特許第6166354号(P6166354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6166354変圧器のための冷却及び絶縁流体としてのエステル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166354
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】変圧器のための冷却及び絶縁流体としてのエステル
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/20 20060101AFI20170710BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 133/12 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 129/91 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 133/22 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 135/36 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 135/20 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 133/06 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 129/72 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 145/12 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 145/26 20060101ALI20170710BHJP
   C10M 133/08 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 27/10 20060101ALN20170710BHJP
   H01F 29/04 20060101ALN20170710BHJP
   H01F 38/28 20060101ALN20170710BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20170710BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20170710BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20170710BHJP
   C10N 40/16 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   H01B3/20 M
   C10M105/38
   C10M129/10
   C10M133/12
   C10M129/91
   C10M129/54
   C10M133/22
   C10M135/36
   C10M135/20
   C10M133/06
   C10M129/72
   C10M145/12
   C10M145/14
   C10M145/26
   C10M133/08
   !H01F27/10
   !H01F29/04 502Z
   !H01F38/28
   C10N20:00 A
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:16
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-507373(P2015-507373)
(86)(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公表番号】特表2015-521341(P2015-521341A)
(43)【公表日】2015年7月27日
(86)【国際出願番号】DE2013000222
(87)【国際公開番号】WO2013159761
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年4月25日
(31)【優先権主張番号】102012103701.9
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505448774
【氏名又は名称】フックス ペイトロルブ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー,ユルゲン,オー.
(72)【発明者】
【氏名】ルター,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】ロッベン,アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】カフト,グンター
