ(d)が、
熱分解された混合生成物流を複数段の圧縮を用いて圧縮すること;
前記圧縮された、熱分解された混合生成物流を苛性処理に付して、硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、熱分解された混合生成物流を生成させること;
硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、前記熱分解された混合生成物流を圧縮すること;
硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、前記圧縮された、熱分解された混合生成物流を脱水させること;
硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、前記脱水した、圧縮された、熱分解された混合生成物流から、水素を回収すること;及び
オレフィン及び芳香族を、硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、前記脱水した、圧縮された、熱分解された混合生成物流の残りから得ること;
を含み、そして
ステップ(e)が、硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、前記脱水した、圧縮された、熱分解された混合生成物流から回収した水素を精製し、水素化処理ゾーンに再循環させることを含む処理方法。
【請求項11】
硫化水素と二酸化炭素の含有量が減少した、前記脱水した、圧縮された、熱分解された混合生成物流から水素を回収することがさらに、個別にメタンを回収して、熱分解ステップにおいてバーナー及び/又はヒーターの燃料として使用することを含む、請求項10に記載の統合処理方法。
【請求項12】
請求項3に記載の統合処理方法であって、さらに
前記水素化処理したエフルエントを高圧分離器中で分離して、ガス部分と液体部分を回収し、前記ガス部分は洗浄して、追加の水素源として水素化処理ゾーンに再循環させること、及び
前記高圧分離器から得られた液体部分を、低圧分離器中でガス部分と液体部分に分離することを含み、前記低圧分離器からの前記液体部分は、熱分解ステップへの供給物であり、前記低圧分離器からの前記ガス部分は、前記水蒸気熱分解ゾーンの後、ステップ(d)での分離の前で、前記混合生成物流と一つにする処理方法。
【請求項13】
請求項3に記載の統合処理方法であって、さらに
前記水素化処理したエフルエントを高圧分離器中で分離して、ガス部分と液体部分を回収し、前記ガス部分は洗浄して、追加の水素源として水素化処理ゾーンに再循環させること、及び、
前記高圧分離器から得られた前記液体部分を、低圧分離器中でガス部分と液体部分に分離することを含み、前記低圧分離器に由来する前記液体部分は、前記気液分離ゾーンへの供給物であり、前記低圧分離器に由来する前記ガス部分を、前記水蒸気熱分解ゾーンの後、ステップ(d)での分離の前で、前記混合生成物流と一つにする処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2012年3月20日に出願された米国仮特許出願第61/613,294号、及び2013年3月14日に出願された同第61/785,894号の優先権の利益を主張し、それらは、本出願において参照により援用される。
【0002】
背景技術
発明の分野
本発明は、石油化学製品、例えば軽質オレフィン及び芳香族を、原油を含む供給物から生成させる、統合された、水素化処理、水蒸気熱分解、及びスラリー水素化処理に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記載
低級オレフィン(すなわち、エチレン、プロピレン、ブチレン、及びブタジエン)、並びに芳香族(すなわち、ベンゼン、トルエン、及びキシレン)は、石油化学及び化学工業で広く使用されている基本的な中間体である。熱分解、又は水蒸気熱分解は、典型的には水蒸気の存在下で、そして酸素の非存在下で、これらの物質を形成する主要なタイプの処理である。水蒸気熱分解用の原料には、石油ガス及び蒸留物、例えばナフサ、ケロシン、及びガス油を挙げることができる。通常、これらの原料を入手するには限界があり、原油精製所において、高コストでエネルギー集約型の処理工程が必要である。
【0004】
重質炭化水素を水蒸気熱分解反応器用の原料として使用する研究が行われてきた。従来の重質炭化水素熱分解の運転における大きな欠点は、コークス形成である。例えば、重質液体炭化水素用の水蒸気分解処理が、米国特許第4,217,204号に開示されており、これは、溶融した塩の霧を水蒸気分解反応ゾーン中に導入し、コークス形成を最小限にしようとするものである。3.1重量%のコンラドソン残留炭素分を有する、アラビアンライト原油を使用する一例では、分解装置は、溶融塩の存在下で624時間、連続運転することが可能であった。溶融塩を添加しない比較例では、水蒸気分解反応器は目詰まりし、ほんの5時間後には運転不可能になったが、その理由は、反応器中でのコークス形成であった。
【0005】
加えて、重質炭化水素を水蒸気熱分解反応器用の原料として使用する、オレフィン及び芳香族の収量と分布は、軽質炭化水素の原料を使用するものとは異なっている。重質炭化水素は、軽質炭化水素より芳香族の含有量が高く、これは、鉱山局相関指標(Bureau of Mines Correlation Index)(BMCI)が高いということで示される。BMCIは、原料の芳香族性の測定結果であり、以下のとおり:
【0006】
【数1】
【0007】
で計算され、ここで:
VAPB=体積平均したランキン度での沸点
であり、
sp.gr.=原料の比重
である。
