【実施例】
【0050】
特に注記がない限り、実施例及び明細書の残りの中の全ての部、百分率、比などは重量による。実施例の中で用いられる全ての試薬は、例えば、Sigma−Aldrich Company(Saint Louis,Mo.)などの一般化学品供給業者から購入したか、又は入手可能であるか、あるいは従来の方法によって合成してもよい。
【0051】
先行技術による薄フィルム支持体の疎水性が有する問題を軽減するために、
図2による親水性精密濾過膜を薄フィルム支持体として使用して、従来のポリスルホン又はポリエーテルスルホン支持体を代替する。そのような膜の1つは、3Mから提供され、BLA010と称されており、このBLA010は、ナイロン6,6から作製され、多ゾーン構造を有する。3つの領域、1)大きい粒子を捕捉することによりプレフィルターとして、膜の上流側にあり、通常、精密濾過(MF)内で供給物に面する大孔領域、2)機械的支持体として使用され、かつ製造が容易な不織布スクリム、及び3)膜の下流側にあり、MF内で透過物に面して、小さい汚染物質を保持する小孔領域。小孔領域及び大孔領域の平均孔径は、それぞれ0.1μm及び0.45μmである。商用膜用のポリスルホン支持体と比較して、BLA010精密濾過膜は、遙かにより粗い、かつより開放された多孔質表面を有し、このことはより大きい浸透水流束をもたらし得る。ポリアミド選択膜層は、その場で界面重合を介して、最小孔側(孔が様々なサイズを有する場合)に構築される。本発明者らは、ナノ濾過膜(ピペラジン(PIP)系ポリアミドの界面重合により製作)及びRO膜(m−フェニレンジアミン(MPD)系ポリアミドを被覆することにより製作)の両方を作製する能力を示した。
【0052】
ジアミンモノマーピペラジン(PIP)及びm−フェニレンジアミン(MPD)は、それぞれAcros Organic及びSigma−Aldrichから購入した。酸塩化物モノマー塩化トリメソイル(TMC)及び酸受容体トリエチルアミン(TEA)は、Sigma−Aldrichから購入した。ヘキサン、TMC用の溶媒は、Fisher Scientificから購入した。Milli−Q超純水精製システム(Millipore,Billerica,MA)から得た脱イオン水(DI)を、ジアミンモノマー用の溶媒として使用した。塩化ナトリウム及び硫酸マグネシウムは、Fisher Scientificから購入した。
【0053】
(実施例1)
PIP系ポリアミドの界面重合による、これらTFC膜構造の製作を示すための手順は、以下の通りであった。
【0054】
このポリ(ピペラジンアミド)のその場で界面重合に使用したモノマーは、PIP及びTMCであった。PIPを0.25%〜3%(w/v)の範囲の様々な濃度でMilli−Q水に溶解した。PIP量に対して1/1の重量比のトリエチルアミン(TEA)をPIP水性溶液に加えた。塩化トリメソイル(TMC)の0.15%(w/v)ヘキサン溶液を調製した。使用前に、両方の溶液を室温で最短3時間撹拌した。
【0055】
BLA010ナイロン6,6精密濾過(MF)膜/支持層を平坦なガラスプレート上に、大孔側がガラスプレートに面するように配置し、全部の縁をテープで密封した。MF膜を最初に水性PIP/TEA溶液中に2分間浸した。MF膜は、プレートの後面が溶液中に浸されないように、溶液中に配置された。2分後、プレートを溶液から取り除き、過剰の溶液を表面から流し出した。次いで、プレートを、ガラスを下にして支持体が上を向くようにゴムマット上に配置し、ゴムローラーを使用して、支持膜から過剰の溶液を除去した。次いで、支持膜を特注製作の350mL容器内のTMC/ヘキサン溶液中に垂直に1分間漬けて、薄フィルムポリ(ピペラジンアミド)フィルムを形成した。得られた複合フィルムを2分間風乾し、続いて、形成された構造の所望の安定性を得るために、空気循環炉内にて80℃で5分間硬化させた。調製したままの薄TFCポリ(ピペラジンアミド)膜構造を徹底的に洗浄し、評価試験を行う前に、脱イオン水中にて4℃で貯蔵した。
【0056】
MPD系ポリアミドの界面重合のための手順は、水性溶液が水中の025%〜3%(w/v)の範囲の様々な濃度の純粋MPDであった以外は、PIP系ポリアミドの手順と同様であった。
【0057】
これらのプロセスは、現存する界面重合の方法と類似しているため、大規模製作に容易に拡大される。
【0058】
(実施例2)
比較