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/074553(WO,A1)
【文献】 特表2000−507277(JP,A)
【文献】 国際公開第97/039086(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0048931(US,A1)
【文献】 特開平06−041560(JP,A)
【文献】 特開2004−273291(JP,A)
【文献】 特開2009−197135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/20
C10M 105/38
C10M 129/10
C10M 129/54
C10M 129/72
C10M 129/91
C10M 133/06
C10M 133/08
C10M 133/12
C10M 133/22
C10M 135/20
C10M 135/36
C10M 145/12
C10M 145/14
C10M 145/26
C10N 20/00
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 40/16
H01F 27/10
H01F 29/04
H01F 38/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体絶縁流体を備えた電力工学ユニットであって、
前記絶縁流体は、下記一般式Iの複数のエステルを含む、又は下記一般式Iの複数のエステルからなる組成物であり、
【化1】
式中、
Rはメチル、エチル、プロピル及び/又はイソプロピルであり、
は8若しくは10、又は8及び10のC原子を含む直鎖型飽和酸基であり、少なくとも30%存在し、
は1つ又はそれ以上の二重結合を有する14〜22のC原子を含む酸基であり、少なくとも20%存在し、該R残基の90%を超える割合は18のC原子及び二重結合を有し、
任意に、Rは14〜22のC原子を含む直鎖型飽和酸基であり、0%から多くとも20%まで存在し、
任意に、RはR、R及び任意にRとは別の酸基であり、0%から多くとも20%存在し、
及びR残基は、RとRとの数値的比率が1:1〜5:1であり、
前記エステルは、アルコール残基のR、R、任意にR及び任意にRの酸基が不規則分布で存在する混合エステルであり、前記混合エステルは、前記酸基の2つ又はそれ以上の異なる酸を用いる一括変換により、
【化2】
一般式Vのアルコールから得られる、電力工学ユニット。
【請求項2】
前記組成物は、40℃で35mm/s未満の粘度、−50℃未満の流動点、及び250℃よりも高い引火点、さらに、特に250℃よりも高い燃焼点を同時に有する請求項1に記載のユニット。
【請求項3】
前記R残基のうちの95%を超える割合は、18のC原子、及び二重結合を含む請求項1及び2の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項4】
前記R残基のうち80%を超える割合は、少なくとも1つのシス配置の二重結合を含む請求項1〜3の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項5】
前記組成物は、250℃を超える燃焼点をさらに有する請求項2に記載のユニット。
【請求項6】
前記組成物は、それぞれ前記1つ又はそれ以上のエステルの重量を基準として、0.01〜3重量%の少なくとも1つの抗酸化剤、0.01〜1.0重量%の少なくとも1つの金属不活性化剤、0.1〜5重量%の少なくとも1つの流動点降下剤、0.01〜2重量%の少なくとも1つの消泡剤の群のうちの1つ又はそれ以上の添加剤をさらに含む請求項1〜5の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項7】
前記1つ又はそれ以上の抗酸化剤は、フェノール系抗酸化剤、アミン系抗酸化剤、トコフェロール及び没食子酸塩を含む群のうちの1つ又はそれ以上の抗酸化剤から選択される請求項6に記載のユニット。
【請求項8】
前記1つ又はそれ以上の金属不活性化剤は、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、サリチルアミノグアニジン、トルエントリアゾール及びその誘導体、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾトリアゾール、並びにサリチリデンプロピレンジアミン及びその誘導体を含む群のうちの1つ又はそれ以上の金属不活性化剤から選択される請求項6に記載のユニット。
【請求項9】
前記1つ又はそれ以上の流動点降下剤は、ジエチルヘキシルアジピン酸、メタクリル酸ポリマー、ポリビニルアセテート及びそれらの誘導体を含む群のうちの1つ又はそれ以上の流動点降下剤から選択される請求項6に記載のユニット。
【請求項10】
前記1つ又はそれ以上の消泡剤は、ポリアルキレングリコールエーテル、アミノアルコール、及びエステルに基づく添加剤を含む群のうちの1つ又はそれ以上の消泡剤から選択される請求項6に記載のユニット。