【0008】
BMCIが低下すると、エチレンの収量は増加すると期待される。従って、水蒸気熱分解には、高度にパラフィン性又は低い芳香族性の供給物が通常望ましく、これにより高収量の所望のオレフィンが得られ、反応器コイル区域での望ましくない生成物やコークス形成の増加が回避される。
【0009】
水蒸気分解器中の絶対コークス生成速度が、Cai et al., “Coke Formation in Steam Crackers for Ethylene Production,” Chem. Eng. & Proc., vol. 41, (2002), 199 − 214で報告されている。概して、絶対コークス生成速度は、昇順で、オレフィン>芳香族>パラフィンの順であり、ここでオレフィンは、重質オレフィンを表す。
【0010】
これらの石油化学製品の需要増大に応じられるようにするには、もっと大量に入手可能なその他のタイプの供給物、例えば未処理の原油が、生産者には魅力的である。原油供給物を使用すれば、これらの必要なこれらの石油化学製品の生成で石油精製施設が障害となる可能性が最小限になる、又はなくなるであろう。
【発明の概要】
【0011】
本明細書のシステム及び処理は、水素化処理ゾーンと統合された水蒸気熱分解ゾーン、及びスラリー水素化処理ゾーンを提供し、これにより、原油原料を含む原料を直接処理して、オレフィン及び芳香族を含む石油化学製品を生成させることを可能にするものである。
【0012】
原油を、減少した汚染物質の含有量、増加したパラフィン度、減少した鉱山局相関指標、そして増加した米国石油協会比重を有する、水素化処理された減少したエフルエントを生成するのに有効な条件下で運転する、水素の存在下の水素化処理ゾーンに充填する。水素化処理したエフルエントを、水蒸気熱分解ゾーン内で水蒸気の存在下、熱分解して、混合生成物流を生成させる。重質成分は、水素化処理したエフルエント、水蒸気熱分解ゾーン中の加熱流、又は水蒸気分解から得られた混合生成物流の一つ又は複数に由来するものであり、スラリー水素化処理ゾーンに充填して、スラリー中間体生成物を生成させ、これをその後、熱分解させる。オレフィン及び芳香族を、分離した混合生成物流から生成物として回収する。
【0013】
本明細書で使用する場合、「原油」という用語は、従来の源から得られた原油全体を含み、これは、何等かの前処理を経たものも含むと理解されるものとする。「原油」という用語はまた、水油分離;及び/又はガス油分離;及び/又は脱塩;及び/又は安定化を行ったものを含むと理解されるものとする。
【0014】
本発明の処理の、その他の態様、実施形態、及び利点を、以下に詳細に考察する。さらに、前述の情報及び以下の詳細な記載は、様々な態様及び実施形態をただ例示するだけの例であり、特許請求された特徴及び実施形態の本質並びに性質を理解するための要約及び枠組みを提供することを意図していると理解されるものとする。付随の図面は例示するものであり、本発明の処理の様々な態様及び実施形態をさらに理解するために提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明を、以下にさらに詳細に、そして添付図面を参照して記載するが、ここで:
図1】本明細書に記載した統合処理の実施形態の処理フロー概略図である;
図2】A〜Cは、本明細書に記載の統合処理の特定の実施形態で使用する気液分離器の透視略図、上面略図、及び側面略図である;そして
図3】A〜Cは、本明細書に記載の統合処理の特定の実施形態で使用するフラッシュ容器中の気液分離器の断面略図、拡大断面略図、及び上断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細な記載
統合された、水素化処理、水蒸気熱分解、及びスラリー水素化処理を含む処理フロー概略図を、図1に示す。統合システムは概して、選択的水素化処理ゾーン、水蒸気熱分解ゾーン、スラリー水素化処理ゾーン、及び生成物分離ゾーンを含む。
【0017】
選択的水素化処理ゾーンには概して、水素化処理反応ゾーン4が含まれ、これは、供給物1、及び水蒸気熱分解生成物流から再循環させた水素2、並びに必要に応じて補充水素(図示せず)を含む混合物3を取り入れる吸入口を有する。水素化処理反応ゾーン4はさらに、水素化処理したエフルエント5を排出する排出口を含む。
【0018】
水素化処理反応ゾーン4からの反応器エフルエント5は、熱交換器(図示せず)中で冷却し、高圧分離器6に送る。分離器の頂部7は、アミンユニット(amine unit)12中で洗浄し、結果として得られた水素に富んだガス流13は、再生圧縮器14に受け渡し、再循環ガス15として水素化処理反応器で使用する。高圧分離器6からのボトム流8は、実質的に液相であり、これを冷却し低圧低温分離器9に導入し、そこで、ガス流と液体流10に分離する。低圧低温分離器からのガスは、水素、HS、NH、及びC〜C炭化水素等のいかなる軽質炭化水素も含む。典型的にはこれらのガスを送って、さらなる処理、例えばフレア処理、又は燃料ガス処理を行う。本明細書の処理及びシステムの特定の実施形態に従って、水素、及びその他の炭化水素を、供給物生成物分離ゾーンへの複合供給物として水蒸気分解器生成物44と一つにすることにより、流れ11から回収する。液体流10aのすべて又は一部分は、水蒸気熱分解ゾーン30への水素化処理した分解供給物としての役割を果たす。
【0019】
水蒸気熱分解ゾーン30は概して、対流区域32、及び熱分解区域を含み、この熱分解区域は、当該技術分野で公知の、水蒸気熱分解ユニットの運転に基づいて、すなわち、水蒸気の存在下で熱分解供給物を対流区域に充填して、運転することが可能である。
【0020】