商用非対称三酢酸セルロース(HTI−CTA)正浸透(FO)膜(Hydration Technology Innovations Inc.,Albany,OR)、TFCナノ濾過膜NF270及びTFC seawater RO膜SW30−XLE(Dow Water & Process Solutions Company,Midland,MI)を、比較のために得た。これらの膜は、3つの層:ポリアミド選択的薄フィルム層、マイクロ多孔質ポリスルホン(PSu)中間層、及び高強度ポリエステル支持ウェブを有する。
【0059】
(実施例3A)
実験方法論
BLA010 MF支持体及びTFCポリアミド膜の表面形態を、冷陰極電界放出型走査型電子顕微鏡JSM−6335F(FEI Company,USA)を使用した走査型電子顕微鏡法(SEM)により、定性的に評価した。撮像の前に、サンプルを一晩デシケータ内に保ち、その後、白金の薄層でスパッター被覆してより良好なコントラストを得、また帯電を回避した。
【0060】
BLA010 MF支持体及びTFCポリアミド膜の表面形態を、冷陰極電界放出型走査型電子顕微鏡JSM−6335F(FEI Company,USA)を使用した走査型電子顕微鏡法(SEM)により、定性的に評価した。撮像の前に、サンプルを一晩デシケータ内に保ち、その後、白金の薄層でスパッター被覆してより良好なコントラストを得、また帯電を回避した。
【0061】
TFC膜のBLA010支持体及び選択層の断面構造もSEMにより撮像した。これらのサンプルは、液体窒素を含む凍結破断法を用いる撮像用に調製した。補強不織布スクリムを凍結破断することは困難なため、かみそりの刃もサンプルストリップと共に同時に液体窒素中に沈めた後、液体窒素から除去した後、サンプルを半分に迅速に切断するのに使用した。調製したサンプルを、撮像前に、金の薄層を用いてスパッター被覆した。
【0062】
支持体の厚さを、各膜サンプルに関して5つの異なる位置で、デジタルマイクロメーターを使用して測定した。CAM 101シリーズ接触角角度計を使用して、支持体の接触角を測定した。
【0063】
異なるPIP濃度で作製したポリ(ピペラジンアミド)TFC膜に関する純水透過性(A)を、DIを供給物として使用して評価した。純水透過性試験は、25℃で0.26m/sのクロスフロー速度で、50〜250psi(0.34〜1.72MPa)の範囲の4つの圧力下で行った。ポリ(ピペラジンアミド)TFC膜に関する塩排除評価を、DI水の代わりに2000ppm MgSO
4を供給物として使用した以外は、同様の方法で行った。バルク透過物及び供給物の導電性を測定することにより、観察された塩排除率(%R)を特徴付けた。
【0064】
ポリアミドTFC膜に関する純水透過性及び塩排除試験を、DI及び2000ppm NaClを供給物として使用して、それぞれ150〜300psi(1.03〜2.07MPa)の範囲の4つの圧力下で行った。SW30−XLEを対照として使用した。他の試験条件は、ポリ(ピペラジンアミド)に関する条件と同一に保つ。
【0065】
本発明者らの最適ポリアミドTFC膜の純水透過性及び塩排除率は、20℃で商用FO膜とも比較し、20℃で浸透流束(osmotic flux)試験を行った。溶質透過性係数、Bも決定して、構造パラメーター、Sを計算した。
【0066】
純水透過性、Aは、純水流束(J
w)を適用圧力(ΔP)、A=J
w/ΔPで除算することにより決定した。塩排除率、%Rは、導電率計を使用して測定したバルク供給物(cf)及び透過物(cp)の塩濃度における差異から決定した。
【0067】
溶質透過性係数、Bは、
【0068】
【数1】
から決定し、式中、k、クロスフローセル物質移動係数は、この形状(geometry)に関する相関から計算する。
【0069】
ポリアミドTFC膜の浸透水流束及び逆塩流束を、特注の実験室規模クロスフロー正浸透システムを使用して評価した。1.5M塩化ナトリウム溶液を誘導溶液として使用すると共に、DI水を供給溶液として使用した。PROモード(膜活性層が誘導溶液に面する)及びFOモード(膜活性層が供給溶液に面する)の両方の配向の膜を使用して浸透流束試験を行った。供給及び誘導溶液の水圧は同一(1.5psi(0.010MPa))であり、供給及び誘導溶液の両方のクロスフロー速度を0.18m/sに保った。再循環水浴及び熱交換器を使用して、供給及び誘導溶液の温度を20±1℃に維持した。供給物の導電性を測定して、膜を通した逆塩流束を概算した。