【請求項11】
前記組成物の70重量%超過、好ましくは85重量%超過、特に95重量%超過、特に好ましくは98重量%超過が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複数のエステルのみからなる請求項1〜10の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項12】
前記Rは1つ又はそれ以上の二重結合を有する14〜22のC原子を含む酸基であり、少なくとも30%存在し、R残基の90%を超える割合が18のC原子及び二重結合を有する請求項1〜11の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項13】
前記R及びR残基は、RとRとの数値的比率が1:1〜2:1である請求項1〜12の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項14】
前記Rはエチルであり、
前記Rは8若しくは10、又は8及び10のC原子を有する直鎖型飽和酸基であり、少なくとも50%存在し、
前記Rは1つ又はそれ以上の二重結合を含む14〜22のC原子を含む酸基であり、少なくとも20%存在し、R残基の90%を超える割合は18のC原子及び二重結合を含み、
前記Rは14〜22のC原子を含む直鎖型飽和酸基であり、1%から多くとも10%存在し、
任意に前記Rは前記R、R及び任意にRとは別の酸基であり、0%から多くとも10%存在し、
前記R、R、R、R及びRは互いに独立している請求項1〜13の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項15】
電力変圧器、配電変圧器、柱上変圧器、計器用変流器、計器用変圧器、負荷時タップ切換装置及び転換器からなる群より選択される請求項1〜14の少なくとも1項に記載のユニット。
【請求項16】
一般式Iのエステルを含む、又は一般式Iのエステルからなる組成物の電力工学ユニットにおける誘電体絶縁流体としての使用であって、
【化3】
式中、
Rはメチル、エチル、プロピル及び/又はイソプロピルであり、
は8若しくは10、又は8及び10のC原子を含む直鎖型飽和酸基であり、少なくとも30%存在し、
は1つ又はそれ以上の二重結合を有する14〜22のC原子を含む酸基であり、少なくとも20%存在し、該R残基の90%を超える割合は18のC原子及び二重結合を有し、
任意に、Rは14〜22のC原子を含む直鎖型飽和酸基であり、0%から多くとも20%まで存在し、
任意に、RはR、R及び任意にRとは別の酸基であり、0%から多くとも20%存在し、
及びR残基は、RとRとの数値的比率が1:1〜5:1であり、
前記エステルは、アルコール残基のR、R、任意にR及び任意にRの酸基が不規則分布で存在する混合エステルであり、前記混合エステルは、前記酸基の2つ又はそれ以上の異なる酸を用いる一括変換により、
【化4】
一般式Vのアルコールから得られる、使用。
【請求項17】
前記Rは1つ又はそれ以上の二重結合を有する14〜22のC原子を含む酸基であり、少なくとも30%存在し、R残基の90%を超える割合が18のC原子及び二重結合を有する請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記ユニットは、電力変圧器、配電変圧器、柱上変圧器、計器用変流器、計器用変圧器、及び負荷時タップ切換装置又は転換器である請求項16又は17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸、特に植物油からなる一部不飽和の脂肪酸を用いてエステル化された多価アルコールのエステルを含む組成物、並びに変圧器のための冷却及び絶縁流体としてのそれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器の信頼性がある動作には、十分な電気絶縁性、及び電圧の変換の際に放出される熱の放散を必要とする。特定の流体は、絶縁性及び放熱性を有することが知られている。従来では、鉱油又はシリコーンが用いられている。しかしながら、それらは、生分解性が極めて低く、そのため、漏れ、液密の欠陥又はその他の変圧器からの放出が生じた場合、人及び環境に害が生じる。さらに、鉱油は、150℃未満の極めて低い引火点を有し、すなわち火災の危険性が高い。
【0003】
したがって、容易に生分解可能な植物油は、変圧器の絶縁流体として使用することを提案されている。植物油は、容易且つ完全に生分解可能であり、通常、水に対して有害ではなく(ドイツの「Administrative Regulation on Substances Hazardous to Waters 」- VwVwSに依る)、300℃を超える引火点及び発火点を有し(Pensky-Martensによる方法に依る)、原料コストについても有利であり、絶縁流体として植物油を用いることは当然である。さらに、これらの植物油は、鉱物油よりも高い吸水性を有し、それは、変圧器のボードのセルロースの分解を抑制し、変圧器の耐用年数を増大する。