特定の実施形態では、気液分離ゾーン36は、区域32及び34の間に含まれる。気液分離ゾーン36を、対流区域32からの加熱された分解供給物が通過し分離されるが、この気液分離ゾーンは、フラッシュ分離器、気体及び液体の物理的若しくは機械的分離に基づいた分離器、又はこれらのタイプの機器の少なくとも一つを含む組み合わせであってもよい。
【0021】
さらなる実施形態では、気液分離ゾーン18は、区域32の上流に含まれる。流れ10aは、気液分離ゾーン18中で分離して気相と液相になるが、このゾーンは、フラッシュ分離器、気体及び液体の物理的若しくは機械的分離に基づいた分離器、又はこれらのタイプの機器の少なくとも一つを含む組み合わせであってもよい。
【0022】
有用な気液分離器を、図2A〜2C及び3A〜3Cにより、及びこれらを参照して例示する。気液分離器の同様な配置が、米国特許公開第2011/0247500号に記載され、この文献は、その全体が参照により本明細書において援用される。本機器においては、気体及び液体が、サイクロン形状を通って流れ、この形状により機器は、等温的に、そして非常に低い滞留時間(特定の実施形態では10秒未満)で、そして比較的低い圧力降下(特定の実施形態では0.5バール未満)で動作する。概して、気体は、力を発生させる円状のパターンをなして旋回し、ここでより重い小滴及び液体は捕捉され、液体残油として液体排出口を通されて、スラリー水素化処理ゾーン22(随意にスラリー混合ユニット20を通して)に受け渡されることが可能であり、気体は気体排出口を通される。気液分離器36を提供する実施形態では、液相38は、残油として排出され、気相は、熱分解区域34への充填37である。気液分離器18が提供される実施形態では、液相19は、残油として排出され、気相は対流区域32への充填10である。気化温度、及び流体速度を変化させて、近似的な温度カットオフ点を調整し、例えば、残留燃料油ブレンドと混合可能な特定の実施形態では、例えば約540℃に調整する。
【0023】
本明細書の処理では、廃棄する残油、すなわち再循環させるボトムのすべて、例えば19、38、及び72の流れは、水素化処理ゾーンを経ており、硫黄含有化合物、窒素含有化合物、及び金属化合物を含むヘテロ原子化合物の量が初期供給物と比較して減少する。これらの残油の流れのすべて又は一部分を、本明細書に記載のスラリー水素化処理ゾーン22(随意にスラリー水素化処理混合ユニット20を通して)に充填することが可能である。
【0024】
クエンチングゾーン40はまた、水蒸気熱分解ゾーン30の下流に統合され、混合生成物流39を取り入れるため水蒸気熱分解ゾーン30の排出口と流体連結した吸入口、クエンチング溶液42を受け入れる吸入口、クエンチした混合生成物流44を分離ゾーンに排出する排出口、クエンチング溶液46を排出する排出口を含む。
【0025】
概して、中間体であるクエンチした混合生成物流44を、中間体生成物流65及び水素62に変換する。回収した水素は、水素化処理反応ゾーン中で、精製し、再循環水素流2として使用する。中間体生成物流65は概して、分離ゾーン70で分離されて、最終生成物と残油になるが、このゾーンは、一つ又は複数の分離ユニット、例えば脱エタン塔、脱プロパン塔、及び脱ブタン塔を含む複数の分離塔であってもよく、これらは、当業者には既知である。例えば、好適な装置は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、Volume 12の「Ethylene」、531〜581頁、特に図24図25図26に記載されており、この文献は、参照により本明細書において援用される。
【0026】
生成物分離ゾーン70は、生成物流65と流体連結し、複数の生成物73〜78を含み、メタンを排出する排出口78、エチレンを排出する排出口77、プロピレンを排出する排出口76、ブタジエンを排出する排出口75、混合ブチレンを排出する排出口74、及び熱分解ガソリンを排出する排出口73を含む。更に、熱分解燃料油71は例えば、低硫黄燃料油ブレンドとして回収され、現地外の精油施設でさらに処理されることになる。排出された熱分解燃料油の一部分72は、スラリー水素化処理ゾーン(破線で示す)に充填してもよい。六つの生成物排出口を、水素再循環排出口、及びボトム排出口とともに示すが、これらの生成物排出口は、例えば、適用する分離ユニットの配置、及び収量や分布の要件に応じて、さらに少なくても多くてもよいことに留意されたい。
【0027】
スラリー水素化処理ゾーン22には、既存の、又は改良された(すなわち、開発されることになる)スラリー水素化処理運転(又は一連のユニット運転)であって、比較的低値の残油又はボトム(例えば、従来は真空蒸留カラム、又は常圧蒸留カラムからのもの、そして本システムでは水蒸気熱分解ゾーン30からのもの)を、比較的低分子量の炭化水素ガス、ナフサ、並びに軽質及び重質ガス油に変換する運転が含まれていてもよい。スラリー水素化処理ゾーン22への充填は、気液分離ゾーン18からのボトム19のすべて又は一部分、又は気液分離ゾーン36からのボトム38のすべて又は一部分を含む。加えて、本明細書に記載のとおり、生成物分離ゾーン70からの熱分解燃料油71のすべて又は一部分72は、流動化触媒分解ゾーン25への充填として一つにしてもよい。
【0028】
スラリー床反応器ユニット運転は、非常に小さい平均寸法を有する触媒粒子の存在を特徴としており、媒質中に均一に効率よく分散し維持されることができ、そのため水素化処理は、効率的な反応器の体積全体にわたって効率的ですみやかになる。スラリー相水素化処理は、比較的高温(400℃〜500℃)、そして高圧(100バール〜230バール)で運転される。処理の過酷度が高いため、比較的より高い転換率を達成することができる。触媒は、均一、又は不均一であってもよく、高過酷度条件で機能的であるように設計される。そのメカニズムは、熱分解過程であり、フリーラジカル形成に基づいている。形成されたフリーラジカルは、触媒の存在下で水素によって安定化し、これによって、コークス形成が阻害される。触媒は、分解に先だって重質原料の部分的な水素化を容易にし、これにより長鎖化合物の形成が減少する。