【0070】
浸透水流束、J
wは、体積流束を膜面積で除算して計算した、試験中、所定の時点で供給溶液の導電性を測定することにより、逆塩流束、J
sを、NaCl質量流量を膜面積で除算して計算した。
【0071】
比塩流束、J
s/J
w、を、逆塩流束と水流束との比として決定した。構造パラメーターは、等式
【0072】
【数2】
を使用することにより決定し、式中、Dは、誘導溶質の拡散係数であり、J
wは、測定された水流束であり、Bは、溶質透過性であり、Aは、純水透過性であり、π
D、bは、誘導溶液のバルク浸透圧であり、π
F、mは、膜表面の供給側における浸透圧である(DI供給物に関して0気圧)。
【0073】
(実施例3B)
実験結果
図11に、ナイロン6,6 MF支持体(BLA010)の表面及び断面SEM像を示す。小孔領域及び大孔領域の両方の表面は、粗い、かつ開放した多孔質形態を示す。2つのゾーンの表面多孔率は、それぞれ51.1%及び48.4%である。支持体の平均厚さは181.4±1.1μmと測定され、支持体の接触角はおよそ40.5度であり、これは従来のTFC PSu支持体よりも40〜50度小さい。
【0074】
これらの膜は、典型的には、MF中、より大きい孔が供給物に面するように配向される一方、TFC膜の選択層は、小孔径上に構築されている。小孔領域によって、より欠陥の少ない完全な選択層の形成が可能となると共に、大孔ゾーンは物質移動に対する抵抗を低減する。
【0075】
図12に、異なるPIP濃度で作製したポリ(ピペラジンアミド)選択層の上面SEM像を示す。無欠陥フィルムは、0.25〜3%の範囲の全PIP濃度にて作製されたTFC膜に関して得られた。表面形態は、PIP濃度により変動した。「円形状」形態は0.25%及び0.5% PIP系TFC膜上に観察できる一方、より均一の凹凸構造が1.0%及び2.0% PIPを使用した際に現れた。これらの凹凸は、より低いPIP濃度がより薄いフィルムを提供するため、粗い支持層から生じ得る。3.0% PIP系膜の場合、選択層は支持体の機構を完全に覆って、凹凸構造が消失したように思われる。一般に、PIP系TFC膜は、商用NF270よりも粗い表面を与えた。
【0076】
図13に、異なるPIP濃度で作製されたポリ(ピペラジンアミド)選択層に関する断面SEM像を示す。表1に、PIP濃度の関数としての、対応する厚さを示す。
【0077】
【表1】
【0078】
1マイクロメートル未満の厚さを有する極薄ポリ(ピペラジンアミド)層が得られた。選択層の厚さは、最初、PIP濃度が2%まで上昇すると共に序々に増大し、その後、3% PIPにおいて0.9マイクロメートルに劇的に増大した。3% PIPにおいて、ポリ(ピペラジンアミド)選択層は支持体から剥離するように思われたことに留意することも重要である。一方、より低いPIP濃度(即ち、1%未満)で作製された得られたTFC選択層は、支持体とより良好に一体化され、支持体とのより良好な接着を示す。
【0079】
図14は、PIP濃度の関数としての、PIP系TFC膜に関するMgSO
4排除率を示す。排除率は、フィルムの密度の増大に起因して、2%までPIP濃度の増大と共に上昇した後、予想外に3%で低下した。3% PIP選択層に関するこの劇的な性能低下は、SEM像における選択層の、観察された剥離に起因し得る(
図13)。0.25%及び0.5% PIP系膜に関する排除は、水圧の上昇と共に低下することも分かり、得られたフィルムが、より高圧下でより柔軟及び/又は脆弱となることを示している。しかしながら、1%及び2% PIP系TFC膜の排除率は、一連の水圧に亘って95%を超えて維持し、これはNF270の排除性能に接近した。TFC膜の良好な圧力耐性は、プレッシャーリターデッドオスモシスへのそれらの適用の可能性も示唆している。
【0080】
表2は、PIP系TFC膜の純水透過性を示す。透水性は、選択層の厚さの増大に起因して、PIP濃度の増大と共に低下した。商用NF270と比較すると、1% PIP系TFC膜は、同様の排除率を示したのみでなく、一致した水流束も示した。TFC膜の全体的性能は、工業規格の商用NF膜の全体的性能と一致した。
【0081】
【表2】
【0082】
図15に、異なるMPD濃度で作製したポリアミド選択層の上面SEM像を示す。凹凸構造を有する無欠陥フィルムは、0.25〜3%の範囲の全MPD濃度で作製されたTFC膜に関して得られた。TFC膜の選択層の全部は、商用SW30−XLE膜よりも粗いように見えた。