【0004】
植物油は、19世紀の終わりくらいから絶縁油として既に用いられている。しかしながら、それらは変圧器において使用される場合は変圧器に空気が入る際の酸化により比較的速く樹脂化するので、それらの使用はすぐに中止された。空気の侵入を十分に遮断するための密封された変圧器の使用の結果として、近年、必要な特性が変化した。
【0005】
酸化感受性は、引き続き重要であるが、過去の変圧器程ではなく、密封された変圧器においては管理しやすい。一方、環境についての意識は、かなり世界的に広がっている。したがって、ひまし油、ひまわり油、なたね油、大豆油及び他の油等の植物油は、変圧器油として多く提案されており、WO 97/22977 A1及びUS 6,340,658 B1を参照できる。
【0006】
酸化安定性に加えて、高い引火点及び燃焼点、(熱対流の改善のための)低い粘性、また、特に、低い流動点、低い酸価、良好な誘電安定性、並びに、DIN EN 61099 「Specifications for unusedsynthetic organic esters for electrical purposes」 (表1を参照)に従った安定性試験における低いスラッジ生成を含む変圧器の流体の他の必要な特性は、ますます重要となっている。さらに、良好な腐食特性及びシール適合性は、絶対的に必要となっている。残念ながら、天然の植物油は、これら全ての要件又は望まれる特性を同時に満足せず、また、それらは、1つ又はそれ以上の特性について不十分であり、特に、粘性、冷特性(cold properties)及び酸化安定性について不十分である。酸化安定性は、通常、抗酸化剤の添加により最低限の水準に向上される。しかしながら、特に、冷特性は、添加剤によってわずかに改善され得るだけである。高い引火点及び燃焼点という要件があるので、何割かの他の遙かに薄い基油と植物油とを単純に混合することにより粘性を低減することは不可能である。
【0007】
GB 1602092には、7〜10のC原子を有する直鎖型飽和脂肪酸のトリメチロールプロパンエステルの使用、及び変圧器のための誘電体絶縁流体としてのそれの使用が開示されている。その実施例から、それぞれ30℃の場合に25又は30mm/sの粘度を有し、277℃又は293℃の燃焼点を有するトリメチロールプロパンエステルが知られている。WO2005/118756 A1には、同様の内容が開示されている。しかしながら、それには、より広く6〜12のC原子を有する直鎖型又は分枝型のカルボン酸が開示されている。しかしながら、分枝型のカルボン酸は、天然の脂肪酸ではない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、独立請求項の主題により説明される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題又は以下に説明される主題である。
【0009】
本発明は、混合エステル及び/又はエステル混合物の形態のエステルに関し、
互いに独立し且つ隣接するR、R及びR、又はR、R〜Rを含み
Rはメチル、エチル、プロピル及び/又はイソプロピルであり、
は少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%存在し、6〜12のC原子、好ましくは8〜10のC原子を有する直鎖型の飽和酸基であり、
は少なくとも30%、好ましくは少なくとも20%存在し、1つ又はそれ以上の二重結合、好ましくはシス配置の二重結合を含む14〜22のC原子、好ましくは18のC原子を有する酸基であり、任意でさらに以下のように特徴付けられる:
は0%から多くても20%、好ましくは1%から多くとも10%存在し、14〜22のC原子を有する直鎖型の飽和酸基であり、
は0%から多くても20%、好ましくは多くても10%存在し、R、R、及び任意でRとは別の他の酸基である。
【0010】
そのエステルは、R〜Rの酸基及びアルコール基からなる。
上記割合は、R、R等の酸基の相対数に関し、酸基が一般式
の1つの/複数の多価アルコールに結合されている限り、例えば
等の一様構造のそれぞれを含むエステルの混合物(エステル混合物)の形態であるか、又はアルコール残基の酸基R及びR、又はR〜Rが所定の配分で存在する混合エステルの形態であるかにかかわらない。その割合は合計で100となる。
【0011】
又はR及びRの酸基に係る脂肪酸は、混合物の形態で天然脂肪から例えばひまわり油又はなたね油等の天然源から、好ましくは高オレイン酸含量のそれらの変異体から得られ得ることが好ましい。
【0012】