【0029】
スラリー水素化分解において使用される触媒は、小さい粒子であっても、又は油可溶性前駆体として導入してもよく、概して金属の硫化物の形態であって、金属の硫化物は、反応の間、又は予備処理ステップにおいて形成されるものである。分散触媒を構成する金属は概して、一つ又は複数の遷移金属であり、Mo、W、Ni、Co及び/又はRuから選択することができる。モリブデンとタングステンは特に好ましいが、その理由は、それらの性能がバナジウム又は鉄に勝るものであるからであり、バナジウム又は鉄は同じく、ニッケル、コバルト又はルテニウムよりも好ましい。触媒は、低濃度で、例えば100万分(ppm)の数百という濃度で、貫流式の配置において使用することができるが、それらの条件下でさらに重質の生成物を高品質化するのには特に有効というわけではない。生成物の質をより良好にするには、触媒を高濃度で使用し、処理が充分に経済的になるように、触媒を再循環させる必要がある。触媒は、例えば沈降、遠心分離、又はろ過等の方法により回収することができる。
【0030】
概して、スラリー床反応器は、二、又は三相の反応器であってもよく、使用される触媒のタイプに依存する。それは、均一触媒を適用する場合には、ガス及び液体の二相システム、又は、小さい粒子サイズの不均一触媒を適用する場合には、ガス、液体、及び固体の三相システムであってもよい。可溶性の液体前駆体、又は小さい粒子サイズの触媒により、液体中への触媒の分散が高まり、触媒と原料の間で緊密な接触が生じる結果、高転換率が得られる。
【0031】
本明細書のシステム及び処理におけるスラリー床の水素化処理ゾーン22に有効な処理条件には、375〜450℃の間の反応温度、及び30〜180バールの間の反応圧力が挙げられる。適切な触媒には、油可溶性の触媒前駆体からインサイチュ生成された、担持されないナノサイズの活性粒子が挙げられ、それらには、例えば硫化物の形態をとる、VIII族の一金属(Co又はNi)、及びVI族の一金属(Mo又はW)が挙げられる。
【0032】
図1に示す配置を適用する処理では、原料1を、有効量の水素2及び15(そして随意に補充水素、図示せず)と混合し、混合物3を、300℃〜450℃の範囲の温度で、選択的水素化処理反応ゾーン4の吸入口に充填する。特定の実施形態では、水素化処理反応ゾーン4は、一つ又は複数のユニット運転を含み、これらは、同一所有者の米国特許公開第2011/0083996号、及びPCT特許公開国際公開第2010/009077号、国際公開2010/009082号、国際公開2010/009089号及び国際公開2009/073436号に共有されているものであり、これらの文献は、参照によりそれらの全体が本明細書において援用される。例えば、水素化処理反応ゾーンは、有効量の水素化脱金属触媒を含む一つ又は複数の床、及び、水素化脱芳香族、水素化脱窒素、水素化脱硫及び/又は水素化分解の機能を有する有効量の水素化処理触媒を含む一つ又は複数の床を含んでいてもよい。さらなる実施形態では、水素化処理反応ゾーン4は、二つより多い触媒床を含む。さらなる実施形態では、水素化処理反応ゾーン4は、複数の反応容器を含み、それぞれが、異なる機能の触媒床を含む。
【0033】
水素化処理反応ゾーン4の運転は、油原料、特定の実施形態では原油を水素化脱金属させる、水素化脱芳香族させる、水素化脱窒素させる、水素化脱硫させる、及び/又は水素化分解するのに有効なパラメータの下で行う。特定の実施形態では、水素化処理は、以下の条件:300℃〜450℃の範囲の運転温度;30バール〜180バールの範囲の運転圧力;0.1h−1〜10h−1の範囲の、単位時間当たりの液体空間速度、を用いて実行する。とりわけ、水素化処理反応ゾーン4中で原料として原油を用い、例えば、同一の水素化処理ユニットの運転を常圧残油に適用するのと比較した長所が示されている。例えば、370℃〜375℃の範囲の開始又は運転温度で、失活速度は約1℃/月である。対照的に、もし残油を処理することになる場合では、失活速度は、約3℃/月〜4℃/月に近いものとなるであろう。常圧残油の処理は典型的には、およそ200バールの圧力を適用する一方で、原油を処理する本処理は、圧力100バールという低い圧力で運転することが可能である。更に、供給物の水素含有量を高めるのに必要とされる高いレベルの飽和を達成するには、本処理は、常圧残油と比較して高スループットで運転することが可能である。LHSVは、0.5h−1という高い値が可能である一方で、常圧残油については、典型的には0.25h−1という値である。予想外の発見は、原油を処理する際の失活速度は、通常観測されるのとは逆方向に向かっていることである。低スループット(0.25hr−1)での失活は、4.2℃/月であり、さらに高いスループット(0.5hr−1)での失活は、2.0℃/月である。工業的に検討されるすべての供給物を用いて、逆のことが観測されている。これは、触媒の洗浄効果が原因であるとすることができる。
【0034】