【0083】
図16に、異なるMPD濃度で作製したポリアミド選択層の断面SEM像を示す。表3に、MPD濃度の関数としての、対応する測定されたポリアミド層の厚さを示す。
【0084】
【表3】
【0085】
厚さは、MPD濃度の増大と共に僅かに増大した(MPD濃度の範囲に亘っておよそ50nm)。これは、モノマー濃度により高い厚さ依存性を有したポリ(ピペラジンアミド)とは異なる結果である。これは2つのアミンの拡散性及びTMCとの反応速度論(reacting kinetics)における差異に起因する。界面重合は、3つの工程にて行われるよう説明される。初期のフィルム形成、急速なプロセス、その後の形成された初期フィルムの透過性に応じた、重合の減速、最終的な拡散制御プロセスへの移動。初期のフィルム形成中に形成される初期層は、実際のバリア層である。次いで、モノマー拡散の限界が開始するまで、フィルム成長が行われる。反応の終結は、ジアミン拡散の減速と、重合と競合する、酸塩化物の加水分解とにより説明される。MPD系ポリアミドの場合、MPDが低濃度のとき(≦0.5%)、MPD濃度を0.5%まで増大させることにより、0.15% TMC濃度に対応する最大厚さを有するバリア層の形成をもたらすことが可能である。MPD濃度を更に増大させることにより、アミノ末端基に富んだ薄フィルム領域内でMPDの幾分かの蓄積がもたらされ得る。このことは、フィルム厚さがこの段階では殆ど不変のままであるため、薄フィルムの密度を増大させ得る。しかしながら、PIPはMPDよりも遙かにゆっくりとTMCと反応するため、より高いPIP濃度の下で比較的厚いバリア層を形成するのにはより長時間を要するであろう。更に、酸受容体の添加は反応中に形成された殆どの酸塩化物を消費し、このことは重合の完了を延期し得る。
【0086】
図17に、MPD濃度の関数としての、MPD系TFC膜に関するNaCl排除率を示す。0.25% MPD系TFC膜の排除率は、薄い選択層の低い機械的強度に起因して、300psi(2.06MPa)にて劇的に低下した。PIP系TFC膜と同様、これらの膜の塩排除は、MPD濃度(2% MPDまで)と共に増大した。これは、より密なポリアミド層の形成をもたらす、架橋密度の向上によるものであった。また、ポリアミドの鎖屈曲性は、MPDの濃度の増大と共に低下し得る。3% MPDにおける排除率は、塩流束の希釈を低減する、水流束の低下に起因した可能性がある。「希釈効果」が示唆するように、高い浸透液流束は、膜を交差する塩を希釈し、これは次に塩排除率を増大させる。商用SW30−XLEと比較すると、1%及び2%のMPD系TFC膜は、一致した排除率を示し、排除率は95%超で維持された。これらはまた、排除性能を損なうことなく、少なくとも300psi(2.06MPa)の水圧に耐えることができ、これはプレッシャーリターデッドオスモシスに好適であり得ることを意味することに留意することが重要である。
【0087】
表4も、MPD系TFC膜の純水透過性を商用SW30−XLEと比較する。PIP系TFC膜と同様、MPD濃度の増大は、ポリアミドフィルムの架橋密度の増大と鎖屈曲性の低下に起因して、水流束の低下をもたらした。商用SW30−XLEと比較すると、1% MPDは、得られたTFC膜が卓越した排除率を示したのみでなく比較的高い水流束も示したため最適濃度であると思われ、商用sea water RO膜の性能に接近した。
【0088】
【表4】
【0089】
クロスフロー逆浸透試験は、1% PIP及び1% MPD系TFC膜が、それぞれ商用NF270及びSW30−XLEの性能に接近し、したがって最適サンプルと見なされることを明かにした。誘導溶液として1.5M NaClを使用する浸透流束試験を、1% MPD系TFC膜(TFC−EOと称する)上で行い、商用HTI−CTA膜(HTIと称する)を対照として使用した。
【0090】
図18Aは、TFC−EO及び商用FO膜の両方の浸透水流束性能を表す。TFC−EO膜はPROモードにおいてHTIよりも高い水流束を提供したことが理解され得る。これは主に、TFC膜の、より高い透過選択性に起因する。表5から理解し得るように、TFC−EO膜は、HTI FO膜と比較して高い透水性係数と、低い溶質透過性とを有する。
【0091】
【表5】
【0092】