酸基Rは、6〜12のC原子、特に8〜10のC原子の鎖長を有する脂肪酸からなり、例えばヤシ油、パーム核油等植物油からの留分として得られ得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の混合エステル又はエステル混合物は、DIN EN 61099 (表1を参照)の要件を満たし、さらにそれを上回り、すなわち、特にそれらは低粘度、低流動点(DIN ISO 3016)、Pensky-Martens - (DIN ES ISO2719, > 250 °C)による高引火点、及び高燃焼点(DIN EN ISO 2592-)並びに高い酸化安定性を同時に有することが驚くことに見出された。さらに、それらは、十分な生分解性を有する。さらに、本発明に係る誘電体絶縁流体は、例えば再生可能な原料に基づいて、(合成に用いられる出発物質と比較して)例えばその80重量%超過の量で大量に生成される。
【0014】
驚くことに、2つ又はそれ以上の異なる脂肪酸を用いて1つずつエステル化された後に混合された又は一括してエステル化された多価アルコール
特にトリメチロールプロパン(R=エチル)等のエステルは、上記要件を十分に満たすことが発見された。
【0015】
従って、本発明の第1の主題は、a)6〜12のC原子を有する直鎖型酸基と、b)14〜22のC原子、特に18のC原子、及び1つ又はそれ以上の好ましくはシス配置の二重結合を含む脂肪酸と、トリメチロールプロパンエステル等の、3つのヒドロキシ基を有する化学式Vに係る多価アルコールの上記エステル、又は上記定義の上記エステルを含む、変圧器内のすなわち変圧器油としての組成物に関する。
【0016】
酸残基b)は、ひまわり油、なたね油、及びその他の油等の天然植物油、好ましくはオレイン酸を多く含むそれらの変異体から得られ得る。特に、b)の部分の高オレイン酸含有量は、良好な冷特性と同時に高い経時安定性を保証する。
【0017】
6〜12のC原子の鎖長、特に8又は10のC原子の鎖長を有する脂肪酸残基a)は、例えばヤシ油(例えば留分)等の植物油のいずれかから得られ得る、又は合成源から全体的に若しくは部分的に得られ得る。残基Rは直鎖型であり、それらは好ましくは8及び/又は10のC原子を含む。
【0018】
トリエステルにおいて、全ての残基Rは、同一であってもよく、又は2つの残基のみが同一であってもよく、又はすべての残基が異なっていてもよい。引火点又は燃焼点が250℃よりも高く、好ましくは250℃よりも可能な限り高く、粘度が40℃で35mm/sよりも小さい又はそれ以下の値であり、流動点が−45℃よりも低い値となるように、残基RとRとの割合が設定されることが好ましい。低い粘度及び特に低い流動点は、エステル内における選択された酸成分により達成され得る。
【0019】
18のC原子を含む(95wt%を上回る純度の)=オレイン酸残基と、8及び/又は10のC原子を含む残基とを含み、の80wt%を超える割合がシス配置の二重結合を含むトリメチロールプロパン(TMP)の混合エステル1では、以下のような特性の混合エステル1が得られ得る。
【表1】
【表2】
【0020】
トリメチロールプロパンエステル2及び3の物理的混合により、全ての中粘度が調整され、流動点が低下する。特に、エステル2と3とを1:1から1:2の比で物理的に混合することで引火点がDIN EN61099により必要とされる250℃の限界値を超えることを、驚くことに、また予期せずに見出した。
【0021】
表1における[R]:[R]又はエステル2:エステル3の異なる比を用いることにより、粘度、流動点及び引火点が調整され得ることが重要である。また、本発明に係る混合エステル又はエステル混合物の粘度は、純粋なトリメチロールプロパンエステル2(TMP+=オレイン酸残基)の粘度よりも明らかに低く、その流動点が既に絶縁流体として提案されているトリメチロールプロパンエステル3の流動点よりも低いことが重要である。従って、性能の観点において、本発明に係る混合エステル又はエステル混合物は、エステル3よりも優れている(表1及び表2の比較)。
【0022】
従って、「純粋型」のエステル2及び3のいずれも、分子内(表1)又は分子間(表2)の混合に対して、単独では粘度、冷性質及び引火点の標的パラメータの全てにおける要件を満たさないことも確認できる。
【0023】
本発明に係る混合エステル又はエステルの混合物は、先行技術と比較して、利点を有し、変圧器油の所望の特性に向かって前進している。
【0024】
混合されたトリメチロールプロパントリエステルのクラスは、DIN EN61099を満たし、それは、Commission for theEvaluation of Substances Hazardous to Waters (KBwS)のAdministrativeRegulation on Substances Hazardous to Waters (VwVwS)に従って、水に有害でない(NWG)と分類される。
【0025】
28日後に明らかに60%超過が分解されるそれらの自然な分解性は、最終分解性試験OECD301による「易生分解性」(生分解しやすい)の範囲にある。本発明に係る組成物は、良好な熱特性及び優れた誘電特性を有する。絶縁流体の特性をさらに改善するために、抗酸化剤、金属不活性化剤及び/又は流動点降下剤を用いることが可能であり、好ましい。
【0026】
さらなる実施形態において、本発明に係る組成物はさらに、それぞれエステルの重量を基準として、