水素化処理ゾーン4からの反応器エフルエント5は、交換器(示さず)中で冷却し、高圧低温又は高温分離器6に送る。分離器頂部7は、アミンユニット12において清浄化し、結果として得られた水素の豊富なガス流13は、再循環圧縮器14に受け渡され、再循環ガス15として水素化処理反応ゾーン4内で使用される。高圧力分離器6からの分離器ボトム8は、実質的に液相であり、冷却した後、導入した低圧低温分離器9に導入する。残りのガス、流れ11は、水素、HS、NH、及び、C〜C炭化水素を含む可能性のあるあらゆる軽質炭化水素を含み、従来は、低圧低温分離器からパージされ、さらなる処理、例えばフレア処理、又は燃料ガス処理のために送られることができる。本処理の特定の実施形態では、水素は、流れ11(破線で表示)を、水蒸気分解器生成物からの分解ガス、流れ44と一つにすることにより回収する。
【0035】
特定の実施形態では、ボトム流10aは、水蒸気熱分解ゾーン30への供給物10である。さらなる実施形態では、低圧分離器9からのボトム10aは、分離ゾーン18に送り、ここで排出された気体部分は、水蒸気熱分解ゾーン30への供給物10である。気体部分は、例えば、流れ10aのものに対応する初期沸点、及び約350℃〜約600℃の範囲の最終沸点を有することができる。分離ゾーン18は、好適な気液分離ユニット運転、例えばフラッシュ容器、気体及び液体の物理的若しくは機械的分離に基づいた分離器、又はこれらのタイプの機器の少なくとも一つを含む組み合わせを含むことが可能である。気液分離器の特定の実施形態を、単独型機器、又はフラッシュ容器の吸入口に組み込まれた機器として、本明細書に、それぞれ図2A〜2C、及び3A〜3Cに関して記載する。
【0036】
水蒸気熱分解供給物10は、含まれる汚染物質(すなわち、金属、硫黄、及び窒素)の含有量が減少し、パラフィン度は増加し、BMCIは減少し、そして米国石油協会(API)比重は増加している。水蒸気熱分解供給物10は、含まれる水素含有量が供給物1と比較して増加しており、有効量の水蒸気、例えば、水蒸気吸入口を通じて取り入れられた水蒸気の存在下、水蒸気熱分解ゾーン30の対流区域32の吸入口に搬送される。対流区域32では、混合物を所定の温度に、例えば廃熱流の一つ若しくは複数、又は他の好適な加熱配置を用いて加熱する。特定の実施形態では、混合物を、400℃〜600℃の範囲の温度に加熱し、所定の温度以下の沸点を有する物質は蒸発させる。
【0037】
水蒸気熱分解ゾーン30の運転は、供給物10を分解して所望の生成物、例えばエチレン、プロピレン、ブタジエン、混合ブテン、及び熱分解ガソリンにするのに有効なパラメータの下で行う。特定の実施形態では、水蒸気分解は、以下の条件:対流区域及び熱分解区域における、400℃〜900℃の範囲の温度;対流区域における、0.3:1〜2:1の範囲の、水蒸気対炭化水素比;及び対流区域及び熱分解区域における、0.05秒〜2秒の滞留時間、を用いて実行する。
【0038】
特定の実施形態では、気液分離ゾーン36は、一つ又は複数の気液分離器80を含み、図2A〜2Cに示すとおりである。気液分離器80は、電源又は化学物質の供給源を必要としないので、その運転は経済的であり、保守は不要である。概して、機器80は、三つのポートを含み、これらは、気液混合物を取り入れる吸入口ポート82、分離した気相及び液相をそれぞれ排出、収集するための気体排出口84、及び液体排出口ポート86を含む。機器80の運転は、流入混合物の線速度を、大域的な流れの予備回転区域により回転速度に転換することと、液体から気体を予備分離する制御された遠心効果と、液体からの気体の分離を促進するサイクロン効果とを含む現象の組み合わせに基づいて行う。これらの効果を得るために、機器80は、予備回転区域88、制御されたサイクロンの垂直区域90、及び液体収集器/沈降区域92を含む。
【0039】
図2Bに示すとおり、予備回転区域88は、断面(S1)と断面(S2)の間にある制御された予備回転の構成要素と、断面(S2)及び断面(S3)の間に位置する制御されたサイクロンの垂直区域90への接続構成要素とを含む。直径(D1)を有する吸入口82からやってくる気液混合物は、断面(S1)で、接線方向を向いて装置に入る。入ってくる流れに対する流入区域(S1)の面積は、以下の方程式:
【0040】
【数2】
【0041】
に従って吸入口82の面積の少なくとも10%である。
【0042】
予備回転の構成要素88は、曲線をなす流れ経路を画定し、吸入口断面S1から排出口断面S2に向け、一定の、減少する、又は増加する断面を特徴とする。制御された予備回転の構成要素からの排出口断面(S2)と、吸入口断面(S1)との比は、特定の実施形態では0.7≦S2/S1≦1.4の範囲にある。
【0043】
混合物の回転速度は、予備回転の構成要素88の中心線の曲率半径(R1)に依存し、ここで中心線は、予備回転の構成要素88の、連続した断面表面の中心点を結ぶ曲線として定義される。特定の実施形態では、曲率半径(R1)は、2≦R1/D1≦6の範囲にあり、開口角は、150°≦αR1≦250°の範囲にある。
【0044】
吸入口区域S1での断面形状は、概して正方形として表現されるが、長方形、角丸長方形、円形、楕円形、又はその他の、直線で囲まれた、曲線で囲まれた、若しくは前述の形状の組合せであってもよい。特定の実施形態では、流体が内部を通過する予備回転の構成要素88の曲線経路に沿った断面の形状は、例えば、概して正方形から長方形に、徐々に変化する。構成要素88の断面を徐々に長方形に変化させることにより、有利なことには開口面積が最大限となり、よって、ガスが初期段階で液体混合物から分離され、均一な速度プロファイルが得られ、流体流中のせん断応力が最小限となる。
【0045】
制御された予備回転の構成要素88からの流体流は、断面(S2)から、制御されたサイクロンの垂直区域90への接続構成要素を通って区域(S3)を通過する。接続構成要素は、開口領域を含み、この領域は、開口し、制御したサイクロンの垂直区域90中の吸入口に、接続、又は統合されている。流体流は、制御したサイクロンの垂直区域90に、高い回転速度で入って、サイクロン効果を発生させる。特定の実施形態における、接続構成要素の排出口断面(S3)と吸入口断面(S2)との比は、2≦S3/S1≦5の範囲にある。