TFC膜が一般に、それらのポリアミドの極薄い、密な架橋構造により、非対称膜よりも高い透過選択性を有するため、この観測結果は予想される。より低い溶質透過性により誘導溶液から交差する塩が低減され、これは内部濃度分極(ICP)を誘導する。DIを供給物として有するPROモードでは、選択層を交差する溶質のみがICPを誘導し得るため、流束性能は膜の排除能力に大きく依存する。FOモードでは、支持体が誘導溶液に面した際に生じる、より深刻なICPに起因して、TFC−EO及び商用HTI膜の両方が、PROモードでの水流束と比較して小さい水流束を示した。更に、FOモードでは、TFC−EO膜は支持体として使用した3M膜の厚さに主に起因して(およそ50μmと比較して180μm)、HTI膜よりも僅かに小さい水流束を示した。より厚い支持体は、ICPを増大させ、一般にFO膜には所望されない。興味深いことに、ナイロン6,6支持体は、HTI膜支持体の厚さを3倍上回るが、尚、水流束性能はほぼ等しい。
図18Bに、TFC−EO及びHTI膜の両方に関する逆塩流束性能を示す。PRO及びFOモードの両方において、TFC膜は、HTIのおよそ10倍小さい逆塩流束を示し、これは主に一体化非対称膜よりも高いTFC膜の選択性に起因する。FOモードにおける両方の膜に関する逆塩通過は、PROモードよりも僅かに低かった。これは主に、塩の濃度差がFOモードと比較してより大きく、したがってPROモードでは選択層界面での駆動力が有効であったことに起因する。全体として、全試験において、膜は一貫した性能を有し、高濃度の塩の存在により変化しないことを示した。試験中、選択層の剥離は観察されなかった。
【0093】
この新しいTFC−EO膜が、塩流束の同一の桁の大きさで、PROモードにおける同様の実験条件下での他の試験で報告された商用TFC−RO膜(SW30−XLE)と比較して、およそ20倍の水流束を提供したことは言及する価値がある。TFC−EO膜はSW30−XLEと同様の排除率及び純水透過性を示したため、水流束の劇的な改善は、支持体内のICPの低下に起因する筈である。理論に束縛されるものではないが、このナイロン6,6支持体に関するICPの低下は、その構造よりはその親水性に起因すると考えられる。Dow FilmTec RO膜に関するPSu支持体は、一般に、ナイロン6,6支持体(〜180μm及びおよそ50〜60%の多孔率)と同等の厚さ(〜150μm)及び多孔率(およそ50%)を有する。この層の改善された濡れは、有効な構造パラメーターを劇的に低下させ、浸透流束を改善するであろう。更に、同様に理論に束縛されるものではないが、選択層との界面における3M支持体の表面多孔率がより高いことは、選択層が選択層により遮断されていないため、水流束を改善すると考えられる。支持体により妨害されない選択層が多くなると、界面から離れる水及び塩の両方の輸送が促進される。この支持体の表面多孔率はおよそ50%と測定されたが、商用RO膜の表面多孔率は、20%未満と報告されている。
【0094】
表5はまた、TFC膜とHTI膜との間の比塩流束及び構造パラメーターの比較をまとめる。比塩流束は、生成された水1リットル当たりの誘導溶質損失の量を表す。比塩流束は誘導溶質の損失を低減するよう可能な限り小さい必要がある。表から、HTI膜と比較した際、TFC−EO膜は、PROモードでは28倍小さい、FOモードでは8倍小さい比塩流束を有したことが理解され得る。これらの結果は、TFC−EO膜がFOでは誘導溶液を節約し、PROではICPの低下を有することを示す。
【0095】
新しいFO膜の特徴付けに一般的なように、構造パラメーター、Sは、浸透流束試験から計算することができる。構造パラメーターは、ICF効果がいかに深刻であるか、また水流束を最大にするために可能な限り小さい必要があることを示唆する。表5は、TFC−EO膜が、商用HTI膜の2倍の構造パラメーターを有することを示す。これは、TFC膜内のより厚い支持体に大きく起因する。この結果は、膜を通した水流束がHTI膜と一致し又は超えたことを考えると興味深かった。このことは更に、支持層の特性及び選択性の両方が、浸透水流束性能に実質的に影響を与えたことを証明する。
【0096】