‐0.01〜3重量%、特に0.1〜2.5%重量%、特に好ましくは1.0〜2.0重量%の少なくとも1つの抗酸化剤、及び/又は、
‐0.01〜1.0重量%、好ましくは0.02〜0.08重量%の少なくとも1つの金属不活性化剤、及び/又は、
‐0.1〜5重量%、特に0.1〜3重量%、特に好ましくは1.5〜2.5重量%の少なくとも1つの流動点降下剤、及び/又は、
‐0.01〜2重量%、特に0.01〜0.5重量%、特に好ましくは0.01〜0.08重量%の少なくとも1つの消泡剤を含む。
【0027】
ここで、抗酸化剤は、好ましくは、以下の物質及びその挙げられた物質の混合物から選択される:
‐例えば、アルキル化モノフェノール(例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール及び/又は2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール)、及び/又はアルキル化ヒドロキノン(例えば2,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキノン及び/又は2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール)、及び/又はヒドロキシル化チオジフェニルエーテル(例えば2,2’-チオ-bis-(4-オクチルフェノール))及び/又はアルキリデンビスフェノール(例えば2,2’-メチレン-bis-(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール))及び/又はベンジル化合物(例えば1,3,5-tri-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-tri-メチルベンゼン)及び/又はアシルアミノフェノール(例えばN-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-カルバミン酸オクチルエステル)(登録商標)等のフェノール系抗酸化剤の群
‐並びに、アミン系抗酸化剤の群:ジフェニルアミン、オクチル化ジ‐フェニルアミン及び/又はN-フェニル-1-ナフチルアミン(登録商標)トコフェロール及び没食子酸塩。
【0028】
金属不活性化剤は、好ましくは以下の物質及び挙げられた物質の混合物から選択される:ベンゾトリアゾール及びその誘導体、サリチルアミノグアニジン、トルエントリアゾール及びその誘導体、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾトリアゾール及び/又はサリチリデン-プロピレンジアミン及びその誘導体。
【0029】
流動点降下剤は、好ましくは、ジエチルヘキシルアジピン酸、メタクリル酸ポリマー、ポリビニルアセテート及びその誘導体、及び/又は挙げられた物質の混合物等の有機化合物である。
【0030】
消泡剤は、好ましくは、ポリエチレングリコールエーテル、アミノアルコール及び/又はエステルに基づく添加剤等の化合物である。
【0031】
本発明のさらなる主題は、変圧器等の電力工学ユニットにおける誘電体絶縁流体としての、上記定義による一般式Iのエステルを含む本発明に係る組成物の使用である。
【0032】
変圧器は、電力変圧器、配電変圧器、柱上変圧器、負荷時タップ切換装置又は転換器である。
【0033】
本発明は、以下の試験例により説明され、それらに限定はされない。
[試験例]
【0034】
試験例1(混合エステル、脂肪酸混合物を用いたトリメチロールプロパンの酸触媒エステル化)
【0035】
1.03モルの脂肪酸混合物(0.26モルのオレイン酸、0.46モルのカプリル酸及び0.31モルのカプリン酸)、5gのp-トルエンスルホン酸及び0.33モル(40.7g)のトリメチロールプロパンを、150mLのo-キシレンを用いて、ディーン‐スターク装置において還流で水の除去が終わるまで(3h、145℃)煮沸した。続いて、調製液を水相が中性になるまで脱イオン水を用いて分液漏斗内で洗浄した。o-キシレンを、ロータリーエバポレーターを用いて分離した。溶媒の残基及び脂肪酸の残基を、168℃及び2×10−2mbarで短経路蒸留器により除去した。収率は80%であった。
【0036】
試験例2(混合エステル、TMPトリオレイルエステル及びC8/C10TMPトリエステルのアルカリエステル交換反応)
【0037】
トリメチロールプロパントリオレイルエステル及びC8/C10トリメチロールプロパントリエステルを1:2の比で含む300gの乾燥混合物を、酸素を含まない窒素雰囲気下において凍結融解を繰り返し、60℃に加熱した後、2gのナトリウムメトキシドを加えた。2時間の反応後、その調製物を500mLのtert-ブチルメチルエーテルに溶解した。
【0038】
ナトリウムメトキシドの中和のために希塩酸を加えた後、その調製液を水相が中性になるまで脱イオン水で洗浄した。
【0039】
tert-ブチルメチルエステルをロータリーエバポレーターにより分離した。溶媒及び遊離酸の残留物を短経路蒸留器により168℃、2×10−2mbarで除去した。収率は87%であった。