【0046】
高い回転速度の混合物は、サイクロンの垂直区域90に入る。運動エネルギーは減少し、気体は、サイクロン効果の下、液体から分離する。サイクロンは、サイクロンの垂直区域90の上方位置90aと下方位置90bとの中で形成する。上方位置90aでは、混合物は気体濃度が高いのが特徴である一方で、下方位置90bでは、混合物は液体濃度が高いのが特徴である。
【0047】
特定の実施形態では、サイクロンの垂直区域90の内径D2は、2≦D2/D1≦5の範囲にあり、その高さに沿って一定であってもよく、上方部分90aの長さ(LU)は、1.2≦LU/D2≦3の範囲にあり、下方部分90bの長さ(LL)は、2≦LL/D2≦5の範囲にある。
【0048】
気体排出口84に近接したサイクロンの垂直区域90の端は、部分的に開口した解放ライザー(riser)に接続し、水蒸気熱分解ユニットの熱分解区域に接続する。部分的に開口した解放部の直径(DV)は、特定の実施形態では、0.05≦DV/D2≦0.4の範囲にある。
【0049】
従って、特定の実施形態では、そして流入混合物の特性に依存して、その中の大容量の気体留分は、排出口84から、直径DVを有する部分開口解放パイプを通して機器80を脱出する。低い又は非存在の気体濃度を有する液相(例えば、残油)は、サイクロンの垂直区域90の、断面積S4を有する底部分を通して脱出し、液体収集器及び沈降パイプ92中に収集される。
【0050】
サイクロンの垂直区域90と液体収集器及び沈降パイプ92との接続領域は、特定の実施形態では90°の角度を有する。特定の実施形態では、液体収集器及び沈降パイプ92の内径は、2≦D3/D1≦4の範囲にあり、パイプ長さにわたって一定であり、液体収集器及び沈降パイプ92の長さ(LH)は、1.2≦LH/D3≦5の範囲にある。気体体積留分が低い液体は、装置から直径DLを有するパイプ86を通して除去し、このパイプは、特定の実施形態では0.05≦DL/D3≦0.4の範囲にあり、沈降パイプの底又は底に近接して位置する。
【0051】
特定の実施形態では、気液分離器18又は36は、運転と構造が、液体収集器と沈降パイプ帰還部分を持たない機器80と類似している。例えば、気液分離器180は、フラッシュ容器179の吸入口部分として使用され、図3A〜3Cに示すとおりである。これらの実施形態では、容器179の底は、機器180から回収した液体部分の、収集及び沈降ゾーンとしての役割を果たす。
【0052】
概して、気相は、排出したフラッシュ容器179の頂部194を通じて排出し、液相は、フラッシュ容器179の底部196から回収する。気液分離器180は、電源又は化学物質供給源を必要としないため、運転が経済的で、保守が不要である。機器180は、三つのポートを含み、これらは、気液混合物を取り入れる吸入口ポート182、分離した気体を排出する気体排出口ポート184、及び分離した液体を排出する液体排出口ポート186を含む。機器180の運転は、流入混合物の線速度を、大域的な流れの予備回転区域により回転速度に転換することと、液体から気体を予備分離する制御された遠心効果と、液体からの気体の分離を促進するサイクロン効果と、を含む現象の組み合わせに基づいて行う。これらの効果を得るために、機器180は、予備回転ゾーン188、及び制御されたサイクロンの垂直区域190を含み、この垂直区域は、上方部分190aと下方部分190bを有する。液体留分の体積が低い気体部分は、直径(DV)を有する排出口ポート184を通じて排出する。上方部分190aは、部分的又は全体的に開口し、特定の実施形態でのその内径(DII)は、0.5<DV/DII<1.3の範囲である。気体留分の体積が低い液体部分は、特定の実施形態では、0.1<DL/DII<1.1の範囲にある内径(DL)を有する液体ポート186から排出する。液体部分を収集し、フラッシュ容器179の底から排出する。
【0053】
概して、炭化水素の沸点を抑制し、コークス形成を低減することにより、相分離を促進し制御するため、加熱水蒸気を気液分離器80又は180への供給物に加える。供給物はまた、当業者に既知であるとおり、従来の熱交換器により加熱してもよい。機器80又は180への供給物の温度は、所望の残油留分が液体部分として排出されるように、例えば、約350℃〜約600℃の範囲に調節する。
【0054】
気液分離器の様々な部材を、別個に、そして別個の部分とともに記載する一方で、装置80又は装置180を一体型構造として形成してもよく、例えば、成形若しくはモールド形成、又は、別個の部品から、例えば、別個の構成成分を溶接により、もしくはそうでなければ別個の構成要素を接着により一つにして組み立ててもよく、これらの構成要素は、本明細書に記載の部材及び部分と正確に対応してもしなくてもよいものであることは、当業者によって理解されるであろう。
【0055】
本明細書に記載の気液分離器は、特定の流量及び組成物により所望の分離が達成されるように、例えば、540℃で適合するように設計することができる。一例では、540℃、2.6バールで2002m/日の全流量、そして吸入口で7%の液体、38%の気体、及び55%の水蒸気であって、それぞれが、729.5kg/m、7.62kg/m、及び0.6941kg/mの密度である流れ組成に対して、機器80の好適な寸法(容器フラッシュの非存在下で)には、D1=5.25cm;S1=37.2cm;S1=S2=37.2cm;S3=100cm;αR1=213°;R1=14.5cm;D2=20.3cm;LU=27cm;LL=38cm;LH=34cm;DL=5.25cm;DV=1.6cm;及びD3=20.3cmが挙げられる。同一の流量及び性質に対して、フラッシュ容器中で使用される機器180には、D1=5.25cm;DV=20.3cm;DL=6cm;及びDII=20.3cmが挙げられる。