結論として、親水性ナイロン6,6支持TFC膜は、初めて、その場で界面重合を介して首尾良く製作された。1% PIP系TFC膜は、逆浸透において、NF270と一致した性能を示し、1% MPD系TFC膜は、SW30−XLEと一致した性能を示した。浸透流束試験は、TFC−EO膜が、PROモードでは商用HTIよりも大きい水流束を有し、FOモードでは一致した水流束を有することを示した。更に、TFC−EO膜はまた、FO又はPROモードにおいて、10X小さい逆塩流束を示し、8〜28の比塩流束を示した。この卓越した性能は、HTI膜の2倍の構造パラメーターを有した場合でも見出された。
【0097】
(実施例4)
1つ以上の予言的実施形態では、
図4、5、7及び9に提供した任意の実施形態の薄フィルム支持ゾーン上において、ナノ濾過薄フィルム層の構造をその場で形成することができる。この構造は、
図1の「乾式」方法により、水相が導入された際に支持層が名目上乾燥している、新しいTFC膜の生成に用いられる
図1に従った一般的方法により達成される。
【0098】
水相溶液:ピペラジン(PIP)/トリエチルアミン(TEA)/H
2;TEA:酸受容体(PIPと等価な量);濃度:0.25〜3%(w/v)。より高いw/vは、より厚いナノ濾過層を生成するであろう。
【0099】
有機相溶液:塩化トリメソイル(TMC)/ヘキサン。濃度を、公称0.15%(w/v)にて一定に保つ。
【0100】
手順:
1.多ゾーン膜支持体を
図4、5、7及び9のうちの1つにつき提供する。
2.好ましくは最初に薄フィルム支持ゾーンを支持する膜表面に水相を暴露することにより、多ゾーン膜支持体を水相溶液で飽和(即ち、均一に湿潤)させる。好ましくは溶液を平衡状態まで吸収させるのに十分な時間暴露し、暴露された薄フィルム支持ゾーンが均一に湿潤したことを確実にする。スクリムを含むゾーン2も、水相溶液で湿潤され得ることが予想され、そのような湿潤は部分的又は完全であろう。
3.この暴露及び飽和に続いて、過剰のPIP/TEA溶液を除去する。
4.均一に湿潤した薄フィルム支持ゾーンを有機相溶液に暴露する。この暴露は、薄フィルム支持ゾーンを支持する多ゾーン膜表面に限られ、反対側の表面には為されないことが好ましい。暴露時間は、水相構成成分の濃度、膜の湿潤空隙容積、及びナノ濾過層の所望の最終厚さに依存する。
5.膜を有機相暴露から除去する。膜暴露は、ナノ濾過層形成を完了するのに必要な、吸収したPIP/TEAと反応するのに十分なTMCを提供した。
6.TFC膜の炉硬化、部分的乾燥、及び安定化を提供する。80℃炉内での硬化暴露は、層形成を完了するのに十分であり、硬化時間及び最終的な含水量は、上述の工程3のように実験的に決定される。
7.濯ぎ/洗浄及び湿式貯蔵する。濯ぎ/洗浄工程は、硬化後、貯蔵前に行われることが予想される。典型的には、ナノ濾過膜は、湿気を帯びた又は湿潤状態で貯蔵される。
8.この時点で、膜の性能を試験し、必要に応じて、装置に変換してもよい。
【0101】
(実施例5)
1つ以上の予言的実施形態では、
図4、5、7及び9に提供した任意の実施形態の薄フィルム支持ゾーン上において、ナノ濾過薄フィルム層の構造をその場で形成することができる。この構造は、
図1の「湿式」方法により、水相が導入された際に支持層が湿潤している、新しいTFC膜の生成に用いられる
図1に従った一般的方法により達成される。
【0102】
水相溶液:ピペラジン(PIP)/トリエチルアミン(TEA)/H
2;TEA:酸受容体(PIPと等価な量);濃度:0.25〜3%(w/v)。より高いw/vは、より厚いナノ濾過層を生成するであろう。
【0103】
有機相溶液:塩化トリメソイル(TMC)/ヘキサン。濃度を、公称0.15%(w/v)にて一定に保つ。
【0104】
手順:
1.多ゾーン膜支持体を
図4、5、7及び9のうちの1つにつき形成するが、乾燥しない。形成及び濯ぎ/洗浄工程の直後、薄フィルム膜を調製する工程を開始する。
2.多ゾーン膜支持体内の濯ぎ/洗浄水を、好ましくは最初に薄フィルム支持ゾーンを支持する膜表面に水相を暴露することにより水相溶液と交換する。溶液が濯ぎ/洗浄水と完全に交換されるのに十分な時間暴露することが好ましい。
3.過剰のPIP/TEA溶液を除去する。
4.そのように処理した薄フィルム支持ゾーンを有機相溶液に暴露する。この暴露は、薄フィルム支持ゾーンを支持する多ゾーン膜表面に限られ、反対側の表面には為されないことが好ましい。暴露時間は、水相構成成分の濃度、膜の湿潤空隙容積、及びナノ濾過層の所望の最終厚さに依存する。
5.膜を有機相暴露から除去する。膜暴露は、ナノ濾過層形成を完了するのに必要な、吸収したPIP/TEAと反応するのに十分なTMCを提供した。