【0056】
様々な寸法を直径として示しているものの、それらの値はまた、構成要素の部品が円筒形でない実施形態においても、等価な有効径となりうることが理解されるであろう。
【0057】
混合生成物流39を、クエンチングゾーン40の吸入口に受け渡し、別個の吸入口を通じて導入したクエンチング溶液42(例えば水及び/又は熱分解燃料油)と一緒にし、温度低下した、例えば約300℃である、中間体のクエンチされた混合生成物流44を生成させ、使用済みのクエンチング溶液46を排出する。分解器からのガス混合物エフルエント39は典型的には、水素、メタン、炭化水素、二酸化炭素、及び硫化水素の混合物である。水又は油クエンチを用いて冷却した後、混合物44を多段圧縮器ゾーン51中、典型的には4〜6段で圧縮し、圧縮したガス混合物52を生成させる。圧縮したガス混合物52は、苛性処理部53中で処理し、硫化水素及び二酸化炭素の枯渇したガス混合物54を発生させる。ガス混合物54は、さらに圧縮器ゾーン55中で圧縮し、得られた分解されたガス56は典型的には、ユニット57中で深冷処理により脱水し、分子ふるいを使用してさらに乾燥する。
【0058】
ユニット57からの低温の分解されたガス流58は、脱メタン塔59に受け渡され、そこから、水素とメタンを含有するオーバーヘッド流60を、分解されたガス流から生成させる。脱メタン塔59からのボトム流65はその後、さらに処理するため生成物分離ゾーン70に送るが、このゾーンは分離塔、例えば、脱エタン塔、脱プロパン塔、脱ブタン塔を含む。脱メタン塔、脱エタン塔、脱プロパン塔、脱ブタン塔の順序が異なる処理構成を適用することもできる。
【0059】
本明細書の処理に従って、脱メタン塔59でのメタンからの分離、ユニット61中での水素の回収の後、典型的には純度が80〜95体積%の水素62が得られる。ユニット61での回収方法には、深冷回収(例えば、約−157℃の温度で)が挙げられる。水素流62はその後、水素精製ユニット64、例えば圧力変動吸着(PSA)ユニットに受け渡し、純度99.9%+の水素流2を得るか、又は膜分離部に送り、純度95%の水素流2を得る。精製した水素流2はその後、戻して再循環させ、水素化処理反応ゾーンに必要な水素の主要部分として役立てる。加えて、少量を使用して、アセチレン、メチルアセチレン、及びプロパジエン(示さず)の水素化反応を行うことができる。加えて、本明細書の処理に従って、メタン流63は随意に、水蒸気分解器に再循環させて、バーナー及び/又はヒーター(破線で表示)用の燃料として使用することができる。
【0060】
脱メタン塔59からのボトム流65は、生成物分離ゾーン70の吸入口に搬送し、メタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、混合ブチレン、及び熱分解ガソリンに分離し、それぞれ78、77、76、75、74、及び73を通じて排出する。熱分解ガソリンは概してC5〜C9炭化水素を含み、芳香族、例えばベンゼン、トルエン、及びキシレンは、この取り分から抽出することができる。水素は、水素精製ゾーン64の吸入口に受け渡し、高品質の水素ガス流2を生成させ、これを、その排出口を通じて排出し、水素化処理反応ゾーン4の吸入口に再循環させる。熱分解燃料油は、排出口71を通じて排出し(例えば、「C10+」流として知られる、最低沸点C10化合物の沸点よりも高い温度で沸騰する物質)、熱分解燃料油ブレンド、例えば、低硫黄燃料油ブレンドとして使用し、さらに現地外の場所での精製施設で処理することができる。さらに、本明細書で示すとおり、燃料油72(熱分解燃料油71の全部または一部分であってもよい)を、混合ゾーン20を通じてスラリー水素化処理ゾーン22に導入することができる。
【0061】
スラリー水素化処理ゾーンへの供給物には、本明細書に記載の流れ19、38及び/又は72の組合せが含まれる。この物質を、スラリー水素化処理ゾーン22中で、随意に混合ゾーン20を通じて、処理する。混合ゾーン20においては、残油液体留分(複数可)を、スラリーの転換されていない残油25に混合するが、この残油は触媒活性な粒子を含み、スラリー水素化処理ゾーン22の供給物を形成するものである。この供給物をその後、スラリー水素化処理ゾーン22中、水素23の存在下で高品質化して、中間蒸留物を含むスラリー中間体生成物24を生成させる。特定の実施形態では、スラリー水素化処理ゾーン22は、水素化処理ゾーン4における一つ又は複数の反応器に共通の高圧ループ下にある。スラリー中間体生成物24を再循環させ、転換のため水蒸気熱分解ゾーン30で処理する前に、水素化処理反応器エフルエント10と混合する。
【0062】
水蒸気熱分解ゾーンのクエンチ後及び分離後エフルエント流65を、一連の分離ユニット70中で分離し、主要生成物73〜78を生成させるが、これらの生成物には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、混合ブテン、ガソリン、及び燃料油が挙げられる。水素流62は、水素精製ユニット64を通過させて高品質水素ガス2を形成させ、このガスを水素化処理反応ユニット4への供給物と混合する。
【0063】