6.TFC膜の炉硬化、部分的乾燥、及び安定化を提供する。80℃炉内での硬化暴露は、層形成を完了するのに十分であり、硬化時間及び最終的な含水量は、上述の工程3のように実験的に決定される。
7.濯ぎ/洗浄及び湿式貯蔵する。濯ぎ/洗浄工程は、硬化後、貯蔵前に行われることが予想される。典型的には、ナノ濾過膜は、湿気を帯びた又は湿潤状態で貯蔵される。
8.この時点で、膜の性能を試験し、必要に応じて、装置に変換してもよい。
【0105】
別段の指示がない限り、本明細書及び「特許請求の範囲」において先に使用した分子量や反応条件などの成分の量や特性を表す全ての数値は、いかなる場合においても「約」という語で修飾されているものと解されるべきである。その結果、反対に指示がない限り、以下の明細書及び添付特許請求の範囲に明記される数値パラメーターは、本開示により得られようとする所望の特性により変わる場合がある近似値である。最低限でも、また、特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとするものではないが、各数値パラメーターは少なくとも、報告された有効数字の数を考慮し、通常の四捨五入法を適用することによって解釈されなければならない。
【0106】
本開示の広範囲で示す数値的範囲及びパラメーターは、近似値であるが、具体例に記載の数値は可能な限り正確に報告する。しかしながら、任意の数値は、各試験測定値にみられる標準偏差から必然的に生じる一定の誤差を本質的に含む。
【0107】
本明細書全体において、「1つの実施形態」、「所定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」又は「ある実施形態」に対する言及は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、材料又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。それ故に、本明細書全体を通して様々な箇所にある「1つ以上の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、又は「ある実施形態において」といった句の出現は、必ずしも本発明の同一の実施形態に言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、材料、又は特性は、任意の好適な方法で1つ以上の実施形態に組み合わされてもよい。上記の方法の記載の順序は限定するものとして考慮するべきではなく、前記方法は、記載した操作をその順序とは異なって、又は省略して、又は追加して使用してもよい。
【0108】
本出願では、以下の態様が提供される。
1. 薄フィルム複合膜構造であって、支持層に取り付けられた、イオン排除のための選択膜層を含み、前記支持層が多ゾーン精密濾過膜を含み、前記多ゾーン精密濾過膜が、多孔質支持材と、少なくとも2つの精密濾過ゾーンであって、第1のゾーンが第1の膜を含み、第2のゾーンが、前記第1のゾーンに取り付けられ、かつ前記多孔質支持材の少なくとも一部分を被覆する、精密濾過ゾーンと、を含む、薄フィルム複合膜構造。
2. 前記選択膜層が、前記親水性支持層上での界面重合により形成されたポリアミド膜を含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
3. 前記ポリアミドが、ピペラジン(PIP)、m−フェニレンジアミン(MPD)、又はこれらの組み合わせを含む、態様2に記載の薄フィルム複合膜構造。
4. 前記第1のゾーンが、前記第2のゾーンの孔径よりも小さい孔径を含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
5. 前記第2のゾーンの前記孔径が、1.1〜500の範囲内の倍数で、前記第1のゾーンの前記孔径よりも大きい、態様4に記載の薄フィルム複合膜構造。
6. 前記第1のゾーンが、0.02マイクロメートル〜0.45マイクロメートルの範囲内の孔径を含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
7. 第1のゾーンが、少なくとも2.0マイクロメートルの厚さを含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
8. 前記第1のゾーンが、2.0マイクロメートル〜10マイクロメートルの範囲内の厚さを含む、態様7に記載の薄フィルム複合膜構造。
9. 前記第2のゾーンが、0.65マイクロメートル〜10.0マイクロメートルの範囲内の孔径を含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
10. 前記第1のゾーンが、0.02マイクロメートル〜0.45マイクロメートルの範囲内の孔径を含み、前記第2のゾーンが、0.65マイクロメートル〜10.0マイクロメートルの範囲内の孔径を含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
11. 前記第2のゾーンが、分子の絡み合いを介して前記第1のゾーンに連続的に連結されている、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
12. 前記多ゾーン精密濾過支持層の前記第1のゾーンが、前記選択膜層に取り付けられている、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
13. 前記支持層がポリアミドを含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
14. 前記支持層が、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、及び/又はポリプロピレンから形成された変性膜を含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
15. 前記多孔質支持層が、スクリム、スペーサ要素、又はこれらの組み合わせを含む、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造。
16. 薄フィルム複合膜構造であって、ポリアミドを含む、イオン排除のための選択膜層と、前記選択膜に取り付けられた多ゾーン精密濾過支持層であって、不織布、織布、又は、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される押出材料を含む多孔質支持材と、それぞれがポリアミドを含む少なくとも2つの精密濾過ゾーンであって、第1のゾーンが第1の膜を含み、第2のゾーンが、前記第1のゾーンに取り付けられ、かつ前記多孔質支持材の少なくとも一部分を被覆する、精密濾過ゾーンと、を含む、多ゾーン精密濾過支持層と、を含む、薄フィルム複合膜構造。
17. 前記選択膜層の前記ポリアミドが、ピペラジン(PIP)、m−フェニレンジアミン(MPD)、又はこれらの組み合わせを含む、態様16に記載の薄フィルム複合膜構造。
18. 前記少なくとも2つの精密濾過ゾーンの前記ポリアミドが、6,6ナイロンを含む、態様16に記載の薄フィルム複合膜構造。
19. 前記第1のゾーンが、0.02マイクロメートル〜0.45マイクロメートルの範囲内の孔径と、2.0〜10マイクロメートルの範囲内の厚さとを含み、前記第2のゾーンが、0.65マイクロメートル〜10.0マイクロメートルの範囲内の孔径を含む、態様16に記載の薄フィルム複合膜構造。
20. 薄フィルム複合膜構造の作製方法であって、多ゾーン精密濾過膜を形成することと、前記多ゾーン精密濾過膜上に選択膜を形成して、前記薄フィルム複合膜構造を形成することと、を含む、方法。
21. 前記選択膜が、界面重合によって前記多ゾーン精密濾過膜上に形成される、態様20に記載の方法。
22. イオンを含む液体流の処理方法であって、態様1に記載の薄フィルム複合膜構造を提供することと、前記液体流を前記薄フィルム複合膜構造と接触させることと、を含む、方法。
23. 前記薄フィルム複合膜構造が、逆浸透システム又はナノ濾過システム内に提供される、態様22に記載の方法。
24. 前記薄フィルム複合膜構造が、直接浸透濃縮システム、正浸透システム、又はプレッシャーリターデッドオスモシスシステム内に提供される、態様22に記載の方法。
上記の説明は実例となることを意図し、限定するためではないことを理解する必要がある。上記の記載を検討することにより、多数の他の実施形態が当業者に明かであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を、それら特許請求の範囲が権利を付与される等価物の完全な範囲と共に参照して決定されるべきである。