特定の実施形態では、水素化処理(hydroprocessing)、又は水素化処理(hydrotreating)は、芳香族、特に多環芳香族炭化水素の飽和の後、軽度の水素化分解により、原料のパラフィン含有量を増加させる(又はBMCIを減少させる)ことができる。原油を水素化処理する際、汚染物質、例えば金属、硫黄、及び窒素を、脱金属、脱硫、及び/又は脱窒素の触媒機能を実行する一連の積層触媒に原料を通すことによって、除去することができる。
【0064】
一実施形態では、水素化脱金属(HDM)と水素化脱硫(HDS)を実行する一連の触媒は以下のとおり:
a. HDM区域での触媒は概して、約140〜240m/gの表面積を有するガンマアルミナの担持体をベースにしたものである。この触媒は、非常に高い細孔体積、例えば、1cm/g超を有するものとして最も良く言い表される。細孔サイズそのものは典型的には、圧倒的にマクロ多孔性である。このことが要求されるのは、触媒表面上に金属、そして随意にドーパントを取り込むために大容量を提供するためである。典型的には触媒表面上で活性な金属は、ニッケルとモリブデンの硫化物であって、そのが比Ni/Ni+Mo<0.15となるものである。ニッケルの濃度は、HDM触媒上ではその他の触媒よりも低く、これは、幾分かのニッケルとバナジウムが、除去の間に原料それ自体から堆積し、触媒として作用すると予想されるからである。使用するドーパントは、リン(例えば、参照により本明細書において援用される、米国特許公開第2005/0211603号を参照されたい)、ホウ素、ケイ素、及びハロゲンの一つ又は複数が可能である。触媒は、アルミナ押し出し物又はアルミナビーズの形態であってもよい。特定の実施形態では、金属の取り込みが床の頂部で30〜100%の間で変化するであろうことから、アルミナビーズを使用すると反応器中での触媒HDM床の非担持が容易になる。
b. 中間触媒を使用して、HDM及びHDSの機能間の移行を行うこともできる。それは、中間金属の担持、及び細孔サイズ分布を有する。HDM/HDS反応器中のこの触媒は、実質的にアルミナをベースにした担持体であり、これは押し出し物の形態をとり、随意にVI族(例えば、モリブデン及び/又はタングステン)の少なくとも一つの触媒金属、及び/又はVIII族(例えば、ニッケル及び/又はコバルト)の少なくとも一つの触媒金属である。触媒はまた、ホウ素、リン、ハロゲン及びケイ素から選択される随意に少なくとも一つのドーパントを含有する。物理的特性には、約140〜200m/gの表面積、少なくとも0.6cm/gの細孔体積、及び細孔12〜50nmの範囲のメソ細孔性の細孔が挙げられる。
c. HDS区域中の触媒は、ガンマアルミナをベースにした担持物質を有するものを含んでいてもよく、その典型的な表面積は、HDM範囲の高い方の端に近い、例えば約180〜240m/gである。HDS用に要求されるこの高い表面積により、結果として、比較的小さい細孔体積、例えば1cm/g未満が得られる。触媒は、VI族の元素の少なくとも一つ、例えば、モリブデンと、VIII族の元素の少なくとも一つ、例えばニッケルとを含有する。触媒はまた、ホウ素、リン、ケイ素及びハロゲンから選択される少なくともの一つのドーパントを含む。特定の実施形態では、コバルトを使用して、比較的高いレベルの脱硫を行う。活性相のための金属担持は、要求される活性が高いほど高く、Ni/Ni+Moのモル比が0.1〜0.3の範囲であり、(Co+Ni)/Moのモル比が0.25〜0.85の範囲にある。
d. 最終触媒(随意に第2の及び第3の触媒と置き換わり得る)は、原料の水素化(脱硫の主機能ではなく)を実行するように設計され、例えば、Appl.Catal.AGeneral、204(2000)251に記載のとおりである。触媒はまた、Niにより促進されることになり、担持体は、細孔の大きいガンマアルミナである。物理的特性には、HDM範囲の高い方の端に近い表面積、例えば、180〜240m/gが挙げられる。この高い表面積がHDSに要求される結果、比較的小さい細孔体積、例えば、1cm/g未満が得られる。
【0065】
本明細書の方法及びシステムは、既知の水蒸気熱分解分解処理に勝る改良:
原料として原油を使用する、石油化学製品、例えばオレフィン及び芳香族の生成;
コークス前駆体を、初期の原油全体から顕著に除去し、これにより水蒸気熱分解ユニットの輻射コイルでのコークス形成が減少する;
付加される不純物、例えば金属、硫黄、及び窒素化合物もまた、出発供給物から顕著に除去し、これにより最終生成物の後処理を回避する、
をもたらすものである。
【0066】
加えて、水蒸気分解ゾーンから生成される水素は、水素化処理ゾーンに再循環させて、未使用の水素の必要性を最小限にする。特定の実施形態では、本明細書に記載の統合システムは、未使用の水素が必要なのは運転開始のためだけである。反応が平衡に達するとすぐに、水素精製システムが、システム全体の運転を維持するのに充分高純度の水素を供給する。
【実施例】
【0067】
以下は、本明細書に開示されている処理の実施例である。表1に、アラビアンライト原油を原料として用いた従来の水素化処理ステップの特性を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
以下の表2は、開示の油分散させた触媒を使用するスラリー水素化処理に従った、アラビアンライトの処理の結果である。この処理を最適化して、さらに高い程度の転換と脱硫を達成することができる。
【0070】
【表2】
【0071】
表3は、高品質化されたアラビアンライトを、従来の水素化処理ステップを使用し水蒸気分解して得られる石油化学製品の予想収量を示す。
【0072】
【表3】
【0073】
本発明の方法及びシステムを、上に、そして添付図面中に記載したが、しかし、修正は当技術者には明らかになるであろうし、本発明の保護の範囲は、以下の請求項において定義されるものとする。
図1
図2
図3